発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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記 者 発 表(予 定)

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

_PressRelease_Reactive OFF-ON type alkylating agents for higher-ordered structures of nucleic acids

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「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

平成14年度研究報告

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生物時計の安定性の秘密を解明

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汎発性膿庖性乾癬の解明

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平成24年7月x日

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博士学位論文審査報告書

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

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公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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2014年

論文の内容の要旨

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

論文発表の概要研究論文名 :Interaction of RNA with a C-terminal fragment of the amyotrophic lateral sclerosis-associated TDP43 reduces cytotoxicity( 筋萎縮性側索硬化症関連 TD

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

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ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

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第四問 : パーキンソン病で問題となる運動障害の症状について 以下の ( 言葉を記入してください ) に当てはまる 症状 特徴 手や足がふるえる パーキンソン病において最初に気づくことの多い症状 筋肉がこわばる( 筋肉が固くなる ) 関節を動かすと 歯車のように カクカク と軋む 全ての動きが遅くな

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いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

報道解禁日 : 日本時間 2017 年 2 月 14 日午後 7 時 15 日朝刊 PRESS RELEASE 2017 年 2 月 10 日理化学研究所大阪市立大学 炎症から脳神経を保護するグリア細胞 - 中枢神経疾患の予防 治療法の開発に期待 - 要旨理化学研究所 ( 理研 ) ライフサイエンス

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

CiRA ニュースリリース News Release 2014 年 11 月 20 日京都大学 ips 細胞研究所 (CiRA) 京都大学細胞 物質システム統合拠点 (icems) 科学技術振興機構 (JST) ips 細胞を使った遺伝子修復に成功 デュシェンヌ型筋ジストロフィーの変異遺伝子を修復

研究最前線 HAL QCD Collaboration ダイオメガから始まる新粒子を予言する時代 Qantm Chromodynamics QCD 1970 QCD Keiko Mrano QCD QCD QCD 3 2

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

SNPs( スニップス ) について 個人差に関係があると考えられている SNPs 遺伝子に保存されている情報は A( アデニン ) T( チミン ) C( シトシン ) G( グアニン ) という 4 つの物質の並びによってつくられています この並びは人類でほとんど同じですが 個人で異なる部分もあ

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

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平成 30 年 5 月 22 日 報道機関各位 東北大学大学院薬学研究科 難治性疾患 ATR-X 症候群 の治療に新たな光 重度知的障がいに対する新しい治療薬候補の発見 概要東北大学大学院薬学研究科の福永浩司 ( ふくながこうじ ) 教授 岐阜薬科大学の塩田倫史 ( しおだのりふみ ) 准教授 京都大学大学院医学研究科の和田敬仁 ( わだたかひと ) 准教授らの研究グループは 重度知的障がいをきたす指定難病のひとつである ATR-X 症候群 の治療薬候補を世界で初めて発見しました ATR-X 症候群は男性で発症し 知的障がい 運動発達の遅れを特徴とした難病です 発症頻度は出生男児 5~7 万人に 1 例 日本国内では年間 10 名前後の患者が発症していると推定されています ATR-X 症候群では ATRX タンパク質が上手く機能しないため 色々な遺伝子が正常に働かなくなり 様々な症状を呈すると考えられています 本研究グループは ATR-X 症候群でみられる知的障がいに有効な治療薬の探索を行いました その結果 既に市場で安全性に関する情報が整備されている既存薬である 5- アミノレブリン酸 が今まで知られていない薬理作用により ATR-X 症候群モデルマウスの知的障がいに有効であることを発見しました ( 概要図 ) 私たちの遺伝情報 ( ヒトゲノム ) を司る DNA には 繰り返し配列により グアニン四重鎖 と呼ばれる特殊な DNA 構造をとる場所が多数存在します この構造は遺伝子の働きに重要と考えられています ATRX タンパク質はこの グアニン四重鎖 に結合し 遺伝子が正常に働くように調節します 5-アミノレブリン酸を服用すると 体内でグアニン四重鎖に作用する物質であるポルフィリンが産生され ATRX タンパク質の機能を補うことができることがわかりました グアニン四重鎖はその他の難治性疾患の病態にも関与しており 今回の発見は新しい創薬標的発見の可能性に寄与することが期待できます 本成果は 2018 年 5 月 21 日 ( 日本時間 22 日 ) に英国学術誌 Nature Medicine( 電子版 ) に掲載されます 本研究は 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 難治性疾患実用化研究事業 クロマチンリモデリング因子 ATRX タンパクの異常により www.tohoku.ac.jp

発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染色体上の責任遺伝子である ATRX の変異により男性のみで発症する X 連鎖知的障がい症候群の一つです 主症状として重度の知的障がいが挙げられますが いまだ治療薬がなく詳しい発症機構も明らかにされていません 日本国内では約 100 症例が診断されており 世界では日本の症例を含め 200 症例以上が診断されています ATR-X 症候群では ATRX 遺伝子の変異により ATRX タンパク質が機能していないことが報告されています また ATRX タンパク質は核内クロマチンリモデリング因子注 2 であり 特殊な DNA の構造体であるグアニン四重鎖注 3 に結合することで遺伝子の発現を調節することが知られています しかしながら なぜ核内で機能する因子である ATRX タンパク質の機能低下が知的障がいの原因になるのか不明でした 本研究グループは ATR-X 症候群における知的障がいの病態を ATR-X 症候群モデルマウスを用いて解析しました そして ATR-X 症候群の知的障がいに有効な薬剤の探索を試みました 2. 研究手法 成果 1)ATR-X 症候群における知的障がいの分子機構を解明 本研究グループは 学習 記憶に重要な役割を担う脳の海馬領域で ATR-X 症候群モ

