症例報告 透析会誌 42 12 :973 978,2009 原因不明の胸水貯留を繰り返し, 剖検にて尿毒症性胸膜炎と診断し得た維持透析患者の 1 例 舛本祥一井上剛片桐大輔勝馬愛南恵理星野太郎柴田真希多田真奈美中村太一日ノ下文彦国立国際医療センター戸山病院腎臓内科 キーワード : 尿毒症性胸膜炎, 血液透析, 慢性腎不全, 難治性胸水, 血性胸水 要旨 症例は 78 歳, 男性. 糖尿病性腎症による慢性腎不全のため 2004 年 10 月より, 維持血液透析を施行していた. 2006 年 10 月頃から除水強化にて改善しない右片側性胸水の貯留を認め, 精査目的に入院. 胸水の性状は血性 滲出性であり, 各種検索を行ったものの原因は明らかではなかった. 結核性胸膜炎を疑い抗結核薬の投与を行ったが改善せず,2007 年 6 月には左側にも胸水貯留を認めるようになった.CT ガイド下胸膜生検, 胸腔鏡下胸膜生検まで施行したが, 悪性腫瘍や結核性胸膜炎の所見は認めなかった.2007 年 11 月に呼吸不全のため死亡したが, 病理解剖の結果, 胸膜の線維化と胸膜炎を認めるのみであり, 総合的に判断した結果, 尿毒症性胸膜炎の疑いが強いと考えられた. 尿毒症性胸膜炎は維持透析患者の胸水の原因として比較的多いと考えられるが, 十分に認知されていない疾患である. 結核や悪性腫瘍などの器質的疾患に伴う難治性胸水は維持透析患者でも比較的頻繁に認められるが, 本症例は病理解剖にても胸水の原因となる器質的疾患が確認できず, 尿毒症性胸膜炎と判断せざるを得ない症例であり, 透析患者における胸水貯留の鑑別を考えるうえで示唆に富む症例と考えられる. Uremic pleuritis in a patient on maintenance hemodialysis who showed refractory pleural effusion:autopsy results Shoichi Masumoto, Tsuyoshi Inoue, Daisuke Katagiri, Ai Katsuma, Eri Minami, Tarou Hoshino, Maki Shibata, Manami Tada, Taichi Nakamura and Fumihiko Hinoshita Division of Nephrology, International Medical Center of Japan Key words:uremic pleuritis, hemodialysis, chronic renal failure, refractory pleural effusion, hemorrhagic pleural effusion Abstract A 78-year-old man who had been receiving hemodialysis(hd)for 2 years was admitted to our hospital due to right-sided pleural effusion that had been nonresponsive to HD. The pleural effusion was hemorrhagic and exudative;however, various examinations could not demonstrate the specific cause of pleural effusion. Despite the administration of antibiotics and antituberculosis drugs as an empirical therapy, pleural effusion persisted. When left pleural effusion also developed, we performed pleural biopsy under CT-guidance and video-assisted thoracoscopy. The biopsy sample demonstrated nonspecific pleuritis without any finding of infectious disease or malignancy. The patient