リンパ球は 体内に侵入してきた異物を除去する (= 免疫 ) 役割を担う細胞です リンパ球は 骨の中にある 骨髄 という組織でつくられます 骨髄中には すべての血液細胞の基になる 造血幹細胞 があります 造血幹細胞から分化 成熟したリンパ球は免疫力を獲得し からだを異物から守ります 骨髄 リンパ球の成り立ちとはたらき B 細胞は 抗体 をつくります T 細胞などは抗体を目印にして異物を攻撃します ウィルスに感染した細胞や がん細胞を攻撃します T 細胞は B 細胞などの働きを助けます また T 細胞自身が異物を攻撃することもあります 2
全身ではたらくリンパ球 全身にはリンパ球を運ぶリンパ管や リンパ球がはたらくための器官 臓器があります リンパ球は リンパ管や血管を通って全身に分布します リンパ管の途中には リンパ節 があり リンパ球が増えたり異物を処理する場となります 胸腺や脾臓 扁桃などの免疫を担う臓器もリンパ系の一部です 悪性リンパ腫はリンパ節やリンパ系の臓器に主に発症します 悪性リンパ腫のタイプによっては その他の臓器に生じることもあります 扁桃腺 胸腺 脾臓 リンパ節 ろ胞 マントル細胞 リンパ管の途中にある器官 米粒 ソラ豆程度の大きさ 悪性リンパ腫の約半数はリンパ節に生じます 3
悪性リンパ腫とはどんな病気ですか? リンパ球が がん化 して無制限に増殖し リンパ節やリンパ組織にかたまりを作ってくる病気です 通常 リンパ球の数は一定範囲になるようからだの仕組みで調節されています リンパ球が がん化 すると 無制限に増殖する性格を持つとともに 正常な機能を果たさなくなります がん化したリンパ球は リンパ節などで異常増殖し さまざまな症状が現れるようになります リンパ節 リンパ節内でかたまりをつくる がん化 リンパ節の腫れなどの症状 4
悪性リンパ腫の一般的な症状 首や脇の下 足のつけ根などのリンパ節の腫れ ( 多くの場合痛みはありません ) 風邪に似た自覚症状が現れることもあります 原因不明の 38 以上の熱 半年間に体重が 10% 以上低下 からだのだるさ ( 倦怠感 ) 寝汗 悪性リンパ腫の原因 特殊なケース を除き 原因は不明です 従って効果的な予防法もわかっていません 成人 T 細胞白血病リンパ腫のウィルス感染 胃 MALT リンパ腫のヘリコバクター ピロリ菌感染など 5
悪性リンパ腫の検査 悪性リンパ腫の種類や 病変部位を調べます いずれも治療法の選択に重要です 一般的な検査 診察リンパ節の腫れや症状などを確認します 血液検査血液細胞や臓器に異常がないか確認します 悪性リンパ腫の種類を確認する検査 リンパ節生検腫れているリンパ節の組織を手術で採取し 顕微鏡で観察します 検査内容 採取 異常な細胞がないか リンパ節構造の変化のしかた 細胞が特徴的なタンパク質をもっていないか ( 免疫検査といいます ) 採取から約 1 週間後に抜糸します それまでは入浴できません 採取部位は清潔にしてください 免疫検査 遺伝子検査リンパ節生検では悪性リンパ腫のタイプを確認しきれない場合や詳細な特徴を知りたいときに行います 6
病気の広がりやからだの内部の病変を調べる検査 画像検査悪性リンパ腫の全身的な広がりや内部の病変を確認します 検査法 CT: からだの様々な角度から X 線をあて コンピュータで断面画像を描きます MRI: 磁場と電波で体内を撮影します 超音波検査 : 超音波をあてて体内の画像を描きます 検査はいずれも数十分で終了します 検査による痛みはありません 骨髄検査骨髄に病気が広がっていないか確認します 局所麻酔後 腰や胸の骨に針をさして骨髄液や骨髄組織を採取します 検査は 10 分程度で終了します この他の検査を行うこともあります 7
参考 : 免疫検査で調べる CD20 抗原 とは? B 細胞性の悪性リンパ腫の場合 免疫検査で CD20 抗原 というタンパク質があるかどうか確認します CD20 抗原は B 細胞だけにしか現れず しかも大半の B 細胞に現れています このことを利用し CD20 抗原を目印にして B 細胞のみを狙い撃ちする治療法がありますので 免疫検査で CD20 抗原を調べるのは 治療法選択の大きなポイントになります ( 詳細については 本シリーズ 8 悪性リンパ腫 < 治療編 > をご参照ください ) B 細胞の目印 (CD20 抗原 ) 8
