日本における地方地方自治制度自治制度の動向 大阪都 構想 構想と大都市制度と大都市制度の改革 早稲田大学 政治経済学術院 公共経営大学院教授 片木淳 1 日本の大都市制度 1.1 指定都市制度 表 1 指定都市の人口と移行年月日 都市人口 1 移行年月日 図 1 指定都市の状況 大阪市 2,665,314 1956.9.1. 名古屋市 2,263,894 1956.9.1. 京都市 1,474,015 1956.9.1. 横浜市 3,688,773 1956.9.1. 神戸市 1,544,200 1956.9.1. 北九州市 976,846 1963.4.1. 札幌市 1,913,545 1972.4.1. 川崎市 1,425,512 1972.4.1. 福岡市 1,463,743 1972.4.1. 広島市 1,173,843 1980.4.1 仙台市 1,045,986 1989.4.1. 千葉市 961,749 1992.4.1. さいたま市 1,222,434 2003.4.1 出典 : 指定都市市長会 HP 静岡市 716,197 2005.4.1. 堺市 841,966 2006.4.1. 新潟市 811,901 2007.4.1. ( 表 1) 1 人口は 平成 22 年国勢調査 ( 確定値 ) を基に作成し ている 浜松市 800,866 2007.4.1. 岡山市 709,584 2009.4.1. 相模原市 717,544 2010.4.1. 熊本市 734,474 2012.4.1 出典 : 総務省 HP 政策 > 地方行財政 > 地方自治制度 > 地方公共団体の区分 1
日本の現行地方自治法により 指定都市は 人口 50 万以上の市 の中から政令で指定される ( 自治法第 252 条の 19 第 1 項 ) ただし 運用では 一般的に 100 万人以上 合併特例として 70 万人以上の市が指定されることができる 指定都市は 2012 年 4 月 1 日現在 20 市を数えている ( 図 1 表 1) 指定都市は 都道府県が処理する事務の全部又は一部を 処理することができる ( 同項及び道路法 河川法 地方教育行政法等 ) 指定都市は 市長の権限に属する事務を分掌させるため 条例で その区域を分けて区を設け ( 行政区 同法第 252 条の 20 第 1 項 ) 区の事務所の長は 当該普通地方公共団体の長の補助機関である職員をもつて充てる ( 同条第 3 項 ) 1947 年制定の地方自治法には 特別市 制度が規定されていた 特別市 は 原則として 都道府県及び市に属する事務を処理し 都道府県の区域外とされていた しかし 関係府県が激しく反対したため 1956 年地方自治法が改正され 特別市 制度は一度も実施されることなく廃止され かわって 現行の 指定都市 制度が導入された なお 指定都市のほか 人口 30 万以上の市に適用される中核市 (1995 年施行 2012 年 4 月 1 日現在 41 市 ) 人口 20 万以上ノ市に適用される特例市 (2000 年施行 2012 年 4 月 1 日現在 40 市 ) がある 1.2 都区制度東京都の特別区 ( 図 2 表 2) は 地方自治法により 基礎的な地方公共団体として 位置づけられている ( 第 281 条の 2 第 2 項 ) しかし 人口が高度に集中する大都市地域における行政の一体性及び統一性の確保の観点から当該区域を通じて都が一体的に処理することが必要であると認められる事務 等は 都がこれを処理することとされる ( 同条第 1 項 ) 具体的には 上下水道 消防 などの事務は 都が東京都水道局 東京都下水道局 東京消防庁などを設置して行っている 清掃事業については 2000 年 4 月 1 日施行の同法改正により 特別区に移管された 都及び特別区の事務の処理については 都と特別区及び特別区相互の間の連絡調整を図るため 都区協議会 が設置され ( 自治法第 282 条の 2) 都と各特別区の相互間で調整が図られている 市町村民税 ( 法人分 ) 固定資産税 特別土地保有税等は都税とされ それらの税収の一定割合が 都区財政調整制度 により 特別区の財源不足額に応じて財源調整交付金として各特別区に交付される ( 自治法第 282 条 ) 2
