島根県水産技術センター研究報告第10号

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但馬水産技術センターだより 漁況情報 (G1305 号 ) 平成 25 年 8 月 28 日兵庫県立農林水産技術総合センター但馬水産技術センター発行 ハタハタ アカガレイ エチゼンクラゲに関する情報について ( 平成 25 年度底びき漁期前調査結果 ) 平成 25 年 8 月 5 6 日および 8

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スライド 1

浜の活力再生プラン 別記様式第 1 号別添 1 地域水産業再生委員会組織名代表者名 再生委員会の構成員 雑賀崎地区地域水産業再生委員会濱田光男雑賀崎漁業協同組合 和歌山市 オブザーバー 和歌山県 再生委員会規約及び推進体制の分かる資料を添付すること 対象となる地域の範囲及び漁業の種類 策定時点で対象

別記様式第 1 号別添 1 地域水産業再生委員会組織名小田野沢地域水産業再生委員会代表者名会長川村敏博 浜の活力再生プラン 再生委員会の構成員 小田野沢漁業協同組合 猿ヶ森漁業協同組合 東通村つくり育てる農林水産課 青森県下北地域県民局地域農林水産部むつ水産事務所 オブザーバー - 再生委員会規約及

2 資源管理 : 海底清掃 種苗 ( ヒラメ アワビ サザエ等 ) 放流等 3 漁業者の確保 : 担い手確保及び後継者の育成に徹底して取組む 2. 漁業コスト削減 1 燃油使用量削減 : セーフティーネット構築事業への加入促進と省燃油活動の積極的な実施 2 資材コスト削減 : 共同購入など推進 (2

浜の活力再生プラン 別記様式第 1 号別添 1 地域水産業再生委員会 組織名 猿払地区地域水産業再生委員会 代表者名 会長安田順一 再生委員会の構成員 猿払村漁業協同組合 猿払村 オブザーバー北海道宗谷総合振興局 北海道漁業協同組合連合会稚内支店 再生委員会規約及び推進体制の分かる資料を添付すること

浜の活力再生プラン 別記様式第 1 号別添 1 地域水産業再生委員会組織名宮城県近海底曵網漁業再生委員会代表者名菅野静春 再生委員会の構成員宮城県近海底曵網漁業協同組合 塩竈市 石巻市 宮城県仙台地方振興事務所 宮城県水産業経営支援協議会オブザーバー宮城県 ( 農林水産部水産業振興課 ) 再生委員会

整理番号 10 事後評価書 ( 完了後の評価 ) 都道府県名 愛知県 関係市町村 田原市他 事業名地区名 Ⅱ 点検項目 1. 費用対効果分析の算定基礎となった要因の変化 ( 広域水産物供給基盤整備事業 ) 事業主体 愛知県 Ⅰ 基本事項 1. 地区概要 漁港名 ( 種別 ) - 漁場名 アツミガイカ

Microsoft PowerPoint - H23.4,22資源説明(サンマ)

(2) 漁獲努力量の削減 維持及びその効果に関する担保措置愛媛県漁業調整規則により 採捕できる水産生物の体長制限や採捕禁止期間を設けている 広域漁業調整委員会指示により サワラ流し網漁業の目合い制限と禁漁期間を設けている 垣生地区の漁業者間の取決めによる休漁日を設定している (3) 具体的な取組内容

3 くろまぐろの知事管理量について 海洋生物資源の採捕の種類 別又は期間別の数量に関する事項 ( 1) 採捕の種類別の割当量について 2 に掲げる知事管理量の小型魚における採捕の種類別に定め る割当量は 次の表のとおりとし 大型魚は採捕の種類別に定 めないものとする 採捕の種類 小型魚 本県の漁船漁

ドキュメント1

平成19年度イカ類資源研究会議 原稿作成要領


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(3) 具体的な取組内容 ( 毎年ごとに数値目標とともに記載 ) 1 年目 ( 平成 26 年度 ) 以降 以下の取組みについては 毎年 取組の進捗状況や得られた知見等を踏まえ 必要に応じて見直すものとする 1. 漁業者と協会は 従前より県別割当 (TAC) のあるスルメイカ ( 本年度割当 5,6

