主任 科長が率先することが大事! 部署での超過勤務を削減するための業務の工夫と働きかけや声かけ 当院の看護部では,2008 年から大阪府看護協会主催のワークライフバランス推進事業に参加し, 働きやすい職場環境づくり に管理職一丸となり取り組みました その中で時間外勤務についても検討を行い, 現状分析 具体策を明確にしていくことができました 取り組み内容は次のとおりです 1 始業前残業の禁止 2 業務を目的とした時間外勤務であれば残業時間として申請することを義務化 3 時間外勤務基準の作成 4 時間外勤務申請単位を30 分から15 分に変更 5タイムレコーダーの設営場所の見直しと増設 6 時間外勤務申請用紙の改善 7 管理体制の整備 8 指導と業務改善 柴田まゆみ社会医療法人大道会森之宮病院看護部副部長 1992 年大道会に看護師として入職 以後, 大道病院, ボバース記念病院を経て,2006 年同法人森之宮病院開院に伴い異動 2016 年 4 月看護部副部長に就任, 回復期リハビリテーション病棟の管理者として, 回復期リハビリテーション病棟 4 病棟の運営やベッドコントロールを担当 各現場では管理職を中心に, 時間外勤務短縮に向けた取り組みをさらに具体化していきました 本稿では, 回復期リハビリテーション病棟での具体的な取り組みについて紹介します 病棟紹介 病床機能は回復期リハビリテーション病棟で, 施設基準は新入院料 1, 病床数は 31 床です 入院患者の90% 以上が脳卒中発症後 2カ月以内で, 脳卒中後のリハビリテーション目的で入院しています 病棟内の看護スタッフ数は, 看護師 20 人, 介護福祉士 5 人, 看護補助者 1 人で, 看護師の経験年数は,5 年以下のスタッフが60% 以上を占めています (2018 年 4 月現在 ) ( 表 1,2) 当病棟の超過勤務の状況 過去 3 年間 (2015 2017 年度 ) の年度別の平均残業時間を比較すると,2017 年度は急激に超過勤務時間が増加しました ( 図 1) 年度によって看護師数に違いはありますが, 同時期の3カ月間の月別平均残業時間でもかなりの増加が見られました ( 図 2) これは,2017 年度は, 看護師の結婚や産休, 留学が重なり, 看護師の確保に苦慮したこと, 入院患者の平均在院日数が短縮された一方で, 看護必要度が高く, 医療依存度も高い入院患者が増加したことが原因と考えます 残業内容を分析すると, 日勤 夜勤ともに看護記録が大部分を占めています ( 日勤 8 時 30 分 17 時 15 分, 夜勤 16 時 30 分 9 時 00 分 )( 図 3) 6
病棟内の超過勤務対策をする上で大事にしていること 私たちは, 患者の安全を守り, 満足できる入院生活を提供する上で, 看護の質を保ち, かつ効率的に業務を進めていかなければなりません 当病棟の入院患者の特徴は, 脳卒中後の後遺症で運動機能 認知機能に問題を抱えながら, 生活の再構築を目指しているということです リハビリテーション看護のスペシャリストとして, 一人ひとりの患者の目標に対して, 課題を明確にし, 多職種で協働しながら看護ケアを展開していかなければなりません どの程度の介入が必要なのかを判断した上で, 個別的な介入が要求されます ( 資料 1) このような中で, 一つひとつの看護ケアには大変時間がかかります 効率的に業務を遂行していくためには, 患者へのケアの優先順位を決め, 複数の患者のタイムテーブルを調整し, 時間にメリハリをつけます 予定外の業務が発生した場合は, リーダーと業務を割り振り, 互いのスタッフの業務が勤務時間内に終わるような業務分担や時差出勤を取り入れながら, 柔軟なシフト調整を行うことも求められます 超過勤務に関しては, 時間に対するスタッフの意識も重要であるため, 病棟での超過勤務削減に向けての目標数値を明確に示すようにしています 当病棟の超過勤務時間の目標数値は, 各スタッフ6 時間以内 / 月です しかし, 時間を気にし過ぎて, 業務が中途半端になったり, やらなければならない業務を後回しにしたりしないように, 必要な超過勤務は管理職が承認しています 7
