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語幹 ) に関しては MINEN 名詞化のみが形成可能である (Hakulinen et al. 2004: 234) -minen 接辞の生産性において特筆すべきは 中動の使役など多重に派生された動詞からも広く MINEN 名詞化が形成できることである NMLZ 名詞化においてこれは不可能である (2) puke-udu-tta-minen *puke-udu-t-us dress-mid-caus-minen dress-mid-caus-nmlz 服を着させること しかしながら MINEN 名詞は非人称動詞や欠如動詞 (defective verb: 一部の人称でしか活用しない動詞 ) からは形成することができない (Nuutinen 1976) たとえば義務の助動詞 täytyä ねばならない は欠如動詞であり 動詞自体は 3 人称に活用し意味上の主語は属格で現れるが この動詞から名詞化を行うことはできない (3) a. Minu-n täyty-y men-nä. 1SG-GEN must-prs.3sg go-inf 私は行かなければならない b. *minu-n täyty-minen men-nä 1SG-GEN must-minen go-inf 私が行かなければならないこと (Nuutinen 1976: 20) 同じように minua janottaa 私は喉が渇いた など 経験者主語を分格にとり 動詞が使役形をとるよ うな非人称動詞 ( かつ欠如動詞 ) からも MINEN 名詞化は形成することができない (4) a. Minu-a jano-tta-a. 1SG-PART thirst-caus-prs.3sg 私は喉が渇いた b. *minu-n jano-tta-minen 1SG-GEN thirst-caus-minen 私の喉が乾くこと (Nuutinen 1976: 20) つまり 主格主語を伴わない動詞からは MINEN 名詞化を形成できないということができる また また非人称の olla 動詞 ( 英 be に相当 ) からも MINEN 名詞化は形成できない (5) a. Ulkona on kylmä. outside be.prs.3sg cold 外は寒い b. *ulkona ole-minen kylmä outside be-minen cold 外が寒いこと (Nuutinen 1976: 20) 所有構文や 現在分詞様格複数形を用いた するふりをする 構文 コピュラ構文からも MINEN 名 詞化を作ることは不可能である 2

(6) *minu-lla ole-minen raha-a 1SG-ADE be-minen money-part 私にお金があること (Nuutinen 1976: 33) (7) *Liisan ole-minen nukku-vi-na-an 東京外国語大学語学研究所 Luncheon Linguistics Liisa-GEN be-minen sleep-prs.ptcp.pl-ess-poss.3sg ei onnistu-nut hämää-mä-än ketään. NEG.3SG succeed-pst.ptcp bluff-inf-ill anyone リーサが寝たふりをしていることは誰も驚かすことができなかった (Nuutinen 1976: 32) (8) *tytö-n ole-minen vielä nuori girl-gen be-minen still young 女の子がまだ若いこと (Nuutinen 1976: 28) このことから MINEN 名詞化は節の名詞化 (clausal nominalization) ではないことがわかる MINEN 名詞化に適用される制約は NMLZ 名詞化にも適用される すなわち 非人称動詞や欠如動詞か らの名詞化 また上に挙げた諸構文からの名詞化は基本的には形成不可能である 3. フィンランド語名詞化の統語論 3.1. 項の表示 MINEN 名詞と NMLZ 名詞はともに一般的な名詞句と同じく格と数に応じて屈折する 基の動詞の項 ( 主語 目的語 ) は属格で出ることができる (9) では基の他動詞 toteuttaa 実現させる の目的語項が属格で出ている (9) Puoluee-t ovat tärkeä asia demokratia-n party-pl be.prs.3pl important thing democracy-gen toteutta-mise-n/toteut-ukse-n kannalta. realize-minen-gen/realize-nmlz-gen with.respect.to 政党は民主主義の実現において重要である (Hakulinen & Karlsson 1979: 395) Nuutinen(1976) によれば 自動詞から形成した名詞化の場合 属格名詞句は基の主語と解釈され 他動詞から形成した名詞化の場合 属格名詞句はふつう基の目的語を表すと解釈される 比較的稀な例ではあるが 基の主語項と目的語項がともに属格で出ることもできる この場合 属格修飾語は主語属格 - 目的語属格の順番にならなくてはならない (10) Vanhemp-i-en taloudellise-n tue-n anta-minen parent-pl-gen economic-gen support-gen give-minen on riippuvais-ta tulo-i-sta. be.prs.3sg dependent-part income-pl-ela 両親の経済的援助は収入に依存している (Hakulinen & Karlsson 1979: 395; cf. Koptjevskaja-Tamm 1993: 169) また 非常に稀な例ではあるが 基の主語項 目的語項 斜格項がすべて事象名詞の付加語として現れ ることも可能である この際 主語項と目的語項は属格で現れ 斜格項はもとの格形のままで現れる 3

