介護の日本語介護の日本語 の開発との開発と 実践報告 武田亜寿香 ( ミンダナオ国際大学 ) 野村愛 ( アセンド教育財団 )
Ⅰ.. 介護士のための日本語教材 介護の日本語介護の日本語 について Ⅱ.. 教材使用後のフィードバック Ⅲ.. 今後の課題
Ⅰ.. 介護士のための日本語教材 介護の日本語介護の日本語
11. 1. 介護の日本語介護の日本語 の概要の概要 介護 という特定分野のための日本語教材 文法を学ぶための一般教科書とは異なる ミンダナオ国際大学 ( 在フィリピン ダバオ ) 社会福祉学科の学生を対象福祉学科の学生を対象に作成 大学卒業後 介護士として日本人被介護者と日本語でコミュニケーションを取る際に必要な日本語を習得できるようになることが目的
教科書の目標 : 介護現場における日本語会話能力を身につける 日本の介護現場におけるフィリピン人スタッフと日本人施設利用者とのコミュニケーションに重点 学習内容 : 日本人利用者との日常生活の様々な場面で使用される日本語表現 場面シラバスにより会話形式で列挙場面シラバスにより会話形式で列挙 例 : 清拭介助 入浴介助 依頼 許可 勧誘 等の機能も同時に学習も同時に学習
対象者のレベル 既に日本語 4 技能の基礎習得をした学習者を想定 理由フィリピン人介護士は 1 施設利用者をケアする為には高度な日本語力が必要 2 利用者とのコミュニケーションとして声かけ 言葉かけが必要 3 日本人スタッフへの申し送り 緊急連絡など 日本語による密な業務が必要とされる
各課の構成 学習の目的 会話 表現 会話覚書 ストラテジー ことば 介護に必要な専門用語 会話文翻訳 1 学習の目的 : その課で学習する目的 項目を列挙 2 会話 : その課の特定の場面で交わされる利用者と介護者の会話の形をとっている 3 表現 : まず 各課でメインとなる表現をまとめる それから フォーメーションとして 各課の表現や語彙を身につけるためのドリル練習を行う 4 会話覚書 : 老人ホームの利用者とのスムーズな会話を行うための項目 たとえば お年寄りを元気付けるための表現などを紹介する
5ストラテジー : その課の仕上げとして 学習した文型や表現を用いて 与えられたタスクを達成する練習を行う 6ことば : その課で学ぶ新出語彙を列挙 7 介護に必要な専門用語 : その課のトピックに関連した介護者に必要な用語を列挙 8 会話文翻訳 : 各課の会話文の英語訳
1.2 作成方法 完成までの経緯 フィリピン人介護士が日本の特別養護老人ホームで体験学習を行った実践を基に作成 受入れ老人ホームで 介護業務に関する用語 利用者との間で行われる会話内容モデルを取材 現場を知らない人間にとって 現場で本当に必要な日本語がなにかを聞き出すのは難しい作業
教材を作成する上で重点に置いたこと 福祉 介護の理念についての理解 特に声かけを理解することから始めた 福祉の理念の柱である QOL( 生活の質 ) を向上させるための身体的及び精神的介護を円滑するためには 声かけを中心とした良いコミュニケーションが必要 ( 思いやりのひとこと 一橋出版 2003 参照 )
介護の専門家への取材 介護にはどのような声かけの場面があるか 各場面でどのような声かけがおこなわれるか 各場面でどのような利用者の状況があるか例 ) 利用者が声かけを拒否した場合 介護士として業務上どのような用語を知っておくべきか
Ⅱ.. 教材使用後のフィードバック
ミンダナオ国際大学介護日本語コース 学習時間 : 約 96 時間週 6 クラス (1 回 90 分 ) 学生数 :4 年生 19 名 ( 男 6 名 女 13 名 ) 日本語能力検定試験合格者 :4: 級 16 名 3 級 3 名使用教材 : 介護の日本語介護の日本語 (2007 年 3 月 月 8 月 ) ケアナビ (2007 年 8 月 月 10 月 ) 教師 : 比人教師 1 名と日本人名 1 名のティームティーチング ミンダナオ国際大学では 介護という特定分野における日本語の指導は 日本語能力検定試験 3 級文型及び語彙の習得後に行なわれるべきであるという方針の下に 3 年間日本語を学習した学生が対象対象
アセンド教育財団介護日本語コース 学習目標 : 介護場面での日本語を学ぶ 学習時間 :50: 時間週 5 日 20 回 (1( 回 150 分 ) 生徒数 : 合計 18 名 ( 午前クラス 9 名 午後クラス 9 名 ) 日本語力 : 初級終了程度 ( みんなの日本語 Ⅰ Ⅱ 終了 ) (2007 年度日本語能力検定試験合格者 : 3 級 14 名 ) 教師 : 比人教師 4 名 日本人教師 1 名 使用教材 : 介護の日本語介護の日本語 (2008 年 2 月 ) リソース : 日本語でケアナビ 介護関連の本や URL 授業内容 : 週 4 日 介護の日本語介護の日本語 週 1 回まとめ