III. 審査開始日 審査開始日 : 平成 28 年 12 月 9 日 キンメダイ活動経路 IV. 漁業の概要 1. 漁業実態 (1) 概要 キンメダイを漁獲している主な地域は 千葉県 東京都 神奈川県 静岡県および高知県の一都四県であり 主に房総沖から伊豆半島周辺 伊豆諸島周辺および室戸岬周辺の海

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(3)TAC 制度 IQ ITQ 方式について 資料 4-3

ンゴ類及びその他底生生物 ) の生息状況を観察した ジグザグに設置したトランセクト ( 交差することのないよう, かつ, 隣り合う調査線の視野末端が重複するように配置された調査線 ) に沿って ROV を航走させ トランセクト上に宝石サンゴがあった場合は 位置 種 サイズ等を記録した 同時に海底の操

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(2) その他の関連する現状等 当地域は漁業への依存度が高く 漁業の衰退は 直接地域産業に影響を及ぼすため 生産量の減少は 水産加工業の原材料確保先を他地区へ求めることとなり 輸送費などの経費の増加や地産の魚介類を使用した特産品の製造減などで経営の圧迫要因となっている また 雇用の場の提供 就労先の


3 活性化の取組方針 (1) 基本方針 1 衛生管理型市場の運用面について 市場関係者を対象とした研修を継続することで 安心 安全 な大田の水産物を供給し 統合によるスケールメリットと併せて魚価の維持 向上の基礎とする 2 漁業収入の向上の取組みとして 小型底びき網漁業を対象とした船上秤の導入を行い

浜の活力再生プラン 別記様式第 1 号別添 1 地域水産業再生委員会 組織名 臼杵地区地域水産業再生委員会 代表者名 会長平川一春 再生委員会の構成員 大分県漁業協同組合臼杵支店 臼杵市 大分県中部振興局 オブザーバー必要に応じて随時 再生委員会規約及び推進体制の分かる資料を添付すること 大分県臼杵

第 3 節食料消費の動向と食育の推進 表 食料消費支出の対前年実質増減率の推移 平成 17 (2005) 年 18 (2006) 19 (2007) 20 (2008) 21 (2009) 22 (2010) 23 (2011) 24 (2012) 食料

3 活性化の取組方針 (1) 基本方針港整備 ( 簡易係留施設 駐車場 緑地 広場等 ) された施設を最大限に有効利用し 観潮船の運航 待合所兼加工場の整備を核に漁業就業環境の改善 生活環境の改善並びに都市漁港の交流拡大により産地水産業の活性化を図るとともに漁業コストの削減や資源増殖の整備などを推進

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有害生物漁業被害防止総合対策事業について

(2) その他の関連する現状等子どもを含めた若い世代が特に 魚離れ になっている 魚のさばき方が分からない 料理方法が分からない ゴミの処理に困るなどの声が聞かれる 一方で 魚はヘルシーで健康的だという意識も高い 子どもの時から食べ 美味しさが分からないと大人になっても食べようとしない 地産地消の観

3-3 現地調査 ( カレイ類稚魚生息状況調査 ) 既存文献とヒアリング調査の結果 漁獲の対象となる成魚期の生息環境 移動 回遊形態 食性などの生活史に関する知見については多くの情報を得ることができた しかしながら 東京湾では卵期 浮遊期 極沿岸生活期ならびに沿岸生活期の知見が不足しており これらの

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浜の活力再生プラン 別記様式第 1 号別添 1 地域水産業再生委員会組織名深浦町風合瀬地区地域水産業再生委員会代表者名坂﨑清美 再生委員会の構成員 風合瀬漁業協同組合 深浦町農林水産課 西北地区地域県民局地域農林水産部鯵ヶ沢水産事務所 オブザーバー 対象となる地域の範囲及び漁業の種類 深浦町風合瀬地

青森県 改善計画の基本種類型漁業種類認定年月日 ( 計画期間 ) 漁船その他の施設の整備小型定置網漁業 H25.3.7( H24.10 ~ H29.9) 1. 漁業経営改善計画の具体的な内容今般 老朽化した定置網漁船 ( 平成 6 年進水 ) を被代船として代船建造する 新船を建造することで修理費用