died of respiratory failure in November 2007, and was autopsied. The findings at autopsy demonstrated pleural fibrosis and pleuritis. Then he was finally diagnosed as having uremic pleuritis on the basis of the clinical and pathological features. There may be relatively many cases of uremic pleuritis among patients on maintenance HD. However, such cases may often be overlooked. It was interesting to note in the present case that no specific cause such as infectious diseases or malignancy were detected even after autopsy. Therefore 舛本祥一国立国際医療センター戸山病院腎臓内科 162-8655 東京都新宿区戸山 1-21-1 Shoichi Masumoto Tel:03-3202-7181 Fax:03-5273-6840 受付日 :2009 年 3 月 2 日, 受理日 :2009 年 8 月 12 日
974 舛本ほか : 尿毒症性胸膜炎と診断した維持透析患者の 1 例 uremic pleuritis should be taken into consideration as a likely candidate for the cause of refractory pleural effusion in pateients on HD. 緒言日常診療において, 維持透析患者で原因不明と判断せざるを得ない胸水貯留に遭遇することは比較的多いと思われる. 十分な検索を行っても, その原因を特定できない胸水を有する患者がおり, その中には尿毒症そのものを原因とするものが存在する可能性がある. われわれは今回, 病理解剖にても胸水の原因を特定し難く, 尿毒症性胸膜炎と診断するに至った 1 例を経験した. 尿毒症性胸膜炎は稀な病態ではないと考えられるが, 近年あまり顧みられていないようであり, 今日的な臨床診断手法の中でのその鑑別, 治療などを考察することは有意義であると思われたためここに報告する. Ⅰ. 症例症例 :78 歳, 男性. 主訴 : 咳嗽, 喀痰. 既往歴 :56 歳 :2 型糖尿病,67 歳 : 胃潰瘍, 糖尿病性腎症, 高血圧症, 高尿酸血症,74 歳 : 偽膜性腸炎, 75 歳 : 非定型抗酸菌症, 洞不全症候群にてペースメーカー埋めこみ術施行,77 歳 : 早期胃癌にて内視鏡的粘膜切除術施行. 家族歴 : 姉 : 胃癌, 妹 : 糖尿病, 高血圧. 生活歴 : 喫煙 :20 本 20 年 (20 40 歳 ), アルコール : なし. 粉塵暴露歴 : なし, ペット飼育歴 : なし. 現病歴 :1985 年 (56 歳時 ) に体重減少を機に 2 型糖尿病と診断された. 糖尿病性腎症のため当院腎臓内科に外来通院していたが, 腎機能が徐々に増悪し,2004 年 10 月より血液透析導入となった. その後, 近くの施設で維持透析していたが,2006 年 9 月より咳嗽 喀痰 右片側性胸水が出現し, 精査のため入院となった. 入院時現症 : 身長 160.6 cm, 体重 49.8 kg, 体温 36.6, 血圧 148/60/ mmhg, 脈拍 60/min.reg,SpO/ 2 95%(r/a). / 意識清明, 呼吸苦なし. 眼瞼結膜貧血あり, 眼球結膜黄疸なし. 口腔内発赤なし. 扁桃腫大なし. リンパ節腫脹なし. 右下肺呼吸音低下, 心雑音なし. 腹部平坦軟, 腸音正常, 圧痛なし. 肝 脾触知せず. 下 浮腫なし. 神経学的異常所見なし. 入院時検査所見 ( 表 1): 透析前の採血で BUN 53.7 mg/dl,cr/ 8.11 mg/dl/ であり,CRP 6.52 mg/dl/ と上昇を認めた. 胸部 X 線検査では, 心拡大 (CTR= 60%), 左右とも肋骨横隔膜角鈍, 右下肺野の透過性低下を認め胸水の貯留が疑われた. また, 左下肺野優位の網状影を認めた. 肺野に石灰化や胸膜の肥厚は認めなかった ( 図 1). 心電図はペーシングリズムであり, PVC の散発, 左室肥大の所見があるが, 以前と比較し 図 1 胸部 X 線写真 2006 年 10 月 ( 左図 ),2007 年 6 月 ( 右図 )
