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熊本地域の水循環機構の検討

熊本県地下水保全条例の一部を改正する条例の概要 平成 24 年 3 月環境立県推進課 環境保全課 1 熊本県地下水保全条例の沿革 1 昭和 53 年 12 月 熊本県地下水条例 制定 地下水は 県民の生活に欠くことのできない重要な資源 として 指定地域における一定規模以上の地下水採取の届出制等を規定


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PowerPoint プレゼンテーション

中期目標期間の業務実績報告書

熊本県の地下水区県内の地下水の分布で最大のものは 熊本地域 と呼ばれる阿蘇外輪山の西麓台地から熊本平野の海岸部にかけてのものです ここでは約 平方キロメートルにも及ぶ大規模な地下水盆が形成され この中に阿蘇火山の 4 回に及ぶ火砕流堆積物が厚く堆積しており 日本でも有数の地下水賦存地帯となっています

地質ニュース

資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

流域及び河川の概要(案).doc

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の洪水調節計画は 河川整備基本方針レベルの洪水から決められており ダムによる洪水調節効果を発揮する 遊水地案 は 遊水地の洪水調節計画は大戸川の河川整備計画レベルの洪水から決めることを想定しており 遊水地による洪水調節効果が完全には発揮されないことがある 瀬田川新堰案 は 瀬田川新堰の洪水調節計画は

附帯調査

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宮城県 競争力のある大規模土地利用型経営体の育成 活動期間 : 平成 27~29 年度 ( 継続中 ) 1. 取組の背景震災により多くの生産基盤が失われ, それに起因する離農や全体的な担い手の減少, 高齢化の進行による生産力の低下が懸念されており, 持続可能な農業生産の展開を可能にする 地域営農シス

問 1 あなたは, 景観について関心をお持ちですか? 1 非常に関心を持っている 関心を持っている 関心を持っていない 全く関心を持っていない % 5 全く関心を持っていない 0.6% 1.1% 1 非常に関心を

3. 市街化調整区域における土地利用の調整に関し必要な事項 区域毎の面積 ( 単位 : m2 ) 区域名 市街化区域 市街化調整区域 合計 ( 別紙 ) 用途区分別面積は 市町村の農業振興地域整備計画で定められている用途区分別の面積を記入すること 土地利用調整区域毎に市街化区域と市街化調整区域それぞ

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平成 25 年度農林水産省委託業務報告書 平成 25 年度 水資源循環の見える化 調査 検討事業 報告書 平成 26 年 3 月 みずほ情報総研株式会社

加賀市農業委員会農地等の利用の最適化の推進に関する指針 平成 30 年 1 月 26 日制定 加賀市農業委員会 第 1 指針の目的 農業委員会等に関する法律 ( 昭和 26 年法律第 88 号 以下 法 という ) の一部改正法が平成 28 年 4 月 1 日に施行され 農業委員会においては 農地等

計画書

* 表紙写真大野市新堀清水事例 41

(4) 対象区域 基本方針の対象区域は市街化調整区域全体とし 都市計画マスタープランにおいて田園都市ゾーン及び公園 緑地ゾーンとして位置付けられている区域を基本とします 対象区域図 市街化調整区域 2 資料 : 八潮市都市計画マスタープラン 土地利用方針図

3 検討プロセス 3-1 県計画案を策定するねらい 沖縄 21 世紀ビジョン基本計画を着実に実施していくための総合的な交通体系のビジョンを示した 沖縄県総合交通体系基本計画 において 県土の均衡ある発展を支える利便性の高い公共交通ネットワークの構築が位置づけられている 同計画を踏まえ 県では 南北骨

Microsoft PowerPoint - 【150105】02-2検討プロセス及び検討体制

一般的に行政で取り扱う範囲の水循環は 大きく地表水と地下水に分けられます 地表水は 渓流や川のように地上を流れていたり 貯水池 ダムなどに貯められている水です 地下水は 雨が地表面から地中に浸透して 土の中の隙間の部分に存在する水です 土の中の隙間を全て地下水で満たしている場合を飽和状態とよびます

ヘクタールのうち市街化区域の 641 ヘクタールについて整備を進め 平成 26 年度末時点で普及率は 99.3 パーセント 整備率では 95.3 パーセントとなっております ご質問の市街化調整区域における公共下水道整備促進につきましては 平成 15 年度に新河岸川沿いの上宗岡 2 丁目から下宗岡 1

