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教育社会学研究第 98 集 (2016) 読解リテラシーの社会経済的格差 PISA2009 のデータを用いた分析 鳶島修治 要旨 本稿では, 経済協力開発機構 (OECD) が2009 年に実施した国際学力調査 PISA(Programme for International Student Assessment) の日本調査データを用いて, 高校 1 年生の 読解リテラシー に対する出身階層の影響について検討した PISA の読解リテラシーを構成する 情報へのアクセス 取り出し, テキストの統合 解釈, テキストの熟考 評価 という 3 つの側面を区別し, これら 3 つの側面の得点が個人 ( 生徒 ) にネストされた形の階層的データをもとにマルチレベル分析を行った結果, いずれの側面の得点に対しても出身階層が正の効果をもっていることが確認された また, 国語科で従来から重要視されてきた 読解力 に近い性格をもつ 情報へのアクセス 取り出し に比べて, テキストの統合 解釈 や テキストの熟考 評価 の得点に対する出身階層の効果は相対的に大きいという知見が得られた 読解リテラシーに対する出身階層の影響を説明するため, 文化資本 の一種とみなされる生徒の読書習慣 ( 学校外での趣味としての読書時間 ) に着目して媒介関係の検討を行ったところ, 読解リテラシーに対する出身階層の効果の約 10~12% が読書時間によって媒介されていた ただし, 読解リテラシーの 3 つの側面の得点に対する読書時間の効果はほぼ同程度であり, テキストの統合 解釈 や テキストの熟考 評価 の側面において出身階層の効果が相対的に大きい傾向は読書時間という要因によっては説明されなかった キーワード : 学力の階層差, 読解リテラシー, マルチレベル分析 東北大学 219

1. 問題の所在学力の階層差は教育社会学や社会階層論における重要な研究テーマの 1 つである 学力は教育達成の主要な決定要因であり ( 苅谷 2004,p. 128), 教育達成の階層間格差が生み出されるメカニズムを議論する上で, 学力には教育達成に対する出身階層の影響を媒介する要因として重要な位置づけが与えられてきた (Jackson ed. 2013) 特に日本では, 高校や大学の入学者選抜でペーパーテストによる学力評価が重視されるため, 学力の階層差に着目した検討の重要性は大きいと考えられる 本稿では, 経済協力開発機構 (OECD) が2009 年に実施した国際学力調査 PISA (Programme for International Student Assessment) の日本調査データを用いて, 高校生の 読解リテラシー (reading literacy) ⑴ に対する出身階層の影響について検討する 学力の階層差に関する既存研究の多くは, 国語, 数学, 理科といった特定の教科 ( 領域 ) ⑵ における生徒の学力を一元的に捉えてきた しかし, 教科内の異なる側面を区別した詳細な検討を行うことで, 学力の階層差に関する理解をさらに深めることが可能になると思われる 本稿の目的は, 読解リテラシーを構成する 3 つの側面 ( 詳細は後述 ) を区別した分析を行い, どのような側面の能力に関して出身階層の影響が大きいのか ( あるいは小さいのか ) を明らかにすることで, 学力の階層差という現象を従来とは異なる視点から記述することである PISA では読解リテラシーを 自らの目標を達成し, 自らの知識と可能性を発達させ, 効果的に社会に参加するために, 書かれたテキストを理解し, 利用し, 熟考し, これに取り組む能力 ( 国立教育政策研究所編 2010, p.34) と定義している PISA の読解リテラシーは日本でいう 読解力 あるいは ( 国語科の ) 学力とは異なるものであるといわれる ( 文部科学省 2005, 有元 2006, 田中 2006, 岡部 2007) しかし,2005 年 12 月に提出された 読解力向上プログラム ( 文部科学省 2005) が各学校に対して PISA 型 読解力 の向上 への取り組みを求めていることが象徴するように, 近年の日本における学力観や学力政策には PISA の考え方がさまざまな面で影響を与えている ⑶ したがって,PISA の読解リテラシーに着目した検討は日本における学力の階層差について理解を深める上で重要な意味をもつと考えられる 2. 先行研究の検討と課題設定学力の階層差の存在は教育社会学や関連分野で 定説 ( 苅谷 2004,p. 127) 220

読解リテラシーの社会経済的格差といわれるほどに多くの研究で確認されてきた (White 1982, Sirin 2005) 1990 年代末からの 学力 ( 低下 ) 論争 を主たる契機として, 近年は日本でも学力の階層差に関する研究が多数行われるようになっている ( 川口 2011) 日本において学力の階層差に関する研究の課題として指摘されているのは, 学力の階層差の生成メカニズムに関する検討が十分に進められていないことである ( 平沢ほか 2013, 須藤 2013) 学力の階層差の存在を示すことにとどまらず, 格差のメカニズムに関する研究を進めていくことは, 学力の階層差に関する研究水準の向上に加え, 格差の縮小に向けた政策的 実践的な示唆を得るためにも重要な課題といえる しかし, 他方で, 従来の研究において学力の階層差という現象の 記述 が十分になされてきたかというと, 必ずしもそうではない 前述のように学力の階層差の存在それ自体は繰り返し指摘されてきたが, 学力の階層差の大きさは学力や出身階層の測定のされかたに依存する (White 1982, Sirin 2005) 日本でも出身階層の測定や階層概念に関する再検討の必要性は指摘されているが ( 近藤 2012, 平沢ほか 2013), 従来の研究において学力の測定には十分に注意が払われてこなかった 学力の階層差を検討する上では教科間の違いが重要な意味をもつが (Sirin 2005, p. 440), 教科内の複数の側面を区別し, どのような側面において出身階層の影響が大きいのか ( 小さいのか ) を解明することも重要な課題になると考えられる そもそも 学力 なるものが実体として存在するわけではなく, 一元的な尺度による測定は評価や選抜のための手段としての側面が強い 学力研究の文脈では, 格差のメカニズムを考える上でも, 教育効果を問題にする上でも, ある程度具体的なレベルで生徒の能力を捉えることによって議論が明確になる側面があると思われる また, 同一教科内に出身階層の影響が相対的に大きい側面と小さい側面があるのだとすれば, 政策レベルで新たな学力観が導入され, 従来と異なる側面の能力が重視されるようになった場合に, そのことが出身階層の高い層にとって有利に働き, 結果として学力の階層差の拡大がもたらされる可能性も否定できない ( 苅谷 1995,p. 212) しかし, 学力の階層差に関する既存研究の多くは, 国語, 数学, 理科といった特定の教科における生徒の学力を一元的に捉えてきた PISA の読解リテラシーを扱った先行研究に関しても, その大部分は読解リテラシーを一元的に捉えた 総合読解力 に焦点をあてている ⑷ 例外として挙げられるのが,PISA における読解リテラシーの 3 つの側面を区別した Thorpe(2006) と Li et al.(2013) である PISA では読解のプロセスおよび読解リテラシーを 情報へのアクセス 取り出し ( 以下, アクセス 取り出し ), テキストの統合 解釈 ( 以下, 統合 解 221

