北海道天塩町 農林水産課 事例発表の内容 1 天塩町の概況 (1) 天塩町の位置 気象条件 人口 産業 (2) 天塩町農業の概要 2 和牛繁殖基地としての可能性 (1) 草地の現状 (2) 植生改善の課題 (3) 国営総合農地防災事業 産 ( うぶし ) 地区 実施による生産 アップ 3 地域づくり放牧推進事業の取り組み (H27 H29) (1) 事業推進体制 (2) 取り組み内容 (3) 天塩町における肉用牛振興の方向性及び課題 4 草地基盤活用による天塩型和牛生産モデル 5 天塩町和牛放牧組合が核となった放牧による地域おこし (1) 天塩町農業支援センターと天塩町和牛放牧組合の連携による人づくり (2) 基盤整備による良質粗飼料の確保 (3) 酪農経営との連携 (4) 酪農経営から和牛経営への転換 (5) 地元の関係機関 近隣市町村等との連携 (6)6 次産業化 -51-
1 天塩町の概況 (1) 天塩町の位置 気象条件 人口 産業 天塩町 稚内市 札幌市 旭川市 位 置 北海道の北部に位置し 最北の街稚内市から で約 1 時間 札幌市からは約 4 時間 気象条件夏の平均気温は21.5 冬は -6.5 であり 年平均気温は 6.8 ( 札幌市 :8.9 ) 最深積雪は85cm前後 人 口 昭和 30 年 (1955 年 )=10,019 人平成 7 年 (1995 年 )= 4,931 人平成 27 年 (2015 年 )= 3,288 人 産業 ( 基幹産業は農業 ) 昭和 31 年に集約酪農地域の指定を受け 畑作から酪農へ転換 農業 ( 酪農 肉用牛 ) 漁業 ( さけ かれい しじみほか ) (2) 天塩町農業の概要 ア販売農家 数の推移イ販売農家人口の推移戸実績値予測値人 987 実績値予測値 300 1000 250 200 150 100 50 227 172 127 <1995 年 2025 年 > 販売農家戸数 =6 割減少 100 0 0 1995 年 2005 年 2015 年 2025 年 1995 年 2005 年 2015 年 2025 年 資料: 北海道立総合研究機構農業研究本部 ( 中央農業試験場 ) ウ販売農家の経営耕地面積の推移 ( 町全体 ) ha 9,000 8,500 8,000 7,500 7,000 8,444 実績値 8,153 7,916 天塩町全体の耕地面積 10,200ha ( うち 町営牧場 1,475ha) 予測値 7,541 1995 年 2005 年 2015 年 2025 年 資料 : 北海道立総合研究機構農業研究本部 ( 中央農業試験場 ) 800 600 400 200 707 465 <1995 年 2025 年 > 販売農家人口 =7 割減少 エ 1 平均経営耕地面積の推移 ha 100 80 60 40 20 0 37 実績値 47 62 327 予測値 75 1995 年 2005 年 2015 年 2025 年 -52-
オ乳用牛 ( ホルスタイン種 ) ( ア ) 飼養 数 ( イ ) 飼養頭数 頭 戸 14,000 12,381 160 12,000 11,369 11,090 140 120 100 80 148 134 128 121 113 2006 年 2008 年 2010 年 2012 年 2014 年 資料 : 天塩町調べ 肉畜等に関する調査 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 4,246 8,135 4,226 7,143 2,335 8,755 10,474 2 歳未満 2 歳以上 9,984 4,133 3,942 6,341 6,042 2006 年 2008 年 2010 年 2012 年 2014 年 カ肉用牛 ( ア ) 飼養 数 戸 30 25 20 15 10 5 0 酪肉複合経営肉用牛専業経営 18 5 16 5 13 11 23 6 17 17 16 20 1 8 12 2006 年 2008 年 2010 年 2012 年 2014 年 ( イ ) 飼養頭数頭 10,000 乳用種肉専用種 8,000 6,000 4,000 2,000 0 1,686 280 1,406 2,607 0 2,607 4,918 220 4,698 8,538 275 8,263 5,226 212 5,014 2006 年 2008 年 2010 