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市街化調整区域の土地利用方針の施策体系 神奈川県 平塚市 神奈川県総合計画 神奈川県国土利用計画 平塚市総合計画 かながわ都市マスタープラン 同地域別計画 平塚市都市マスタープラン ( 都市計画に関する基本方針 ) 平塚都市計画都市計画区域の 整備 開発及び保全の方針 神奈川県土地利用方針 神奈川県

長野県主要農作物等種子条例 ( 仮称 ) 骨子 ( 案 ) に関する参考資料 1 骨子 ( 案 ) の項目と種子の生産供給の仕組み 主要農作物種子法 ( 以下 種子法 という ) で規定されていた項目については 長野県主要農作物等種子条例 ( 仮称 ) の骨子 ( 案 ) において すべて盛り込むこ

ISO9001:2015内部監査チェックリスト

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目次 1. 市街化調整区域の土地利用方針について... 1 (1) 策定の目的... 1 (2) 方針の位置付け 市街化調整区域の課題 土地利用の方針... 3 (1) 土地利用の基本的な方針... 3 (2) 地区ごとの土地利用方針 開発計画等の調整

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03-1 地下水利用及び地盤沈下等の状況について(H28更新版).docx

2 保険者協議会からの意見 ( 医療法第 30 条の 4 第 14 項の規定に基づく意見聴取 ) (1) 照会日平成 28 年 3 月 3 日 ( 同日開催の保険者協議会において説明も実施 ) (2) 期限平成 28 年 3 月 30 日 (3) 意見数 25 件 ( 総論 3 件 各論 22 件

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社会的責任に関する円卓会議の役割と協働プロジェクト 1. 役割 本円卓会議の役割は 安全 安心で持続可能な経済社会を実現するために 多様な担い手が様々な課題を 協働の力 で解決するための協働戦略を策定し その実現に向けて行動することにあります この役割を果たすために 現在 以下の担い手の代表等が参加

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利水補給

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( 対象区域 ) 第 5 地区計画の対象区域は 工業団地 ( 国母工業団地 南部工業団地 機械金属工業団地 ファッション工業団地 ( アリア ディ フィレンツェ ) をいう 以下同じ ) の区域内及び隣接地又は近接地 ( おおむね工業団地から500メートル以内 ) とする ( 区域の設定 ) 第 6

CSRコミュニケーションブック

177 箇所名 那珂市 -1 都道府県茨城県 市区町村那珂市 地区 瓜連, 鹿島 2/6 発生面積 中 地形分類自然堤防 氾濫平野 液状化発生履歴 なし 土地改変履歴 大正 4 年測量の地形図では 那珂川右岸の支流が直線化された以外は ほぼ現在の地形となっている 被害概要 瓜連では気象庁震度 6 強

目 次 ( ヘ ージ ) 1 はじめに 1 2 山梨県の森林と地下水資源について 1 (1) 森林の現状 1 (2) 地下水資源の利用状況 1 3 ミネラルウォーターに関する税 について 1 (1) ミネラルウォーターに関する税 の概要と考え方 1 (2) 納税義務予定者の意見 2 4 検討会での審

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スライド 1

近畿地方整備局 資料配付 配布日時 平成 23 年 9 月 8 日 17 時 30 分 件名土砂災害防止法に基づく土砂災害緊急情報について 概 要 土砂災害防止法に基づく 土砂災害緊急情報をお知らせします 本日 夕方から雨が予想されており 今後の降雨の状況により 河道閉塞部分での越流が始まり 土石流

別紙 2 平成 28 年度水環境の状況について 県は 水質汚濁防止法に基づいて 国土交通省 同法の政令市である横浜市 川崎市 相模原市 横須賀市 平塚市 藤沢市 小田原市 茅ヶ崎市 厚木市及び大和市と共同して 公共用水域及び地下水の水質の測定を行いました 1 測定結果の概要 (1) 公共用水域測定結

平成 29 年 12 月 1 日水管理 国土保全局 全国の中小河川の緊急点検の結果を踏まえ 中小河川緊急治水対策プロジェクト をとりまとめました ~ 全国の中小河川で透過型砂防堰堤の整備 河道の掘削 水位計の設置を進めます ~ 全国の中小河川の緊急点検により抽出した箇所において 林野庁とも連携し 中

