難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

生物時計の安定性の秘密を解明


の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

解禁日時 :2018 年 8 月 24 日 ( 金 ) 午前 0 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2018 年 8 月 17 日国立大学法人東京医科歯科大学学校法人日本医科大学国立研究開発法人産業技術総合研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 軟骨遺伝子疾患

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

発表内容 1. 背景感染症や自己免疫疾患は免疫系が強く関与している病気であり その進行にはT 細胞が重要な役割を担っています リンパ球の一種であるT 細胞には 様々な種類の分化したT 細胞が存在しています その中で インターロイキン (IL)-17 産生性 T 細胞 (Th17 細胞 ) は免疫反応

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

平成24年7月x日

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

第6号-2/8)最前線(大矢)

平成24年7月x日

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

計画研究 年度 腸管出血性大腸菌を中心とした腸管感染菌の病原性ゲノム基盤の 解明と臨床応用 林 哲也 1) 小椋 義俊 1) 大岡 唯祐 2) 1) 宮崎大学フロンティア科学実験総合センター 戸邉 亨 3) 2) 宮崎大学医学部 飯田 哲也 4) 桑原 知巳 5) 3) 大阪大学

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

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平成14年度研究報告

博第265号

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発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

< 研究の背景と経緯 > 私たちの消化管は 食物や腸内細菌などの外来抗原に常にさらされています 消化管粘膜の免疫系は 有害な病原体の侵入を防ぐと同時に 生体に有益な抗原に対しては過剰に反応しないよう巧妙に調節されています 消化管に常在するマクロファージはCX3CR1を発現し インターロイキン-10(

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見」【岡澤均 教授】

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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石黒和博 1) なお酪酸はヒストンのアセチル化を誘導する一方 で tubulin alpha のアセチル化を誘導しなかった ( 図 1) マウスの脾臓から取り出した primary T cells でも酢酸 による tubulin alpha のアセチル化を観察できた これまで tubulin al

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

汎発性膿庖性乾癬の解明

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Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

核内受容体遺伝子の分子生物学

報道関係各位 日本人の肺腺がん約 300 例の全エクソン解析から 間質性肺炎を合併した肺腺がんに特徴的な遺伝子変異を発見 新たな発がんメカニズムの解明やバイオマーカーとしての応用に期待 2018 年 8 月 21 日国立研究開発法人国立がん研究センター国立大学法人東京医科歯科大学学校法人関西医科大学

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

報道関係者各位

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

Microsoft PowerPoint - 2_(廣瀬宗孝).ppt

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

革新的がん治療薬の実用化を目指した非臨床研究 ( 厚生労働科学研究 ) に採択 大学院医歯学総合研究科遺伝子治療 再生医学分野の小戝健一郎教授の 難治癌を標的治療できる完全オリジナルのウイルス遺伝子医薬の実用化のための前臨床研究 が 平成 24 年度の厚生労働科学研究費補助金 ( 難病 がん等の疾患