年 2012 年 2014 年 資料 : 天塩町調べ 肉畜等に関する調査 キ 販売取扱高 百万円 5,000 4,000 4,633 48 52 1,035 4,330 4,284 4,218 61 72 32 111 33 32 977 901 749 てん菜牧草肉畜生畜生乳 4,415 4,499 4,325 4,249 4,234 31 80 3,931 134 100 78 65 44 20 24 27 27 127 36 828 957 1,042 798 829 712 3,000 2,000 3,499 3,259 3,277 3,327 3,057 3,293 3,278 3,400 3,333 3,333 1,000 0 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年 資料 :JA てしお農業振興 中期経営計画書 通常総会資料 -53-
2 和牛繁殖基地としての可能性 (1) 草地の現状天塩町は広 な草地基盤を有しているが 草地更新の遅れや施肥量の減量 スラリー施用による施肥のアンバランス等により植生が悪化 平成 23 年度に留萌酪農プロジェクトが実施した植生調査結果では リードカナリーグラス ケンタッキー シバムギ等の雑草類が多く 草地に占める雑草類の割合は約 50% これらの雑草の多い原料草はサイレージ発酵に必要な糖類が少なく 嗜好性が劣る シバムギ 簡易更新後の植生調査 植生調査 リードカナリーグラス < 平成 27 年に天塩町営農対策協議会が った植生状況 > (2) 植生改善の課題植生改善を うには草地更新が有効な 段ではあるが きな費用負担が生じるなどの課題があり すべての農家において早急に取り組むことは難しい 植生の悪い粗飼料を搾乳牛に給与した場合 乳量 乳質の低下を招き 酪農経営に与える影響が きい しかしながら これらの粗飼料を和牛 ( 繁殖雌牛 ) に給与した場合においては マイナスとなる影響が少ない -54-
ア 植生の悪い ( 雑草類の多い ) 粗飼料を給与した場合の影響 雑草類 リードカナリーグラスの特徴 嗜好性が悪い 低消化性繊維が多い アルカロイド含量が多い 糖類が少ない シバムギの特徴 嗜好性が悪い サイレージの発酵品質が悪い 茎が細く倒伏しやすい 堆肥の吸収性が高く 硝酸態窒素含有量が高くなる 経営への影響 きい 経営への影響少ない 酪農経営 搾乳牛 乳量 乳質の低下 和牛経営 繁殖雌牛 利用が可能 イ 簡易更新による植生改善 オーバーシーダーダイレクトドリルクーン < 参考 > 畜産クラスター実証支援事業の実施 平成 26 年度から畜産クラスター実証支援事業 ( ソフト事業 ) を活用し 草地の植生改善による 給飼料生産向上と乳牛 肉用牛の飼養管理改善による 畜産経営の収益 向上に向けた取り組みを実施 1 草地の植生改善実証ほの展 (H26 H28) ( 酪農 ) 給粗飼料のTDN 向上による収益増 (TDN=55% 60%) 簡易更新等による植生改善 自給飼料の TDN5% 向上 産乳量 10% アップ 1 頭当たり乳量 869kg 増加 8,690kg/ 頭 10% =869kg/ 頭 1 頭当たり 73,396 円収益増加 869kg/ 頭 84.46 円 /kg =73,396 円 / 頭 天塩町全体の収益 5 億 8 千万円の増加 73,396 円 7,907 頭 =5 億 8 千万円 2 牛群管理 評価システムの実証 (H27 H28) 乳牛検定情報 バルク乳情報 授精 治療等 NOSAI 情報などの結合 分析 加工 3 規模和牛繁殖経営の確 と繁殖経営の収益向上 (H27 H28) 放牧や野草地の利用 繁殖牛のライフサイクルに応じた飼養管理と 年 産と 性の高い素牛生産の確 -55-
