PT 調査データを用いた乳幼児を持つ女性の交通行動特性に関する研究 辰巳浩 1 堤香代子 2 香口恵美 3 1 正会員福岡大学教授工学部社会デザイン工学科 ( 814-0180 福岡市城南区七隈 8-19-1) E-mail: tatsumi@fukuoka-u.ac.jp 2 正会員福岡大学助教工学部社会デザイン工学科 ( 814-0180 福岡市城南区七隈 8-19-1) E-mail: kayoko@fukuoka-u.ac.jp 3 正会員エイコー コンサルタンツ株式会社 ( 815-0031 福岡市南区清水 1-14-20) E-mail: kohguchi@eiko-con.co.jp 本研究は, 交通の視点からみた少子化対策を模索するため, 乳幼児を持つ女性の交通行動特性を把握することを目的とする. 分析には第 4 回北部九州圏パーソントリップ調査データを使用し,1) 乳児を持つ女性,2) 幼児を持つ女性,3) 小学生以上の子供を持つ女性または子供を持たない女性の 3 グループに分類し, 外出率, 生成原単位, 代表交通手段, トリップ長, トリップ時間について比較を行った. その結果,3 グループ間には統計的に有意な差があることが明らかとなり, 特に乳幼児を持つ女性は公共交通機関の分担率が低く, マイカーへの依存度が高いことがわかった. さらに, 交通手段選択について, 非集計ロジットモデルによるパラメータ推定を行い, ここでも乳幼児を持つ女性がその他の女性に比してマイカーに依存する傾向が強いことを明らかにした. Key Words : infant or toddler, women, travel behavior, person trip survey, disaggregated analysis 1. はじめにわが国は,1975 年に合計特殊出生率が2を下回り, 以来, 人口置換水準を下回る状況が続き, 少子化問題が深刻化している. そこで, 育児休業制度の創設や保育所の充実など様々な子育て環境向上策が講じられてきたが, 2010 年における合計特殊出生率は1.39と未だ十分な成果が得られていないのが実情である. これまでの主な少子化対策としては, 女性が働きながら子育てしやすいよう支援するものや, 子育てにかかる費用負担を軽減する施策などが挙げられるが, 交通分野での少子化対策はほとんど行われていない. 近年, 人にやさしい交通 への取り組みに力が注がれているが, その対象は高齢者や身体障がい者であり, 高齢者や身体障がい者と同様, 健常者の移動に比して物理的, 精神的制約を受ける乳幼児連れの人々の移動に対する支援については, 未だ十分な取り組みがなされていないのが実情である. こうしたことから, 交通分野においても乳幼児を持つ人々の支援策について検討し, 少子化問題解消の一助とすることは大きな意義があるといえよう. ここで, 本テーマに関する既往研究についてみると, その実績は乏しく, 分析対象地についても関東, 関西の大都市圏に偏っているのが実情である 1)~6). 大都市圏では, 公共交通が発達している反面, 道路の渋滞や駐車場不足のため, 日常の交通手段としてマイカーを利用する割合はさほど高くなく, 乳幼児連れの人々についても, 抵抗感を感じながらも公共交通を利用する割合が比較的高い状況にある. このような状況においては, 乳幼児連れの人々が公共交通を利用する際の抵抗感を軽減するための施策を検討する必要があり, 既往研究ではこうした課題を取り扱うものが多い. 一方, 地方都市においてはマイカーへの依存度が高く, 乳幼児連れの人々の移動支援策について検討する上で, 公共交通利用時のみを対象とするだけでは不十分であると考えられる. そこで本研究では, 地方都市における乳幼児連れの人々の移動支援策を模索するため, その交通行動特性を把握することを目的とする. 具体的にはPT 調査データを用い, 乳幼児を持つ女性と持たない女性の交通行動の相違について分析する. 分析は, 外出率, 生成原単位, 代表交通手段, マストラ分担率, トリップ長, トリップ時間について比較し, さらに交通手段選択行動について,
