埼玉県産業技術総合センター研究報告第 12 巻 (214) MGH 加によるチタン鏡面仕上げ 南部洋平 * 出口貴久 * 落合一裕 * Mirror-Like Finishing of Titanium Using MGH Tool NANBU Youhei*,DEGUCHI Takahisa*,OCHIAI Kazuhiro* 抄録チタン材料に対して焼け 凝着の無い鏡面加をすることを目標に 加条件及び加潤滑剤の検討を行った 1 回のをと小さくしてMGH 加を行うことで 純チタンに対して焼け 凝着の発生しない仕上げ加が可能となった また やと表面粗さの関係を明らかにした キーワード :MGH 加 超音波 鏡面仕上げ 塑性加 1 はじめにチタン製人関節や椎間板において 機能性向上のためには表面を高精度に研磨する必要がある 従来は手作業によるバフ研磨で仕上げが行われているが 効率が悪いことや 形状精度の低さ 粉塵やスラッジを排出するという環境負荷の高さが課題となっている これらの課題を解決する方法として を利用して材料表面を塑性変形させるMGH(Micro Gloss Hammaring) 加 1) が提案されている MGH 加の概念を図 1に示す 本加法をチタン材料に用いると 加面の焼けやへの材料の凝着といった問題が発生することがある 本研究では チタン材料に対して焼け 凝着の無い鏡面加をすることを目標に MGH 加の加条件及び加潤滑剤の検討等を行った 2 実験方法 2.1 テーブルを付加する方法として 材料側を振動させるテーブル方式と 側を振動させる超音波スピンドル方式を用いて検討を行った 図 2 にテーブル方式の実験装置概略を示す 作機械には最小移動単位 のマシニングセンタ (UB75 浦和製作所製 ) を使用した テーブル ( 特注品 エコー技研製 ) によって加対象物 ( ワーク ) に振動周波数 28kHz のを付加した 2) スピンドル 専用 山部を塑性させ平滑化 スキャロップハイト テーブル ボルト ワーク コントローラ 図 1 MGH 加 動力計 ベッド データレコーダ * 技術支援室機械技術担当 図 2 実験装置 ( テーブル )
2.2 スピンドル 図 3 に超音波スピンドル方式の実験装置の概略 を示す 作機械には最小移動単位 の高速 加機 (ASV4 東芝機械製 ) 及び加機主軸 ボックスに取り付けた振動周波数 4kHz の超音波 振動スピンドル (R2 industria 製 ) を使用した 3) 2.3 使用 ボールエンドミルによる前加後に MGH 専 用を用いて MGH 加を行った 振動振幅が 最大となるように長を調整し ス ピンドルに取り付けた 2.4 MGH 加の と MGH の位置関係を図 4 に示す MGH 加では の微小な谷部の最下点 よりも切り込み過ぎないようにを設定 する また の山部最上点と谷部最下点 の差は表面粗さ Rz に相当する そこで 前加 面に MGH を接触させ 山部最上点に相当す る接触点の高さを とし 実測し たの表面粗さ Rz よりも小さな切り込み 量で加を行った 3 実験結果 3.1 MGH 加法の効果検証 MGH 加法の効果検証のため これまでに加 実績のあるステンレス鋼に対して加を行っ た 加条件を表 1 に示す X1mm Y2mm の 面に対し 直径 6mm のボールエンドミルにより 前加を行った は X 軸方向に直線運動さ せ は mm とした MGH 加はのうち X1mm Y1mm の面に対して 直径 6mm の MGH により行 った 進行方向 及びは前加と 同じだが Y 軸方向にの 1/2 ずらすこ とで の山部最上点に沿って加を行っ た また 切り込みは ずつ 2 回に分けて総 2μm とし 粗さより小さい とした 表面粗さ測定機 ( タリサーフ 14D-3DF 東京精 密製 ) を用いて加面 