(3) 国営総合農地防災事業 産 ( うぶし ) 地区 実施による生産 アップ 和牛放牧組合 第 2 牧場 和牛放牧組合 第 1 牧場 < 事業の概要 > 受益面積 2,289ha 農地防災 851ha 農地機能保全 2,289ha 工事計画 排 路 15.7km 暗渠排 整備 整地 2,289ha 事業費 130 億円 事業工期 平成 27 年度 平成 34 年度 国営総合農地防災事業 産 ( うぶし ) 地区 受益地の全景 加湿による刈り残し 雨の日が続いた状態 位が高い泥炭地 はけの悪い箇所は収穫不能 3 地域づくり放牧推進事業の取り組み (H27 H29) (1) 事業推進体制事業主体天塩町和牛放牧組合 平成 27 年 4 月 6 日 4 により設 天塩町 連携全国肉牛事業協同組合 天塩町和牛放牧組合の牧場 農業改良普及センター家畜保健衛生所 研修会の共同開催など 連携 ( 関係機関の役割分担 ) 組合員の個別経営概況 農家 草地飼養頭数 (H27 年 2 月 ) 面積繁殖育成肥育計 A 760ha 295 頭 283 頭 35 頭 613 頭 B 260ha 332 頭 11 頭 86 頭 429 頭 C 7.5ha 17 頭 8 頭 - 25 頭 D 38ha 48 頭 11 頭 - 59 頭 天塩町営農対策協議会 < 関係機関による組織 > 営農技術対策の指導 家畜の疾病及び伝染病の予防対 家畜 衛防疫に関すること 生乳の品質向上対策に関すること 畜産クラスターによる酪農 畜産経営の収益 向上に向けた取り組み 天塩町和牛振興協議会 < 関係機関による組織 > 和牛の生産振興のための情報交換 和牛生産対策 和牛指導者の育成 天塩町和牛振興会 < 和牛による組織 > 優良繁殖雌牛の導 と保留対策の推進 優良種雄牛精液の活用による計画交配や受精卵による優良 牛の生産 育成 保留 和牛改良 新技術導 生産性向上などに関する研修会等の開催 家畜の伝染病防止に関する事項 -56-
(2) 取り組み内容 天塩町内の和牛 天塩町和牛放牧組合が繁殖雌牛を購入 和牛放牧のイメージ ( 夏期間 ) 家畜市場等 H27 年度事業の実施概要 推進事業 技術指導 研修会開催 防疫検査 繁殖雌牛導入 138 頭 簡易施設整備 電気牧柵 3,974m 水飲み施設 4 箇所 パドック2 箇所 導入牛 パドック 組合員所有の個別牛舎 電気牧柵 水飲み施設 分娩時期 冬期間 放牧によるコスト低減の目標 項 目 現状 目標 増減 1 頭当たり生産コスト 15,656 円 8,056 円 49% 低減 1 頭当たり労働時間 93.5 時間 86.4 時間 8% 低減 1 頭当たり所得 18 万円 20 万円 11% 増加 年度別繁殖雌牛導入計画 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 導入頭数 0 頭 138 頭 200 頭 250 頭 ( 累計頭数 ) (0 頭 ) (138 頭 ) (320 頭 ) (588 頭 ) 放牧面積 0ha 34ha 96ha 171ha (3) 天塩町における肉用牛振興の方向性及び課題 町内の広 な草地資源を有効に活用し 放牧を取り れた 道内屈指の和牛繁殖基地 を目指す 優良繁殖雌牛の導 や優良種雄牛の選定及び計画交配により 和牛の安定生産と遺伝的改良を進め の経営安定と我が国の 料 給率の向上に結び付けて く 必要とする支援策 繁殖雌牛導 支援 動産 ( 繁殖雌牛 ) を担保とした低利資 の融通 債務保証制度の充実 現行制度 肉用牛経営安定対策補完事業 ( 増頭 導入奨励金 ) 国産粗飼料増産対策事業 ( 地域づくり放牧推進事業 ) 低利資 の融資 + 債務保証をセットにした制度が必要 肉用牛振興の方向性 ( めざす姿 ) 天塩町の農家 数 農家人口の維持 地域経済の活性化 国内の肉用牛需給の安定化に貢献 天塩町には恵まれた草地基盤があり また 夏期間は冷涼な気候であることから これらの条件を最 限に活かすことによって 道内屈指の和牛繁殖雌牛供給基地をめざすことが可能 課 繁殖雌牛導 資 及び運転資 の確保 ( 低利 かつ 5 10 年の中期資 ) 債務保証制度の活用 効 題 和牛繁殖経営の安定 生産の拡 和牛繁殖素牛 肥育素牛の安定供給 市場評価の向上 優位販売の促進 和牛経営での新規参 者の受け れ 和牛を組み れた酪農経営の複合化 酪農リタイア後の受皿 和牛素牛供給基地としての天塩町の知名度アップ 果 -57-