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2. 地下水低下と湧水の枯渇 湧水と共に生きてきた大野市であるが 昭和 40 年代後半から 50 年代にかけて地下水位が低下した これにより 多い時で 1,000 軒の家庭で井戸が枯れたり 名水百選の 御清水 や平成の名水百選の 本願清水 が枯渇したりした 写真 -2 枯渇した本願清水 ( 昭和 5

地下水の水質及び水位地下水の水質及び水位について 工事の実施による影響 ( 工事の実施に伴う地下水位の変化 地下水位流動方向に対する影響 並びに土地の造成工事による降雨時の濁水の影響及びコンクリート打設工事及び地盤改良によるアルカリ排水の影響 ) を把握するために調査を実施した また

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問 2. 現在 該当区域内に居住していますか 1. 居住している % 2. 居住していない % 無回答 % % 単位 : 人 1.9% 32.7% 65.4% 1. 居住している 2. 居住していない無回答 回答者のうち 居住者が約 65

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各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

目次 Ⅰ 運用基準の策定にあたって P1 1 策定の目的 P1 2 運用基準の位置づけ P1 Ⅱ Ⅲ 土地利用のあり方 P1 地区計画の活用 P2 1 地区計画とは P2 2 地区計画の活用類型 P2 (a) 地域資源型 P3 (b) マスタープラン適合型 P3 (c) 街区環境整序型 P3 (d)

の復旧状況に関する長期的な見通しを可能な限り明らかにしながら 復旧の段階に 応じた役割の分析を行う 5) 交通事業者ヒアリング調査沿線地域に関係する交通事業者 ( 鉄道事業者 2 社 バス事業者 2 社 タクシー事業者 2 社その他 ) に聞き取り調査を行い 定性的な利用特性や地域の公共交通の問題点

第3節 重点的な取り組み

能勢町市街化調整区域における地区計画のガイドライン

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* 表紙写真長野県安曇野市のわさび田 地下水保全 事例集 p.70 の事例 36

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資料4 検討対象水域の水質予測結果について

ダムの運用改善の対応状況 資料 5-1 近畿地方整備局 平成 24 年度の取り組み 風屋ダム 池原ダム 電源開発 ( 株 ) は 学識者及び河川管理者からなる ダム操作に関する技術検討会 を設置し ダム運用の改善策を検討 平成 9 年に設定した目安水位 ( 自主運用 ) の低下を図り ダムの空き容量

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121022資料1さっぽろビジョン(素案)

学識経験者による評価の反映客観性を確保するために 学識経験者から学術的な観点からの評価をいただき これを反映する 評価は 中立性を確保するために日本学術会議に依頼した 詳細は別紙 -2 のとおり : 現時点の検証の進め方であり 検証作業が進む中で変更することがあり得る - 2 -

目次 1 背景 目的 方針の位置づけ 現状の問題と課題 今後の方針

学生確保の見通し及び申請者としての取組状況

平成 29 年 7 月 20 日滝川タイムライン検討会気象台資料 気象庁札幌管区気象台 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 大雨警報 ( 浸水害 ) 洪水警報の基準改正 表面雨量指数の活用による大雨警報 ( 浸水害 )

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特 集 火の国 熊本が育む 豊富な水資源 被災から 3 年目を迎えた地下水都市 熊本を巡って 2016 年 4 月 2 回にわたって発生した地震によって 甚大な被害を受けた熊本市 火の国 として知られる一方で 豊富な地下水資源に恵まれた 水の国 でもあり その歴史や風景の中には さまざまな水物語が刻

重工業から農林漁業まで 幅広い産業を支えた動力機関発達の歩みを物語る近代化産業遺産群 *

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市町村における住民自治や住民参加、協働に関する取組状況調査

一宮市住宅マスタープラン ~ 住み続けたいまち 住んでみたいまち 人々が生き生きと暮らせるまち ~ 概要版 平成 2 5 年 3 月 一宮市

トヨタの森づくり 地域・社会の基盤である森づくりに取り組む

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自治体CIO育成教育

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介護保険制度改正の全体図 2 総合事業のあり方の検討における基本的な考え方本市における総合事業のあり方を検討するに当たりましては 現在 予防給付として介護保険サービスを受けている対象者の状況や 本市におけるボランティア NPO 等の社会資源の状況などを踏まえるとともに 以下の事項に留意しながら検討を