Y 軸方向の断面曲線及び表 埼玉県産業技術総合センター研究報告第 12 巻 (214) 表面粗さ Rz 前 加 M G H 加 ワーク 表 1 加条件 加対象物 ステンレス鋼 (SUS34) 6mm ボールエンドミル.1mm mm 回転数 1min-1 粗さ 4.52μmRz 径 6mm MGH 専用 振動方法 テーブル 振動周波数 28kHz 振動振幅 約 5μm ずつ 2 回 ( 総切込量 2μm) mm 回転数 1min -1 面粗さを測定した 加面の断面曲線を図 5 に示 す の表面粗さ Ra.94μm に対し MGH 加面の表面粗さは Ra と向上した が 十分に小さくはならなかった そこで チタ ンへの加では をより小さくして検 討を進めた 動力計 ベッド 図 3 実験装置 ( 超音波スピンドル ) 前加の 振幅 スピンドル 図 4 コントローラ データレコーダ 最上点最下点
埼玉県産業技術総合センター研究報告第 12 巻 (214) 図 5 断面曲線 ( mm ステンレス鋼 ) また 輪郭形状の結果から MGH 加によっての山部が低くなり 谷部が高くなっていることが分かる このことから 材料はMGH 加によって山部が塑性変形し その一部が谷部を押し上げていると考えられる 3.2 の検討チタンに対する最適なを検討した 加対象物はチタン材の中でも加が難しいとされている純チタンを用いた 加条件を表 2に示す 前加は直径 4mmのボールエンドミルにより行った はX 軸方向に直線運動させ はmmとした MGH 加は直径 4mmのMGH により行った セッティング誤差等の影響を少なくするため 同一ワーク上に複数の加条件でMGH 加を行った X1mm Y2mmの12ヶ所の面にそれぞれ違う条件で加を行った は前加のピッチよりも小さい.2mmからmmまでの範囲で検討した はを1 回の総 と ずつ2 回に分けた総 2μmの2 通りとし 粗さより小さいとした 加面 Y 軸方向の表面粗さを測定した 表面の断面曲線の一例として 図 6に.2mm で加したときの測定結果を示す (a) から (c) へと総が大きくなるに従って 山部は平滑になった また 谷部の幅が狭くなっているこ とから 山部の材料が谷側へ塑性変形したと考え られる と表面粗さの関係を図 7に示す 加 ピッチが小さくなるに従って表面粗さRaが小 さくなった また 総が大きくなるに 従って表面粗 Raが小さくなることも分かった 加後のワーク表面に焼け 凝着が発生してい ないことを目視で確認した 1 回当りの切り込み 量を 程度と小さくすることで焼け 凝着の 発生しないMGH 加が可能であることが分かっ た 表 2 加条件 加対象物 純チタン (TB34) 4mm ボールエンドミル 前 mm mm 加 回転数 3min -1 2mm/min 粗さ 2.1~2.2μmRz 径 4mm MGH 専用 M 振動方法 テーブル G 振動周波数 4kHz 振動振幅約 4μm H を 1 回 ( 総切込量 ) ずつ 2 回 ( 総切込量 2μm) 加.2~mm 回転数 min -1
表面粗さ μmra 表面粗さ μmra 表面粗さ μmra 埼玉県産業技術総合センター研究報告第 12 巻 (214) (a) (b) 総 (c) 総 2μm.4 5 5.1 総 9μmRa 総 2μm.1.2.3.4.6 mm 図 7 と表面粗さの関係.4 5 5.1 8μmRa 2 4 6 mm/min 図 6 断面曲線 (.2mm チタン ) 3.3 加回数の検討加時間に影響の大きいと加回数について検討した はX 軸方向に直線運動させた セッティング誤差等の影響を少なくするため 同一ワーク上に複数の加条件でMGH 加を行った X1mmもしくはX2mm Y2mmの6ヶ所の面にそれぞれ違う条件で加を行った は2mm/minから5mm/minまでの範囲で検討した 