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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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学位論文の要約

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研究成果報告書

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

漢方薬

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研究成果報告書

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 22 年 6 月 16 日現在 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :2008~2009 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) 心臓副交感神経の正常発生と分布に必須の因子に関する研究 研究課題名 ( 英文 )Researc

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 21 年 6 月 2 日現在 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :26 ~ 28 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) 炭酸ガスおよび半導体レーザーによるオーラルアンチエイジング 研究課題名 ( 英文 ) Oral an

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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消化性潰瘍(扉ページ)

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

第6号-2/8)最前線(大矢)

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

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研究成果報告書

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

論文の内容の要旨

研究成果報告書

インプラント周囲炎を惹起してから 1 ヶ月毎に 4 ヶ月間 放射線学的周囲骨レベル probing depth clinical attachment level modified gingival index を測定した 実験 2: インプラント周囲炎の進行状況の評価結紮線によってインプラント周囲

ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

報道発表資料 2001 年 3 月 8 日 独立行政法人理化学研究所 脳内の食欲をつかさどるメカニズムの一端を解明 - ムスカリン性受容体欠損マウスはいつでも腹八分目 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 脳の食欲をつかさどる情報伝達にはムスカリン性受容体が必須であることを世界で初めて発見し

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一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

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平成24年7月x日

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

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生物時計の安定性の秘密を解明

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博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

研究成果報告書

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

患者 ID: 氏名 : ピロリ菌外来説明文書 1. ピロリ菌はいつ誰によって発見されたのでしょうかピロリ菌はオーストラリアのウォレンとマーシャルによって 1983 年ヒトの胃の中から発見されました その後 ピロリ菌がヒトの胃に与える様々な影響が解明

ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

様式F-19 記入例・作成上の注意

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

スイッチ OTC 医薬品の候補となる成分についての要望 に対する見解 1. 要望内容に関連する事項 組織名日本消化器病学会 要望番号 H28-11 H28-12 H28-16 成分名 ( 一般名 ) オメプラゾール ランソプラゾール ラベプラゾールオメプラゾール : 胸やけ ( 胃酸の逆流 ) 胃痛

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

Powered by TCPDF ( Title 非アルコール性脂肪肝 (NAFLD) 発症に関わる免疫学的検討 Sub Title The role of immune system to non-alcoholic fatty liver disease Author

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

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様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 23 年 5 月 9 日現在 機関番号 :13701 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :2008 ~ 2010 課題番号 :20780206 研究課題名 ( 和文 ) 胃食道逆流症モデル動物における食道運動の解析研究課題名 ( 英文 ) Studies on the esophageal motility in the gastroesophageal reflux disease-model animals 研究代表者椎名貴彦 (SHIINA TAKAHIKO) 岐阜大学 応用生物科学部 准教授研究者番号 :90362178 研究成果の概要 ( 和文 ): 胃食道逆流症の病態と発症機序を解明する基礎的研究として 嘔吐する実験動物であるスンクスを新たなモデル動物と位置づけて その食道運動の制御機構を解析した スンクス食道筋層は横紋筋で構成されていること 横紋筋運動は外来神経 ( 迷走 ) と内在神経によって制御されていることを明らかにした さらに 食道運動を制御する神経系は逆流した酸によって活性化され 食道運動を異常化させる可能性を示した 今後 スンクスを用いることにより 胃食道逆流症に関する研究がさらに発展することが期待される 研究成果の概要 ( 英文 ): To clarify the pathogenesis of Gastroesophageal reflux disease (GERD), the esophageal motility control in the house musk shrew (Suncus murinus), which is a new GERD-model animal. Morphological studies revealed that the inner and outer muscle layers of the shrew esophagus are entirely composed of the striated muscles. Functional examinations indicated that the esophageal motility in the shrew is regulated by both extrinsic (vagal) and intrinsic neurons. Reflux of acids might activate the esophageal neurons and then alter the motor activity. Future research using the shrew will explore issues of GERD further. 交付決定額 ( 金額単位 : 円 ) 直接経費 間接経費 合計 2008 年度 1,200,000 360,000 1,560,000 2009 年度 1,200,000 360,000 1,560,000 2010 年度 800,000 240,000 1,040,000 年度年度総計 3,200,000 960,000 4,160,000 研究分野 : 獣医生理学科研費の分科 細目 : 畜産学 獣医学 基礎獣医学 基礎畜産学キーワード : 食道胃食道逆流症疾患モデル神経横紋筋 1. 研究開始当初の背景食道は 消化管の入り口にあたり 摂取した食物を蠕動運動によって胃へと運ぶ器官である そのため 食道の機能異常をもたらす疾患は 食物の摂取を妨げる原因 となり 健全な食生活を送る上で 大きなデメリットとなる 食道疾患の病態の解明と治療法の開発は 生活の質 (QOL) の向上にとって 非常に重要である 食道疾患には 食道狭窄 嚥下障害 ア

