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ならないとされている (IFRS 第 15 号第 8 項 ) 4. 顧客との契約の一部が IFRS 第 15 号の範囲に含まれ 一部が他の基準の範囲に含まれる場合については 取引価格の測定に関する要求事項を設けている (IFRS 第 15 号第 7 項 ) ( 意見募集文書に寄せられた意見 ) 5.

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有価証券等の情報(会社計)162 満期保有目的の債券 がを超えるもの がを超えないもの 公社債 435, ,721 31, , ,565 29,336 外国証券 ( 公社債 ) 1,506,014 1,835, ,712 1,493,938 1,778

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162 有価証券等の情報(会社計 満期保有目的の債券 ( 単位 : 百万円 ) がを超えるもの がを超えないもの )合計 2,041,222 2,440, ,058 1,942,014 2,303, ,434 責任準備金対応債券 ( 単位 : 百万円 ) が貸借対照表 公社債

従って IFRSにおいては これらの減価償却計算の構成要素について どこまで どのように厳密に見積りを行うかについて下記の 減価償却とIFRS についての説明で述べるような論点が生じます なお 無形固定資産の償却については 日本基準では一般に税法に準拠して定額法によることが多いですが IFRSにおい

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1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

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1 仮想通貨の売却問保有する仮想通貨を売却 ( 日本円に換金 ) した際の所得の計算方法を教えてください ( 例 )3 月 9 日 2,000,000 円 ( 支払手数料を含む ) で4ビットコインを購入した 5 月 20 日 0.2 ビットコイン ( 支払手数料を含む ) を 110,000 円で

取引高について 2006 年の日経 225mini の開始以降 取引高は増加傾向 ( 単位 ) 300,000, ,000, ,000,000 日経 225mini 日経 225 先物 150,000, ,000,000 50,000,

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Ⅱ. 資金の範囲 (1) 内訳 Ⅰ. 総論の表のとおりです 資 金 現 金 現金同等物 手許現金 要求払預金 しかし これはあくまで会計基準 財務諸表規則等に記載されているものであるため 問題文で別途指示があった場合はそれに従ってください 何も書かれていなければ この表に従って範囲を分けてください

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会計上異なる結果が生じる可能性があるとしていま す イセンス付与に関しても 約定の性質の定義に係る ガイダンス等 IASB がの必要なしと決定した論 点についてを加えています 両審議会は 以下の論点については同じ修正を行っています a. 履行義務の識別 b. 本人か代理人かの検討 c. 売上高ベース

関する IFRS-IC の議論が IASB と FASB により共同で行われている IFRS 第 15 号に関する移行リソースグループ (TRG) における議論と不整合を生じさせる可能性が危惧されたためである 論点の所在 4. 今回 明確化が要請された会計処理に関する主な論点は 銀行がプリペイド カ

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できる 105. 前項の取扱いを適用する場合には 次の事項を注記する (1) その旨及び決算月に実施した計量の日から決算日までに生じた収益の見積りが極めて困難と認められる理由 (2) 当連結会計年度及び当事業年度の決算月の翌月に実施した計量により確認した使用量に基づく収益の額 ( この収益の額が 決

<4D F736F F D F C F91E A8E91904D91F582CC817582C282DD82BD82C44E CE8FDB8FA C789C182CC82A8926D82E782B92E646F63>

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Transcription:

