特集 超音波診断装置の新潮流 低流速検出能に優れた血流イメージング 関節リウマチの滑膜炎に対する SMIの有用性 成田明宏 北海道内科リウマチ科病院 検査放射線課 の装置には 低流速も検出可能となったカラード はじめに プラ 以下 CD 法 高精細のカラードプラ 以下 関節リウマチ RA の病態は炎症とともに滑膜 ADF 法 パワードプラ 以下 PD 法や Super が肥厚し その内部に血管拡張 新生血管が出現 Miro vsulr Imging 以下 SMI 法といった し関節破壊を呈する滑膜炎である 関節滑膜に生 方法が搭載され 非常に感度よく異常血流を検出 じた微細な異常血管を血流シグナルとして捉える することが可能となった 図1 滑膜血流の検出 ことがエコー検査の目的のひとつでもある 最近 は滑膜炎の存在を客観的に判断することが可能で 図 1 RA患者 手指第 2 指MCP関節 滑膜炎 背側 縦断 パワードプラ重症度分類グレード 3 現在広く用いられている超音波装置の最適な条件設定での各法による血流表示画像である PD 低流速異常血流は鮮明に表示される SMI PDと同様鮮明に表示される ADF PDよりやや少なく表示される CD ADFより少なく表示される 444 映像情報メディカル 437-474_2015_5月号_別刷.in 444 2015年5月
あり 直接の関節炎診断に役立つ またその程度を評価することは治療効果判定に有効であるため リウマチ診療においても積極的に利用されている 1) しかしながら わが国においてRA 領域の超音波検査は歴史が浅いため課題も多く 日本リウマチ学会関節エコー撮像法ガイドライン 評価ガイドラインに沿って 多くの医師 コメディカルの方々が新しい知見や標準化のために関節エコー検査を行っている現状である 使用装置 東芝製:Aplio300 Pltinum Series プローブ:PLT-1204 BT(Differentil-THI 対応 ) を使用 SMI の原理 従来のカラードプラで臨床上有効な低流速血流の描出は モーションアーチファクトの影響を受けやすく血流が見づらい しかしながら SMIは独自のアルゴリズムで そのモーションアーチファクトの特徴を分析し除去することにより低流速血流の視認性を向上させている SMIにはSMIとmSMIがある 両者ともに にじみの少ない高分解能 高フレームで モーションアーチファクトの影響を受けにくいため より微細な低流速血流を描出できる SMIは方向性の表示が可能であり msmiは方向性の表示はできないが 組織抑制と同等の画像処理をしてより微細な血流の視認性が向上する 滑膜内異常血流 滑膜内に炎症細胞の浸潤が起こり 血管拡張 さらには新生血管が出現する過程の中で検出される 流速の遅い異常血流はPD 法で感度よく画像表示することが容易である この異常血流は臨床的な関節腫脹が明らかではない早期の段階から出現するとされ 滑膜内異常血流を見出すことは 関節炎の早期診断にも大変有用である 2) また研究が進むにつれて滑膜肥厚が明らかではない段階 でも滑膜内血流が検出される場合や その反対に滑膜肥厚が著明であっても滑膜内血流が見られない場合など さまざまな描出パターンがあることが明らかとなった エコー検査による異常滑膜血流は その局所の炎症 ( 図 2) と強く関連しており その局所部位における予後を示す指標ともなる PD 法と SMI 法の比較 炎症のある関節にSMIを用いた場合 PDと比較してブルーミングと呼ばれる血管のにじみ現象が極端に少なく 密で細やかな血管走行がリアルタイムに描出される 今回 一般の画像解析ソフト ( 検出された血流シグナルのピクセル数を計測する ) を利用し PDとSMIの血流シグナルピクセル数とグレードを 第 2 指 MCP 関節 Szkulrekら 3) によるパワードプラの重症度分類 で比較した結果 PDはグレード3(9,744ピクセル ) であり SMI ではグレード 2(5,928 ピクセル ) であった グレード ピクセル数ともに SMIが低い この結果は SMIはブルーミングの影響がほとんどないことと PDで表示される多重反射 残像 ( 遅れて検出される血流が重って表示される ) の影響をいかに受けないかをあらわしている すなわち 炎症による血管新生 造成の血流が モーションアーチファクトによるストレスがない走査で にじみなくダイレクトに検出 および観察ができるということになる 検査時間短縮のため 早いプローブ走査での観察を行う場合 前述したようにフレームレートが低いPDでは 血流表示される残像やモーションアーチファクトを異常血流と戸惑うことがあるが SMIはフレームレートが高く よりリアルタイムであり 戸惑いや再確認を必要とする場面にはほとんど遭遇しない しかしながら ブルーミングがないことで グレード 1のようなごくわずかな血流が存在する場合 そのシグナルを見逃してしまう可能性は十分にありえる 分解能 フレームレートが高い故に注意が必要であり 同時にさらなる評価検討が必要である Vol.47 No.5 445