デルマウスを用いて網羅的な遺伝子発現解析を行いました その結果 X 染色体上の母由来インプリント遺伝子注 4 である Xlr3b が脳特異的に異常に発現が上昇していることを発見しました また本研究グループは ATRX タンパク質が Xlr3b 遺伝子上流のグアニン四重鎖に結合し Xlr3b の DNA メチル化注 5 を制御することで Xlr3b の発現を調節していることを明らかにしました 加えて Xlr3b の異常な発現上昇が神経細胞の樹状突起 mrna 輸送注 6 を抑制することで ATR-X 症候群モデルマウスの神経機能を低下させることを発見しました 2)ATR-X 症候群における知的障がいに有効な薬剤を発見 ATRX タンパク質はグアニン四重鎖に結合し 遺伝子発現を調節することから グアニン四重鎖が治療標的のひとつとして考えられます これまで グアニン四重鎖に結合する物質とてポルフィリン骨格を有する化合物がいくつか知られています 本研究グループでは 生体内でポルフィリンを産生することができる安全性の高い薬剤 5-アミノレブリン酸 を生後 離乳してから 2 ヶ月間 ATR-X 症候群モデルマウスに投与し 認知機能に対する薬効評価を行ったところ モデルマウスの認知機能障がいが改善しました さらに 網羅的遺伝子発現解析の結果 ATR-X 症候群モデルマウス脳において発現異常がみられた遺伝子の約 70% を改善することができ その中に Xlr3b も含まれていました 3. 波及効果 今後の予定 本研究では ATR-X 症候群における知的障がいの分子機構にグアニン四重鎖が関与 することを発見し 薬剤 5- アミノレブリン酸 が認知機能障がいの改善に有効である ことを確認しました これは 難治性疾患 ATR-X 症候群 の治療に新たな光を投げ かける画期的な成果といえます また グアニン四重鎖は近年 C9ORF72 遺伝子の 注 7 もつ GGGGCC リピート配列の異常伸長による家族性の筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 等 様々な難治性神経疾患の病態においても注目されています 今回の発見は こうし た難病の新しい創薬標的の可能性にも寄与することが期待できます 4. 研究プロジェクトについて 本研究は 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 及び文部科学省科学研 究費助成事業の支援を受けて行われました

< 用語解説 > 注 1. ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ): 男性のみに発症し 特徴的な顔立ち 知的障がい 運動発達の遅れ α サラセミア 骨格異常 外 性器異常 消化管異常を特徴とした難病 注 2. クロマチンリモデリング因子 :DNA とヒストンタンパク質からなるクロマチ ンの構造変化による遺伝子発現の制御機構に関与する因子 注 3. グアニン四重鎖 : DNA や RNA の高次構造の一種 グアニンに富む核酸配 列で形成される 4 つのグアニンが四量体を作った面 (G- カルテット ) が 2 ~3 面重なった構造体 注 4. インプリント遺伝子 : 父親由来 または母親由来の対立遺伝子のみを発現す る遺伝子 親個体の精子や卵子の形成過程において DNA メチル化などエピジェネティックな標識がゲノムに刷り込まれ この標識にしたがって次世代の個体で転写調節が行われることで対立遺伝子による遺伝子転写の違いが生じる 注 5. DNA メチル化 :DNA のシトシン グアニン配列の部分でシトシンにメチル 基がつくこと 遺伝子発現を制御している部分 ( プロモーター領域等 ) がメチル化されると その遺伝子発現が抑制される X 染色体不活性化 ゲノムインプリンティングなど多くの生物現象に関わるエピジェネティクス制御の一つ 注 6. 神経細胞の樹状突起 mrna 輸送 : 神経細胞で産生される mrna の内 特 定の種類の mrna のみが樹状突起に輸送されることが知られている 神経細胞において mrna からのタンパク質への翻訳は細胞体のみならず樹状突起でも行われ この局所タンパク質合成の破たんは精神発達障がいの原因となりうることが示唆されている 注 7. 筋萎縮性側索硬化症 (ALS): 重篤な筋肉の萎縮と筋力低下をきたす神経変性疾 患で 筋肉の運動を支配する運動ニューロンが選択的に死滅することで発症する 近年 C9ORF72 遺伝子のイントロン 1 内の 6 塩基くりかえし配列 (GGGGCC)n の異常伸長が 白人の孤発性および家族性筋萎縮性側索硬化症の最も頻度の高い原因であると報告されている

< 論文タイトルと著者 > タイトル :Targeting G-quadruplex DNA as cognitive function therapy for ATR-X syndrome 著者 :Norifumi Shioda, Yasushi Yabuki, Kouya Yamaguchi, Misaki Onozato, Yue Li, Kenji Kurosawa, Hideyuki Tanabe, Nobuhiko Okamoto, Takumi Era, Hiroshi Sugiyama, Takahito Wada, Kohji Fukunaga 掲載誌 :Nature Medicine Doi:10.1038/s41591-018-0018-6 <お問い合わせ先 > 福永浩司東北大学大学院薬学研究科 教授 TEL:022-795-6836 E-mail:kfukunaga@m.tohoku.ac.jp 塩田倫史岐阜薬科大学 准教授 TEL:058-230-8100 E-mail:shioda@gifu-pu.ac.jp 和田敬仁京都大学大学院医学研究科 准教授 TEL:075-753-4648 E-mail:wadataka@kuhp.kyoto-u.ac.jp <AMED 事業に関するお問い合わせ先 > 国立研究開発法人日本医療研究開発機構戦略推進部難病研究課 Tel:03-6870-2223 E-mail:nambyo-info@amed.go.jp