IFRS における適用上の論点第 20 回 デリバティブとして会計処理される非金融商品の売買契約 有限責任あずさ監査法人 IFRS 本部パートナー 三上伸也 有限責任あずさ監査法人 IFRS 本部シニアマネジャー 中川祐美 1. はじめに本連載では 原則主義 であるIFRSを適用する際に判断に迷うようなケースについて解説しています 第 20 回となる今回は 金融商品会計基準が適用される非金融商品の売買契約について 実務上論点となることが多い点をご紹介します なお 文中意見にわたる部分は筆者の私見であること 当法人の見解については随時見直しが行われる可能性があることを予めお断りします 2. 非金融商品の売買契約の会計上の取り扱い IFRSにおいては 一部の非金融商品の売買契約そのものや売買契約の条項の一部にデリバティブと同様の会計処理が要求されるケースがあります その場合には 公正価値評価が行われ 期間損益に想定外の影響を及ぼすため 留意が必要です (1) 非金融商品の売買契約とは金 原油 小麦 大豆等のコモディティ 自動車 航空機 不動産等の非金融商品は 基本的には金融商品に関する会計基準の適用対象外ですが 特定の場合にデリバティブとしての会計処理が必要となります 取引所で売買される商品先物等はデリバティブ取引であることが明白ですが 例えば ある非金融商品を6ヶ月後引渡しの条件で購入する契約を仕入先と締結し その契約が現金または他の金融商品での純額決済または金融商品との交換により決済できる場合には 当該売買契約は金融商品会計基準の対象となり 原則としてデリバティブとして会計処理されます 純額決済または金融商品との交換により決済が行われる とは 次のいずれかに該当する場合をいいます (IAS39 号第 6 項 ) (a) 契約条項が純額決済または他の金融商品との交換による決済を認めている (b) 契約が純額決済可能か否かについて契約条項では明示されていないものの 企業が慣行的に類似の契約を純額決済する実務を行っている (c) 類似の契約について トレーディング目的 ( 短期的価格変動による利益または販売業者としてのマージンを生み出す目的 ) で非金融商品の引渡しを受け その後短期間に売却する実務を行っている (d) 契約の対象となる非金融商品が容易に換金可能である

2 なお 上記 (d) の 容易に換金可能 な場合の例として 対象となる非金融商品の活発な市場が存在する場合が考えられます ここでいう 活発な市場 とは 先物市場ではなく直物市場であり 取引頻度や取引量等を考慮して判断されると考えられます (2) 自己使用の契約の除外純額決済または他の金融商品との交換による決済の要件 ( 前述 (1) を参照 ) を満たし デリバティブとして取り扱われる可能性のある非金融商品の売買契約であっても 企業自身の予想される購入 販売または使用の必要に従った非金融商品の受取りまたは引渡しの目的で締結 保有されるものは 金融商品会計基準の対象から除外されます ( いわゆる 自己使用の契約の除外 ) そのため デリバティブと同様の会計処理は要求されません ただし 前述 (1) の (b) または (c) に該当する契約は自己使用の目的で締結されていないとされ デリバティブとしての会計処理が必要です IFRSの 自己使用の契約の除外 規定は選択適用ではなく 取引の実態に基づき 企業自身の予想される購入 販売または使用の必要に従った非金融商品の受取りまたは引渡しの目的で締結 保有される場合に適用されます 非金融商品の売買契約が 自己使用の契約の除外 に該当する場合には 金融商品会計基準が適用されないため 未履行契約として関連する他のIFRSを適用します なお 日本基準においても 現物商品に係るデリバティブ取引について類似の規定が存在し トレーディング目的以外の取引で 当初から現物を受け渡すことが明らかなものは デリバティブに該当しないとされています なお その旨を文書化し 取引部門の責任者の承認を受ける必要があります 設例 1 非金融商品の購入契約 A 社はチョコレート製造業者である チョコレートの原料であるカカオ豆 100トンを1トン当たり1,000ユーロで12ヶ月後引渡しの条件で購入する契約を締結する 受渡日において カカオ豆の市場価格は1トン当たり1,500ユーロである 現金で純額決済可能という契約条項がある 1 購入契約をデリバティブとして会計処理しない場合 A 社はカカオ豆を自社でチョコレート製造のために使用します すなわち 純額決済やトレーディング取引が行われていないため ( 前述 (1) の (b) 及び (c) が該当しないケース ) 自己使用の契約の除外 規定が適用され この契約は金融商品会計基準の適用対象外の未履行契約となります IFRSにおいて認識される取引はIAS2 号 棚卸資産 に規定される棚卸資産の購入であり 受渡し時において 支払対価 100,000ユーロ (1,000ユーロ 100トン ) で仕入計上します

