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日本内科学会雑誌第98巻第12号

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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J-ADNI 研究によりアルツハイマー病早期段階 ( 軽度認知障害 ) の進行過程を解明 1. 発表者 : 岩坪威 ( 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻教授 東京大学医学部附属病院 早期 探索開発推進室長 ) 2. 発表のポイント : アルツハイマー病の早期段階にあたる軽度認知障害 (MCI) の進行過程を追跡した J-ADNI 研 究の結果から MCI の進行過程は日米で極めて似ていることを明らかにしました 本邦には これまで MCI などのアルツハイマー病早期段階に関する大規模な臨床研究データ は存在しませんでした 今回日本人における MCI が認知症に進展してゆく過程が初めて明ら かになりました アルツハイマー病の進行や薬剤効果を早期段階から精密に評価することにより 日本でのア ルツハイマー病治療薬の開発を 世界と同時進行で加速することが可能となりました 3. 発表概要 : 高齢化とともに本邦で急増しているアルツハイマー病 (AD) の根本治療薬開発は急務です 今 後の予防 治療の対象として重要な軽度認知障害 (MCI 注 1) などの早期段階を 画像診断 やバイオマーカーを用いて精密に評価する Alzheimer s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI 注 2) 研究が米国で進み 本邦でも J-ADNI 研究 ( 注 3) が推進されてきました J-ADNI 研究 の主任研究者を務める東京大学大学院医学系研究科の岩坪威教授らのチームは 今回 J-ADNI の全結果を詳細に解析し アミロイド PET 画像法 ( 注 4) などの最新技術によって診断された AD を原因とする MCI について その症状や進行速度などの特徴が米国 ADNI の MCI に極め て類似していることを明らかにしました J-ADNI 研究では全国で総数 537 例 うち MCI 234 例が 3 年間にわたり追跡され 今回米国 ADNI チームと共同でデータの比較解析が行われまし た MCI から AD への進行過程の自然経過に日本人と欧米人で高い共通性が示され AD 根本 治療薬の治験においても 認知症期よりもまだ進行のスピードが遅い MCI などの早期段階で 治療薬の効果を精密に評価できる技術が確立しました これにより本邦の AD の予防 治療薬 開発が加速されるものと期待されます 4. 発表内容 : アルツハイマー病 (AD) の発症メカニズムが解明されるにつれて 病因となるアミロイド β の 抑制薬などの 根本的な病気の発症メカニズムに作用する治療薬 ( 疾患修飾薬 ) の開発が世界 レベルで開始されています しかし現状では 認知症の症状が臨床的に顕在化した時期 (AD 認 知症 ) での治験では十分な効果が示されず より早期段階での治療が望まれています 記憶障害 などの認知機能障害が出現しているが未だ独立した生活が可能であり 認知症レベルに至っていない早期の段階は 軽度認知障害 (mild cognitive impairment; MCI) と呼ばれ 近年認知症に先 行する病期として注目されています しかし MCI 期は症状の程度も軽く 増悪の速度も緩やか なため 治療薬の治験を行うにあたって 進行スピードを正確に評価するなどの薬効の評価が 困難と予想されます この問題を解決するために MRI や PET スキャンなどの画像診断法 脳

