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Transcription:

科学技術と日本の将来 燃料と食料の架け橋 - 稲わらのバイオエタノール - 神戸大学 農学部 資源生命科学科 4 年 藤田 このむ はじめに国連が 持続可能な開発目標 (SDGs=Sustainable Development Goals) を提起した [1] 持続可能な社会とはなんだろう 筆者は自身の研究分野の立場から いつまでも農業を続けられる社会 だと考える 農業を続けるためには 燃料という側面からのアプローチが必要である 筆者はコメを生産する兼業農家の娘である 幼少時からお手伝いに励んできた しかしそこで見ていたのは イネ ではなく あくまで食料としての コメ だった 稲わら はイネの全体重の半分を占める 筆者はそれを見過ごしてきたのだ そして現代の社会も筆者同様 稲わら という存在を見過ごしているのではないだろうか 近年 育種 機械 微生物分野の研究の進展により 稲わらはバイオエタノールの原料になると注目されている 稲わらが燃料になれば 食料と燃料の両立が可能になるのである 本稿では再生可能エネルギーの 1 つであるバイオエタノールに注目し その現状 問題点を考察する そして コメの収量と稲わらのバイオエタノール収量の両立品種を普及させることが 日本の再生可能エネルギーの発展ひいては いつまでも農業を続けられる社会 の実現に寄与することを提示する 1 章現状 -バイオエタノールについて- バイオエタノールと一口に言っても その種類は多い 1970 年代 化石燃料の枯渇により新しい燃料が求められた この時 登場したのが第 1 世代バイオエタノールである これは植物の可食部を利用したバイオエタノールである 代表的な原料がトウモロコシ サトウキビであり アメリカおよびブラジルで今なお大量に生産されている 製造法は図 1 に示す 糖質やデンプン質を原料とするため 単純な工程でバイオエタノールの生産が可能である しかし これらは食料との競合が懸念されている そこで紹介したいもう一つのバイオエタノールが 第 2 世代バイオエタノールである 原料は稲わらや木質バイオマスなどといった植物の非可食部である これらは食料との競合が起きない また 第 2 世代バイオエタノールの原料は副産物的に得られるものであるが その量は主産物の量と同程度もしくはそれ以上であることもポイントである 図 2 を見てもらいたい これは 2017 年に兵庫県

加西市で栽培された良食味コメ品種であるコシヒカリ 20 個体の稲わらの乾燥重と稲穂の乾燥重をプロットしたものである ( 筆者作成 ) 稲穂重と稲わら重が等量であることを示す赤い直線にプロットが近いことが分かる これは 食料である コメ に対して ほぼ同量の 稲わら が収穫されていることを示す また 稲に着目すると 周知の通り それは日本人の主食である 農林水産省が示す 平成 29 年耕地面積 によると [2] 耕地面積における田の割合は 54% に上る これだけ収穫されている稲わらを 燃料として有効活用しない手はないのである 2 章問題 - 稲わらのバイオエタノールは何が問題か- 稲わらのバイオエタノール化の問題点として挙げられるのが 処理の難しさとコストである 稲わらは第 1 世代バイオエタノールに比べて 原料の構造が複雑である トウモロコシの可食部の硬さと稲わらの硬さを想像してもらうと その比較は容易だろう 稲わらのバイオエタノール化では 図 1 に示す通り 前処理という特別な工程を必要とする 前処理を通して 稲わらからバイオエタノール化に必要なセルロースを取り出すのである ここでは大きなエネルギーを必要とし いかに省エネルギーで前処理を行えるかが稲わらのバイオエタノール化のポイントになるが その研究はまだ途上段階である また 現在の日本のバイオエタノールの実態は 地域にひとつのプラントというのが通常である これでは稲わらの輸送に燃料や人件費などのコストがかかってしまい 効率的にエネルギー生産ができるとは言い難い そして 稲わらを多く収穫できる飼料用米品種の採用が主流で 食料との両立は実現できていない 3 章提案 - 稲わらのバイオエタノールが実現する社会の提案 - 筆者は稲わらのバイオエタノールを軸として以下のプランを提案する (1) 新品種の育成バイオエタノール収量とコメ収量の両立を目指す新品種の育成を進めることを提案する 先述の通り 以前までは食料と燃料の両立はできていなかった しかし 現在それを乗り越える品種の育成が進んでいる 筆者は 2017 年 両立を目指す系統の栽培 収穫および実験を行った バイオエタノールの収量というのは 稲わらにおけるグルコースの濃度を測定することで比較可能である 図 3 を見てもらいたい コメ収量とバイオエタノール収量の両立を目指す系統 KRB3F3 は燃料として期待できると言える そして図 4 の玄米の様子を見ると KRB3F3 の見た目が食用米に近づいていることが分かる バイオエタノール収量とコメの収量の両立を目指す新品種育成は今後も続ける必要がある (2) エネルギー兼業農家と稲わらのバイオエタノール 近年 エネルギー兼業農家という考え方が浸透しつつある 農家が新たな兼業収入を得る 機会として自らエネルギーを作るというものである 具体的には耕作放棄地を利用した太