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解禁日時 :2018 年 12 月 12 日 ( 水 ) 午後 6 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2018 年 12 月 11 日国立大学法人東京医科歯科大学国立研究開発法人日本医療研究開発機構 炎症性腸疾患の腸上皮における新たな炎症 再生応答の協調機構を解明 早期の治療効果予測に期待 ポイント 炎症性腸疾患 ( 潰瘍性大腸炎 クローン病 ) は消化管に原因不明の炎症と腸上皮の傷害 ( 潰瘍 ) が生じる 難病 です 本研究では炎症性腸疾患の腸上皮で炎症応答を司る TNF-αと腸上皮の再生を司る Notch シグナルが協調して特定遺伝子群の発現を調節する機構を発見しました TNF-αと Notch シグナルが協調して転写レベルで発現を調節する新規遺伝子として UBD 遺伝子を同定しました 炎症性腸疾患の患者腸上皮における UBD 蛋白は 高い活動性に応じ発現が増加する一方 治療薬である抗 TNF-α 抗体の効果により速やかに発現が減少することを明らかにしました 炎症性腸疾患における抗 TNF-α 抗体療法の早期治療効果予測への応用が期待できます 東京医科歯科大学 再生医療研究センター ( 岡本隆一教授 ) および大学院医歯学総合研究科消化器病態学分野 ( 渡辺守教授 ( 副学長 理事 ) 河本亜美大学院生ら) の研究グループは 炎症性腸疾患の腸上皮における炎症 再生を司るシグナルが協調して発現を制御する遺伝子として新たに UBD 遺伝子を同定するだけでなく 患者腸上皮における同遺伝子の発現が疾患の活動性や抗 TNF-α 抗体療法の治療効果に応じて速やかに増減することを発見しました この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに日本医療研究開発機構難治性疾患実用化研究事業 炎症性腸疾患における食関連リスク因子に関する研究 の支援で実施され その研究成果は 国際科学誌 Journal of Crohn s and Colitis ( ジャーナル オブ クローンズ アンド コライティス ) に 2018 年 12 月 12 日午前 9 時 ( 英国時間 ) にオンライン版で発表されます 研究の背景 炎症性腸疾患 ( 潰瘍性大腸炎 クローン病 ) は消化管に原因不明の炎症と腸上皮の傷害 ( 潰瘍 ) が生じる 1

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし炎症応答を司る代表的な *1 サイトカインである *2 TNF-αと腸上皮の再生を司る *3 Notch シグナルがどのような関わりをもって病的な環境における腸上皮の機能を制御しているのか についてはこれまで不明でした また 難治性の炎症性腸疾患では抗 TNF-α 抗体が治療に使われますが 同治療が有効であるか否かを治療開始早期に予測し得る有用な指標 ( 目安 ) についても 解明 開発が求められていました 研究成果の概要 研究グループは Notch シグナルの活性化が人為的に制御できるヒト腸上皮細胞株を用いた解析系を作成し これに TNF-αを添加した際の応答を解析したところ TNF-α 下流の *4 NF-kB シグナル ( 炎症シグナル ) と Notch シグナル ( 再生シグナル ) とが協調して相互に強め合う機構が存在することを発見しました ( 図 1) またヒト腸上皮において両シグナルの協調により制御される遺伝子群を *5 マイクロアレイ法に より網羅的に検索したところ 最も発現が誘導される ( 亢進する ) 遺伝子として *6 ユビキチン様蛋白をコードする UbiquitinD(UBD) 遺伝子を同定し 同遺伝子が転写レベルで制御される事を示しました さらにヒト腸上皮細胞株や患者由来の *7 腸上皮オルガノイド を用いた解析により UBD 蛋白がヒト腸上皮細胞内で恒常的に *8 ユビキチン-プロテアソーム系による分解を受け このため極めて半減期の短い性質を保ち 抗 TNF-α 抗体や Notch 図 1 腸上皮における TNF-α と Notch の協調による遺伝子発現制御 図 2 炎症性腸疾患患者における UBD の発現変化 2