Voice Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries 08

資源評価法 沿岸漁業の漁獲努力量に関する情報が得られていないことから 100 トン以上の沖底かけまわし船によるマダラの有漁操業の単位努力量当たり漁獲量 (CPUE)( 以下 沖底 CPUE) に基づいて資源状態を判断した 本資源全体の資源の水準 動向を判断するとともにオホーツク海 北海道太平洋 北海


別記様式第 1 号別添 浜の活力再生プラン 1 地域水産業再生委員会組織名室蘭地区沖底地域水産業再生委員会代表者名会長室村吉信 再生委員会の構成員 室蘭漁業協同組合 室蘭市 オブザーバー 北海道胆振総合振興局 胆振地区水産技術普及指導所北海道機船漁業協同組合連合会 北海道漁業協同組合連合会室蘭支店

小笠原・伊豆諸島周辺海域における外国漁船への対応について

2. 燧灘カタクチイワシ資源状況 (1) 燧灘カタクチイワシの漁獲量の動向 ( 資料 ) カタクチイワシ瀬戸内海系群 ( 燧灘 ) の資源評価より (2) 燧灘カタクチイワシの初期資源尾数の動向 ( 資料 ) カタクチイワシ瀬戸内海系群 ( 燧灘 ) の資源評価より (3) 資源状況考察 広島 香川

東京湾盤洲沿岸での夏季 1 潮汐間におけるアサリ幼生の鉛 直分布の特徴 誌名 日本水産學會誌 ISSN 著者 巻 / 号 鳥羽, 光晴山川, 紘庄司, 紀彦小林, 豊 79 巻 3 号 掲載ページ p 発行年月 2013 年 5 月 農林水産省農林水産技術会議事務

(2) その他の関連する現状等 奈半利町では ふるさと納税 の取組に力を入れており 特典である贈答品に奈半利町の農産物 水産物及び加工品などを採用し その充実ぶりがテレビで取り上げられるなどして認知度が大きく向上した これまでの寄付額が四国で初めて 2 億円を超えるなど好調である一方で 想定以上に申

 

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島根水技セ研報 ~ 37 頁 (2012 年 3 月 ) 島根県沿岸域のマアジ漁況 - 春 ~ 初夏季の漁獲量変動におよぼす水温変動の評価 - 森脇晋平 1 1 寺門弘悦 Catch conditions of jack mackerel,trachurus japonicus, in

別記様式第 1 号別添 浜の活力再生プラン 1 地域水産業再生委員会 組織名 中島三和地区地域水産業再生委員会 代表者指名 会長大野覚男 再生委員会の構成員 中島三和漁業協同組合 松山市農林水産課 オブザーバー 愛媛県中予地方局水産課愛媛県漁業協同組合連合会 再生委員会規約及び推進体制の分かる資料を

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水産ビジョン 本文

3. 資源管理の方向性本府では水産資源の持続的な利活用を水産業振興の重点方策として位置付け 積極的な資源管理 資源の維持回復を図るべく 漁業調整規則等で規定されている公的規制の徹底と併せて 漁業者の自主的取組を他の関連施策と一体となって展開していく なお 本指針における公的資源管理 ( 公的措置 )


完了後評価書(窪津)【140303修正】.pdf

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家庭系パソコンの回収再資源化にかかる論点

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第1部第Ⅱ章64 第 1 節 我が国における水産資源の管理 (1) 我が国周辺の水産資源の状況 *1 平成 25(2013) 年度の我が国周辺水域の資源評価結果をみると 主要な52 魚種 84 系群 のうち 資源水準が高位にあるものが12 系群 (14%) 中位にあるものが36 系群 (43%) 低

農林水産業における自然エネルギーの効率的利用技術に関する総合研究(グリーンエナジー計画)第1期成果の概要

生産環境の成立機構の解明

カキ殻加工固形物を使用したアサリ網袋設置式養殖及び天然採苗試験

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漁場と海洋調査海域(主に構造探査、曳航体調査を対象)