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病棟内の超過勤務対策を実際にどのようにしているか 始業前残業をしないための業務の工夫 始業前残業は基本的に行いません 始業前残業が必要であれば, シフトを調整し, 時差出勤の体制に切り替えます 患者の状態によって早朝から人員が必要と判断した場合は, 夜勤者の業務内容, 早出の業務内容を明確に書き出し, 出勤時間 人員を調整します 具体的には,7 時や7 時 30 分からの出勤者をつくり, 夜勤者と協力する体制とし,8 時 30 分からの日勤帯へスムーズに業務移行ができることを目指しています また, 日勤帯の出勤時間は, 特にルールを決めて徹底しています 以前は, 早めに出勤し, 患者の状態把握など, 自分たちの業務がスムーズに進むように, できることは先に済ませようとする風土がありましたが, ルールを明確に示すことで, 一気にスタッフの意識が変わりました そのルールとは次のとおりで, 看護部全体で決め, 管理職全員でスタッフへの周知を行いました 1タイムレコーダーの打刻は8 時 16 分以降に行う 2 電子カルテは打刻後にログインする 3 早く出勤しない 業務を始業時間より早く行う必要があれば, 問題点を抽出し, 病棟で業務改善を行うようにしています スタッフが最も行いたいことは, 患者の状態把握やワークシートによる当日の予定の把握です 対策として, 朝の申し送りをスタッフ全員がチーム別にベッドサイドで行うようにしました その後, 細かい伝達事項があれば, 日勤のリーダーが個別にチームメンバーに伝達することとしています 勤務終了後の超過勤務をしないための業務の工夫その日の病棟の動向を勤務者がしっかり把握する 1 日の患者の動きや看護師の動きを把握して, 当日の勤務者に時間 内容を分かりやすく, 簡単明瞭に伝え, 個々のスタッフがやるべきことに加え, 病棟の動きを意識して業務を遂行していくことが, チームワークを高めること, 業務時間にメリハリをつけること, お互い様 を実行に移すことにつながり, 超過勤務短縮に向けた取り組みのスタートと考えています 当病棟での主となる動きは, 入退院への対応や, 各種委員会活動や会議への参加, 患者宅への訪問指導などです 特に, 病棟から離れるスタッフを確認し, 現場にいないスタッフのフォローをどのようにしていくかは, 管理職や当日の各チームリーダーのマネジメントに左右されます チーム間での協力体制の調整, 業務の采配はリーダーを中心に進め, スタッフからの報告に対しては, 状況を正確に把握し, 管理職 主治医に報告 連絡 相談します また, 毎月の予定を一覧で把握できるカレンダーの作成も行っています ( 資料 2) カンファレンスの予定や訪問指導など, いつ 誰に 何が どのように計画されているかを把握することで, 時差出勤などのシフト調整がしやすくなります 業務改善の取り組み ケアマネジャーや認定調査員, 訪問看護師など多くの職種の方が病院へ訪問に来られます これらの訪問に対して, 瞬時に正確な情報が提供できるよう, フォーマットを作成し, 当日までに必要な情報を抽出しておきます 訪問時の対応をス 9
ムーズに行うことで双方にメリットがあると思います 病棟業務マニュアルの見直し 改訂はタイムリーに行うようにしています 業務を行っていく中であいまいになっている業務や分かりにくい部分があれば, 情報を収集し, 現場ですぐに活用できるよう修正を行います 患者のADLの状態や, ポジショニング 移動手段や介助方法などは, ベッドサイドにピクトグラムで明示し, スタッフが 対応に時間を要しないようにしています タイムリーな情報が必須であるため, ピクトグラムは毎日見直しを行っています 患者からのSOSであるナースコールは, チームに関係なくすぐに駆け付け対応しています ( 図 4) 実際に, チームに関係なく対応できることが多くあります スタッフに時間を意識してもらう始業時間 8 時 30 分, 終了時間 17 時 15 分をスタッフに伝えることも大切です 伝える際には, 次のように工夫しています 1 声に出して時間を伝える 2PHSに,8 時 30 分と17 時 15 分にアラームを設定し, スタッフにアラームを聞いてもらう ( 無言の伝達 ) この2 