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. 軸力作用時における曲げ耐力基本式の算定 ) ここでは破壊包絡線の作成を前提としているので, コンクリートは引張領域を無視した RC 断面時を考える. 圧縮域コンクリートは応力分布は簡易的に, 降伏時は線形分布, 終局時は等価応力ブロック ( 図 -2) を考えることにする. h N ε f e

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表 6.3 鉄筋のコンクリートに対する許容付着応力度 (N/mm 2 ) 長 期 短 期 異形鉄筋 かつ 5 上端筋 Fc 以下 75 0 その他の鉄筋 かつ.35 + Fc 以下 25 < 表を全面差し替えた > 長期に対する値の.5 倍 丸鋼 4 Fc かつ 0.9 以下 00

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論文打継目を有する無筋コンクリートを RC 巻き補強した橋脚の正負水平交番載荷実験 杉崎向秀 *1 *2 小林薫 要旨 : 無筋コンクリート橋脚の地震被災例では, 施工時の打継ぎ目が弱点となる損傷状況が多く見られることから, 打継ぎ目が大きく影響すると思われる 打継ぎ目を有する無筋コンクリート橋脚を RC 巻き補強した模型試験体を製作し, 静的正負交番載荷試験を実施した 一体化のためのジベル筋を配置した試験体と, 省略した試験体の試験結果を比較すると, ジベルを配置した試験体の方が降伏変位は小さい値となったが, 荷重については, 両試験体とも計算値以上となった また, ジベル筋の有無は破壊形態とじん性能に影響するが, いずれの試験体においても, 試験終了時の損傷状況を確認したところ, 既設部の無筋コンクリート部分はほぼ無損傷であった キーワード : 無筋コンクリート, 打継ぎ目,RC 巻き, ジベル筋, ひび割れ 1. はじめに無筋コンクリート橋脚 ( 以下, 無筋橋脚 ) は耐震性能の劣る構造物であり, 鉄筋コンクリート ( 以下,RC) 橋脚や, 鋼製橋脚が主流である現在は, ほとんど造られることのない構造物である しかし, 昔は, レンガや石積みの橋脚とともに多く造られていたこともあり, 今なお供用しているものも多い 無筋橋脚の地震被災例としては, 新潟県中越地震, 関東大震災がある 写真 1 に新潟県中越地震における無筋橋脚の損傷状況を示す 損傷の要因としては, 施工時における打継ぎ目が弱点となり, 縁切れを起こしたことによるものと思われる また, 関東大震災の被災記録においても, 同様の記載がある 1) このように, 無筋橋脚の地震時における破壊状況は RC 橋脚とは異なり, 打継ぎ目の存在が大きく影響するものと考えられる 今回, 無筋橋脚を対象とした耐震補強工法の研究として, 打継ぎ目を有する無筋橋脚を RC 巻き補強した模型試験体を製作し, 基本的な変形 性状を確認するために静的正負交番載荷試験を実施した 本稿では, その試験結果, および損傷状況と考察について報告する 写真 1 新潟県中越地震による被災状況 2. 実験概要 2.1 試験体概要試験体の諸元と材料試験結果をそれぞれ表 - 1,2 に, 試験体のうち RC-S-2 の概要を図 -1 に示す RC-S-1 はジベル筋を省略した試験体で, RC-S-2 はジベル筋を配置した試験体である *1 東日本旅客鉄道 ( 株 ) JR 東日本研究開発センターフロンティアサーヒ ス研究所 ( 正会員 ) *2 東日本旅客鉄道 ( 株 ) JR 東日本研究開発センターフロンティアサーヒ ス研究所課長博 ( 工 ) ( 正会員 )

