糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

Similar documents
インフルエンザ、鳥インフルエンザと新型インフルエンザの違い

事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

pdf0_1ページ目

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

pdf0_1ページ目

3.2013/14シーズンのインフルエンザアップデート(12/25現在)

症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

BSL4の稼働合意について

東京都インフルエンザ情報 第20巻 第20号

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

インフルエンザ(成人)

4

<4D F736F F D D28F5782C982A082BD82C182C42E646F63>

後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

pdf0_1ページ目

<4D F736F F D20926E C5E B8FC797E192E88B CC8DC489FC92E88E9696B D2E646F63>

Microsoft Word - 世界のエアコン2014 (Word)

pdf0_1ページ目

地域別世界のエアコン需要の推定について 年 月 一般社団法人 日本冷凍空調工業会 日本冷凍空調工業会ではこのほど 年までの世界各国のエアコン需要の推定結果を まとめましたのでご紹介します この推定は 工業会の空調グローバル委員会が毎年行 なっているもので 今回は 年から 年までの過去 ヵ年について主


順調な拡大続くミャンマー携帯電話市場

 宇宙vol.61.indd

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

地域別世界のエアコン需要の推定について 2018 年 4 月一般社団法人日本冷凍空調工業会日本冷凍空調工業会ではこのほど 2017 年までの世界各国のエアコン需要の推定結果をまとめましたのでご紹介します この推定は 工業会の空調グローバル委員会が毎年行なっているもので 今回は 2012 年から 20

図表 02 の 01 の 1 世界人口 地域別 年 図表 2-1-1A 世界人口 地域別 年 ( 実数 1000 人 ) 地域 国 世界全体 2,532,229 3,038,413 3,69

42

pdf0_1ページ目

pdf0_1ページ目

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

仮訳 日本と ASEAN 各国との二国間金融協力について 2013 年 5 月 3 日 ( 於 : インド デリー ) 日本は ASEAN+3 財務大臣 中央銀行総裁プロセスの下 チェンマイ イニシアティブやアジア債券市場育成イニシアティブ等の地域金融協力を推進してきました また 日本は中国や韓国を

2019 年 7 月 4 日 ( 木 ) 愛知県保健医療局健康医務部健康対策課感染症グループ担当内田 久野内線 ダイヤルイン 手足口病警報を発令します!! 愛知県では 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づき 県内の小児科を標榜する

3-2 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値流行状況の年次推移を 全国的な状況と比較するため 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値について解析した ( 図 2) 全国的には 調査期間の定点あたり患者報告数の年平均値は その年次推移にやや増減があるものの大きな変動は認められなかった 札

(CREST) 科学的発見 社会的課題解決に向けた各分野のビッグデータ利活用推進のための次世代アプリケーション技術の創出 高度化 ( 研究総括 : 北海道大学田中譲 ) における研究課題 大規模生物情報を活用したパンデミックの予兆, 予測と流行対策策定 ( 研究代表者 : 西浦博 ) の一環として行

Microsoft Word - 【セット版PDF】131105_H25今冬のインフルエンザ総合対策.docx

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

2017 年訪日外客数 ( 総数 ) 出典 : 日本政府観光局 (JNTO) 総数 2,295, ,035, ,205, ,578, ,294, ,346, ,681, ,477

2. 今後想定すべき事態 (1)SARS 流行の振り返り前述の通り MERS( マーズ ) コロナウイルスは 2003 年に中国を中心に流行した SARS ウイルスに類似したウイルスである そこで 今後の MERS( マーズ ) コロナウイルスの感染の拡大等を考えるにあたって SARS の流行を振り

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

2009年8月17日

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療

<4D F736F F D E C8E82CC8F6F97888E965F F D442093C195CA94C55F2E646F63>

東京大会と感染症サーベイランス ~ 普段とどこがちがうのか ~ 疾患疫学が変化する可能性 多数の訪日外国人の流入 多くのマスギャザリングイベント 事前のリスク評価に基づいたサーベイランスと対応の強化の必要性を検討する 体制構築の観点から 行政と大会組織委員会の責任範囲と協力体制の構築が必要 国内移動

Microsoft PowerPoint - 感染対策予防リーダー養成研修NO4 インフルエンザ++通所

PowerPoint Presentation

129

< F2D906C8CFB93AE91D48A77322E6A7464>

検査項目情報 インフルエンザウイルスB 型抗体 [HI] influenza virus type B, viral antibodies 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5F410 分析物 インフルエン

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

住宅宿泊事業の宿泊実績について 令和元年 5 月 16 日観光庁 ( 平成 31 年 2-3 月分及び平成 30 年度累計値 : 住宅宿泊事業者からの定期報告の集計 ) 概要 住宅宿泊事業の宿泊実績について 住宅宿泊事業法第 14 条に基づく住宅宿泊事業者から の定期報告に基づき観光庁において集計

