5 食品の表示と規格基準 近年, さまざまな技術を駆使した多種多様な加工食品が生産されている 家庭における加工食品の購入割合は年々高くなり, 食生活におけるその役割は重要になっている 食品が社会に信頼され広く利用されるためには, 安全性や品質が保証され, さらにそれらが的確に識別できる表示が必要である 1 食品表示に関する制度食品の表示は, 消費者が食品を購入する際, 食品の内容を正しく理解, 選択し, 適正に使用する上で重要な情報源となる また, 事故が生じた場合には, その原因の究明や製品回収などの行政措置を迅速かつ的確に行うための手がかりとなる 食品表示に関する法律には, 食品衛生法, 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律 (JAS 法 ), 健康増進法などがある ( 表 5 1, 図 5 1 ) 平成 21(2009) 年 9 月 1 日より, 食品表示行政はすべて消費者庁に移管された 2 食品表示業務消費者庁では,JAS 法, 食品衛生法, 健康増進法の表示規制に関わる事務を一元的に所掌し, 表示基準等の企画立案も担当する 執行業務は関係省庁と連携して実施する ( 図 5 2 ) 表 5 1 食品の表示に関する法律 法律等の名称 表示等の主旨表示対象食品表示すべき事項所管省庁 食品衛生法飲食による衛生上の危害発生の防止 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律 (JAS 法 ) 原材料や原産地など品質に関する適正な表示 健康増進法栄養の改善その他国民の健康増進 容器包装に入れられた加工食品 ( 一部生鮮品を含む ), 鶏卵 すべての生鮮食品, 加工食品および玄米 精米, 遺伝子組換え食品, 有機食品など (2005( 平成 17) 年 6 月改正 ) 栄養機能食品, 特定保健用食品, 特別用途食品 名称, 使用添加物, 保存方法, 消費期限または賞味期限, 製造者氏名, 製造所所在地等遺伝子組換え食品, アレルギー食品, 保健機能食品に関する事項 品名, 原材料名, 食品添加物, 保存方法, 内容量, 原料, 原産地 ( 輸入品の場合は原産国 ) 名, 消費期限または賞味期限, 製造者または販売者 ( 輸入品にあっては輸入業者 ) の氏名または名称および住所, その他必要な表示事項遺伝子組換え食品, 有機食品に関する事項 栄養成分, 熱量 商品名, 原材料, 許可を受けた理由, 許可を受けた表示の内容, 成分分析表および熱量, 許可証票, 摂取方法等 厚生労働省表示は消費者庁 農林水産省表示は消費者庁 厚生労働省表示は消 費者庁 注 ) このほかにも一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限および禁止を定めた不当景品類及び不当表示防止法 ( 景品表示法 ; 所管は公正取引委員会 ), 正確な内容量等の表示を定めた計量法 ( 所管は経済産業省 ) などがある 1
5 食品の表示と規格基準 図 5 1 食品表示に関する制度 このほか, 景品表示法 ( 虚偽, 誇大な広告などの表示の禁止 ), 不正競争防止法 ( 不正な競争の防止 ), 計量法 ( 適正な計量の実施を確保 ) なども関係する 図 5 2 食品表示業務の連携 A 表示の種類 期限表示 ( 消費期限, 賞味期限 ) 食品衛生法,JAS 法の期限表示について, 用語 定義の統一を図るため, 食品 衛生法施行規則等が改正された 期限表示には, 必ず 消費期限 か 賞味期限 平 18 63 の旨を記載する その期限は製造業者等が決める 1 消費期限定められた方法により保存した場合において, 腐敗, 変敗, その他品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限 ( 安全に食べられる期限 おおむね製造 加工後 5 日以内 ) 消費期限 は, 食品衛生法による表示に用いられ, 品質の劣化が早い食品に表示される ( 食肉, 惣菜, 弁当類, 生菓子など ) この期限を過ぎたものを食べるこ 2
