鳥獣害の防止 農林水産省 野生鳥獣被害防止マニュアル より抜粋 鳥獣害を防ぐ三つの心得 1 誘引除去野生鳥獣の食料となるものを管理 除去 2 侵入防止農地に接近させない 防護柵の設置 威嚇 忌避剤 ( 鳥類 ) 緩衝地帯の設置 3 捕獲加害する野生鳥獣の捕獲による被害の軽減 被害を徹底的に防ぐという覚悟が必要 鳥獣害を防ぐ手段 1 誘引除去 野生鳥獣を寄せ付けない環境を整備する (1) 農地の管理 収穫しない野菜や果樹 間引いた株は 農地に残さない 簡単に取られないようにネットで囲んだり 土に埋めるなど適切に処理する 収穫終了後には耕起し ひこばえや雑草の発生を抑える 果菜類は 野生鳥獣から見えない側に実らせる 野生鳥獣のえさ場や隠れ家にならないように 定期的に雑草を除去する 被害の少ない農作物の利用 トウガラシやコンニャクなど野生獣の嗜好性の低い農産物を 主に栽培する または 農地の外周に目隠し代わりに植える 嗜好性の低い農作物 嗜好性の低い農産物 比較的嗜好性の低い 被害の少ない農産物 シカイノシシサル サトイモシソニガウリモロヘイヤキウイフルーツユズ タカノツメコンニャクゴボウシソ白ネギウコンニンニクパプリカ等ピーマンショウガミントバジルハクサイオクラ タカノツメコンニャク サトイモゴボウミョウガニラ
被害を受けにくい作付方法 ( 鳥類 ) 鳥類では作付方法による被害軽減も有効である 種子を深めに播く トウモロコシでは 6~9cmの深播きにより苗が地上に現れるまでに十分に根付くことができるため カラスやハトなどによる被害を軽減することができる ( カラスやハトのトウモロコシの出芽苗の被害は 十分に根を張っていないうちに引き抜かれて 種子が食べられるために発生する ) こぼれた種子が畑の周囲にあると 鳥類に見つかりやすくなるので注意 一斉播種近隣の農家同士が時期を合わせて一斉に広域に播種を行うことで 被害が分散して単位面積当たりの被害量の減少が期待できる 播種期の大豆や小豆などへのハト被害対策には有効 播種した圃場に被害が集中 播種時期を合わせると被害が分散 播種時期の工夫地域内に他のえさが存在する時期に合わせて播種することで 被害の軽減が図れる 麦の刈り取り直後に大豆を播種すると 大豆へのハトの被害を減らせる ただし麦の収穫直前はハトにとってえさが乏しい時期なので注意が必要 カモフラージュ大豆では 子葉が展開するまでのハト被害が収量に大きく影響するため 播種後に地面をワラなどで覆って子葉が展開するまでの大豆を隠す 1 播種後 麦わらなどで地上部を覆う 2 大豆は麦わらの中で発芽する 3 麦わらの上に出たときには出芽後 4~5 日が経過し 子葉は展開の途中にあるので 成長点まで被害を受けることは少ない
(2) 人家等での管理 果物やジュース 菓子などお墓のお供え物は お参りが終わったら持ち帰る 軒下の干し柿や干し芋など餌となりそうなものは 野生鳥獣の手が届かないようにネットで囲うなどして管理する 無人直売所では 簡単に取られない工夫をする (3) 耕作放棄地 遊休地の管理 収穫せず放置された果樹は野生鳥獣の餌となるため できるだけ伐採する 野生鳥獣のえさ場や隠れ家にならないように 定期的に除草する (4) 道路のり面やあぜなど共有地の管理 農道のり面やあぜなどの雑草もシカの良いえさやイノシシの隠れ場所となるた め 除草する 2 侵入防止 (1) 防護柵ア防護柵設置の基本 3 原則 1 農作物の味を覚えさせない 一度味を覚えてしまったら その味に執着し 繰り返し侵入を図る チャレンジを繰り返すことで やがて突破口を見つけ 侵入する 2 潜り込めるとは思わせない 3しびれない電気柵は設置しない ( 十分な電気ショックを与える電圧を保つ ) しびれないことを学習した野生獣は 電線の存在に慣れ いちいち鼻先や手のひら等で確認しなくなる 野生獣の毛に覆われた部分は電気を通しにくいため 鼻先や手のひら等で確認しなければ電気ショックをほとんど受けずに侵入できる
イ防護柵の種類と特徴 ウ防護柵が野生鳥獣を防ぐ仕組みと方法 ( ア ) 視界を遮ることで侵入する気をなくすトタン板 遮光ネット ビニールシートなどを用いた防護柵 効果 目で安全を確認しにくいため 侵入をためらわせる効果がある 欠点 柵と地面や 柵のつなぎ目に隙間があると 侵入防止効果が減少する
