ここでは GOSAT の L2 プロダクトである 酸化炭素カラム平均濃度 (XCO 2 ) を活用 して 地球の大気全体の平均の濃度を推定する 法を検討した 以下にその算出 法について解説する 2. 酸化炭素全大気平均濃度の推定 法 いぶき の観測データから算出されたXCO 2 データ (SWIR

Similar documents
go.jp/wdcgg_i.html CD-ROM , IPCC, , ppm 32 / / 17 / / IPCC

表 2-1: バイアス補正処理で参照した TCCON データ * サイトコード サイト名 ファイル名 ae Ascension Island ae _ public.nc bi Białystok bi _ public.nc br Bre

委36-1-1 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)のサクセスクライテリア達成状況について 3

※委36-1-2(修正版) 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)のサクセスクライテリア達成状況について(2)

横浜市環境科学研究所

一般ユーザ向けバイアス補正済 FTS SWIR レベル 2 CO 2 プロダクト (V02.75) の公開について 2018/09/ /12/25 改訂 2019/02/28 更新 NIES GOSAT プロジェクト 1. はじめに NIES GOSAT プロジェクトでは JAXA から

平成26年度環境研究総合推進費 研究成果発表会 2014年10月16日 平成26年度環境研究総合推進費 研究成果発表会 2014年10月16日 日本の人工衛星 いぶき で 温室効果ガスを高精度にはかる 森野 勇 独 国立環境研究所 地球環境研究センター 衛星観測研究室 NIES GOSAT プロジェ

Executive summary

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

周期時系列の統計解析 (3) 移動平均とフーリエ変換 nino 2017 年 12 月 18 日 移動平均は, 周期時系列における特定の周期成分の消去や不規則変動 ( ノイズ ) の低減に汎用されている統計手法である. ここでは, 周期時系列をコサイン関数で近似し, その移動平均により周期成分の振幅

電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

Microsoft Word - 1.1_kion_4th_newcolor.doc

Microsoft Word - ブレチン2日本版3.1.doc

DE0087−Ö“ª…v…›

Microsoft Word - cap4-2013chugoku-hirosima

表 2-2 北海道地方における年平均風速データベース作成に関する仕様 計算領域計算期間水平解像度時間解像度 20 年間 365 日 水平解像度 500m 1991 年 ~2010 年 24 時間 =175,200 メッシュ以下の詳北海道電力供給管内の詳細メッシュの時間分のデータを細メッシュの風況風況

参考資料

Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

多変量解析 ~ 重回帰分析 ~ 2006 年 4 月 21 日 ( 金 ) 南慶典

An ensemble downscaling prediction experiment of summertime cool weather caused by Yamase

予報時間を39時間に延長したMSMの初期時刻別統計検証

Microsoft Word - å“Ÿåłžå¸°173.docx

データ解析

スライド 1

0 スペクトル 時系列データの前処理 法 平滑化 ( スムージング ) と微分 明治大学理 学部応用化学科 データ化学 学研究室 弘昌

Microsoft PowerPoint - Ikeda_ ppt [互換モード]

スライド 1

1.民営化

Taro-40-11[15号p86-84]気候変動

石川県白山自然保護センター研究報告第27集

DVIOUT

Microsoft PowerPoint - e-stat(OLS).pptx

受信機時計誤差項の が残ったままであるが これをも消去するのが 重位相差である. 重位相差ある時刻に 衛星 から送られてくる搬送波位相データを 台の受信機 でそれぞれ測定する このとき各受信機で測定された衛星 からの搬送波位相データを Φ Φ とし 同様に衛星 からの搬送波位相データを Φ Φ とす

Microsoft Word - lec_student-chp3_1-representative

電磁波レーダ法による比誘電率分布(鉄筋径を用いる方法)およびかぶりの求め方(H19修正)

14 化学実験法 II( 吉村 ( 洋 mmol/l の半分だったから さんの測定値は くんの測定値の 4 倍の重みがあり 推定値 としては 0.68 mmol/l その標準偏差は mmol/l 程度ということになる 測定値を 特徴づけるパラメータ t を推定するこの手