とは避けるべきとされる 2 賞味期限定められた方法で保存した場合, すべての品質特性が十分に保持される期間 ( おいしく食べられる期限 おおむね製造 加工後 6 日以上 ) 賞味期限 は,JAS 法による表示に用いられ, 期限表示する食品で, 消費期限 を表示する対象食品以外の食品に表示される ( ソーセージ ハム, 牛乳, 冷凍食品, 乳製品, 調味料など ) この期限を過ぎたからといって, すぐ食べられないということではない 成分表示 ( 栄養表示, アレルギー表示, 添加物表示 ) 消費者が健康的な食生活を送るために, 商品に関する正しい適切な情報が提供されることが求められている 食品表示は, 消費者が自分の食生活の状況に応じて安 心して食品選択ができるようにするためのものである 1 栄養表示特別用途食品を除いた一般の販売用食品に栄養成分の表示をする場合は, 内閣総理大臣の定める栄養表示基準に従って必要な表示をしなければならない 栄養表示基準は, 加工食品 ( 生鮮食品は除くが, 鶏卵は含む ) に, 日本語で栄養成分 熱量に関する表示をする場合に適用される基準である ( 健康増進法第 31 条 ) その目的は, 消費者が食品を選択するときに適切な情報を入手できるようにすることである 栄養表示をするかしないかは自由で, 表示には表示したい事項のほかに, 必ず併せて表示する事項を定めている なお, 平成 13(2001) 年 4 月 1 日に創設された保健機能食品についても, 栄養表示基準が適用される 表示が適用される栄養成分および併せて必ず表示しなければいけない事項当該食品の単位当たり (100g, 一食分, 一包装など ) に基本事項の 熱量 ( エネルギー ), たんぱく質, 脂質, 炭水化物, ナトリウム と, 表示したい栄養成分 を加え, この順番で記載する 厚生労働省で定められている栄養成分を, 表 5 2 に示した ( 健康増進法施行規則による ) 表示基準を表 5 3 に示した 表示方法表示場所は, 容器包装の見やすい場所, またはその食品に添付する文書である 表示の単位には, 基準と単位が定められている 微量 という表示や, 割合 (%) での表示はできない 栄養成分の含有量の表示は, 一定の値 または 下限値 ~ 上限値 で表示する 一定量で表示する場合は, 定められた誤差の許容範囲であること, 下限値および上限値で表示する場合は, その範囲内に含まれている必要がある なお, 材料のばらつきや経時変化を考慮して, 誤差範囲が設けられている 栄養表示の単位 分析方法 誤差範囲 0 と表示できる基準を表 5 3 に示し 平 18 60 3
5 食品の表示と規格基準 表 5 2 厚生労働省令で定められている表示が適用される栄養成分など 基本項目ミネラル ビタミン 上記の栄養成分および熱量そのものを表示する 場合のほかに, 表示の対象となる栄養成分 熱量 ( エネルギー ), たんぱく質, 脂質, 炭水化物, ナトリウムカルシウム, 鉄, 亜鉛, カリウム, クロム, セレン, 銅, マグネシウム, マンガン, ヨウ素, リンナイアシン, パントテン酸, ビオチン, ビタミン A, ビタミン B 1, ビタミン B 2, ビタミンB 6, ビタミン B 12, ビタミン C, ビタミン D, ビタミン E, ビタミン K, 葉酸 1 ビタミン, ミネラルなどの総称 2 プロテイン, ファットなどの別総称 3 脂質における不飽和脂肪酸, 炭水化物における食物繊維など, その種類である栄養成分 4 たんぱく質におけるアミノ酸など, その構成成分 5 ビタミン A における β カロテンなどの前駆体 6 その他これらを示唆する一切の表現 ( 果糖, 繊維, カルシウムイオン, シュガーレス, ノンオイル,DHA, コレステロール, オリゴ糖, 糖アルコール, 低塩, 食塩無添加など ) 1 平 20 59 2 平 18 63 3 平 21 61 た また, 表示上の注意を表 5 4 に, 表示例を図 5 3 に示した 2 アレルギー表示平成 13(2001) 年から食品衛生法により設定されている 特にアレルギーを起こしやすい食品や重篤な症状を引き起こしやすい食品原材料 ( 特定原材料 ) では義務表示 1, 特定原材料に準じるものでは奨励表示とされている ( 表 5 5 ) 容器包装された加工食品が対象とされ, 含有が微量でも表示が必要である アレルギー表示では, キャリーオーバー ( 表 5 6 ) が認められておらず, 副材料までさかのぼって表示する義務がある 原材料が複数の場合, 最後に括弧書きで ( 原材料の一部に小麦, 豚肉, ゼラチンを含む ) などの表示を行ってもよいことになっている 3 添加物表示食品の製造 加工に用いられた添加物は, 食品衛生法に従い, 食品の原材料に併せてすべて表示することとされている 2 表示は, 使用量の多い順とする 添加物は一般に使用量が少ないので, 原材料の末尾に書かれることが多い 添加物の表示には, 次のような原則がある 1 栄養強化の目的で使用されるビタミン類, ミネラル, アミノ酸類や加工助剤, キャリーオーバーに該当するものは, 表示が免除されている 例 )L アスコルビン酸は栄養強化目的で用いると表示免除 (JAS 法の品質表示基準により表示義務のあるものについては必要 ) しかし, 酸化防止剤として用いると 酸化防止剤 ( ビタミン C) と表示 2 用途が同じ添加物は一括名での表示でよい ( 表 5 7 ) 3 添加物の名称は, 原則として物質名であるが, 簡略名や類別名も用いる 3 リストは, 平成 22(2010) 年 10 月消食表第 377 号消費者庁次長通知に記載されている 例を表 5 8 に示した 4 消費者にとって関心が高いものは, 用途も表示される ( 表 5 9 ) 4