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平成17年5月18日 豊岡市国民健康保険運営協議会シナリオ

Transcription:

健全な地下水循環への取り組み ~ 熊本県の事例から~ 前熊本県環境生活部水環境課課長 小嶋一誠 本日のフォーラムに 熊本県の健全な地下水循環への取り組みの事例報告をさせていただく機会をいただき感謝申し上げます 熊本の取り組みに注目して頂いて大変ありがたいと思います 私の現在の仕事は 市町村総室長 つまり市町村行政の担当ですから いささか水問題とは縁が薄くなっておりますけれども 本日は 前職の熊本県水環境課長としての立場から ご報告をさせていただきます それから本日は 多数の専門家の皆様が参加されておられますが 私の講演は 地下水行政を担当している現場からのご報告となりますので そういった観点からお聞きいただきたいと思います 本日は 大きく 3 点に分けてご報告をさせていただきます まず 熊本地域の地下水の現状や地下水循環のメカニズムがどうなっているかという話です 二番目は 熊本は地下水の宝庫と言われておりますが その地下水に表れている様々な変化 課題につきましてご報告を申し上げます 三点目は そういった課題を行政としてどのように捉えて民間団体や市民の皆様方と一緒になって どんなことをやろうとしているのか この三点に絞ってご報告させていただきたいと思います 熊本県の河川概要本県は 九州のほぼ中央に位置しており 県土面積が 7400 平方キロメートルとなります その 6 割が阿蘇や九州山地の緑豊かな森林地帯に覆われており 非常に豊富な降水量がございます その豊富な降水量で育まれ 水資源には たいへん恵まれている県でございます 表に示していますが 熊本には 筑後川 菊池川 白川 緑川 球磨川など一級河川が 8 水系ございます また二級河川が 81 水系あり 支流まで含めますと 408 ほどの大小の河川があります その河川が 阿蘇山系や九州中央山系から概ね西に向かって流れ 有明海や不知火海に流入しています そして その流域に熊本平野や八代平野という肥沃で広大な平野が広がっているところでございます

熊本県内には著名な湧水源だけでも約 1000 箇所を超えると言われています この中から昭和と平成の全国名水百選にも全国一位となりますが 8 箇所が選ばれております 特に 平成 20 年度の平成の全国名水百選には 本県の場合 全国一となる 4 か所の湧水群が選定され 湧水群ですので 個々の水源に整理すれば全部で 46 水源が全国平成名水百選に選ばれたことになります いずれも 平成名水百選の中でもトップクラスの位置づけであり 文字通り全国一の名水県であると思います 豊富な湧水量例えば 写真にありますように全国名水百選に選ばれた南阿蘇湧水群の中の一つ 竹崎水源だけでも日量約 17 万m3の清冽な水が湧出しています また阿蘇市の役犬原の自噴井では 2mくらいの高さまで地下水が湧出しています さらに熊本市の健軍水源にあります熊本市水道局の 5 号井の写真がありますが 勢いよく音を立てて湧水が出ていますが こうした水前寺江津湖の周辺の湧水群だけでも日量約 40 万m3 ペットボトルで換算しますと毎日 8 億本分に相当します こうした湧水源が各地にあり 熊本は全国一の地下水の宝庫と言われております 熊本では 来春 九州新幹線が全線開業しますし こうした優れた地下水をテーマとした自然に触れて楽しむツーリズムを考えていこうと言う動きがあり 写真にありますが 肥後の国の一の宮である阿蘇神社の周辺の門前町では 既にそうしたコンセプトで ~の水 ~の湧水 というように故事来歴を示したまちづくりがはじまっています 県下全域に分布しております豊富な湧水源を中心に 弥生時代以降は それぞれの集落形成の原点となり 戦国時代には 肥後国人衆 52 人とされるように豪族が各地に群雄割拠するたいへん豊かな国でありました 豊かな国であった原因としては 各地にそれぞれが自立してやっていけるだけの基盤 肥沃な大地と豊かな水があったということだと思います

