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(溶け込み)大阪事務所BCP【実施要領】

4 災害時における他機関 他施設との協定の締結状況災害時に他機関 他施設との協定を結んでいる施設は 97 施設で 1 か所と締結している施設が多くありました 締結先は 地元自治会 町内会 病院 近隣施設 社会福祉施設 物流会社 福祉ネットワーク 市町村等でした 図 2 災害時における他機関 他施設と

東京事務所版 BCP 実施要領目次応急頁 < 第 1グループ> 直ちに実施する業務 1 事務所における死傷者の救護や搬送 応急救護を行う一時的な救護スペースの設置 運営 備蓄の設置 医療機関への搬送 1 2 事務所に緊急避難してきた県民や旅行者等への対応 避難 一次避難スペースの運営 指定避難所への

<ハード対策の実態 > また ハード対策についてみると 防災設備として必要性が高いとされている非常用電源 電話不通時の代替通信機能 燃料備蓄が整備されている 道の駅 は 宮城など3 県内 57 駅のうち それぞれ45.6%(26 駅 ) 22.8%(13 駅 ) 17.5%(10 駅 ) といずれも

アンケート調査の概要 目的東南海 南海地震発生時の業務継続について 四国内の各市町村における取り組み状況や課題等を把握し 今後の地域防災力の強化に資することを目的としてアンケート調査を実施 実施時期平成 21 年 11 月 回答数 徳島県 24 市町村 香川県 17 市町 愛媛県 20 市町 高知県

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1 東日本大震災での多くの被害が発生!! 平成 23 年 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は 三陸沖を震源としたマグニ チュード 9.0 仙台市内での最大震度 6 強 宮城野区 という巨大な地震でした 東部沿岸地域では 推定 7.1m 仙台港 もの津波により 家屋の浸水やライフラ

2 被害量と対策効果 < 死者 負傷者 > 過去の地震を考慮した最大クラス あらゆる可能性を考慮した最大クラス 対策前 対策後 対策前 対策後 死者数約 1,400 人約 100 人約 6,700 人約 1,500 人 重傷者数約 600 人約 400 人約 3,000 人約 1,400 人 軽傷者

本書の目的介護保険サービス事業所は, 高齢者の方が多く利用しており, 災害発生時には避難等の援助が必要となるため, 事業者は, 災害発生時に迅速かつ適切な行動をとれるように備えておく必要があります 本書は, 介護保険サービス事業所が災害対応マニュアルを作成する際に特に留意する点についてまとめています

国土技術政策総合研究所 研究資料

( 社会福祉施設用作成例 ) (4) 施設管理者は, 緊急時連絡網により職員に連絡を取りましょう (5) 施設管理者は, 入所者の人数や, 避難に必要な車両や資機材等を確認し, 人員の派遣等が必要な場合は, 市 ( 町 ) 災害対策本部に要請してください (6) 避難先で使用する物資, 資機材等を準

事業者名称 ( 事業者番号 ): 地域密着型特別養護老人ホームきいと ( ) 提供サービス名 : 地域密着型介護老人福祉施設 TEL 評価年月日 :H30 年 3 月 7 日 評価結果整理表 共通項目 Ⅰ 福祉サービスの基本方針と組織 1 理念 基本方針

スライド 1

5 安全 減災措置 建物建物は地震対策はなされていますか? 耐震補強 耐震 制震 免震設備状況 ( リスト ) 耐震 安全性診断 ( 発災前 ) 耐震 安全性診断を受けていますか? 施行証明書 実施状況 ( リスト ) 応急危険度判定 ( 発災後 ) 転倒 転落の防止措置 6 本部への被害状況の報告

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事務連絡平成 24 年 4 月 20 日 都道府県各指定都市介護保険担当主管部 ( 局 ) 御中中核市 厚生労働省老健局総務課高齢者支援課振興課老人保健課 大規模災害時における被災施設から他施設への避難 職員派遣 在宅介護者に対する安全確保対策等について 平成 23 年 3 月 11 日に発生した東

