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N 39 子宮頸がんの新しい取扱い規約改定のポイント Reviced General Rules and Clinical and Pathological Management of Uterine Cervical Cancer はじめに 子宮頸癌の臨床進行期分類は最も早くに作成された分類で,1928 年に腫瘍の広がりに応じて進行期を分類されたものである.2008 年に改定された子宮頸癌の新 FIGO 分類 1) に基づいて日本産科婦人科学会, 日本病理学会, 日本医学放射線学会が中心となり新しい進行期分類がまとめられ,2012 年より発刊されるはこびとなった. 今回の改定の特色としてはこれまでは FIGO 分類と本邦の取扱い規約で若干の差違 ( 進行期のアルファベットの表記法,ⅠA 期の頸部腺癌 ) が存在したが今回はほぼ FIGO 分類に準じるものとなっている. また, これまで臨床進行期診断には CT や MRI などの画像診断は用いられないことになっていたが, 今回の改定では現状に即して画像診断を用いることを容認していることと,ⅡA 期が画像サイズによって細分類されたこと, これらが大きな改正点であろう. 規約改定と同時に日本産科婦人科学会では進行期, 組織型, 治療法, 予後などの腫瘍のデータを全国の主な施設に調査依頼しその結果を毎年日産婦誌の腫瘍統計として報告しているが, 登録施設においては今回の改定によって調査項目に変更があることに注意を願いたい. 新進行期分類への改定のポイント 新旧の取扱い規約を表 1 と表 2 に示す. 1. 表記はすべて大文字に旧分類では Ⅰa や Ⅰb などのようにアルファベットは小文字が用いられていたが, 新しい取扱い規約から FIGO 分類と同様に ⅠA や ⅠB などのように大文字表記になった. 学会発表や専門医試験の症例報告などの時に誤って小文字を使用しないように注意を願いたい. 2. 旧分類 0 期 : 上皮内癌 の取り扱い表 1 の注 1 に示すように, 旧分類では上皮内癌に関しては進行期 0 期として取り扱われていたが, 新分類ではこれが削除された. その理由として, 今回の FIGO の検討ですべての腫瘍で, 非浸潤性病変である 0 期を削除することに決定されたが, 子宮頸癌の 0 期 : 上皮内癌 の削除もその一環である. しかし日産婦腫瘍委員会で行っている腫瘍登録ではこれまで同様 0 期の症例数も登録することになっているので注意が必要である. ちなみにここでいう 0 期とは Tis いわゆる上皮内病変 (CIN 3) で, 従来用いられていた上皮内癌と高度異形成上皮が含まれる. 3. 進行期決定に際して画像診断の役割旧分類では リンパ管造影, 動 静脈造影, 腹腔鏡,CT,MRI 等による検査結果は治療計画決定に使用するのは構わないが, 進行期の決定に際してはこれらの結果に影響されてはならない と明確に述べられていたが, 本改定ではリンパ節転移の評価や腫瘍の進展の評価に画像診断を用いることは必須ではないとしながらもこれを認めている. 事実上, ほとんどの施設では進行期診断に CT,MRI,PET-CT などの画像診断を用いることになるだろう. 平成 24 年度の腫瘍登録からは画像診断で基靱帯浸潤や病巣の大きさなどを記載するようになり, 各施設において進行期診断に用いた画像データを整理しておくことが肝要である.

N 40 日産婦誌 65 巻 7 号 4. 微小浸潤, 浸潤頸部腺癌については扁平上皮癌と同様に分類 ⅠA 期は 間質浸潤の縦軸方向の幅を 7mm をこえないものに規定し, さらに浸潤の深さを 3mm をこえないもの (ⅠA1) と 5mm をこえないもの (ⅠA2) という規定そのものはこれまでと変わらないが, 腺癌に関してはこれまでのわが国の取扱い規約では FIGO 分類と異なり,ⅠA1 と ⅠA2 の細分類を行わないこととなっていた. 今回の改定では FIGO 分類に準じて扁平上皮癌と同様に細分類を行うこととなった. 5.ⅡA 期と ⅡA 2 期の細分類の創設新分類 ( 表 2) の注 2 に示すように, 旧分類では ⅡA 期は 腹壁浸潤が認められるが, 子宮傍組織浸潤は認められないもの であったが, 新分類では腫瘍のサイズによって ⅡA 1 期 : 病巣が 4cm 以内のもの と ⅡA 2 期 : 病巣が 4cm をこえるもの が細分化された. これは FIGO Annual Report database からのデータ解析で, 進行期 ⅡA の症例でも進行期 ⅠB と同様に, 最大腫瘍径に代表される腫瘍の大きさが予後に影響を与えることが明らかになったからである. 今回の改定にあたり議論が行われた事項 1. 手術進行期分類か臨床進行期分類かこれは長年議論されてきた事項であるが, その第一の理由は術前の画像診断が進歩したとはいえ臨床進行期分類より手術進行期分類の方が正確であるという意見である 2). 第二は FIGO 進行期分類にあるように, 子宮頸癌は主に骨盤内の局所病変を分類すべきである ( 表 1) 旧臨床進行期分類 (1997 年 ) 0 期 : 上皮内癌注 1 Ⅰ 期 : 癌が子宮頸部に限局するもの ( 体部浸潤の有無は考慮しない ). Ⅰa 期 : 組織学的にのみ診断できる浸潤癌. 