Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

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背景 近年, コンピューター, タブレット, コンタクトレンズなどの使用増加に伴い, 国民の約 10 人に 1 人がドライアイだと言われています ドライアイの防止に必要な涙 ( 涙液 ) は水だけでできていると思われがちですが, 実は脂質層 ( 油層 ), 水層, ムチン層の三層で形成されています

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

平成24年7月x日

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

平成14年度研究報告

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第6号-2/8)最前線(大矢)

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

ン投与を組み合わせた膵島移植手術法を新たに樹立しました 移植後の膵島に十分な栄養血管が構築されるまでの間 移植膵島をしっかりと休めることで 生着率が改善することが明らかとなりました ( 図 1) この新規の膵島移植手術法は 極めてシンプルかつ現実的な治療法であり 臨床現場での今後の普及が期待されます

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

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脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

Microsoft Word - プレスリリース最終版

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ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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News Release 報道関係各位 2015 年 6 月 22 日 アストラゼネカ株式会社 40 代 ~70 代の経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんと 2 型糖尿病治療に従事する医師の意識調査結果 経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんは目標血糖値が達成できていなくても 6 割が治療

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

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インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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ストレスが高尿酸血症の発症に関与するメカニズムを解明 ポイント これまで マウス拘束ストレスモデルの解析で ストレスは内臓脂肪に慢性炎症を引き起こし インスリン抵抗性 血栓症の原因となることを示してきました マウス拘束ストレスモデルの解析を行ったところ ストレスは xanthine oxidored

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

糸球体で濾過されたブドウ糖の約 90% を再吸収するトランスポータである SGLT2 阻害薬は 尿糖排泄を促進し インスリン作用とは独立した血糖降下及び体重減少作用を有する これまでに ストレプトゾトシンによりインスリン分泌能を低下させた糖尿病モデルマウスで SGLT2 阻害薬の脂肪肝改善効果が報告

第12回 代謝統合の破綻 (糖尿病と肥満)

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報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

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2015 年度 SFC 研究所プロジェクト補助 和食に特徴的な植物性 動物性蛋白質の健康予防効果 研究成果報告書 平成 28 年 2 月 29 日 研究代表者 : 渡辺光博 ( 政策 メディア研究科教授 ) 1

エネルギー代謝に関する調査研究

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2011年度版アンチエイジング01.ppt

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

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研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

32 小野啓, 他 は変化を認めなかった (LacZ: 5.1 ± 0.1% vs. LKB1: 5.1 ± 0.1)( 図 6). また, 糖新生の律速酵素である PEPCK, G6Pase, PGC1 α の mrna 量が LKB1 群で有意に減少しており ( それぞれ 0.5 倍,0.8 倍

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

生物時計の安定性の秘密を解明

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見」【岡澤均 教授】

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

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図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

平成 29 年 8 月 4 日 マウス関節軟骨における Hyaluronidase-2 の発現抑制は変形性関節症を進行させる 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 : 門松健治 ) 整形外科学 ( 担当教授石黒直樹 ) の樋口善俊 ( ひぐちよしとし ) 医員 西田佳弘 ( にしだよしひろ )

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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No. 2 2 型糖尿病では 病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります そのため 腸内フローラを適切に維持し 血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です プロバイオティクス飲

研究内容 心不全は 心臓の筋肉が障害されることにより心臓のポンプ機能が低下し 肺や全身の臓器に必要な血液量を送り出すことができない病態です 心不全患者の一部において 左心房の血圧の上昇が肺に血液を送り出す動脈 ( 肺動脈系 ) に影響し 肺動脈の収縮や肥厚 ( リモデリング ) が引き起こされ 肺高