情報へのアクセス 取り出し (access and retrieve) テキストの統合 解釈 (integrate and interpret) テキストの熟考 評価 (reflect and evaluate) 表 1 読解リテラシーの 3 つの側面 情報を見つけ出し, 選び出し, 集める 出典 : 国立教育政策研究所編 (2010, p. 34) をもとに筆者作成 テキストの中の異なる部分の関係を理解し, 推論によりテキストの意味を理解する テキストと自らの知識や経験を関連付けたり, テキストの情報と外部からの知識を関連付けたりしながら, テキストについて判断する 釈 ), テキストの熟考 評価 ( 以下, 熟考 評価 ) という 3 つの側面 ⑸ から捉えている ( 表 1 ) Thorpe(2006) や Li et al.(2013) は学力の階層差を主題としているわけでは必ずしもないが, 読解リテラシーの 3 つの側面を区別した上で各側面の得点に対する出身階層の効果を検討した貴重な先行研究である Thorpe(2006) は PISA2000のイギリスのデータを用いた研究であり,Li et al.(2013) は PISA2009の上海とアメリカのデータを分析している 分析手法としてはどちらも学校内 (within レベル ) と学校間 (between レベル ) を区別したマルチレベルモデルを用いている 分析の結果として,Thorpe(2006) では アクセス 取り出し, 統合 解釈, 熟考 評価 のいずれに関しても出身階層 ⑹ が高いほど得点は高いことが示されている 他方,Li et al.(2013) において出身階層 ⑺ の有意な正の効果が観察されたのは 統合 解釈 の得点を従属変数とした場合だけであった Thorpe(2006) や Li et al.(2013) の限界として, アクセス 取り出し, 統合 解釈, 熟考 評価 の得点をそれぞれ従属変数として別々に分析を行っている ⑻ ため, これら 3 側面の得点に対する出身階層の効果に ( 有意な ) 差があるのかどうか, また, 差があるのだとすれば具体的にどの側面で出身階層の効果が大きいのか ( 小さいのか ) が明らかにされていない点を指摘できる 以上を踏まえて設定される本稿の課題は,PISA における読解リテラシーの アクセス 取り出し, 統合 解釈, 熟考 評価 という 3 側面を区別した分析を行い, 現代日本において読解リテラシーに関わるどのような側面の能力が出身階層の影響を受けやすいのか ( 受けにくいのか ) を明らかにすることである また, 特定の側面で出身階層の影響が相対的に大きいことの理由についても検討を加える 後述するように,PISA の読解リテラシーを構成する 3 側面のうち, アクセス 取り出し の能力は従来から国語科で重要視されてきた 読解力 に近い性格を有している また, これまでに実施された PISA の結果にもとづく文部科学省の 222

読解リテラシーの社会経済的格差現状認識は, 日本の生徒は アクセス 取り出し の側面を得意としているが 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面を苦手としている ⑼ というものであり ( 文部科学省 2005,2011), PISA 型読解力 に重要な位置づけを与えた近年の政策動向は実質的には 統合 解釈 や 熟考 評価 の重視を意味している側面がある このように, 近年の日本では政策レベルで アクセス 取り出し, 統合 解釈, 熟考 評価 の 3 分類に依拠した議論がなされており, その内容が 読解力向上プログラム ( 文部科学省 2005) や現行の学習指導要領にも反映されている そのため, アクセス 取り出し との比較という観点から 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面における出身階層の影響を検討することで, 近年の日本における学力観の変化や学力政策の動向が 教育機会の不平等 という観点からどのような意味をもっているのかをうかがい知ることができると思われる こうした観点から, 本稿では PISA の読解リテラシーにおける 3 側面の区別に依拠した検討を行う 3. 分析の視点と仮説 PISA の読解リテラシーを構成する アクセス 取り出し, 統合 解釈, 熟考 評価 という 3 つの側面における出身階層の影響を比較検討するにあたって, アクセス 取り出し と比較した場合, 統合 解釈 や 熟考 評価 の得点に対する出身階層の影響は相対的に大きいと予想することができる 仮説 1 このように考える理由の 1 つは, アクセス 取り出し に関わる能力が国語科でいう 読解力 に近い性格を有していることである 国語科において 読解力 という言葉は 教材としての文章の内容を正確に読み取るという意味合いで用いられることが多い ( 田中 2006,p. 8 ) そして, テキスト自体とそこに含まれる明白な情報 (OECD 訳書,2010,p. 53) から必要な情報を発見 特定する アクセス 取り出し の能力には, 上述の意味での 読解力 と共通する部分がある 従来から国語科で重要視されてきた 読解力 に近い アクセス 取り出し の能力は学校教育をとおして形成される側面が強く, 出身階層の影響は相対的に小さいと予想できる これに対し, 統合 解釈 の問題ではテキスト中で明確に言及されていない意味を読み取ることが求められ, 熟考 評価 の問題ではテキストに含まれない自らの知識や経験を活用して解答することが必要になる (OECD 訳書,2010,pp. 54-58) そのため, 統合 解釈 や 熟考 評価 の問題に解答するためには アクセス 取り出し の場合と異なるタイプの能力が求められる さらに, それ 223

