道総研畜産試験場生物工学 G 第 58 号 2018.10.31 [Since1991.4.] TOPICS 藤井研職 日本繁殖生物学会に参加 優秀論文賞受賞 森安主幹と吉野研職 中国青海省でヤクの繁殖指導 秋山主任 受精卵移植師免許を取得 森安主幹 日本胚移植技術研究会に参加 内藤主査 北海道畜産草地学会に参加 Others 今年も 8 月 3 日に畜産試験場公開デーを開催しました Topic1 藤井研究職員 日本繁殖生物学会に参加し JRD 優秀論文賞受賞 Award! 平成 30 年 9 月 13~15 日に開催された第 111 回日本繁殖生物学会大会に参加してきました 今回の開催地は長野県上田市にある信州大学繊維学部 上田市と言えば 大河ドラマ 真田丸 の舞台として有名ですね 駅周辺には 上田城跡公園などたくさんの観光スポットがありました 畜試からは ウシ精子におけるアクアポリン3および7の発現 局在と凍結融解後の運動性との関連性 についてポスター発表しました 発表では 精子の専門家の先生方からたくさんの質問やアドバイスを頂き 大変有意義な議論をすることができました また 細かな実験手技等についても情報交換することができとても勉強になりました 9 月 14 日に行われた総会では 2017 年度 JRD 優秀論文賞を頂きました 賞を頂いた論文は ウシ伸長胚の凍結保存法と着床前ゲノム選抜技術への応用可能性について検討した研究で 東京農大の平山先生 岡山大学の木村先生 上司である陰山部長 また多くの共著者の ポスター発表 1 JRD 優秀論文賞受賞
先生方や生物工学 Gの受精卵移植師の皆様のご指導 ご協力のもと出すことができた成果です この場をお借りし 本研究に携わっていただいた皆様に改めて感謝申し上げます 今回このような大変名誉ある賞をいただきましたが ウシ伸長胚に関する研究はまだまだ発展途上です 今回の受賞を励みにさらに研究を発展させられるよう努力していきたいと思います 次大会は 北海道大学で開催予定です 道総研畜試からも良い成果を発表出来るようまた 1 年 頑張りたいと思います! ( 藤井貴志 ) Topic2 中国青海省畜牧獣医科学院で ヤクの繁殖指導 中国青海省畜牧獣医科学院よりヤクの繁殖技術協力の依頼があり 8 月 17~25 日の日程で森安 吉野が派遣されました 畜牧獣医科学院には過去 2 回生物工学 Gから研究員が派遣され クローン胚生産などについて技術指導が行われています しかしながら 生産胚の受胎率が極めて低いことから 胚の移植技術全般の指導 子宮内膜炎などの受胚牛の子宮の状態を診断する技術についての指導 クローン以外の増産法としてのOPU-IVF 技術についての指導を行いました ヤクと遊牧民について ヤクは高山での飼育が可能で 乳や肉 毛皮など多くの産物が得られることから遊牧民の貴重な家畜となっています 基本的には放牧により飼養され そのため季節毎の栄養状態は大きく異なっています 冬は餌の状態が良くないので発情は来なくなり 結果 7-8 月に発情および受精 260 日程度の妊娠期間を経て翌年 4-6 月分娩といった季節繁殖動物のような形態を取っています 分娩間隔は2 年に1 産で子ヤクの生時体重は12kg 程度のため難産はほとんどないようでした 遊牧民の家を見学させてもらいましたが 食事はヤクの乳で作ったヨーグルト バター ヤクの肉 ヤク 遊牧民の家での食事 2
放牧地の食用草などで ほぼ自給自足でまかなわれていました 妊娠しないヤクについては市 場で肉として売り払い それが主な収入源となっていました ヤクの他にも山羊 ( 羊といっていた が山羊だと思われる ) 馬が飼養されていました 電気はソーラーパネルを設置しているためある 程度は使えるようでした 驚いたのが 一家のほとんど全員が携帯電話を所有していたことでし た 標高 3500m の高山地帯でしたが電波は行き届いているようでした 繁殖技術指導 実験室ではと畜場由来のヤク卵巣を用いて体外受精卵の作成が行われていましたが 発生率 が編牛や黄牛と比較して著しく低いようでした ヤクの精液は十分な選択肢はなく 使用している 精液が体外受精に適しているかはわからないとのことでした 精液毎の受精率の比較 体外受 精液の変更と個別培養ディッシュを勧めました 講義では OPU-IVF 技術についての説明および潜在性子宮内膜炎について話しました ヤクがと 畜場に出荷される期間が限られるため OPU-IVF 技術を是非取り入れたいとのことでした