平成 19 年 (27 年 )9 月 27 日 NO.27-12 足元の金融市場の動揺が わが国の 貯蓄から投資 に与える影響について ~ 相場下落が長引けば要注意だが 現時点では影響は軽微 7 月下旬以降 米国のサブプライムローン問題を機に世界の金融市場が大きく動揺した わが国において 貯蓄から投資へ の流れが本格的に進展し 個人金融資産に占めるリスク性資産の割合が徐々に高まるなか 個人がこうした相場変動によって受ける影響はこれまでにも増して大きくなっている そこで 足元の金融市場の動揺が わが国における 貯蓄から投資へ の流れにどのような影響を与えているのか 考察してみた 1. 価格下落の下でも続いたリスク性資産への資金流入 7 月下旬以降の相場の変動によって わが国の個人投資家が保有するリスク性資産のほとんどが価格下落に見舞われた 国内株式 ( 東証株価指数 ) はピーク時から最大で 13% 下落したほか 海外の株式 債券への投資も 円ドル相場の変動 ( 最大 8% の円高進行 ) もあって 円換算後のベースでみて海外株式は最大 18% 海外債券は最大 7% の調整を余儀なくされた ( 次頁第 1 図 ) ごく足元では FRB( 米国連邦制度準備理事会 ) による大幅利下げが市場で好感され内外金融市場の動揺は幾分沈静化しているが 国内株式 海外株式 海外債券いずれの資産についても 今回の相場下落前の水準を依然として回復し切れていない 1
( 相場ピーク時 = 1) 第 1 図 : 内外の相場環境の推移 1 95 9 85 海外債券 ( 円換算後 ) 海外株式 ( 円換算後 ) 国内株式 海外債券 ( 円換算後 ): ピーク時から 2% ( ボトム時には 7% を記録 ) 海外株式 ( 円換算後 ): ピーク時から 6% ( ボトム時には 18% を記録 ) 国内株式 : ピーク時から 1% ( ボトム時には 17% を記録 ) 8 7/4 7/5 7/6 7/7 7/8 7/9 ( 注 ) 用いた指標は以下 海外指数については 円換算後のベース 海外債券 =シティグループ世界国債インデックス ( 除く日本 ) 海外株式 =MSCI 世界株価指数 ( 除く日本 ) 国内株式 =TOPIX( 東証株価指数 ) ( 資料 )Bloombergより三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 しかし こうした逆風下にあっても リスク性資産への資金流入は堅調に推移し わが国の 貯蓄から投資へ の流れに目立った変化はみられなかった ( 注実際 資産価格が急落した 8 月分の資金流入状況をみると 株式投資信託 1) には 1 兆円を上回る流入がみられたし ( 第 2 図 ) 国内株式市場でも個人が久方ぶりの大幅買い越しに転じた ( 次頁第 3 図 ) ( 注 1) ここでいう 株式投資信託 には 海外の債券に投資するタイプのものも含まれている ( 億円 ) 2, 第 2 図 : 投資信託への資金流入 18, 16, 14, 12, 1, 8, 6, 4, 2, -2, 1/8 2/2 2/8 3/2 3/8 4/2 4/8 5/2 5/8 6/2 6/8 7/2 7/8 ( 注 )ETF 以外の株式投資信託への資金流入額 ( 資料 ) 投資信託協会資料より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 2
( 億円 ) 6, 5, 4, 第 3 図 : 国内株式市場における個人の買い越し額 ( 年初以降 ) ( 円 ) 個人の買い越し額 ( 左目盛 ) 18,5 18, 3, 2, 17,5 1, 17, -1, -2, 16,5-3, -4, 16, 1Ⅰ 1Ⅲ 1Ⅴ 2Ⅱ 2Ⅳ 3Ⅱ 3Ⅳ 4Ⅱ 4Ⅳ 5Ⅱ 5Ⅳ 6Ⅰ 6Ⅲ 7Ⅰ 7Ⅲ 8Ⅰ 8Ⅲ 8Ⅴ 9Ⅱ ( 注 ) 個人の買い越し額は3 週移動平均 投信経由での買い越しは除く ( 月 / 週 ) ( 資料 ) 東証 投資部門別売買動向 より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 2. 