土木事業の神様 加藤清正公 熊本のお国自慢の一つは 戦国大名の加藤清正公です 熊本では親しみを込めて音読みで セイショコサン と申し上げます 清正公は 長鳥帽子に片鎌槍の姿でよく知られておりますが 概ね 戦神 と言う位置づけで 城づくりでも非常に有名です ただ熊本では 軍事技術を駆使して治山治水に目覚ましい実績を残しておられ 土木の神様 として今日でも畏敬を集めています 遠くに阿蘇を望む白川中流域には 下井手や鼻ぐり井手といった灌漑施設がありますが 清正公は県内の各河川の治水や利水に 先駆的かつ高度な技術を駆使して整備された施設は今日もなお現役です 鼻ぐり井手は用水がスパイラル状に渦を巻いて流れるようになっていて 水路に砂や泥などが溜まらない仕組みになっています 今日でも端倪すべからざる高度な技術を使って農業水路を県内各地に張り巡らしたということになります これまでの話は 熊本地域の地下水循環というタイトルからしますと 多少脇道に逸れたような印象があったかと思いますが 実は地下水循環にも清正公の治山治水あるいは用水路の開削等を通じた灌漑型の耕作地の拡大が 大変大きく影響しています 熊本地域には 東方に阿蘇山のカルデラがあり 西方に有明海が広がっています 阿蘇山に降った雨は 熊本市に向けて 菊池川 白川 緑川等が西流してきます 雨の多い本県でも阿蘇地方は たいへん豊富な降水量があり そこから西に向かって流れる白川の中流域に大きな農業地帯がございます 今日においても熊本地域では 農を守って水を守る という理念で 循環型の地下水資源を守るためにも農業を守ることが重要とされておりますが それは この白川中流域で営まれる水田農業が 熊本地域の地下水循環に大きく関与していると考えられているからです さすがに 白川中流域を水田地帯に変えた加藤清正公もそこまでの深謀遠慮はなかったんじゃないかと思いますが 結果的には熊本地域の地下水循環分野においても 清正公は熊本の恩人ということになります

熊本地域の水循環と地下水熊本地域の 13 市町村は 同じ地下水区に属しております この地域の面積は約 1000 平方キロ 人口約 100 万人が この中に住んでいます そして その生活用水はほぼ 100% 地下水に依存しています 水循環の観点から言えば 台風の通り道でもある熊本には 年間約 20 億m3の降水量がございます この内 大気中に約 7 億m3が蒸発し 約 6 億 4 千万m3が森林 草地 水田 畑地等で地下水に涵養され 残りの約 7 億m3が農地を潤した後 有明海や不知火海に注ぎます 次に 熊本地域の地質平面図を見ますと 中央の熊本平野を囲繞する形で 金峰山 山鹿 菊池山系 阿蘇のカルデラ西南麓 御船山地 木原山 宇土半島などが基盤岩で構成されておりまして その中に大きな地下水盆が形成され ひとつの地下水区となっております また熊本地域の地質断面図を見ますと これらの基盤岩の上に 阿蘇の火砕流の地層が重なってございます 非常にクラックに富んだ水を貯めるのに最も適した地層が沢山ございます そして阿蘇山系等から降りました雨が徐々に集積しながら流れてきて その途中に先程申し上げました一大農業地帯があり ここから水田などを通じて地下水として涵養され 熊本地域の台地等の末端崖等から湧出することとなっております さらに熊本地域の地下水の流動図を見ますと 大きく 3 つの地下水の流れがございます 一つは阿蘇の西麓から西に向かう流れ 途中の白川中流域の水田地帯に地下水プールがあり そこからさらに西流して熊本地域で湧出しています もう一つは 金峰山の東方から植