は従来の学校教育で ( 少なくとも明示的には ) 重視されてこなかったタイプの能力である 逆にいうと, 統合 解釈 や 熟考 評価 に関わる能力の獲得 形成は各生徒の授業外での経験に依存している側面が強く, その結果として 統合 解釈 や 熟考 評価 の能力には出身階層が相対的に大きな影響を与えている可能性がある ⑽ また, アクセス 取り出し と比較した場合, 統合 解釈 や 熟考 評価 ( 特に後者 ) には自由記述問題の占める割合が大きいという特徴がある ⑾ 自由記述問題では, テキストの内容を理解することに加え, 文章の形で物事を説明したり意見を述べることが求められる そのため, 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面には, 読解に関わる能力の階層差だけでなく,Bernstein(1974) の 言語コード論 で議論されているような言語運用に関わる階層差も関係している可能性がある 日本では小学 1 年生を対象とした前馬 (2011) の研究において親の職業的地位や家族構造による言語運用の違いが観察されており, 自由記述問題に対して文章の形で適切に解答することができるかどうかという面で階層差が存在している可能性は否定できない こうした観点からも, 出身階層の影響は アクセス 取り出し の側面に比べて 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面で大きいことが予想される ⑿ 次に問題となるのは 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面において出身階層の影響が大きいことの理由である 本稿では 文化資本 (Bourdieu and Passeron 訳書 1991) の役割に着目し, 次のような観点から説明を試みる 文化資本は家庭での社会化をとおして親から子へ相続されるが, 各家庭における文化資本の保有量は親の階層的地位と結びついている そのため, 学校での成功につながる文化資本をどの程度もっているかによって, 子どもたちの間で学力の階層差が生じることになる 文化資本を 読書文化資本 と 芸術文化資本 に区分して捉える見方は多くの先行研究で採用されている (De Graaf et al. 2000, 片岡 2001) 読解リテラシーの格差を問題にする上では読書文化資本が特に重要な意味をもつと考えられる 学力の階層差を文化資本論の観点から説明する上で,De Graaf et al.(2000) や Kloosterman et al.(2011) は親の読書習慣に着目している 親の読書習慣は子どもの読書習慣を介して学力に影響を与えることが想定され ⒀, 松岡ほか (2014) は父母の学歴や世帯所得が読書習慣 ( 読書量 ) と関連していることに加えて読書習慣という文化資本が親から子へ相続されることを明らかにしている また,Jæger (2011) は子ども本人の読書習慣が読解や数学のテスト得点に対して正の効果をもつことを示している 224

読解リテラシーの社会経済的格差本稿では文化資本の指標として生徒の読書習慣 ⒁ に着目し, 読書習慣という要因を考慮することで 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面において出身階層の効果が大きい傾向は説明されるという仮説を設定する 仮説 2 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面で出身階層の影響が大きい傾向を 出身階層 読書習慣 読解リテラシー という媒介関係を考慮することで説明する場合, 読解リテラシーの 3 側面の得点に対する読書習慣の効果に差があること ( アクセス 取り出し に比べて 統合 解釈 や 熟考 評価 の得点に対する読書習慣の効果が大きいこと ) が条件となる ( 読書習慣に対する出身階層の効果は共通のため ) この点については, 従来から国語科で重要視されてきた 読解力 に近い性格をもつ アクセス 取り出し の能力に比べて, 統合 解釈 や 熟考 評価 の能力には授業外での読書習慣が大きな影響を与えていると想定することができる ⒂ 4. データと分析方法 4.1. 利用データの概要本稿の分析には PISA2009のデータを用いる PISA は OECD が2000 年から 3 年ごとに実施している国際学力調査であり,PISA2009には65の国 地域が参加した PISA の調査対象は義務教育修了段階にあたる15 歳児であり, 日本調査は高校 1 年生を対象として 7 月に実施されている PISA は層化 2 段抽出法を採用しており, 第 1 段階として層別の人口規模に比例するように学校が抽出され ⒃, 第 2 段階で各学校から約 35 名の生徒が抽出されている ( 国立教育政策研究所編 2010,pp. 21-25) PISA2009の日本調査には186 校の6,077 名が参加しており, リストワイズ法による欠損値処理の結果, 本稿における分析対象の生徒数は5,897 名となった PISA は国際比較を主眼に置いた学力調査であるが, 日本では希少な確率抽出にもとづく全国調査であること, 生徒の家庭背景に関する豊富な情報を含むデータであること等, 日本に焦点をあてた分析を行う上でも PISA のデータを用いるメリットは多い ( 古田 2012,pp. 128-129) PISA2009は読解リテラシーを中心分野として実施された直近の調査であり, また,PISA2000の日本調査では親の職業や学歴に関する情報が得られていないため, 本稿では PISA2009のデータを使用する 4.2. 分析方法本稿では, アクセス 取り出し, 統合 解釈, 熟考 評価 の得点に対する出身階層の効果の差を検討するための方法としてマルチレベル分析を用いる 225