阻害薬により速やかな発現低下が誘導されることを明らかとしました 実際 炎症性腸疾患患者の腸粘膜では 活動性の炎症に伴い腸上皮における UBD 発現が亢進している一方 抗 TNF-α 抗体治療が有効であった潰瘍性大腸炎患者の腸粘膜組織では腸上皮における UBD の発現が早期より減少していました ( 図 2) これらの結果から 炎症性腸疾患患者の腸上皮における UBD の発現が抗 TNF-α 抗体治療の効果を予測する指標となり得る可能性が考えられました 研究成果の意義 これまで炎症応答と再生応答が同時に進行する炎症性腸疾患患者の腸上皮内において どのように異なる応答間の統合もしくは協調が行われ 病態を形成しているのか その詳細は明らかではありませんでした 研究グループは炎症応答を司る主要なサイトカインである TNF-αと再生応答を司る主要な分子シグナル系である Notch シグナルが腸上皮細胞内で相互に協調して遺伝子発現を調節することを初めて明らかとしました また 同機構により転写調節を受ける代表的な遺伝子として UBD を同定するだけでなく 炎症性腸疾患の活動性に伴い腸上皮での発現が誘導されること 抗 TNF-α 抗体治療の効果に伴い速やかに発現が低下することを明らかにしました 本研究成果は炎症性腸疾患の疾患活動性に伴い鋭敏に発現が変動する新規遺伝子を明らかにしたものであり 特に抗 TNF-α 抗体の有効性を客観的に予測 判定する新たな病理学的指標として活用することにより 同治療の効果を早期かつ正確に予測可能となることが期待できます 用語解説 *1 サイトカイン免疫を司る細胞等から放出されるタンパク質で 自身を含むさまざまな細胞に生理作用を発揮し 細胞間情報伝達 細胞間相互作用を担う *2 TNF-α 腫瘍壊死因子 (TNF) と称され 生体内で炎症が起きた際に多く産生されるサイトカインの一つ 炎症性腸 疾患の病態に深い関わりがあることが知られている *3 Notch シグナル 細胞表面の Notch 受容体により活性化される細胞内情報伝達機構の一つ 腸上皮の増殖 分化 再生を 司る主たる分子機構として知られている *4 NF-kB シグナル TNF-α の刺激を受けた細胞内で活性化する分子シグナル経路 NF-kB は複数蛋白の複合体から成り 細 胞内でさまざまな遺伝子の転写調節因子として機能する *5 DNA マイクロアレイ法 3

数万以上の遺伝子の発現について網羅的に比較 解析する手法 基板上に高密度に固定された遺伝子特異 的配列を持つ DNA 分子を利用する *6 ユビキチン様蛋白 翻訳後修飾に関わるユビキチン分子と似た構造をもつ蛋白の総称 標的となる蛋白に結合することにより 蛋 白の分解 機能の変換等に関与しているとされる *7 腸上皮オルガノイド 体外で腸上皮幹細胞を培養した際に構成され 単層上皮で中空構造を持つ 3 次元構造体 構成細胞は基底 膜側が外側を向いた極性を有し 生体内の 腸陰窩 に類似した構造を形成し得ることから ミニ腸 と称され る *8 ユビキチン - プロテアソーム系 ユビキチンで標識された蛋白を認識し 酵素複合体から成る プロテアソーム によりこれを分解する細胞内機 構 細胞周期制御や細胞内情報伝達等に関わることが知られている 論文情報 掲載誌 : Journal of Crohn s and Colitis 論文タイトル : Ubiquitin D is Upregulated by Synergy of Notch Signalling and TNF-αin the Inflamed Intestinal Epithelia of IBD Patients 研究者プロフィール 岡本隆一 ( オカモトリュウイチ ) Okamoto Ryuichi 東京医科歯科大学再生医療研究センター教授 研究領域炎症性腸疾患 再生医療 河本亜美 ( カワモトアミ ) Kawamoto Ami 東京医科歯科大学消化器病態学分野大学院生 研究領域炎症性腸疾患 4

渡辺守 ( ワタナベマモル ) Watanabe Mamoru 東京医科歯科大学消化器病態学分野教授 研究領域炎症性腸疾患 再生医療 問い合わせ先 < 研究に関すること> 東京医科歯科大学統合研究機構再生医療研究センター岡本隆一 ( おかもとりゅういち ) E-mail:rokamoto.gast@tmd.ac.jp TEL:03-5803-5974 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科消化器病態学分野河本亜美 ( かわもとあみ ) E-mail:akawamoto.gast@tmd.ac.jp TEL:03-5803-5877 < 報道に関すること> 東京医科歯科大学総務部総務秘書課広報係 113-8510 東京都文京区湯島 1-5-45 TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272 E-mail:kouhou.adm@tmd.ac.jp <AMED 事業に関すること> 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 100-0004 東京都千代田区大手町 1-7-1 読売新聞ビル戦略推進部難病研究課 TEL:03-6870-2223 E-mail: nambyo-info@amed.go.jp 5