脊髄液などの体液のバイオマーカー測定などを併用し AD の病理学的変化を正確に診断した 上で その進行過程を正確に評価することを目的として 2003 年米国で Alzheimer s Disease Neuroimaging Initiative (ADNI; アルツハイマー病の画像診断を用いた先導的研究 ) が開始されました ADNI の成果から MCI などの早期段階における AD の診断と精密な進行評価が可能と なり MCI 期の AD の疾患修飾薬治験の開始も可能となりつつあります しかし本邦では AD の臨床研究が立ち後れ AD による MCI の精密診断の技術や基礎データの蓄積も遅れをとって おり 特に MCI などの早期段階の進行過程が欧米人と同じかどうかも明らかになっていません でした この状況を打開するために 2008 年より東京大学 岩坪威教授を主任研究者として 全国 38 の代表的な医療研究機関と 脳画像診断 バイオマーカーの専門家が結集して 日本の ADNI 研究 (J-ADNI 研究 ) が開始され 全国で MCI 234 例 軽症 AD 認知症 149 例 健常高齢者 154 例 全 537 例の 24-36 ヶ月間にわたる自然な進行経過 (natural history) の精密な追跡評価が行われまし た 今回岩坪教授らは J-ADNI で得られた全データをとりまとめ データベースとして公開す るとともに AD を原因とする MCI (MCI due to AD) を中心に その進行経過を米国 ADNI と詳 細に比較しました AD による MCI の診断は アミロイド PET または脳脊髄液中 Aβ(1-42) の測定により 米国と同等に行うことが可能となりました ( 図 1) アミロイド陽性の AD による MCI は MCI 全体の約 2/3 を占めていました この群で 記憶などの認知機能や生活機能を評 価する代表的な 4 種類のテストとしてミニメンタル試験 (MMSE) ADAS-Cog13 指標 臨床認 知症スケール (CDR) 機能評価質問票 (FAQ) を 3 年間にわたって反復試行し その進行経過を米 国 ADNI のアミロイド陽性 MCI と比較したところ 日米の検査結果は 4 種類のテストを通じ て極めてよく一致していました ( 図 2) また認知症レベルに達している軽症 AD 群を比較す ると J-ADNI では米国 ADNI よりもやや成績が良く 進行のスピードもやや緩徐な傾向が見ら れました この差は J-ADNI では認知症レベルに達して間もない より軽症の症例が多く含ま れたことによる可能性も考えられました 健常者でも J-ADNI では 23% にアミロイド陽性者が 検出され この群は AD の病理変化が生じ始めている未発症期の プレクリニカル AD に相 当するものと考えられました 今回の結果から AD 発症の早期段階に相当する MCI 期の症状の進行過程には 人種を越えて高い共通性があることが初めて実証されました AD の疾患修飾薬の実用化には 世界の多 くの国において 多数の被験者を同じ方法で評価する グローバル治験 の実施が不可欠です が 本邦の AD による MCI が欧米など他の民族の MCI と同じ性質を示すのか また本邦でも 同じ評価方法が適用できるのかは未解決でした J-ADNI 研究を通じて 米国 ADNI の結果に基 づいて世界標準となっているアミロイド PET やバイオマーカー検査法 認知機能評価法が本邦 でも整備され MCI 段階の AD の症状やその微細な変化を精密に評価することが可能となりま した そして日米の ADNI が厳密に同じ方法を用いて MCI をはじめとする AD の早期段階を 両国間で比較したことにより 民族を超えた共通性と民族ごとの特徴が実証されるとともに J-ADNI と ADNI 研究のデータの妥当性や意義を 更に詳細に検証することが可能となりました 今後アミロイド β やタウなど AD の病因因子を標的とする疾患修飾療法の開発がさらに進 み MCI やさらに早期の段階を対象とする疾患修飾薬の大規模治験がますます盛んになること は必至です この状況下で J-ADNI データベースと J-ADNI によって樹立された技術 ネットワークの活用を進め 官 民 アカデミアのパートナーシップをさらに発展させることにより AD の治療 予防薬の治験が本邦において加速され 本邦発の画期的新薬を含む AD 治療薬の 利用がドラッグラグを生じることなく可能となり 国際的にも さらなる治療薬の研究 開発 に貢献できるものと期待されます