表 1 試験体諸元 試験体名 試験体名 コンクリート強度 せん断スパン 既設部補強部径 既設部断面 幅 高さ 軸方向鉄筋 降伏強度 表 2 巻き厚 降伏ひずみ (μ) 軸方向鉄筋 ( 径 片側本数 ) 材料試験結果 径 帯鉄筋 降伏強度 補強部 帯鉄筋 ( 径 @ 配置間隔 ) 降伏ひずみ (μ) ジベル筋 ( 径 片面配置本数 ) RC-S-1 15 1 4 1 D16 16 D13@1 RC-S-2 D16 24 径 ジベル筋 降伏強度 降伏ひずみ (μ) RC-S-1 19.7 21.7 D16 37 199 D13 38 1995 RC-S-2 32.5 28.9 D16 37 199 既設部 ( 無筋 ) 12mm 1mm 補強部 (RC) 塩ビ製シート 6mm 4mm ジベル筋ひずみゲージ貼付箇所 17mm 15mm 載荷位置 既設部打継ぎ目 75mm 2mm 26mm 26mm 26mm 26mm 26mm 打継ぎ目 75mm 2mm 2mm 2mm 2mm 2mm 図 -1 RC-S-2 試験体概要 写真 -2 既設部打設後 (RC-S-1) 写真 -3 補強部施工前状況 (RC-S-2) 試験体は, 打継ぎ目を有する無筋橋脚 ( 断面寸法 4mm 1mm) を模擬したもの ( 以下, 既設部 ) を, 巻厚 1mm のRC( 以下, 補強部 ) にて巻きたてて補強を行った 今回の試験体では, 打継ぎ目を橋脚基部から 75mm の高さの位置にて設けており, その存在を明確にするために, 打継ぎ目には塩ビ製の薄いシートを挿入し, あらかじめ縁が切れた状態としている 既設部において, 打継ぎ目より下のく体を既設部下部, 打継ぎ目より上のく体を既設部上部と呼ぶこととする また, 一体化の影響についてもジベル筋の有無による効果を明確にするために, ジベル筋以外の接触面における付着の影響を排除した 今回の試験体では, 既設部周囲に塩ビ製の薄いシートを巻きたてた後, 補強部を打設している 既設部打設後の状況と, 補強部施工前の 状況をそれぞれ写真 -2,3 に示す ジベル筋については, せん断摩擦理論に基づいた既往の検討例 2)3) を参考に, 式 (1) より求まる必要量以上を図 -1,2 に示すように配置した V A vf = (1) f µ gy ここに,A vf : 必要アンカージベル鉄筋量 (mm 2 ) V : 既設部と補強部との間に働くせん断力 V=A s f sy ここに,A s : 追加した軸方向鉄筋量 (mm 2 ) f sy : 追加した軸方向鉄筋の引張降伏強度 f gy : アンカージベル鉄筋の引張降伏強度 µ: 摩擦係数 (.7) また, 今回の試験体では, 軸方向鉄筋の定着

の影響は考慮しないため, 補強部の軸方向鉄筋の定着は, フーチングへのあと施工アンカーとせず, あらかじめ十分な定着長を有した状態で配置し, フーチング部のコンクリートと一緒に打設している 塩ビ製シートジベル筋ゲージ 15φ 以上 軸方向鉄筋 ( 補強部 ) 直角フック 2.2 載荷方法及び計測項目試験体を載荷試験装置にセットした状況を写真 -4 に示す 鉛直ジャッキはスライド装置により, 水平ジャッキの押し引きに対応して動くことができ, 載荷中一定の軸力を保持できる 今回の試験における軸圧縮応力は, 現存する無筋橋脚の諸元から.2N/mm 2 とした 載荷手順は, 引張側の軸方向鉄筋のひずみ測定値が材料実験の結果から求まる降伏ひずみに達するまで載荷し, その変位を 1δとする 以降, その整数倍を変位制御にて正負交番載荷した 計測項目は, 載荷点の荷重および変位のほか, ワイヤーストレインゲージによる軸方向鉄筋 帯鉄筋 ジベル筋の各ひずみ値と, 変位計による水平変位 (1D 位置 (D: 補強後断面高さ ) と既設部打継ぎ目位置の上下 ) とした 載荷点高さとジベル筋のゲージ貼付箇所を図 -1 に示す 3. 試験結果および考察 3.1 試験結果表 -3 に正側載荷時の試験結果を示す 表中における計算値とは, 既設部と補強部の付着の影響等は考慮せず, 補強後の一体断面の RC と仮定し, 鉄道標準 4) により算出した値である 両試験体を比較すると, ジベル筋を配置した方が, 降伏変位は小さい値となった これは, 変位量に対しての既設部と補強部との力の伝達能力による影響で, ジベル筋を配置した方が同じ変位量において力の伝達能力が高いことによるものと思われる また, 計算値との比較においては, ジベル筋を省略した試験体の降伏荷重が若干小さめとなったが, 他は計算値以上という結果であった 試験体名 図 -2 ジベル筋の配置略図 写真 -4 載荷状況 (RC-S-1) 降伏変位 既設部 表 -3 載荷試験結果 実験値 降伏荷重 補強部 最大荷重 降伏荷重 計算値 最大荷重 RC-S-1 9.5 4.4 46.5 413.8 433.5 RC-S-2 7.3 426.4 57.1 417.8 439.3 3.2 荷重 - 載荷点変位履歴補強した試験体の荷重 - 載荷点変位の関係を図 -3,4 にそれぞれ示す RC-S-1 は, ジベル筋を省略した試験体である 2δ( 部材角 1/75) で最大荷重に到達後,5δ( 部材角 1/3) まで荷重を維持し, その後は急激に荷重が低下している RC-S-2 は, ジベル筋を配置した試験体である 2δ(RC-S-1 と比べ, 降伏変位が小さいため, 部材角は 1/136) で最大荷重に到達した 9δ( 部材角 1/3) まで荷重を維持し, その後は緩やかに荷重低下となっている