全身の状態の評価のしかた 全身の状態は 0 4 に分けて評価します 全身状態 (PS: パフォーマンス ステータス ) * 0 1 2 3 4 無症状で社会生活ができ 制限をうけることなく発病前と同等にふるまえる 軽度の症状があり 肉体労働は制限を受けるが 歩行 軽労働や座ったままの仕事ならできる 歩行や身の回りのことはできるが 時に少し介助がいることもある 軽作業はできないが 日中 50% 以上は起居している 身の回りのことはある程度できるが しばしば介助がいり 日中の 50% 以上は就床している 身の周りのこともできず 常に介助がいり 終日就床を必要としている 全身状態が悪いと 強い治療ができない可能性があります * 加藤健 : がん化学療法の基本概念 がん診療レジデントマニュアル ( 第 4 版 ), 国立がんセンター内科レジデント ( 編 ), 医学書院,12-18,2007 9
病気の広がり ( 病期分類 ) の分けかた 病気の広がり ( 病期分類 ) は Ⅰ Ⅳ 期に分けて評価します 広がっていない Ⅰ 期 Ⅱ 期 横隔膜 1 つのリンパ節領域 あるいは 1 つのリンパ節以外の臓器に病変がある 2 つ以上のリンパ節領域 あるいは 1 つのリンパ節領域と 1 つ以上のリンパ節以外の部位に病変がある ( 横隔膜の上下どちらかのみ ) 10
Ann Arbor 分類 (Cotswolds 改訂 ) さらに詳細な分類 ( 該当するアルファベットを Ⅰ Ⅳ の後に追記 ) E: リンパ節以外に限局した病変がある B: いずれかの症状がある ( ない場合は A) 138 以上の原因不明の発熱 2 寝汗 36 ヵ月以内で 10% 以上体重減少 X: 巨大に腫れたコブ ( 病変 ) がある Ⅲ 期 Ⅳ 期 広がっている 横隔膜 横隔膜の上下両方に病変がある 広い範囲のリンパ節以外の臓器に病変がある 悪性リンパ腫のタイプによっては Ⅲ 期あるいは Ⅳ 期が最も多くみられる場合があります Lister TA, et al: J Clin Oncol 1989; 7: 1630-1636 11
悪性リンパ腫の種類 大きく ホジキンリンパ腫 と 非ホジキンリンパ腫 に分けられます ホジキンリンパ腫 ( 約 5%) P13 参照 特徴的な リード シュテルンベルク細胞 あるいは ホジキン細胞 が現れます 化学療法および放射線治療で治癒しやすい種類です ( 病気の広がりにもよります ) 非ホジキンリンパ腫 ( 約 95%) P14 19 参照 多くの種類 (60 種類以上 ) に分けられますが 大きくは 3 つのタイプに分けられます タイプによって 病気の進む速さや治療法 治療の効きやすさが異なります 主な非ホジキンリンパ腫 ゆっくり進むタイプ ( 年単位で進行 ) 速く進むタイプ ( 月単位で進行 ) 直ちに治療が必要なタイプ ( 週単位で進行 ) ろ胞性リンパ腫 M モルト ALT リンパ腫など びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 (DLBCL) マントル細胞リンパ腫など バーキットリンパ腫リンパ芽球性リンパ腫など それぞれの悪性リンパ腫の治療法については 本シリーズ 8 悪性リンパ腫 治療編 をご参照ください 12
それぞれの悪性リンパ腫の特徴 ホジキンリンパ腫 ホジキンリンパ腫の特徴 全悪性リンパ腫の約 5% B 細胞由来 首のリンパ節に病変を生じやすく 脾臓や縦隔のリンパ節に生じることもあります リンパ節が腫れる他 発熱や寝汗 体重減少などがみられることがあります 頸部リンパ節 縦隔リンパ節 脾臓 リンパ節の顕微鏡像 正常なリンパ節の組織標本 ホジキンリンパ腫の組織標本 13