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報道関係者各位 平成 29 年 5 月 2 日 国立大学法人筑波大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 脂肪酸のバランスの異常が糖尿病を引き起こす 研究成果のポイント 1. 糖尿病の発症には脂肪酸のバランスが関与しており このバランスを制御することで糖尿病の発症が抑制されることを明らかにしました 2. 脂肪酸バランスの変化には脂肪酸伸長酵素 Elovl6 が重要な役割を担っており 糖尿病モデルマウスで Elovl6 を欠損させると 膵臓のβ 細胞が増え インスリンの分泌量が増加して血糖値が低下し 糖尿病の発症が抑制されました 3. 脂肪酸バランスの適切な制御や Elovl6 活性の阻害が 糖尿病の予防 治療標的として有用であると考えられます 国立大学法人筑波大学医学医療系島野仁教授 松坂賢准教授らの研究グループは 肥満にともなう糖尿病の発症に脂肪酸伸長酵素 Elovl6を介した脂肪酸バランスの変化が関与していることを発見し Elovl6を阻害することで脂肪酸バランスを改善し 糖尿病の発症を抑制できることを明らかにしました 肥満にともなう脂肪酸代謝の異常や臓器における脂肪酸の過剰蓄積が 糖尿病を引き起こすことはすでに知られていましたが 脂肪酸の質 ( 種類や組成 ) の異常の意義は十分に解明されていませんでした 本研究グループは パルミチン酸 (C16:0) からステアリン酸 (C18:0) への伸長を触媒する酵素 Elovl6に着目し 糖尿病モデルマウスでこの酵素を欠損させると インスリンを産生する膵臓のβ 細胞の量とインスリン分泌が増加し 糖尿病の発症 進展が抑制されることを明らかにしました 本研究成果から Elovl6の阻害や脂肪酸バランスの管理が 糖尿病の治療標的として有用であると考えられます 本研究の成果は 2017 年 5 月 1 日付米国科学誌 Diabetes のオンライン速報版で公開されました * 本研究は 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) の革新的先端研究開発支援事業 (AMED-CREST) 画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明 研究開発領域( 研究開発総括 : 横山信治 ) における研究開発課題 脂肪酸の鎖長を基軸とした疾患の制御機構と医療展開に向けた基盤構築 ( 研究開発代表者 : 島野仁 研究期間 : 平成 27~32 年度 ) 文部科学省科学研究費補助金基盤研究 (B)( 研究代表者 : 松坂賢 研究期間 : 平成 27~29 年度 ) 文部科学省テニュアトラック普及 定着事業 個人選抜型 ( 研究代表者 : 松坂賢 研究期間 : 平成 24~28 年度 ) 公益財団法人日本応用酵素協会研究助成 公益財団法人小野医学研究財団研究助成によって実施されました 1

研究の背景糖尿病の大部分を占める2 型糖尿病の発症と進展には 肥満などによるインスリン抵抗性 ( インスリンが効きにくい状態 ) と それに対する膵臓のβ 細胞 1) の代償性インスリン分泌の破綻 ( 膵 β 細胞機能不全 ) が関与すると考えられています さらに 2 型糖尿病では膵 β 細胞量が減少することが報告されていますが その病態や発症機序は未だ不明な点が多く残されています 肥満にともなう脂肪酸代謝の異常や臓器における脂肪酸の過剰蓄積が糖尿病を引き起こすことは 脂肪毒性 という概念として提唱されていますが 脂肪毒性における脂肪酸の質 ( 種類や組成 ) の意義は十分に解明されていませんでした 本研究グループはこれまでに 過栄養が生活習慣病を引き起こすメカニズムを 脂肪酸合成系に着目して研究し パルミチン酸 (C16:0) からステアリン酸 (C18:0) への伸長を触媒する酵素 Elovl6( 図 1) が過栄養状態で活性化すること ( 文献 1) や Elovl6を欠損させたマウスでは脂肪酸の組成が変化し 肥満や脂肪肝のままでもインスリン抵抗性を発症しにくいことを示していました ( 文献 2) しかし Elovl6の阻害が2 型糖尿病の発症を抑制するかどうかについては明らかにされておりませんでした 研究内容と成果本研究では 肥満 2 型糖尿病モデルマウス (db/dbマウス) においてElovl6を欠損させると 肥満には影響されずに高血糖と耐糖能異常が改善されることを明らかにしました ( 図 2) Elovl6 欠損 db/dbマウスでは膵 β 細胞の増殖の亢進とアポトーシス 2) の減少により膵 β 細胞量が著明に増加し ( 図 3) インスリン分泌量が増大するために 血糖値が低下しました db/dbマウスに比べて Elovl6 欠損 db/dbマウスの膵臓ランゲルハンス島では オレイン酸 (C18:1n-9) とトリグリセリド 3) の蓄積が減少し 膵 β 細胞の減少を引き起こすとされている炎症と小胞体ストレス 4) が抑制されました ( 図 4) さらに 野生型マウスとElovl6 欠損マウスから単離した膵臓ランゲルハンス島に脂肪酸をふりかけた解析により オレイン酸 (C18:1n-9) が膵 β 細胞のインスリン含量やグルコースに応答したインスリン分泌能を減少させること またパルミチン酸 (C16:0) により引き起こされる膵 β 細胞の炎症 小胞体ストレス アポトーシスが Elovl6の欠損により抑制されることを明らかにしました ( 図 4) したがって Elovl6の阻害は インスリン分泌を抑制するオレイン酸の過剰蓄積を抑制することと パルミチン酸による脂肪毒性を軽減することにより 肥満にともなう代償性インスリン分泌を維持し 糖尿病を予防 改善すると考えられます 今後の展開今回の研究成果は Elovl6 の発現や活性の変化が肥満にともなう膵 β 細胞量の調節に重要であることを示しています このことから Elovl6 の阻害や脂肪酸の質の管理による 糖尿病の新しい予防法 治療法の開発が期待されます 2