トタン板によるイノシシ防護柵トタン板による防護柵は 主にイノシシ用に用いられる < 設置のポイント> つなぎ目に隙間ができないようにトタン板を十分に重ねる ( 隙間があるとイノシシが隙間を広げて侵入しようとする ) 地面に凹凸があり地面との隙間ができる場合は トタン板を複数枚使用して隙間をなくす 支柱は トタン板の長さより20cmほど短い1.6~1.8m 間隔で立て ぐらつかない深さまで打ち込む 防護柵の周辺は イノシシ等が身を隠せないよう定期的に除草する 傾斜地では イノシシが飛び越えにくいように トタン板を縦に2 段に重ねる
( イ ) 高さや強度で防ぐ金網やワイヤーメッシュなどを用いた防護柵 効果 イノシシやシカが容易に飛び越せない高さと強度を持たせ 物理的に侵入を防ぐ 欠点 柵内の農作物が見えるため 繰り返し侵入を図り突破することもある サルは柵を容易に登るので 侵入防止にならない ワイヤーメッシュによるイノシシ防護柵ワイヤーメッシュによる防護柵は 主にイノシシ用に用いられる < 設置のポイント> イノシシ用のワイヤーメッシュは 鉄筋の径が5mm 目あいが10cm 以下のものを用いる 防護柵の周辺は イノシシ等が身を隠せないよう定期的に除草する
イノシシは鼻で柵の下を掘って柵を持ち上げ侵入するため 防護柵の直下にワイヤーメッシュを平おきして掘り返しを防止するか 水平方向に直管パイプを渡し補強して持ち上げを防止する ワイヤーメッシュの上部 30cm 程度を外側に20~30 折り返すことで イノシシが防護柵を跳び越えるのを防止する効果がある ( ウ ) 絡むネットや糸 しなる支柱が野生鳥獣を困らせる漁網やイノシシ シカ用ネットを用いた防護柵 効果 イノシシ シカのひづめや脚にネットが絡み 絡んだネットが思うようにかみ切れないため 嫌がって近づかない 外側にネットを斜めに垂らすと 柵の間際に近づけないため 跳躍力が削がれる 欠点 柵内の農作物が見えるため 繰り返し侵入を図り突破することもある
ネットによるイノシシ シカ防護柵ネットによる防護柵は 主にイノシシやシカ用に用いられる < 設置のポイント> ネットの高さは イノシシで1.5m 以上 シカで2m 以上必要 ネットは強く張らず緩めに張った方が 野生獣がネットを噛み切りにくく 体が絡みやすいため 防護効果が高くなる ネットの裾を石で押さえるとイノシシの掘り起こしを誘引するため ペグや直管パイプで固定する 農地の外側に斜めにネットを垂らすことで イノシシやシカの踏み切り位置を遠ざけて跳躍力をそぐことができ 垂らした裾が支柱から遠くなる ( 支柱から1m 以上 ) になるほど 跳び越え防止の効果は高くなる トタン板や遮光ネットによる防護柵と組み合わせ イノシシやシカに農作物が見えないようにすることで 侵入防止効果が高くなる イノシシやシカが防護柵に近づきにくいように また植物が絡んで柵が倒壊しないように 防護柵の周辺を定期的に除草する 野生獣にネットが噛み切られたり 破られたりするので 定期的に点検し 補修する
ネットによるサル防護柵 猿落君 ネットは結束バンドで弾性ポールに固定する その際 ネットは強く張らずに緩く張る ネット 直管パイプ ( エ ) 農作物を覆う ( 鳥類 ) 防鳥ネットで農作物を完全に覆い 侵入を防ぐ カモ類やカラス類などの大型の鳥類では 農地の周りにテグスや糸 針金などの糸状のものを張ることで ある程度の侵入防止効果が期待できる 効果 網目より大きな鳥は侵入できない ( 網目が小さいほど防鳥効果は高いが 風雪等による影響が大きくなるため 鳥の種類によって 網目の大きさを変える )
欠点 わずかな隙間でも侵入し ネットの外側から被害を受けることがある 他の動物では簡単に侵入されてしまう ネット 対象鳥による網目選択の目安 対象鳥 網目サイズ スズメ 20mm ヒヨドリ ムクドリ 30mm カラス 75mm ネットは緩みの無いようにしっかり張る ネットの張りが緩いと鳥の重みで 垂れ下がり 被害出てしまう 上部のネットがたるまないように 支柱を設置したり 支柱間にワイヤーを渡すなどが必要 テグス 糸 針金等 平行にテグスを張る方法 斜めにもテグスを張る方法