非集計ロジットモデルによるパラメータ推定を行い, 乳幼児を持つ女性の特性を明らかにすることを試みた. 2. 使用データの概要本研究では,2005 年に実施された第 4 回北部九州圏 PT 調査データを用いて分析を行った. 調査対象地域は, 福岡県のほぼ全域と佐賀県鳥栖市, 基山町からなる26 市 50 町 1 村である. 本調査では, 各トリップにおいて乳幼児を連れているか否かの質問項目はない. そこで, 分析対象を女性に限定し, 乳幼児を持つ女性の多くが属する20 歳 ~44 歳のデータを抽出し, 分析に用いた. また, 子供の種類については, 乳児(2 歳以下 ), 幼児(3~5 歳 ), 小学生以上(6 歳以上 ) または子供なし ( 次章以降では その他 とする ) の3 種類に分類して比較を行った. ここで, 複数の子供を持つ場合は, 最も年下の子供の年齢により分類した. 小学生以上の子供を持つ女性と子供を持たない女性をひとつのカテゴリーとした理由は, PT 調査は平日の調査であることから, 小学生以上の子供は昼間は学校に行っており, 母親が交通行動を起こす際に子供を同伴していないことが多いと考えられ, その結果, 子供を持たない女性と概ね同様の交通行動であったためである. なお, 乳幼児を持つ女性についても, 通勤や業務目的など子供を同伴しないトリップが含まれていると考えられる. そこで, トリップベースである代表交通手段, マストラ分担率, トリップ長, トリップ時間の分析については, 私用目的のみを対象とすることにより, こうしたケースを排除している. 3. 北部九州圏全域における交通行動特性 (1) 外出率図 -1は各ゾーンにおける外出率の平均値を子供の種類別に示している. 図より, 乳児を持つ女性は外出率が低いことがわかる. その理由として, 育児に手間がかかり, 外出できないケースが他の2 者に比して多いことが考えられる. 一方, 幼児を持つ女性はその他の女性とさほど違いがない結果となったが, その理由として, 幼稚園や保育園に行くケースが多く, その送迎などで外出する機会が多いことが考えられる. ここで,3 者について検定 ( 有意水準 5%, 以下同様 ) を行った結果, 乳児は他の2 者に対して有意差が認められたものの, 幼児とその他では有意差は認められないと判定された. 外出率については, 職業の有無により大きな違いがあ 率(率(84.4 77.9 86.1 84.8 外 8 出 6 %)4 2 図 -1 外出率 ( 北部九州圏全域 ) 94.0 94.3 93.9 94.0 10 外 8 出 8 69.1 71.7 67.0 6 有職者 %)4 無職者 2 生成 0 原単 2.00 位 図 -2 職業の有無別の外出率 ( 北部九州圏全域 ) 0 2.74 3.22 3.65 2.61 図 -3 生成原単位 ( 北部九州圏全域 ) ると考えられる. そこで, 職業の有無別の外出率を表すと図 -2に示すとおりである. 有職者についてみると, 子供の種類による差は小さく, いずれの外出率も高いことがわかる.3 者について検定を行った結果, いずれの組み合わせも有意差はないと判定された. また, 無職者についてみると, 幼児を持つ女性の外出率が最も高く, 次いで乳児, その他の順となっている. 3 者について検定を行った結果, 乳児とその他のグループ間には有意差がないと判定され, 乳児と幼児, 幼児とその他のグループ間には有意差があると判定された. (2) 生成原単位子供の種類別の生成原単位 ( ネット ) は図 -3に示すとおりである. 図より, 幼児を持つ女性が最も大きく, 次いで乳児を持つ女性となっており, いずれもその他の女性よりも大きいことがわかる. その理由として, 乳児の場合は外出率が低いことから, 外出する日にまとめて用件を済ませていることが考えられる. また, 幼児については, 幼稚園や保育園への送り迎えなどが含まれていることがその理由として挙げられる. ここで,3 者について検定を行った結果, いずれの組み合わせについても有意差があると判定された.
