ダークエネルギー 千葉剛 日本大学文理学部
内容 観測 現象論 宇宙の未来 ダークエネルギー以外の可能性 理論 ( 宇宙項問題 )
記号 密度パラメター : Wi = 8pGri/3H8 /3H0 2 特に曲率については WK = -K/a0 2 H0 2 するとフリードマン方程式 H 2 = S 8pGri/3 - K/a 2 より 1= S Wi ダークエネルギーの状態方程式 : w=px/rx
時間と空間のスケール ハッブルの法則 : v=h0r H0 =72 7 km/s/mpc 時間 T=1/ H0 = 136 億年 (@137 億年 )! 距離 L=c/H0 =136 億光年 = 4160 Mpc z までの距離 l < L そこでの H(z) ( 膨張則 ) に依存 宇宙の物質構成による l L
観測
標準光源で距離を測る 明るさ 1 2m 明るさ 4 1m
Ia 型超新星 : z~1 で超新星は暗かった 光度距離は遠い m-m=5log(h0dl) ) + 25-5log(H 5log(H0 Mpc) dl(z)=(luminosity/4pflux) 1/2 =(1+z)/(H0 WK ) ) X sink[h [H0 WK Û0 z dz/h(z)] =(1+z)Ûdz/H(z) (K=0) a 加速 膨張率 H(z) が小さいと距離 dl(z) は長くなる 過去に膨張速度が遅ければよい 現在は膨張速度は加速していることになる 減速 t H(z) 2 /H0 2 = WR (1+z) 4 + WM(1+z) 3 + WX(1+z) (1+z) 3(1+w) WX に敏感 ( ダークエネルギーが宇宙の主成分になるのは最近 )
ln r 輻射 物質 ダークエネルギー ln a
時間を遡る 加速膨張 : 過去の膨張速度は遅い じ大きさ (z) 時間 速膨張の方が過去 = 遠方 = 暗い 現在 減速膨張 : 過去の膨張速度は速い 10
Riess et al.(2004)
WX ( 加速膨張のエネルギー源 ) の直接的証拠
CMB( 宇宙背景輻射 )
CMB: z dec=1100 での角径距離 da(z)= (z)=d/q =(1/H0 WK (1+z)) (1+z)) sink[h [H0 WK Û0 z dz/h(z)] =dl(z)/(1+z) (z)/(1+z) 2 WK と WMh 2 に敏感 (z=1100 は物質が支配的 ) D=H -1 (z=1100)/ 3 q H(z) 2 =H0 2 (WM(1+z)(1+z) 3 +WK (1+z) 2 +WX(1+z) (1+z) 3(1+w) 3(1+w) )
曲率正 : 曲率 0 曲率負 : 15
ダークマターの密度 WMh 2 を固定
Hinshaw et al.(06)
縮退線 WMh 2 =0.12
WMh 2 =0.12 + HST WM = 0.23 WK = 0 ダークエネルギーの間接的証拠 WX =1-WK -WM >0
CMB+2dFGRS+SDSS+SNIa WK=-0.024+0.016(-0.013) w=-1.062+0.128(-0.079)
超新星 宇宙背景輻射 加速膨張する宇宙
現象論
ダークエネルギー : 加速膨張する宇宙 の現象論 加速膨張させるには宇宙定数でなくてもよい w=p/r<-1/3 であればよい : a /a - (r+3p) >0 宇宙定数 ( 位置エネルギー ) なら w=-1 スカラー場なら 位置エネルギー V (f)( 運動エネルギー (df/dt) 2 /2 w=[(df/dt) 2 /2 - V(f)]/[(d )]/[(df/dt)/dt) 2 /2+V(f)] f がゆっくり転がれば w~-1
クインテッセンス X マター ダークエネルギー 宇宙定数を一般的にしよう 千葉 杉山 中村 ( 97): X-マター ( なぞの物質 ) コールドウェル デーブ スタインハート ( 98): クインテッセンス ( 第五元素 ) 火 水 空気 土 第五元素 ( 天上の物質 ) 光 ニュートリノ バリオン ダークマター 第五元素 ターナー : ダークエネルギー ( 99) ( はじめ おかしなエネルギー といっていた )
ダークエネルギーとは? 負の圧力 ( 斥力的 ) を持った宇宙のエネルギー成分 w=p/r -1 なら時間変化する dr/dt = -3H( 3H(r+p) 0 さらに空間的なゆらぎ ( 非一様性 ) も存在する ( なめらかでない ) ダークエネルギーの密度時間一定面空間