第 2 章 産業社会の変化と勤労者生活

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1. 太平洋クロマグロの分布 生態 成長 漁獲について 1

(2) その他の関連する現状等それまで両町にあった漁協を合併し 1 島 1 漁協体制で経営の合理化を図りつつ, 平成 4 年度に知名漁港製氷施設, 平成 23 年度に和泊漁港製氷施設を整備し, 鮮度維持対策や漁家経営の改善に取り組んできた 現在, 本島の鍾乳洞やウミガメ産卵スポット, 近海を回遊する

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14 森脇晋平 小谷孝治 寺門弘悦 所所属幸進丸 (8.47 t) を調査対象船とした. 海況に関する資料としては, 日本海区水産研究所が日本海ブロック内各府県 ( 青森県 ~ 山口県 ) の水産試験研究機関と協力して得られた水温データをもとに毎月公表している日本海漁場海況速報を用いた. 今回の報告

スライド 1

海上安全管理 (Marine Safety Management) 海上安全 + 安全管理 海上安全 船 - 操船者 - 環境 の相互連環システムに視点をおいた安全施策 安全管理 安全性を高めるために関係者のモチベーション醸成とコンセンサス形成を図ること 井上欣三著 海上安全管理 研究 (2006

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浜の活力再生プラン 別記様式第 1 号別添 1 地域水産業再生委員会組織名蟹田平舘地域水産業再生委員会代表者名委員長木浪昭 再生委員会の構成員 外ヶ浜漁業協同組合 外ヶ浜町 青森地方水産業改良普及所 オブザーバー 地方独立行政法人青森県産業技術センター水産総合研究所 再生委員会規約及び推進体制の分か

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世紀中頃に著しく減衰したため 近年の主要な漁獲対象は地域性ニシンである 2. 生態 (1) 分布 回遊本種は海草や海藻が繁茂する水深が浅い水域で産卵する 仔稚魚は発育に伴い沖へ移動して成長し 成熟すると産卵期には再び沿岸域に来遊する 本種の我が国周辺における分布域は北海道の沿岸から沖合にかけての水域

平成22年度 マハゼ稚仔魚の生息環境調査

資料 3 ー 1 環境貢献型商品開発 販売促進支援事業 環境省市場メカニズム室

分布 Panulirus japonicus P. longipes P. penicillatus, 浮遊幼生の生態 mm 3mm P. japonicus ,11 カノコイセエビ ( アカエビ ) シマイセエビ ( アオエビ ) 着底期以降の生態 cm 1-

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18 岡山水研報告 ,2013 貝殻等混獲物削減を目的とした小型機船底びき網の漁具の改良 元谷 剛 泉川晃一 Improvement of Small-Scale Trawl Fishing Net for Reducing By-Catch and Discards Tsuyosh

6-1 指定食肉 ( 豚肉及び牛肉 ) の安定価格肉用子牛の保証基準価格等算定概要 生産局 平成 27 年 1 月

資料 6-1 指定食肉 ( 豚肉及び牛肉 ) の安定価格肉用子牛の保証基準価格等算定概要 生産局 平成 27 年 12 月

浜の活力再生プラン

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A 対象となる地域の 別記様式第 1 号別添 浜の活力再生プラン 1 地域水産業再生委員会 組織名 代表者名 浜中地区地域水産業再生委員会 山﨑貞夫 再生委員会の構成員 オブザーバー EA 浜中漁業協同組合 浜中町北海道釧路総合振興局北海道漁業協同組合連合会釧路支店北海道信用漁業協同組合連合会釧路支

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Ⅰ. 世界海運とわが国海運の輸送活動 1. 主要資源の対外依存度 わが国は エネルギー資源のほぼ全量を海外に依存し 衣食住の面で欠くことのでき ない多くの資源を輸入に頼っている わが国海運は こうした海外からの貿易物質の安定輸送に大きな役割を果たしている 石 炭 100% 原 油 99.6% 天然ガ

プレスリリース


はそれぞれ 4~7 歳と推定された 当該ユメカサゴの検体は 4 個体を混合したものだったことから 今回の測定値は 4 個体の平均濃度を示しており 4 個体のそれぞれの濃度を知ることは出来ない このため 測定に供さなかった魚の頭部 ( 骨等の可食部以外の部位を含む ) を細断し これを検体として個体別