舛本ほか : 尿毒症性胸膜炎と診断した維持透析患者の 1 例 975 血算 WBC RBC Hb Ht MCV MCH MCHC Plt 白血球分画 Neutro Lymph Mono Eosino Baso 6,090/mL/ 239 10 4 /ml 7.9g/dL/ 24.6% 102.9fl 33.1pg 32.1% 17.4/mL/ 68.9% 16.3% 7.3% 7.3% 0.2% 表 1 生化学 Alb T-bil AST ALT LDH ALP BUN Cr UA Na K Cl Ca P Glu HbA1c CRP 入院時採血データ 2.9g/dL/ 0.5mg/dL/ 9IU/L/ 5IU/L/ 263 IU/L/ 357 IU/L/ 53.7mg/dL/ 8.11 mg/dl/ 5.8mg/dL/ 140 meq/l/ 3.7mEq/L/ 105 meq/l/ 8.0mg/dL/ 2.4mg/dL/ 233 mg/dl/ 6.8% 6.52 mg/dl/ 免疫 IgG IgA IgM C3 C4 RF ESR-1h 抗 dsdna 抗体抗核抗体 b-d グルカン CMV-Ag アスペルギルス抗原 QuantiFERON TB-2 G 腫瘍マーカー CEA SCC NSE 甲状腺機能 TSH F-T3 F-T4 1,702.0mg/dL/ 555.0mg/dL/ 65.0mg/dL/ 81.0mg/dL/ 62.6mg/dL/ 21.4 116 mm 11.0pg/mL/ 2.8ng/mL/ 3.2ng/mL/ 5.8ng/mL/ 2.182 miu/ml/ 1.81 pg/ml/ 0.68 ng/dl/ 図 2 胸部造影 CT(2006 年 10 月 ) 右胸水, 右肺底部優位に胸膜肥厚あり. 左胸水, 胸膜肥厚あり. て変化はなかった. 心エコーでは MR Ⅲ を認め, 心囊液が少量貯留していたが,EF は60.3% と比較的保たれていた. 経過 : 胸水貯留の原因として体液過剰を考え, 除水を強化した.2006 年 9 月から 11 月にdryweight を 52.0 kg から 49.5 kgまで下げたが, 胸水量は減少し なかった. 透析後の HANP は 219.9pg/mL/ から 97.1 pg/ml/ まで低下し, 心胸郭比は 60% から 52% まで改善した. 除水だけでは胸水は減少せず, 体液過剰のみによる胸水は否定的と考えられた. 胸部造影 CT では明らかな悪性腫瘍や肺炎などは指摘されなかった ( 図 2).FDG-PET では右胸腔内に大量の胸水を認め, わずかな集積が認められたが, 特異的な異常集積 は認められなかった. 右胸水の胸水穿刺の結果, 性状 は血性 滲出性胸水 ( 胸水 TP 4.6 g/dl, / 胸水 LDH 214 mg/dl) / で, 胸水白血球数は 810/mL/ でリンパ球優位だった. 一般細菌, 抗酸菌は培養で検出されず, 胸水 adenosine deaminase(ada) は 21.9 U/L と軽度上昇していた. 細胞診では class Ⅰで, 悪性所見を認めなかった.QuantiFERON TB-2 G(QFT) 陰性であったが, 糖尿病をもつ透析患者であり, 易感染状態にあることから結核性胸膜炎を疑い, 診断的治療も兼ねて 11 月より抗結核薬内服 ( イスコチン酸 +リファンピシン+ピラジナマイドの 3 剤 ) を開始した. しかし, 胸水量は減少せず, 抗結核薬は無効と考えられたため,2007 年 1 月に内服中止とした.