資金流入持続の背景 (1) 個人投資家特有の 押し目買い スタンス 価格下落の下でもリスク性資産への資金流入が続いた要因の一つに 価格下 落直後は 直近高値との対比で相場が割安にみえるため 個人が追加投資に踏 み切る傾向 ( いわゆる 押し目買い ) が強いことが挙げられる 第 4 図 次頁 第 5 図は 個人や投信によるリスク性資産の売買状況をみたものだが いずれ も株価が大きく下落したタイミングで 個人 投信経由での資金流入が膨らん でいるのがわかる ( 億円 ) 1, 8, 6, 4, 2, -2, -4, 第 4 図 : 個人 投信による日本株の買い越し状況 (21 年以前 ) バブル崩壊前後 買い越し額 ( 左目盛 ) ( 円 )( 億円 ) 4, 5, 38, 36, 34, 32, 3, 28, 26, 24, 22, 4, 3, 2, 1, -1, IT バブル崩壊前後 買い越し額 ( 左目盛 ) ( 円 ) 21, -6, 2, -2, 9, 89/4 89/7 89/1 9/1 9/4 9/7 9/1 91/1 99/4 99/8 99/12 /4 /8 /12 1/4 1/8 1/12 ( 注 ) 上記の2つの局面では 個人投資家のリスク性資産投資は日本株が大半 (9 割前後 ) であったため 日本株の買い越し状況をもってリスク性資産への投資とした ( 資料 ) 東証 投資部門別売買状況 日本経済新聞社公表データより三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 19, 17, 15, 13, 11, 3
( 億円 ) 3, 25, 2, 15, 1, 5, 第 5 図 : 株式 投信への資金流入額 (26 年以降 ) 資金流入額 ( 左目盛 ) ( 円 ) 18,5 18, 17,5 17, 16,5 16, 15,5 15, -5, 14,5 6/1 6/3 6/5 6/7 6/9 6/11 7/1 7/3 7/5 7/7 ( 注 ) 国内株式の個人買い越し額 + 投資信託 ( 国内だけでなく海外に投資するものも含む ただし ETFを除く ) への資金流入額の合計 足元では 個人投資家の海外投資が活発化しているため 海外投資分もリスク性資産への投資に含めた ( 資料 ) 東証 投資家別株式売買状況 投資信託協会 投資信託 より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 (2) 良好な相場環境が 貯蓄から投資へ の裾野拡大を後押し加えて 個人の資産運用において収益性を重視する傾向が徐々に高まり リスク性資産投資の裾野が拡大していることも 活発な資金流入の大きな要因だ なかでも 5 歳以上の世代で収益性志向が強まっており この世代が実際にリスク性資産への投資に踏み切ったことが 貯蓄から投資へ を大きく進展させている ( 第 6 図 ) 第 6 図 : リスク性資産投資に対する個人のスタンス (%) 金融資産運用において収益性を重視する層の比率 (%) リスク性資産保有比率 2 22 19 18 17 4 歳代以下 5 歳代以上 2 18 4 歳代以下 5 歳代以上 16 15 16 14 14 13 12 12 11 1 2 21 22 23 24 25 26 2 21 22 23 24 25 26 ( 年 ) ( 年 ) ( 資料 ) 金融広報中央委員会 家計の金融資産に関する世論調査 より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 4
こうした裾野拡大の背景には 24 年以降 リスク性資産の時価変動による損益が 投資のタイミングを問わずほとんどの場合でプラスだったことが大きく影響している ( 第 7 図 ) 1 国内経済が安定成長を辿り わが国株価に目立った下落がなかった 2 個人投資家による海外投資が増加し 円安の進行や世界の株高の恩恵を享受できた ためだ 特に 5 歳以上の世代は若年層と比べて相対的に金融資産保有額が大きく 一方で日銀による低金利政策のもと 預金金利が低位で推移していたため 収益性志向が強くなりやすかったとみられる こうしたもとで リスク性資産投資はバブル期以来の良好な収益環境にあったため その分 投資家のマインドが積極化しやすかったといえよう (%) 第 7 図 : 個人のリスク性資産投資における年間損益率 6 4 2-2 -4 81 82 83 84 85 86 87 88 89 9 91 92 93 94 95 96 97 98 99 1 2 3 4 5 6 7 ( 年 ) ( 注 ) 海外株式 海外債券 国内株式の3つの資産の年間収益率がインデックスの動きと同じと仮定し 当室にて推計した3 資産毎の個人の保有金額に応じてウェイト付けしたもの ( 資料 )Bloombergデータより三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 なお 銀行による投資信託販売が本格化し 投資チャネルが多様化したことも 裾野拡大に果たした意義は大きい ただし 41K( 確定拠出年金 ) やIRA ( 個人退職勘定 ) など 税制上の優遇措置を伴う様々なルートを通じてリスク ( 注 2) 性資産に資金が流入している米国と比べると わが国ではこうした安定的な流入パイプ構築に向けての制度整備は依然として発展途上の段階だ このため 貯蓄から投資へ の動きは 市場環境次第の面が大きいといえよう ( 注 2) 米国では 家計の投信保有残高のうち 41K と IRA を通じた分が 4 割近くを占めるに至っている 5