(11) Vanhemp-i-en taloudellise-n tue-n anta-minen parent-pl-gen economic-gen support-gen give-minen laps-i-lle-en child-pl-all-poss.3sg 両親の子への経済的援助 以上を勘案すると フィンランド語の事象名詞構文のテンプレートは以下のように表すことができる 1 (12) GEN-SUBJ GEN-OBJ (OBL) V-MINEN/V-NMLZ (OBL) 主語と目的語の属格への変換 斜格項の保存 という点では MINEN と NMLZ の構文に違いはない 3.2. 統語的ふるまい 項の表示方法に加えて MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化は統語的なふるまいにおいても共通した特徴を 示す まず 両者とも副詞修飾語句をとれず 形容詞修飾語句のみが許される (13) nopea/*nopeasti juokse-minen/juoks-u rapid/rapidly run-minen/run-nmlz 速い走り また 形容詞による修飾に加え MINEN 名詞化も NMLZ 名詞化も 名詞類としての曲用を行い 上述したように格による屈折を行うほか 複数形でも現れうる しかしながら MINEN 名詞化の複数形は比較的稀であり MINEN 名詞化の複数形は一部の誇張した表現などにしか見られない (cf. "exaggerative plural" Corbett 2000: 253f) (14) Kun Maija pääs-i yliopisto-on, alko-i-vat when Maija enter-pst.3sg university-ill begin-pst-3pl häne-llä luke-mise-t ja tentti-mise-t. 3SG-ADE read-minen-pl and take.exam-minen-pl マイヤが大学に入ると ( たくさんの ) 読書課題と試験が始まった (Toivonen 1995: 15) 一方 NMLZ 名詞化は 特に語彙化した場合において 複数形での使用がよく見られる (15) ( 作家と担当者には自分の作品に介入してそれを台無しにしてしまうという可能性がいつでも ある という文脈で ) tai vain teh-dä muut-oks-i-a, korja-uks-i-a, or only do-inf change-nmlz-pl-part correct-nmlz-pl-part lisä-yks-i-ä ja poist-o-j-a. add-nmlz-pl-part and remove-nmlz-pl-part それか変更と修正と加筆と削除だけをするか (Hakulinen et al. 2004: 237) 1 斜格項や副詞の位置は名詞の前と後どちらも可能であるが 後位置のほうが MINEN では一般的であるという (Nuutinen 1976) NMLZ 名詞化では 前位置はかなり制限されており 一部の副詞しか前位置に出ることができない (Hakulinen et al. 2004) 4

以上の点から MINEN 名詞化も NMLZ 名詞化も 等しく名詞的な統語的性質を表すといえる 3.3. MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化の動詞的性質次に MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化がどの程度基の動詞 ( 句 ) の性質を保存しているかという点に注目する まずは 項構造の拡張を見る 項構造の拡張は二次述語が付加することにより動詞の項が 1 つ ( ないし 2 つ ) 増加する現象である フィンランド語においてこれはイディオムや結果構文などに見られる まずはイディオムの例を見る フィンランド語には自動詞が変格項をとることによって項構造の拡張が起きたイディオムが見られる たとえば kirjoittaa 書く は変格項 ylioppilaa-ksi 大学生に と組み合わされることによって 高校卒業資格を得る という意味を表すイディオムになる このイディオムは MINEN 名詞化のみが可能であり NMLZ 名詞化は不可能である (16) a. ylioppilaa-ksi kirjoitta-minen university.student-tra write-minen b. *ylioppilaa-ksi kirjoit-us university.student-tra write-nmlz 高校卒業資格を得ること しかしながら 