上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

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小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

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平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

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1.若年性骨髄単球性白血病の新規原因遺伝子を発見 2.骨髄異形症候群の白血病化の原因遺伝子異常を発見

はじめに 日本で最初の造血幹細胞移植が行われたのは 1974 年ですが 199 年代に入ってから劇的にその件数が増え 近年では年間 5, 件を超える造血幹細胞移植が実施されるようになりました この治療法は 今日では 主に血液のがんである白血病やリンパ腫 あるいは再生不良性貧血などの根治療法としての役

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

04骨髄異形成症候群MDS.indd

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 中谷夏織 論文審査担当者 主査神奈木真理副査鍔田武志 東田修二 論文題目 Cord blood transplantation is associated with rapid B-cell neogenesis compared with BM transpl


解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

活動報告 [ 背景 ] 我が国では少子高齢化が進み 遺伝子異常の蓄積による白血病などの病気が増加している 特に私が専門とする急性骨髄性白血病 (AML; acute myeloid leukemia) は代表的な血液悪性疾患であり 5 年生存率は平均して 30-40% と 多くの新規治療法 治療薬が

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

告では DNR も IDR もさらに高い CR 率 (75~80% vs 79~82%) と DFS 率 (25~44% vs 26~30%) が報告されており meta-analysis の報告と異なって両者間に差を認めていない これは 欧米での DNR の総投与量が 135~150mg/m 2

芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍における高頻度の 8q24 再構成 : 細胞形態,MYC 発現, 薬剤感受性との関連 Recurrent 8q24 rearrangement in blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm: association wit

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虎ノ門医学セミナー

( 報告様式 4) 16cm h0001 平成 29 年 5 月 31 日 平成 28 年度委託研究開発成果報告書 I. 基本情報 事業名 : ( 日本語 ) 次世代がん医療創生研究事業 ( 英語 )Project for Cancer Research and Therapeutic

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

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するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1

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EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

上原記念生命科学財団研究報告集, 31 (2017)

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報道発表資料 2007 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 ヒト白血病の再発は ゆっくり分裂する白血病幹細胞が原因 - 抗がん剤に抵抗性を示す白血病の新しい治療戦略にむけた第一歩 - ポイント 患者の急性骨髄性白血病を再現する 白血病ヒト化マウス を開発 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

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白血病治療の最前線

白血病

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骨髄異形成症候群に対する 同種造血幹細胞移植の現状と課題

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

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汎発性膿庖性乾癬の解明

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白血病とは 異常な血液細胞がふえ 正常な血液細胞の産生を妨げる病気です 血液のがん 白血病は 血液細胞のもとになる細胞が異常をきたして白血病細胞となり 無秩 序にふえてしまう病気で 血液のがん ともいわれています 白血病細胞が血液をつくる場所である骨髄の中でふえて 正常な血液細胞の産 生を抑えてしま

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

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造血器悪性腫瘍 はじめに 造血器悪性腫瘍とは 血液 骨髄 リンパ節が侵されるがんの総称で 白血病 リンパ腫 骨髄腫などがあります これらの臓器は血流やリンパ流によって密に連絡しており この流れを介して早期から全身に広がる傾向があります この点は胃がんや肺がんが末期に転移をおこすのと対照的で 悲観する

中医協総 再生医療等製品の医療保険上の取扱いについて 再生医療等製品の保険適用に係る取扱いについては 平成 26 年 11 月 5 日の中医協総会において 以下のとおり了承されたところ < 平成 26 年 11 月 5 日中医協総 -2-1( 抜粋 )> 1. 保険適

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

( 報告様式 4) 16cm h0001 平成 29 年 5 月 26 日 平成 28 年度委託研究開発成果報告書 I. 基本情報 事業名 : ( 日本語 ) 次世代がん医療創生研究事業 ( 英語 )Project for Cancer Research and Therapeutic

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

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ポイント 急性リンパ性白血病の免疫療法が更に進展! -CAR-T 細胞療法の安全性評価のための新システム開発と名大発の CAR-T 細胞療法の安全性評価 - 〇 CAR-T 細胞の安全性を評価する新たな方法として これまでの方法よりも短時間で正確に解 析ができる tagmentation-assis