5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Alzheimer s & Dementia: The Journal of the Alzheimer's Association ( 米国科学雑誌 ) 論文タイトル :Japanese and North American Alzheimer s Disease Neuroimaging Initiative studies: Harmonization for international trials. 著者 :Takeshi Iwatsubo*, Atsushi Iwata, Kazushi Suzuki, Ryoko Ihara, Hiroyuki Arai, Kenji Ishii, Michio Senda, Kengo Ito, Takeshi Ikeuchi, Ryozo Kuwano, Hiroshi Matsuda( 以上 J-ADNI), Chung-Kai Sun, Laurel A. Beckett, Ronald C. Petersen, Michael W. Weiner, Paul S. Aisen, Michael C. Donohue ( 以上米国 ADNI) DOI 番号 :10.1016/j.jalz.2018.03.009 アブストラクト URL:https://doi.org/10.1016/j.jalz.2018.03.009 6. 問い合わせ先 : 研究に関すること 国立大学法人東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経病理学分野教授岩坪威 ( いわつぼたけし ) TEL: 03-5841-3541( 直通 ) E-mail: iwatsubo@m.u-tokyo.ac.jp 報道に関すること 国立大学法人東京大学大学院医学系研究科総務係 TEL:03-5841-3303 FAX:03-5841-8585 AMED 事業に関すること 日本医療研究開発機構戦略推進部脳と心の研究課 100-0004 東京都千代田区大手町 1-7-1 読売新聞ビル TEL:03-6870-2222 FAX:03-6870-2244 E-mail:brain-d@amed.go.jp 7. 用語解説 : (1) 軽度認知障害 (MCI): 認知機能の低下が臨床的に確認されるが 独立した生活が可能な程度にとどまるため 認知症とは診断されない 正常と認知症の中間段階をいう 近年認知症の前駆段階として 早期診断 治療上注目されているが とくに ADの前駆段階としての MCIは 健忘などの記憶障害が前景に立つことが特徴とされている (2)Alzheimer s Disease Neuroimaging Initiative (ADNI) 研究 :MCI 期などの AD の早期段階の 治験において 診断や進行経過の評価に役立つ画像 バイオマーカーを確立することを目的に 2003 年に米国で開始された大規模な多施設臨床観察研究 2009 年までの ADNI1, 2016 年までの ADNI2 を経て 現在 ADNI3 が継続されており 健常高齢者 MCI AD 認知症合わせて 2000 例以上が評価を受けている ADNI 研究はアミロイド β 抑制薬などの AD の疾患修飾薬の治験 の基盤と基本技術 データを確立した

(3)J-ADNI 研究 : 日本における AD 疾患修飾薬の治験を円滑に進めるため 米国 ADNI と同 一のプロトコルを用い 2008 年に開始された研究 新エネルギー 産業技術総合開発機構 (NEDO) 橋渡し研究 厚生労働科学研究費認知症対策総合研究事業などの支援により行われ 全国で 38 の臨床機関が参加し 537 例が 2014 年 3 月までに 2~3 年の追跡観察を完了した 得 られたデータが今回 AMED 認知症研究開発事業 認知症疾患修飾薬の大規模臨床研究を効率的 に推進するための支援体制と被験者コホートの構築に関する研究 の支援を受けて包括的に解 析され 米国 ADNI との比較が行われた なお J-ADNI の研究データは科学技術振興機構 (JST) 統合化推進プログラムの支援によって国内外の研究者に広く共有するための整備が行われ JST バイオサイエンスデータベースセンター (NBDC) が運営する NBDC ヒトデータベースから 公開されている ( データの詳細等は NBDC ヒトデータベース専用サイト (https://humandbs.biosciencedbc.jp/hum0043-v1) を参照のこと ) (4) アミロイド PET 画像法 : AD の脳病変として重要なアミロイド β の蓄積を 特異的に結 合する放射能で標識した診断薬を静脈注射後 陽電子放出画像法 (Positron Emission Tomography) により検出する脳画像診断法 かつてはアミロイド PET の開発前は死後の病理学的検査によってのみ確定診断可能であったアミロイド蓄積を ほとんど侵襲なく画像により診 断することが可能となり 治験や先進的な臨床研究における AD の確定診断に必須の技術とな っている

8. 添付資料 : 図 1 J-ADNI におけるアミロイド PET( ピッツバーグ化合物 B; PiB) 陽性度 ( 横軸 ) と脳脊髄液 Aβ(1-42) 定量値 両者を検査した健常高齢者 (CN; 青 ) MCI( 橙 ) 軽症 AD(AD; 赤 ) の値をプロットした アミロイド PET 陽性例 ( 縦の赤線より右 ) は脳脊髄液 Aβ(1-42) 低値 ( 横の 赤線より下 ) を示すことから アミロイド PET 脳脊髄液のいずれかを用いて 脳アミロイド 陽性を診断することが可能であった 右側に代表的なアミロイド PET 画像を示す 図 2 MCI (LMCI) と軽症 AD(Mild AD) における 認知機能指標 ADAS-Cog13 と臨床 生活 機能指標 CDR-SB の変化に関する J-ADNI( 緑線 ) と米国 ADNI( 青線 ) 間での比較 MCI で は得点 変化率 ( 傾き ) ともに日米で極めて一致しているが 軽症 AD では J-ADNI のほうが 追跡開始時の得点が低く その後の進行スピード ( 傾き ) も緩徐な傾向がある 星は統計学的有意差 線は平均値 色のついた帯は標準偏差の幅を示す