ダークエネルギーとは? 負の圧力 ( 斥力的 ) を持った宇宙のエネルギー成分 w=p/r -1 なら時間変化する dr/dt = -3H( 3H(r+p) 0 さらに空間的なゆらぎ ( 非一様性 ) も存在する ( なめらかでない ) 非一様性 = 時間一定面
ダークエネルギーのパラメター 状態方程式 : w=p/r (w=-1: 1: 宇宙定数 ) w =dw/hdt=dw/dlnadw/dlna ダークエネルギーの音速 ( 揺らぎの伝播 cs 2 =dp/ p/dr ): 揺らぎの伝播 w -1 のとき ): Chiba-Sugiyama Sugiyama-Nakamura,MNRAS,289(1997)L5-L7 L7 現在の観測的制限 : w=-1.08+0.20 1.08+0.20-0.180.18 (157 SNIa+WMAP, GOODS,2004) w=-1.023 1.023 0.090(stat) 0.090(stat) 0.054(sys) (71 SNIa+SDSS(BAO), SNLS,2005) w =-1.48+0.90-0.81 0.81 (GOODS,2004)
Riess et al.(2004)
ダークエネルギーモデルの予言 3w(1-w)(1+w) 3w(1-w)(1+w)/(1-2 3(1-w)(1+w) Caldwell-Linder,PRL(05) Chiba, PRD(06) 1+w <0.1 なら s(w )<0.1~0.5 (w<-1 なら w もっと大きいかも )
宇宙の未来
ダークエネルギー :px=wrx: フリードマン方程式 エネルギー方程式の形に変形できる : 有効ポテンシャル : 全エネルギー :
有効ポテンシャル w>-1/3 ( 引力的 ) WK=1-WM-WX<0: 再収縮 w=-1/3 a WK=1-WM-WX<-WX : 再収縮 WM>1 t a -1 a -1 開いた宇宙 a -1-3w 閉じた宇宙 -Wx
w<-1/3 ( 斥力的 ) w<-1 のときは新しい可能性 : ビッグリップ (Big Rip) rx a -3(1+w) 密度も増大! a 膨張率 H も増大 -1 じきに膨張速度が発散し宇宙空間が引き裂かれる : ビッグリップ a t*-t -2/3 1+w a -1-3w
宇宙の運命 -1/31/3 > w -1: 永遠に膨張 w -1/3: 永遠の膨張か再収縮 ( ビッグクランチ ) w<-1: ビッグリップ Chiba,Takahashi, Sugiyama, Classical and Quantum Gravity, vol. 22, 3745-3758 (2005)
宇宙の主な出来事 (-1/3>w> 1/3>w>-1) 1)
宇宙の主な出来事 (w=-3/2) 350 億 -6 千万年 銀河の解体 350 億 -3ヶ月 太陽系の解体 350 億 -30 分 地球の爆発 350 億 -10-19 秒 原子の解離 350 億年 ビッグリップ
ダークエネルギー以外の可能性
観測 : 加速膨張する宇宙を示唆 ダークエネルギーを示唆していない 観測 : 遠方の超新星は明るくなかった dl(z)=(1+z)ûdz/h(z) アインシュタイン方程式の右辺 ( 物質項 ) を変える : 新しい物質の導入 = ダークエネルギー 左辺 ( 曲率項 = 重力 ) を変える : 重力理論を変える
可能な選択肢 ダークエネルギー入りのアインシュタイン重力 L>0 >0 ( 宇宙定数 ) or L=0 でポテンシャルエネルギーのあるスカラー場 ( ミニインフレーション ) or その両方 or ダークエネルギーなしなしの非アインシュタイン重力 両方 ( ダークエネルギー入りの非アインシュタイン重力 )
そもそもの問題は WM <1 WM=rM/rcrit=8pGrM/3H0 2 ~( 物質 )/( 重力 ) : アインシュタイン方程式の右辺と左辺の比 WM =1 にするには 1. ダークエネルギーの導入 : WX =1-WM 2. 観測が間違っている!? X Htrue<H0(=72 7) 7) WMh 2 =0.10 H=32 (!?) dg/dt 0 dg/dt/g<10-2 H0
4. アインシュタインが間違っていた! ディラトン重力 ( 第 5 の力 ) ( スカラーテンソル / ブランスディッケ )(1961-) 5. 高次元モデル (Dvali-Gabadadze Gabadadze-Porrati,2000) 遠方で重力は 5 次元的になる ( 逆 2 乗則から 3 乗則へ ) 5. フリードマンが間違っていた! われわれは低密度領域に住んでいる (Tomita, 1997-) ダークマターのゆらぎによって宇宙の加速膨張は起こせるか? (Kolb et al., 05-) 起こせない!
