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日本女子トップレベルの バスケットボール選手における試合中の移動距離及び移動速度 山田洋 ( 体育学部体育学科 ) 小山孟志 ( スポーツ医科学研究所 ) 國友亮祐 ( 日本バスケットボール協会 ) 長尾秀行 ( 大学院総合理工学研究科 ) 三村舞 ( 日本リハビリテーション専門学校 ) 小河原慶太 ( 体育学部体育学科 ) 陸川章 ( 体育学部競技スポーツ学科 ) The Movement Distance and Moving Velocity during a Game in the Japanese Top-level Girls Basketball Player Hiroshi YAMADA, Takeshi KOYAMA, Ryousuke KUNITOMO, Hideyuki NAGAO, Mai MIMURA, Keita OGAWARA and Akira RIKUKAWA Abstract The purpose of this study was to examine movement properties by calculating movement distance and velocity during a basketball game involving Japanese top-level female players. The mean movement distance was 1339.5±66.5 m for players in the Guard position, 1329.1±49.4 m for Forward players, and 1231.1±6.3 m for Center players. No significant differences were seen between each position. Therefore, it was suggested that the players moved extensively regardless of their position. The mean velocity was 2.15±0.08 m/s for players in the Guard position, 2.14±0.08 m/s for Forward players, and 1.91±0.04 m/s for Center players. These results suggested that Japanese top-level female basketball players maintained a high speed and moved extensively regardless of their playing position. (Tokai J. Sports Med. Sci. No. 27, 29-36, 2015) Ⅰ. 緒言 バスケットボールのような混戦型球技では ゲーム分析 が行われ 近年重要視されている ゲーム分析の目的は 競技の中で起こる様々な事柄 を数値化し 実際の指導現場にフィードバックされることによって トレーニングや技術練習 戦術構築に役立てることとされている そこでは大きく分けて二つの研究方法が用いられている ひとつは 専門家や指導者などの視認的方法によって 技術 戦術 技能 チーム力などが質的に評 29

山田洋 小山孟志 國友亮祐 長尾秀行 三村舞 小河原慶太 陸川章 価 記述する手法であり もうひとつは得点数 失点数 シュート数などの計数データを用いて統計処理を行う手法である 近年 二次元 DLT 法を用いたゲーム分析が行われており バスケットボールにおいてもこの方法が普及しつつある 小山 1) は大学男子では 1 試合に約 6 km 移動しており 移動速度の分類では約 10% の激しい動き ( 4 m/sec 以上 ) と約 30% の緩やかな走り (1.5~ 4 m/sec) 約 60% の走りのない動き (1.5m/sec 以下 ) に分類されたことを報告している また 國友 2) は高校トップレベル男子ではゲーム中のピリオド別の最高移動速度ではいずれも第 4 ピリオドで記録されていたことを報告している しかしながらこれらの研究はいずれも男子選手を対象としており 女子選手を対象とした研究は少ない 7 年後の2020 年に東京でオリンピックが開催されることが決定し 日本女子はそれに出場できる可能性が高い 日本女子バスケットボールは " 世界最速 " を目標に掲げ スピードやクイックネスといった日本のプレースタイルを表している しかしこれらに関しては ゲーム分析による定量的評価が行われておらず ポジションによってプレースタイルやプレーする位置はもちろん 移動距離や移動速度等が違う可能性が考えられる したがって これらの移動特性についてポジション間で比較検討を行うことには 重要な意義があると考える そこで本研究は 両チーム共に日本代表入りした経験のある選手が多い日本女子トップレベルの試合を対象として映像データを採取し 二次元 DLT 法を用いて試合中の移動距離や移動速度を算出することによって移動特性を明らかにし 体力的特徴の検討 トレーニングへの示唆 戦術構築の一助となる知見を得ることを目的とした Ⅱ. 方法 1. 被験者 2011 年 1 月 8 日に行われた第 86 回天皇杯 第 77 回皇后杯全日本総合バスケットボール選手権大会女子準決勝 J チーム対 D チームを分析対象とした 実質プレータイムの40 分 ( ファウル アウトオブバウンズ フリースローを除いたタイマーが動いている時間 ) の分析を行った また ポジションについては PG( ポイントガード ) と SG( シューティングガード ) は G ( ガード ) SF( スモールフォワード ) と PF( パワーフォワード ) は F( フォワード ) C( センター ) は C( センター ) として PG SG SF PF C の 5 つのポジションを G F C の 3 つに分類した 映像撮影に関しては 公益財団法人日本バスケットボール協会に対して 撮影の趣旨を十分に説明し 文書にて同意を得た 撮影の際には 日本バスケットボール協会医科学研究委員会科学サポート委員会の協力を得て行われた 後日の分析に際しては 東海大学 人を対象とする研究 に関する倫理委員会の承認を得た上で実施された 2. 撮影方法バスケットボールの試合を観客席最上段から 2 台の定点カメラで撮影した センターラインを境にコートを二分して撮影を行った ( 図 1 ) 試合開始から終了まで タイムアウト及びハーフタイムの時間を除いた全ての時間を録画した 3. 解析各カメラで録画された映像は 分析用に同期させパーソナルコンピュータに取り込んだ 分析には 映像解析ソフト (Frame DIAS Ⅴ, DKH 社製 ) で DLT 法を用いた二次元映像解析を行った そして 映像動作解析システムにより コートの四隅をコントロールポイントとして 映像を二次元座標に変換しカメラスピード30fps 周波数は20Hz でデジタイズを行い選手の移動距離及び移動速度を算出した 移動速度の分類には john Taylor の方法 3) を用いた 試合データについては 以下を算出した A) オフェンス回数 30