Snijders and Bosker 2011 読解リテラシーの 3 側面を区別した場合 データと しては 1 人の生徒につき 3 つの得点が得られている形になる この性質を利用して 読解リテラシーの 3 側面の得点が各生徒にネストされた構造のマルチレベルデータ を作成し 分析に用いる このように 本稿で用いるデータセットは生徒ではなく ⒄ 読解リテラシーの各側面の得点をそれぞれ 1 ケースとみなしたものである その ため 実際の分析に用いられるケース数は5,897 生徒数 3 17,691となる 本稿で用いる分析モデルは下式のように表現される 単純化のため ここでは独 立変数を出身階層のみとしている ここで a は切片を表している また u は生 徒レベルの誤差項を e はケースレベルの誤差項を表す どちらも平均は 0 こ のモデルの重要な特徴は 従属変数の全体平均を表す a とそれに対する各生徒の偏 差を表す u を投入することで 読解リテラシー 3 側面の得点の平均値 に関す る生徒間の異質性 切片のばらつき が考慮されている点である この点を無視し 先行研究 Thorpe 2006, Li et al. 2013 のように 3 側面の得点をそれぞれ従属変数 として別々に分析を行った場合 標準誤差が過小に推定される Snijders and Bo sker 2011 読解リテラシー得点 a b 統合 解釈 b2 熟考 評価 b3出身階層 1 b4 出身階層 統合 解釈 b5 出身階層 熟考 評価 u e このモデルの基本的な発想は 出身階層と 統合 解釈 や 熟考 評価 を表 すダミー変数との交互作用項を投入することで 読解リテラシーの各側面の得点に 対する出身階層の効果の差を検討するということである 筒井 2011 ここでは アクセス 取り出し が基準カテゴリになっているため 出身階層の主効果 b3は アクセス 取り出し の得点に対する出身階層の効果を表す 他方 b4や b5の交 互作用効果はそれぞれ 統合 解釈 と 熟考 評価 の得点に対する出身階層の 効果が アクセス 取り出し の得点に対する効果と比較して どの程度異なる かを表す したがって b 4や b 5の推定値が有意であった場合 統合 解釈 や 熟考 評価 の得点に対する出身階層の効果の大きさは アクセス 取り出し に対する効果と有意に異なると解釈できる なお 統合 解釈 や 熟考 評価 の得点に対する出身階層の効果は b3 b4 や b3 b5 を計算して求めることが できる 4.3. 使用する変数 従属変数の読解リテラシーに関して 推定には アクセス 取り出し 統合 226

読解リテラシーの社会経済的格差解釈, 熟考 評価 の plausible value(pv) を用いる PV とはテスト結果をもとに項目反応理論によって推定された能力値の事後確率分布から無作為に抽出された値である 5 つの PV を用いて繰り返し推定を行い, その結果をもとに精確な回帰係数および標準誤差を算出する (OECD 2009a) PISA の PV は2000 年調査における OECD 平均を500, 標準偏差を100として標準化したものである 本稿の分析における主要な独立変数は出身階層であり, 生徒の出身階層を一元的な尺度で捉えた 社会経済文化的背景 (economic, social and cultural status) ( 変数名 :ESCS) という総合指標を使用する この変数は, 親の教育年数 ( 父母のどちらか高い方 ), 親の職業的地位 ( 父母のどちらか高い方 ), および家庭の所有財にもとづく主成分分析を行うことによって得られた第 1 主成分の得点である ESCS は PISA2009 参加国のデータ全体で平均 0, 標準偏差 1 に標準化されているが (OECD 2012, pp. 312-314), 日本調査のデータを分析するにあたって, 本稿の分析対象のサンプル全体で平均が 0, 標準偏差が 1 になるよう改めて標準化を行った ESCS という総合指標を用いる理由は, 読解リテラシーの各側面を表すダミー変数との交互作用を解釈しやすくするためである また,PISA のデータから出身家庭の経済的 文化的な側面を厳密に区別して捉えることは難しいという現実的な制約もあるが ( 古田 2012,p. 129),2005 年 SSM 調査データを用いた研究では, 日本社会における 経済資本と文化資本の近接性 ( 近藤 2011,p. 174) が指摘されている 読書習慣の指標としては学校以外での趣味としての読書時間 ( 1 日あたり ) を用いる この変数は 読書をしない, 30 分以下, 31 分以上 の 3 カテゴリに分類した ⒅ この他に用いる変数は生徒の性別と家族構造である 性別については男子ダミー ( 1 : 男子, 0 : 女子 ) を, 家族構造についてはひとり親家族ダミー ( 1 : ひとり親家族, 0 : 二人親家族 ) を用いる ⒆ 離婚リスクは低学歴層で高いため ( 中澤 余田 2014,p. 190), 子どもから見た ( 定位 ) 家族構造と出身階層は関連している 本稿では, ひとり親ダミーを投入することで, 読解リテラシーに対する出身階層の効果と家族構造の効果を区別して捉える なお, 出身階層とひとり親家族ダミーの相関係数 ( 相関比 ) は-0.26である 表 2 には一連の変数の基本統計量を示した 5. 分析結果本節では読解リテラシーの得点を従属変数としたマルチレベル分析を行う まず, 227