WTENK5-6_26265.pdf

解析センターを知っていただく キャンペーン

はじめに 衛星データの定量的な利用には 十分な品質評価が必要 さまざまな参照データと比較して 品質特性を把握する 衛星シミュレータは 直接的 または間接的に利用できる 気象衛星ひまわりの品質評価を例に ひまわり 8 号の初期評価等 2

測量試補 重要事項

気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節

風力発電インデックスの算出方法について 1. 風力発電インデックスについて風力発電インデックスは 気象庁 GPV(RSM) 1 局地気象モデル 2 (ANEMOS:LAWEPS-1 次領域モデル ) マスコンモデル 3 により 1km メッシュの地上高 70m における 24 時間の毎時風速を予測し

太陽光発電の積雪荷重設計支援ツール 取扱説明書 国立研究開発法人産業技術総合研究所 太陽光発電研究センターシステムチーム 作成日 :2012 年 6 月

測量士補 重要事項「標準偏差」

不確かさ 資料 1/8

Microsoft Word - cap5-2013torikumi

NO2/NOx(%)

ns-r-42_4.indd

正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1

13章 回帰分析

0 21 カラー反射率 slope aspect 図 2.9: 復元結果例 2.4 画像生成技術としての計算フォトグラフィ 3 次元情報を復元することにより, 画像生成 ( レンダリング ) に応用することが可能である. 近年, コンピュータにより, カメラで直接得られない画像を生成する技術分野が生

国立環境研究所GOSAT 「いぶき」 PROJECT NEWSLETTER 9月号 Issue#21 September 2011

( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )

工業数学F2-04(ウェブ用).pptx

GOSAT (JAXA) JAXA NASA, ESA JAXA 1

() 実験 Ⅱ. 太陽の寿命を計算する 秒あたりに太陽が放出している全エネルギー量を計測データをもとに求める 太陽の放出エネルギーの起源は, 水素の原子核 4 個が核融合しヘリウムになるときのエネルギーと仮定し, 質量とエネルギーの等価性から 回の核融合で放出される全放射エネルギーを求める 3.から

0 部分的最小二乗回帰 Partial Least Squares Regression PLS 明治大学理 学部応用化学科 データ化学 学研究室 弘昌

IPCC 第1作業部会 第5次評価報告書 政策決定者のためのサマリー

Microsoft Word - NumericalComputation.docx

2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

PowerPoint プレゼンテーション

参考1中酪(H23.11)

第1章 低下から停滞に転じた鉱工業生産

2A-1102-ii 2. 研究開発目的 いぶき は 対流圏までの温室効果ガスを専用に観測する世界初かつ世界唯一の衛星であり 定常運用が終了後の現在も観測を継続している その解析結果には従来の大気組成成分観測衛星に求められている精度 ( 数 % 程度 ) をはるかに超える 1% 以下の精度が要求され

ディジタル信号処理

0 棄却限界値検出限界値 ない 分布 ある 分布 バックグラウンド 検出されない 検出されるかもしれない 検出される 図 2 検出限界値のイメージ AT1320A/C で出力される検出限界値 通常 検出限界値の算出には試料を測定したときの計数値を使用しますが AT1320A/C で出力される検出限界

はじめに 東京の観測値 として使われる気温などは 千代田区大手町 ( 気象庁本庁の構内 ) で観測 気象庁本庁の移転計画に伴い 今年 12 月に露場 ( 観測施設 ) を北の丸公園へ移転予定 天気予報で目にする 東京 の気温などの傾 向が変わるため 利 者へ 分な解説が必要 北の丸公園露場 大手町露

2009 年 11 月 16 日版 ( 久家 ) 遠地 P 波の変位波形の作成 遠地 P 波の変位波形 ( 変位の時間関数 ) は 波線理論をもとに P U () t = S()* t E()* t P() t で近似的に計算できる * は畳み込み積分 (convolution) を表す ( 付録