図 2 東京都の 23 区と市町村 出典 : 東京都 HP 都内区市町村マップ 島しょ部を除く 表 2 東京都 23 区の人口一覧 区の人口一覧資料 : 東京都の人口 ( 推計 ) 2011 年 1 月 1 日現在 ( 総務局統計部 ) 特別区名 人口人 特別区名 人口人 千代田区 47,201 渋谷区 204,921 中央区 123,475 中野区 313,980 港区 205,580 杉並区 549,042 新宿区 326,463 豊島区 284,935 文京区 207,227 北区 334,789 台東区 176,569 荒川区 204,815 墨田区 247,702 板橋区 533,890 江東区 461,615 練馬区 715,683 品川区 365,858 足立区 684,537 目黒区 268,375 葛飾区 443,229 大田区 693,012 江戸川区 678,894 世田谷区 878,071 区部計 8,949,863 出典: 東京都 HP 都内区市町村マップ 東京都の総人口は 13,163,332 人 2 大阪都大阪都 構想 2.1 大阪都 構想の概要 2010 年の正月 弁護士出身で 人気タレントでもあった異色の大阪府知事 橋下徹 ( 当時 現大阪市長 ) は 記者会見の場で 大阪府と大阪市の関係を 1 回ぶち壊して新たな 3
大阪をつくっていく 必要があるとして 大阪都 構想 ( 図 3 表 3) を提唱した 同年 4 月には その実現を公約に掲げて 地域政党 大阪維新の会 が発足し その後 2011 年の統一地方選 (4 月 ) 大阪府知事 市長ダブル選挙 (11 月 ) での大阪維新の会の勝利を経て 本年 7 月 30 日には 民主党 自民党 公明党等与野党 7 会派により 東京都以外にも特別区の設置を認める 大都市地域特別区設置法案 が衆院に共同提出されるに至っている ( 次期選挙への思惑から維新の会に配慮を示したものといわれている (8 月 1 日付毎日新聞等 )) 図 3 大阪府と大阪市 堺市 人口人割合 % 面積km2割合 % 大阪府 8,865,245 100.0 1,898.47 100.0 大阪市 2,665,314 30.1 222.47 11.7 堺市 841,966 9.5 149.99 7.9 出典: 総務省統計局 HP 平成 22 年国勢調査 道府 県 市区町村別主要統計表 ( 平成 22 年 ) により作成 ( 地図 : 地方自治情報センター HP 全国自治体 マップ検索 による大阪府の地図を加工 ) 表 3 大阪都 構想の要点 要点 1. 貧困都市脱却のための公務組織等の改革 2. 二元行政 二重行政の打破 3. 大阪都 の新設 概要全国で最高の生活保護率 低い消費支出 高い完全失業率など大阪は貧困都市へと転がり落ちおり この課題に正面から立ち向うためには 徹底した公務員改革と公務組織の経営形態の変換が必須である 大阪の新たな成長のためには 大阪市と大阪府の二元行政 二重行政を打破し 1 人のリーダーが成長戦略を実施できる体制 を整備しなくてはならない 戦略性が必要な事業 ( 成長戦略 広域防災機能 都市計画や拠点開発 交通インフラの整備等 ) および統一性が必要な事業 ( 国民健康保険 生活保護 消防や警察 道路の管理等 ) は 大阪都 を新設して これに一元的に担当させる 4
指定都市である現在の大阪市と堺市を廃止し 人口 30 万人から 50 4. 特別自治区 の万人規模の特別自治区を設置する 特別自治区には 公選制の区長と新設区議会を置き 中核市並みの権限を与える 民間で可能な事業は可能な限り民間で行うべきであり 地下鉄およ 5. 大阪市営事業の民びニュートラム モノレール バス 水道および下水等の経営形態を営化変更すべきである ( 注 ) 大阪維新の会 大阪都構想推進大綱 (2011 年 11 月 1 日 ) により 要点を筆者抽出 2.2 大阪都 と補完性 近接性の原理 大阪都 構想は 大阪府域に 大阪都 を創設し 十分な財源で裏打ちされた強い広域自治体 として 戦略性が必要な事業 ( 成長戦略 広域防災機能 広域に影響がある都市計画や拠点開発 交通インフラの整備 戦略的な街づくり等 ) および統一性が必要な事業 ( 国民健康保険等の運営 介護保険および生活保護の運営 消防や警察 道路の管理等 ) を担当させるというものである ( 図 4) 図 4 大阪都 構想における広域行政と基礎自治行政 出典 : 大阪市 HP 市政改革プラン - 新しい住民自治の実現に向けて - 基本方針編 (2012 年 7 月 30 日 大阪市 ) これについては 大阪の経済浮揚や地域再生の課題を大阪府の区域で考えることは グローバル経済下の厳しい地域間競争の時代においては すでに 狭きに失するのではないかと思われるほか 基礎的自治体である大阪市を解体して 大阪都 というような広域自治体に委ねることについては 補完性の原理 や 近接性の原理 からの疑問もある 5
