レーザ計測器を裏で支える熱センサー技術 (F.Ferretti, D.Scorticati - LaserPoint srl 株式会社アストロン大竹祐吉 ) 1. はじめにレーザパワー計測器は レーザ光を熱に変換するアブソーバー ( 吸収体 ) 熱を電気信号に変換するトランスデューサー ( 変換器

Similar documents
EOS: 材料データシート(アルミニウム)

ACモーター入門編 サンプルテキスト

POCO 社の EDM グラファイト電極材料は 長年の技術と実績があり成形性や被加工性が良好で その構造ならびに物性の制御が比較的に容易であることから 今後ますます需要が伸びる材料です POCO 社では あらゆる工業製品に対応するため 各種の電極材料を多数用意しました EDM-1 EDM-3 EDM

円筒型 SPCP オゾナイザー技術資料 T ( 株 ) 増田研究所 1. 構造株式会社増田研究所は 独自に開発したセラミックの表面に発生させる沿面放電によるプラズマ生成技術を Surface Discharge Induced Plasma Chemical P

PW_Products_A4_Japan_Web

Microsystem Integration & Packaging Laboratory

実験題吊  「加速度センサーを作ってみよう《

EC-1 アプリケーションノート 高温動作に関する注意事項

【NanotechJapan Bulletin】10-9 INNOVATIONの最先端<第4回>

CP-PC-2263_HP7_H1-H4_13版-fix

どのような便益があり得るか? より重要な ( ハイリスクの ) プロセス及びそれらのアウトプットに焦点が当たる 相互に依存するプロセスについての理解 定義及び統合が改善される プロセス及びマネジメントシステム全体の計画策定 実施 確認及び改善の体系的なマネジメント 資源の有効利用及び説明責任の強化

Autodesk Inventor Skill Builders Autodesk Inventor 2010 構造解析の精度改良 メッシュリファインメントによる収束計算 予想作業時間:15 分 対象のバージョン:Inventor 2010 もしくはそれ以降のバージョン シミュレーションを設定する際

「世界初、高出力半導体レーザーを8分の1の狭スペクトル幅で発振に成功」

富士通セミコンダクタープレスリリース 2009/05/19

_AV1_FrontCover_Base

急速加熱と冷却が成形品質の改善に有益なのはご承知の通りです 例えばプラスチックのガラス転移温度またはそれ以上に型を加熱することで高い表面品質とウェルドラインの改善 表面転写の向上 射出圧力の低下などを達成することが可能です 繊維が含まれている部品の表面品質は格段に向上されるのは成形表層に繊維が出現し

エラー動作 スピンドル動作 スピンドルエラーの計測は 通常 複数の軸にあるセンサーによって行われる これらの計測の仕組みを理解するために これらのセンサーの 1つを検討する シングル非接触式センサーは 回転する対象物がセンサー方向またはセンサー反対方向に移動する1 軸上の対象物の変位を測定する 計測

業務用コンピュータサーバーに関する

FANUC i Series CNC/SERVO

J I S J A S O 廃止提案書 1. 対象規格 JASO M 304:02 ( 自動車用発泡体 ) 2. 廃止の背景と理由この規格は自動車用の断熱 防音 防振及びクッション用材料の性能 試験方法を標準化する趣旨で 1969 年に制定され 以後 4 回の改正が行われた なお 本年度の定期見直し

Layout 1

1.1 テーラードブランクによる性能と歩留りの改善 最適な位置に最適な部材を配置 図 に示すブランク形状の設計において 製品の各 4 面への要求仕様が異なる場合でも 最大公約数的な考えで 1 つの材料からの加工を想定するのが一般的です その結果 ブランク形状の各 4 面の中には板厚や材質

フロントエンド IC 付光センサ S CR S CR 各種光量の検出に適した小型 APD Si APD とプリアンプを一体化した小型光デバイスです 外乱光の影響を低減するための DC フィードバック回路を内蔵していま す また 優れたノイズ特性 周波数特性を実現しています