1. 天候の特徴 2013 年の夏は 全国で暑夏となりました 特に 西日本の夏平均気温平年差は +1.2 となり 統計を開始した 1946 年以降で最も高くなりました ( 表 1) 8 月上旬後半 ~ 中旬前半の高温ピーク時には 東 西日本太平洋側を中心に気温が著しく高くなりました ( 図 1) 特

平成 29 年 7 月 20 日滝川タイムライン検討会気象台資料 気象庁札幌管区気象台 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 大雨警報 ( 浸水害 ) 洪水警報の基準改正 表面雨量指数の活用による大雨警報 ( 浸水害 )

平成10年度 ヒートアイランド現象に関する対策手法検討調査報告書


プラズマ バブルの到達高度に関する研究 西岡未知 齊藤昭則 ( 京都大学理学研究科 ) 概要 TIMED 衛星搭載の GUVI によって観測された赤道異常のピーク位置と 地上 GPS 受信機網によって観測されたプラズマ バブルの出現率や到達率の関係を調べた 高太陽活動時と低太陽活動時について アジア

日本の海氷 降雪 積雪と温暖化 高野清治 気象庁地球環境 海洋部 気候情報課

2. 時系列分析 プラットフォームの使用法 JMP の 時系列分析 プラットフォームでは 一変量の時系列に対する分析を行うことができます この章では JMP のサンプルデ ータを用いて このプラットフォームの使用法をご説明します JMP のメニューバーより [ ヘルプ ] > [ サンプルデータ ]

橡Ⅰ.企業の天候リスクマネジメントと中長期気象情

フィードバック ~ 様々な電子回路の性質 ~ 実験 (1) 目的実験 (1) では 非反転増幅器の増幅率や位相差が 回路を構成する抵抗値や入力信号の周波数によってどのように変わるのかを調べる 実験方法 図 1 のような自由振動回路を組み オペアンプの + 入力端子を接地したときの出力電圧 が 0 と

ビジネス統計 統計基礎とエクセル分析 正誤表

と 測定を繰り返した時のばらつき の和が 全体のばらつき () に対して どれくらいの割合となるかがわかり 測定システムを評価することができる MSA 第 4 版スタディガイド ジャパン プレクサス (010)p.104 では % GRR の値が10% 未満であれば 一般に受容れられる測定システムと

Microsoft Word - planck定数.doc

Microsoft Word 後藤佑介.doc

PowerPoint プレゼンテーション

7 渦度方程式 総観規模あるいは全球規模の大気の運動を考える このような大きな空間スケールでの大気の運動においては 鉛直方向の運動よりも水平方向の運動のほうがずっと大きい しかも 水平方向の運動の中でも 収束 発散成分は相対的に小さく 低気圧や高気圧などで見られるような渦 つまり回転成分のほうが卓越

第 3 回講義の項目と概要 統計的手法入門 : 品質のばらつきを解析する 平均と標準偏差 (P30) a) データは平均を見ただけではわからない 平均が同じだからといって 同一視してはいけない b) データのばらつきを示す 標準偏差 にも注目しよう c) 平均

<4D F736F F D F193B994AD955C8E9197BF816A89C482A982E78F4882C982A982AF82C482CC92AA88CA2E646F63>

津波警報等の留意事項津波警報等の利用にあたっては 以下の点に留意する必要があります 沿岸に近い海域で大きな地震が発生した場合 津波警報等の発表が津波の襲来に間に合わない場合があります 沿岸部で大きな揺れを感じた場合は 津波警報等の発表を待たず 直ちに避難行動を起こす必要があります 津波警報等は 最新

2-2 需要予測モデルの全体構造交通需要予測の方法としては,1950 年代より四段階推定法が開発され, 広く実務的に適用されてきた 四段階推定法とは, 以下の4つの手順によって交通需要を予測する方法である 四段階推定法将来人口を出発点に, 1 発生集中交通量 ( 交通が, どこで発生し, どこへ集中

Microsoft PowerPoint 森林総研REDDシンポジウム-Awaya-HP用.ppt [互換モード]