カラシア 巨大食道症 食道がんなど 様々なものがある それらの中で ヒトやコンパニオンアニマルで多く発生するようになり 問題となっている疾患のひとつが 胃食道逆流症 (Gastroesophageal Reflux Disease;GERD) である GERD は 胃内容物が頻回に食道内に逆流 もしくは食道内に長時間滞留することによって起こる疾患の総称である 胃内容物の食道内への逆流が起こる要因はいくつか考えられる ひとつは 胃液 ( 酸 ) 分泌の亢進である ふたつめは 食道と胃の境界に存在する下部食道括約筋 (LES) の機能不全である 胃内容物の逆流は LES が収縮することによって阻止されているが この括約筋の収縮力が低下することによって胃内容物の逆流が容易になってしまう 3 つめは 食道クリアランスの低下である 胃内容物の逆流は生理的にも起こることがあるが その際には 下部食道の蠕動や 食道腺からの分泌物 唾液によって胃内容物を食道から胃に 押し戻す この機能が低下することで 胃内容物の頻回の逆流や停滞が起こることがある すなわち GERD が起こる背景には 胃酸過多といった胃内容物そのものの増加に加えて 食道運動の異常 があげられる また GERD は 従来 胃酸が食道粘膜を物理的に刺激することで下部食道にびらん潰瘍性病変が生じる疾患 ( いわゆる 逆流性食道炎 ) と単純に考えられてきた しかし 明瞭な肉眼病変がないにも関わらず 酸に対する高い感受性を示す 非びらん型 逆流症が報告され これは 食道粘膜上に分布する知覚神経の異常過敏 が疑われる すなわち GERD には 胃酸の逆流に加えて 食道を支配する神経系の異常 も関与する可能性がある GERD の病態は 実際の GERD 患者を調べた臨床研究から説明しているものがほとんどであり GERD 患者で見られる LES や食道神経系の 異常 が GERD の原因なのか それとも結果なのか 実はよくわかっていない また 食道炎の症状が進行するのに従って 食道運動や知覚神経の反応性がどのように変化していくのか ( 経過 ) も明らかでない さらに 正常な哺乳動物の食道運動および神経系に対して胃内容物の逆流がどのような影響を与えるのかを検討した研究もほとんど見当たらない すなわち 発症機序を明らかにするための基礎的な研究は非常に少ないと言える 2. 研究の目的以上の背景を踏まえて 本研究では 食 道運動とそれを制御する筋細胞および神経系の機能に注目して GERD の病態や発症機序解明の基礎的知見を得ることを目的とした まず 胃液の主成分である酸に暴露された食道筋の運動および神経系の反応を解析することで 胃内容物の逆流が食道機能に与える影響を調べた さらに本研究では 新たな GERD 疾患モデル動物の確立も目指した 現在汎用されているラットやマウスなどのげっ歯類は ヒトやイヌ ネコと異なり 嘔吐しないという特徴がある そのため げっ歯類を用いた従来の実験を疑問視する研究者もいる 嘔吐現象と胃内容物の逆流には関係があることは容易に予想できるため GERD の病態解明や治療法の開発には 嘔吐する実験動物を応用することが有利であると考えられる そこで 本研究では 生理的に嘔吐する能力を持つ実験動物として知られるスンクス ( ジャコウネズミ ) を新たな GERD モデル動物として位置づけ その食道運動の制御機構を調べることも目的とした 3. 研究の方法 (1) 食道運動の in vitro (ex vivo) 記録法実験動物から食道を摘出し 図 1 に示したような実験装置に食道をセットした 食道を支配する迷走神経を電気刺激して食道標本の収縮運動を惹起させ この運動を記録した 薬物投与前後で食道運動がどのように変化 ( 増強または抑制 ) するのかを調べた そうすることによって 酸暴露による食道の運動性の変化を同定した また 様々な神経伝達物質の阻害薬や促進薬を用いることにより 食道運動の制御機構に関与する神経系を解明した (2) 組織学的検索 HE 染色によって食道筋層の構造を解析した また 免疫染色を行うことで 食道を支配する神経系を同定した