生成原単位 0 2.00 0 3.32 3.64 3.66 2.95 3.17 2.64 2.55 2.77 有職者無職者 図 -4 職業の有無別の生成原単位 ( 北部九州圏全域 ) 17.8 率( 2 4 6 8 10 (%) 全体 10.4 64.8 3.4 3.6 分 2 担 7.0 8.9 1 2.7 2.5 %) 乳児 23.3 6.7 67.3 1.6 1.0 幼児 15.7 11.4 70.4 1.5 1.0 その他 17.3 10.8 6 4.24.7 徒歩二輪車 自動車 バス鉄道 図 -5 代表交通手段分担率 ( 北部九州圏全域 ) マ 5 ス 4 トラ 3 図 -6 マストラ分担率 ( 北部九州圏全域 ) 図 -4は職業の有無別の生成原単位を示している. 有職者, 無職者ともに幼児, 乳児, その他の順となっており, その傾向は概ね同様であるといえる. また, 検定の結果, 有職者, 無職者いずれのグループについても, 乳児, 幼児, その他の3 者間には有意差が認められる結果となった. (3) 代表交通手段図 -5は子供の種類別の代表交通手段を表している. 図より, 乳児, 幼児, その他のいずれも自動車の分担率が高く, バスや鉄道の分担率が低いことがわかる. このように, 地方都市においては, 子供の種類にかかわらず, 車に依存する傾向が強い. 子供の種類別にマストラ分担率を表すと図 -6に示すとおりである. 図より, いずれの分担率も低いが, 特に乳児と幼児の分担率が低い. このことから, 乳幼児を持つ女性はその他の女性に比して自動車に依存する傾向がさらに強いといえる. なお, 子供の種類別のマストラ分担率について検定を行った結果, 乳児と幼児の間に有意差は認められず, 乳児とその他, 幼児とその他の間には有意差が認められる結果となった. 平 5.0 4.08 1 3.78 均 4.0 3.24 8.0 標 1 距準 6.0 6.7 7.2 偏離(2.0 5.7 4.0 差 k 4.8 1.0 2.0 m ) 図 -7 トリップ長 ( 北部九州圏全域 ) 平 3 31.3 27.4 28.4 3 均 16.94 18.20 標所 2 13.66 14.34 2 準要偏時 1 1 差間(12.3 分) 図 -8 トリップ時間 ( 北部九州圏全域 ) (4) トリップ長子供の種類別にトリップ長の平均値と標準偏差を求めると図 -7に示すとおりである. 図より, 乳幼児を持つ女性のトリップ長の平均はその他の女性に比して短いことがわかる. このことから, 乳幼児を持つ女性の行動範囲はその他の女性に比してやや狭いといえる. なお,3 者について検定を行った結果, 乳児と幼児の間に有意差は認められず, 乳児とその他, 幼児とその他の間には有意差が認められる結果となった. (5) トリップ時間図 -8は子供の種類別のトリップ時間の平均値と標準偏差を示している. 図より, トリップ長と同様, 乳幼児を持つ女性のトリップ時間の平均はその他の女性に比して短いことがわかる. なお,3 者について検定を行った結果, ここでも乳児と幼児の間に有意差は認められず, 乳児とその他, 幼児とその他の間には有意差が認められる結果となった. 4. 公共交通が利用可能なゾーンおよび OD ペアにおける交通行動特性 北部九州圏では, 事実上公共交通がほとんど利用できない地域も多い. そこで次に, 公共交通が利用可能なゾーン (Cゾーン) およびODペアを抽出し, 交通行動特性分析を行った. ここでは, マストラ分担率が20% 以上の場合を 公共交通が利用可能 と定義した. こうした定義に基づき, ゾーンおよびODペアの絞り込みを行った結果, 外出率および生成原単位の分析対象として220