肉眼的に明らかな病巣はたとえ表層浸潤であっても Ⅰb 期とする. 浸潤は, 計測による間質浸潤の深さが 5mm 以内で, 縦軸方向の広がりが 7mm をこえないものとする. 浸潤の深さは, 浸潤がみられる表層上皮の基底膜より計測して 5mm をこえないものとする. 脈管 ( 静脈またはリンパ管 ) 侵襲があっても進行期は変更しない. Ⅰa1 期 : 間質浸潤の深さが 3mm 以内で, 広がりが 7mm をこえないもの. Ⅰa2 期 : 間質浸潤の深さが 3mm をこえるが 5mm 以内で, 広がりが 7mm をこえないもの. Ⅰb 期 : 臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの, または臨床的に明らかではないが Ⅰa 期をこえるもの. Ⅰb1 期 : 病巣が 4cm 以内のもの. Ⅰb2 期 : 病巣が 4cm をこえるもの. Ⅱ 期 : 癌が子宮頸部をこえて広がっているが, 骨盤壁または腹壁下 1/3 には達していないもの. Ⅱa 期 : 腹壁浸潤が認められるが, 子宮傍組織浸潤は認められないもの. Ⅱb 期 : 子宮傍組織浸潤の認められるもの. Ⅲ 期 : 癌浸潤が骨盤壁にまで達するもので, 腫瘍塊と骨盤壁との間に cancerfreespace を残さない. または, 腟壁浸潤が下 1/3 に達するもの. Ⅲa 期 : 腹壁浸潤は下 1/3 に達するが, 子宮傍組織浸潤は骨盤壁にまでは達していないもの. Ⅲb 期 : 子宮傍組織浸潤が骨盤壁にまで達しているもの. または明らかな水腎症や無機能腎を認めるもの. Ⅳ 期 : 癌が小骨盤腔をこえて広がるか, 膀胱, 直腸粘膜を侵すもの. Ⅳa 期 : 膀胱, 直腸粘膜への浸潤があるもの. Ⅳb 期 : 小骨盤腔をこえて広がるもの.

N 41 ( 表 2) 新臨床進行期分類 (2012 年 ) Ⅰ 期 : 癌が子宮頸部に限局するもの ( 体部浸潤の有無は考慮しない ). ⅠA 期 : 組織学的にのみ診断できる浸潤癌. 肉眼的に明らかな病巣はたとえ表層浸潤であってもⅠb 期とする. 浸潤は, 計測による間質浸潤の深さが 5mm 以内で, 縦軸方向の広がりが 7mm をこえないものとする. 浸潤の深さは, 浸潤がみられる表層上皮の基底膜より計測して 5mm をこえないものとする. 脈管 ( 静脈またはリンパ管 ) 侵襲があっても進行期は変更しない. ⅠA1 期 : 間質浸潤の深さが 3mm 以内で, 広がりが 7mm をこえないもの. ⅠA2 期 : 間質浸潤の深さが 3mm をこえるが 5mm 以内で, 広がりが 7mm をこえ ないもの. ⅠB 期 : 臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの, または臨床的に明らかではないが ⅠA 期をこえるもの. ⅠB1 期 : 病巣が 4cm 以内のもの. ⅠB2 期 : 病巣が 4cm をこえるもの. Ⅱ 期 : 癌が子宮頸部をこえて広がっているが, 骨盤壁または腟壁下 1/3 には達していないもの. Ⅱ A 期 : 腟壁浸潤が認められるが, 子宮傍組織浸潤は認められないもの. 注 2 Ⅱ A1 期 : 病巣が 4cm 以内のもの. Ⅱ A2 期 : 病巣が 4cm をこえるもの. Ⅱ B 期 : 子宮傍組織浸潤の認められるもの. Ⅲ 期 : 癌浸潤が骨盤壁にまで達するもので, 腫瘍塊と骨盤壁との間に cancerfreespace を残さない. または, 腟壁浸潤が下 1/3 に達するもの. Ⅲ A 期 : 腹壁浸潤は下 1/3 に達するが, 子宮傍組織浸潤は骨盤壁にまでは達していないもの. Ⅲ B 期 : 子宮傍組織浸潤が骨盤壁にまで達しているもの. または明らかな水腎症や無機能腎を認めるもの. Ⅳ 期 : 癌が小骨盤腔をこえて広がるか, 膀胱, 直腸粘膜を侵すもの. Ⅳ A 期 : 膀胱, 直腸粘膜への浸潤があるもの. Ⅳ B 期 : 小骨盤腔をこえて広がるもの. という意見, 第三に途上国ではいまだ進行癌がほとんどであり, まだ手術設備が十分整っていないなどの理由から手術進行期分類を世界的に受け入れられる状況にないという意見である. FIGO としても手術進行期分類の方が予後の推定に勝る場合もあることを把握しており, 初回治療として手術が施行された症例, とくに ⅠB 2 期と Ⅱ 期 (ⅡA 期と ⅡB 期 ) において, 臨床進行期分類である FIGO 進行期分類と手術進行期である pt(tnm) を比較すると前者において不正確な場合がある 3). 手術治療が必須の初期病変においては, 腫瘍サイズや腟 基靱帯浸潤などの局所病変を評価する手術進行期分類は有用である. しかし, 局所進行病変や末期病変などの初回手術不能症例においては腫瘍サイズや腟 基靱帯浸潤などを評価することは不可能である. FIGO は手術進行期分類の有用性は理解しながらも, 費用対効果やいくつかの問題に関して科学的に検討し, 放射線療法など, 手術以外にも有効な治療法もある点に関しても議論する必要があるとしている. 2.ⅠA 期 ( 早期浸潤, 微小浸潤のサイズ ) についていくつかの病理学的データから, 微少な間質浸潤についての取扱いについて議論されたが, これは変更せずに進行期 ⅠA1 として残すことに決定された. 議論の内容としては, CIN3 病変の円錐切除標本をより詳細に観察すると通常の 12 分割ではみつからなかったような極わずかな間質浸潤がみつけられる可能性があるが, このような症例は円錐切除術で