平成23年東北地方太平洋沖地震の概要について

3 歯科医療 ( 救護 ) 対策 管内の歯科医療機関の所在地等のリスト整理 緊急連絡網整備 管内の災害拠点病院 救護病院等の緊急時連絡先の確認 歯科関連医薬品の整備 ( 含そう剤等 ) 自治会 住民への情報伝達方法の確認 病院及び歯科診療所での災害準備の周知広報 - 2 -

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平成 28 年熊本地震における対応 平成 28 年熊本地震 ( 前震 :4/14 本震 :4/16) において 電力 ガス等の分野で供給支障等の被害が発生 関係事業者が広域的な資機材 人員の融通を実施するなど 迅速な復旧に努めた結果 当初の想定よりも 早期の復旧が実現 また 復旧見通しを早い段階で提

東日本大震災 (H ) 地震時の情報収集や提供に関する課題 国 地方公共団体などが連携した被災者や物資輸送者への交通関係情報の提供 大震災直後は 各管理者から別々に通行止め情報等が提供されたため 被災地までの輸送ルートの選定が困難な状況 国が集約して提供を始めたのは10 日以上過ぎた3/


先行的評価の対象とするユースケース 整理中. 災害対応に関するユースケース. 健康に関するユースケース. 移動に関するユースケース. 教育に関するユースケース. 小売 物流に関するユースケース 6. 製造 ( 提供した製品の保守を含む ) に関するユースケース 7. 農業に関するユースケース 8.

奈良県ライフライン 情報共有発信マニュアル 第 3.3 版 平成 24 年 7 月 奈良県ライフライン防災対策連絡会

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国土技術政策総合研究所 研究資料

資料 2-3 超大規模防火対象物等における自衛消防活動に係る訓練の充実強化方策 ( 案 ) 平成 30 年 10 月 31 日 事務局

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(3) 設備復旧対策事例 ~ 基地局及びエントランス回線通信事業者各社で取り組んだ主な基地局あるいはネットワーク設備復旧対策としては 光ファイバー 衛星回線 無線 ( マイクロ ) 回線の活用による伝送路の復旧や 山頂などへの大ゾーン方式 ( 複数の基地局によるサービスエリアを1つの大きなゾーンとし

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04 Ⅳ 2(防災).xls

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)各 職場復帰前 受入方針の検討 () 主治医等による 職場復帰可能 との判断 主治医又はにより 職員の職場復帰が可能となる時期が近いとの判断がなされる ( 職員本人に職場復帰医師があることが前提 ) 職員は健康管理に対して 主治医からの診断書を提出する 健康管理は 職員の職場復帰の時期 勤務内容

fin3-

その一方で 防災行政無線の聞き取り状況の調 査では 図 3に示すように20% の人が放送内容を聞き取れなかったと答えており 今後の改善 もしくは代替え手段の充実の必要性を示唆している なお 情報の入手先としてテレビの割合が低いのは地震による停電 ( 岩手県 宮城県では95% 以上が停電 ) が原因と

PowerPoint プレゼンテーション

資料1 受援計画策定ガイドラインの構成イメージ

第 1 章実施計画の適用について 1. 実施計画の位置づけ (1) この 南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画 に基づく宮崎県実施計画 ( 以下 実施計画 という ) は 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法 ( 平成 14 年法律第 92 号 以下 特措法 と

各省庁等における業務継続計画に係る取組状況調査 調査の目的 各省庁等における現在の業務継続計画に係る取組状況を把握し 東日本大震災等を受けた 今後の業務継続計画の改善策を検討するための資料とする 調査の対象 中央省庁業務継続連絡調整会議構成機関 オブザーバー機関 29 機関 構成員 :23 機関内閣

災害への備えと対応に関する意識・実態調査報告書

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< 用語解説 > *1 ソーシャルネットワーキングサービス (SNS) インターネット上の交流を通して社会的ネットワークを構築するサービス全般を指す 代表的な SNS として Twitter mixi GREE Mobage Ameba Facebook Google+ Myspace Linked

02一般災害対策編-第3章.indd

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「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書

スライド 1

(2) 地震発生時の状況地震発生時の運転状況ですが 現在 20 清掃工場で40 炉が稼動していますが 地震発生当日は32 炉が稼動しており 8 炉は定期補修や中間点検のため停止していました 地震後は設備的な故障で停止したのが2 炉ありまして 32 炉稼動していたうち2 炉が停止したというのが地震発生