市場等 4 草地基盤活用による天塩型和牛生産モデル天塩町は 恵まれた広 な土地資源と家畜の飼育に適した環境を有しており 肉用牛生産の拡 を図ることが可能 また 天塩町内の肉用牛は 旧安愚楽共済牧場の預託等による多頭飼育経験があることから 繁殖センター及び育成センターの設置により 繁殖と育成の分業化による天塩型和牛生産モデルの実現が可能 第 1 段階 地域づくり放牧推進事業の活用による生産基盤の拡大 < これまで > 個別経営による素牛生産 素牛販売 素牛販売 素牛販売 素牛販売 市場等 <27 年度以降の取り組み > 個別経営と併せて 天塩町和牛放牧組合による素牛生産 天塩町和牛放牧組合 繁殖雌牛導 放 種 牧 付 分娩 育成 地域づくり放牧推進事業を活用して 素牛販売 市場等 組合員の牧場に戻して 第 2 段階 繁殖センター設置による生産基盤の確立 個別経営 は繁殖雌牛 ( 牛 ) を繁殖センターに全頭預託 牛の預託 種付 分娩 生後 3 日目以降に 牛をに戻す 素牛販売素牛販売素牛販売素牛販売 市場等 労働力は, の出役 天塩町和牛放牧組合 天塩町和牛放牧組合 繁殖雌牛導 放 種 牧 付 分 育 娩 成 素牛販売 市場等 -58-
市場等 第 3 段階 育成センターを拡充することにより生産を拡大 個別経営 は繁殖雌牛 ( 牛 ) を繁殖センターに全頭預託 牛の預託受 種付 分娩 育成 生 産 者 素牛販売素牛販売素牛販売素牛販売 市場等 天塩町和牛放牧組合 労働力は, の出役 天塩町和牛放牧組合 繁殖雌牛導 放 種 牧 付 運営 : 天塩町和牛放牧組合 分娩 育成 肥育 ( 部 ) 繁殖雌牛のうち 種が留まらないなど経済的に効果が低い牛や低能力牛は肥育に仕向ける 酪農家の哺育牛 育成牛の預託受 ( 預託中に 和種の受精卵を移植し 分娩 カ月前に酪農家に戻す ) 産まれた 牛は 繁殖 育成セン酪農家と産まれた 牛は 繁殖 育成センターターの所有となり 素牛で販売の連携の所有となり 素牛として育成し販売 繁殖 育成センターの設置により 労働 不 や高齢等により酪農経営をリタイアした方や研修生 実習生等の受 れが可能 素牛販売 市場等 5 天塩町和牛放牧組合が核となった放牧による地域おこし ( 和牛繁殖基地をめざして ) (1) 天塩町農業支援センターと天塩町和牛放牧組合の連携による人づくり天塩町和牛放牧組合が和牛に関 のある農業実習生 研修生等受 の 端を担い 人材を育て 地元に定着してもらうことにより 人口減少に 止め 農業実習生 研修生 農業に関 のある 性の受 新規参 者の受 離農者を授業員として受 企業 公務員等の職場研修の受 牧場従業員 リーダーの育成 試験研究機関 学等との包括連携 関連産業との連携強化 研修生用のトレーラーハウス -59-
(2) 基盤整備による良質粗飼料の確保 個々における草地の簡易更新と併せて 国営総合農地防災事業の実施による生産性 効率性の良い生産基盤を確 10,200ha の草地基盤の有効活用 ホルスタインの放牧風景 (3) 酪農経営との連携酪農と和牛の複合経営による生産基盤の拡 を図るとともに 酪農家との連携により ホルスタインに 和種の受精卵を移植して販売頭数を拡 酪農と和牛の複合経営の拡 ( 酪農家への情報提供 研修会等への声掛け ) ホルスタインの借腹協 酪農家との連携 天塩町放牧の会との連携 ( 酪農家 :11 名 ) 天塩町放牧の会例会 酪農の風景 天塩町放牧の会例会 -60-
(4) 酪農経営から和牛経営への転換労働 問題や高齢化等により酪農をリタイヤしようと考えているが 離農という道を選択するのではなく これまで培った育成技術や施設等を活用して和牛生産に取り組むことが可能 労働 問題や高齢化により搾乳作業がきつくなってきた酪農家が和牛経営に転換 ( 草地基盤 機械 施設 育成技術を活かして ) 法 = 酪農を中止する前にホルスタインに和牛の受精卵を移植し 徐々に和牛経営に転換 ホルスタインと F1 の放牧風景 (5) 地元の関係機関 近隣市町村等との連携天塩町和牛振興会などの関係機関 さらに 留萌和牛振興協議会や留萌酪農 畜産プロジェクト会議の取り組みに参加し 情報交換や新技術の導 により生産拡 に結び付ける 天塩町和牛振興会などの地元関係機関との連携 近隣市町村等との連携 留萌和牛振興協議会との連携 留萌酪農 畜産プロジェクト会議との連携 天塩町和牛研修会 農業改良普及センターの現地指導 -61-
(6)6 次産業化地域創生の取り組みと連携し 天塩町で生産された牛乳や牛肉等を活用した 6 次産業化の取り組みにより 地元商店の活性化や観光資源の拡 に結びつける 肥育に仕向けた牛肉を町 に還元するとともに イベントや学校給 用等に活用 町内で生産された牛乳 乳製品及び牛肉等を地元の飲 店や旅館等で提供 を通じて 天塩町の PR と消費者とのつながりを深める チーズ工房 べこちち FACTORY -62-