動詞 + 変格項の組み合わせすべてが不可能ということではない 例えば フィンランド 語においては英 become に相当する動詞がなく tulla 来る + 変格項などで英 become に相当する意味を 表すが tulla+ 変格項の名詞化は MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化の両方が可能である (17) a. Kallio-n presidenti-ksi tule-minen Kallio-GEN presient-tra come-minen b. Kallio-n tul-o presidentiksi Kallio-GEN come-nmlz president-tra カッリオが大統領になること (Nuutinen 1976: 1) 次に 結果構文を見る フィンランド語の結果構文は 典型的には他動詞文 + 変格項で表される 例え ば hakata 叩く 切る や leikata 切る は対格目的語項と変格項をとり に切る といった結果構文 を形成することができる (18) haka-ta poronliha-n palo-i-ksi chop-inf reindeer.meat-acc piece-pl-tra トナカイ肉をバラバラに切る (19) leika-ta poronliha-n palo-i-ksi cut-inf reindeer.meat-acc piece-pl-tra トナカイ肉をバラバラに切る 複数人のインフォーマントから これら結果構文の名詞化は MINEN 名詞化では問題なく可能だが NMLZ 名詞化では不自然であるとの回答が得られた (20) a. poronliha-n hakkaa-minen palo-i-ksi reindeer.meat-gen chop-minen piece-pl-tra 5

b.?poronliha-n hakka-us palo-i-ksi reindeer.meat-gen chop-nmlz piece-pl-tra トナカイ肉をバラバラに切ること (21) a. poronliha-n leikkaa-minen palo-i-ksi reindeer.meat-gen cut-minen piece-pl-tra b.?poronliha-n leikka-us palo-i-ksi reindeer.meat-gen cut-nmlz piece-pl-tra トナカイ肉をバラバラに切ること しかしながら 一部の結果構文については MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化のどちらも自然であるとの回 答が得られた 例えば フィンランド語において 壁を赤く塗る は以下のような結果構文を用いて表さ れる (22) maala-ta seinä-n punaise-ksi paint-inf wall-acc red-tra 壁を赤く塗る この結果構文の名詞化は MINEN と NMLZ どちらでも容認可能であるとの回答が得られた (23) a. seinä-n maalaa-minen punaise-ksi wall-gen paint-minen red-tra b. seinä-n maala-us punaise-ksi wall-gen paint-nmlz red-tra 壁を赤く塗ること 以上は他動詞 + 対格目的語項 + 変格項の結果構文であったが フィンランド語においては自動詞が再帰 代名詞の目的語をとり他動詞化して形成される 動詞 + 再帰代名詞 + 斜格項の形式をとる結果構文も存在 する たとえば へとへとになるまで走る は以下のように表現される (24) juos-ta itse-nsä uuvuks-i-in run-inf self-poss.3sg exhaustion-pl-ill へとへとになるまで走る この結果構文からの名詞化は MINEN 名詞化のほうが自然であるとの回答が得られた (25) a. itse-nsä uuvuks-i-in juokse-minen self-poss.3sg exhaustion-pl-ill run-minen b.?itse-nsä uuvuks-i-in juoks-u self-poss.3sg exhaustion-pl-ill run-nmlz へとへとになるまで走ること 以上を要約すると 一般的に項構造の拡張は MINEN 名詞化のみが可能であり NMLZ 名詞化の容認度は低い しかし 容認度には揺れがあり NMLZ 名詞化が可能である場合も存在する 以上の結果から 少なくとも MINEN 名詞化のほうが より動詞の項構造を保存しているといえる で 6