第 1 章 危機管理とは 1 1 目的 2 分類 3 対象とする危機の内容 4 体制 5 対応 6 原因の分析と評価 7 見直しの観点 第 2 章 初動対応編 6 1 交通事故発生時の対応 2 事故 ( けが等 ) 発生時の対応 3 病気等 ( 学校において予防すべき感染症含む ) 発生時の対応 4

揖斐川町デイサービスセンター運営規程

二戸市地域防災計画 ( 震災編 ) の一部修正の新旧対照表現行改正案 目次 ( 震災編 ) 目次 ( 震災編 ) 第 1 章総則 第 1 章総則 第 1 節 計画の目的 351 第 2 節 計画の性格 352 第 2 節の2 災害時における個人情報の取り扱い 352 第 3 節 防災関係機関の責務及

防災業務計画 株式会社ローソン

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目次 はじめに P3 1 災害 緊急の範囲 P3 2 時間と場所を考慮した対応の必要性 P3 3 時間ごとの対応 P4 4 場所ごとの対応 P5 5 デジタルサイネージの提供コンテンツ P6 6 緊急時を意識したデジタルサイネージシステム P6 7 情報の切替 復帰の条件 P7 8 緊急運用体制 P

このような現状を踏まえると これからの介護予防は 機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく 生活環境の調整や 地域の中に生きがい 役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど 高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた バランスのとれたアプローチが重要である このような効果的

【堀内分担研究添付資料2】医療機関(災害拠点病院以外)における災害対応のためのBCP作成指針

2

浸水深 自宅の状況による避難基準 河川沿いの家屋平屋建て 2 階建て以上 浸水深 3m 以上 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難 浸水深 50 cm ~3m 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難上階に垂直避難 浸水深 50 cm未満 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難 自宅に待

(2) 直接的な被害 影響の内容第 図および第 表は 直接的な被害 影響を受けた事業所の具体的な被害 影響の内容を示したものである 全体では 支店 営業店 倉庫 工場等の損壊 が 51.8% で最も多く 商品 仕掛品 原材料等の損壊 が 23.5% となっている 産業分類別で

施行社会福祉施設等における非常災害対策計画の点検・見直しガイドラインページ入り.docx

1 首都直下地震の概要想定震度分布 (23 区を中心として震度 6 強の想定 ) 首都直下地震 想定震度分布 出典 : 中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ 首都直下地震の被害想定と対策について ( 最終報告 ) ( 平成 25 年 12 月 ) 2

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ことを呼びかけます Q4. ミサイルが落下する可能性がある との情報伝達があった場合は どうすれば良いのでしょうか A4. 屋外にいる場合 近くの建物 ( できれば頑丈な建物 ) の中又は地下に避難してください 近くに適当な建物等がない場合は 物陰に身を隠すか地面に伏せ頭部を守ってください 屋内にい

☆配布資料_熊本地震検証

第三者評価結果表 施設名救護施設下関梅花園 評価対象 Ⅰ 福祉サービスの基本方針と組織 評価項目 a b c Na 判断の理由 1 理念 基本方針 (1) 理念 基本方針が確立されている 1 理念が明文化されている 理念は明文化され 法人の中長期計画や事業団ホームページ上にも記 載されており その内

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広域防災拠点からの物資搬送に係る人員は全庁的な確保が不可欠で 人事担当部局が各部局に要請し円滑に確保した 副知事会議を設置し 各部局長出席のもと支援等の内容について判断した 今回の被災地支援については 国の省庁等から直接関係部局に要請や指示があった事項等があり 府全体の支援内容の把握が難しかった 一

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事業継続計画(BCP)作成用調査ワークシート

地震被害予測システムにより建物被災度を予測 また 携帯電話と地図を利用した 被害情報集約システム では GPS 機能と地理情報システムとの連係により 現在位置周辺にある同社施工済物件を検索し 物件や周辺の被害状況を文字 静止画 動画を添付して報告することができる これら被害情報を地理情報システムに集

