クマ ( ツキノワグマ ) 出没時におけるマニュアル ( 暫定追補版 ) はじめにツキノワグマは 森林生態系の頂点に位置する生物であり クマが将来にわたって生息できる環境をつくることは 人と自然の共生にとって重要な意味を持つ 愛知県では レッドデータブックあいち2002 でクマを絶滅危惧 ⅠA 類 ( 絶滅の危機に瀕している種 ) に位置づけ 狩猟の自粛を促すなど保護を図ってきた しかしながら 2010 年には三河山間地域において大量のクマが確認され 地域住民にとっては大きな不安材料となった また 関係市町村もイノシシ檻などに意図せずに誤って捕獲 ( 以下 錯誤捕獲 とする ) されたクマの対応に苦慮することとなった クマは 2~3 年ごとに発生するブナ科堅果類 ( ドングリ ) の凶作の年 冬眠前にエサを求めて人里に近づくことから 今後 クマが周期的に大量出没する可能性がある そこで 愛知県では これまでの行政向けの危機管理マニュアルや県民向けのクマ出没対応マニュアルを充実するとともに 人とクマとの共生を図ることとした その基本的な考え方は以下のとおりである (1) 中長期的には 人とクマの共生を目指していく まず 県民に対して クマと遭遇しても危険が回避できるようなクマに関する正しい知識の普及 浸透を図るとともに 健全は森林生態系の整備や緩衝帯の整備などにより 人とクマが棲み分けできるような地域づくりを進めていく (2) クマの出没予想を行い 狩猟者等に対してイノシシ檻等によるクマの錯誤捕獲を避けるための対応を定める (3) 錯誤捕獲が生じた場合 クマに関する専門家の助言を得て 速やかな対応ができるようにする (4) こうした対応を行うため 愛知県ツキノワグマに関する専門家会議を設置し そのメンバーに岐阜県や長野県の専門家等の参加を得ることで 近隣県との連携の上対応を進める (5) 尾張 西三河 新城設楽それぞれの地区において クマに関する対策協議会を設置して それぞれの地区の状況に応じた対応策を検討する 当面はこうした考え方に基づき 地域住民の安全確保を最優先として 住民 関係機関に対する迅速な情報提供を図りながら対応していく なお 今後もツキノワグマに関する専門家会議や尾張 西三河及び新城設楽それぞれの対策協議会における検討を踏まえながら適宜改善し 平成 24 年秋までにはマニュアル全体を再度見直すものとする
1. 錯誤捕獲防止対策 本県の場合 クマの狩猟は自粛していることから クマが捕獲されるのは そのほとんどがイノシシ檻等における錯誤捕獲である 錯誤捕獲の場合は 放獣するのが原則であるが クマの場合は危険が伴うため 簡単に放獣できないのが実情である このため まずは錯誤捕獲を起こさないことが重要である 愛知県でのクマの大量出没は ドングリ ( ブナ科堅果類 ) の凶作と関連していると考えられるため 隣県のドングリの豊凶調査の情報や出没情報等を入手し クマの出没予想などの参考情報を市町村等に提供する わなによるクマの錯誤捕獲を防止するために わなの設置者は 脱出口付の檻 ( クマスルー檻 ) の使用や わな設置場所付近においてクマが出没した場合は クマが好むもの ( 米ぬか等の発酵物等 ) をエサにすることを控える 又は檻を閉じる等の錯誤捕獲防止対策を行うものとする 2. クマ出没の目撃情報が寄せられた以降の対応 (1) 住民等から目撃情報があった場合 住民等から市町村に対して クマに関する目撃情報が寄せられた場合 市町村は速やかに地元猟友会及び管轄の県民事務所又は新城設楽山村振興事務所 ( 以下 県民事務所 ) 環境保全課に速やかに報告するものとし 県民事務所環境保全課は速やかに県自然環境課に報告するものとする 市町村の担当職員及び地元猟友会は 目撃現場に行き 聞き取り調査及び足跡などの痕跡を調査 出没の確度を判断するものとする 必要に応じて 県 ( 県民事務所環境保全課及び自然環境課 ) も現地調査を行うものとする その結果 出没の確度がある と判断した場合 市町村は 出没地域の出没情報を提供し 注意喚起を行うものとする 県自然環境課は 出没情報や注意点を県のホームページに掲載し 広く県民に情報提供や注意喚起を実施するものとする (2) 出没の状況などから人身被害発生の可能性が高いと判断された場合 ( 住民の安全確保と捕獲許可 ) 出没の状況などから 人身被害発生の可能性が高いと判断された場合 市町村は住民の安全確保を行うとともに 警察に通報する 警察は この通報を受けてパトロールの実施を行うものとする 市町村は 県による助言等 ( 捕獲市町村以外の放獣地 専門家 譲渡先の紹介 ) や専門家会議による助言等を踏まえて 対応を検討 (1 放獣 2 引渡 3 殺処分の順で検討する ) した上でクマの捕獲許可手続を取り 地元猟友会に捕獲を依頼する