木台地を経由して熊本市にくる流れ さらに 御船山地の方から北西方面に江津湖に向かっての流れとなります これが主な地下水流動になりますが 過去の調査等で第一帯水層がおよそ 20m~40m 第 2 帯水層が概ね 150m 程度の深さとなって同じような方向にそれぞれ流れています 繰り返しになりますが 地下水の宝庫である熊本地域の地下水循環を総括致しますと 世界有数の活火山 阿蘇山の過去 4 回に亘る大噴火で 地下水の浸透 貯留に適した火砕流の堆積物が熊本都市圏に広く堆積をしていることがまず挙げられます そうした地層の存在に加え 全国的にも有数の降雨が 涵養域の浸透性の高い農地から随時 地下浸透していく そして熊本平野周辺の台地部に深く西流する過程で 良質の地下水となって熊本市周辺の末端崖等から湧出する そういう地下水循環の流れが構築されているということになると思います 熊本地域の地下水の変化ここからは 熊本の地下水に現在生じている現象についてお話しします 水道の蛇口をひねりますと そのまま 地下水が出て来る熊本市ですが 熊本市周辺も非常に都市化が進んでおります 熊本市は今 平成 24 年の 4 月に全国 20 番目の政令市なることを目指して取り組んでおりますが そうした大都市ですので人口の増加 住宅開発 あるいは工業団地やパワーセンターの設置などが進んでいます 過去 10 年 3000 m2を超える開発だけでも合計すると約 500 ヘクタールを超えております これを地下水の涵養量に換算しますと 約 5000 万m3くらいの涵養量が失われたことになります また農地も減少しております 中でも都市圏の農林水産業では 稲作は非常に収益力が低いために収益力の高い施設園芸型の作物が栽培されており 水稲作付面積 いわゆる湛水性の作物が非常に減っています 例えば 平成 2 年には約 151km2ありました熊本地域 13 市町村の水稲作付面積は 平成 18 年には 3 割程度減少し約 110km2まで減ってきてい

ます これが 熊本地域の地下水涵養に大きな影響を与えることになります データで見ると熊本地域の地下水流動の中ほどにあります菊陽町の辛川の観測井戸では 昭和 57 年に 29mほどあった水位が 平成 18 年には 24.9mと 約 4.4m 年間で 18 cmほど低下しています 江津湖の湧水量も右肩下がりであり 平成 4 年に日量 45 万m3あったものが 平成 18 年には 38 万m3と 14 年間で約 7 万m3減っています また 地下水質も悪化しています 地下水の涵養域が全国有数の農業地帯ですので 涵養には大変効果があるのですが 地下水質には 施肥された窒素肥料からの窒素成分の溶脱や家畜排せつ物等を原因とする硝酸性窒素による面源汚染が広がっております 生活用水のほぼ全てを地下水に依存している熊本地域では 硝酸性窒素濃度が漸増傾向にある井戸が数多く見られており持続的な地下水利用を考えると徹底した取り組みが不可避になっております 熊本県地域地下水総合保全管理計画 ( 行動計画 ) 平成 20 年度に 熊本地域の県及び市町村では 第二次となる地下水総合保全管理計画を策定しました 写真には 行動計画にある体系図を示していますが 理念として 先ほど申し上げた水質 水量面での大きな課題を踏まえ 豊かな地下水資源を将来世代に引き継ぐために 地下水を 県民共有の財産 あるいは 貴重な戦略資源 と位置付けております 平成 8 年に策定した第一次計画による取り組みの結果においても湧水量の減少傾向は止まっておりませんし 水質の悪化傾向も止まっておりません 従って もっと強力な取り組みが必要との認識で 第二次計画が策定されました 地域の宝を守って しっかりと涵養し そして健全な姿で引き継ぐためには 正確な実態把握がなかなか難しい地下水の水量や水質について 息の長い取り組みが不可欠ですが 熊本県の場合には 過去の調査 研究がかなり蓄積されておりますので 総合的な管理が可能となりつつある そし