日本女子トップレベルのバスケットボール選手における試合中の移動距離及び移動速度 1 Fig.1 diagram of data calculation by digitize 2 ポイントフィールドゴール試投数 3 ポイントフィールドゴール試投数 ターンオーバーを合計したもの B) オフェンス時間各ピリオドで 1 回のオフェンス時間を合計したもの C) 平均オフェンス時間 1 回のオフェンスで自軍のオフェンスから相手軍にオフェンス権が移るまでの時間を平均したもの D) オフェンス成功率 以下の式から求めた 23 23 E) ボール支配率各ピリオドで各チームのオフェンス回数を両チームのオフェンス回数を足して除して求めた 4. 統計処理得られたデータは 統計解析ソフト (Excel2013, マイクロソフト社製 および SPSS, IBM 社製 ) を用いて統計処理を行った チーム同士の比較と 31

山田洋 小山孟志 國友亮祐 長尾秀行 三村舞 小河原慶太 陸川章 1 Table 1 Game data ピリオド 1st 2nd 3rd 4th 合計及び平均 比較 オフェンス回数 ( 回 ) J 21 22 23 25 91 D 21 24 20 23 88 N.S. **p<0.01 オフェンス時間 ( 分 ) 平均オフェンス時間 ( 秒 ) オフェンス成功率 ( %) ボール支配率 ( %) J J J J 4.8 13.7 24 50 4.7 12.8 32 48 5.3 13.8 22 53 4.4 10.6 40 52 19.2 12.7 30 51 D D D D 5.2 14.9 24 50 5.3 13.3 21 52 4.7 14.2 15 47 5.6 14.5 22 48 20.8 14.2 21 49 N.S. * N.S. N.S. *p<0.05 先行研究との比較には t 検定を用いた また 各ポジションの比較には一元配置分散分析を用いた 統計的有意水準は 5 % 未満とした Ⅲ. 結果および考察 1. 試合データ表 1 に試合データを示す A) オフェンス回数 J チームが91 回に対して D チームは88 回と両チームのオフェンス回数に大きな差は見られなかった B) オフェンス時間両チームに差は見られなかった C) 平均オフェンス時間 J チームと D チームとの間で有意な差が認められた (p<0.05) J チームは12.7 秒 D チームは 14.2 秒であった J チームは第 3 ピリオドまでに比べ第 4 ピリオドは平均オフェンス時間が短くなっている D) オフェンス成功率両チームに差は見られなかった 両チーム共に第 3 ピリオドでターンオーバーやファウルが多く オフェンス成功率が低下していると考えられる E) ボール支配率両チームに大きな差は見られなかった 2. 各選手のプレー時間 割合図 2 に各チームにおける選手の出場時間を示す A B C D(Dʼ) E(Eʼ) a b c(cʼ) d(dʼ d") e は それぞれ ある特定の一選手を示す 両チーム共に PG の選手は40 分フルタイムで出場し J チームにおいては SG SF の選手もフルタイムで出場している D チームは交代をしているが 両チーム共に PG SG SF の選手は約 90% 以上で出場している PF と C の選手はほぼフルタイムで出場している選手もいるが PG や SG SF の選手に比べ交代が多いことがわかる 3. 移動距離表 2 に各選手における出場時間と走移動距離を示す 移動距離の大きい 5 選手の値は 大きい順に 5636m( 出場 40 分 ) 5415m( 出場 35 分 ) 5396m( 出場 40 分 ) 5375m( 出場 40 分 ) 4964m ( 出場 40 分 ) であった 大場ら 4) は 高校女子選手は 1 試合に約 5.5km移動していることを報告しており 本研究で得られた値は妥当であったといえる 図 3 に各ポジションにおける総移動距離の平均値を示す 各ポジションの平均移動距離と標準偏差は G が1339.5m±66.5m F が1329.1m±49.4 m C が1231.1±6.3mであった 移動距離をポジション別で見た場合 G F C の順で大きな値を示したが 有意な差は見られなかった このことから 日本のトップレベルのバスケットボール 32

