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恵寿総合病院医学雑誌第 1 巻 (212 原著 手根管 MRI における 3D-FFE 法による正中神経描出の検討 別所貴仁 赤坂正明山下勝山口健二三味篤林圭子場合美奈子泉安香莉 森下毅 2) 丑谷健次 3) 島啓介 4) 角弘諭 恵寿総合病院放射線部 放射線課 2) 臨床工学部 臨床工学課 3) 脳神経センター 神経内科 4) 放射線部 要約 手根管症候群 (Carpal tunnel syndrome:cts) は, 手根管内で正中神経が何らかの原因によって圧迫障害を起こす末梢神経障害として知られている 近年, 手根管内の病態を把握するための画像診断として Magnetic resonance imaging(mri) を用いて評価を行うケースが増えてきている その MRI 所見では,T2*(T2 スター ) 強調画像にて正中神経の腫大と高信号化, 横手根靱帯の掌側への張り出しなどが見られる Three-dimensional fast field echo(3d-ffe) 法では薄いスライスでの T2* 強調撮像が可能であり, 有効と考えられるが,2D 撮像に比べて正中神経の信号強度が弱く, 正中神経の同定が困難な場合がある そこで今回, 手根管への 3D-FFE 法の適用における正中神経の描出に最適な撮像条件 { 繰り返し時間 (Repetition time: TR), エコー時間 (Echo time:te), フリップ角度 (Flip angle:fa)} の検討を寒天ファントムおよび健常ボランティア 5 名の右手を対象として行った 最適 TR=3 ms, 最適 TE=15 ms としたとき, 小さな FA ほど T2* が強調され正中神経の信号強度が上がったが,FA が小さすぎると雑音成分が目立つ画像となった そこで,FA=15 に設定することで, 正中神経および手根管部を良好なコントラストで描出することができた また,3D-FFE 法での薄いスライスは部分容積効果の影響が軽減されるため, 手根管内部を高分解能に描出できた さらに, ワークステーションにて正中神経を 3D 表示し, プレート画像を挿入することで, 正中神経の走行と形態が把握できるので CTS の診断支援につながると考える Key Word: 手根管,MRI, 正中神経 はじめに 手根管は背側を手根骨, 掌側を屈筋支帯で囲まれた管腔構造をしており, その中を正中神経と 9 本の屈筋腱が走行している 手根管症候群 (Carpal tunnel syndrome: 以下 CTS と略す ) は, 手根管内で正中神経が何らかの原因によって圧迫障害を起こす末梢神経障害として知られている CTS の診断には神経伝導速度検査が一般的に行われるが, ガングリオンなどによる正中神経圧迫要因の特定や障害部位の病態を推測することは困難である そこで近年, 手根管内の病態を把握するための画像診断として核磁気共鳴画像 (Magnetic resonance imaging:mri) を用いて評価を行うケースが増えてきている 1,2) CTS の MRI 所見では手根管近位部において正中神経の横断面積および T2*(T2 スター ) 強調画像での信号強度の増大や横手根靱帯 (Transverse carpal ligament:tcl) の掌側への張り出しが認められる 2, 3) また, 神経障害により血液 - 神経関門が破綻し, 正中神経に造影効果が現れるため, 造影 MRI が有用であることが報告されている 4,5,6) CTS の手術では TCL を全長にわたり切離して正中神経への圧迫を解除する 術式には, 前腕から手掌部に至る長い皮切で手術を行う開放式手根管開放術 (Open carpal tunnel release:octr) や小さな皮切から内視鏡を用いて手根管を観察しながら CTL を切開する鏡視下手根管開放術 (Endoscopic carpal tunnel release: ECTR) が行われるようになってきた 7) OCTR や ECTR の際に神経が損傷されて術後に痛みが残る可能性があるため, 事前に正中神経の形態や走行および TCL との位置関係を把握しておくことが重要である 矢状断にて正中神経の長軸に沿った画像を撮像することが有用という報告 8) と拡散テンソル画像 (Diffusion tensor imaging :DTI) を利用して正中神経を描出するという報告 9,1) はあるが,T2* 強調による正中神経の高信号化を生かして正中神経を 3D 表示するという報告はされていない 3D 表示に有 16