4. 研究成果 唆している 研究の主な成果 (1) 酸暴露の食道運動機能に対する影響胃内容物成分の急性暴露モデルとして 摘出食道標本への酸暴露を試みた ラットおよびマウスから食道を摘出し 食道を支配する迷走神経を電気刺激して食道標本の収縮運動を惹起させた 胃内容物の逆流を想定して 食道へ酸性緩衝液を投与したところ まず 食道運動の抑制反応が引き起こされた さらに 強酸性条件下では 食道筋の収縮反応が誘発された この結果は 酸は食道運動の異常化を誘導することを示唆しており 胃食道逆流症の症例で見られる食道運動不全の一因であることが考えられる (2) 新たな GERD モデル動物における食道運動の制御機構の解明嘔吐する実験動物として知られるスンクスを新たな GERD モデル動物と位置づけ その食道運動を制御する仕組みを形態学的および機能学的に解析した 1 スンクス食道の形態学的特徴 HE 染色および免疫染色により スンクス食道の筋細胞および神経系を形態学的に解析した スンクスの食道は ラットやマウスと同じく横紋筋で構成されていること 食道筋は迷走神経の支配を受けていること さらに 主な神経伝達物質としてアセチルコリンを用いていることを形態学的に明らかにした ( 図 2) 2 スンクスの食道運動を支配する神経系図 1 に示したような実験系を用いて スンクスの食道運動に関わる神経成分を調べた スンクス食道に分布する迷走神経を電気刺激したところ 食道標本の収縮運動が惹起された この反応は 神経筋接合部の遮断薬で阻害された ( 図 3) この結果は スンクス食道筋は 迷走運動神経によって支配されていることを示 3 スンクスの食道筋細胞の特性スンクスの食道筋は 形態学的に横紋筋であり この特徴は ラットやマウスと類似していた 一般的に 横紋筋の収縮反応は 神経筋接合部の遮断薬である d- ツボクラリンで容易に阻害できる しかしながら スンクス食道横紋筋の収縮反応性は ラットやマウスにおける有効濃度の d- ツボクラリンでは阻害されなかった ( 図 3) これは スンクス食道筋細胞上の受容体の薬理学的特徴が ラットやマウスとは異なっていることを意味しており スンクス食道筋細胞の種特異性が示唆された 4 スンクスの食道運動に対する感覚神経刺激薬の効果スンクスの食道運動を制御する神経成分 特に胃食道逆流に関わる神経回路について調べた 迷走神経を電気刺激したところ 食道標本の収縮運動が惹起された この収縮反応は 感覚神経の刺激薬であるカプサイシンによって抑制された カプサイシンは酸と共通の受容体を活性化することから スンクス食道には 逆流した酸の食道への暴露によって運動を減弱させる神経回路が存在する可能性が示唆された 5 食道運動の制御系に関与する抑制性神経成分消化管運動における主な抑制性神経伝達物質である一酸化窒素 (NO) が 前述した神経回路 ( 結果 4) に関わると予想して 薬理学的実験を行った NO 合成酵素の阻害薬をあらかじめ処置しておいたところ カプサイシンによる抑制効果が減弱した このことは スンクス食道運動は NO 作動性神経による制御を受けており 逆流した酸が NO 神経を活性化して 食道運動を異常化す