2.2.1 会話 2.2 フィードバック 1 コンテキストが少ないため 学習者や教師が表現を使用使用する場面や状況状況が理解できない 例 :P.33: お口のなかのもの 出してしまいましょう 2 会話が自然かどうかの教師側の判断が難しい 例 :P.124: お年寄が転んで怪我をしてしまったときの介護士の言葉 どうして転んじゃったんですか
2.2.2 表現 1 学習者は実際に文型通り質問しても 相手が返答の言葉の意味が分からない恐れ 例 :P.4: N ってなんですか 血圧ってなんですか 2 どのような場面で使用するか教師が説明できない 例 :P.68: Nはいかがですか 雑誌はいかがですか
2.2.3 会話覚書 実際に病院で湯たんぽを使っているか P.87 湯たんぽを入れましょうか 2.2.4 ストラテジー適切さという点で 学習者の答えが正しいかどうかの判断が難しい 例 : 食事介助 タスク Situation1 You are serving the elderly his/her meal. You assist him/her in eating gently. 回答例 : おまたせしました きょうは おにくとやさおにくとやさいですよ ちゃんとかんでしてください
2.2.5 介護者に必要な専門用語 1 適切な使用方法がわからない 例 :P.28: 起床 浅眠 P.133 応急処置 喘鳴 2 本当に専門用語か例 :P.79: おむつ交換 容器 P. 105 清拭介助 シャンプー 3 覚える必要性があるか 実際に使用するか 例 :P.58,59: 車いすの部位 ロフストランド杖ご不浄 湯たんぽ
その他 1 英訳誤解を生む訳がある 例 P.60 着床 Implantation 2 絵誤解を生む可能性があるため 写真があったほうが良い 例 : P.77 和式便器
3 文化の相違による問題 例 1) ) 食事の場面 なにから召し上がりますか の使用状況フィリピンの病院の病院では主菜 1 つ ( ご飯の上にスープがかかっている ) が一般的 例 2) ) 入浴の場面 のぼせる あたたまる などの表現常夏のフィリピンではお風呂につかる習慣がないため お風呂に関する語彙 表現が理解しにくい 例 3) ) フィリピンにはない物例 : ポータブルトイレ シャンプーハット カイロ 湯たんぽなど
今後の課題 3.1 介護現場での会話を日本語教育のベースで一般化 介護についての知識がない日本語教師は 教科書に頼るところが大きい 特に 日本の介護現場を知らない教師は 日本語はわかっても コンテキストが理解できないために 学習者への説明が難しい場合がある 各場面で何を学ばせたいか解説書の作成
3.2 会話内でのスタッフの返答パターン 自然さ 介護士の返答パターンが少ないため 実際に現場で使用する際ワンパターンになる恐れがある スタッフの受け答えを何パターンか紹介介護士が普段使用している表現をより多く調査 例 ) 食事の場面で もうよろしいですか お下げします のほかに ごちそうさま にしますか? などの表現も紹介 ミニ会話例として紹介するなど 紹介の仕方も要検討
3.3 現場での使用度の高い表現 語彙の再選定 どのような場面 ( 話し言葉か 書き言葉かなど ) で使用されるかなどの解説や例文 教師向けに日本の介護場面についての説明や声かけ例などが書かれた解説書の作成教科書内の語彙がどの程度必要性が高いのか日本語教師が判断できない 実際に現場では必要がない恐れあり 語彙の使用頻度や重要度を提示 ( 例 : 日本語でケアナビを参考に ) 現場でよく使用される物事を優先的に選出しなおす 絵だけでなく 写真などを取り入れる また 十分な説明が必要
3.4 フィリピンと日本の文化的な違いについての解説 一般的な生活様式例 ) 食事の種類 ( 主菜と副菜の有無 ) 入浴 介護の仕事 理念例 ) ご飯を食べなかった利用者に対する介護士の対応の相違
3.5 聴解力の強化 日本語に接する機会が極めて少ない学習者は 聴解力が大変低い 聞く力を高めるため 授業では媒介語は使用せず 殆どすべて日本語を使用したが 最終評価で聴解力を測定するための方法が難しかった リスニングの副教材などを作成
3.6 評価方法 介護に関する知識の無い日本語教師にとっては 学習者の総合的な評価方法が難しい 日本語教師と介護専門家 2 つの視点からの評価 例 ) ストラテジータスクにおける会話評価 / 日誌の書き方の評価 日本語教師は日本語のエラーをチェック 介護専門家は介護士として適切な表現か否かをチェック