3. 今後の先行き ~ 当面は堅調推移 ただし 相場の調整が長引けば要注意 当面は 貯蓄から投資へ の動きは堅調に推移しよう まず 大前提となる相場環境については 株安 円高が再燃 長期化する可能性は現時点では限定的とみられる 1 米国経済減速の影響を その他の地域がカバーすることで 世界経済の高成長が続く 2わが国では企業収益との対比で株価をみると割安感が強まっており ファンダメンタルズの面からはこれ以上の下落余地が小さくなっている 3 海外への投資収益を大きく変動させる為替相場についても 引き続き海外との金利差が続くとみられることに加え 積み上がっていた投機筋の円売りポジション解消の動きがほぼ一巡したことで 投機的な要因で円高が進行する余地が小さくなってきている ためである ( 第 8 図 ) こうした相場展開を前提とした場合 前述のように (1) 短期的な相場の調整は 個人投資家にとっては 押し目買い のチャンスとなる (2) 投資家の裾野が広がっている といった点を踏まえれば 貯蓄から投資への流れが目先に変調をきたす可能性は小さいだろう ( 前年比 %) 6 世界経済の成長率の推移 ( 倍 ) 33 第 8 図 : 経済 金融市場の特徴予想 PER( 株価収益率 ) の推移 ( 万枚 ) 2 シカゴ通貨先物における投機筋の円売りポジション ( 円 / ドル ) 125 5 4 3 2 19 割 1 17 安 15 91 93 95 97 99 1 3 5 7 3/9 4/3 4/9 5/3 5/9 6/3 6/9 7/3 7/9 ( 注 )27 年 28 年は経済調査室見通し ( 年 ) ( 注 )PER= 株価 / 一株当たり予想収益 ( 一部地域はIMFの見通しを使用 ) 対象は東証一部上場銘柄 ( 資料 )IMF World Economic Outlook より ( 資料 ) 日本経済新聞社公表データより 三菱東京 UFJ 銀行経済調査室 三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 31 29 27 25 23 21 割 高 15 1 5-5 -1 ポジ円ショ売りン ポジ円ショ買いン 投機筋のポジション ( 円買い ) 円ドル相場 ( 右目盛 ) 12 115 11 15 1 4/11 5/3 5/8 5/12 6/5 6/1 7/2 7/7 ( 資料 )CFTC 公表データより三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成 ただし 先般の FRB による大幅利下げにもかかわらず ファンドの破綻や欧米投資銀行の格下げなどを通じ世界的な信用収縮が拡大 世界経済のファンダメンタルズにも波及してくれば 相場の調整が長引く虞がある この場合は いったん 貯蓄から投資へ の動きが足踏みする可能性が大きい 前掲第 4 図からも明らかな通り 199 年のバブル崩壊や 2 年の IT バブル崩壊の際の株価急落時にも 3~6 ヵ月程度は個人 投信による押し目買いがみられたが その後はこうした動きが影を潜めた 今回局面では確かに個人投資家の裾野が拡大しているとはいえ その背景に良好な相場環境があった点を踏まえると 相 6
場が長期低迷局面に入ってしまえば裾野拡大の動きそのものが鈍りかねない こうしてみると 貯蓄から投資へ の動きは 依然として市場環境に左右さ れる面も大きく 当面の市場の動きから目が離せない 以 上 (H19.9.27 森祥人 ) 当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり 何らかの行動を勧誘するものではありません ご利用に関しては すべてお客様御自身でご判断下さいますよう 宜しくお願い申し上げます 当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが 当室はその正確性を保証するものではありません 内容は予告なしに変更することがありますので 予めご了承下さい また 当資料は著作物であり 著作権法により保護されております 全文または一部を転載する場合は出所を明記してください 発行 : 株式会社三菱東京 UFJ 銀行経済調査室 1-8388 東京都千代田区丸の内 2-7-1 7