は MINEN 名詞化は項構造だけでなく動詞句の性質をすべて保存しているのであろうか もし MINEN 名 詞化が動詞句をそのまま名詞化したものであるとすれば 定形節に現れるような副詞も許容されることが 予想されるが これは当てはまらない (26) *se-n pitä-minen paikka-nsa epäile-mä-ttä. it-gen hold-minen place-poss.3sg doubt-inf-abe それが疑いなく正しいこと (Nuutinen 1976: 25) また 様格 (essive) も 二次述語的な描写 (depictive) の様格は出現可能であるが (27) のとき (28) なら (29) など 2 従属節で表せるような状況描写 (circumstantial) の様格は MINEN 名詞化 に現れることができない (27) kala-n syöminen raaka-na fish-gen eat-minen raw-ess 魚を生で食べること (28) *Pariisi-ssa asu-minen lapse-na Paris-INE live-minen child-ess パリに子どものころ住んでいたこと (29) a. Sinu-na en men-isi sinne. 2SG-ESS NEG.PRS.1SG go-cond there もしあなたなら ( あなたとしては ) 私はそこに行かない b. *sinne mene-minen sinu-na there go-minen 2SG-ESS もしあなたならそこに行くこと (Nuutinen 1976: 27) 2 節で述べたように 所有構文やコピュラ文などからの MINEN 名詞化も不可能であることから MINEN 名詞化は完全に動詞句の性質を残しているとはいえないと結論することができる 4. フィンランド語名詞化の意味論本節では MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化の意味論について検討する MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化の間に意味的な差があることは先行研究において早くから指摘されおり MINEN 名詞化に対して NMLZ 名詞化は 1 回限りの行為 や 全体としての行為 を表すという (Nuutinen 1976 Hakulinen et al. 2004: 222) また MINEN 名詞化に比べて NMLZ 名詞化は語彙化しているものが多く見られる それでは MINEN 名詞句と NMLZ 名詞句の意味の違いは語彙化の度合いというところに還元されるのであろうか まずは MINEN および NMLZ 名詞化がどちらとも事象を表しうることを見る MINEN と NMLZ どちらの名詞化も が起きた や 時間続いた 等の述語の主語として用いられることが可能である 2 ただし あるインフォーマントによると 文脈を与えればこのような場合でも様格が出現可能であるという (i) Pariisissa asuminen lapsena on syy siihen, Paris-INE live-minen child-ess be.prs.3sg reason it-ill että osaa-n ranska-a that can-prs.1sg French-PART パリに子どものころ住んでいたことは私がフランス語を話せることの理由のひとつである 7

(30) a. Laulu-n esittä-minen tapahtu-i 5. lokakuuta. song-gen perform-minen occur-pst.3sg October 5th b. Laulu-n esit-ys tapahtu-i 5. lokakuuta. song-gen perform-nmlz occur-pst.3sg October 5th その歌の演奏は 10 月 5 日に起こった (31) a. Kirjee-n kirjoitta-minen tapaht-i konttori-ssa. letter-gen write-minen occur-pst.3sg office-ine b. Kirjee-n kirjoit-us tapahtu-i konttori-ssa. letter-gen write-nmlz occur-pst.3sg office-ine 手紙の執筆は事務所で起こった (32) a. Laulu-n esittä-minen kest-i puoli tunti-a. song-gen perform-minen last-pst.3sg half hour-part b. Laulu-n esit-ys kest-i puoli tunti-a. song-gen perform-nmlz last-pst.3sg half hour-part その歌の演奏は半時間かかった (33) a. Kirjee-n kirjoitta-minen kest-i kolme tunti-a. letter-gen write-minen last-pst.3sg three hour-part b. Kirjee-n kirjoit-us kest-i kolme tunti-a. letter-gen write-nmlz last-pst.3sg three hour-part 手紙の執筆は 3 時間かかった 以上の例は MINEN および NMLZ 名詞化がどちらも事象を表していることを示唆する Grimshaw(1990) によれば 英語の複雑事象名詞は constant や frequent 等の形容詞による修飾が可能であるが MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化の両方ともこのテストを通過する (34) a. Tuo jatkuva hakkaa-minen häiritse-e minu-a. that constant chop-minen annoy-prs.3sg 1SG-PART b. Tuo jatkuva hakka-us häiritse-e minu-a. that constant chop-nmlz annoy-prs.3sg 1SG-PART あの絶え間ない叩きにはイライラする ( 私をイライラさせる ) また Grimshaw(1990) は英語の行為名詞は複数形で現れると結果名詞の読みになると述べているが フィン ランド語の場合これは必ずしもあてはまらない (35) a. Nuo jatkuva-t hakkaa-mise-t ärsytt-i-vät that constant-pl chop-minen-pl exhaust-pst-3pl minu-a oikeasti. 