参考図 図 1. 脂肪酸伸長酵素 Elovl6 の機能 Elovl6 は 炭素数 16 の脂肪酸 [ パルミチン酸 (C16:0) とパルミトオレイン酸 (C16:1n-7)] から炭素数 18 の脂肪酸 [ ステアリン酸 (C18:0) バクセン酸(C18:1n-7) オレイン酸(C18:1n-9)] を合成する際に重要な脂肪酸伸長酵素である.SCD: stearoyl-coa desaturase ( 脂肪酸に二重結合を導入する酵素 ) 図 2. 肥満 2 型糖尿病モデルマウス (db/db マウス ) において Elovl6 を欠損させたマウス (Elovl6 欠損 db/db マウ ス ) の血糖値 ( 左 ) ヘモグロビン A1c( 糖尿病の指標 中央 ) 血中インスリン値 ( 右 ). 図 3. 正常マウス ( 左 ) db/db マウス ( 中央 ) Elovl6 欠損 db/db マウス ( 右 ) の膵臓ランゲルハンス島の免疫染色 像.db/db マウスに比べて Elovl6 欠損 db/db マウスの膵臓ランゲルハンス島ではインスリンを合成 分泌する β 細胞 ( 緑 ) の量が増加している. 3

図 4. 本研究で明らかになった Elovl6 を介した脂肪酸バランスの変化が糖尿病を引き起こす仕組み. 用語解説注 1) β 細胞膵臓ランゲルハンス島にあり インスリンを合成 分泌する細胞. 注 2) アポトーシス細胞死の1つであり 生体の必要に応じた細胞死や生体がその細胞を死に至らせる場合などの細胞死. 注 3) トリグリセリド 1 分子のグリセリンが脂肪酸 3 分子と結合してエステル化された脂質で 中性脂肪ともいう. 注 4) 小胞体ストレス高次構造の異常なタンパク質や正常な修飾を受けていないタンパク質が小胞体内腔に蓄積し それにより細胞への悪影響 ( ストレス ) が生じること. 細胞はこのストレスを回避し 正常な生理機能を維持する仕組みが備わっている 小胞体ストレス応答が正常に機能しない場合や過度の小胞体ストレスが負荷された場合 アポトーシスにより細胞は死に至る. 参考文献 1. Matsuzaka T, et al. J Lipid Res. 43(6):911-20, 2002. 2. Matsuzaka T, et al. Nat Med. 13(10):1193-202, 2007. 掲載論文 題名 Elovl6 deficiency improves glycemic control in diabetic db/db mice by expanding β-cell mass and increasing insulin secretory capacity (Elovl6 の欠損は糖尿病モデル db/db マウスにおいてベータ細胞量とインスリン分泌能を増大させることで血糖コントロールを改善する ) 著者名 趙会 松坂賢 中野雄太 本村香織 唐寧 横尾友隆 岡島由佳 韓松伊 武内謙憲 會田雄一 岩崎仁 矢藤繁 鈴木浩明 関谷元博 矢作直也 中川嘉 曽根博仁 山田信博 島野仁 掲載誌 Diabetes 4

問合わせ先 島野仁 ( しまのひとし ) 筑波大学医学医療系内分泌代謝 糖尿病内科教授 松坂賢 ( まつざかたかし ) 筑波大学医学医療系内分泌代謝 糖尿病内科准教授 <AMED に関すること> 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 基盤研究事業部研究企画課 TEL:03-6870-2224 FAX:03-6870-2243 E-mail: kenkyuk-ask@amed.go.jp 5