N 42 日産婦誌 65 巻 7 号 治療終了しても CIN3 と予後には変わりがない. このような病理学的に検出される早期間質浸潤のような臨床的に意味をなさない病変が ⅠA 1 期の約 80% を占め, この予後予測因子としての価値を希釈していると言う問題がある 4). 今回, 進行期 ⅠA 期とくに ⅠA 1 期を変更する決定に至らなかった理由としては, 会議に提出された病理学的データの解釈が現段階では世界的に受け入れられなかったということである. 他に浸潤病巣が連続していない場合のサイズの評価法について議論が残された. 3.ⅡA 期,ⅡB 期,ⅢB 期の細分類について ⅡA 期については腫瘍最大径 4 センチをカットオフとして分類することの有用性に関してはデータの裏付けがあり今回の改定に至ったが,ⅡB 期に関してはこれを支持するデータに乏しく細分類を追加する決定には至らなかった. また,ⅡB 期と ⅢB 期の基靱帯浸潤が片側性か両側性かで分類することに関してはどちらの場合も治療法に変わりはなくまたその後の取り扱いに変わりがないという理由で, 特に変更は行わなかった 5). 4. 脈管侵襲について脈管侵襲 (Lymphovascular space invasion(lvsi)) については以前からされている課題であるが 6)7), 今回の改定では採用されなかった. これは, 病巣の進展を評価する定義や有用性について議論すべきことが残され, さらなる検討が必要ということであった. 5. リンパ節転移について子宮頸癌においてリンパ節転移がある場合は予後不良であり, それはとくに早期病変で顕著である 8)9). 画像診断技術の進歩や早期浸潤癌におけるリンパ節の病理組織学的検討の報告があるが 10)11), 今回の改定ではリンパ節転移の評価は臨床進行期分類に含めないことを決定された. しかし,FIGO ではリンパ節転移の評価や腫瘍の進展の評価に画像診断を用いることを推奨している. 参考文献 1) Pecorelli S, Zigliani, L, Odicino F. Revised FIGO staging for carcinoma of the cervix. Int J Gynecol Obstet 2009;105:107 108 2) Hricak H, Gatsonis C, Coakley FV, Snyder B, Reinhold C, Schwartz LH, et al. Early invasive cervical cancer:ct and MR imaging in preoperative evaluation ACRIN/GOG comparative study of diagnostic performance and interobserver variability. Radiology 2007;245:491 498 3) Pecorelli S, editor. 26th Annual Report on the Results of Treatment in Gynecological Cancer, vol. 95(Suppl 1). Int J Gynecol Obstet 2006:S1 258 4) Burghardt E, Ostör A, Fox H. The new FIGO definition of cervical cancer stage ⅠA:a critique. Gynecol Oncol 1997:65:1 5 5) Horn LC, Fischer U, Raptis G, Bilek K, Hentschel B. Tumor size is of prognostic value in surgically treated FIGO stage Ⅱ cervical cancer. Gynecol Oncol 2007:107:310 315 6) Aoki Y, Sasaki M, Watanabe M, Sato T, Tsuneki I, Aida H, et al. High-risk group in nodepositive patients with stage ⅠB, ⅡA, and ⅡB cervical carcinoma after radical hysterectomy and postoperative pelvic irradiation. Gynecol Oncol 2000;77:305 309 7) Sakuragi N, Satoh C, Takeda N, Hareyama H, Takeda M, Yamamoto R, et al. Incidence and distribution pattern of pelvic and paraaortic lymph node metastasis in patients with Stages ⅠB, ⅡA, and ⅡB cervical carcinoma treated with radical hysterectomy. Cancer 1999;85:1547 1554

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