1SG-PART really. b. Nuo jatkuva-t hakka-ukse-t ärsytt-i-vät that constant-pl write-nmlz-pl exhaust-pst-3pl minu-a oikeasti. 1SG-PART really. あの絶え間ない叩きには本当にイライラした ( 私を本当にイライラさせた ) これまでのデータでは MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化の差異は特に認められない しかしながら 述語形容 詞の格標示において MINEN と NMLZ に顕著な差が認められる 8

一般的にフィンランド語においては 述語形容詞は主語が具体的 可算なものの場合主格をとるが 抽象的 不可算なものの場合分格をとる (36) Kuppi on hyvä. cup be.prs.3sg good.nom そのカップはよい (37) Kahvi on hyvä-ä. coffee be.prs.3sg good-part そのコーヒーはよい このような述語形容詞の格標示の差は 事象名詞化においても観察され たとえば esittää 演じる は MINEN 名詞化では分格形容詞をとるが NMLZ 名詞化では主格形容詞をとる (38) a. Laulu-n esittä-minen oli song-gen perform-minen be.pst.3sg?vaikuttava/vaikuttava-a. impressive.nom/impressive-part b. Laulu-n esit-ys oli song-gen perform-nmlz be.pst.3sg vaikuttava/?vaikuttava-a. impressive.nom/impressie-part その歌の演奏は印象的であった この事実は MINEN 名詞化が unbounded なイベントを指しており NMLZ 名詞化が bounded なイベントを指していることを示唆する しかしながら 動詞によっては 以上のように MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化で格標示に明確な差が出ない場合もある (39) a. Tuo jatkuva hakkaa-minen oli that constant chop-minen be.pst.3sg?häiritsevä/häiritsevä-ä. annoying.nom/annoying-part b. Tuo jatkuva hakka-us oli that constant chop-nmlz be.pst.3sg?häiritsevä/häiritsevä-ä. annoying.nom/annoying-part あの絶え間ない叩きは鬱陶しかった 以上の例では MINEN 名詞化も NMLZ 名詞化もともに unbounded なイベントを指しているとみること ができる 上に見たように MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化がそれぞれ述語に分格形容詞と主格形容詞を 一律に決まっているわけではない 述語形容詞が主格 分格形容詞のどちらをとるかは 基の動詞の語彙的意味と語彙化の度合いが深く関係しており 一般化を行うことは難しい 3 3 また Huumo(2006) によれば 述語形容詞の格標示は話者の捉え方 (construal) に大きく依存しており 同じ事象名詞化でも 主格形容詞の場合は content reading を 分格形容詞の場合は epistemic reading を それぞれ誘発するという 9

5. おわりに 東京外国語大学語学研究所 Luncheon Linguistics 本稿では フィンランド語の MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化という 2 種類の名詞化の統語と意味につい て比較しつつ論じた 3 節において MINEN 名詞は動詞の項構造をよく保存していると言えるものの 動 詞句の性質をすべてを保存しているとはいえないことが示唆された また 4 節では MINEN 名詞化と NMLZ 名詞化がそれぞれ事象 ( イベント ) を表すこと また 述語形容詞の格標示に差が見られ それが 名詞句の表すイベントと関わっていることを見た 本稿では NMLZ 名詞化を暫定的に同質的なクラスとみて論を進めたが NMLZ 名詞化の中でも接辞によ り語彙化の度合いや生産性に差があり 