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2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

1 / 5 発表日 :2019 年 6 月 18 日 ( 火 ) テーマ : 貯蓄額から見たシニアの平均生活可能年数 ~ 平均値や中央値で見れば 今のシニアは人生 100 年時代に十分な貯蓄を保有 ~ 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 ( : )

鳩山政権の経済政策の効果

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つのシナリオにおける社会保障給付費の超長期見通し ( マクロ ) (GDP 比 %) 年金 医療 介護の社会保障給付費合計 現行制度に即して社会保障給付の将来を推計 生産性 ( 実質賃金 ) 人口の規模や構成によって将来像 (1 人当たりや GDP 比 ) が違ってくる

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経済財政モデル の概要 経済財政モデル は マクロ経済だけでなく 国 地方の財政 社会保障を一体かつ整合的に分析を行うためのツールとして開発 人口減少下での財政や社会保障の持続可能性の検証が重要な課題となる中で 政策審議 検討に寄与することを目的とした 5~10 年程度の中長期分析用の計量モデル 短

別紙2

2. 消費税率引き上げが個人消費に与える影響 (1)1997 年度の消費増税時のレビュー ~ 大きかった駆け込み需要の影響消費税は 89 年 4 月に税率 3% で導入され 97 年 4 月に 5% に引き上げられた 89 年度の導入時は従来の物品税廃止によって自動車など耐久財の多くが実質減税となっ

財政政策の考え方 不況 = モノが売れない仕事がない ( 失業増加 ) が代わりにモノを買う! 仕事をつくる ( 発注する )! = 財政支出拡大 ( がお金を使う ) さらに乗数効果で効果増幅!! 3 近年の経済対策の財政規模 名 称 内閣 事業規模 公共投資 減税 財政規模 日本経

経済学でわかる金融・証券市場の話③

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2018年度税制改正大綱ポイント整理

1. 復興基本法 復興の基本方針 B 型肝炎対策の基本方針における考え方 復旧 復興のための財源については 次の世代に負担を先送りすることなく 今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合うこととする B 型肝炎対策のための財源については 期間を限って国民全体で広く分かち合うこととする 復旧 復興のため

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Microsoft PowerPoint - (参考資料1)介護保険サービスに関する消費税の取扱い等について

税・社会保障等を通じた受益と負担について

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このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

表1.eps

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平成19年度税制改正.xls

第 7 章財政運営と世代の視点 unit 26 Check 1 保有する資金が預貯金と財布中身だけだとしよう 今月のフロー ( 収支 ) は今月末のストック ( 資金残高 ) から先月末のストックを差し引いて得られる (305 頁参照 ) したがって, m 月のフロー = 今月末のストック+ 今月末

NIRA 日本経済の中期展望に関する研究会 家計に眠る過剰貯蓄国民生活の質の向上には 貯蓄から消費へ という発想が不可欠 エグゼクティブサマリー 貯蓄から消費へ これが本報告書のキーワードである 政府がこれまで主導してきた 貯蓄から投資へ と両立しうるコンセプトであるが 着眼点がやや異なる すなわち

平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

消費増税と原油高でデフレ脱却とインフレ目標はどうなる?

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

国税 地方税 保険料 社会保障給付 社会保障基金 というもうひとつの財布政府が財政目標のメルクマールとしているのは 国内の経済活動を包括するSNA( 国民経済計算 ) 統計における 中央政府 ( 国 ) と 地方政府 の財政だ この基礎的財政収支を 2020 年度に黒字化することを目標としている し

社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

消費税増税等の家計への影響試算(2017年10月版)<訂正版>

なお こども保険 は子どもを持っていない人も保険料を負担しながら給付を受けられないことから 保険原理とは相いれないとする批判がある しかし 1 民間保険と公的保険は自ずと性格が異なること 2 当保険の目的は ( 子どもが必要な保育 教育等を受けられないために ) 少子化が進行することで国民が不利益を