点を実践することで, 時間に対して敏感になると考えています 超過勤務が発生しないための業務中の声かけ看護師の経験年数や能力には差があり, そこをカバーするためには, 先輩看護師が適時にアドバイスや指導を行いながら業務を遂行していけるような風土づくりが重要になります 声をかけやすく, 相談のしやすい職場環境にしていくためにも, 科長 主任が業務内容の把握やリスク管理を行い, タイミングを見て 困っていることはありませんか? と適宜声をかけています タイミングは就業時間の終了間際でなく, 午前, 午後, 夜勤への申し送り前など, 細やかに声かけをするように心がけています この声かけで業務の進行状態を把握することができます また, 応援が必要な場合は, 誰がサポートに入れるかを判断し, お互い様 の精神で, 理由を明確に示して相手に指示を出すことも, 管理職の重要な役割です 声かけの仕方も, 威圧的な言い方ではス 10
タッフに緊張感を与えるため, スタッフが素直に困り事を口にできるような雰囲気で声をかけることが大切です 看護の質は保ちながら超過勤務を行わないための働きかけ 看護の質を保つためには, 教育体制の充実は必須です 当院の看護部では, ラダー研修を計画的に行い, また院外 院内での研修へも積極的に参加できるような体制を構築しています 個々の能力に応じて研修での学びを現場で展開していくことで, 病棟全体が活性化し, 効率的な業務改善や安全 安楽な看護ケアができると考えています また, スタッフのキャリアビジョンに対しても, 管理職と共有し, 目標を達成できるような働きかけを積極的に行っています より専門的な学習を深めたいという思いからスタッフが研修や学会への参加を希望する場合, 看護部ではその希望を現実化していくような仕組みが構築されています これらの取り組みによって個々の能力を高めることが, アセスメント力や実践能力につながり, 質の確保となること, そして時間をうまくコントロールできるようになることを期待しています 当病棟の看護の質においては, 退院に向けて, 多職種協働で連携を密に取りながら患者 家族への指導を進め, 患者の目標達成のために個別的なケアを実施し, できる ADLをしているADLにつなげていきます 分かりやすく, 丁寧に, 何度も繰り返すことで機能改善を図っています しかし, ケアやリハビリテーションでの自主訓練への介入 指導を日勤帯で行うと, 記録が後回しになりがちです 病棟の超過勤務は, 各スタッフ平均 6 時間以内 / 月を目標に打ち出していますが, 残業内容の中 で看護記録が大きな割合を占めており, 今後の課題の一つとして検討を続けていきたいと考えています 全員が毎月 6 時間以内に収めるには, さらに業務改善を進め, チーム力を強固にしていく必要があります 私たち管理職は, スタッフ一人ひとりが毎月の残業時間や残業につながる原因を認識し, 残業を意識できるような働きかけを心がけています まとめ超過勤務削減は組織の大きな課題の一つです 現在の診療報酬では, アウトカム評価の成果で施設基準も左右されます 在院日数が短縮される中, 短期間で患者 家族が満足できるかかわりや目標とする機能改善につなげていくために, 私たち看護師がチームの中で何をしなければならないかを明確にとらえ, 実践していかなければなりません 多忙な業務の中で, 専門職としての役割を十分に発揮できる環境を整備し, 達成感や満足感を得られるような働きかけを行うことは, 管理職の大きな役割です 超過勤務をなくすことはできませんが, スタッフが超過勤務で疲弊しないよう, 管理職が病棟全体の業務量を把握し, 時間を要することにはしっかり時間を費やし, 目先の成果ではなく, 先を見据えた時間管理の短期目標 長期目標を明確にしていくことで, 今後も超過勤務削減へつながっていくことを期待しています また, 法人が個々の労働時間を把握し, 超過勤務の多い部署に関しては適切な指導を行い, 心身の健康管理に留意する機能を発揮していることも, 超過勤務削減への意識付けを促進しているものと考えます 引用 参考文献 1) 田中裕子 : 時間外勤務ゼロの実現と働き続けられる環境整備, 看護主任業務,Vol.24,No.5,P.13 ~ 17,2015. 11