てその取り組みは 行政だけではなくて 地下水に関係する多様な主体が一体となって取り組みをやろうとしています こうした取り組みを一言で換言すると 熊本地域の地下水管理の特徴は 健全な水循環の構築 に尽きると思います 早くから地下水盆を共有する熊本地域全ての市町村が 地下水域全体の共通課題として 市町村の枠を越えた取り組みがなされています 地下水対策は 市町村の区域を超えて全部地下でつながっていますので市町村毎に効果的な対策を行うことはできません 県も一緒になって 健全な地下水循環を維持するための計画を策定し実行に移している地域は 全国でも非常に少ないと思っております それと地下水の持続的活用のために明確な目標を掲げている点も特徴して上げられます 総合管理計画の中で定めた 6 つの大目標に沿って 想定出来うる 120 ほどの取り組みをそれぞれの実施主体が主体的に網羅的にやっていこうとしております 例えば 2006 年ベースで熊本地域では 約 6 億m3の年間涵養量がありましたが 2024 年度には 約 5 億 6300 万m3まで減少すると予測されるのに対し 計画目標では 現状の 6 億m3を越えた6 億 36 百万m3として 約 7300 万m3を新たに涵養しようとしています また年間採取量につきましては 現在は 1 億 7000 万m3を取水しています 最大の取水者は水道事業者で 年間 1 億m3くらい取水しております 計画では これをマイナス 9% くらい削減しようとしています 農業用水や工業用水は 漸減するので 問題は水道用水です 特に 水道の課題は 使用量の削減と漏水率です 漏水は年間 1 千万m3程度となっておりますので これも一つの対策になっています 地下水質は 硝酸性窒素の濃度を 全ての観測点で基準値以下に抑えることとしております このように涵養対策 節水対策 地下水質保全対策 普及啓発などいろんな取り組みを考えつく限りやろうとしております さらに 熊本県では 昭和 52 年に地下水量に関する地下水条例をつくっております その後 平成 2 年には地下水質を保全するための地下水質保全条例もつくりました そして平成 12 年には この二つの条例を統合して 地下水保全条例を策定し 量 質の両面から地下水保全対策を進めてきました 我が国には

地下水に関する基本法制というものが 今のところありません ビル用水や地盤沈下に特化した法律はありますが 地下水全体を網羅委した水法制がありませんので 必要に迫られた自治体が主体的に条例を作って 質量を規制といいますか 政策誘導を図っていくしかないという認識で今まで取り組んできました その条例を 今回の計画の中では さらに強化しようと考えています 検討課題の中には 地下水採取にかかる許可制導入とか 地下水を公水という考え方で整理出来ないかなど先駆的な検討がなされています 先ほど申し上げましたように 熊本地域全体に水質 水量面で大きな課題が顕在化していることが こうした動きの背景にあります 河川法により公水として明確に定義されております河川水とは違いまして 地下水は従来からいろいろ学説があって どちらかというと私水の領域に整理がされていましたが 最近では 私水として整理にも問題があることが指摘されております 特に熊本地域では 地下水以外に現実的に利用可能な水源がありません 先程申し上げましたように 水の宝庫というくらいですから河川はたくさんあります しかし 例え水道水源であっても継続的に取水するには 水利権が必要になります 熊本地域には河川はあっても水利権が取れるような河川がないことが問題です 従って 今ある地下水が枯渇したり 汚染されたら 飲料水にも事欠く事態となってしまいます 地域住民の日々の暮らしは 全面的に地下水に依存していることから地下水の利用なくして生活や産業活動も考えられない そうした地下水依存度の高い地域では 地下水は土地の所有者など特定の者の所有物ではなく 地域住民全体の特別な財産と位置付けることができるのではと考えています 既に 実態として質量面から大きな課題が出てきている また熊本地域では 過去の長い調査研究の成果として どこで涵養されて どこに流れているといった地下水循環のメカニズムが相当程度明らかになっている そして保全活動面からしても 行政だけではなく 地域住民も含めて 様々な主体における主体的かつ自発的な取り組みがなされています 行政だけでも年間 5 億円程度の事業をやっています そういった点を考えると やはり熊本地域においては規制強化を考える必要がある 地域の人々からも受け入れて頂くことが出来ると思います そのためには きちんとした実施主体が必要で また 地下水利用者全てが地下水の取水量に応じた負担をしていたくための負担金制度の導入についても検討しています この点につきましては 今週の 12 日に熊本地域の行政のトップが集まった地下水保全対策会議において大きな方向性の合意形成が図られたところです 最後になりますけれども 写真には 全国名水百選に選ばれた8つの水源を記載したパンフレットが出ています このような熊本の宝である湧水源を将来に亘って維持活用するために 熊本地域で進んでおります健全な地下水循環の構築に向けた動き 水環境保全に向けた取り組みなど 我が国でも先駆的とされる地下水の総合的な管理に向けたチャレンジに対して 本日参加されております専門家の皆さん方からも いろんなご助言をいただきたい

と思っておりますし 会場の皆さんには ぜひ一度 熊本に訪れていただいて 水の宝庫 熊本の湧水 地下水に触れていただければアクアツーリズムにもつながると思っております 私からのご報告はこれで終わらせていただきたいと思います ご静聴ありがとうございました