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断水戸数 ( 万戸 ) 00 総断水戸数断水発生事業体数 東日本大震災 万戸 264 事業体 阪神 淡路大震災 26.6 万戸 7 市町村 事業体 ( 市町村 ) 数 < 東日本大震災 > 4 月 7 日 4 月 日 4

九州における 道の駅 に関する調査 - 災害時の避難者への対応を中心としてー ( 計画概要 ) 調査の背景等 道の駅 は 平成 16 年 10 月の新潟県中越地震 23 年 3 月の東日本大震災において 被災者の避難場所 被災情報等の発信や被災地救援のための様々な支援の拠点として活用されたことなどか

Microsoft Word - 資料2 第二次報告の想定結果(概要)  最終(確定).doc

02 Murayama Hospital News

対応すべき行動_0921

38 災害緊急時における聴覚障害者の情報伝達保障支援の状況分析 表2 生の協力のおかげで遂行することができた 避難訓練の年間実施回数 回 回 2回 3回 4回 5回以上 4 6 35 9 図 避難所担当者との連携 図2 避難訓練の年間実施回数 Ⅳ 調査研究の経過および結果 なかでも年2 3回実施して

-災害に備えて-

1 防災に関する意識 (1) 災害被害の具体的イメージ ( 複数回答, 上位 4 項目 ) 平成 25 年 12 月 地震 80.4% 竜巻, 突風, 台風など風による災害 48.1% 河川の氾濫 19.6% 津波 17.8% ( 複数回答 )

宮城県総合防災情報システム(MIDORI)

事業継続計画概要書 株式会社 J C U B C M 運営委員会 2019 年 1 月 10 日 ( 改 ) 当社グループは 当社と連結子会社 15 社 (2019 年 1 月現在 ) 及び関連会社 1 社により構成され 事業形態を 薬品事業 装置事業 の2セグメント および その他 ( スパッタ技

特別養護老人ホーム外川園

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企業経営動向調査0908

第3回検討会_質の向上WG検討状況報告

障害者 ( 児 ) 防災アンケートの主旨 アンケートの概要 Ⅰ 避難に関すること Ⅱ 情報伝達に関すること Ⅲ 避難所及びその環境に関すること Ⅳ 日頃の備えに関すること 障害者 ( 児 ) 防災アンケート < 配布用 >

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~BCP から BCM へ ~ 静岡県事業継続計画モデルプラン ( 第 3 版 ) の概要 静岡県経済産業部

第 5 部 南海トラフ地震防災対策推進計画

H25 港南区区民意識調査

まちの新しい介護保険について 1. 制度のしくみについて 東温市 ( 保険者 ) 制度を運営し 介護サービスを整備します 要介護認定を行います 保険料を徴収し 保険証を交付します 東温市地域包括支援センター ( 東温市社会福祉協議会内 ) ~ 高齢者への総合的な支援 ( 包括的支援事業 )~ 介護予

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医療施設等(病院、診療所、助産所、介護老人保健施設等)に係る避難確保計画(津波編)作成の手引き(案)

Q4. ミサイルは発射から何分位で日本に飛んでくるのでしょうか A4. 北朝鮮から弾道ミサイルが発射され 日本に飛来する場合 極めて短時間で日本に飛来することが予想されます 例えば 本年 2 月 7 日に北朝鮮西岸の東倉里 ( トンチャンリ ) 付近から発射された弾道ミサイルは 約 10 分後に 発

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南海トラフ地震発生時の不安 南海トラフ地震が発生した場合 不安や危険に思うことは何ですか?( は 3 つまで ) 66.7% の人が 自宅の倒壊や損壊 49.2% の人が 家族等の安否やその確認手段 と答えています 自宅の

Transcription:

II. 災害発生時の状況 : なぜ地域連携が必要か 本章では 東日本大震災における被災事例をもとに 災害時における特別養護老人ホームの被災状況について整理しています 1 災害発生時の状況の概要災害時に発生した状況と地域内の関係機関との連携が必要となった状況との対応関係を整理したものが下表です 各項目で地域連携が必要となる状況が発生しており 平時から関係機関と顔の見える関係を構築しておくことの重要性がわかります 2 特別養護老人ホーム施設内の状況 2-1. 施設及び設備等ハード面の被害状況 (1) 施設 施設周辺の被害東日本大震災では津波による被害が甚大であり 高台等に立地している場合等を除き 沿岸部から約 3キロ以内に立地している施設の多くでは 津波により建物が全壊する等の被害のほか 浸水やがれきの流入による1 階部分の機能喪失 周辺地域でのがれきの散乱 地割れ等による施設の孤立化等の被害がみられます 一方 津波被害は免れた場合でも 地震の衝撃によって屋内配管が損傷したり 地中に埋設された上下水管が破損する等の被害もみられます 11