表 2 使用する変数の基本統計量 mean (s.d.) 比率 従属変数 独立変数 アクセス 取り出し 532.96(106.97) 男子 51.0% 統合 解釈 522.28 (99.90) ひとり親家族 14.9% 熟考 評価 523.78(108.24) 読書時間 ( 1 日あたり ) 読書をしない 43.9% 独立変数 30 分以下 25.7% 出身階層 0.00 (1.00) 31 分以上 30.4% 注 :N =5,897 量的変数は平均値( 括弧内は標準偏差 ), 質的変数は比率を示した 予備的な分析として null モデル ( 切片のみのモデル ) の推定を行ったところ, 級内相関係数は約 0.89であった すなわち, 読解リテラシーの得点の全分散のうち, 個人間分散が約 89%, 個人内分散が約 11% を占めている この結果から, 読解リテラシーの 3 側面の得点は相互に強く関連しており, 全般的に読解リテラシーが高い者 / 低い者 という個人差が大きいこと, しかし同時に, 読解リテラシーの 3 つの側面に関して個人内での相対的な得意 / 不得意も存在していることが確認できる 表 3 にはマルチレベル分析の結果を示した モデル 1 の推定結果を見ると, 出身階層は有意な正の効果を示しており, 出身階層が高いほど アクセス 取り出し の得点は高い傾向がある 出身階層が 1 標準偏差高いと アクセス 取り出し の得点は約 24.8 点高い また, 出身階層 統合 解釈 と出身階層 熟考 評価 の交互作用はいずれも有意な正の効果を示しており, アクセス 取り出し と比較して, 統合 解釈 や 熟考 評価 の得点に対する出身階層の効果は相対的に大きい 具体的には, 出身階層が 1 標準偏差高いと 統合 解釈 の得点は約 27.5 ( 24.84+2.65) 点高く, 熟考 評価 の得点は約 27.9( 24.84+3.07) 点高い ⒇ 性別の効果に関しては男子ダミーが有意な負の効果を示している 男子ダミーの係数から, 女子は男子に比べて アクセス 取り出し の得点が約 31.6 点高いことが読み取れる 男子 統合 解釈 の交互作用は有意でないが, 男子 熟考 評価 の交互作用は有意な負の効果を示している すなわち, アクセス 取り出し と比較して, 熟考 評価 の得点に対する性別の効果が相対的に大きい 具体的には, 女子は男子に比べて 熟考 評価 の得点が約 42.2( 31.64+10.58) 点高い 次に家族構造の効果を見てみると, ひとり親家族ダミーは有意な負の効果を示している ひとり親家族の生徒は二人親家族の生徒に比べて アクセス 取り出し 228

読解リテラシーの社会経済的格差の得点が約 13.3 点低い ひとり親家族 統合 解釈 とひとり親家族 熟考 評価 の交互作用はいずれも有意な正の効果を示しており, ひとり親家族の生徒の得点の低さは アクセス 取り出し の側面で顕著であるといえる 続いて, 読書時間 ( 基準カテゴリは 読書をしない ) を追加したモデル 2 の推定結果を確認する 読書時間は正の効果を示しており, アクセス 取り出し の得点に関していうと, 読書をしない生徒に比べて, 1 日あたりの読書時間が 30 分以下 の生徒は約 34.9 点, 31 分以上 の生徒は約 51.7 点高い モデル 2 でも性別, 出身階層, 家族構造の主効果は有意だが, モデル 1 と比べて出身階層の係数は約 12% 低下しており, アクセス 取り出し の得点に対する出身階層の効果の一部 表 3 読解リテラシーのマルチレベル分析 モデル 1 モデル 2 B S.E. B S.E. 固定効果切片 552.42 *** 4.57 527.46 *** 4.94 統合 解釈 -11.77 *** 1.69-11.40 *** 1.83 熟考 評価 -4.99 * 2.22-2.16 2.55 男子 -31.64 *** 5.30-30.58 *** 5.17 男子 統合 解釈 0.13 1.55 0.13 1.56 男子 熟考 評価 -10.58 *** 2.18-10.56 *** 2.18 出身階層 24.84 *** 2.32 21.88 *** 2.17 出身階層 統合 解釈 2.65 ** 0.91 2.70 ** 0.91 出身階層 熟考 評価 3.07 ** 1.11 3.48 ** 1.14 ひとり親家族 -13.30 ** 4.80-15.00 ** 4.73 ひとり親家族 統合 解釈 4.69 * 1.89 4.73 * 1.88 ひとり親家族 熟考 評価 6.90 * 3.40 7.35 * 3.42 読書時間 30 分以下 34.89 *** 4.04 30 分以下 統合 解釈 -0.35 1.74 30 分以下 熟考 評価 -0.75 2.65 31 分以上 51.68 *** 3.61 31 分以上 統合 解釈 -0.93 1.40 31 分以上 熟考 評価 -8.92 *** 1.92 ランダム効果切片 [ 分散 ] 8552.30 430.63 8099.23 410.01 残差 [ 分散 ] 1148.48 28.96 1143.53 29.43 Deviance 193434.5 193075.5 注 : ケース数 =17,691, 生徒数 =5,897, 学校 ( 学科 ) 数 =186 B は非標準化係数 S.E. は学校内の誤差項の相関を考慮したロバスト標準誤差 *** p<.001 ** p<.01 * p<.05 229