効なシーケンスには, 三角線維軟骨複合体損傷 (Triangular fibrocartilage complex:tfcc) 時に用いられるグラジエントエコー (Gradient echo:gre) 系シーケンスの Three-dimensional fast field echo (3D-FFE) 法がある 3D-FFE 法では 2D の T2* 強調撮像より薄いスライス厚での撮像が可能となり, より精密な評価が可能となり得る また, この 3D-FFE 法は自由に多断面再構成画像 (Multi planar reformat:mpr) を作成できるので, 正中神経の長軸画像を容易に得ることができるという利点もある 通常 TFCC では冠状断にて撮像を行うが,CTS では手根管内部をより明瞭に描出するために横断面での撮像が必要である しかしながら,3D-FFE 法では繰り返し時間 (Repetition time:tr) が短いため,2D 撮像に比べて正中神経の信号強度が弱く, 正中神経の同定が困難な場合がある そこで本研究では, 手根管への 3D-FFE 法の適用における正中神経描出のための最適な撮像条件をファントム撮像および健常ボランティア撮像の画像解析により検討した そして, 得られた最適撮像条件で CTS 患者の撮像を行った 対象と方法 使用した MRI 装置は東芝メディカル株式会社製 EXCELART Vantage XGV F2-Edition 1.5 T であり, コイルは 7 mm 径 circular coil である { 図 1 (a), (b) } 3D 画像再構成に用いたワークステーションは株式会社 AZE 製 Virtual Place Fujinを使用した ファントム撮像では, ファントムとして生体組織に近い寒天を用いた 寒天ファントムは水 5 g に対し寒天粉末 4 g を溶かしたものを 2.5 ml シリンジにつめ,12 時間程度冷蔵庫で冷やして作成した 7 mm 径 circular coil の上に寒天ファントムシリンジを乗せて撮像を行った スライス面はシリンジの長軸に対し垂直方向に設定した 撮像条件は,GRE 系シーケンスの 3D-FFE 法を基に,FOV 5 mm 5 mm, マトリクス 176 176, スライス厚 1.5 mm, 加算回数 1 回, 撮像枚数 3 枚, バンド幅 122 Hz/pixel とし,TR, エコー時間 (Echo time:te), フリップ角度 (Flip angle:fa) を変化させて撮像を行った メーカー基準の初期撮像条件は TR=3 ms,te=15 ms, FA=25 であるため, これを基に次のような 3 パターンにて撮像条件を変化させた 1 TE=15ms,FA=25 に固定し,TR を 26 ms( 最小 TR),31 ms,36 ms,41 ms の 4 段階に変化 2 TR=26 ms,fa=25 に固定し,TE を 15 ms,17.5 ms,2 ms の 3 段階に変化 3 (1と2の検討より)TR と TE を決定して, FA を 5 刻みで 5 ~9 の 18 段階に変化 得られた各画像の中心部にファントム断面積の 75% 程度の円形関心領域 (Resion of interest:roi) を設定し { 図 1 (c) }, 寒天ファントムの信号の平均値 (S AVE ), バックグラウンドである空気中の信号値の標準偏差 (SD BG ) を測定し, 信号雑音比 (Signal-to-noise ratio:) を以下のように算出した = S AVE / SD BG ( 健常ボランティアの撮像では, 本研究に同意が得られた健常ボランティア 5 名 ( 平均年齢 :36.2±16.3 歳 ) の右手を対象とした 撮像体位は被験者の負担軽減のため, 仰臥位で肘関節を軽度屈曲し両手を下ろした状態とした 撮影範囲は手根管部を十分に含むように横断面で遠位橈尺関節レベルから手根中手関節レベルとした 撮像条件は,GRE 系シーケンスの 3D-FFE 法を基に,FOV 9 mm 9 mm, マトリクス 176 176, スライス厚 1.5 mm, 加算回数 1 回, 撮像枚数 3 枚, バンド幅 122 Hz/pixel とし,TR, TE, FA を変化させて横断面にて撮像を行った TR, TE,FA 変化の撮像条件はファントム撮像で示した1, 2,3のパターンに従った 1 TE=15ms,FA=25 に固定し,TR を 26 ms( 最小 TR),31 ms,36 ms,41 ms の 4 段階に変化 2 TR=26 ms,fa=25 に固定し,TE を 15 ms,17.5 ms,2 ms の 3 段階に変化 3 (1と2の検討より)TR と TE を決定して, FA を 5 刻みで 5 ~4 の 8 段階に変化 図 2 に手根管計測レベルと計測方法を示した 計測は多断面での評価が望ましいため 2,9), 得られた手根管画像の有鉤骨鉤レベルと豆状骨レベルにおいて, 正中神経の信号値を測定し,5 回測定による平均値を求めた また, は S AVE を正中神経の信号値,SD BG を空気中でアーチファクトのない領域から求め,( 式のように算出した また, これと手根管の描出能について,MRI 検査に携わった経験のある臨床経験 3 年以上の診療放射線技師 5 名による 4 段階 (1:poor,2:moderate,3: good,4:excellent) 視覚評価を行った 評価は, 横断面画像を連続的に観察してもらい, 正中神経の高信号化および手根管部の明瞭化で判断を行った 17