簿記教育における習熟度別クラス編成 簿記教育における習熟度別クラス編成 濱田峰子 要旨 近年 学生の多様化に伴い きめ細やかな個別対応や対話型授業が可能な少人数の習熟度別クラス編成の重要性が増している そのため 本学では入学時にプレイスメントテストを実施し 国語 数学 英語の 3 教科については習熟

3 流動比率 (%) 流動資産流動負債 短期的な債務に対する支払能力を表す指標である 平成 26 年度からは 会計制度の見直しに伴い 流動負債に 1 年以内に償還される企業債や賞与引当金等が計上されることとなったため それ以前と比べ 比率は下がっている 分析にあたっての一般的な考え方 当該指標は 1

神水セ研報第 7 号 (2014) 65 相模湾沿岸域定置網漁業における漁獲魚種の変遷と主要魚種の資源動向 髙村正造 片山俊之 木下淳司 Transition of catch fish and resource trends of important fishes in fixed net of

まき網漁船などで船団操業する形態について 1 年目に網船 2 年目に灯船 3 年目に運 7 搬船をリースしたいと考えていますが 各船で が設定できれば 全てをリースすることは可能ですか 造船メーカー等の株式会社が リース事業者になることは可能ですか もうかる漁業創設支援事業に参画

(2) その他の関連する現状等 漁業用資材や燃料価格が高騰し 高止まりの状態である 漁業経費の増加が収益の減少を引き起こし 漁業経営を圧迫している また 新規就業者の減少と全国平均を上回る漁業者の高齢化による後継者不足も課題である 3 活性化の取組方針 (1) 基本方針 Ⅰ 資源管理の強化 1 藻場

Nippon Suisan Gakkaishi 83(3), (2017) DOI: /suisan 北海道北部日本海沿岸のたこ箱漁場におけるミズダコの鉛直分布の季節変化 佐野稔, 1 梅田有宏, 2 佐々木隆浩 3 (2016 年 8 月 14 日受付

ニュースリリース 農業景況 : 景況 平成 27 年 3 月 26 日 株式会社日本政策金融公庫 農業の景況 DI 稲作をはじめ多くの業種で悪化 ~ 改善したのは養豚 ブロイラーなどの一部の業種に留まる ~ < 日本公庫 平成 26 年下半期農業景況調査 > 日本政策金融公庫 ( 略称 : 日本公庫

横浜市環境科学研究所

ナマコ漁を iPad でICT化―新星マリン漁協とはこだて未来大の取組み

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島根水技セ研報 10.9 ~ 13 頁 (2017 年 3 月 ) 隠岐周辺海域のばいかご漁業における漁具の 目合い拡大による効果について 池田博之 1a 為石起司 1 1 白石陽平 The effect of increasing the mesh size of the pot fishery gear for the Finely striated buccinum Buccinum striatissimum in Oki Islands, Shimane Prefcture Hiroyuki IKEDA, Tatsuji TAMEISHI and Yohei SHIRAISHI キーワード : エッチュウバイ, ばいかご漁業, 目合い, 資源管理 はじめにエッチュウバイ Buccinum striatissimum は, 日本海の水深 180 ~ 500m の砂泥域に生息する巻き貝で, 隠岐海峡を除く島根県沖合の広い範囲に分布している. 隠岐周辺海域では周年, 本土側沖海域では小型底びき網漁業の休漁の 6 ~ 8 月にばいかご漁業で漁獲されている. 隠岐周辺海域では 4 隻が操業しており,2012 年には 335 トン,2 億 8 千万円の漁獲があり, 地域の重要な漁業のひとつに位置づけられている. 隠岐周辺海域におけるばいかご漁具は,1 隻あたり,1 連に 180 個のかごを付けたはえ縄式かごを合計 8 連 (1,440 かご ) 使用し, かごは円錐台形で, 上面 1 箇所, 側面 2 箇所の進入口を有している. かごの目合いは, 従来は 10 節であったが,2011 年から小型貝の保護のため試行的に 8 節に拡大している. 主な漁場は, 隠岐周辺の水深 200 ~ 300m の海域で, 昼 2 時頃に出港して 1 ~ 3 時間かけて漁場に移動した後,11 ~ 16 時間操業してから翌朝 7 時頃に帰港する. 操業日は隠岐周辺海域で操業する 4 隻で統一している.4 隻の内 3 隻はずわいがにかご漁業と兼業しており,1 隻がばいかご漁業専業である 1). 近年の漁獲状況を図 1 に示す.1990 ~ 1999 年までの漁獲量は 300 ~ 400 トンで推移していたが, 2000 年以降, 漁獲量が大幅に増加した. この一因としては, 各船が次々と代船建造し船速が向上したことで, 漁場を効率良く利用できるようになったこと等が推測された. その後,2004 年をピークに漁獲量が減少傾向となったことから,2006 年から漁獲箱数制限を開始し,1 航海 1 隻あたり 300 箱 (1,800kg) までとした. さらに,2009 年には漁獲箱数制限を 1 航海 1 隻あたり 250 箱 (1,500kg) まで削減するとともに, 関係漁業者間で資源管理協定を締結し, 経営体ごとに年間の漁獲量制限 ( 専業船 : 180t/ 年, 兼業船 :135t/ 年 ) と航海数制限 (2 週間 1 a 島根県隠岐支庁水産局 Shimane Prefectural Oki Branch Office, Fisheries Division 現所属 : 島根県農林水産総務課 General Affairs Division for Agriculture, Forestry and Fisheries 9