B型肝炎ウイルスのキャリアで免疫抑制・化学療法を受ける患者さんへ

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号添加物 ( キャップ色等 ) 採取容器採取材料採取量測定材料ノ他材料 DNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 JAK2/CALR. 外 N60 氷 採取容器について その他造血器 **-**

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml DNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 JAK2/CALR. 外 N60 氷 採取容器について

< 研究の背景 > 肉腫は骨や筋肉などの組織から発生するがんで 患者数が少ない稀少がんの代表格です その一方で 若い患者にしばしば発生すること 悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと 早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいます ユーイング肉腫も小児や若年者に多く 発見が遅れると全身に転移する

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

がん登録実務について

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

白血病治療の最前線

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1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

別添資料 平成 27 年 9 月 10 日福島県立医科大学 医療被ばく (CT 検査 ) による生体影響に関する発見 研究成果のポイント 1. 1 回の CT 検査 (5.78 msv~60.27 msv) によって染色体異常が誘発されている可能性が示唆された msv 未満の放射線被ば

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日本内科学会雑誌第104巻第6号

小児がん中央機関からの報告 1 情報提供 ( 院内がん登録 ) 国立がん研究センターがん対策情報センター センター長若尾文彦 1

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

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上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016) 73. がん治療後に発症する二次性白血病の分子病態の解明 清井仁 名古屋大学大学院医学系研究科血液 腫瘍内科学 Key words: 二次性白血病, 遺伝子異常, 治療関連腫瘍 緒言新規抗がん剤 分子標的薬 自己末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法の導入や放射線療法の進歩などにより がん患者の予後は改善されている一方で がん治療後に発症する二次性白血病の頻度が増加している 実際 放射線同位元素標識抗体薬や免疫調節薬 (IMiDs) については 治療効果のみならず二次発がんの危険性を考慮する必要性も示唆されている 我々はこれまでに 骨髄異形成症候群 (MDS)/ 急性骨髄性白血病 (AML) に生じている分子異常を明らかにするとともに 複数の分子異常が蓄積し 複合的かつ協調的に作用することにより発症 進展 病態に関与していること 同種骨髄移植症例に発症したドナー由来白血病において 健常ドナー血液細胞中に白血病発症の基盤となる遺伝子変異 (Initiating 変異 ) を有するクローンが既に存在していることを明らかにしてきた これらの結果は 二次性白血病の発症には Initiating 変異あるいは既に存在する Initiating 変異に加えて Driver/Passenger 変異の蓄積が化学療法や放射線療法によって誘発された外因的要因と それら変異を排除できない宿主側の内因的要因が加わることにより de novo AML よりも短期間で AML の発症に至る可能性を示唆している 本研究では 治療関連二次性白血病の網羅的分子異常解析を de novo 白血病症例と比較しつつ実施するとともに 同定された遺伝子変異を有する Initiating/ Founding clone の存在を正常血液細胞で高感度に検出することにより 発症基盤となる特徴的な分子異常や前治療特異的な遺伝子変異の蓄積様式の存在を検討した 1

1. 治療関連骨髄性腫瘍における遺伝子変異 方法および結果 13 例の治療関連骨髄性腫瘍 (AML/MDS) 発症症例を対象とした ( 表 1) 表 1. 二次性白血病一覧 13 例の治療関連白血病症例を解析した 病型は MDS:9 例 慢性骨髄単球性白血病 (CMML):2 例 AML:2 例であった 二次性白血病発症時年齢は 24 歳から 76 歳であり 一次腫瘍に対する最終治療から二次性白血病発症までの期間は 1か月から 最長で 84 ヶ月であった 一次腫瘍に対し使用された化学療法としてはアルキル化剤を含むものが 9 例と最も多数であった 染色体核型検査では 8 例が3 種類以上の異常を伴う複雑核型であった これら症例の網羅的遺伝子変異解析結果を表 2 に示す TP53 TET2 遺伝子変異がそれぞれ6 例に認め最も高頻度に認められる遺伝子異常であった また エピジェネティクスの状態に影響を与える遺伝子 (TET2, DNMT3A, IDH2, EZH2) の変異が 8 例と高頻度に認められた 一方 de novo AML に高頻度に認められる細胞増殖の促進に関与する遺伝子変異は PTPN11 遺伝子変異を1 例に認めただけで 二次性白血病と de novo AML に生じている遺伝子変異に大きな違いがあることを明らかにした 1) 表 2. 二次性白血病で同定された遺伝子変異 TP53 遺伝子 エピジェネティック関連遺伝子の変異が高頻度で認められた 2