第 4 週コンボリューションその 2, 正弦波による分解 教科書 p. 16~ 目標コンボリューションの演習. 正弦波による信号の分解の考え方の理解. 正弦波の複素表現を学ぶ. 演習問題 問 1. 以下の図にならって,1 と 2 の δ 関数を図示せよ δ (t) 2


11-1 最近の地震観測の精度 ~気象庁における地震観測業務~

Microsoft PowerPoint - statistics pptx

untitled

平成18年度オゾン層等の監視結果に関する年次報告書

−‰«„¤_ qxd


A.3 排出削減量の算定方法 A.3.1 排出削減量 ER EM BL EM PJ ( 式 1) 定義単位 数値 4 ER 排出削減量 1 kgco2/ 年 0 t<1 年 年 t<2.5 年 年 <t EM BL ベースライン排出量 2 kgco2/

統計的データ解析

高分解能衛星データによる地形図作成手法に関する調査研究 ( 第 2 年次 ) 実施期間平成 18 年度 ~ 測図部測図技術開発室水田良幸小井土今朝巳田中宏明 佐藤壮紀大野裕幸 1. はじめに国土地理院では, 平成 18 年 1 月に打ち上げられた陸域観測技術衛星 ALOS に関して, 宇宙航空研究開

ダンゴムシの 交替性転向反応に 関する研究 3A15 今野直輝

Transcription:

2015 年 11 月 16 日 2015 年 12 月 2 日改訂 2 版 2016 年 5 月 20 日改訂 3 版 2016 年 9 月 29 日改訂 3A 版国環研 GOSATプロジェクト いぶき の観測データに基づく全 気中の 別 酸化炭素濃度算出 法について 1. はじめに いぶき が宇宙からとらえた各地点の 酸化炭素濃度データは地球大気の上層から地表までの ( カラム ) 濃度平均であり 通常の地上濃度観測値に べより地球大気の平均濃度に近いものと考えられる しかし 酸化炭素カラム平均濃度 (XCO 2 )(L2プロダクトと呼ぶ ) を算出するための短波 外 (SWIR) 帯の吸収スペクトルが得られるのは 太陽 度が い昼間の 観測地点の視野内に雲が存在しない日照域の地点に限られる そのため 季節によっても観測データが存在する地域 ( 緯度帯 ) が変化する ( 図 1) (a) 2013 年 4 月 ( 北半球の春 ) (b) 2013 年 7 月 ( 北半球の夏 ) (c) 2013 年 10 月 ( 北半球の秋 ) (d) 2014 年 1 月 ( 北半球の冬 ) 図 1 いぶき の観測した 酸化炭素カラム平均濃度(L2プロダクト) の2.5 度メッシュ月平均値分布の例 着 している地域に観測データが存在している は 酸化炭素濃度に対応し 水 緑 の順に 濃度となることを す -1-