表 5 3 栄養表示の単位 分析方法 誤差範囲 0 と表示できる基準 栄養成分 表示単位 分析方法 誤差範囲 ( 0 と表示できる基準 ) *3 たんぱく質 g またはグラム 窒素定量換算法 -20%~+20%(0.5g) 脂質 g またはグラム エーテル抽出法, クロロホルム, メタノール -20%~+20%(0.5g) 混合液抽出法, ゲンベル法, 酸分解またはレーゼゴットリーブ法 飽和脂肪酸 g またはグラム ガスクロマトグラフ法 -20%~+20%(0.1g) コレステロール mg またはミリグラム ガスクロマトグラフ法 -20%~+20% ( 5 mg) 炭水化物 g またはグラム 当該食品の重量から, たんぱく質, 脂質, 灰分 -20%~+20%(0.5g) および水分量を控除して算定すること *1 糖質 g またはグラム 当該食品の重量から, たんぱく質, 脂質, 食 -20%~+20%(0.5g) 物繊維, 灰分および水分量を控除して算定すること *2 糖類 g またはグラム ガスクロマトグラフ法または高速液体クロマ -20%~+20%(0.5g) トグラフ法 食物繊維 g またはグラム 高速液体クロマトグラフ法またはプロスキー -20%~+20% 法 カルシウム mg またはミリグラム 過マンガン酸カリウム容量法, 原子吸光光度 -20%~+50% 法または誘導結合プラズマ発光分析法 鉄 mg またはミリグラム オルトフェナントロリン吸光光度法, 原子吸光光度法または誘導結合プラズマ発光分析法 -20%~+50% ナトリウム mg またはミリグラム 原子吸光光度法または誘導結合プラズマ発光分析法 ナイアシン mg またはミリグラム 高速液体クロマトグラフ法またはナイアシン 定量用基礎培地法 -20%~+20% ( 5 mg) -20%~+80% パントテン酸 mg またはミリグラム 微生物定量法 -20%~+80% 亜鉛 mg またはミリグラム 原子吸光光度法, キレート抽出 原子吸光光 -20%~+50% 度法または誘導結合プラズマ発光分析法 銅 mg またはミリグラム 原子吸光光度法, キレート抽出 原子吸光光 -20%~+50% 度法または誘導結合プラズマ発光分析法 マグネシウム mg またはミリグラム 原子吸光光度法または誘導結合プラズマ発光 -20%~+50% 分析法 ビオチン μg またはマイクログラム 微生物定量法 -20%~+80% ビタミン A μg またはマイクログラムある 吸光光度法または高速液体クロマトグラフ法 -20%~+50% いは IU または国際単位 ビタミン B 1 mg またはミリグラム 高速液体クロマトグラフ法またはチオクロー -20%~+80% ム法 ビタミン B 2 mg またはミリグラム 高速液体クロマトグラフ法またはルミフラビ -20%~+80% ン法 ビタミン B 6 mg またはミリグラム 微生物定量法 -20%~+80% ビタミン B 12 μg またはマイクログラム 微生物定量法 -20%~+80% ビタミン C mg またはミリグラム 2 4 ジニトロフェニルヒドラジン法, イン -20%~+80% ドフェノール キシレン法, 高速液体クロマトグラフ法または酸化還元滴定法 ビタミン D μg またはマイクログラムある 高速液体クロマトグラフ法 -20%~+50% いは IU または国際単位 ビタミン E mg またはミリグラム 高速液体クロマトグラフ法 -20%~+50% 葉酸 μg またはマイクログラム 微生物定量法 -20%~+80% 熱量 kcal またはキロカロリー 修正アトウォーター法 -20%~+20% ( 5 kcal) *1 たんぱく質および脂質の量は, 栄養成分 の欄の区分に応じ, 分析方法 の欄の方法で測定し, 灰分および水分の量 は, 次の各号に掲げる区分に応じ, 当該各号に掲げる方法により測定すること 1 灰分 : 酢酸マグネシウム添加灰化法, 直接灰化法または硫酸添加灰化法 2 水分 : カールフィッシャー法, 乾燥助剤法, 減圧加熱乾燥法, 常圧加熱乾燥法またはプラスチックフィルム法 *2 この場合, たんぱく質, 脂質および食物繊維の量については, 栄養成分 の欄の区分に応じ, 分析方法 の欄に掲げ る方法により測定し, 灰分および水分の量にあっては,* 1の各号に掲げる区分に応じ, 当該各号に掲げる方法により 測定すること *3 0 と表示できるのは, 飲食物 100g または100mL 当たり,( ) 内に示された数値未満である場合である 平 18 60 5