SC-S21 デジタル指示調節計 特長 奥行き 63mm のコンパクトサイズ 新型オートチューニングにより 素早い応答性と収束を実現 スタートアップチューニングを搭載し オートチューニング実行時間を削減 付加仕様として 上位システムとの通信機能を選択可能 4 種類の設定値を登録可能 大きく見やすい表

<4D F736F F D2091AA92E895FB964082C982C282A282C45F >

Micro Fans & Blowers Innovation in Motion マイクロファン & ブロワー 有限会社シーエス技研 PTB 事業部東京オフィス 千葉県市原市辰巳台西

放射線検出モジュール C12137 シリーズ 高精度で小型の高感度放射線検出モジュール C12137シリーズは シンチレータとMPPC (Multi-Pixel Photon Counter) を内蔵した 137 Cs ( セシウム137) などからのγ 線検出を目的とするモジュールです 入射したγ

コンクリート工学年次論文集 Vol.27

Microsoft Word - NJM7800_DSWJ.doc

C58.indd

形式 :AEDY 直流出力付リミッタラーム AE UNIT シリーズ ディストリビュータリミッタラーム主な機能と特長 直流出力付プラグイン形の上下限警報器 入力短絡保護回路付 サムロータリスイッチ設定方式 ( 最小桁 1%) 警報時のリレー励磁 非励磁が選択可能 出力接点はトランスファ形 (c 接点

TITAN マルチコンタクト プローブ TITAN マルチコンタクト プローブは MPI の独自の TITAN RF プロービング技術をさらに発展させた RF/ マイクロ波デバイス特性評価用プローブです 最大 15 コンタクトまでのプロービングが可能で 各コンタクトは RF ロジック バイパス電源の

富士通セミコンダクタープレスリリース 2013/04/22

再生材料や部品の利用促進を具体的に進めていることから その努力を示すものとして 本規格では マテリアルリサイクル及びリユースのみを対象としている 機器製造業者が直接その努力に関わるという 観点からも 本規格では 再生資源をマテリアルリサイクルのみに限定している Q5) 自らが資源循環利用をコントロー

<50656E D B83584D CC8A4F8ACF>

NJM 端子負定電圧電源 概要 NJM7900 シリーズは, シリーズレギュレータ回路を 1 チップ上に集積した負出力 3 端子レギュレータ IC です 放熱板を付けることにより,1A 以上の出力電流にて使用可能です 用途はテレビ, ステレオ等の民生用機器から通信機, 測定器等の工業用電

Mirror Grand Laser Prism Half Wave Plate Femtosecond Laser 150 fs, λ=775 nm Mirror Mechanical Shutter Apperture Focusing Lens Substances Linear Stage

CW単品静解析基礎

PRESS RELEASE 報道関係者各位年 5 月 13 日 Corsair 正規代理店 Memory 株式会社リンクスインターナショナル Corsair ( コルセアメモリ Memory ) のデスクトップ用 240Pin DDR3 メモリと DDR2 メモリXMSシリーズ全 18 種類発売開始

ベースライトのスタンダード 色を自然に引き立てる Ra95 スタンダードタイプも光束維持率を向上 HIDタイプは約 6 万時間のロングライフ 1

作業部会長からの報告 資料 -2 J PARCハドロン実験施設における放射性物質漏えい事故検証に係る有識者会議作業部会 1. 作業の経過 2. 放射性物質漏えいの発生と主要な原因 3. 安全管理体制の問題点 第 2 回有識者会議 2013/07/05 KKR ホテル東京 1 1. 作業の経過 第 1

特長 01 裏面入射型 S12362/S12363 シリーズは 裏面入射型構造を採用したフォトダイオードアレイです 構造上デリケートなボンディングワイヤを使用せず フォトダイオードアレイの出力端子と基板電極をバンプボンディングによって直接接続しています これによって 基板の配線は基板内部に納められて

超硬限界栓 H7 ( 工作用 ) CARBIDE IMIT PUG GAUGES 耐久性抜群! 熱膨張に強く 経済性の良い超硬合金製栓です M 質量 3961 TP1-H7 φ g 18, TP11-H7 φ11 58g 21, TP