る可能性が示唆された 得られた成果の国内外における位置づけとインパクト本研究により 嘔吐する実験動物であるスンクスの食道運動の基本的な制御機構が解明された ラットやマウスといったげっ歯類 ( 嘔吐できない ) 以外の動物において食道実験系を確立したインパクトは大きい また スンクスは GERD のみならず 他の食道疾患のモデル動物となる可能性も秘めており 国内外の食道 ( 疾患 ) 研究の発展に寄与できると思われる 今後の展望スンクスを用いることにより GERD の発症機序や病態に関する研究がさらに発展することが期待される このことは 食道運動や神経系をターゲットとした新たな GERD 治療法の開発にも貢献するものである 5. 主な発表論文等 ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者には下線 ) 雑誌論文 ( 計 6 件 ) (1) Boudaka, A., Wörl, J., Shiina, T., Shimizu, Y., Takewaki, T., and Neuhuber, W.L.: Galanin modulates vagally induced contractions in the mouse esophagus. Neurogastroenterol. Motil. 21: 180-188, 2009 査読有 (2) Hempfling, C., Seibold, R., Shiina, T., Heimler, W., Neuhuber, W.L., Wörl, J.: Enteric co-innervation of esophageal striated muscle fibers: A phylogenetic study. Auton. Neurosci. 151: 135-141, 2009 査読有 (3) Shiina, T., Shima, T., Hirayama, H., Kuramoto, H., Takewaki, T. and Shimizu, Y.: Contractile responses induced by physalaemin, an analogue of substance P, in the rat esophagus. Eur. J. Pharmacol. 628: 202-206, 2010 査読有 (4) Shiina, T., Shima, T., Masuda, K., Hirayama, H., Iwami, M., Takewaki, T., Kuramoto, H., Shimizu, Y.: Contractile properties of esophageal striated muscle: comparison with cardiac and skeletal muscles in rats. J. Biomed. Biotech. vol. 2010, Article ID 459789, 7 pages, 2010 査読有 (5) Shiina, T., Shima, T., Wörl, J., Neuhuber, W.L., Shimizu, Y.: The neural regulation of the mammalian esophageal motility and its implication for esophageal diseases (review). Pathophysiology. 17: 129-133, 2010 査読有 (6) Iwami, M., Shiina, T., Hirayama, H., Shima, T., Takewaki, T., Shimizu Y.: Inhibitory effects of zingerone, a pungent component of Zingiber officinale Roscoe, on colonic motility in rats. J. Nat. Med. 65: 89-94, 2011 査読有 学会発表 ( 計 12 件 ) (1) 椎名貴彦, 嶋剛士, バウダカアッマール, 武脇義, 志水泰武 : ラット食道粘膜筋板平滑筋の収縮を制御する神経伝達物質. 第 55 回中部日本生理学会大会 ( 愛知 ), 2008 (2) 椎名貴彦, 嶋剛士, 武脇義, 志水泰武 : ラット食道運動におけるカプサイシン感受性神経の役割. 第 19 回日本病態生理学会大会 ( 埼玉 ), 2009 (3) Shiina, T., Shima, T., Hirayama, H., Boudaka, A., Wörl, J., Neuhuber, W.L., Takewaki, T. and Shimizu, Y.: Modulatory actions of tachykinins on the striated and smooth muscle motility in the rat esophagus. The XXXVI International Congress of Physiological Sciences (IUPS2009) (Kyoto, Japan), 2009 (4) Shiina, T., Wörl, J., Neuhuber, W.L., Shima, T., Takewaki, T. and Shimizu, Y.: Neuronal regulation of the esophageal motility in Suncus murinus (a house musk shrew). 6th Congress of the International Society for Autonomic Neuroscience (ISAN 2009) (Sydney, Australia), 2009 (5) 椎名貴彦,Jurgen Wörl, 平山晴子, 嶋剛士,Winfried Neuhuber, 武脇義, 志水泰武 : スンクス (Suncus murinus) 食道運動における神経性制御. 第 148 回日本獣医学会学術集会 ( 鳥取 ), 2009 (6) 椎名貴彦, 平山晴子, 嶋剛士, 志水泰武 : 嘔吐する小型実験動物スンクスの食道筋構造と神経支配. 第 20 回日本病態生理学会大会 ( 奈良 ), 2010 (7) 椎名貴彦, 嶋剛士, 藏本博史, 武脇義, 志水泰武 : スンクス食道の形態学的および薬理学的特徴. 第 82 回日本薬理学会年会 ( 大阪 ), 2010 (8) 椎名貴彦, 武脇義, 志水泰武 : ラット食道横紋筋の収縮特性および内在神経系による運動調節機構. 第 149 回日本獣医学会学術集会 ( 東京 ), 2010 (9) 椎名貴彦, 中森智昭, 平山晴子, 嶋剛士,

藏本博史, 志水泰武 : 新生子ラット食道筋に対する神経支配および収縮制御機構. 第 87 回日本生理学会大会 ( 盛岡 ), 2010 (10) 椎名貴彦, Jürgen Wörl, Winfried Neuhuber, 嶋剛士, 志水泰武 : ハムスター食道横紋筋における神経筋接合部の形態および機能的特徴. 第 150 回日本獣医学会学術集会 ( 帯広 ), 2010 (11) 椎名貴彦 : 嘔吐する小型実験動物スンク ス (Suncus murinus) の食道の特徴日本病態生理学会第 2 回サテライトセミナー ( 神戸 ),2011 (12) 椎名貴彦, 嶋剛士, 藏本博史, 志水泰武 : 局所神経経路によるラット食道横紋筋運動に対する抑制性制御第 88 回日本生理学会大会 ( 誌上にて開催 ),2011 6. 研究組織 (1) 研究代表者椎名貴彦 (SHIINA TAKAHIKO) 岐阜大学 応用生物科学部 准教授研究者番号 :90362178 (2) 研究分担者 ( ) 研究者番号 : (3) 連携研究者 ( ) 研究者番号 : その他 ホームページ等 http://www1.gifu-u.ac.jp/~yshimizu/phys iology/top_page.html