ここでは GOSAT の L2 プロダクトである 酸化炭素カラム平均濃度 (XCO 2 ) を活用 して 地球の大気全体の平均の濃度を推定する 法を検討した 以下にその算出 法について解説する 2. 酸化炭素全大気平均濃度の推定 法 いぶき の観測データから算出されたXCO 2 データ (SWIR L2) を用いて XCO 2 データが得られていない空白域も含め地球全体の大気の平均濃度を求めるため ここでは大気輸送モデルに基づく 酸化炭素濃度の三次元分布である GOSAT レベル4B (L4B) プロダクト の緯度分布を利用して空間補完を い 全大気のXCO 2 の月別平均値を推定した 2.1 いぶき 観測濃度値(SWIR L2プロダクト ) の検証と補正に使用したデータ衛星観測データに基づいて推定されたXCO 2 (SWIR L2プロダクト ) の値のばらつきと絶対値のずれ ( バイアス ) を精度 く評価する ( これを 検証 と呼ぶ ) ために 地注上から観測したカラム濃度観測 ( 地上観測ネットワークTCCON 1) ) の値との 較を った 実際には いぶき の観測と同期した地上観測ネットワークTCCON 観測値を用いてばらつきとバイアスを推定し 次にそのバイアス値を用いて いぶき のXCO 2 データを補正した バイアスは観測装置の特性変化 観測誤差 及びガス濃度解析 法に依存するため SWIR L2プロダクトのバージョンによって異なる 本解析では 観測時期に応じて次の5バージョンのSWIR L2プロダクトを使用した ;V02.21(2009 年 5 月 2014 年 5 月 ),V02.31(2014 年 6 月中旬 12 月中旬 ),V02.40(2015 年 2 月 8 月初旬 ),V02.50(2015 年 8 月初旬 9 月中旬 ),V02.60(2015 年 9 月中旬 ) ( V**.** は プロダクトのバージョン番号を す) V02.21プロダクトについては 地上観測ネットワークTCCONの観測データとの検証解析から バイアスには若 の時間的変化があることが明らかになっており 下記の回帰式で表すことができる バイアス = -1.76 + 2.30 10-3 t - 7.83 10-7 t 2 (ppm) (1) ここで t は いぶき 打ち上げ日 (2009 年 1 月 23 日 ) からの経過日数 ( 日 ) である V02.21プロダクトに対して (1) 式より推定したバイアスで補正を った -2-

V02.31プロダクトは 観測期間が半年と短いため時間的変化は考慮せず TCCONデータとの検証解析に基づく-0.62 ppmをこの期間のバイアスと仮定して補正した 同様にV02.40プロダクトについても観測期間が半年と短いため時間的変化は考慮せず TCCONデータと検証解析に基づく-1.35 ppmをこの期間のバイアスと仮定して補正した V02.50とV02.60プロダクトについては 較できる検証用データがまだ揃っていないことから V02.21からV02.60の全てのプロダクトにおけるTCCONデータとの検証解析に基づく-0.52 ppmをこの期間のバイアスと仮定して補正した注 2) また 以下の理由により 使用する いぶき のXCO 2 データを絞った いぶき 観測装置は 地球表 の太陽光の反射の強さに応じ 観測装置の増幅器 ( アンプ ) の利得 ( ゲイン ) を (H) 中(M) 低(L) の三段階に切り替えて観測することができる 砂漠などの い地表 反射の地点の観測にMゲインを その他の陸上と海上の観測にHゲインを利用しており SWIR L2プロダクトにはゲインと観測点により 陸上 Hゲイン 陸上 Mゲイン 海上 Hゲインの三種類が存在する これまでの研究から 同一時期 同一緯度帯であっても 三種のデータ間でバイアスはわずかに異なることが 唆されてきた 上記の検証用データのほとんどは陸上 Hゲインに相当する観測点において取得されているため 上記のバイアスは陸上ゲインHのL2プロダクトでの信頼性が い そこで 酸化炭素の全大気平均濃度の推定には いぶき のSWIR L2プロダクトのうち 陸上 Hゲインのデータのみについてバイアス補正を って以降の全大気平均濃度の算出に使用した ( 注 1)Total Carbon Column Observing Network. 炭素カラム全量観測ネットワーク (http://tccon.ornl.gov) 地上に設置した 波数分解能フーリエ変換型 外分光計 (FTS, Fourier transform infrared spectrometer) による全球観測網 この分光計を用いて太陽 外光を地上で観測することで 地球大気中の 酸化炭素 メタン 一酸化炭素 一酸化 窒素や他の大気中微量成分の濃度データを得ることが出来る いぶき 等の衛星による温室効果ガス観測の精度確認には無くてはならないものとなっている ( 注 2) 現時点では2015 年 2 月以降の 酸化炭素全大気平均濃度の推定値は予備的な結果であり 今後の検証作業完了後にデータの更新を予定している -3-