エレベータージャーナル No7

問題 バイポーラ電源がないと 正と負の電圧や電流を瞬断なくテスト機器に供給することが困難になります 極性反転リレーやスイッチ マトリクスを持つ 1 象限または 2 象限電源では V またはその近傍に不連続が生じ これが問題になる場合があります ソリューション 2 象限電圧のペアを逆直列に接続すれば

単板マイクロチップコンデンサ / 薄膜回路基板

QOBU1011_40.pdf

形式 :W2VS 絶縁 2 出力小形信号変換器みにまる W2 シリーズ 直流入力変換器 ( アナログ形 ) 主な機能と特長 直流信号を入力とするコンパクト形プラグイン構造の変換器 アナログ回路により直流信号を統一信号に変換 高速応答形を用意 ワールド電源を用意 密着取付可能 アプリケーション例 プロ

230 V ホットランナシステム用コントローラー 年間保証 HPS-C-SLOT + 経済的なスロットコントローラー HPS-C-SLOT + コントローラは キャビティ数の少ないホットランナシステムの精密な制御のために設計されています 1 つのコントローラーは最高 12 ゾーンま

序章 グロス測定 GLOSS-CHALKING グロスは 光を屈折させる能力により特徴づけられる表面光学物性である 光線が一定の入射角 ε で表面にあたると ( 例 : ラッカー ) そのほとんどは塗料の層を貫通し 残りが反射する 通常 塗料やワニスの測定結果は グロス単位で表示される

絶対最大定格 (T a =25 ) 項目記号定格単位 入力電圧 V IN 消費電力 P D (7805~7810) 35 (7812~7815) 35 (7818~7824) 40 TO-220F 16(T C 70 ) TO (T C 25 ) 1(Ta=25 ) V W 接合部温度

ラックの取り付け

PowerPoint プレゼンテーション

V- リング 1 / 11 V- リンク の概要と機能について 概要フォーシェダ V- リングは回転軸用のユニークなゴムシールです 1960 年代に開発されて以来 世界中であらゆる業界の OEM や補修市場において幅広く使われてきました V- リングはベアリング内のグリースを保持したまま塵や埃 水ま

NJM78M00 3 端子正定電圧電源 概要 NJM78M00 シリーズは,NJM78L00 シリーズを更に高性能化した安定化電源用 ICです 出力電流が 500mA と大きいので, 余裕ある回路設計が可能になります 用途はテレビ, ステレオ, 等の民生用機器から通信機, 測定器等の工業用電子機器迄

等価回路図 絶対最大定格 (T a = 25ºC) 項目記号定格単位 入力電圧 1 V IN 15 V 入力電圧 2 V STB GND-0.3~V IN+0.3 V 出力電圧 V GND-0.3~V IN+0.3 V 出力電流 I 120 ma 許容損失 P D 200 mw 動作温度範囲 T o

elm1117hh_jp.indd

Microsoft Word - QEX_2014_feb.doc

形式 :PDU 計装用プラグイン形変換器 M UNIT シリーズ パルス分周変換器 ( レンジ可変形 ) 主な機能と特長 パルス入力信号を分周 絶縁して単位パルス出力信号に変換 センサ用電源内蔵 パルス分周比は前面のスイッチで可変 出力は均等パルス オープンコレクタ 電圧パルス リレー接点パルス出力

ザワード CPU クーラー標準品ラインアップ PCN014 対応ソケット :Intel LGA775 製品名 :LGA775 用 CPUクーラー 型番 :PCN014 コード : - ヒートシンク寸法 :Φ 90x40(H)mm ヒートシンク材質 :AL6063-T5 ファン :B HP

LOS Detection Comparison in Optical Receiver

ISO 9001:2015 改定セミナー (JIS Q 9001:2015 準拠 ) 第 4.2 版 株式会社 TBC ソリューションズ プログラム 年版改定の概要 年版の6 大重点ポイントと対策 年版と2008 年版の相違 年版への移行の実務

生産ライン・設備機器メーカー双方の課題をIoTで解決!