加速するために十分な距離を確保するため5mm/minのときだけX2mmと加面積を大きくした 加回数は1 回と5 回の2 通りを検討したと表面粗さの関係を図 8に示す 進行方向に対して垂直となるY 軸方向に測定を行った を小さくするに従って表面粗さも小さくなったが や総に比べると表面粗さに与える影響は小さかった 加回数 1 回の条件 Aに対して を1/5の2mm/minとした条件 B 図 8 と表面粗さの関係 図 9 加回数と表面粗さの関係 と 加回数を 5 倍の 5 回とした条件 C で加した ときの表面粗さを図 9 に示す 条件 B と条件 C は単 位面積当たりの接触回数が条件 A の約 5 倍と 等しくなる 条件 B と条件 C の表面粗さは条件 A より小さくなるが 条件 C の方がより小さくなっ た このことから を小さくするよりも 複数回加した方が表面粗さの向上に有効であっ た.4 5 5.1 加回数 1 回 2mm/min 加回数 1 回 8μmRa 条件 A 条件 B 条件 C 加回数 5 回
埼玉県産業技術総合センター研究報告第 12 巻 (214) 3.4 加潤滑剤の検討 4 まとめ 材料やの焼け 凝着に影響の大きい加 チタン材料に対してMGH 加により焼け 凝 潤滑剤について検討した X3mm Y9mm の面 着の無い鏡面加をすることを目標に 加条件 に MGH で加を行った これまでの検討で 及び加潤滑剤の検討等を行ったところ 下記の 最も表面粗さが小さくなる.2mm 結果を得た 加時間が最短となった 5mm/min と 加対象物を振動テーブルで振動させることで した また 加回数は 3 回とした 総加距離 もMGH 加が可能であることを確認した は 4m 総加面積は 81mm 2 となった MGH 加によっての山部が低くなる 加潤滑剤については潤滑剤無し 水溶性切削 と同時に非常に平滑となり 谷部の幅も減少す 油への浸漬 フッ素系グリス塗布の3 通りの条件 ることが分かった で それぞれ新品のMGH を用いて加を行 1 回のをと小さくすることで った グリスの塗布量は約 mg/mm 2 とした チタン材に対して焼け 凝着の発生しない 加後のワーク表面は全ての条件で鏡面となっ MGH 加が可能となった た 加例として切削油を用いて加した加面 を小さく 総を大きくす を図 1に示す ると表面粗さが小さくなった また 加後の先端の観察結果を図 11に示す 潤 を小さくすると表面粗さが若干小さくなること 滑剤無しでは 若干に変色が生じているが凝 も分かった 着は見られず ワークにも影響が生じていないこ 単位面積あたりの接触回数が同じであれば 加 とから まだ十分にMGH 加が続けられる状態 回数を多くした方が表面粗さは小さくなるこ であった 切削油に浸漬して加したものと グ とが分かった リスをワーク表面に塗布して加したものは 潤 加潤滑剤は無くても十分にMGH 加を行う 滑剤無しに比べて変色が低減し 先端の状態 ことができたが 水溶性切削液やフッ素系グリ がより良好に保たれていることが分かった スを用いると 先端の状態がより良好に保 たれることが分かった 参考文献 図 1 加例 (a) ドライ 1μm MGH 加面 進行方向 1) 堀川直圭, ターヴァイネンさゆり,: 鏡面加方法 鏡面加機 鏡面加, 特許第 54942 号 2) 南部洋平, 落合一裕 : 微細深穴の高品質化に関する研究, 埼玉県産業技術総合センター研究報告,6,(28)97 3) 南部洋平, 落合一裕, 江原和樹 : 微細深穴の高品質化に関する研究 (2), 埼玉県産業技術総合センター研究報告,7,(29)65 本研究は受託研究として実施されたものであ 1μm 1μm (b) 切削油 (c) グリス 図 11 先端観察 り アリューズの許可を得て内容の一部を 掲載するものです