2. リンパ系腫瘍後の二次性骨髄性腫瘍の経時的遺伝子変異リンパ系腫瘍に対する治療後に 二次性骨髄性腫瘍を発症した3 例について 一次腫瘍と二次腫瘍細胞に生じている遺伝子変異をエクソーム解析により比較した 多発骨髄腫 (MM) に対し アルキル化剤を中心とした化学療法と自己末梢血幹細胞移植術を実施し 寛解を維持中 30 ヶ月後に MDS を発症した症例 ( 表 1. 症例番号 5) における MM および MDS 細胞のエクソーム解析による遺伝子変異の比較を行った MM 細胞では SF3B4 DNMT3A などを含む 24 種類の遺伝子に変異が認められた MDS では TP53 TET2 などを含む 28 の遺伝子変異が認められた これらの遺伝子変異は造血器腫瘍細胞に高頻度で認められる遺伝子変異であるが MM 細胞 MDS 細胞に共通して認められる遺伝子変異は同定されず また 寛解時の正常血液細胞においても検出されなかった 濾胞性リンパ腫 (FL) に対し アルキル化剤を中心とした化学療法と自己末梢血幹細胞移植術を実施し 寛解を維持中 48 ヶ月後に CMML を発症した症例 ( 表 1. 症例番号 7) における FL および CMML 細胞のエクソーム解析による遺伝子変異の比較を行った FL では ALK などを含む 25 の遺伝子変異が CMML では ZRSR2 や EZH2 を含む 27 の遺伝子変異が認められ 両者共通する遺伝子変異として TET2 遺伝子変異が認められた ( 図 1) TET2 遺伝子変異は 患者頬粘膜より採取した DNA では認められず somatic 変異であることが確認された 本患者の FL 細胞は BCL2-JH3 遺伝子の再構成を伴っており 腫瘍細胞特異的な塩基配列を指標として高感度に FL 細胞を同定することができる 注目すべき事は 本患者の末梢血幹細胞および CMML 細胞では BCL2-JH3 遺伝子の再構成が検出されず これら細胞には FL 細胞の混入は認めなかったにも関わらず TET2 遺伝子変異は 正常末梢血幹細胞にも同定された ( 図 2) この結果は 正常造血幹細胞レベルで既に TET2 遺伝子変異を有する Initiating clone が存在し 更なる遺伝子変異の蓄積によって FL CMML が発症した可能性を示唆するものである 図 1. 濾胞性リンパ腫に対する自己末梢血幹細胞移植術後 CMML を発症した症例 濾胞性リンパ腫 (FL) では ALK などを含む 25 の遺伝子変異が CMML では ZRSR2 や EZH2 を含む 27 の遺 伝子変異が認められ 両者共通する遺伝子変異として TET2 遺伝子変異が同定された 3

図 2. 二次性 CMML を発症した症例における TET2 遺伝子変異の経時的変化 TET2 遺伝子変異は 患者頬粘膜より採取した DNA では認められず somatic 変異であった 本患者の FL 細胞は BCL2-JH3 遺伝子の再構成を伴っているが 末梢血幹細胞および CMML 細胞では BCL2-JH3 遺伝子の再構成が検出されず これら細胞には FL 細胞の混入は認めなかったにも関わらず TET2 遺伝子変異は 正常末梢血幹細胞にも同定された 濾胞性リンパ腫 (FL) に対し アルキル化剤を中心とした化学療法を実施中に MDS を発症した症例 ( 表 1. 症例番号 10) における FL および MDS 細胞のエクソーム解析による遺伝子変異の比較を行った FL では BCL2 などを含む 38 の遺伝子変異が MDS では TET2 を含む 13 の遺伝子変異が同定された 本症例では FL および MDS 細胞に共通する somatic 変異は認められなかったが c-myb の 404 番目のセリン以降が欠失する遺伝子変異が germline に認められた ( 図 3) 本遺伝子変異は 白血病の発症 進展との関連が報告されており 2) 造血器腫瘍の発症基盤となる Initiating 変異としての機能解析が必要である 4