研究成果報告書

5989_5672.qxd

MIR シリーズの概要 MlRシリーズは受光面積 2.2mmX2.2mm の高感度赤外線サ-モパイルです サ-モパイルは 半導体製造技術により 100 対の熱電対を受光部に集積したものです サ-モパイルは 熱起電力型素子ですので バイアス電圧や 内蔵トランジスタ用電源といったものを必要と致しません

Microsoft PowerPoint - 1.プロセス制御の概要.pptx

1 熱, 蒸気及びボイラーの概要 問 10 伝熱についての記述として, 誤っているものは次のうちどれか (1) 金属棒の一端を熱したとき, 熱が棒内を通り他端に伝わる現象を熱伝導という (2) 液体又は気体が固体壁に接触して流れ, 固体壁との間で熱が移動する現象を熱伝達又は対流熱伝達という (3)

RMS(Root Mean Square value 実効値 ) 実効値は AC の電圧と電流両方の値を規定する 最も一般的で便利な値です AC 波形の実効値はその波形から得られる パワーのレベルを示すものであり AC 信号の最も重要な属性となります 実効値の計算は AC の電流波形と それによって

音楽用語では Allegro ( アレグロ ) は 速く という意味になります 太陽電池製造設備をオーケストラに例えた場合 LPKF Allegro レーザースクライビングシステムは 全体的な目標である グリッドパリティ ( 系統電力との等価 ) の達成に完璧に貢献してくれる世界的レベルのプレーヤー

CLEFIA_ISEC発表

Microsoft PowerPoint - mp11-06.pptx

HAYNES Ti-3Al-2.5V 合金 主な特徴軽量 高強度 HAYNES Ti-3Al-2.5V 合金 (UNS R56320) は 軽量で強度が高い合金です この合金は高い比強度を有しており 重量を軽減できるという設計上の大きな利点を提供します Ti-3Al-2.5V 合金は

Application Note LED 熱設計について 1. 熱設計の目的 LED を用いた製品設計を行なう上で 熱の発生に注意が必要です LED の使用できる温度はジャンクション温度 (Tj) により決められます この Tj が最大値を超えると著しい光束低下 場合によっては故障モード ( 例えば


株式会社佐藤計量器製作所宮城工場校正技術課は 認定基準として ISO/IEC (JIS Q 17025) を用い 認定スキームを ISO/IEC に従って運営されている JCSS の下で認定されています JCSS を運営している認定機関 (IAJapan) は アジア太平洋試

CMOS リニアイメージセンサ用駆動回路 C10808 シリーズ 蓄積時間の可変機能付き 高精度駆動回路 C10808 シリーズは 電流出力タイプ CMOS リニアイメージセンサ S10111~S10114 シリーズ S10121~S10124 シリーズ (-01) 用に設計された駆動回路です セン

Microsoft Word - TA79L05_06_08_09_10_12_15_18_20_24F_J_P11_070219_.doc

O-27567

総合仕様

GC1040.表 [更新済み]

p ss_kpic1094j03.indd

光変調型フォト IC S , S6809, S6846, S6986, S7136/-10, S10053 外乱光下でも誤動作の少ない検出が可能なフォト IC 外乱光下の光同期検出用に開発されたフォトICです フォトICチップ内にフォトダイオード プリアンプ コンパレータ 発振回路 LE

1-16

EcoSystem 5 Series LED Driver Overview (369754)

COMSOL Multiphysics®Ver.5.3 パイプ流れイントロダクション

indd

この精度を 鹿児島 - 札幌 間の直線距離 ( 約 1600km) の道路で例えると 道路上の直線でのブレは約 1cm 図 1 高精度のトラッキング かつてテープストレージにサーボバンドが採用されていなかった時代には テープを初期化する際にサーボパターンを書いていた しかし 書き込まれたサーボパター

9 2

() 実験 Ⅱ. 太陽の寿命を計算する 秒あたりに太陽が放出している全エネルギー量を計測データをもとに求める 太陽の放出エネルギーの起源は, 水素の原子核 4 個が核融合しヘリウムになるときのエネルギーと仮定し, 質量とエネルギーの等価性から 回の核融合で放出される全放射エネルギーを求める 3.から

Microsoft Word - RHT50-ja-JP_V2.4.doc

1

Microsoft PowerPoint - 第7章(自然対流熱伝達 )_H27.ppt [互換モード]