特に -U, -O 名詞化と -Us, -nti 名詞化の間では大きな差がある 前者 の名詞化には語彙化し 完全に事象名詞としての意味を失ったものも多く見られるが (e.g. laul-u 歌 < laulaa 歌う ) 後者の名詞化では語彙化の度合いが比較的低いものが多く kirjoitu-s(<kirjoittaa 書く ) のように 作文 と 執筆 という具象名詞と事象名詞の両方の意味を有するものも多い -Us, -nti は生 産性の高い接辞であり このような語彙化の度合いの低さは 接辞の生産性と関連するのではないかと筆 者は考えている NMLZ 名詞化の細かな検討については今後の課題とする また この点に関して MINEN 名詞化は非常に生産性が高く かつ語彙化の度合いがさらに低い名詞化 であり 4 Spencer(2013) のいう V Ntransposition としてみることができるのではないかと思われる MINEN 名詞化が動詞の項構造をよく保存していることや MINEN 名詞化が unbounded なイベントを表すことは MINEN 名詞化が transposition であると考えることによって説明できると考えられる 略号一覧 ABE= 欠格 ACC= 対格 ADE= 接格 ALL= 向格 CAUS= 使役接辞 COND= 条件法接辞 ELA= 出格 ESS= 様格 GEN= 属格 ILL= 入格 INE= 内格 INF= 不定詞 MID= 中動接辞 MINEN=-minen NEG= 否定 NMLZ=NMLZ 名詞化接辞 NOM= 主格 PART= 分格 PL= 複数 POSS= 所有接辞 PRS = 現在 PST= 過去 PTCP= 分詞 TRA= 変格 参考文献 Corbett, Greville. (2000) Number. Cambridge: Cambridge University Press. Grimshaw, Jane. (1990) Argument structure. Cambridge, MA: MIT Press. Hakulinen, Auli. et al. (2004) Iso suomen kielioppi [Comprehensive grammar of Finnish]. Helsinki: Suomalaisen kirjallisuuden seura. Hakulinen, Auli. and Karlsson, Fred. (1979) Nykysuomen lauseoppia [Syntax of contemporary Finnish]. Helsinki: Suomalaisen kirjallisuuden seura. Huumo, Tuomas. (2006) Teonnimet ja jaollisuus: miten kantaverbin teonlaatu heijastuu teonnimen merkityksessä? [Action nominals and collectiveness: how is the base verb's property reflected in the meaning of action nominals?] In: Niit (ed.) Keele ehe. Tartu: University of Tartu, 42 66. Kangasmaa-Minn, Eeva. (1983) Derivaatiokielioppia 2: Verbikantaiset nominijohdokset [Derivational morphology 2: deverbal nominal derivations]. Sananjalka 25: 23 42. Koptjevskaja-Tamm, Maria. (1993) Nominalizations. Amsterdam and New York: Routledge. Nuutinen, Olavi. (1976) Suomen teonnimirakenteista [On Finnish action noun constructions]. Stockholm studies in Finnish language and literature. 1. Stockholm: Finska institutionen vid Stockholms universitet. Salo, Mari. (2012) -minen- johdokset Helsingin Sanomissa 2000 2001 [-minen- derivations in Helsingin Sanomat 2000 2001]. Master's thesis, University of Tampere. Spencer, Andrew. (2013) Lexical relatedness. Oxford: Oxford University Press. Toivonen, Ida. (1995) A study of Finnish infinitives. Senior thesis, Brandeis University. 4 MINEN 名詞化にも完全に具象名詞に語彙化した例は存在する e.g. syö-minen 食べ物 (<syödä 食べる ) juo-minen 飲み物 (<juoda 飲む ) など 10