率(84.3 77.6 84.6 84.8 外 8 出 6 %)4 2 94.1 94.1 93.5 94.2 生成原単位 0 2.00 0 3.23 3.60 2.70 2.58 図 -9 外出率 ( 公共交通利用可能ゾーン ) 図 -11 生成原単位 ( 公共交通利用可能ゾーン ) 10 外 69.1 71.8 78.6 出 8 67.1 率(6 有職者無職者 %)4 2 生成原単位 0 2.00 0 3.41 3.64 3.56 2.90 3.15 2.60 有職者無職者 2.52 2.73 図 -10 職業の有無別の外出率 ( 公共交通利用可能ゾーン ) ゾーンが抽出され, 代表交通手段, マストラ分担率, トリップ長, トリップ時間の分析対象として493ODペアが抽出された. (1) 外出率図 -9は各ゾーンにおける外出率の平均値を子供の種類別に示している. 図より, 北部九州圏全域と同様, 乳児を持つ女性の外出率が他の2グループに比してやや低いことがわかる.3 者について検定を行った結果, 乳児は他の2 者に対して有意差が認められたものの, 幼児とその他では有意差は認められないと判定された. 図 -10は職業の有無別の外出率を示している. 有職者では, 子供の種類による差は小さく, 乳児, 幼児, その他のいずれの外出率も高い. また, 無職者についてみると, 幼児を持つ女性の外出率が最も高く, 次いで乳児, その他の順となっている. これらの結果は, 北部九州圏全域と同様である. ここで,3 者について検定を行った結果, 有職者では, いずれの組み合わせも有意差はないと判定された. また, 無職者については, 乳児とその他のグループ間には有意差がないと判定され, 乳児と幼児, 幼児とその他のグループ間には有意差があると判定された. (2) 生成原単位子供の種類別の生成原単位は図 -11に示すとおりである. 図より, 幼児が最も高く, 次いで乳児, その他の順となっており, 北部九州圏全域の結果と同様である. ここで,3 者について検定を行った結果, いずれの組み合わせについても有意差があると判定された. 図 -12 職業の有無別の生成原単位 ( 公共交通利用可能ゾー ン ) 2 4 6 8 10 (%) 全体 7.57.0 42.0 21.5 22.0 乳児 10.2.8 64.8 11.7 10.5 幼児 10.14.1 64.4 11.6 9.8 その他 6.97.8 37.3 23.6 24.5 徒歩二輪車自動車バス鉄道 図 -13 代表交通手段分担率 ( 公共交通利用可能 ODペア ) 図 -12は職業の有無別の生成原単位を示している. 有職者と無職者の傾向は同様であり, 幼児, 乳児, その他の順となっている. この結果についても北部九州圏全域と同様である. また, 検定の結果, 有職者, 無職者いずれのグループについても, 乳児, 幼児, その他の3 者間には有意差が認められる結果となった. (3) 代表交通手段図 -13は子供の種類別の代表交通手段を表している. 図より, 乳幼児を持つ女性は待たない女性に比して自動車の分担率が高く, 公共交通の利用が可能な環境であってもバスや鉄道の分担率が低いことがわかる. このことより, 乳幼児を持つ女性はマストラを敬遠し, マイカーに依存する傾向がその他の女性に比して強いといえる. そこで子供の種類別にマストラ分担率を表すと図 -14に示すとおりである. 検定を行った結果, 乳児とその他, 幼児とその他のグループ間には有意差があると判定され, 乳児と幼児については有意差はないと判定された.