01盤用熱対策機器_coolcabi.indd

新事業分野提案資料 AED(自動体外式除細動器) 提案書

Microsoft PowerPoint _40

形式 :KAPU プラグイン形 FA 用変換器 K UNIT シリーズ アナログパルス変換器 ( レンジ可変形 ) 主な機能と特長 直流入力信号を単位パルス信号に変換 オープンコレクタ 5V 電圧パルス リレー接点出力を用意 出力周波数レンジは前面から可変 ドロップアウトは前面から可変 耐電圧 20

00_testo350カタログ貼込.indd

UL 規格規UL(Underwriters Laboratories.lnc) は 米国の火災保険業者によって 1894 年に設立された非営利の試験機関で 火災 盗難 その他の事故から人命 財産を守ることを目的として 材料 部品 および製品の安全規格の制定 試験 承認登録 検査などの業務を行っていま

Transcription:

レーザ計測器を裏で支える熱センサー技術 (F.Ferretti, D.Scorticati - LaserPoint srl 株式会社アストロン大竹祐吉 ) 1. はじめにレーザパワー計測器は レーザ光を熱に変換するアブソーバー ( 吸収体 ) 熱を電気信号に変換するトランスデューサー ( 変換器 ) および冷却システムの3つから成り 一見 単純な装置と思われがちである 本文では 1,200W までの高出力を計測できるように開発された最先端の空冷計測器と この計測器を支えるたくさんの技術を紹介することで 読者の皆様にいくつかのヒントを与えることを期待するものである 2. 最先端技術のレーザ計測器今日 加工用レーザは高出力化が進み パワー密度の非常に高いレーザが利用されている その一方で 高出力化のレベルに応じたレーザパワーを 簡単かつ安全に測定でき 正確な測定値と優れた直線性が得られるレーザ計測器 ( パワーメーター ) の登場が待たれていた このような状況下で メーカーの技術レベルの集大成として A-1200-D60-SHC( 図 1) がついに発表された この計測器のアブソーバーとして採用されたコーティングは 非常に耐性が大きいため 空冷でありながら コンパクトで優れた損傷しきい値と最高度の絶対値パワー計測機能を実現している 図 2は IPG 社製ファイバレーザ YLS2000 の出力 1200W を入射したときのアブソーバー表面の熱分布を測定したものである この時のコーティング温度は 200 強に達している この新製品は 高くなるコーティング温度を的確に消散しながらも フルスケールで最大 ±1.5% の直線性 ( 図 3) と PTB/NIST 標準に準拠した ±3% の較正精度を併せ持っており 重さ 4.4kg 開口部 60mm 寸法 140Lx140Px140H(mm) とコンパクトである 図 1 モデル A-1200-D60-SHC 1 / 6

測定パワー (W) 図 2 左 : モデル A-1200-D60-SHC: レーザパワー最大 1200W 入力時 (IPG 社製ファイバレーザ YLS2000) の アブソーバー表面の熱分布 コーティング温度は 200 に達する 右 : 測定に用いたレーザのビーム分析では鋭いピークが見られる リニアフィット レーザパワー (W)[NIST] 図 3 モデル A-1200-D60-SHC の直線性 3. 計測器ヘッドとは何かどのようにしてこのような驚異的な結果が得られたのかを理解するために この種のレーザ計測器の基本的構造と 正確で信頼性の高い計測を可能にする方法について検討する 熱センサー式のレーザ計測器では レーザビームはセンサー表面のコーティング部分に照射され 光が熱に変換される 中心到達温度と周辺部との間の熱降下と レーザ光の入射パワーの間には正比例の関係がある この熱降下を 一般にサーモカップル ( 熱電対 ) アレイの変換器で測定する ( 図 4) 熱電対は その温度差に比例した電気信号を生成する 生成された熱が大きければ良好な電気信号になるが そのためにも熱は速やかにデバイスから除去されなければならない 2 / 6