は読書時間によって媒介されていると解釈できる なお, 統合 解釈 の得点に対する出身階層の効果はモデル 1 が27.49, モデル 2 が24.58, 熟考 評価 の得点に対する出身階層の効果はモデル 1 が27.91, モデル 2 が25.36であり ( 非標準化係数 ), いずれも読書時間による媒介を考慮することで約 10% 低下している 他方, 読書時間を考慮しても男子ダミーの係数はほとんど変化しておらず, ひとり親家族ダミーの係数はむしろモデル 1 よりも大きくなっている 統合 解釈 や 熟考 評価 の得点に対する読書時間の効果には, アクセス 取り出し の得点に対する効果と比べて明確な差が見られない 例外的に有意な効果を示したのは 31 分以上 熟考 評価 の交互作用項であるが, 係数は負の値をとっている すなわち, アクセス 取り出し の得点に対する読書時間の効果が 熟考 評価 の得点に対する効果よりも大きい 結果的に, 読書時間を追加したモデル 2 においても 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面で出身階層の効果が相対的に大きい傾向は説明されていない 実際, 出身階層 統合 解釈 と出身階層 熟考 評価 の交互作用項は依然として有意な正の効果を示している 6. 考察本稿では,PISA2009の日本調査データをもとに, 高校生の読解リテラシーに対する出身階層の影響について検討した アクセス 取り出し, 統合 解釈, 熟考 評価 という 3 つの側面を区別したマルチレベル分析の結果, アクセス 取り出し に比べて, 統合 解釈 や 熟考 評価 の得点に対する出身階層の効果は相対的に大きいという知見が得られた この結果は 仮説 1 を支持するものである 統計的に有意な差が見られることと実質的に意味のある差があるかどうかは別の問題であるが, 読書時間を介した間接効果を含む出身階層の総効果を表 3 のモデル 1 から改めて確認すると, アクセス 取り出し と比較して, 統合 解釈 の得点に対する出身階層の効果は約 1.11 倍, 熟考 評価 の得点に対する出身階層の効果は約 1.12 倍となっている この差は決して無視できないものであると思われる 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面における出身階層の影響の大きさを説明する要因として, 本稿では文化資本の一種とみなされる生徒の読書習慣に着目し, 学校以外での趣味としての読書時間を指標として分析を行った しかし, 読書時間という要因では 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面で出身階層の影響が大きい 230

読解リテラシーの社会経済的格差傾向が説明されず, 仮説 2 は支持されなかった 読書時間はたしかに 統合 解釈 や 熟考 評価 の得点と関連しているが, アクセス 取り出し の得点に対しても同程度の効果をもっており, 読解リテラシーの 3 側面の得点に対する出身階層の効果は約 10~12% が読書時間によって媒介されていた この結果には, 統合 解釈 や 熟考 評価 において自由記述問題の占める割合が大きいことが関係している可能性がある 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面における出身階層の効果には読解だけでなく言語運用に関わる階層差が関係しているために, 読書習慣という要因では 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面において出身階層の効果が大きい傾向が説明されないのかもしれない この推論が間違っていないとすれば, 言語コード論の視点から, 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面 ( 特に後者 ) における出身階層の効果が大きいことに関して, 家庭での社会化における統制様式の ( 階層間での ) 違いに着目した説明が可能かもしれない (Bernstein 1974, 前馬 2011) ただし,PISA のデータからは生徒の言語運用あるいは 言語コード に関わる階層差や家庭における統制様式の影響を直接検証することが難しく, この点についての検討は今後の課題として残される なお, 家族構造の効果については出身階層の場合と異なる傾向が見られ, ひとり親家族の生徒の得点の低さは アクセス 取り出し の側面で顕著であった 1 つの解釈として, この結果には, 本稿の分析で仮定されていた出身階層と読解リテラシーとの直線的な関係では捉えきれていない, ひとり親家族の深刻な経済状況 ( 阿部 2008) が反映されている可能性がある たとえば, ひとり親家族では子どもの学力が低い場合にも学校外教育を利用することが難しく, 結果として国語科でいう 読解力 に近い アクセス 取り出し の側面での不利が大きくなっているのかもしれない 逆に, 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面については( 経済的に余裕があったとしても ) 学校外教育による補償が容易でないため, 家族構造による得点差が相対的に小さいのではないかと推察される ただし, この論点についてさらに議論を深めるためには, 改めて家族構造の影響に焦点をあてた検討を行う必要がある 学力の階層差に関する研究として位置づけた場合の本稿の意義として次の 2 点を挙げることができる 第 1 に, 読解リテラシーの 3 側面を区別した分析を行い, 実際に出身階層の影響が相対的に大きい側面と小さい側面があることを示した 本稿では読解リテラシーに焦点をあてたが, 他の領域 ( 教科 ) でも同様に出身階層の影響が相対的に大きい側面と小さい側面が存在していることは十分に考えられ, 学力 231

の階層差の生成メカニズムの解明に取り組む上で, 教科内の複数の側面を区別して出身階層の影響を比較検討するという視点は重要な意味をもつと考えられる ここで強調しておきたいのは, 読解リテラシーを構成する複数の側面における出身階層の影響の違いについて, そのメカニズムを含めて検討を加えたのは本稿が最初の試みだということである したがって, 生徒の読書習慣に着目した本稿の分析で 統合 解釈 や 熟考 評価 の得点に対する出身階層の効果が大きいことが説明されなかった点を否定的に捉えるよりも, むしろ読解リテラシーの特定の側面で出身階層の影響が相対的に大きいという知見が得られた点に着目し, その理由ないしメカニズムに関しては今後改めて検討する余地があると考えたい 第 2 に, 読解リテラシーの 3 側面を区別した先行研究 (Thorpe 2006, Li et al. 2013) との方法面の違いとして, 本稿では 3 つの側面の得点が各生徒にネストされた形の階層的データにマルチレベル分析を適用することで, 読解リテラシーの各側面の得点に対する出身階層の効果の差を検討した 同様の分析は他の領域 ( 教科 ) や他の学力調査データにも適用可能であり, 学力研究におけるマルチレベル分析の新たな応用可能性を示した点で, 本稿には方法論的な面での意義も認められるだろう 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面で出身階層の影響が大きいという知見の含意として, 近年の日本における PISA 型読解力 の重視が学力の階層差の拡大という 意図せざる結果 をもたらす可能性を指摘できる 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面において階層差が大きい傾向は, 学校教育でこれらの側面が重視されるかどうかだけでなく, 階層間における家庭での統制様式の違いに起因している側面があると推察される そのため, 学校の授業で 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面が重視されるようになったとしても, それは必ずしも階層差の縮小につながらないかもしれない むしろ, アクセス 取り出し に比べて出身階層の影響が大きい 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面が学力評価の基準として重要視されるようになることで, 結果として学力の階層差の拡大が生じる可能性も否定できない この点については今後の動向を注意深く観察していく必要がある 最後に, 今後の課題として次の 2 点を挙げておく 1 つは 統合 解釈 や 熟考 評価 の側面において出身階層の影響が大きいことの理由ないしメカニズムを明らかにすることである もう 1 つは PISA 等のデータを活用した国際比較研究の展開である 国際比較をとおして読解リテラシーの各側面における出身階層の影響の大きさが各国の教育政策や教育制度とどのように関係しているのかを明らかにすることは, 日本社会において 統合 解釈 や 熟考 評価 の能力が出身階層と 232