Tomita,PTP(01) size: 240/h Mpc
4. アインシュタインが間違っていた!? ディラトン重力 ( 第 5 の力 ) ( スカラーテンソル / ブランスディッケ )(1961-) 5. 高次元モデル (Dvali-Gabadadze Gabadadze-Porrati,2000) 遠方で重力は 5 次元的になる ( 逆 2 乗則から 3 乗則へ ) 5. フリードマンが間違っていた! X われわれは低密度領域に住んでいる (Tomita, 1997-) ダークマターのゆらぎによって宇宙の加速膨張は起こせるか? (Kolb et al., 05-) 起こせない!
残った可能性は ダークエネルギー アインシュタイン以外の重力理論
誰がダークエネルギーを注文したか? アインシュタインが宇宙定数 インフレーションは ( もともとを導入は ) 素粒子の統一理論によ しかし加速膨張する宇宙なり予言されたど考えもしなかった ( 静止宇 インフレーションはビッグバ宙を作るため ) ン宇宙論のさまざまな問題 ダークエネルギーは宇宙論を解決した的問題を解決するどころか しかも インフレーションはむしろ問題を作っている ( 宇宇宙の構造の種 ( 密度揺ら宙項問題 : 後述 ) ぎ ) を予言し ある種の それならば ダークエネギー重力波の存在も予言なしの可能性を考えよう
アインシュタイン以外の重力理論 太陽系近傍の実験 ( 惑星の運動 光の伝播 ) で検証できる カッシーニ衛星や月への測距 (Lunar Laser Ranging (Apollo 11)) から アインシュタイン理論からのずれは 0.001% 以下 ( アインシュタインは 99.9999% 正しい!!) 重力定数の時間変化への制限は dg/dt/g<4x10-13 yr -1 13 yr
重力が測られているのは 10-2 cm 1AU 1kpc 1Mpc 1000Mpc 大きな余剰次元? ニュートン理論の変更? アインシュタインの変更?
ダークエネルギーと重力理論の変更の可能性を区別するには : 観測どうしの整合性のチェック たとえば二つの方法で決定されたハッブルパラメター H(z) の比較 弱い重力レンズ : 密度揺らぎ d(z) H 1 (z) 超新星 : dl(z) H2(z) もし アインシュタイン重力が正しい重力理論なら二つは一致するはず ( 重力による密度揺らぎの成長 ) /(1-1/2rcH) ブレーンモデル
重力レンズ超新星 Ishak,Upadhye,Spergel(2005) Knox,Song,Tyson(2005)
宇宙項問題
L(@ 真空のエネルギー )(Zeldovich(67)) アインシュタイン方程式 : 真空 : 最大対称空間 ( ローレンツ不変 ) Tmn = -rl gmn L = 8pG rl
理論物理学者は Lが嫌い 理論の評価 ( ゼロ点振動の和 ) rl ~Ûd 3 k Ñw/2 ~ m 4 pl ~10 93 g/cm 3 ( プランク長さより長い波長の波 ) 反粒子粒子 しかし観測によると : rl < 10-29 g/cm 3 ~10-124 m 4 pl ~ 10-56 m 4 WS (1990 年代前半 ) 理論屋の偏見 :L は ( 何らかの理由で ) ゼロのはず!