出力 熱接点 レーザ 冷接点 図 4 サーマルセンサーの概念図 熱検出器ヘッドは アブソーバーとトランスデューサーの役割を果たす金属体センサー ヒートシンク リードアウト ( 表示部 ) 電子機器用のハウジングおよびインタフェースで構成されている 頑丈な熱センサーを設計するための条件は (1) 熱消散の効率性 (2) アブソーバーの頑丈さ (3) ヘッドの熱安定性および (4) レーザパワーの増加に応じた応答の直線性の4 点である なお 精度という意味では センサーの感度の均一性もある 同じ強度のレーザビームがセンサーに当たる場所によって 感度に変動があってはいけないということである 4. ヘッドの設計と熱除去の最適化ヘッド設計には (1) 長寿命と安定性を保証するために低い温度で動作する必要がある ( 数 kw のレーザ出力を照射しても数 10 以下であること ) (2) コーティングが損傷を受けてはならない という 2 つの重要な初期制約がある この制約を克服するために LaserPoint 社では 熱除去を最適化でき 最速の応答時間が得られ かつ大きな熱ストレスと機械的ストレス下での挙動を解析するため 有限要素解析と実験的評価の両方を採用している 形状寸法や使用材料の選択によって 上記の目的をどの程度達成できるかが決定される また うわべだけの熱接触を低減するために 設計上の公差を厳密に尊重した機械加工でなければならない それは 非常に重大な局所過熱を招き ひいては 信号の不安定性をもたらす可能性があるからである レーザ光の吸収により発生する熱を素早く完全に除去する方法には 入力パワーレベルに応じて3 通りある 低出力レーザ測定用のヘッドには 通常 大気対流冷却用 ( 自然冷却 ) のフィンを採用する 中出力レーザ用には フィンを通る空気流を強制するファンを導入する 高出力レーザ用は 水冷回路を内蔵する A-1200-D60-SHC に採用した熱除去のソリューションは フィンとファンの組み合せによる空冷の効率的な放熱構造を追求することであった 5. 応答時間熱は センサー前面の中心で生成され 冷却機構のある外側部分に向かって流れる ( 図 5 参照 ) この熱遷移に要する時間が応答時間として定義される 応答時間の最適化は ( 熱抵抗と熱容量の熱遷移に影響を与えるであろう ) 材料を慎重に選択することだけでなく センサーの幾何学的形状 ( すなわち 直径や厚さ ) によっても行われる 3 / 6

メーターでレーザパワーを表示するまでの時間を短くし ヘッドを低温の安定した温度に維持するなど すべての遷移時間を高速にすることが非常に重要である 高出力レーザ計測器の総合的な 自然 応答時間は数 10 秒で この応答時間はほとんどのアプリケーションには長すぎる そこで リードアウト電子機器に加速度アルゴリズムを搭載して それらの固有の応答時間を数秒に短縮するのである レーザ光 コーティング センサーディスク 熱の流れ 冷却 図 5 センサーディスクの概念図 サーモカップル ( 熱電対 ) 6. アブソーバーと極端なストレス耐性アブソーバーは センサーとレーザビームとの間の最初のインタフェースである コーティングは レーザ放射の大部分を吸収し それを熱に変換し 迅速に放熱構造にその熱を解放できるものでなければならない アブソーバーの強固性は 1 基板から剥離せず 2 時間経過に伴う光吸収特性を変化しないで 3 損傷することなく 4すべての熱的 機械的ストレスに対する耐性容量の4つで定義される 高出力レーザは すべての加工機 ( マーキング 溶接等 ) に使われ 前述の コーティングが損傷してはならない 実際のレベルは レーザの性能をそのはるかに上回るものでなければならないことを意味する つまり レーザパワーの増加に伴い ( 例 : 数百ワット以上 ) 前述の コーティングが損傷してはならない という言葉はますます厳しい条件となるのである 検出するレーザのパルス幅に応じて 2 種類のアブソーバーが使用されている パルス幅が 300μsec 以下のレーザには アブソーバーは 一般的な厚みが 0.5mm~12mm のセラミック材料またはガラスで作られる これらは ボリュームアブソーバー ( 体積吸収体 ) と呼ばれている これに対して CW レーザやパルス幅 300μsec 以上の長パルスレーザには サーフェスアブソーバー ( 表面吸収体 ) が採用される 表面吸収体 という言葉は 10~40μm という薄さに由来する 高出力用のコーティングは 典型的に耐火性材料で作られている 体積吸収体は 高いピークパワー密度に耐性があるものの 応答時間に影響を与える材料の熱伝導率が低く 厚みが大きいため 平均パワーの測定が強く制限される したがって 表面吸収体は 中 高パワーの測定に最良である 特徴のいくつかは コーティングの良好な性能を設定し 表面吸収体が耐えなければならない要件を定義する すなわち 1 剥離しないようにセンサー基板への密着性 2 素早く熱を放出する能力 3 高パワー密度 (W/cm 2 ) に対する耐性 4 広い波長域での利用可能性である 4 / 6