976 舛本ほか : 尿毒症性胸膜炎と診断した維持透析患者の 1 例 図 3 病理解剖所見 ( 左胸膜 ) 左 :HE 染色 ( 40) 胸膜の線維化とフィブリンの析出を認める. 右 :HE 染色 ( 100) リンパ球と形質細胞が主体の炎症細胞浸潤を認める. 2007 年 1 月に再度右胸水穿刺を施行したところ, 滲出性パターン (TP 5.7g/dL,LDH/ 468 mg/dl) / の血性胸水であった.2 月初旬より再入院となり, 気管支鏡検査, 胸部 CT を施行するも原因は明らかでなく, 胸水量も変化がないため, 同年 3 月一旦退院. この時, 胸部 X 線では不明瞭な潜在性の肺炎も疑い empirical な抗生剤 ( メロペネム+アミカシン ) 投与も行ったが, 胸水は減少しなかった. 2007 年 6 月初旬より, 胸部 X 線で左側にも胸水を認めたため, 精査目的で入院. 右胸膜に対して CT ガイド下胸膜生検, 胸腔鏡下胸膜生検を施行したが悪性所見や結核病変の所見は認めなかった. 結果として原因は不明のままであり,2007 年 8 月より抗結核薬の内服 ( イスコチン酸 +リファンピシン+ストレプトマイシンの 3 剤 ) を再開した. 2007 年 10 月初旬に転倒し, 頭部を打撲.4 日後にも転倒し, 頭部 CT 上, 両側慢性硬膜下血腫を指摘された.2007 年 10 月末, 透析中に傾眠傾向となった. 血液ガス上,PCO 2 の上昇を示しており,CO 2 ナルコーシスの状態と考えられたため, 入院して biphasic positive airway pressure(bipap) を導入したが, 呼吸状態悪化し,2007 年 11 月中旬, 死亡した. 御家族の同意を得て, 病因究明のために病理解剖が施行された. 病理解剖の所見では, 左下葉の胸膜下にびまん性の線維化がみられた. 胸膜は左慢性胸膜炎の所見で出血性であり, 明らかな結核性病変を認めなかった ( 図 3). 一般細菌による肺炎や肺真菌症など, 肺実質に感染を示唆する所見はなく, 肺癌など腫瘍性病変も認められなかった. なお, 胃癌は完全治癒しており, 再発は認 められなかった. また, 腎臓や腹部諸臓器において胸水の原因となりうる病変は認められなかった. 心臓は左室の求心性肥大があり, 左前下行枝に 50%, 右回旋枝に 30% の狭窄を認めたものの, 急性心筋梗塞などの病変はなく, 胸水の貯留を惹起する重篤な心不全をきたす病変は認められなかった. 心外膜にも胸水貯留の原因となるような所見は認められなかった. 以上の所見と臨床経過を踏まえると胸水の原因は慢性の尿毒症性胸膜炎によると考えられた. また, 直接的な死因は CO 2 ナルコーシスによるⅡ 型呼吸不全と考えられた. Ⅱ. 考察過去の報告によると長期透析を受けている入院患者の21% に胸水貯留を認めるという 1). その原因としては, 心不全によるものと非心不全によるものの 2 つに大別できる. 非心不全性胸水の原因として肺炎, 無気肺, 悪性腫瘍, 膠原病などがあるが, そのうちの一つに尿毒症性胸膜炎があげられる. 本症例では, 透析歴 2 3 年で胸水貯留が遷延し, 徹底的に原因検索を行ったが, 生前にはその原因を同定できなかった. 心不全, 悪性腫瘍, 自己免疫性疾患, 結核を含めた感染症, 薬剤性などいずれも否定的であり, 病理所見を得て除外診断的に尿毒症性胸膜炎と診断した. Berger ら 2) は透析患者における尿毒症性胸膜炎の頻度を,3.2% と報告しており, 本邦の木藤ら 3) は2.2% と報告している. 最近ではその頻度を Bakirci ら 4) が 3.8%,Mikell ら 1) が16% と報告している. 尿毒症性
舛本ほか : 尿毒症性胸膜炎と診断した維持透析患者の 1 例 977 胸膜炎の頻度に関しては, 古い報告が目立ち, 近年はあまり顧みられていないようなので, わが国の現状に即していない可能性がある. 1969 年に Nidus ら 5) により尿毒症性胸膜炎 (uremic pleuritis) の概念が初めて提唱されたが, 明確な診断基準はなく除外診断となっている. 多くは末期腎不全に陥った尿毒症患者に発症するが, 安定した血液透析を行っている患者にもおこるとされる 6). 病因は免疫複合体の沈着に始まる炎症過程で胸膜の血管透過性が亢進するという報告もあるが未だ不明な点が多い. 尿毒症性胸膜炎における胸水の性状は, 滲出性, 血性, リンパ球優位,LDH 高値などの特徴がある. 