テグスや針金を張る 側面は防鳥ネットを使用することで侵入防止効果が高まる ( オ ) 電気ショックを与えて防ぐ電線や通電ネットを用いた電気柵 効果 野生獣が電気ショックを受けた学習効果によって近づかなくなる 欠点 十分な電圧(5000ボルト以上) を保てないと効果が発揮できないので 漏電防止のため 電気柵周辺の定期的な除草が必要 電気による防護柵電線による防護柵は 主にイノシシやシカ ハクビシン アライグマ用として ネットと電線の複合型の防護柵は主にサル用として用いられる < 設置のポイント> 週一回はテスターなどで電圧を点検する 電気柵の全周を回って 柵線が支柱や地面 雑草に触れていないかを確認し 補修や除草を行う 電気柵を撤去しない限り 常に通電状態を保つ 通電しない場合は撤去する 電線による電気柵
イノシシ シカ用 ハクビシン アライグマ用
舗装路は土に比べ電気を通しにくいので 野生獣が電気柵に触れた時に踏みつけている箇所が土になるように 舗装路と電気柵は 50cm 以上離す ネット 電線複合型 サル用 多獣種用 * 獣塀くんライト山梨県総合農業技術センターが開発した電気柵 イノシシ シカ クマ サル キツネ タヌキ ハクビシン テンなど多獣種の侵入防止に効果がある 資材費が安価(1m 当たり450 円程度 + 電牧器代 )
獣塀くんライト必要資材品名 仕様 必要量 コーナー支柱 ク ラスファイハ ー製 径 14mm 200cm コーナー数 +1 本 ダンポール 径 85mm 210cm 外周 m 2.5m 電牧線 200m 外周 m 9 段 針金 径 0.9mm 200m ( コーナー数 +1 本 ) 4m マイカ線 500m ( 外周 m 2 本 )+( コーナー数 4m) 防鳥ネット 1.8m 18m, 目あい45mm 外周 m 18m 塩ビ管 内径 16-18mm 40cm 1 結束バンド 長さ10cm 1000 本 1 結束バンド ( 長 ) 長さ15cm 100 本 コーナー数 9 本 電牧器 1 アース棒 1 防草シート 50cm 100m 外周 m 防草シート固定ヒ ン 長さ30cm 外周 m 2 本 (2) 威嚇新しい物や環境に対する鳥獣の警戒心から当初は効果を発揮する しかし いずれ鳥獣が慣れ 効果が減少あるいは無くなってしまう 威嚇効果を持続させるための工夫 1 期間を限定して使用する収穫前などの鳥獣害に遭いやすい時期に限定して使用する 2 複数の方法を組み合わせる 複数の方法を同時に行う ある方法を一定期間行ったら 他の方法に変更する ア音や光を使った威嚇 ( ア ) 爆音機プロパンガスなどを用いて爆音を鳴らす装置を設置する 定期的に音を鳴らすだけでは 鳥獣がすぐに慣れてしまうので 爆音の間隔を変えたり 設置する場所を変えると良い 大きな音を発生させるため 使用に際しては 周囲への影響を考慮する必要がある
( イ ) センサー付きライト鳥獣が出現した際に明かりがつく防犯用のセンサー付きライトを活用 ツキノワグマ対策にも用いられ 一定の期間は効果がある ( ウ ) ロケット花火や爆竹玩具として販売されているロケット花火や爆竹を使用する ロケット花火や爆竹の野生鳥獣の追い払い用での使用に際して火薬類取締法上 がん具煙火 でなく 煙火 に該当するため 次の12 の遵守が必要となる 1 火薬又は爆薬 10グラム以下のロケット花火や爆竹を1 日に200 個以下使用するのであれば 都道府県知事の許可は不要だが 200 個を超えて使用する場合は 都道府県知事の許可が必要 2 加えて 法規則第 56 条の4の規定が適用され 消費の技術上の基準として 消火用水を備えることやあらかじめ定めた危険区域内に関係者以外立ち入らないようにすること 風向きを考慮して上方その他の安全な方向に打ち揚げることなどの決まりを遵守する必要がある また 人のいる方向や可燃物のある方向に打ち揚げた場合 事故や火災につながる危険性もあるので 安全な使い方を徹底するよう十分注意する