3 契約時 仕訳なし 仕入時 ( 単位 : ユーロ ) 貸方 借方 棚卸資産 100,000 現金 100,000 2 購入契約をデリバティブとして会計処理する場合 自己使用の契約の除外 が適用されない場合( すなわち 純額決済やトレーディング取引が行われる実務がある場合 ) は 購入契約を締結時からデリバティブとして会計処理し 受渡時までの公正価値の変動は損益に計上します 棚卸資産仕入時にデリバティブの会計処理は終了し 仕入を独立した取引として扱います 例えば IAS2 号における棚卸資産計上額として 現金支払額 100,000 ユーロに受渡時におけるデリバティブの公正価値 50,000 ユーロを加えた 150,000 ユーロとする会計処理となりえます 契約時 仕訳なし ( デリバティブの当初の公正価値がゼロという前提 ) 仕入時 ( 単位 : ユーロ ) 貸方 借方 デリバティブ資産 50,000 デリバティブ損益 50,000 棚卸資産 150,000 現金 100,000 デリバティブ資産 50,000 (3) 類似の契約 類似の契約とは 同一企業内で行われる取引目的や取扱商品が類似する契約です 類似の売買契約について 現金またはその他の金融商品での純額決済 または金融商品の交換により決済を行った過去の実績がある場合 ( 前述 (1)(b)) や 対象となる商品の引渡しを受けた後 短期間の間にトレーディング目的で対象となる商品を売却している実務がある場合 ( 前述 (1)(c)) には 非金融商品の売買契約は 自己使用の契約の除外 には該当せず デリバティブとして会計処理されます 設例 2 デリバティブ契約とともに締結 管理された契約 設例 1と同じく チョコレート製造業者であるA 社が カカオ豆の現物購入契約と純額決済されるカカオ豆の先物契約の両方を締結した この現物購入契約とデリバティブは チョコレートの販売契約の価格変動リスクを経済的な観点からヘッジするために締結されたものであり 現物購入契約と先物契約とはヘッジ関係にない 両契約は全体で一括管理されており 現物受渡の有無に基づく区分管理等はなされていない 当法人の見解では 現物購入契約とデリバティブは その目的や管理方法が類似していると考えます したがって 現物購入契約にも 自己使用の契約の除外 は適用されず デリバティブとしての会計処理を行います 類似の契約については 社内に同一非金融商品のトレーディング部門と 自己使用の契約の除外 に該当する取引を行う製造 販売部門等がある場合において 2つの異なる会計処理を適用することの可否が議論となります この場合には 各部門における契約を区別して

4 自己使用の契約の除外 の取扱いを検討するため 取引の目的 契約の管理方法 決済方法 顧客基盤等を考慮します なお 2013 年 11 月にヘッジ会計の改訂 (IFRS9 号の改訂 ) とあわせて公表されたIAS39 号の改訂において 自己使用の契約の除外 に該当する非金融商品の売買契約に対し デリバティブとして処理すること ( 公正価値オプションの指定 ) も可能となりました ただし 会計上のミスマッチを排除する または大きく減少させるものであること 当初認識時において取消不能な指定を行うこと等が要件となっています 3. 組込デリバティブの検討非金融商品の取引である財の受渡しまたはサービスの提供にあたり デリバティブ要素が組み込まれる場合 金融商品会計基準の対象となります 契約が組込デリバティブを含む場合 組込デリバティブ及び主契約の経済的特徴とリスクが密接に関連しているか否か等を検討し 組込デリバティブと主契約とを区分処理すべきか否かを決定します (IFRS9 号第 4.3.3 項 ) 組込デリバティブの一般的な例としては 価格決定特性や取引通貨等が考えられます (1) 価格決定特性非金融商品の売買契約において その価格が対象商品のその時点の市場価格以外の場合には 留意が必要です 例えば 他の商品価格を参照するケースや 同一商品であっても一定期間の平均価格を参照するケースなどは 売買契約の価格の要素が組込デリバティブに該当する可能性があります 設例 3 他の製品価格を参照する価格決定特性 ガス会社 B 社は 6ヶ月後に引き渡す条件で 液化天然ガスを調達する 供給者と相対で価格を協議し 原油価格を参照する算定方式で決定した 原油平均価格を参照する価格決定方式が他の市場参加者も含めた液化天然ガスの取引において一般的に使用される価格決定方式であると判断される場合 当該価格決定特性は液化天然ガス価格そのものであり 区分処理すべきデリバティブはないと考えられます IFRSにおいて 非金融商品の売買契約に組み込まれた価格決定特性について デリバティブに該当するか否かの具体的な判定方法の記載はありません ただし 設例 3のように ある地域の市場において 他の商品の価格を参照する価格決定方式が一般的に使用される価格決定方式であると判断される場合には 当該価格決定特性はその商品の価格そのものであり 区分処理すべきデリバティブはないと考えます 他方で 特定商品について活発な市場が存在するにもかかわらず 代替的な市場価格決定メカニズムを利用する場合 その価格決定特性は主契約に密接に関連せず 区分処理するデリバティブを含むと考えられます (2) 取引通貨商品売買契約が外貨建で行われる場合 組込外貨デリバティブが含まれている可能性があります ただし 契約上の支払いが次のいずれかの通貨によって行われる場合 主契約との密接な関連があると認められ 組込外貨デリバティブを区分処理する必要はありません (IFRS9 号 B4.3.8(d)) (a) いずれかの契約当事者の機能通貨 (b) 取得または引き渡す財またはサービスの価格が 世界中の商取引において通常表示されている通貨