胸水が血性となる原因としては, 尿毒症に伴う凝固因子, 血小板, 血管壁などの機能障害による易出血性や血液透析に伴う抗凝固薬使用による胸膜の易出血性などが推測されている 3,7). 症状は, 発熱, 胸痛, 咳嗽, 呼吸困難などを呈することが多いが, 無症状の例もある. 理学所見上, 胸膜摩擦音を聴取することがあり, 約半数に尿毒症性心膜炎を合併する 6). 診断のためには心不全, 悪性腫瘍, 自己免疫性疾患, 肺炎などの他疾患の除外が必要であり, 特に結核性胸膜炎との鑑別は重要である. 胸膜生検では, 尿毒症性胸膜炎の場合, 器質化された線維素性滲出物がみられる 8). 治療としては穿刺排液が有効で, 約 80% は治癒するとされる 2) が, 難治例 再発例の報告もあり 2,6,9,10), 致命的となる可能性もある. 胸腔内にテトラサイクリンを注入し奏功したという報告がある 11). 過去の報告では, 尿毒症性物質の除去を目的として血液濾過透析を行い, 透析時のへパリンをメシル酸ナファモスタットに変更して改善した例 12), それらに不応性でステロイド投与により改善した例の報告もある 13). 本症例の胸水は除水, 抗生剤, 抗結核薬治療に反応せず難治性であった. 胸水の性状は血性, 滲出性であり, 悪性腫瘍, 感染症, 結核などを疑い各種検査を行ったが, いずれも積極的に支持する所見を認めなかった. 臨床的には結核性胸膜炎を疑い,CT ガイド下胸膜生検, 胸腔鏡下胸膜生検まで行ったが, 結局それを裏付ける証拠は見出せなかった. また, 悪性腫瘍を疑う所見も認めなかった. さらに剖検による病理学的所見はフィブリン析出を伴う胸膜炎のみであり, 結核性胸膜炎の所見や胸膜の悪性所見は認めず, 尿毒症性胸膜炎として矛盾しない結果であると考えられた. また, 剖検所見からはアミロイドーシス, 悪性中皮腫, 肝不全, 甲状腺疾患などは否定された. 透析患者における胸水貯留は, 一般と比較して頻度が高く, その中でも尿毒症性胸膜炎の割合が比較的高いと報告されている 1). しかし, 本邦において尿毒症性胸膜炎の認知度は低く, 原因不明とされて見過ごされている症例も存在すると考えられる. その理由は, 除外診断に頼らざるを得ず, 生前に診断を確定するのが極めて困難なためかもしれない. 透析患者においては免疫不全状態であり, 結核感染率が高いため, 溢水, 腫瘍, 感染症, 膠原病などの一般的な胸水貯留の原因が否定的である場合, 診断的治療目的に抗結核薬の内服を開始することがある. 本例のように結核感染症の証明ができなくても, 臨床的に疑わしい症例においては試験的に抗結核薬の投与を開始することは妥当と考えられる 14,15) が, 抗結核薬の投与が無効であった場合, 尿毒症性胸膜炎を想起すべきであろう. 透析患者においては, 結核感染の証明が難しいことが多いが, 井上ら 16,17) によると透析患者における QFT の活動性結核の診断特異度は 89.7% とされ, 透析患者での原因不明の胸水の鑑別に有用と思われる. しかし, 本例では QFT は陰性でありその解釈には注意を要すると思われる. 本例では最後まで血液透析を継続しており, 抗凝固薬は低分子へパリンであった. 前出のように血液濾過透析への変更や, 抗凝固薬をメシル酸ナファモスタットに変更することも考慮すべき対策であったと考えられる. いずれにしても, 本症例は生前に胸水貯留の原因が判明せず, 剖検によりやっと原因を確定することができた. 全臨床経過を通じて, 尿毒症性胸膜炎の臨床的意義を再認識するとともに, その診断の困難さを改めて認識させられることとなった. 結語血液透析導入後 2 3 年で胸水貯留をきたし, 徹底的な検討を行ったものの, 生前に原因を確定し得なかった難治性胸水を呈した維持透析患者の一例を経験した. 過去の報告と照らし合わせ, 胸水の性状, 病理解剖の所見などからその原因を再度検討したところ, 尿毒症性胸膜炎であったものと考えられた. 透析患者で胸水貯留を認めた場合に原因を特定できないことは比較的多いと思われるが, 見過ごされ易い原因の一つとして尿毒症性胸膜炎があり, 本例もそうした症例と思われたため報告した. 本症例の要旨は, 第 54 回日本透析医学会学術集会 総会 (2009 年 6 月, 横浜 ) において発表した.