日本女子トップレベルのバスケットボール選手における試合中の移動距離及び移動速度 2 Fig.2 Playing time of each team player 選手はポジションに関係なく動いていることが示唆された また 表 3 は ピリオド当たりの平均移動距離を 高校女子選手と今回撮影した日本女子トップレベル選手 (ALL JAPAN 選手 ) 間で比較したものである 高校女子の値は 大場 4) ら (2011) のデータを用いた ピリオド当たりの移動距離は 日本女子トップレベル選手の方において移動距離が大きかった 高校生ががむしゃらに走る一方で 年齢あがるほど またレベルが高くなるほど無駄を省いたプレーをしているという印象があり 高校生の方において移動距離が多いと考えられたが 実際はそうではなかった これは 先行研究のオフェンス回数 80 回前後に比べ 日本トップレベルでは88 回と91 回とオフェンス回数が多かったため その分移動距離が大きくなったと考える 4. 移動速度図 4 に算出した速度の時系列データの代表例を示す 横軸が時間 (min) 縦軸が速度 (m/s) を示す これらの値は 移動距離を時間で除すことにより 算出するため データのサンプリング周波数が問題となる 土岐ら 5) は 球技選手の移動距離算出におけるデジタイズ周波数の決定方法に ついて調べ サッカーでは 5 Hz 車いすバスケットボールでは 3 Hz のデジタイズ周波数が 精度的にも 作業的 ( 労力的 ) にも最適であろうと述べている 本研究では 20Hz でデジタイズを行っており 労力は大きかったものの精度的には 速度を算出するうえで十分であったと考える 図 5 は 移動速度の分布をポジション毎に示している 各ポジションの移動速度の分類では 0 m/sec は約 10% 0 ~1.5m/sec は約 40% 1.5 ~2.0m/sec は約 10% 2.0~3.0m/sec は約 15% 3.0~4.0m/sec は約 10 % 4.0~5.0m/sec は約 7 % 5.0m/sec ~は約 8 % で ポジション間に有意な差は見られなかった 移動速度の分類では約 15% の激しい動き ( 4 m/ sec 以上 ) と約 35% の緩やかな走り (1.5~ 4 m/ sec) 約 50% の走りのない動き (1.5m/sec 以下 ) に分類された これは先行研究 6) よりも激しい動きと緩やかな走りが 5 % 多く 走りのない動きが 10% 低かった これらのことからトップレベルの選手は速い速度を維持してプレーできることが示唆された その理由として トップレベル G は交代が少ないにも関わらず高い運動強度で運動を続けられる体力要素を有していること またトップレベルの C は交代を適正に行うことによって 33