2.3 特別自治特別自治市 構想指定都市市長会は 2011 年 7 月 27 日の 新たな大都市制度の創設に関する指定都市の提案 ~ あるべき大都市制度度の選択 特別自治市 ~ の中で 道府県制度度が明治以来改革されていないため 効果的的 効率的な行政運営が阻害されており 道道府県制度の見直しを行い 基礎自治体を中中心とした新たな制度を構築することが必要である とし 基礎自治体であるとともに 高度な行政能力を備え 大規模かつ多種多様様な行政課題に対応している大都市は 道府府県と同等の事務を行うことが可能 であり 能力 役割に見合った権限と財源が確保されることが必要だとしている 図 5 特別自治市特別自治市 制度 出典: 指定都市市長会 新新たな大都市制度の創設に関する指定都市の提案 ~ あるべき大都市制度の選択 特別自治市 ~ ( 平成 23 年 7 月 27 日 同 HPによる ) そして 大都市は 全体として 一体的な都市機能を備えた都市を形成成し 市民も一つのまとまりとしての大都市を当然のものと認識しており また 大都市のの一体的な行政運営によるスケールメリットで 住民サービスが効率化 高度化できるなどど 一体的大都市機能強化の必要性を指摘し 新たな大都市制度として 1その市域内の地地方の事務を全て行い 2その市域内における全ての地方税を一元的に賦課徴収し 3 広域域自治体の区域外とする 特別自治市 を提案案した ( 図 5) つまり 大阪都 構想とは反対に 広域自治体による大都市行政の一一体的運営を否定し 大阪都 構想のいう 戦略性が必要な事業 も 統一性が必要な事事業 も含めて すべての事務事業の基礎自治治体による運営をめざしている したがって 論点は 今後 激化する国際的な競争環境の中でそれぞれの地域において 大都市制度ををどのように構築すべきであるのか 大阪都都 構想のいうように大阪市を廃止 分割し より広域の大阪府が戦略的 統一的事務を実実施することとすべきであるのか それとも 特別自治市 構想のように広域自治体である都道府県から独立した大阪市等の地位を認認めて その自立 6
性の向上を図るべきなのか ということになる 2.4 特別自治区 の新設と都区制度都区制度の改革 大阪都 構想は 267 万人の人口を擁する大阪市の組織では住民生活をきめ細やかに守るには組織が大き過ぎ 各行政区役所では全く対応できない これら住民サービスを 住民により近い 特別自治区 が全て担えるような組織体制と仕組みを整備する必要があるとし 指定都市である現在の大阪市と堺市を廃止し 人口 30 万人から 50 万人規模の特別自治区を設置し 公選制の区長と区議会を置き 中核市並みの権限を与えるとする 大阪都 構想は その名から推測すれば 現在の東京都制をモデルにしようとするものであろうが 2007 年 12 月 特別区長会の諮問機関である特別区制度調査会は特別区制度の廃止を提案している ( 第二次特別区制度調査会報告 都の区 の制度廃止と 基礎自治体連合 の構想 ) すなわち 同報告は これまでの 都区制度を支えてきた基本観念である 東京大都市地域における 行政の一体性 から脱却し 都の区 の制度廃止を実現する必要 があるとし その上で 人口 面積 財源など様々な特性を持つ基礎自治体が 自らの意思決定における主体性と行財政運営における自立性を維持しながら 対等 協力 による相互補完を行う仕組みとして 基礎自治体連合 を提案した この点 大阪都 構想は 住民に身近な行政は従来の行政区を独立した基礎自治体として自立させようとしており その限りでは 特別区長会側の東京都制改革案に近い面もあるが 戦略性 統一性が必要な事業など広域自治体である 大阪都 の機能を強化しようともしており その点では このような都区制度の改革の流れに逆行しているとも評し得る 3 今後の展開前述のように 大都市地域における特別区の設置に関する法律案 が 2012 年 7 月 30 日 民主党 自民党 公明党等与野党 7 会派により 国会に提出され 衆議院総務委員会に付託されている 法案は 指定都市と隣接市町村を含む総人口 200 万人以上の大都市区域で 市町村を廃止して特別区の設置を認めるものであり 指定都市のうち 200 万人以上の横浜 大阪 名古屋のほか 隣接市町村を含めて 200 万人を超える札幌 さいたま 千葉 川崎 京都 堺 神戸の 10 市が対象となっている 指定都市等と関係道府県が総務大臣との協議の上で 議会の承認や住民投票などを経て市町村を廃止し 特別区を設置することとされている 大阪都 構想の実現のためには 今後 府 市両議会の議決や住民投票 関係法令の改正など多くの手続きが必要であり 実現までにはなお時間を要すると思われるが これを契機に 日本の統治機構全体の課題について早急に真剣な論議を行っていく必要が生じてきている 今後の展開が注視されるところである 7