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第17回税制調査会 資料1-2

( 参考 ) と直近四半期末の資産構成割合について 乖離許容幅 資産構成割合 ( 平成 27(2015) 年 12 月末 ) 国内債券 35% ±10% 37.76% 国内株式 25% ±9% 23.35% 外国債券 15% ±4% 13.50% 外国株式 25% ±8% 22.82% 短期資産 -

負担割合 分の1の恒久化 に必要な財源 (3. 兆円程度 ) 従来は国債発行によって賄われてきた既存の社会保障関連施策へ充当する 後代への負担つけ回しの軽減 (7.3 兆円程度 ) 3 物価上昇分を意味する 消費税率引き上げに伴う社会保障 経費の増 (0.8 兆円程度 ) に振り向けることとなってい

エコノミスト便り【欧州経済】ユーロ圏はどのように財政を再建したか

年金改革の骨格に関する方向性と論点について

「安倍政権の実績をマニフェスト評価」

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政策課題分析シリーズ16(付注)

資料 1. 例年の予算編成スケジュール 7 月末 ~8 月初

2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

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「人づくり革命」の財源を消費税使途変更で捻出

経済・物価情勢の展望(2018年1月)

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スライド 1

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

図 1 では プライマリーバランスが 11 兆円の赤字であることがわかる この赤字が消えてプライマリーバランスが均衡する姿を想像すると 下の2つの式が成り立つ 経常的歳入 = 経常的歳出 国債発行 = 国債費 国債発行 = 国債費 の式に注目すると 償還費用を賄うために新規に国債を発行しても国債残高

女性が働きやすい制度等への見直しについて

 95年度の日本経済は、年前半の円高や公共投資の息切れ、米国経済の減速から景気回復の足取りに途中やや足踏みが見られました。しかし、その後の円高修正、政府の経済対策、金融緩和の効果から、年度後半は再び緩やかな回復基調に戻りました。

消費税増税等の家計への影響試算(2018年10月版)

経済・物価情勢の展望(2017年7月)

平成 30 年 5 月 21 日 ( 月 ) 平成 30 年第 6 回経済財政諮問会議資料 4-1( 加藤臨時議員提出資料 ) 資料 年を見据えた社会保障の将来見通し ( 議論の素材 ) 平成 30 年 5 月 28 日 厚生労働省

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

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問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

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生活福祉研レポートの雛形

資料 1-2 中長期の経済財政に関する試算 ( 平成 29 年 7 月 18 日経済財政諮問会議提出 ) 本試算は 経済財政諮問会議の審議のための参考として 内閣府が作成し 提出するものである 内閣府

要 旨 政府の社会保障国民会議は 2008 年 5 月 19 日の雇用 年金分科会で 公的年金制度に関する定量的なシミュレーションを公表した 主たる注目点は 基礎年金の財源を全額税方式とした場合の必要財源の規模と消費税率換算のシミュレーションである 基礎年金の税方式化を行うにあたっては 制度移行前の

【別添3】道内住宅ローン市場動向調査結果(概要版)[1]

2025年の住宅市場 ~新設住宅着工戸数、60万戸台の時代に~

目 次 (1) 財政事情 1 (2) 一般会計税収 歳出総額及び公債発行額の推移 2 (3) 公債発行額 公債依存度の推移 3 (4) 公債残高の累増 4 (5) 国及び地方の長期債務残高 5 (6) 利払費と金利の推移 6 (7) 一般会計歳出の主要経費の推移 7 (8) 一般会計歳入の推移 8

⑴ 練馬区の予算規模はどのくらいですか? どんなことに予算が多く使われているのですか? 平成 27 年度の予算規模は約 2,500 億円で 児童 高齢者 障害者 生活困窮者などを支援するための経費の割合が増えています 平成 27 年度における予算額は約 2,500 億円で前年度より約 55 億円増加