図 3. 濾胞性リンパ腫に対する化学療法を実施中に MDS を発症した症例濾胞性リンパ腫 (FL) では BCL2 などを含む 38 の遺伝子変異が MDS では TET2 を含む 13 の遺伝子変異が同定された 本症例では FL および MDS 細胞に共通する somatic 変異は認められなかったが c-myb の 404 番目のセリン以降が欠失する遺伝子変異が germline に認められた 考察 本研究では 治療関連二次性白血病の分子病態の解析を行った 治療関連二次性白血病では de novo AML と異な り TP53 遺伝子やエピジェネティクス関連遺伝子の変異が高頻度に認められたことより 遺伝子の不安定性や Initiating clone の存在がその発症基盤に関与していることが強く示唆される 注目すべきことは 悪性リンパ腫の治療 後に二次性の骨髄性腫瘍を発症した 2 例において 一次性腫瘍と二次性腫瘍に共通する遺伝子変異の存在が同定された ことである 近年 正常人における網羅的遺伝子変異解析の結果 高齢者造血細胞にはエピジェネティクス関連遺伝子 の変異を有するクローンの存在が指摘されている また 我々も同種造血幹細胞移植実施症例において ドナー由来白 血病の発症例では ドナー造血幹細胞中に既に遺伝子変異を有するクローンが存在することを明らかにしている 3) 今 回造血幹細胞中に同定された TET2 遺伝子変異は 加齢に伴う back ground 変異によるものか 何らかの要因によっ て引き起こされたものかについては 一次腫瘍発症前の検体が得られないために結論を得ることはできず 更なる検証 が必要である 一方 白血病発症に関連する C-MYB 遺伝子の germline レベルでの変異が同定された症例が見出され たことより germline 変異を有することによって 複数の造血器腫瘍が発症した可能性も示唆されることとなった これらの結果は 二次性造血器腫瘍の発症機構には 複数の要因による遺伝子変異を有するクローンの存在が関与する 可能性を示唆しており 更に詳細な検討を実施中である 共同研究者 本研究の共同研究者は 名古屋大学大学院医学系研究科血液 腫瘍内科学の石川裕一 西山誉大である 本研究にご 支援を賜りました上原記念生命科学財団に深く感謝いたします 文献 1) Kihara R, Nagata Y, Kiyoi H, Kato T, Yamamoto E, Suzuki K, Chen F, Asou N, Ohtake S, Miyawaki S, Miyazaki Y, Sakura T, Ozawa Y, Usui N, Kanamori H, Kiguchi T, Imai K, Uike N, Kimura F, Kitamura K, Nakaseko C, Onizuka M, Takeshita A, Ishida F, Suzushima H, Kato Y, Miwa H, Shiraishi Y, Chiba K, Tanaka H, Miyano S, Ogawa S, Naoe T. Comprehensive analysis of genetic alterations and their prognostic impacts in adult acute myeloid leukemia patients. Leukemia. 2014 Aug;28(8):1586-95. doi: 10.1038/leu.2014.55. PubMed PMID: 24487413. 5

6 2) Tomita A, Watanabe T, Kosugi H, Ohashi H, Uchida T, Kinoshita T, Mizutani S, Hotta T, Murate T, Seto M, Saito H. Truncated c-myb expression in the human leukemia cell line TK-6. Leukemia. 1998 Sep;12(9): 1422-9. PubMed PMID: 9737692. 3) Yasuda T, Ueno T, Fukumura K, Yamato A, Ando M, Yamaguchi H, Soda M, Kawazu M, Sai E, Yamashita Y, Murata M, Kiyoi H, Naoe T, Mano H. Leukemic evolution of donor-derived cells harboring IDH2 and DNMT3A mutations after allogeneic stem cell transplantation. Leukemia. 2014 Feb;28(2):426-8. doi: 10.1038/ leu.2013.278. PubMed PMID: 24067491.