(2) 外部設備等の被害ボイラー 貯水タンク 受水槽 浄化槽等の外部設備については 津波で流出するといった被害のほか タンクにひびが入ったり 浸水や押し流されてきたがれきによって破損するといった被害も発生しています このため 入浴や洗濯 炊事ができなくなった例が多くみられました このほか 1 階部分に設置していた配電盤が津波被害によりショートし発火するなど 電気設備の損傷被害も報告されています また 非常用の自家発電設備が津波被害に遭い 使用不可能となったケースでは 電気の復旧がままならず ケアの継続に影響を来す例が複数施設においてみられました 2-2. 職員の安否確認や参集状況 就業状況 (1) 職員の安否確認状況東日本大震災発生時は各施設とも混乱を極め 職員全員の安否確認に3 週間近くを要する例があったほか 連絡網による安否確認体制を採用していた施設の多くでは 停電や輻輳により固定電話 携帯電話がともに長期にわたりつながりにくい状態となり ほぼ機能しなかった等 職員の安否確認体制については課題が多くみられています (2) 職員の参集状況東日本大震災は3 月 11 日 ( 金 ) の午後 2 時過ぎに発生し 平日の通常勤務時間帯であったことから 職員の参集状況に関して課題となった点は特に報告されていませんが 被災施設では 夜間時等 職員数が不足した状態での発災を想定し 事前対策を検討すべきとの意見が多く出されています (3) 職員の就業状況 2-1.(1) で述べた施設孤立の状況や地域避難者の受入等 業務が多忙を極めたこと等により 職員が継続勤務せざるを得ない状況や自宅の被災等に伴う泊まり込み勤務が長期化したことから 発災から1か月は特に厳しい就業状況となったことが報告されています また 施設が使用不可となり 別施設に間借りするかたちで避難した施設では 施設を自由に使えないといった不自由さ 肩身の狭さ等が予想された以上に職員のストレスとなり 多数の職員の退職につながった例もありました 遠方から通勤していた職員がガソリン不足の影響で出勤できなくなるケースなど 通勤上の問題も指摘されています また 職員も家族を亡くしたり 自宅を失ったり等 自身も被災者となるなかで勤務を続けるケースがほとんどであり 非常時の緊張感と相まって 個々にかかる精神的 肉体的負荷は相当なものとなっており 結果 職員の辞職が続出するといった例も複数施設に 12

おいてみられました 一方 こうした状況のなか 早期に職員が不安やストレスについて話し合い 共有する 場を設け 職員の心のケアに努めた例もあります 2-3. ライフライン及び備蓄物資等の状況 (1) ライフラインの状況東日本大震災時 ライフラインは 電気 ガス 上下水道 通信のほぼすべてが停止し 多くの施設で機能停止に陥っています こうしたなか 大型自家発電機や燃料備蓄を有する施設では 停電時でも自力でのケアの継続が可能な例もありました また オール電化導入施設では 電気の停止によりあらゆる機能が停止しました (2) 備蓄物資等の状況各施設では 備蓄物資は事前に準備されていたものの 施設の津波被害や浸水被害を考慮した配置がなされておらず いずれも施設 1 階部分や外部の平屋倉庫に保管されていたことから 浸水 流失といった被害により物資そのものが利用できなくなるといったケースが多く見られました 一方で 備蓄物資を2 階に保管していた施設では かろうじて津波被害を免れた例もあります また 備蓄物資の対象や内容について 多くの施設では利用者分のみを想定し備蓄物資が準備されていたため 職員分の飲食料 その他生活用品の慢性的な不足が続いたほか 女性職員が多いことから 女性用の日用品や生理用品等が不足し支障を来していました 地域によっては 職員は発災から一定程度時間が経過しても1 日 2 回と限定的に食事を取らざるを得ない状況もありました さらに 冬場であったことから 毛布など暖を取るための備蓄品が不足しました さらに 施設の孤立状況が続いたり 外部からの支援が届く見通しが立たなかったこと等から 職員自ら外部機関に飲食料を調達しに出向いたケースもあります 2-4. 利用者の安全確保 避難誘導 受入施設の検討等の状況 (1) 利用者の安全確保 避難誘導の状況利用者の安全確保 避難誘導の状況について 浸水被害や津波被害を想定し 日常的に利用者の上下階移動を伴う避難訓練を実施していた施設では スムーズに避難誘導 安全確保が実施できました 一方 特養利用者については避難に時間を要し 津波到来までに間に合わず逃げ遅れるといったケースや 避難場所への搬送中に津波に巻き込まれるケースのほか 連絡体制の不備により利用者が中庭に取り残されるケース 平屋建ての施設では 特に自力で動けない利用者が避難する場所が無く 多数の利用者 職員が津波にのまれ亡くなられた例もあ 13