2.2 XCO 2 の月別 経度帯別の緯度分布のモデル推定 いぶき のL4Bプロダクトは 酸化炭素濃度の6 時間ごとの三次元分布データ ( 緯度経度で2.5 ごと ) であり 2009 年 6 月から2012 年 5 月までの期間についてバイアス補正済みのXCO 2 濃度データ (SWIR L2プロダクト ) および地上観測データに基づいて推定計算した 酸化炭素の月別地域別の吸収排出量から 大気輸送モデルを用いてシミュレーション計算されている 酸化炭素の全大気平均濃度の推定にあたり いぶき のSWIR L2プロダクトが存在しない領域も含めて全球すべての地域でのXCO 2 を推定するために 月別 経度帯別にXCO 2 の平均的な緯度分布をこのL4Bプロダクトから以下のように推定した 2011 年 1 月 2011 年 7 月 図 2 GOSAT L4Bプロダクトから計算した2011 年 1 月と7 月におけるXCO 2 平均値の分布 ( 上図 ) と 各経度帯における緯度 10 ごとのXCO 2 平均値の緯度分布 ( 下図 ) 上図の経度帯ごとの枠の は下図の折れ線の と対応する まず L4Bプロダクトについて 全球の経度帯を60 ごとに6 分割し さらに緯度 10 ごとに分けた範囲内のXCO 2 平均値の月平均を計算した ( 図 2) 次に 南緯 80~90 ( 南極 ) は 異なる経度帯であっても地理的条件が近く かつ 酸化炭素の放出源や吸収源の影響が少なくXCO 2 の月平均値が 較的安定していることから この場所のXCO 2-4-

をXCO 2 の緯度分布を求める際の基準値とし 各経度帯について緯度 10 ごとに下記のように偏差 Dを計算した D =( 各緯度帯におけるXCO 2 平均値 ) ( 南緯 80~90 におけるXCO 2 平均値 ) (2) 2009 年 6 月 2012 年 5 月のすべての年の月についてDを計算して 1 月から12 月までの各月 3 年分のDの平均値 D mean を求め この値を月ごと 経度帯ごとのXCO 2 の平均的な緯度分布とした ( 図 3) 1 月 7 月 南緯 80~90 における XCO2 の値との偏差 図 3 各経度帯における月ごとの XCO 2 の緯度分布平均値 (1 月と 7 月の例 ) 各緯度の XCO 2 平均値を す点における縦棒は 3 年間の XCO 2 の標準偏差を す 2.3 月別全球 XCO 2 の推定 2.1 節でバイアス補正を った いぶき のXCO 2 観測値 (L2 値 ) について 2.2 節と同様に経度 60 ごとに分割した各経度帯について緯度 10 ごとの範囲内で平均値を各年の月ごとに求めた このとき 観測値の代表性を めるために 各経度帯 緯度帯 年月におけるL2 観測値が5 個以上の場合についてのみ平均値を求めた ( 以下 いぶき XCO 2 値 とはL2 XCO 2 のバイアス補正済みのデータの平均値を意味する ) これらのL2 観測値には空白域があるので 2.2 節で求めた各経度帯 各月における D mean の緯度分布を用いて空白域を補完するために L2 観測値に次のように (3) 式を当てはめ 最小 乗法により a の値を推定した ( 経度 60 緯度 10 ごとの いぶき XCO 2 値 ) = a + D mean (3) aは南緯 80~90 におけるXCO 2 平均値にあたるため a の値はすべての経度帯について共通となる このように推定した a とD mean の和を経度 60 緯度 10 ごとのXCO 2 月平均値とした いぶき XCO 2 値と 緯度分布とを図 4に す 以上のようにして各年の月ごとに経度帯別の緯度 10 度ごとのXCO 2 を推定し 全球に -5-