その 後牛舎に行ってヤクをみてみると 外陰部は小さく牛用の OPU プローブは入らないことがわかり ヒト用プローブを検討する必要があることがわかりました また 卵胞は 3mm 以下のものが多く 超音波画像診断装置で確認するのが難しいため 事前のホルモン剤による卵胞発育処理が必 要と考えられました ヤクにホルモン剤を投与したことはないそうなので 投与量の検討から行う 必要がありそうでした 潜在性子宮内膜炎の診断法としてサイトブラシを実演しましたが こちら についても牛用のものでは太すぎるため ヒト用を検討する必要がありました ただ 作成した受 精卵は主に編牛や黄牛に移植するということなので これらの牛であれば牛用サイトブラシで問 題なさそうでした ヤクは分娩時のトラブルがほとんどないこと 移植に使用しないことから基本 的にはサイトブラシは不要と思われました 編牛 ( ペンギュウ ): ヤクとヤク以外の牛との交雑種 肉生産の為に作られる 雌は繁殖能力を持つが 雄は持たない ( ヤクと ヤク以外の牛では染色体の数が違うためと思われる ) 黄牛 : 中国で多く飼養される肉牛 実験室 ヤク直腸検査等 3
まとめ ヤクは同じウシ科の動物でも体のサイズや触感 ( 水はあまり与えていなく 脱水のような感じ ちなみに同じ環境下で ウシ は生きられないとのこと ) 直腸検査した時の生殖器の状態など違っている部分が多く とても面白いと感じました 日本にいるウシは改良されてきたものなので もしかしたら原牛はヤクのようだったのかもしれないと思いました また 遊牧民の生活を初めてみて 同じ人間でもこんなにも自然に近い暮らしをしている人達がいるのかと感動しました 壮大な自然や沢山の数の遊牧民や民族は政府によって保護されているということで 素晴らしいと思いました 今回の訪問が少しでもヤクの繁殖の 研究の役に立てば良いなと思います 今後も 情報共有を続けていきたいです ( 吉野仁美 ) 中国で共に行動したメンバー Topic3 秋山主任が牛受精卵移植の講習会に参加 受精卵移植師免許取得 Success! 8 月 20 日から9 月 5 日の日程で 第 39 回牛に係る家畜体内受精卵移植に関する講習会に参加してきました 講習内容としては 体内受精卵移植概論 受精卵の生理及び形態 体内受精卵の処理 受精卵の移植 の4つの専門科目( 座学 ) と 体内受精卵の処理 受精卵の移植 の2つの実習でした 去年受けた牛に係る家畜人工授精に関する講習会の時と比べて講習内容が生物工学グループの業務に近く ( 受精卵の操作 牛の子宮角の操作等 ) 非常に面白く勉強になりました 講習参加者は道内各地から集まっており 特に農協所属の授精師の方が半数以上と圧倒的に多く 畜産現場でのニーズの高さがうかがえます 講習での勉強は勿論受講生同士での情報交換も盛んに行われており 今回受精卵移植講習を受けられて大変勉強になりました 無事に修業試験も合格し 受精卵移植師免許を取得出来ました 生物工学グループの一員として やっとスタートラインに立てたのかなと思うので これからもよ り一層業務に励んでいきたいなと思います ( 秋山智香 ) 4
Topic4 第 2 回日本胚移植技術研究会大会参加報告 2018 年 9 月 19~21 日の間 三重県津市で開催された日本 ET 実務者ネットワーク研修会と日本胚移植技術研究会に参加してきました 日本 ET 実務者ネットワークは現場でETやOPUを日々実施している技術者の集まりで この研修会でも骨盤骨格標本やと体の子宮を持ち込んで 極めて具体的な技術伝達を行いました 今回の注目は農研機構の的場先生が開発した卵子採取器具 OVA-9です ( ちなみに 読み方を当初のオバ-キューからオバ-ナインに変更したとのこと ) OVA-9は と体卵巣からの大量の卵子吸引を効率的に行える装置で 非常にシンプルなシステムながら 吸引にかかる時間を3/4に短縮できるとのこと 値段も手頃なので導入を検討してみたいと思う器具です 日本胚移植技術研究会は同じく秋に開催される繁殖生物学会が基礎研究分野にシフトしているのに比べ現場に近い繁殖関連技術に関する発表が多く 我々の参考になる研究会です 特に気になった講演が 牛体外受精胚の品質評価 IETSの指標だけで本当に大丈夫? とても挑発的なタイトルですが 中身は至極まっとうなタイムラプスを使った卵子採取器具 OVA-9 研究で 核を染色して観察すると染色体が倍加しないうちに分裂してしまう細胞が多数あり これらの染色体異常胚も胚盤胞までは発育し 形態的には優良な胚となるが受胎性は低いというもの 今後の我々の胚生産にも大いに関わってくる問題です さらにアントリン ALの一回投与過剰排卵に関する研究も複数あり 今のところ反応にばらつきがあり平均 OVA-9での卵子吸引的に多回打ちよりも回収胚数が低い傾向にある BCS( 肥満 ) との関連は見られないとの 5