2019,20年度の消費増税・関連対策の影響

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目 次 (1) 財政事情 1 (2) 一般会計税収 歳出総額及び公債発行額の推移 2 (3) 公債発行額 公債依存度の推移 3 (4) 公債残高の累増 4 (5) 国及び地方の長期債務残高 5 (6) 利払費と金利の推移 6 (7) 一般会計歳出の主要経費の推移 7 (8) 一般会計歳入の推移 8

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

(1) 駆け込み需要とその反動 前回増税時の駆け込み需要は 12 兆円程度 14 年 4 月に消費税率が 5% から 8% に上昇した際に 駆け込み需要とその反動はどの程度発生したのか 財 サービス分類別にその規模を試算する 図表 1 耐久財を中心に増税前後の消費に大きな波前回増税時の駆け込み需要と

14 日本 ( 社人研推計 ) 日本 ( 国連推計 ) 韓国中国イタリアドイツ英国フランススウェーデン 米国 図 1. 1 主要国の高齢化率の推移と将来推計 ( 国立社会保障 人口問題研究所 資料による ) 高齢者を支える

個人消費の回復を後押しする政策以外の要因~所得の減少に歯止め、節約志向も一段落

平成18年度年金基礎研究会 海外年金制度調査班資料

スライド 1

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

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PowerPoint プレゼンテーション

平成 28 年度予算編成方針 我が国の経済は 景気は引き続き緩やかな回復基調を維持しているが その影響が地方経済にまで十分に行き渡っているとは言えず 我々地方の行財政運営の基本となる税等一般財源を確保するためには 臨時財政対策債に頼らざるを得ない状況が続くものと考える また 税制改正も予測されること

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統計から見た三重県のスポーツ施設と県民のスポーツ行動

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市場と経済A

< 参考資料 目次 > 1. 平成 16 年年金制度改正における給付と負担の見直し 1 2. 財政再計算と実績の比較 ( 収支差引残 ) 3 3. 実質的な運用利回り ( 厚生年金 ) の財政再計算と実績の比較 4 4. 厚生年金被保険者数の推移 5 5. 厚生年金保険の適用状況の推移 6 6. 基

個人消費活性化に対する九州企業の意識調査

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平成18年度地方税制改正(案)について

プレゼン

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Economic Trends マクロ経済分析レポート テーマ : 消費増税使途見直しの影響 2017 年 9 月 26 日 ( 火 ) ~ 景気次第では8% 引き上げ時の使途見直しも検討に~ 第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 (TEL:03-5221-4531) ( 要旨 ) 消費増税の使途見直しは 社会保障の充実以外にも 借金返済額の縮小を通じて民間部門の負担の軽減となる 軽減税率を想定した場合 総合合算分の見直しを通じて社会保障の充実分と借金返済分はそれぞれ 1.05 兆円 3.3 兆円程度と想定される となると 社会保障の充実額は 自民党案が借金返済分のうち半分とすれば約 1.65 兆円となり 民進党案は借金返済分の全額とすれば約 3.3 兆円となる 他方 希望の党案は消費税引き上げの凍結を公約に掲げている 消費増税の使途見直しに伴う実質 GDP 押し上げ効果は 借金返済分の半分を社会保障の充実に回せば 2019 年度に+0.05% ポイント 20 年度に+0.11% ポイント 21 年度に+0.14% ポイント程度となる ( 自民党案 ) しかし 借金返済分の全額を社会保障の充実に回せば 従来のケースに比べて 実質 GDPを 2019 年度に+0.10% ポイント 2020 年度に+0.22% ポイント 2021 年度には+0.27% ポイント程度の押し上げまで拡大する ( 民進党案 ) なお 消費税率の引き上げが凍結されて社会保障の充実がなされない場合 実質 GDPを 2019 年度に+0.17% ポイント押し上げた後 20 年度に+0.28% ポイント 21 年度に 0.18% ポイント押し上げることになる ( 希望の党案 ) 消費増税の使途見直しは いずれの案も借金の返済分を減少させる しかし 自民党案では借金返済分が半分残ることもあり プライマリーバランス /GDPは 2019 年度 0.16% ポイント 20 年度 0.32% ポイント 21 年度 0.32% ポイントの悪化にとどまる 一方 民進党案では借金返済分が全て社会保障の充実にあてられるため プライマリーバランス /GDPは 2019 年度 0.31% ポイント 20 年度 0.63% ポイント 21 年度 0.64% ポイントの悪化となる なお 消費増税を凍結する希望の党案では GDP 比で 2019 年度 0.21% ポイント 20 年度 0.48% ポイント 21 年度 0.52% ポイントのプライマリーバランス赤字拡大要因となり 民進党案ほどには悪化しないことになる 消費増税の使途見直しは再分配政策として検討に値する効果がある しかし 我が国が深刻なデフレ均衡から抜け切れていないこと等も勘案すれば 消費税率 8% 引き上げた際に決定した借金返済分 3.4 兆円の使途を見直すことも検討材料となろう はじめに 2019 年 10 月に予定する消費増税の使い道を巡って 増収分の一部を教育無償化 負担軽減に充当する自民党 10% への増税を凍結する希望の党 増収分を教育無償化 負担軽減に充当する民進党で対立している しかし 使途変更の効果についての実証的な政策議論は十分に行われていない そこで本稿では 消費増税の使途見直がマクロ経済に及ぼす影響について定量的に分析する