マ 43.5 48.1 5 ス 4 トラ 3 22.2 21.4 分 2 担 1 率( %) 図 -14 マストラ分担率 ( 公共交通利用可能 ODペア ) 離(4.67 4.68 4.63 4.68 平 5.0 5.0 均 4.0 4.0 標距準 3.5 3.7 3.6 偏 2.0 2.0 差 m ) k 1.0 1.0 図 -15 トリップ長 ( 公共交通利用可能 ODペア ) 間(分)平 3 25.30 25.99 22.01 21.99 3 均標所 2 2 準要偏時 1 16.4 18.1 14.9 16.2 1 差 図 -16 トリップ時間 ( 公共交通利用可能 ODペア ) (4) トリップ長子供の種類別にトリップ長の平均値と標準偏差を求めると図 -15に示すとおりである. 図より, 乳児, 幼児, その他の平均値は概ね同程度であることがわかる. このことから, 公共交通の利用が可能な利便性の高い地域では, 乳幼児を持つ女性の行動範囲はその他の女性と同様であるといえる. ここで, 検定を行った結果,3 者の間には有意差はないと判定された. (5) トリップ時間図 -16は子供の種類別のトリップ時間の平均値と標準偏差を示している. 図より, 乳幼児を持つ女性はその他の女性に比してトリップ時間がやや短いことがわかる. 前節の分析より, トリップ長については3 者に大きな違いはないことから, 乳幼児を持つ女性はその他の女性に比して移動を短時間で済ませたいという意識が強いといえる. 本研究の対象地域では, 一般的にマストラよりもマイカーでの移動の方が所要時間が短く, 図 -13において乳幼児を持つ女性の自動車の分担率が高いことと照らし合わせても妥当な結果であるといえる. なお, 検定を行った結果, 乳児および幼児とその他のグループとの間には有意差があると判定され, 乳児と幼児については有意差が認められないと判定された. 選択肢固有ダミー 選択要因 共通変数 選択肢固有変数 表 -1 パラメータ推定結果 説明変数 モデル1 モデル2 モデル3 パラメータ t 値パラメータ t 値パラメータ t 値 自動車 -1.387-8.339-1.512-8.822-1.512-8.821 バス -0.497-4.107-0.499-4.104-0.499-4.105 鉄道 (JR: 新幹線 在来線 ) -1.800-7.657-1.780-7.573-1.780-7.573 時間 ( 分 ) -03-0.441-04 -0.553-04 -0.551 料金 ( 円 /km) -04-2.086-04 -2.025-04 -2.027 乗換回数 ( 回 ) -0.156-1.352-0.164-1.406-0.164-1.408 便数 ( 本 / 日 ) 01 3.139 01 3.248 01 3.245 自由に使える車の有無 2.440 14.510 2.352 13.806 2.352 13.808 乳幼児の有無 1.058 4.355 乳児の有無 1.040 81 幼児の有無 1.074 3.313 ODペア数サンプル数 255 866 的中率尤度比 57.968 0.208 57.968 0.217 57.968 0.217 5. 交通手段選択モデルによる分析 本研究では, 交通手段選択について非集計ロジットモデルによるパラメータ推定を行い, 乳幼児の有無が交通手段選択に及ぼす影響について分析した. ここでは, 前章の分析で用いたODペアのうち, マイカー, バス, 鉄道のいずれかを利用し, かつ福岡市を着ゾーンとするトリップのみを用いて分析を行った. 選択肢は, マイカー, バス ( 高速バスは除く ), 鉄道 1(JR: 新幹線および在来線 ), 鉄道 2( 市営地下鉄, 私鉄 ) とした. ここで, 鉄道 1の新幹線については, 博多 - 博多南間の利用を対象としており, すなわち,JR 在来線と同様の利用形態である. パラメータ推定結果は表 -1に示すとおりである. モデル1は, 説明変数として 時間, 料金, 便数, 自由に使える車の有無 を採用している. 概ね良好な尤度比が得られており, パラメータの符号についても妥当な結果となっている. モデル2および3は, モデル1の選択肢に加え, 乳児の有無ダミー および 幼児の有無ダミー あるいは 乳幼児の有無ダミー を採用している. なお, これらのダミー変数は, マイカーの選択肢固有変数としている. いずれのモデルも尤度比はモデル 1に比して高くなっており, 上記の説明変数を加えることにより, モデルの精度が向上していることがわかる. また, 各説明変数の符号についてみると, いずれも妥当な結果となっている. ここで, 乳幼児の有無に関するダミー変数はいずれも正値となっている. このことから, 乳幼児を持つ女性は, 持たない女性に比してマイカーへ依存する傾向が強いことが明らかとなった. さらに, モデル2の 乳児の有無ダミー と 幼児の有無ダミー