狂注調査依頼文書

Microsoft Word - WIDR201839

untitled

Q2. 海外旅行にいくなら下記のどの形態で行きたいですか [SA] ガイド付きパック旅行 ( 自由行動あり ) % ガイド付きパック旅行 ( 自由行動なし ) % 航空券とホテルがセットになったパック旅行 ( ガイドなし ) % 航空券とホテルを別々に自分で

, , & 18

医療機関における診断のための検査ガイドライン

課題名 H23年度実施報告書

2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

始前に出生したお子さんについては できるだけ早く 1 回目の接種を開始できるように 指導をお願いします スムーズに定期接種を進めるために定期接種といっても 予防接種をスムーズに進めるためには 保護者の理解が不可欠です しかし B 型肝炎ワクチンの接種効果は一生を左右する重要なものですが 逆にすぐに効

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

報告風しん

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

今回の調査では 主に次のような結果が得られました 花粉症の現状と生活に及ぼす影響の実態 スギ花粉症を初めて発症してから 10 年以上経つ人が 66.8% と 長年花粉症に悩まされている人が多いという結果に 10 年以上経つ人の割合が多い地域としては静岡県 栃木県 群馬県 山梨県等が上位に 今までにス

麻しん 2

global professional Client-Focused

< F2D817988C482C682EA94C5817A895E97708E77906A2E6A7464>

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(216 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

Vol. 32 Suppl.II,2017 麻疹 風疹 水痘 流行性耳下腺炎 ( ムンプス ) に関する Q&A の公開にあたって 日本環境感染学会では 平成 21 年 5 月に 院内感染対策としてのワクチンガイドライン第 1 版 を 平成 26 年 9 月に 医療関係者のためのワクチンガイドライン

会計 10 一般会計所管課健康推進課款 4 衛生費事業名インフルエンザ予防接種費項 1 保健衛生費目 2 予防費補助単独の別単独 前年度 要求段階 財政課長内示 総務部長 市長査定 最終調整 予算計上 増減 1 当初要求 2 追加要求等 3 4( 増減額 ) 5( 増減額 ) 6=

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

Microsoft Word - <原文>.doc

データ集 採用マーケットの動向 学生の動向 企業の採用動向 大学の就職支援 付録 ( 添付資料 ) -45-

(Microsoft PowerPoint - \222m\223I\215\340\216Y\214\240\214\244\213\206\211\ \225\237\222n.pptx)

平成18年8月31日

1

< 目次 > Ⅰ. 基準シナリオ : 経済成長持続ケース 1. 中間所得層 + 高所得層の推移 2. 中間所得層の推移 3. 高所得層の推移 Ⅱ. シナリオ2: 中国とインド経済が急激にダウンしたら? 1. 中間所得層 + 高所得層の推移 2. 中間所得層の推移 3. 高所得層の推移 Ⅲ. シナリオ

課題名 H24年度実施報告書

ので 臨床データベースと死亡統計から除外されている 狂犬病などの人獣共通感染症については 国のデータが存在する場合さえ 動物衛生部門と公衆衛生部門の間のデータの調整と共有の欠如は 国際的データ収集機関への明確なデータの報告とともに データの収集と蓄積をしばしば複雑にしている 多くの国において 狂犬病


インフルエンザ施設内感染予防の手引き

, , & 18

> P12 > P19 > P32 > P36 > P40 > P44 > P48 > P60

<4D F736F F D DC58F4994C5817A C8E89D495B294F28E558C588CFC82DC82C682DF8251>

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

牛田論文ブック.indb

B 輸出についてお伺いします 輸出を行っている方 ( A-1 で 1 直接輸出 2 間接輸出 のいずれかを回答 ) B-1 現在, 主力の輸出先となっている国 地域と, 今後重視又は検討している国 地域を下記の選択肢から 選び, それぞれ上位から記載してください 該当がない場合は, 直接, 回答欄に

18 アジア アセアン生産拠点別の生産台数 マレーシア ( 旧カウント ) 生産拠点 ( タイ ) ( フィリピン ) ( インドネシア ) ( マレーシア ) ( 台湾 ) ( 中国 ) ( 中国 ) * ( 中国 ) * ( インド ) ( バングラデシュ ) ( ベトナム ) 合計 三菱自動車

<4D F736F F F696E74202D B AB490F591CE8DF482AD947A957A8E9197BF816A2E >

東京大学学内広報 NO.1405 ( )

血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 に関する説明書 一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療研究センター 所属長衞藤義勝 この説明書は 血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 の内容について説明したものです この研究についてご理解 ご賛同いただける場合は, 被