10 池田博之 為石起司 白石陽平 に 4 航海以内 当初は 2 週間に 5 航海以内 ) に取り組んでいる 1). その結果,2009 年以降の漁獲量はおおむね 325 トン前後で安定して推移している. 漁獲金額については, 単価が若干低下したため ( 図 2), 漁獲量ほどの増加は見られず,1990 年以降は 3 ~ 4 億円で推移し, 近年は 3 億円前後で安定している. 漁獲されたエッチュウバイは大きさごとに 大, 小, 豆 に選別され, 各銘柄の平均殻高は, 大 で約 110mm 前後, 小 で 95mm 前後, 豆 で 75 ~ 80mm 前後となっている 2). 各銘柄の漁獲割合は, 1990 ~ 1993 年にかけては 大 が最も多く, 全体の約 40% を占めていたが, その後は減少を続け, 近年は 10% を下回る状況にある ( 図 3). 用した. 対照漁具における 8 節と 10 節のかごの使用割合は 7:3 であった. 試験漁具, 対照漁具ともに漁具を 1 連使用し,1 連あたりのかご数は 180 個とした. 漁場は通常の操業と同じ海域とし, 出来るだけ試験漁具と対照漁具を隣接した場所に設置し, 操業場所, 水深, 試験漁具と対照漁具における銘柄ごとの漁獲箱数については, 漁業者に記録を依頼した. 漁獲物については 3 月 12 日 ~ 12 月 4 日の間に 11 回, 漁港で水揚げされる際に試験漁具と対照漁具における銘柄ごとの殻高,1 箱あたり入数を調査した. なお,1 航海あたりの漁獲箱数については, エッチュウバイと同時に漁獲されるエゾボラモドキやチヂミエゾボラ ( 地方名 : 赤バイ ) についても調査した. 結果 漁場試験時の操業位置を図 4 に示す. 操業場所 は隠岐諸島周辺の水深 189 ~ 262m の海域で, 季節 一方で 小 豆 の漁獲割合は増え,, 近年は 小 が約 60% を占めているが,2005 年以降は 小 も微減傾向にあり, 豆 の割合が漸増している. 漁獲物の小型化は資源水準の悪化を示唆していると考えられるため, 漁業者自らが資源保護を目的に前述のとおり網目の拡大や漁獲量の制限を行ってきたが, 漁獲物の小型化傾向に歯止めがかかっていない. そこで, さらに小型貝の保護を図る目的で,7 節に網目を拡大した漁具の導入を検討するため, 従来の漁具 (8,10 節目合い ) と 7 節の漁具で漁獲量や漁獲物の組成を比較し, 目合いを拡大した場合の資源保護の効果並びに経営への影響を検証することとした. 方法 試験は,2013 年 1 ~ 12 月に, 隠岐周辺でばいかご漁業を営む第二十五福祐丸 (19 トン ) により実施した. 試験漁具として 7 節のかごを使用し, 対照漁具として従来用いていた 8 節と 10 節のかごを使