るなど 安全確保 避難誘導面での課題が多く指摘されました (2) 受入施設の検討状況災害により施設の継続利用が困難となった場合には利用者の受入施設を迅速に検討する必要があります 東日本大震災により施設が継続困難となったケースでは 入所先の選定についてはほぼ施設長 理事長の個人的な関係やつながりに依存しており 法人間 施設間のネットワークを活用した広域での調整機能の欠如が課題となりました また 平時から相互受入に関する覚書きや協定等を締結しておく必要性についても指摘されています また 受入施設の検討段階において 家族の同意は得たものの 利用者本人の承諾まで得る余裕がないなどの問題もあります 2-5. 利用者ケアに関する情報管理 情報共有の状況施設が被害を受けた際 持ち出し用介護記録の一部が流失するなど 利用者情報の管理面での課題のほか 施設利用困難となった場合の各避難先への利用者情報の伝達 警察 消防が利用者を避難所へ移送した場合の所在確認や情報共有方法について 課題が指摘されています 2-6. 施設運営の全般に関わる状況施設運営に関する事項として 災害時の指揮命令系統が明確でなかったことや 災害 復旧情報や地域の他機関に関する情報収集体制を確立できなかったこと ( 特に行政の災害対策本部との連携上の課題 ) 緊急時の職員参集基準が明確でなかったことなどが課題として指摘されています また 施設の継続運営に際しては 職員不足により一時的にデイサービスを停止したため 経営状況が悪化し 職員を解雇せざるを得ない状況に陥った例もあります さらに 先の見えない非常時には 理事長をはじめとした経営陣の施設再開に向けた展望を職員 利用者に対して示すことで モチベーションや機運を高めることにつながったケースもあります 14

3 他機関との連携に関わる状況 (1) 各機関との連携状況津波被害を受け 施設 1 階部分が使用できなくなっていたケースでは 震災から約 1か月後に災害ボランティアにより堆積したがれきや泥の除去 清掃活動が実施されています また 救援物資については NPO やボランティア団体 自治体等から提供を受けるケースが多くみられました このほか 医療機関が入浴施設を貸し出すケースや 自衛隊により病院搬送されるケース等の連携がみられました (2) 地域住民等との連携状況避難時の状況として 津波到来時に住民に施設への避難を促したケースや 周辺の地域住民が数百名規模で避難してきたケースもありました また 施設に介護実習生が来所していたため 学校との連携が必要となった例もあるなど 状況に応じて臨機応変な対応が必要となることが指摘されていますが 連絡先や担当者がリスト化されておらず 調整に手間取ったことが課題となっています 一方 施設利用者を上階へ避難させる際に地域住民の協力を得て避難したケースや 入浴施設への移動時に住民の協力を得るなど 施設のマンパワー不足を補うかたちでの連携もみられました (3) 他施設との連携他施設との連携については 利用者の受入依頼 受入の実施に加え 施設全体で他施設を間借りするといったケースもありました 連携先の施設としては 法人内 外の割合は同程度となっています ただし 事前に連絡先や担当者を把握していなかったため 連絡に手間取る状況がみられました 15