イ臭いを使った威嚇 ( ア ) 強い臭いの物質木酢液やクレオソート ( 木材の防腐剤 ) などの臭いの強い物質を農地周辺に撒いたり それらを染み込ませた新聞紙や布などを支柱に取り付け 農地に立てる 臭いだけでは忌避効果がほとんど無いので 他の侵入防止方法と組み合わせて使用する 木酢液やクレオソートはイノシシには効果が見られないとの研究結果あり ( イ ) 動物の毛や糞 尿猛獣の糞や尿を染み込ませたものを農地周辺に撒く または網に入れて農地周囲に立てる 人の頭髪も用いられる 臭いだけでは忌避効果がほとんど無いので 他の侵入防止方法と組み合わせて使用する ライオンの糞を水に薄めたものが 8ヵ月程度シカを寄せ付けなかった事例もある (JR 紀勢線など )
猛獣糞はイノシシには効果が見られないとの研究結果あり ウ動物を利用した威嚇 果樹園でのサル威嚇 ( 事例 ) 屋久島のタンカン ポンカン園 イヌ ( 効果が期待できる ) 青森県のリンゴ園 七面鳥 ( 確実な効果は期待できない ) 滋賀県高島市のぶどう園 ダチョウ エ視覚を利用した威嚇鳥類に用いられる威嚇方法 鳥類は目新しいものを警戒するので一時的に効果があるが 実害がないので 永続的な効果はない ( ア ) かかし マネキンかかしやマネキンを設置する かかしは人間に似ているほど効果がある 大豆播種期のハト被害に対しては 設置当初は半径 20m 程で効果があったが 数日で慣れてしまう ( イ ) 旗 のぼり 吹き流し 防鳥テープ長い棒の先に吹き流しや旗状の物を取り付けたり 光を反射する防鳥テープを作物の上に張る 比較的安価に設置できる のぼりの設置例 笹を立てたり テープを吹き流し状にする方法もある (3) 忌避剤 ( 鳥類 ) 鳥類の嫌がる化学物質 ( 登録農薬 ) を 種子に処理した後に 播種することで 被害を軽減する 大豆 トウモロコシ イネなどの種子に処理有効物質 : チラウム ( 農薬名 : キヒゲン等 )
(4) 緩衝地帯の設置イノシシ シカ サルなどは身を隠すことができない開けた環境に出没する場合 警戒心を持ちやすい そのため 山と農地の間に見通しのよい環境 ( 緩衝地帯 ) を設けると これらの野生獣が農地へ出没しにくくなる 緩衝地帯づくり 耕作放棄地の草刈りや山林の下草刈りを行う 家畜放牧 家畜が逃げないように電気柵等で囲う必要あり県で牛を貸し出す制度あり ( 問合せ先 管轄の家畜保健衛生所 ) 3 捕獲 (1) 捕獲の方法 狩猟による捕獲 有害鳥獣捕獲 被害防止計画に基づく個体数調整 (2) 狩猟による捕獲狩猟を行うためには 猟法に応じた狩猟免許の取得が必要 狩猟免許は 全国で有効で 居住している地域を管轄する都道府県知事が試験を実施する 狩猟する場合は 狩猟する地域を管轄する都道府県に狩猟登録する必要がある < 狩猟免許の種類 > 網猟免許 わな猟免許 第一種銃猟免許 装薬銃 ( ライフル銃 散弾銃 ) 空気銃( 圧縮ガス銃含む ) 第二種銃猟免許 空気銃 ( 圧縮ガス銃含む ) (3) 有害鳥獣捕獲鳥獣による生活環境 農林水産業 生態系に関わる被害が生じている あるいはその恐れがあり 原則として各種の防除対策によっても被害が防止できないと認められた時に行われる 被害の防止 軽減を図るための捕獲 捕獲許可申請は 被害を受けている個人 法人( 国 地方公共団体 農協 漁協 森林組合などに限定 ) が 市町村または県 ( 獣種によって申請先が異なる ) に対して行う
有害鳥獣捕獲 狩猟による捕獲 免許登録期間 必要不要 必要 狩猟を行う都道府県に要登録 許可された期間であれば年中可能 毎年 11 月 15 日 ~2 月 15 日 ( 北海道以外 ) (4) 被害防止計画に基づく個体数調整県と市町村では 鳥獣による農林水産業等に係る被害防止に向けた総合的な取り組みを計画的に推進するため 被害防止計画を策定し 捕獲による個体数調整を始め 侵入防止柵の設置等による被害防除 緩衝帯の設置等による生息環境の管理を行っている 侵入防止柵の材料費に対する補助や オリの貸出を行う市町村もある
ハクビシン JA 西八代だれでもわかるやさしい農業講座 ( 第 10 回 )