978 舛本ほか : 尿毒症性胸膜炎と診断した維持透析患者の 1 例 文献 1) Mikell J, Steven A:Pleural effusions in hospitalized patients receivinglong-term hemodialysis. CHEST 108:470-474, 1995 2) Berger HW, Rammonhan G, Neff MS, Buhain WJ: Uremic pleural effusion, a study in 14 patients on chronic dialysis. Ann Intern Med 82:362-364, 1975 3) 木藤知佳志, 竹越忠美, 得田与夫, 土井下健治, 津川善憲 :Dialysis ascites が先行した後, 比較的短期間に血性胸水の発現をみた 1 透析例. 日内会誌 75:1661-1662,1986 4) Bakirci T, Sasak G, Ozturk S, Akcay S, Sezer S, Haberal M:Pleural effusion in long-term hemodialysis patients. Transplantation Proceedings 39:889-891, 2007 5) Nidus BD, Matalon R, Cantacuzino D, Eisinger RP: Uremic pleuritis -A clinicopathological entity. N Engl J Med 281:255-256, 1969 6) 阿万忠之, 鹿野昭彦, 橋本芳子 : 難治性の血性胸水を呈した尿毒症性胸膜炎と考えられる 1 透析例. 透析会誌 23:207-212,1990 7) Andrassy K, Ritz E:Uremia as a cause of bleeding. Am J Nephrol 5:313-319, 1985 8) 権田秀雄, 野田康信, 大石尚史, 鈴木道生 : 尿毒症性胸膜炎の 1 症例. 診断と治療 82:1358-1360,1994 9) Galen MA, SteinbergSM, Lowrie EG, Lazarus JM, Hampers CL, Merrill JP:Hemorrhagic pleural effusion in patients undergoing chronic hemodialysis.ann Intern Med 82:359-361, 1975 10) Rodelas R, Thomas A, William P, George E:Fibrosing uremic pleuritis duringhemodialysis. JAMA 243: 2424-2425, 1980 11) 鈴木志津子, 渡辺恒, 佐伯満男, 斎藤靖人, 栗原怜, 北田博久, 由利健久, 石川勲, 篠田晤 : 難治性尿毒症性胸膜炎に対するテトラサイクリン胸腔内注入法. 腎と透析 9:85-89,1980 12) 友田恒一, 古西満, 濱田薫, 鴻池義純, 成田亘啓, 金子佳照, 岡島英五郎, 宮高和彦, 大貫雅弘 : 血液透析に濾過を併用することにより軽快した尿毒症性胸膜炎の 1 例. 日本胸部臨床 51:249-253,1992 13) Iyoda M, Ajiro Y, Sato K, Kuroki A, Shibata T, Kitazawa K, Sugisaki T:A case of refractory uremic pleuropericarditis - successful corticosteroid treatment. Clin Nephrol 65:290-293, 2006 14) Magdi M, Jaap M, Haysam R:Tuberculosis and chronic renal disease. Semin in Dialysis 16:38-44, 2003 15) 日ノ下文彦 : 結核 対策と最近の話題. 透析療法ネクストⅧ 感染症対策 ( 秋葉隆, 秋澤忠男編 ),74-83, 医学図書出版, 東京,2009 16) 井上剛, 中村太一, 片桐大輔, 星野太郎, 多田真奈美, 柴田真希, 日ノ下文彦 : 透析患者の結核補助診断における QuantiFERON TB-2 G の有用性について. 透析会誌 41:65-70,2008 17) Inoue T, Nakamura T, Katsuma A, Masumoto S, Minami E, Katagiri D, Hoshino T, Shibata M, Tada M, Hinoshita F:The value of QuantiFERON TB-Gold in the diagnosis of tuberculosis amongdialysis. Nephrol Dial Transplant 24:2252-2257, 2009