陽光発電や ソーラーシェアリング あるいは牛糞や生ごみを使った畜産バイオマス発電などである [3] このエネルギー兼業農家という考え方を稲わらのバイオエタノールで実践するのである そのために 農家単位で準備できるコンパクトなバイオエタノール製造機を開発し 前処理での省力化を狙って 有望な微生物の調査を進めていく必要がある 農家単位で稲わらのバイオエタノール化を実践し 得た燃料で自身が使用する機械を動かす そしてそれを社会に発信していくことまでを筆者は提案したい 具体的には 近年注目を浴びている食育や農業教育に着目する 小学生の農業体験や農家訪問で 農家という小さな単位でもエネルギーが生産されていることを教えていくのである 稲わらのバイオエタノールを看板として バイオエタノールについて考えるきっかけやその素晴らしさ 難しさを考えるようになってほしいのである 4 章期待 -どう発展し どんな社会を目指すのか- 筆者は稲わらのバイオエタノールが 単なる燃料としての役割以上のものがあると考えている バイオエタノールといえばトウモロコシ サトウキビという固定概念が大きい しかし稲わらでもそれが可能であることを示し 日本の農業スタイルにあった形でバイオエタノールを推進していく足掛かりになることを期待している 農業という一般的には遅れたイメージのある産業から再生可能エネルギーを提示することで社会に多様性を示すことができるだろう 燃料と食料をつなぐ存在になる稲わらを 一部の農家の燃料生産と利用にとどめるのではもったいない そのスタイルを人々に周知するツールとしても有効活用していくべきである おわりに本論文執筆を通して バイオエタノールは農業と燃料の架け橋になるのだと強く実感した 現代社会では 燃料は工学分野の専門だと考えられがちである しかし 稲という日本人にとてもなじみのある植物から燃料を生産できることは 日本の将来の科学技術を考える上でとても重要になる 本来 科学技術に農業や工業の境界はなく 進歩する科学技術によって人々の生活が改善されることが第一に求められているのである 農業分野から科学技術を支えていく必要性と重要性を考える機会を下さった本論文コンクールの主催 後援 協賛の方々には感謝申し上げたい また 本論文で使用したデータは神戸大学附属食資源教育研究センターで収穫したイネを元に測定された 広大な土地と資源を提供してくださったセンターにも感謝申し上げたい 稲わらのバイオエタノールが 将来の日本の科学技術をさまざまな面でつなぐ架け橋になり いつまでも農業を続けられる社会 に貢献できることを願って 本論文のまとめとしたい

図表のまとめ 50 20.00 わら重 (g) 40 30 20 10 < 平均 > 穂重 < 平均 :32.8g > わら重穂重 :28.4g :32.8 15.00 10.00 5.00 0 0 10 20 30 40 50 穂重 (g) 図 2 わら重と穂重の関係 ( コシヒカリ ) 0.00 コシヒカリルリアオバ KRB3F3 図 3 稲わら中のグルコース濃度 (g/l) ( 筆者作成 ) ( 筆者作成 ) 従来の原料になっ ていた飼料用品種 ルリアオバ 良食味米品種 コ シヒカリ コメ収量とバイオエタ ノール収量の両立を目 指す系統 KRB3F3 図 4 玄米の様子の違い ( 筆者作成 )

参考文献 [1] 現代用語の基礎知識 2018 自由国民社 2018 年 p. 399 [2] 農林水産省 平成 29 年耕地面積 (2018 年 7 月 15 日現在 ) http://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/menseki/h29/kouti/index.html ( 参照日 :2018 年 2 月 14 日 ) [3] 現代用語の基礎知識 2018 自由国民社 2018 年 p. 675