パワー密度 (kw/cm 2 ) また 安全性の観点から アブソーバーの反射率は低く抑え 良好な信号を生成するために熱電対にできる限り多量の熱を供給できるように低い反射率にしなければならない これらのポイントは 長期間装置を安全に使用したいユーザーと 顧客の期待に応えなければならない計測器メーカーの双方の立場から重要なポイントのはずである それにもかかわらず 多くのレーザパワー計測器メーカーのホットな関心事は 残念ながらコーティングが破損する直前の入射可能な最大パワー密度に注がれている 技術的には 損傷しきい値は損傷が発生する上限値である これは 入力パワーの絶対的なレベルは当然のことながら 材料のタイプや材料内部の均一性に依存する ISO( 国際標準化機構 ) では 損傷とは 読み取り値が 1% 以上変化したとき と定義されている 問題は いったん損傷が発生すると しばしばそれが壊滅的に急速に拡大する傾向があることである こうなると もはや計測値は信頼性が失われ センサーは交換しなければならなくなる コーティングの特性が局所的な変化を受けたときに損傷が発生する 損傷を避けるために 高輝度レーザビームとビームのホットスポットに耐性のある高い熱伝導率の特殊コーティング ( 高速で熱消散させる ) を LaserPoint 社が開発した ( 図 6 参照 ) CW レーザの損傷しきい値 LaserPoint 社 SHC A 社アブソーバー B 社アブソーバー C 社アブソーバー パワー (kw) 図 6 パワー密度とレーザパワーを関数とした市販の異なるコーティングにおける損傷しきい値 7. 最終ステップ : 認定較正設計プロセスが完了し 検出器が製造されたら 最終的な重要ステップはその較正である 正確な測定精度を付与するために LaserPoint 社では 出荷前に 最高レベルの精度と米国コロラド州のアメリカ国立標準技術研究所 (NIST) またはドイツ国ベルリン市の国立計量研究所 (PTB) へのトレーサビリティで較正されたレーザ計測器を供給している 多くのメーカーでは NIST や PTB 日本の産業技術総合研究所(AIST) で較正したセンサー ( ゴールド較正 5 / 6

器 ) でさらに較正したセンサー ( シルバー較正器 ) を自社の基準器として使っているが LaserPoint 社では 誤差の発生を抑え高い精度を維持するためにゴールド較正器のみを使用している 計測器の感度 NIST/PTB 基準値のリスト 較正手順に使われるその他の装置 および較正の環境条件を記載した較正証明書も それを証明するために提供されている レーザパワーメーターの精度と性能が 何年も無傷であること ( もし 数年間 正しく使われてきた場合は 機器の寿命 ) を確実にするため 較正よび予防保守の定期的なスケジュールが必要とされている 再較正の必要性は 計測器がどのように使われていたか その実態や 環境条件によっても異なる 通常の動作条件 仕様内のレーザ光強度および適正な計測器の取扱いをしている場合でも 毎年再較正することが業界標準になっている 8. まとめ本文ではレーザパワーメーターの構築に関わる困難な事がらを提示し説明した 今日のレーザ市場の需要を満たす最高標準を達成するために 部品の設計から計測器の較正にいたるすべてのステップは極めて重要である A-1200-D60-SHC は コンパクトで冷却水を必要としない空冷タイプであり 1.2kW までの高出力レーザの測定を可能にする業界最高の性能を備えている それには いろいろな高度な設計製造技術が反映されているのである 6 / 6