借金返済分は 3.3 兆円程度か消費税率が8% から 10% に引き上げられれば 5 兆円の恒久財源が確保されることになっている 資料 1は 社会保障と税の一体改革に基づく財源の使途を示したものである まず消費増税に伴う財源は 軽減税率を反映することで当初の6 兆円から5 兆円に引き下げられる そして 総合合算分の 4,000 億円を見送ると想定すれば 社会保障の充実には 1.05 兆円の分配になる また財源の使い道としては 消費税率引き上げによる社会保障費増に 0.45 兆円が分配される そして 基礎年金国庫負担割合 1/2 化のために 0.2 兆円が分配されることになっている 以上より 借金返済に回る金額は 軽減税率導入ベースで見れば 3.3 兆円の財政健全化効果があることになる 各案で異なる社会保障充実額と借金返済額続いて 報道されている各政党の公約が使い道の変更に及ぼす影響について検証する 消費増税に伴う財源の使途変更は 公的部門から民間部門への所得移転を意味する そこで 先に用いた消費増税財源の使い道を基に 各政党の使い道を推計すると 自民党は財政健全化分の半分を回すことによって社会保障の充実が 1.65 兆円増える一方 全部を回す民進党は同 3.3 兆円増えることになる ( 資料 2) 一方 消費増税を凍結する希望の党の負担減額を試算すると まず社会保障の充実分である 1.05 兆円が失われることになる また 財政健全化分では 全て社会保障の充実に回す民進党案と増税自体を凍結する希望の党案では減少分が大きく 半分を社会保障の充実に回す自民党案では減少分が小さいといった特徴がみられる このように 政党の違いによって社会保障の充実額や財政健全化に回る額が大きく変わってくることになる