理論物理学者は Lが嫌い ( だけど ) 理論の評価 ( ゼロ点振動の和 ) rl ~Ûd 3 k Ñw/2 ~ m 4 pl ~10 93 g/cm 3 ( プランク長さより長い波長の波 ) しかし観測によると : rl ~ 10-29 g/cm 3 ~10-124 m 4 pl ~ 10-56 m 4 WS (1990 年代後半 ) 理論屋の偏見 :L は ( 何らかの理由で ) ゼロのはず! ( とはいえなくなった )
真空も重さを持っている 量子論 ( 差額主義 ): 真空からの差額だけが問題 絶対値は関係ない ( 原子のスペクトル線 ) 一般相対論 ( 平等主義 ): どんな物質でもエネルギー ( 質量 ) を持ってさえいれば重力は感知する 宇宙項問題 : 理論と観測の不一致
ダークエネルギーについてのコメント J.Harvey: : Basically,peaple don t t have a clue as to how to solve this problem. S.Weinberg: : Right now, not only for cosmology but for elementary particle theory, this is the bone in our throat. F.Wilczek: maybe the most fundamentally mysterious thing in all of basic science. E.Witten: would be number 1 on my list of things to figure out.
量子論と重力 量子重力理論が必要 超ひも理論 ひも理論はわれわれの世界 ( 真空 ) を説明するはず : なぜ 4 次元なのか時空の起源質量の起源 物質の起源ダークマターは何かダークエネルギーは何か正しい重力は何か
ひも理論は唯一の世界 ( 真空 ) を 予言するはずだが ストリングランドスケープ問題 (2000-): ひも理論には莫大の数 (~10 300 ~10 1000 ) の真空があるらしい それぞれ違う宇宙 ( 物理定数 真空のエネルギー密度 ) に対応する もしそうなら宇宙定数 (w=-1) がもっともらしい
problem is NP complete(or hard)!
mpl 4 10 300 ~10 1000 密度 rl ~ 10-124 mpl 4 となる真空はいくつかある 0
ひも理論は唯一の世界 ( 真空 ) を 予言するはずだが ストリングランドスケープ問題 (2000-): ひも理論には莫大の数 (~10 300 ~10 1000 ) の真空があるらしい それぞれ違う宇宙 ( 物理定数 真空のエネルギー密度 ) に対応する われわれの宇宙に近い真空はいくつかある (10 124 vs. 10 300 )
でも ランドスケープでいうすべての真空 ( 遠くから見た真空 ) が量子重力理論の正しい真空 ( 近くで見た真空 ) に対応しているとは限らない (Vafa,05-) Swampland( 沼地 )
まとめ 宇宙論的観測 加速膨張する宇宙 加速膨張 ダークエネルギーか重力理論の変更 ( ひも ) 理論からは真空はひとつに決まらない それなら 観測観測から決めればよい それができるのは天文学的観測だけである w=-1 かどうかが重要な情報である アインシュタイン重力以外の可能性はいくつかの観測間の整合性や太陽系近傍の実験から検証できる
これからの課題 宇宙は期待していたようには美しくない ( ように見える ) 通常の物質 4% ダークマター 23% ダークエネルギー 73% この一見美しくない宇宙を理解すること 疑問 ( 宇宙の組成 ) がひとつ解けると 新たな疑問が生じる
知識 無知 理解 知識 体積 無知 理解 知識 知識無知 無知 体積表面積 表面積
19 世紀の暗雲 ケルビン卿 ( ウィリアム トムソン ) (1824-1907) 熱と光の力学理論にかかる 19 世紀の二つの暗雲 (Nineteenth Century Clouds over the Dynamical Theory of Heat and Light) と題する講演を王立研究所で行う (1900 年 ) 1. エーテルが発見されないこと 2. 気体の熱運動に関する法則の破綻 ( エネルギー等分配則 )
20 世紀の暗雲? エーテル ( 特殊 ) 相対性理論 熱 量子力学 20 世紀の暗雲は? 1. ダークマター ( 新粒子 新しい法則 ) 2. ダークエネルギー ( 新しいエネルギー 新しい法則 ) 2. ダークエネルギー これらの問題を追及することで 21 世紀の物理学は進歩する 67
われわれは今岐路に立っている : ダークエネルギーそれとも新しい重力 what is vacuum? what is gravity?
God may be subtle, but he is not malicious. ( 神は老獪だが悪意悪意はない )
ご参考までに