それぞれの悪性リンパ腫の特徴 ゆっくり進むタイプの悪性リンパ腫 ゆっくり進むタイプ ( 年単位で進行 ) 速く進むタイプ ( 月単位で進行 ) 直ちに治療が必要なタイプ ( 週単位で進行 ) ろ胞性リンパ腫 M モルト ALT リンパ腫など びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 (DLBCL) マントル細胞リンパ腫など バーキットリンパ腫リンパ芽球性リンパ腫など ろ胞性リンパ腫の特徴 全悪性リンパ腫の約 20% B 細胞由来 多くの場合 リンパ節は腫れるが他の症状は出にくい 骨髄に病変が見られることもある 近年 増加傾向にあるリンパ腫の 1 つ 正常リンパ節 ろ胞 がん化したリンパ節 M モルト ALT リンパ腫の特徴 全悪性リンパ腫の約 15% B 細胞由来 ヘリコバクター ピロリによる慢性胃炎や自己免疫疾患にかかった経験のある人が多い 胃などの消化管や肺 頭や首 眼などさまざまな部位に生じるが 自覚症状は乏しい 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科病理学教室のデータより ピロリ菌 胃 14
リンパ節の顕微鏡像 正常なリンパ節の組織標本 ろ胞性リンパ腫の組織標本 M モルト ALT リンパ腫の組織標本 15
それぞれの悪性リンパ腫の特徴 速く進むタイプの悪性リンパ腫 ゆっくり進むタイプ ( 年単位で進行 ) 速く進むタイプ ( 月単位で進行 ) 直ちに治療が必要なタイプ ( 週単位で進行 ) ろ胞性リンパ腫 M モルト ALT リンパ腫など びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 (DLBCL) マントル細胞リンパ腫など バーキットリンパ腫リンパ芽球性リンパ腫など びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 (DLBCL) の特徴 全悪性リンパ腫の約 1/3 リンパ節 B 細胞由来 リンパ節をはじめ 全身の様々な臓器に病変を生じることがある リンパ節の顕微鏡像も人によってさまざま びまん : 広くはびこる 一面に広がる マントル細胞リンパ腫の特徴 全悪性リンパ腫の約 3% マントル細胞 B 細胞由来 全身のリンパ節が腫れるとともに 脾臓や骨髄 消化管に病変を生じることもある 正常リンパ節 がん化したリンパ節 発症頻度は Lymphoma Study of Group of Japanese Pathologists. Pathol Int. 2000; 50: 696-702 に基づく 16
リンパ節の顕微鏡像 正常なリンパ節の組織標本 びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 (DLBCL) の組織標本 マントル細胞リンパ腫の組織標本 17
それぞれの悪性リンパ腫の特徴 直ちに治療が必要なタイプの悪性リンパ腫 ゆっくり進むタイプ ( 年単位で進行 ) 速く進むタイプ ( 月単位で進行 ) 直ちに治療が必要なタイプ ( 週単位で進行 ) ろ胞性リンパ腫 M モルト ALT リンパ腫など びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 (DLBCL) マントル細胞リンパ腫など バーキットリンパ腫リンパ芽球性リンパ腫など バーキットリンパ腫の特徴 全悪性リンパ腫の約 1% ですが 小児では非ホジキンリンパ腫の約 19% B 細胞由来 腹部のリンパ節から生じることが多い 短期間で大きくなり 腹部膨満や呼吸困難が現れることがある リンパ芽球性リンパ腫の特徴 全悪性リンパ腫の約 4 % 小児や若年成人に多く 小児の非ホジキンリンパ腫の約 35% T 細胞 B 細胞いずれにも由来する 横隔膜より上半身に生じやすく 咳や息切れなどが現れる 骨髄や中枢神経にも病変を生じやすい 発症頻度は Lymphoma Study of Group of Japanese Pathologists. Pathol Int. 2000; 50: 696-702 に基づく小児における発症頻度は Nakagawa A et al, Eur J Cancer. 2004; 40: 725-733 より 18
リンパ節の顕微鏡像 正常なリンパ節の組織標本 バーキットリンパ腫の組織標本 リンパ芽球性リンパ腫の組織標本 19
ONC021CI(N001)1RM 2012 年 1 月作成