Microsoft Word - 【最終】リリース様式別紙2_河岡エボラ _2 - ak-1-1-2

- 1 - Ⅰ. 調査設計 1. 調査の目的 本調査は 全国 47 都道府県で スギ花粉症の現状と生活に及ぼす影響や 現状の対策と満足度 また 治療に対する理解度と情報の到達度など 現在のスギ花粉症の実態について調査しています 2. 調査の内容 - 調査対象 : ご自身がスギ花粉症である方 -サンプ

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

JNTO

重症急性呼吸器症候群 (SARS) 削除. 新興感染症対策を Xに新設. 5. ウエストナイル熱 空気感染する可能性があり, かつパンデミッ これらは改定版 2 刷発行当時 (2004 年 ), クになった際の透析施設の対応を Xに移行. 新興 再興感染症として問題とされてい 4. ウ

18 アジア アセアン生産拠点別の生産台数 マレーシア ( 旧カウント ) 生産拠点 ( タイ ) ( フィリピン ) ( インドネシア ) ( マレーシア ) ( 台湾 ) ( 中国 ) ( 中国 ) * ( 中国 ) * ( 中国 ) * ( インド ) ( バングラデシュ ) ( ベトナム )

PowerPoint プレゼンテーション

Transcription:

2018 年 8 月 29 日放送 東南アジアにおけるインフルエンザの流行 新潟大学大学院国際保健学分野教授齋藤玲子はじめにインフルエンザは寒いときに流行るウイルス感染症です 主な症状は 高い熱が出る 喉がいたい 咳が出るなどの呼吸器症状ですが インフルエンザの場合は だるい 食欲がない 起き上がれない 関節がいたむ などの全身症状がつよいことが特徴です インフルエンザは 子供がかかることが多いですが 成人や 65 才以上の方もかかります A 型と B 型があることと さらに 亜型や系統にわかれること 抗原変異が頻繁に起こることから 一生のうちに何回も繰り返して感染します インフルエンザの流行時期インフルエンザは 一般的に 寒い地域では冬に流行ります 北半球では 11 月から 3 月に 南半球では 4 月から 9 月にはやります 日本の夏の時期はインフルエンザ患者さんが少なくなりますが 同じ時期に南半球のオーストラリアやニュージーランドでは寒い冬になりますので インフルエンザの患者さんが多くなります さて 熱帯 亜熱帯気候である東南アジアではどうでしょうか? 答えは 雨期 に流行りやすいです 一般的にアジアの熱帯 亜熱帯の地域は 一年を通じて気温が 30 度前後と高いところが多く 雨期と乾期の 2 つの季節しかありません 雨期の時期は ベトナム タイ カンボジア フィリピン ミャンマーなどでは 5 月から 11 月頃で この時期は少し気温が下がります 世界保健機関 (WHO) では 流行するインフルエンザにワクチンをあわせるため グローバルサーベイランスを行い インフルエンザのモニタリングを行っています 東南アジアの国々も このグローバルサーベイランスに参加しており 各国でいつインフルエンザがはやっているか どのような型や抗原性なのか毎年調査をしています WHO の結果では フィリピン ベトナム カンボジア タイ ラオス バングラデシュ インド北部では インフルエンザは 5 月から 10 月にみられ 7 月から 9 月に流行ピークがあります ( 図 1 2) 一方 赤道近

くのシンガポール マレーシア南部 インドネシアでは一年中インフルエンザが散発的にみられ 大きなピークは形成しないと言われています ベトナム北部のハノイは亜熱帯気候で四季があります 私たちが以前ハノイで調査を行ったところ 1 から 3 月の冬と 6 月から 8 月の雨期の2 回インフルエンザが流行していました このため やや緯度の高い地域や 標高が高い地域では冬があるため東南アジアでも一年に2 回インフルエンザが流行ることがあります 暑いのになぜインフルエンザが流行るのかなぜ 東南アジアでは 暑いのに雨が降るとインフルエンザが流行るのでしょうか? 理由はまだわかっていません 日本でインフルエンザの患者数を調査すると あきらかに 10 以下の寒い気温条件で患者が増えてきます インフルエンザは飛沫感染でうつる病気です 気温が 20 度で 湿度が 20% と低いときに伝播力が高くなるという実験結果があります ( 図 3) 最近は 日本でも暖房としてエアコンが主流となったため 冬の室内で湿度が 20% 前後と乾燥していることが珍しくありません さらに 乾燥した