図 2 RA 患者上腕二頭筋長頭の腱 ( 横断 ) 腱鞘炎 :PD 炎症による新生血管 血流量の増加が感度よく表示されている :SMI PDに比べブルーミングがほとんどない :msmi 組織抑制の画像処理がなされ 新生血管を直接みている 治療と骨破壊 RAの治療は近年 生物学的製剤の登場により大きく変化し 寛解を標的とした治療が行われるようになってきた 治療成績向上のために早期に診断すること 炎症の程度を知ること また治療薬剤の的確な有効性評価などが重要といわれている 一般的に生物学的製剤投与において DAS28 評価 (Disese Ativity Sore: 圧痛関節数 腫脹関節数 赤沈値 患者の身体機能評価を指数化し 評価関節数に28 関節を用いて疾患活動性を評価する算定法 ) と血流シグナルの推移が一致する症例が多い しかしDAS28の改善は認めないが 血流シグナルの減少とともに骨破壊の進行が抑制されている症例も存在する また逆に DAS28の改善を認めるも血流シグナルが残存し 骨破壊が進行する症例も存在する エコー所見において 関節滑膜内血流の持続的陽性が骨 関節破壊の進行と関連性があること さらに生物学的製剤使用においては 8 週間以内に 70% 以 上の血流改善をその罹患関節に認めなければ当該関節の破壊は進行するとの報告もされている 4) このように血流シグナルの存在はRAの予後予測ともなりえる SMI の役割 現段階でのSMIの利用の仕方として 私見ではあるが次のように使用するとよいと思われる ルーチン検査において 早期の滑膜炎および治療による血流消失の有無を評価する場合 わずかな異常血流を見逃さないためにも SMIに比べある程度過剰な表示がされる PD 法で観察評価を行う 必要に応じて鮮明で説得力のある画像が得られる SMI 法を使用し確認と提出用画像とするのがよい また msmiは次のような場合にとても興味をそそられる PD SMIでは検出されなかった正常血管 滑膜内異常血流や一過性の組織修復過程の血流など そこに存在する低流速の血流が驚くほど表示されることより 1 腫脹または滑膜 446 映像情報メディカル 2015 年 5 月
図 3 RA患者 手指第 2 指MCP関節 滑膜炎 背側 縦断 GS 中程度の滑膜肥厚と中手骨に骨びらんが形成されている PD 表層に走行する血管の多重反射や残像の影響に加えブルーミングによりベタッとした感じの豊富な血流として表示されて いる SMI PDのような影響を受けず 感度よく血管走行が表示されている msmi SMIよりさらに多くの血管が表示されている 肥厚があっても PD で血流が検出されない場合 て利用しようとする場合には十分に目が慣れるま ②早い時期から検出されるといわれる 関節包 で次の点に注意が必要と思われる 骨表面または 腱 靭帯など付着部近傍に位置する正常血管と異 表層に出現するノイズ 図 5 を異常血流として判 常血管のつながり ③血管がどこからどのように 断してしまうことや PD では確認できない正常 走行し どこに位置し どのような状態にあるの 血管血流が SMIで検出されることも多く それを かなどを知ることができれば 骨破壊の進行過程 異常血流と判断してしまうことも十分予測できる において何らかの情報が得られ 診断がさらに鋭 ので 慣れるまではたくさんの関節を観察するべ 敏になる可能性がある 図 3 4 きである 異常血流は増殖 肥厚した滑膜内に血流シグナ 今後の課題と展望 ルとして検出されることが大部分であるが 腫脹 滑膜肥厚はないが疼痛を伴った関節などには 脂 低流速検出能に優れた血流イメージングとして 肪組織で占められる部分に血流が検出される場合 注目されているSMI法について今回は特に手指関 も多い その血流が炎症に伴う新生血管を見ている 節と腱について紹介した われわれもSMIの活用 のか 正常血管の血流増加なのか 他要因によるも に関して現在進行形で検討を行っているが PD のなのかといった鑑別にも 血管走行を知ることが 法からSMI法への変更を考え ルーチン検査とし できるSMIは有用なアイテムになるかもしれない Vol.47 437-474_2015_5月号_別刷.in 447 No.5 447
RA 患者 手関節伸筋腱 第Ⅴ区画 固有小指 伸筋腱 腱周囲炎 図4 GS 肥厚した伸筋腱内には正常で見られるフィブリラー パターンが消失している PD 伸筋腱内に血流シグナルは検出されていない SMI 伸筋腱内に血流シグナルがごくわずかに検出されて いる msmi 伸筋腱内に血流の存在と細かな血管走行が確認できる 断 治療効果判定 寛解評価などに精度の高い検 査を行う際に その超音波装置に搭載されている 機能を十分に活用することで 思わぬ付加価値が 付いてくることも期待できる 関節エコー検査は今後も RA の予後予測や寛解 の評価に重要な位置を示すと予想され リウマチ 診療に大きく貢献し 治療方針を動かす重要な検 査という位置づけになる 参考文献 図 5 健常者 手指第 2 指MCP関節 背側 縦断 ノイズ SMI 表層 伸筋腱近傍 骨表面にノイズ 矢印 が確認される PW PW パルスドプラ 法で血流波形は認めない エコー寛解という言葉が最近よく使われると同 1 谷村一秀 : RA 診療における関節エコーの意義 どのよ うな場面で必要か. リウマチ科 48(3): 337-345, 2012 2 深江 淳 : 関節リウマチの滑膜血流と関節破壊の関係. リウマチ科 51(3): 308-313, 2014 3 日本リウマチ学会 関節リウマチ超音波標準化小委員会 リウマチ診療のための関節エコー評価ガイドライン滑膜 病変アトラス. 羊土社, 2014 4 Fuke J et l: Erly ltertion in synovil vsulrity preits riogrphi prognosis of finger joint mge in ptients with rheumtoi rthritis: Potentil utility of power oppler sonogrphy in linil prtie.arthritis Cre Res 63(9): 1247-1253, 2011 時に 滑膜内血流シグナルの消失が骨破壊にとっ て重要であることが多く報告されている そのた めにも検出感度はよいに越したことはないと思わ れるが 日常検査で求められる早期診断 鑑別診 448 映像情報メディカル 437-474_2015_5月号_別刷.in 448 2015年5月