読解リテラシーの社会経済的格差 強く結びついていることの理由を考察する上でも重要な手がかりになると思われる 注 ⑴ OECD 訳書 (2010) や国立教育政策研究所編 (2010) は reading literacy を 読解力 と訳しているが, 日本の国語科でいう 読解力 と区別するため, 本稿では 読解リテラシー という訳語を用いる ⑵ PISA の読解リテラシー, 数学的リテラシー, 科学的リテラシーはそれぞれ国語, 数学, 理科という教科と無関係ではないが厳密には対応していないため, ここでは 教科 ( 領域 ) という表現を用いた 以下では単に 教科 と表記する ⑶ たとえば,2007 年度に開始された 全国学力 学習状況調査 には PISA の調査内容を強く意識した B 問題 ( 活用 問題) が取り入れられた ⑷ 日本を対象に含む研究としては,PISA2000のデータを用いて家族構造の影響に関する国際比較を行った Park(2007) や白川 (2010) がある ⑸ PISA2006までは 情報の取り出し, 解釈, 熟考 評価 という枠組みが用いられていた 本稿では PISA2009で採用された表現に統一する ⑹ Thorpe(2006) における出身階層の指標は因子分析によって析出された潜在変数であり, 親の職業的地位 ( 変数名 :HISEI), 家庭の富 ( 変数名 : WEALTH), 家庭の教育的資源 ( 変数名 :HEDRES) が大きな因子負荷量を示している ⑺ Li et al.(2013) が出身階層の指標として用いている SES という変数は PISA のデータに含まれる 社会経済文化的背景 ( 変数名 :ESCS) を指していると推察される ESCS については OECD(2012) あるいは本稿の4.3を参照のこと ⑻ Li et al.(2013) は物語 解説 議論等の文章による 連続型テキスト を用いた問題の得点とグラフ 書式 リスト等の 非連続型テキスト による問題の得点を従属変数とした分析も行っている ただし, 連続型テキスト と 非連続型テキスト の違いと アクセス 取り出し, 統合 解釈, 熟考 評価 という 3 つの側面の区別は性格が異なると考えられるため, 本稿の分析では 連続型テキスト と 非連続型テキスト の得点は扱っていない ⑼ PISA2009における日本の順位は アクセス 取り出し が 4 位, 統合 解釈 が 7 位, 熟考 評価 が 9 位であり, アクセス 取り出し に比べて 統合 解釈 や 熟考 評価 の順位が低かった ( 総合読解力は 8 位 ) 233

⑽ 国 私立中学の入試では PISA と類似した問題が出題されているため ( 岡部 2007,p. 10), 中学受験を経験した生徒 ( その多くは出身階層が高いと想定される ) が PISA 型の問題に慣れているという側面もあるのかもしれない ⑾ PISA2009における読解リテラシー調査の設問リスト ( 国立教育政策研究所編 2010,pp. 70-73) をもとに自由記述問題の割合を求めたところ, アクセス 取り出し は13.0%( 3 問 /23 問 ), 統合 解釈 は24.5%(13 問 /53 問 ), 熟考 評価 は80.0%(20 問 /25 問 ) であった なお, 各問題の出題形式は 自由記述, 短答, 求答, 多肢選択, 複合的多肢選択 に分類されている ⑿ また, 日本では国語の授業で生徒が自分の意見を述べる機会が少ないため ( 有元 2006,pp. 6-7 ), 言語運用の面では家庭背景の影響が大きいと推察される ⒀ 相続 のメカニズムとしては, 親自身が家庭で日常的に読書を行う ( 子どもに対して模範を示す ) ことで子どもが読書習慣を身につけていく側面や, 子どもと一緒に絵本を読む, 読み聞かせを行う等の親からの直接的な働きかけが子どもの読書習慣に影響する側面があると考えられる (Kloosterman et al. 2011) ⒁ 文化資本は学歴資格等の 制度化された文化資本, 蔵書や芸術作品等の 客体化された文化資本, 言語能力や知識 教養等の 身体化された文化資本 の 3 タイプに分類される (Bourdieu 1986) 読書習慣は 身体化された文化資本 の一種とみなすことができる なお, 本稿の分析において親の学歴や家庭の蔵書数は出身階層の指標として用いる変数 (ESCS) に反映されている (OECD 2012) ⒂ 関連する研究の知見として,Kloosterman et al.(2011) は算数の学力に対して親の読書習慣の効果が確認されないことについて, 言語の能力とは異なり, 算数の能力はほとんどが学校教育をとおして習得されるためであると説明している ⒃ ただし, 日本調査では 学校 ではなく 学科 を単位とした標本抽出が行われている ( 国立教育政策研究所編 2010,p. 21) 標本抽出にあたっては 公立 / 普通科等, 公立/ 専門学科等, 国立 私立/ 普通科等, 国立 私立/ 専門学科等 ) という 4 つの層が設定された ( 国立教育政策研究所編 2010,p. 24) ⒄ PISA のデータではさらに 生徒 が 学校 にネストされている そのため, 本稿の分析では学校レベルのクラスター内における誤差項の相関を考慮したクラスタロバスト標準誤差 (clustering robust standard errors) を用いている ⒅ 元のデータでは 31 分 ~ 1 時間未満, 1 時間 ~ 2 時間, 2 時間より長い が区別されているが, これらのカテゴリ間で読解リテラシーの得点や出身階層の平均値に関して有意差が見られなかったため (p>.05), 1 カテゴリにまとめた 234