見解が多いようです こちらも我々が取り組んでいる研究分野であり今後の情報蓄積が期待されます また 一般講演と企業展示両方でSONYが全農と協力して開発中の牛体外受精卵自動解析大量生産システムが紹介されていました これは受精卵画像をタイムラプスで取得し 品質をAIクラウドで解析し 完全自動で優良な受精卵を生産選抜する先端的なシステムです 現時点では品質評価や効率は人には及ばないものの ディープラーニング技術により日々進歩しているとのこと 価格的な問題もあり 今すぐ導入は難しいですが今後の開発を注視したい技術でした おまけ : 今回の開催地 三重県津市は観光地としては残念な土地ですが 伊勢神宮のある伊勢市まで電車でわずか 30 分 ということで早朝に初の伊勢詣でをしてきました さすがに全国神社の頂点だけあって雰囲気は荘厳で 宮内に聳える古木にも圧倒され 早朝で人が少なかったことと相俟って古代の神域を体感することができました ( 森安悟 ) Topic5 北海道畜産草地学会第 7 回大会参加報告 伊勢神宮 平成 30 年 9 月 1~3 日の日程で開催された北海道畜産草地学会第 7 回大会に出席しました 道総研が事務局なので昨年は畜産試験場で開催しましたが 今年度は7 月に根釧農試から名前を変更した酪農試験場で実行委員会を結成し 中標津経済センターにおいて開催されました ( 写真 1) 一般講演 初日の一般講演では口頭での研究概要発表に続 写真 1. 会場入り口 きポスター発表が行われました この日は学生会員が対象でしたが演題数が25 題と多く 会場は大いに賑わいました ( 写真 2) 一般講演は翌日 2 日も行われました シンポジウム 14:20からは会場 2F コミュニティホールで 新たな時代に向けた北海道酪農の展開方向 ~これからの北海 道酪農はどこに向かうのか?~ のテーマでシンポジウムが 写真 2. ポスター発表 6
行われました 酪農試の原仁氏の基調講演に続き 根室振興局の下堀亨氏 JA 道東あさひの齋藤哲範氏からは現地における取り組み事例として根釧の酪農ビジョンの取り組み紹介とJA 道東あさひにおける取り組みについて説明がありました その後の総合討論では話題も盛り上がり 予定時刻をオーバーするほど議論が交わされました ( 写真 3) 表彰式 昨日の一般講演で優秀であった3 名の学生会員の ベストプレゼンテーション賞 および 2018 北海道畜産草地学会賞 の表彰ならびに授与式が行われました 学会賞は酪農試の牧野司会員が授賞し 授賞講演も併せて行われました ( 写真 4) ワークショップ ワークショップは2 会場で行われ 畜産におけるICTを活用した取り組み がコミュニティホールで ゲノム育種価を用いた乳牛および肉牛の改良の現状と課題 が多目的ホールで開催されました 私は後者において話題提供者として参加しました こちらはあまり参加者が少ないだろうと予想していましたが 帯畜大の先生や学生さんたちが結構話を聞きに来てくれたようで それなりに集まっていただけました 現地見学会 3 日目は酪農試験場と遠藤牧場への現地見学会でした ( 写真 5) 当日は好天に恵まれたのですが 同行の渡部主査が急遽台風前に現地圃場に向かわなければならないということになり 酪農試験場から早々に畜試に戻ることとなりました 写真 3. シンポジウム写真 4. 学会賞授与式写真 5. 現地見学会学会事務局ということで評議員会 編集委員会 総会においても緊張感のある場面が続いていたのですが 大会の合間には酪農試の方々ともコミュニケーションを図ることができ充実した3 日間でした 来年は事務局が北農研センターに移る予定で 肩の荷がおりるということでほっとして おります ( 内藤学 ) 本号より編集担当が変わりました よろしくお願いします さて平成も残すところわずかとなり 本号が平成最後のばいてくニュースとなりそうです 古くは災害などを理由に変えることも多かった元号 近年災害続きの北海道ですが 新しい元号と共に良い時代がやってくると良いですね (HY) 編集後記 7