子宮頸癌の最近の話題 札幌西孝仁会クリニック婦人科腫瘍寒河江 ( さがえ ) 悟 ( さとる ) 子宮頸癌の治療成績 2001 年と最新の2008 年の5 年生存率の比較子宮頸癌の治療成績 5 年生存率は 2001 年と最新の 2008 年の比較で 予後はあまり改善していない Ib1 期 (91.7% から 94.1% へ ) IIb 期 (71.6% から 71.5% へ ) IIIb 期は 47.8% から 54.0% へ IVb 期は 19.8% から 17.3% となっている ( 日本産科婦人科学会腫瘍委員会 2008 年治療年報より ) 2013 年婦人科がん登録症例の年齢別進行期分布さらに現在の検診の広汎な広がりの成果として 0 期の上皮内癌で発見され治療に至る症例が 2013 年には 13,885 例と増加している しかし一方浸潤癌症例は 7,280 例と実は 1970 年代に逆戻りの傾向であることは嘆かわしい現状である さらなる検診の充実が望まれる 2013 年登録症例浸潤子宮頸癌 7,280 例の年齢別進行期分布をみると 若年者の I 期症例が圧倒的に多く II 期症例が高齢化しており 症例数は少ないも高齢者は明らかに進行がんが多いのが一目瞭然である このことは進行するまで病院を受診せずに放置してしまった結果とも考えられ いかに検診や予防の啓蒙が不十分かを物語っているといえる ( 日本産科婦人科学会腫瘍委員会 2013 年患者年報より ) 国内における地域がん登録と人口動態統計から婦人科がん患者の罹患率や死亡率日本産科婦人科学会の婦人科腫瘍委員会での報告とは別に 国内には地域がん登録と人口動態統計という癌患者の罹患率や死亡率をしめすデータが存在しており 産婦人科医の施設からの登録より当然増加することは否めない そのなかから 2011 年の罹患数 2013 年の死亡数を見ると 子宮がんとして上皮内癌を含めると 40,000 例程度が存在し 子宮がんは 26,741 例登録され うち頸癌は 11,378 例 体癌
は 14,763 例と体癌が増加し 頸癌より多いことがわかる 2013 年の死亡数では 6,033 例が死亡されそ の内訳として死亡率の計算では年間 4,000 例以上の子宮頸癌の死亡例 年間 2,000 例以下の子宮体癌の 死亡例が予想される 子宮頸癌の治療子宮頸癌の手術療法に関しては できるだけ早期に診断し 子宮を温存する手術 低侵襲手術の流れが加速している 円錐切除術 頸部切断術 神経温存広汎手術 腹腔鏡下あるいはロボット支援手術 見張りリンパ節 sentinel lymphnode 生検の試みなどが盛んに行われている しかし円錐切除術が妊娠 出産に及ぼす影響も報告されており 円錐切除術により子宮の温存が可能になっても 実は手術歴のある人とない人では 2 倍ほど円錐切除例では早産 低出生体重児の増加するリスクと関連がみられる より進行した Ib2 期から IIIb 期の子宮頸癌では放射線療法 +/- 化学療法が中心に治療がされる その際には化学療法の同時併用放射線療法が 2000 年の米国 NCI の警告以来 世界標準であるが しかし依然治療効果は不十分である そこで全世界で新しい臨床試験が行われている その代表的研究が 毎週シスプラチン投与を 3 週ごとに変更は可能か 放射線療法の前に化学療法 放射線療法の後に化学療法などである さらに放射線療法の強度を上げた治療法 集中的な照射法や重粒子線照射 ( 中でも陽子線治療 ) などが試みられている また進行再発子宮頸癌への分子標的薬の臨床試験はようやく 2014 年に発表され論文化され 無病生存期間のみならず全生存期間も延長するという画期的報告がある 今後近いうちに本邦でも保険適応になるという 子宮頸癌の発症原因子宮頸癌の発症にはヒトパピローマウィルス (HPV) 感染が重要であり その予防には HPV ワクチンがあり その検診には細胞診と HPV DNA 検査があげられる HPV 感染から子宮頸がんへと進行する自然史は図のごとく ほとんどは自然治癒するが 一部が不顕性持続感染し子宮頸癌へと進展するとされている
また日本における子宮頸癌の HPV 型別分布は 検診または治療のため外来を受診した女性 2,282 人のうち 浸潤性子宮頸癌と診断された人 (n=140) を PCR により HPV の検出および型別判定を行ったところ HPV16,18 型が 64.9% であり HPV16,18 型以外の型との混合感染を含めると 67.1% とされ HPV16,18 型の感染が極めて重要である 子宮頸癌の一次予防そこで子宮頸癌の一次予防は HPV16/18 の感染予防としての HPV ワクチンであり 現在 HPV16/18 感染予防の 2 価ワクチン (Cervarix) HPV6/11/16/18 感染予防の 4 価ワクチン (Gardasil) が上梓されている 世界中で 130 カ国以上に導入され 最近はとくにアフリカで顕著である このワクチンに関する世界でのトピックスは 少女のみでなく少年 男性への投与であり 3 回接種から2 回または 1 回? という投与回数の減少でも効果がある可能性 さらに 2 価 4 価ワクチンからさらに多くの HPV の型の感染に効果を示す9 価ワクチンの開発が進んでいることである さらに HPV 予防ワクチンが世界中で使用されるようになってからの前癌病変の発生率が実際に減少していることが近年相次いで報告されている まずはオーストラリアで 18 歳未満の女性において 4 価 HPV ワクチン接種プログラム実施後に高度子宮頸部病変 (CIN2+, AIS) 発生率の低下が認められ 18-20 歳の女性にも減少傾向が確認されている またスコットランドにおいて 学年別の接種率と CIN1,2,3 発症リスクの比較では 2 価ワクチン接種率が高い年代になるにつれ CIN 発症リスクが低下しているという結果が出ている そこで我が国における HPV ワクチンに関する政策の推移は一度積極的勧奨が始まったが 副反応の問題で中止となり 2014 年 12 月現在 積極的勧奨再開の是非に関し 審議継続中である また副反応に関しては 平成 27 年 8 月 HPV ワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引きが日本医師会 / 日本医学会から発信されている 子宮頸がん予防ワクチンのリスクとベネフィットに関しては 副反応リスクと HPV ワクチンで救える
命, 女性と家族の QOL を十分に考慮する必要があり 世界の国々はリスクを踏まえ 社会全体のベネフィットを選択しています 現在子宮頸がんの生涯罹患リスク 76 人に 1 人とされている そこで HPV 予防ワクチンのベネフィットとしては ワクチン接種で 救える命が年間 2,500 人 がん発症を免れる人が年間 7,000 人 円錐切除術を免れる人は年間 6,300 人にのぼるとされている 一方 HPV 予防ワクチンのリスクは 広範な疼痛症例は 2 人 /10 万人程度であり ワクチンとの因果関係を示すエビデンスは得られていない また重篤な副反応で多い報告は失神であり この失神は思春期の女性に多く 接種後 30 分の安静により抑制できる 諸外国でも報告はあり わが国特有の副反応はないとされている 子宮頸癌の二次予防は検診二次予防は子宮頸がん検診です 最近の流れは 細胞診単独検診から細胞診 HPV 検査併用検診への転換です 世界各国の子宮頸がん検診受診率を比較すると OECD 加盟国における 20~69 歳の女性は 70-80% であるのに比べ 我が国の 2011 年の統計では 37.7% であり先進国の中で最低レベルである 中でも 20 代前半 10.2% 20 代後半 24.2% と極めて低率である 子宮頸がん発生率と検診受診率 ( 英国 ) の関係を示した最近のデータでは 英国では Call Recall System を導入したことで検診受診率が増加し 子宮頸がんの発生率が低下したという実例もある 細胞診と HPV 検査併用検診の有効性各検診方法における CIN3: 高度異形成 上皮内癌の発生率は細胞診のみ陰性症例では経年で徐々に上昇するとされ 一方 HPV 検査のみ陰性症例やと細胞診と HPV 検査併用検診の症例ではほとんど増加しなかったという報告がある HPV 検査を行うことで 異常細胞の見逃しがほぼ 100% ない! すなわち検診に対する安全性と強い信頼感が提供出来るといえる 細胞診 HPV 併用検診の先駆けとして 出雲市 の取り組みがあげられ 過去 6 年間にわたり細胞診 HPV 併用検診を実施し それが原因で 高精度の検査による安心感を生み 受診間隔延長により精神的
経済的負担が軽減された その結果 受診率が 4 倍へ上昇し 子宮頸部異常の早期発見が 4 倍に増加し早期治療が可能となった このことは 少子化対策にも貢献し 浸潤癌の激減をもたらしたという驚異的成果を上げている 以上の取り組みがもたらした成果は 最終的に検診助成費が 30% 削減され 医療費の削減につながった まとめ要するに子宮頸癌は残念ながら罹患率 ( 症例の頻度 ) は 70 年代に逆戻りの感があり 危機感を覚えます 治療としての手術はどんどん縮小傾向 低侵襲手術の方向であるが 依然として浸潤がんも多く術後合併症の対策が急務である 放射線療法は化学療法との併用で効果を示し さらに抗がん剤は分子標的薬の応用が始まったばかりである 子宮頸がんの予防は HPV ワクチンであり 欧米の現状を十分考慮し 我が国では積極的勧奨が中止のままであり早期の再開を希望するものである 子宮頸がんの検診は細胞診ならびに HPVDNA テストの併用への流れが急速に進んでいる