5 (c) 取引の行われる経済環境における非金融商品の売買契約において一般的に使用されている通貨例えば 日本の会社が英国の事業会社 ( 英ポンドが機能通貨 ) との輸入取引において 英ポンドでの決済を行うケース ((a) の場合 ) や 世界各国との原油取引を米ドルで行うケース ((b) の場合 ) は 区分処理が行われないと考えられます なお 上記のいずれかの通貨によって取引が行われていても 契約がレバレッジ効果や オプション特性を含む場合には 組込デリバティブは区分処理が求められます (b) の 通常表示されている という条件を満たすには その通貨が 類似の取引において特定の地域だけではなく世界中の類似の取引で使用されていることが求められます 例えば 天然ガスの国際間取引が北米では米ドル建てで行われますが 欧州ではユーロ建てで行われる場合 米ドル及びユーロはいずれも 通常表示されている通貨とはなりません 当法人の見解では 世界中の商取引で通常表示されている とは 国際商取引において 取引のほとんどがその通貨で取引されていることであり 2つ以上の通貨が 通常表示されている通貨とはならないと考えます (c) については 例えば 国内取引及び国際貿易において 現地通貨よりも安定した流動性のある通貨がビジネス上一般的に使用されている状況が想定されます 現地通貨以外の通貨がその国で 非金融商品の売買契約で一般的に使用されている と決定する際は その国の経済状況や商慣行を十分考慮する必要があります 当法人の見解では この分析は国ベースで行われ 特定の財やサービスを参照して行われるものでありません 設例 4 組込外貨デリバティブ 南米のX 国にある日本の子会社 C 社は 現地企業のD 社へ商品を提供し 米ドル建で決済する契約を締結している C 社及びD 社の機能通貨はX 国の現地通貨である 米ドルは この商品の世界中の取引においては通常表示されている通貨ではない また 米ドルがX 国の国内取引や国際貿易取引において一般的に使用される通貨ではない この場合 商品の売買契約は X 国の現地通貨での取引を主契約として デリバティブ ( 米ドルとX 国現地通貨を交換する為替予約 ) が組み込まれた契約であると考えられます

6 おわりに本稿では 非金融商品の売買契約の会計処理にあたり 金融商品会計基準の適用が想定される場合の論点について 当法人の判断の指針及び例示を紹介しました 日本基準との会計基準差異が影響を及ぼす分野であるため IFRSを適用するにあたって 論点となる内容をまとめております 本稿が実務のご参考となれば幸いです 編集 発行 有限責任あずさ監査法人 IFRS 本部 IFRS Information Desk e-mail: AZSA-IFRS@jp.kpmg.com ここに記載されている情報はあくまで一般的なものであり 特定の個人や組織が置かれている状況に対応するものではありません 私たちは 的確な情報をタイムリーに提供するよう努めておりますが 情報を受け取られた時点及びそれ以降においての正確さは保証の限りではありません 何らかの行動を取られる場合は ここにある情報のみを根拠とせず プロフェッショナルが特定の状況を綿密に調査した上で提案する適切なアドバイスをもとにご判断ください 2014 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative ( KPMG International ), a Swiss entity. All rights reserved. The KPMG name, logo and cutting through complexity are registered trademarks or trademarks of KPMG International. www.azsa.or.jp/ifrs この IFRS における適用上の論点第 20 回デリバティブとして会計処理される非金融商品の売買契約 は 週刊経営財務 3143 号 (2013 年 12 月 16 日 ) に掲載したものです 発行所である税務研究会の許可を得て あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので 他への転載 転用はご遠慮ください