山田洋 小山孟志 國友亮祐 長尾秀行 三村舞 小河原慶太 陸川章 2 Table 2 Playing time and total distance of each player 3 Fig.3 Mean value of total distance of each position 高い強度でのプレーが継続していると考えられる Ⅳ. まとめ 本研究では 日本女子トップレベルのバスケットボールゲームにおけるポジション毎の移動距離と移動速度に注目し二次元 DLT 法を用いて分析を行った 得られた結果は以下の通りである 1 ) 平均移動距離と標準偏差に関しては ポジション別では G が1339.5m±66.5m F が1329.1 m±49.4m C が1231.1m±6.3mであった 各ポジションで有意差は見られなかった このことから 日本のトップレベルのバスケットボール選手はポジションに関係なく動いていることが示唆された 2 ) 平均移動速度と標準偏差に関しては ポジション別では G が2.15m/sec ±0.08m/sec F 34

日本女子トップレベルのバスケットボール選手における試合中の移動距離及び移動速度 3 Table 3 Mean value of distance per unit of period of high school player and ALL JAPAN player 4 Fig.4 Typical time-serise data of calculated velocity data が 2.14m/sec ± 0.08m/sec C が 1.91m/sec ± 0.04m/sec であった 各ポジションに有意な差は見られなかった これは C は走れないとされていたが 交代を行うことによって高強度でのプレーを可能にしているということが示唆された 以上のことから 日本トップレベルの女子バスケットボール選手における移動速度及び移動距離はポジションによって交代はしているものの どのポジションにおいても速い速度を保ち長距離移動できることから より高い強度で長時間プレーできることが示唆された 謝辞研究にあたりご協力頂いた財団法人日本バスケットボール協会 同医科学研究委員会科学サポート委員会に 感謝の意を表します 1) 小山孟志 内山秀一 (2006) バスケットボールにおける動作の出現頻度分析の有効性 東海大学大学院 2006 年度修士論文. 2) 國友亮佑 山田洋 (2010) 高校トップレベルのバスケットボールゲーム中の移動距離及び移動速度に関する研究 2010 年度東海大学体育学部体育学科自然科学研究ゼミナール研究論文集. 3)John Taylor(2003)Basketball : Applying Time Motion Data to Conditioning Strength & Conditioning Journal,25(2) : 57-64. 4) 大場渉 奥田知靖 菅輝 塩川満久 沖原謙 (2011) バスケットボールにおける高校女子選手の移動行動に関するゲームパフォーマンス分析 沖縄大学人文学部紀要第 13 号 :17-27. 5) 土岐純代 金銀暎 桜井伸二 (2014): 球技選手の移動距離算出におけるサンプリング周波数の決定 35

山田洋 小山孟志 國友亮祐 長尾秀行 三村舞 小河原慶太 陸川章 5 Fig.5 Distribution of velocity 法 中京大学体育研究所紀要 23: 1-9. 6) 松本浩和 若吉浩二 小野桂市 (1998): 大学バスケットボール及び練習の運動学的評価と指導への応用 スポーツ方法学研究 11: 95-102. 和文抄録 本研究の目的は 日本女子トップレベルのバスケットボールにおける試合中の移動距離や移動速度を算出することによって移動特性を明らかにすることであった 平均移動距離は ガードの選手で1339.5m±66.5m フォワードの選手で1329.1 m±49.4m センターの選手で1231.1m±6.3mで あった 各ポジション間で有意差は見られなかった このことから 日本女子トップレベルのバスケットボール選手は ポジションに関係なく動いていることが示唆された 平均移動速度は ガードの選手で2.15m/sec ±0.08m/sec フォワードの選手で2.14m/sec ±0.08m/sec センターの選手で1.91m/sec ±0.04m/sec であった 各ポジションに有意な差は見られなかった 得られた結果は 日本トップレベルの女子バスケットボール選手は ポジションに関わらず 速い速度を保ち長距離移動できることを示唆していた 36