のパラメータについてみると, 両者は概ね同様の値となっており, モデル3の 乳幼児の有無ダミー とも概ね同様の結果となっている. このことから, 乳児を持つ女性と幼児を持つ女性のマイカー依存の傾向は同様であるといえる. 6. おわりに本研究では, 第 4 回北部九州圏 PT 調査データをもとに, 北部九州圏全域および公共交通が利用可能なゾーン ODペアを対象として, 乳幼児を持つ女性と持たない女性の交通行動の相違について分析を行った. 得られた成果をまとめると以下のとおりである. 乳児を持つ女性の外出率は, 幼児を持つ女性やその他の女性に比して低く, 幼児を持つ女性とその他の女性については概ね同様である. 生成原単位( ネット ) については, 幼児を持つ女性が最も高く, 次いで乳児を持つ女性となっており, いずれもその他の女性よりも高い. 乳幼児を持つ女性は, マストラ分担率がその他の女性に比して低く, マイカーへの依存度が高い. トリップ長については, 北部九州圏全域でみると乳幼児を持つ女性はその他の女性に比して短く, 公共交通が利用可能なODペアでみると子供の種類による相違はない. 乳幼児を持つ女性のトリップ時間は, その他の女性に比して短い. 非集計ロジットモデルによるパラメータ推定の結果, 乳幼児を持つ女性はその他の女性に比してマイカーへの依存度が高いことが明らかになった. 乳幼児連れの人々の移動支援策として, 公共交通の利用に対する抵抗感の軽減を図ることは重要である. しかしながら, 地方都市においては, 公共交通の整備が不十分であり, 多くの人々がマイカーに依存して生活しているのが実態である. その場合, 乳幼児を持つ人々の移動支援策として, マイカー利用に対しても快適に利用できるよう配慮することも重要であるといえる. 例えば, 目的施設の駐車場を優先的に確保でき, 乳幼児を連れていても快適に駐車場から目的施設に移動できる環境を創出するなど, さまざまな支援策の検討が必要であろう. 参考文献 1) 小塚勝紀, 新崎淳史, 波床正敏 : 子連れ移動者の視点からみた交通バリアフリーの課題抽出, 土木計画学研究講演集, 第 28 巻,2003. 2) 波床正敏, 小塚勝紀 : バリアフリー施設が子連れトリップの駅選択に与える影響の分析, 土木計画学研究講演集, 第 31 巻,2005. 3) 木村祥法, 石田千早, 波床正敏 : 堺市中心市街地周辺の子連れの行動について, 土木計画学研究講演集, 第 61 巻 4 号,2006. 4) 新福綾乃, 十代田朗, 津々見崇 : 乳幼児を伴う外出行動の実態に関する研究 - 東京 自由が丘及び代官山におけるケーススタディ-, 都市計画論文集, 第 62 巻, 第 444 号,pp.367-372, 2009. 5) 大森宣暁, 谷口綾子, 真鍋陸太郎, 寺内義典 : 子育て中の母親の外出行動とバリア, 土木計画学研究講演集, 第 39 巻,pp105-108, 2009. 6) 柳田穣, 谷口綾子, 石田東生 : 公共交通機関の子供連れ利用における心理的バリアの軽減を目的とした説得的コミュニケーションによる態度変容効果分析, 土木計画学研究講演集, 第 41 巻,2010. (2012. 2. 25 受付 ) CHARACTERISTIC TRAVEL BEHAVIOR OF WOMEN WITH INFANTS OR TODDLERS USING PERSON TRIP SURVEY DATA Hiroshi TATSUMI, Kayoko TSUTSUMI and Megumi KOUGUCHI In order to explore transportation-related actions that can be taken in response to falling birthrates, the present study investigates the characteristic travel behavior of women who have an infant or toddler. Data from the 4th Person Trip Survey in the Northern Kyushu Region was used for analysis. The female subjects were classified into three groups: 1) women with an infant, 2) women with a toddler, and 3) women with an elementary school age child, an older child, or no children. The three groups were compared to determine what percentage of the subjects made at least one trip per day, the average number of trips per person per day, the typical mode of transportation, the distance of the trips, and the duration of the trips. The results revealed statistically significant differences among the three groups. Specifically, women with an infant or toddler were less likely to use public transportation, and exhibited a higher dependency on private vehicle. Furthermore, with regard to how the subjects selected the mode of transportation, a parameter estimation was obtained by using a disaggregate logit model. This also indicated that women with an infant or toddler show a stronger dependence on their private vehicle than those without an infant or toddler.