恵寿総合病院医学雑誌第 1 巻 (212 結果 図 3の (a),(b) に, パターン1, 2の寒天ファントムの 平均値の TR,TE による変化,(c),(d) にパターン 3の寒天ファントムの信信号平均値 S A AVE の FA による変変化と 平均値の FA による変化を示示した TR,TE が変化しても寒天ファントムの はほぼ一定であった 1の TE と2の TR を他の値に設設定しても, が変化しないという性性質はほぼ同等等であった これらの結果からパターン 3の TR と TEについては,TR は撮像時間を考慮し最最小 TRの266 ms とし,TE は TE 変化による がほぼ一定であっったためメーカーー初期設定値値の 15 ms とし撮像を行っった パターン3の FA 変化による S AVE は FA=5 で最大大となり,FA が大大きくなるにつれて小さくなる傾向がみ られた FA 変化による の値は FA が小さいうちは上昇し,FA A=3 付近をピークにそれ以降は減少少していく傾向がみられた これらの結結果より, 健常常ボランティアの撮像パラメータの設定定は,FA を 8 段階に限り, 5,1,15,2,25,3,35, 4 とした 図 4の (a),(b) に健常常ボランティア 5 人の正中中神経の 平均値の TR, TE による変変化を示した TR の延延長で の増加傾向,T TE の延長で の低下傾向がみられた よって, TRR とTEについて,TR は および撮像時間を考慮して 3 ms とし,TE は が高高い 15 ms とした 図 4 の (c) に健常ボランティア 5 人の正中神経の信号平均値値 S AVE の FA による変化, (d) に正中神経の 平均値値の FAによる変化を示し た S AVE は FA = 5 で最大となり,FA の増加ととも に小小さくなった FA 変化による の値値はボランテ ィア間による個個人差はあったが, 平均値値では, 有鉤 骨鉤鉤レベル, 豆状骨レベルともに FA = 15 で最大 値となり, それ以降は減少傾傾向がみられた 図 5 に診療放放射線技師 5 名名による手根根管の視覚評 価基基準画像と結結果を示した 視覚評価において,TR, TE が延長してもポイントはほぼ横ばいとなり明ら かな変化は認められなかったが,FA 変化化による画像では FA = 15 で最もポイントが高くなった 今回の検討でで得られた最適適撮像条件 (TR=3 ms, TE= =15 ms,fa=15 ) で臨床撮撮像 (69 歳女女性の左手 ) を行行った 図 6 にCTS 患者の横断面画像像と画像処理 ワーークステーションにて作成成した 3D 画像を示した 有鉤鉤骨鉤レベルにおいて正中中神経の扁平平化, 豆状骨 レベルにおいて正中神経の腫腫大がみられた 図 1 使用装装置と寒天ファントムの 測定画像 S AVE を寒天ファントムの信号値,SDBG B を空気中でアーチファクトのない領領域から求めめ を算出した 18

図 2 手根管管計測レベルと正中神経の 測定画像 S AVE を正中神神経の信号値,SD BG を空気気中でアーチファクトのない領域から求め, を算出した 図 3 寒天ファントムの 平均値の各パラメータによる変化 (a) 寒天ファントムの 平均値の TR による変化 (b) 寒天ファントトムの 平均均値の TE による変化 (c) 寒天ファントムの平平均信号値 S AV VE のFAによる変化 (d) 寒天ファントムの 平均均値の FA による変化 19

恵寿総合病院医学雑誌第 1 巻 (212 図 4 正常ボランティア 5 人の 平均値の各パラメータによる変化 (a) 正中神経経の 平均均値の TR による変化 (b) 正中神経の 平均値の TE による変化 (c) 正中神経経の平均信号号値 S AVE のFA による変化 (d) 正中神経の 平均値の FA による変化 (a) 12 TE=15 ms,fa=25 (b) 1 TR=26 ms,fa=25 1 8 8 6 4 2 21 26 有鉤骨鉤レベル豆状骨レベル 31 36 41 46 TR[ms] 6 4 2 12.5 有鉤骨鉤レベル 豆状骨レベル 15 17.5 2 22.5 TE [ms] (c) 1, TR=3 ms,te=15 ms (d) 1 TR=3 ms,te=15 ms SAVE 8, 6, 4, 有鉤骨鉤レベル豆状骨レベル 8 6 4 2, 2 有鉤骨鉤レベル 豆状骨レベル 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 FA [ ] FA [ ] 図 5 手根管管の視覚評価基基準画像と視視覚評価結果 正中神経の高高信号化, 手根管部の分離離の明瞭さ, 画像全体の信信号雑音比, 手根管部全体体のコントラストで判断し, 視覚評価価を行った 2