地元猟友会は 市町村からの依頼を受け 捕獲を行う ( 捕獲後の対応 ) 市町村は 捕獲許可の際に定めた対応に基づいた対応を行うものとする 放獣の場合は 専門家による協力を得ながら放獣するものとし 放獣は原則捕獲した当日中に行うものとする 殺処分を実施する場合は 地元猟友会に依頼し 捕獲物は適正処理を実施するものとする 3. 錯誤捕獲が発生した場合 (1) 有害鳥獣捕獲時に錯誤捕獲が発生した場合 住民等から錯誤捕獲の情報が市町村に寄せられた場合 市町村は 地元猟友会 管轄の県民事務所及び警察に通報するものとする 県民事務所は 県自然環境課に通報する 市町村は 第 3 者が現地に立ち入ることにより混乱を生じる可能性が予想される場合は 地元警察署に第 3 者の立入を制限するよう要請する 市町村は 地元猟友会及び県民事務所と供に現地確認を行い 錯誤捕獲に係る経緯の聞取りや現地の状況や捕獲したクマの状態について調査し 専門家会議委員による助言を踏まえながら 放獣が可能であるか検討する 市町村は 放獣が可能であれば専門家会議委員の助言を踏まえながら放獣を行うが 放獣が不可能な場合 クマの捕獲許可を申請し 引き続き移動放獣 引渡しの検討を行う 検討の結果 可能であれば移動放獣 引渡しを行う 検討の結果 移動放獣や引渡が不可能な場合 地元猟友会に依頼して殺処分を行う 殺処分した捕獲物は適正処理を行う 以上の対応は 原則錯誤捕獲当日中に判断し 実施する (2) 狩猟時に錯誤捕獲が発生した場合 狩猟者等から錯誤捕獲の通報が寄せられた場合 県は市町村及び地元猟友会と供に現地確認を行い 狩猟者から錯誤捕獲の経緯を聞取り 現地の状況や捕獲したクマの状態について調査し 専門家会議委員の助言を踏まえて 放獣を検討する 県は 第 3 者が現地に立ち入ることにより混乱を生じる可能性が予想される場合は 地元警察署に第 3 者の立入を制限するよう要請する その場での放獣が可能な場合 専門家会議委員の助言を得ながらその場で放獣を行う その場での放獣が不可能な場合 県は 移動放獣 引渡しの検討を行い 可能な場合は 関係市町村から捕獲許可を取得し 移動放獣 引渡しを行う 検討の結果 移動放獣 引渡しが不可能な場合は 県は関係市町村から捕獲許可を取得し 殺処分を地元猟友会に委託する 殺処分した捕獲物は 適正処理を行う 以上の対応は 原則錯誤捕獲当日中に判断し 実施する
4. クマが出没しにくい地域環境づくり クマが集落等に出没する原因については ドングリ ( ブナ科堅果類 ) の豊凶状況などの原因も指摘されているが 集落内のクリやカキ あるいは畑作物や生ゴミなどもクマの誘因物になるとの指摘があることから 普段からそうしたクマの誘因物を除去するなどの対策が必要である また 集落の周囲などにおいてクマが身を隠しやすい場所をなくすため 集落や畑等の周囲において 間伐や下草刈りを進めることも必要である このため 地域の集落を中心として 市町村をはじめとする関係機関が協力して こうしたクマが出没しにくい地域環境づくりを進めていくものとする
ツキノワグマ対応に関するフローチャート 地元警察市町村地元猟友会県 ( 自然環境課 県民事務所 ) 住民からクマの出没目撃情報 隣接県の出没情報や堅果類の豊凶について市町村 猟友会に情報提供 ( 有害鳥獣捕獲時に誤った捕獲が発生した場合 ) 地元警察市町村地元猟友会県 ( 自然環境課 県民事務所 ) 誤った捕獲の防止対策捕獲者等から誤った捕獲の通報 目撃現場に行き 現地確認 ( 聞取調査 痕跡調査等 ) 現地確認 現地確認 出没の確度があると判断した場合 立ち入り規制 放獣の検討 専門家会議による助言 出没地域の住民 学校などに出没情報を提供し 注意喚起 出没状況などから人身被害発生の可能性が高いと判断された場合 または人身事故が発生した場合 出没情報や注意点をホームページに掲載し 広く県民に情報提供及び注意喚起 可不可能放獣クマの捕獲許可移動放獣 引渡しの検討不可能可移動放獣 対応の決定まで現場で監視殺処分 専門家会議による助言 捕獲市町村外の放獣地 専門家 譲渡先紹介 引渡し 捕獲物の適正処理 住民の安全確保 パトロールの実施 クマの捕獲許可 ( 対応を検討 ) 検討順位 1 放獣 2 引渡し 3 殺処分 捕獲市町村外の放獣地 専門家 譲渡先紹介 専門家会議による助言 ( 狩猟時に誤った捕獲が発生した場合 ) 地元警察 市町村 地元猟友会 県 ( 事務所環境保全課 自然環境課 ) 誤った捕獲の防止対策 狩猟者 猟友会から誤った捕獲の通報 放獣 引渡し 捕獲 殺処分 専門家による放獣協力 立ち入り規制 クマの捕獲許可 現地確認対応の決定まで現場で監視申請許可 専門家会議の助言を得て放獣の検討 可 放獣 不可能 クマの捕獲許可 捕獲物の適正処理 専門家会議の助言を得て移動放獣 引渡しの検討 殺処分捕獲物の適正処理 不可能 可 移動放獣引渡し