増税の使途見直し度合いで異なる影響以下では 前述の推計結果をもとに 増税使途見直しがマクロ経済に及ぼす影響を試算する 具体的には 増税使途見直しが実質 GDPに与える影響を 借金返済の半分を社会保障充実に回す ( 自民党案 ) 借金返済分の全額を社会保障充実に回す( 民進党案 ) 消費税率引き上げを凍結する( 希望の党案 ) についてそれぞれ先行き3 年間の影響を試算した ( 資料 3 4) まず ( 自民党案 ) についてみると 2019 年度には実質 GDPを 0.12% 程度押し下げるにとどまる すなわち 現状との比較で見れば 2019 年度には 0.05% ポイント程度の実質 GDP 押し上げが期待できることになる 更に 2020 年度には実質 GDPが 0.17% そして 2021 年度には駆け込み需要の反動減の影響が緩和することで実質 GDPは 0.05% 程度の押し下げに止まることになる こうした効果も加味すれば 自民党案のGDP 押し上げ効果は 2021 年度時点で現状に比べて実質 GDPを+0.14% ポイント押し上げる効果を持つ 一方 借金返済分の全額を社会保障充実に回す ( 民進党案 ) について見ると 社会保障の充実に伴う個人消費拡大効果が見られるものの 2019 年度は実質 GDPが 0.07% 程度押し下げられることになる ただ 2020 年度には乗数効果の顕在化により実質 GDP 押し下げ効果は 0.06% 程度に縮小し 2021 年度には駆け込み需要の反動効果の出つくしなどで 実質 GDPへの影響は+0.09% 程度の押し上げ効果に転じる つまり 民進党案のGDP 押し上げ効果は 2021 年度時点で現状に比べて実質 G DPを+0.27% ポイント押し上げる効果を持つ そして 消費税率引き上げを凍結する ( 希望の党 ) の影響を試算すると 2019 年度は+0.17% ポイント程度の実質 GDP 押し上げ効果となるが 2020 年度には消費増税に伴う反動減がないこと等から実質 GDPは+0.28% ポイント程度の押し上げ効果となる そして 2021 年度には見直しなしのケースが駆け込み需要の反動減効果が剥落することから その押し上げ効果は+0.18% ポイント程度にまで縮小することになる なお 本試算では内閣府のマクロ計量モデルの乗数を用いているため 社会保障充実の効果が平均的に出現する試算となっている しかし 相対的に限界消費性向の低い世帯を中心に社会保障の充実が図られることになれば それだけGDP 押し上げ効果も変わる可能性があることには注意が必要だろう

求められる実証的な政策議論一方 増税使途見直しの効果は財政収支の動向と切り離して評価することはできない そこで続いては プライマリーバランスの見通しについて 内閣府マクロモデルの乗数を基に 増税使途見直しに伴う経済動向の変動を通じて事後的にプライマリーバランスに及ぼす影響を試算した ( 資料 5 6) まず 自民党案の前提をもとに得られた推計結果によれば 増税使途見直しに伴うプライマリーバランスへの影響は 借金返済に回る財源が半減することから GDP 比で見て 2019 年度 0.16% ポイント 2020 年度 0.32% ポイント 2021 年度 0.32% ポイントのプライマリーバランス拡大要因となる 民進党案では 借金返済分が全て社会保障の充実に回る このため プライマリーバランスへの影響はGDP 比で見て 2019 年度 0.31% ポイント 2020 年度 0.63% ポイント 2021 年度 0.64% ポイントとなり プライマリーバランスを悪化させることになる 希望の党案では 2019 年度以降の3 年間でそれぞれ 0.21% ポイント 0.48% ポイント 0.52% ポイントのプライマリーバランス /GDP 悪化要因となる すなわち 増税使途見直しはいずれも財政赤字の拡大要因となるが 増税分の殆どを社会保障に回

す民進党案よりも 増税を凍結する希望の党案の方が財政収支の悪化度合いがやや少ないことになる 以上見てきたとおり 増税使途見直しは再分配政策として検討に値する効果があるといえよう しかし 我が国が深刻なデフレ均衡にさらされていることも勘案すれば 2014 年 4 月の消費増税で得られた恒久財源 8.2 兆円のうち 借金返済に回っている 3.4 兆円分の使途を見直すことも検討に値するのではないか いずれにしても 増税の使途見直しが経済の各部門に様々な影響を及ぼすことを勘案すれば 増税の是非や使途見直しを国民に十分に納得させるには 実証的な政策議論が不可欠といえる 従って 各党は消費増税をめぐる議論において 定量的な影響分析についても議論し そのうえで国民に審判を問うべきであろう