考察 3D-FFE 法を用いて手根管部および正中神経を明瞭に描出する最適パラメータの検討を行った 3D 表示には正中神経の高信号化が必要だと考え, 今回は正中神経の信号平均値および を測定した 視覚評価においては, 正中神経の高信号化および手根管部の明瞭化に観点を置き, 判断を行った 健常ボランティアにおいて,TR を長くするほど横磁化が緩和され, 神経の信号が回復するので, が高くなったと考えた TR の延長は臨床での撮像時間が長くなるため ( 例えば,TR=26 ms から TR=3 ms にすると約 4 秒撮像時間が延長する ), これを考慮したうえで, できるだけ長く設定することが望ましいと考える そこで,TR は最低値から一段階長い 3 ms とした TE を延長すると T2* がより強調されるため, コントラストのついた画像となる反面, ノイズも大きくなるため は低下したと考えた また, TE を 15 ms より短くすると撮像枚数の制限がかかるため,TE = 15 ms が本装置においては最適 TE と考える 正中神経の信号値は小さい FA ほど高かったが, 正中神経の は, 有鉤骨鉤レベル, 豆状骨レベルともに FA=15 で最大値となった これは小さい FA (=5 ) では T2* がより強調され正中神経が高信号になったが, 全体的にノイズも大きいため極度に が低下したからである 大きな FA(=4 ) ではノイズは小さいが, 正中神経の信号が弱くなるため, 正中神経の が低下した よって, 正中神経の信号値と および視覚評価による手根管部全体のコントラストを考慮すると,FA=15 が最適 FA と考える しかし GRE 系シーケンスでは, 信号強度が最大となる FA( エルンスト角 :α) は,cosα=exp(-TR/T で表わされるため,TR を延長して撮像する場合には FA を少し大きくした方が良いと考える 今回使用した撮像コイルは感度が高い反面, 感度領域が狭いため, 撮像コイルのポジショニングの位置が信号強度に影響を与えた可能性があり, それが測定精度に影響したものと考える ゆえに,7 mm 径の circular coil を用いて手根管を撮像する場合には, 撮像コイルの正確なポジショニングが必要だと考える 3D-FFE 法の撮像時間は, 約 5 分要するが,3D の薄いスライス ( スライス厚 1.5 mm) は部分容積効果の影響が軽減されるため, 手根管内部を高分解能に描出できた また, 得られたデータからリフォーマットすることにより任意の断面を得ることができる さらに,3D 画像処理ワークステーションにて正中神経を 3D 表示し, プレート画像を挿入することで, 正中神経の形態および走行が把握でき,CTS の診断支援につながると考える 文献 Jarvik J G,Yuen E,Kliot M,et al:diagnosis of carpal tunnel syndrome:electrodiagnostic and MR imaging evaliation.neuroimag Clin N Am 14:93-12,24 2) 内山茂晴 : 手根管症候群の MRI 診断のポイント. MB Orthop,19,78-82,26 3) 内山茂晴, 加藤博之, 中村恒一, 他 : 手根管症候群の MRI 評価でわかってきたこと. Peripheral nerve,19:149-152,28 4) 田山信敬, 菊地臣一 : 手根管症候群の MRI- 除圧前後の Gd-DTPA 造影効果. 日手会誌,12: 357-359,1995 5) 早川克彦, 中根高志, 和田邦央, 他 : 手根管症候群の術後変化 - 造影 MRI での検討 -. 日手会誌,17:439-443,2 6) 池田純 : 手根管 MRI 画像から考察する特発性手根管症候群の成因について. 昭和医会誌,63: 174-182,23 7) 池田和夫 : 手根管症候群に対する手術療法. Peripheral nerve,19(2):153-156,28 8) 有野浩司, 根本孝一 : 手根管症候群の MR neurography. 整形 災害外科,51:79-713, 28 9) Yao L, Gai N:Median nerve cross-sectional area and MRI diffusion characteristics : normative values at the carpal tunnel. Skeletal Radiol,38:355-361,29 1)Khalil C,Hancart C,Thuc V,et al:diffusion tensor imaging and t ractography of themedian nerve in carpal tunnel syndrome preliminary results.eur Radiol 18:2283-2291,28 21

恵寿総合病院医学雑誌第 1 巻 (212 図 6 CTS 患者の横断面画画像と正中神神経の 3D 表示示画像横断面の有鉤鉤骨鉤レベルにおいて正正中神経の扁平平化, 豆状骨骨レベルにおいて正中神経経の腫大がみられた 画像処理ワーークステーションにて, 正中神経の長長軸画像および 3D 画像を作成した 22