場合には空気感染することもあると言われ 患者が爆発的にふえてしまう原因になります 飛沫は 湿度が高いと逆に遠くには飛ばなくなり伝播力が落ちます 実際に 熱帯の気温に近い 30 度と高温多湿で実験したところ 飛沫感染が起こらなくなりました ( 図 4) しかし 接触感染は起こるので 熱帯亜熱帯でのインフルエンザ感染は患者さんの鼻水や唾液が 健康な人の手についてそれを目や鼻にすり込んでしまうために起こると考えられています 熱帯亜熱帯で雨が降るとやや肌寒く感じますし 人が室内に集まるのが接触感染の原因ではないかと考えられています インフルエンザの患者数は圧倒的に温帯 寒帯の寒い地域が多く 熱帯亜熱帯では 患者が少ないのは 飛沫感染が起こりやすいかどうかで決まるようです 日本の中でも沖縄ではインフルエンザの流行が夏に起こることがあります 沖縄は 5 月から 9 月まで気温が 30 度を超し 雨が多くなります これが 熱帯亜熱帯のインフルエンザ流行条件に一致するため 夏の流行のもとになると考えられています ミャンマーでのインフルエンザ調査私ども 新潟大学のグループは ミャンマーでインフルエンザの調査を 10 年以上行っています 2015 年からは 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) の感染症国際展開戦略プログラム (J-GRID) に採択されました 現地に研究室を作りながら インフルエンザや子供の肺炎の研究をしています 新潟大学の教員 2 名と ミャンマー人 3 名で 現地の研究所や病院と連絡を取りながら 研究を進めています ( 図 5)

我々の調査では ミャンマーでインフルエンザは 7~9 月に流行ります ( 図 6) この時期はちょうど雨期に当たります 私たちは 現地の医師に依頼して 日本製のインフルエンザ迅速診断キットを使って患者をスクリーニングしてもらっています おもしろいのが インフルエンザが陽性だと デング熱ではなく インフルエンザだから助かりますよ という患者さんへの説明に使われているということです ちょうど 1 年前の 2017 年 7~8 月に ミャンマーはインフルエンザ A 型 H1N1pdm09 が大流行して大騒ぎになりました このインフルエンザは 2009 年に世界パンデミックを起こしたウイルスです まず 2017 年 5~7 月にミャンマー西部のチン州で流行しました 次に 7 月末には最大都市ヤンゴンでインフルエンザの大きな流行が起こり 肺炎で入院する患者が続き 死者もでたことから フェイスブックなどのソーシャルメーディアを通じて 危ないウイルスがはやっている と一気に情報がひろがり パニック状態に陥りました 最終的に肺炎で入院した患者が 1,198 人 うち 401 名が A/H1N1pdm と確定され 38 名が死亡したとミャンマー政府から公表されています ( 図 7) ミャンマーではインフルエンザ感染症がこれまで重視されていなかったため 短期間のうちこれほど多くの死者が出たのははじめてでした 事態を重く見たミャンマー政府はインフルエンザ対策に乗り出し 患者の隔離や N95 マスクの着用 疑い例の全例検査など異例の措置をとりました 新潟大学も 迅速診断キットメーカーから寄贈をうけてインフルエンザの迅速診断キットをミャンマーの研究所や病院に寄付しました 同時にプロジェクトで雇用したミャンマー人研究員を 国立衛生研究所のインフルエンザ検査に従事させ 遅れがちだった検査の加速化を計りました この功績から 新潟大学は インフルエンザ対策に貢献した唯一の日本の団体としてミャンマー保健省の評価が一気に高まりました 我々が 日本の国立感染症研究所と共同して ウイルス遺伝子の詳細な解析を行ったところ ミャンマーで流行した A/H1N1pdm09 は 通常の季節性インフルエンザであり 特に大きな抗原性の変化はありませんでした 重症化するような遺伝子変異や組換えも起きていませんでした ミャンマーで流行したインフルエンザの由来を追うため 周辺諸国で流行したインフルエンザと比べたところ 同じ年に検出されたインド株とほぼ同じことがわかりました インドではミャンマーに先立ち 5~7 月に A/H1N1pdm が流行していました ミャンマー国内の流行も インドやバングラデシュ国境に近い西部から始まったこととあわせると 今回の流行はインドから伝播した可能性が高いと考えられます 興味深いことに ミャンマーのインフルエンザによく似た株が 10~11 月に沖縄や

台湾で検出され 12~1 月には日本本土でも流行しました 東南アジアを経て 数ヶ月後に日本に伝播されたと考えられます ( 図 8) おわりに最近の研究では インフルエンザは北半球と南半球を行き来しながら進化を続けていることがわかってきました 特に熱帯亜熱帯地域にはインフルエンザが一年中みられることから ウイルスが保持されるリザーバーの役割をしていると考えられています 熱帯亜熱帯地域のインフルエンザを調べることで次に日本ではやるインフルエンザがわかる可能性が高く 東南アジアでの調査が重要であると思われます 今後も我々は ミャンマーとアジア全体のインフルエンザの調査を続けていきたいと思っています