Load 6 4 2-2 -1 1 2-2 -4-6 Disp 図 -3 荷重 - 変位関係 (RC-S-1) 3.4 試験体の損傷状況 (1) RC-S-1 初期ひび割れは, フーチングと橋脚く体の境界面に発生し, その後, 曲げ引張りを受ける面 ( 以降, ここでは引張面と呼び, 曲げ圧縮を受ける面を圧縮面と呼ぶこととする ) については, 水平方向のひび割れがく体基部から順に上方に発生した 載荷面における曲げひび割れの間隔はおよそ 1mm ピッチで, 断面長辺側の端部付近では橋脚く体基部に向かうように下側に向かって発生した 1δ( 部材角 1/15) 終了の時点では, 引張面は, 基部から載荷点 2mm 下の位置までひび割れが発生していた また, 側面については, 斜めひび割れが発生していた 1δ 終了時点のひび割れ状態を図 5 に示す 2δ( 部材角 1/75) 載荷時には, 側面において, 載荷点位置から基部圧縮縁に向かう斜めひび割れが発生した また, 斜めひび割れ本数が 1δ 時よりも多くなった 3δ( 部材角 1/5) 載荷時には, 引張面で橋脚く体軸方向の縦ひび割れの発生と圧縮面でのコンクリート圧壊が発生した 最大荷重は,5δ( 部材角 1/3) まで維持したが, 載荷側面における, 載荷点から基部圧縮縁に向かう斜めひび割れ幅の増大により, 急激に荷重低下となった 6δ 正側載荷時の状況を写真 5 に示す 試験終了後, く体基部から既設部の打継ぎ目位置付近までの補強部の撤去を行い, 既設部の損傷状態の確認を行ったところ, 打継ぎ目を含 Load 6 4 2-2 -1 1 2-2 -4-6 Disp 図 -4 荷重 - 変位関係 (RC-S-2) め, 既設部のコンクリートはほぼ無損傷状態であった ( 写真 6) (2) RC-S-2 1δは RC-S-1 と同様, 初期ひび割れは, フーチングと橋脚く体の境界面に発生し, その後の発生状況についても RC-S-1 とほぼ同様であったが, ひび割れ本数は RC-S-1 に比べて少なかった 1δ 終了時点のひび割れ状態を図 6 に示す 2δ 載荷時に, 側面において, 載荷点位置から基部圧縮縁に向かう斜めひび割れが発生した その後, 損傷状態に大きな変化はなく, 載荷点荷重も, 最大荷重付近で推移していったが,8 δ( 部材角 1/34) 載荷時から, 軸方向鉄筋のはらみ出しが始まり, かぶりコンクリートの剥落とともに荷重も緩やかな低下傾向となった さらに載荷を進めると, く体基部から1D 範囲の損傷が集中していったが,16δ( 部材角 1/17) くらいから損傷範囲が徐々に載荷点に向かい上がっていった 補強部かぶりコンクリートの剥落の進行により, 既設部のく体を目視することができたが, 載荷中に確認できた範囲では, 既設部く体の損傷はほとんど見られなかった 25 δ( 部材角 1/11) 載荷時の状況を写真 7 に示す 3δ( 部材角 1/9) 正側載荷時に, 軸方向鉄筋 1 本破断し, その後荷重低下となったことから, 試験終了とした 試験終了後, 補強部の撤去を行い, 既設部の状態を確認したところ,RC-S-1 同様, 既設部く体の損傷はほとんど見られなかった ( 写真 8) ここで, 既往の研究 5) を参考に, 一般的な RC 構造 ( く体の配筋は, 軸方向鉄筋 + 帯鉄筋で,