ついて地表 積に応じた重み付け平均した値を 各年の月ごとのXCO 2 全球平均値 ( 地球大気全体の平均値 ) とした 重み付け平均の際の緯度 10 度ごとの 重み は 各範囲の中央の緯度 ( 例えば緯度 -90~-80 の範囲なら-85 緯度 40~50 の範囲なら45 ) の余弦 すなわち重み = cos (-85 + 10 n) (4) とした ここでnは0~17の整数を す W180~120 W120~60 W60~0 E0~60 E120~60 E120~180 緯度 図 4 2011 年 8 月の 6 つの経度帯における SWIR L2 XCO 2 観測値 ( ) と 推定された XCO 2 ( ) の緯度帯分布 3. 酸化炭素全大気平均濃度の推定経年平均濃度 ( 経年トレンド ) 酸化炭素の全大気平均濃度は北半球の冬季から春季にかけて く 夏季に低い季節変動を伴って年々上昇している 統計計算によって平均的な季節変動を求めて観測値から差し引いたものを 経年トレンド とよぶ ある月の経年トレンド濃度はその前後半年の1 年間の平均値とほぼ同じ値を す このようにして算出した 酸化炭素全大気平均濃度の経年トレンドは観測期間中に一定ではなく 増加率の大きい年と小さい年がある 図 5の 線は 酸化炭素全大気平均濃度の経年トレンドおよび年増加率を しており 経年トレンドを微分したものが増加率に相当する 酸化炭素全大気平均濃度は2011 年に増加率が小さく 2012 年末から2013 年始めにかけて大きな増加率があったことがわかる これに対して 国海洋大気庁が地上の観測網を利用して算出した地表の全球平均濃度 [Ed Dlugokencky and Pieter Tans, NOAA/ESRL (www.esrl.noaa.gov/gmd/ccgg/trends/)] の経年変動と増加率が図 5の 線である 両者の増加率は位相がやや違っているものの 全体的にほ -6-

ぼ同様の変動を している 地表の観測は 標準になるガスと 較することで非常に い精度で実施されている よって 両者の一致から GOSAT の観測センサも い安定 性を持って観測を っていることが分かる 図 5 酸化炭素濃度の全大気平均 ( ) と地表のみの全球平均 ( ) の経年トレンド ( 上図 ) と増加率 ( 下図 ) 4. 酸化炭素全大気平均濃度の特徴図 6に例として2009 年 5 月 2016 年 4 月の いぶき による月別 酸化炭素の全大気平均濃度と経年トレンドを す 酸化炭素全大気平均濃度は大局的には増加をしながら周期的な季節変動を し 2015 年 12 月の時点で月平均として初めて400 ppmを超えた また その経年トレンドは単調に増加しており 2016 年 4 月までの観測データの解析に基づくと 2016 年 2 月に初めて400 ppmを超えた ( 補足 : 第 2 版からの第 3 版への改訂事項 ) 最新の検証解析の結果に基づき 2.1に したV02.31~V02.60プロダクトのバイアス値を変更した 再解析の結果 V02.21プロダクトのバイアスの時間依存性を す (1) 式の係数が若 変化した 上記のバイアスの再評価結果に基づいて 全期間の 酸化炭素全大気平均濃度の再計算を った 上記に伴い 3 章として記述していた 酸化炭素全大気平均濃度推定値の誤差の記述について -7-

再検討を うため 記述を省略した 4. 酸化炭素全大気平均濃度の特徴 における記述内容を2016 年 5 月に公表する結果に基づいて変更した 図 6を2016 年 5 月に公表するグラフに差し替えた ( 補足 : 第 3 版からの第 3A 版への改訂事項 ) 4. 酸化炭素全大気平均濃度の特徴 における記述内容を2016 年 9 月に公表する結果に基づいて変更した 図 6を2016 年 9 月に公表するグラフに差し替えた なお 第 3A 版では 第 3 版と同じ全大気中の月別 酸化炭素濃度算出 法を踏襲している 図 6 いぶき による月別 酸化炭素の全大気平均濃度と経年トレンド 謝辞 いぶき 観測データの濃度算出処理(FTS L2 処理 ) には 気象庁提供の気象予報数値データGPV(Grid Point Value) を利用している また いぶき 観測濃度データの検証と補正にはTCCONデータ (http://tccon.ornl.gov) を用いた ここにGOSATプロジェクトとして謝意を表する なお 国 環境研究所の所有するTCCON 観測地点つくばと陸別の運用は GOSATプロジェクトの一環として実施されている -8-