読解リテラシーの社会経済的格差 ⒆ 家族構造 ( 変数名 :FAMSTRUC) に関して その他 に該当するケース (46 名, 全体の7.6%) は具体的な状況を特定できないため欠損値として扱っている ⒇ 基準カテゴリを変更して推定を行い, 統合 解釈 と 熟考 評価 の得点に対する出身階層の効果を比較したところ, 有意差は確認されなかった (p>.05) 詳細は省くが, このような結果が得られたのは, 出身階層を統制した場合, ひとり親家族の生徒の方が二人親家族の生徒よりも読書時間が長いためである ただし, 読んでいる本のタイプや幼少期からの読書経験等の多様な側面を考慮した分析を行うことで, 本稿とは異なる結果が得られる可能性もある 従来から国語科で重要視されてきた 読解力 に近い性格をもつ アクセス 取り出し の側面で家族構造の影響が大きいという結果は, ひとり親家族出身者の教育達成の低さ ( 中澤 余田 2014,p. 180) と関係している可能性がある 学力形成における教育効果 ( 川口 2011, 須藤 2013) を検討する際にも, 教科内の複数の側面を区別することで有意義な知見を得ることができると思われる 引用文献 阿部彩,2008, 子どもの貧困 日本の不公平を考える 岩波書店 有元秀文,2006, 生きる力 につながる PISA 型の読解力 根拠を基に自分の意見を表現する授業への転換 BERD 第 6 号,pp. 2-9. Bernstein, B., 1974, Class, Codes and Control, Vol. 1 : Theoretical Studies Towards a Sociology of Language, Second Edition, Routledge & Kegan Paul. Bourdieu, P., 1986, Forms of Capital, J. G. Richardson ed., Handbook of Theory and Research for the Sociology of Education, Greenwood Press, pp. 241-258. Bourdieu, P. and J. C. Passeron, 1970, La reproduction: éléments pour une théorie du système d'enseignement, Editions de Minuit (=1991, 宮島喬訳 再生産 教育 社会 文化 藤原書店). De Graaf, N. D., P. M. De Graaf and G. Kraaykamp, 2000, Parental Cultural Capital and Educational Attainment in the Netherlands: A Refinement of the Cultural Capital Perspective, Sociology of Education, Vol.73, No. 2, pp. 92-111. 古田和久,2012, 高校生の学校適応と社会文化的背景 学校の階層多様性に着目して 教育社会学研究 第 90 集,pp. 123-144. 平沢和司 古田和久 藤原翔,2013, 社会階層と教育研究の動向と課題 高学歴化社会における格差の構造 教育社会学研究 第 93 集,pp. 151-191. 235

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ABSTRACT Socio-Economic Differentials in Reading Literacy among Tenth Grade Students: Evidence from PISA 2009 TOBISHIMA, Shuji (Tohoku University) 27-1 Kawauchi, Aoba-ku, Sendai, Miyagi, 980-8576 Japan Email: stobishima@sed.tohoku.ac.jp This paper examines the effects of socioeconomic status (SES) on tenth grade students reading literacy in Japan. While most previous studies on achievement inequality have assessed students academic performance using single subject performance measures such as verbal performance and math performance, it is important to distinguish various aspects within a subject and explore for which aspects the effect of SES on performance is stronger (or weaker) than other aspects. This paper distinguishes three reading sub-skills: access and retrieve, integrate and interpret, and reflect and evaluate, and examines the socioeconomic differentials in the three reading sub-skills. The first hypothesis of this paper predicts that the effects of SES on students performance are larger in integrate and interpret and reflect and evaluate than in access and retrieve. Because access and retrieve has a common characteristic with the type of reading ability that has been emphasized in language education in Japan, it is presumed that traditional language classes have put less importance on enhancing students ability concerning integrate and interpret and reflect and evaluate. As a result, students performance in these two sub-skills would be more strongly influenced by their family background. This paper also examines the extent to which students reading habits account for the effects of SES on reading literacy. Because language classes have put less emphasis on aspects of integrate and interpret and reflect and evaluate, students performance in these sub-skills would be highly dependent on students reading activities outside school. The second hypothesis predicts that the stronger effects of SES on scores in integrate and interpret and reflect and evaluate are explained by the mediation effects of students reading habits outside school. Data used for this paper are from the Programme for International Student Assessment (PISA) conducted in 2009 by the Organisation for Economic Co-oper 238

読解リテラシーの社会経済的格差 ation and Development (OECD). 6,077 tenth grade students from 186 schools participated in PISA 2009 from Japan. The dependent variable is students reading literacy. Reading literacy is measured by scores in the three reading sub-skills. Independent variables are students SES and reading habits. SES is measured by a PISA index of economic, social, and cultural status (ESCS). Reading habits of students are measured by time spent reading for enjoyment outside school. Control variables are students gender (male / female) and family structure (two-parent family / single-parent family). The main results of multilevel regression analysis are as follows. First, SES significantly influences students performance in every reading sub-skill. Second, the effects of SES on students performance in integrate and interpret and reflect and evaluate are significantly stronger than its effect on performance in access and retrieve. This result supports the first hypothesis of this paper. Third, time spent reading for enjoyment partially mediates the effects of SES on students performance in every reading sub-skill. Fourth, time spent reading for enjoyment has virtually the same effect on scores in all three reading sub-skills. As a result, time spent reading for enjoyment does not explain the larger effects of SES on scores in integrate and interpret and reflect and evaluate. Thus the second hypothesis of this paper is not supported. Keywords: educational inequality, reading literacy, multilevel analysis 239