正側載荷引張面 正側載荷引張面 図 -5 1δ 終了時ひび割れ略図 (RC-S-1) 図 -6 1δ 終了時ひび割れ略図 (RC-S-2) 正側載荷引張面 正側載荷引張面 側面 写真 -5 6δ 正側載荷時 (RC-S-1) 側面 写真 -7 25δ 正側載荷時 (RC-S-2) 正側載荷引張面写真 -6 試験終了状況 (RC-S-1) く体コンクリートは一体で打設 ) の柱試験体における損傷状況と比較すると, せん断補強鉄筋量が多く, せん断破壊とならないものにおいては,1D 範囲に損傷が集中し, ひび割れは, 軸方向鉄筋より内部のコンクリートにまでおよぶ損傷状態となる それに対し, 今回の試験体においては, 周りの補強部にはひび割れが多く発生するが, 内部となる既設部については, 基部以外に曲げ等のひび割れが発生していなかった これは, 補強部と既設部の縁が切れていることで, 応力が伝達しないため, ひび割れが内部まで進行しなかったためと思われる 3.5 ジベル筋の有無による影響図 7 に各試験体の正負平均をとった載荷点 正側載荷引張面写真 -8 試験終了状況 (RC-S-2) 荷重 変位曲線の包絡線を示す 両試験体とも最大荷重を維持する変位量については 5mm 程度で, ほぼ同じであるが, その後, ジベル筋を配置した RC-S-2 については, 荷重が緩やかに低下する傾向であるのに対して, ジベル筋を省略した RC-S-1 については急激な荷重低下となっている 本試験の結果からは, 打継ぎ部が弱点となる無筋橋脚の RC 巻き補強において, ジベル筋を配置することによりじん性能が向上するということが確認できた ジベル筋の有無は, 既設部と補強部との力の伝達に影響しており, ジベル筋を省略した試験体では, 変位量に対しての力の伝達能力は小さいと思われる 今回の試験体は, 巻いた補強方法であることから, ある損傷まではジベル筋の

Load 6 5 4 3 2 1 RC-S-1 RC-S-2 5 1 15 2 Disp 図 -7 載荷点荷重 変位曲線の包絡線 Strain(μ) 7 6 5 4 3 2 1-2 -1 1 2-1 Disp 図 -8 載荷点変位 ジベル筋ひずみ関係の例 有無による影響は表れにくいが, 補強部の損傷が進み, 損傷が集中する箇所の相違が変形挙動に影響したと思われる 3.6 ジベル筋のひずみ状況ジベル筋の載荷時ひずみ状況の例として, 正側載荷時引張面の, く体基部から 98mm 高さ ( 打継ぎ目 (75mm) よりも 23mm 上部 ) の位置に配置したジベル筋の結果を図 -8 に示す ゲージの貼付箇所は, 図 -3 に示すように既設部と補強部の境面位置における側面とした 図より, 変位量が 8mm を超えた付近から急激にひずみが生じていることが分かる 当該箇所は打継ぎ目より上部位置であり,RC-S-2 は, 前述の損傷状況でも述べたように,16δ( 変位量 =88mm, 部材角 1/17) くらいから損傷範囲が徐々に載荷点に向かい上がっていったことから, く体下部の損傷が進行することにより, く体上部に配置したジベル筋の負担荷重が大きくなるものと考えられる た試験体の静的正負交番載荷試験により得られた知見を以下に示す (1) ジベル筋の有無による比較では, ジベル筋を配置した試験体の方が降伏変位は小さめの値となった また, 最大荷重については, 両試験体とも計算値以上であった (2) 破壊形態を比較すると, ジベル筋を配置した試験体は, 基部に損傷が集中し, 緩やかな荷重低下となったが, ジベル筋を配置しない試験体は載荷方向側面の斜めひび割れが卓越し, 急激な荷重低下となった (3) 本実験においては, ジベル筋の配置にかかわらず, 試験終了後の既設部を確認したところ, 基部以外の損傷はほとんど見られなかった これは, 既設部と補強部の縁が切れていることから, 応力の伝達をしないことによるものと思われる 参考文献 1) ( 社 ) 日本鉄道施設協会 : 鉄道地震対策の研究報告書, 昭和 6 年 3 月 2) 古谷ら : レンガ造及び無筋コンクリート造橋脚の鋼板巻き補強に関する実験的研究, 土木学会第 41 回年次学術講演会,V-72,pp143-144, 昭和 61 年 11 月 3) ( 財 ) 鉄道総合技術研究所 : レンガ 石積み, 無筋コンクリート構造物の補修, 補強の手引き, 昭和 62 年 9 月 4) 運輸省鉄道局監修, 鉄道総合技術研究所編 : 鉄道構造物等設計標準 同解説コンクリート構造物, 丸善,24 年 4 月 5) 石橋忠良, 津吉毅, 小林薫, 小林将志 : 大変形正負交番載荷を受けるRC 柱の損傷状況及び補修効果に関する実験的研究, 土木学会論文集,No.648/Ⅴ-47,pp.55-69,2.5 4. まとめ打継ぎ目を有する無筋橋脚を RC 巻き補強し