隠岐周辺海域のばいかご漁業における漁具の目合い拡大による効果について 11 に応じて漁獲状況等を勘案し, 場所を移動しながら操業していた. 1 航海 1 連あたり銘柄別漁獲箱数試験漁具と対照漁具の,1 航海 1 連あたり銘柄別の漁獲箱数を図 5 に示す. 試験期間中に, 合計 87 航海行い, 試験漁具と対照漁具の 1 航海 1 連あたりの平均漁獲箱数 (± は標準偏差, 以下同様とする ) は, それぞれ, 大で 1.5 ± 1.3 箱及び 1.4 ± 1.4 箱, 小で 12.3 ± 5.0 箱及び 11.3 ± 4.5 箱, 豆で 10. 9 ± 4.2 箱及び 13.0 ± 5.1 箱, 赤バイで 3.5±3.4 箱及び 3.3±2.7 箱であった. 試験漁具と対照漁具の銘柄別の 1 航海 1 連あたりの漁獲箱数の差について student の t- 検定を行ったところ, 大, 小, 赤バイについては統計的に有意な差は見られなかったが, 豆については統計的に有意な差が見られた (p<0.01). 銘柄別殻高試験漁具及び対照漁具により漁獲されたエッチュウバイの銘柄別の平均殻高を図 6 に, 各銘柄の殻高組成を図 7 に示す. 試験漁具と対照漁具の銘柄別平均殻高は, それぞれ, 大で 118.9 ± 4.9 mm 及び 118.2 ± 5.5mm, 小で 106.1 ± 6.5mm 及び 105.6 ± 6.9mm, 豆で 84.2 ± 10.1mm 及び 81.9 ± 10.5mm であった. 試験漁具と対照漁具の平均殻高の差について student の t- 検定を行ったところ, 大, 小については統計的に有意な差は見られなかったが, 豆については統計的に有意な差が見られた (p<0.01). 各銘柄の殻高組成を比較すると大, 小では特段違いは見られなかったが, 豆では殻高 75mm 未満の小型貝について試験漁具で漁獲される個数が対象漁具より少ない傾向であった. 1 箱あたりの入数試験漁具と対照漁具で漁獲されたエッチュウバイの銘柄別の 1 箱あたりの入数を図 8 に示す. 試験漁具と対照漁具の銘柄別の 1 箱あたりの平均入数は, それぞれ, 大で 43.0 ± 3.3 個及び 42.0 ± 2.4 個, 小で 64.3 ± 7.4 個及び 66.0 ± 7.0 個, 豆で 135.3 ± 16.5 個及び 140.1 ± 19.4 個であった.

12 池田博之 為石起司 白石陽平 試験漁具と対照漁具の銘柄別の 1 箱あたりの入数について student の t- 検定を行ったところ, いずれの銘柄も統計的に有意な差は見られなかった. 考察小型貝の保護効果について豆において,1 航海 1 連あたりの漁獲箱数及び平均殻高に統計的に有意な差が見られた. また, 殻高組成でも豆では殻高 75mm 未満の個体が少ない傾向があったことから, 漁具の目合いを 7 節に拡大することで, 殻高 75mm 以下の小型貝が目合いから抜ける割合が高くなることにより, 豆の漁獲箱数が減少するとともに, 豆の平均殻高が大きくなったと考えられた. 隠岐海域で操業するばいかご漁船 4 隻がすべて漁具の目合いを 7 節にした場合の, 小型貝の保護個数を次のとおり試算した. 対照漁具によるエッチュウバイの年間漁獲個数は,2010 ~ 2012 年の隠岐海域におけるばいかご漁業の銘柄別平均漁獲量を 6kg/ 箱として箱数に換算し, これに1 箱あたりの入数 ( 図 8) を乗じて算出 した ( 表 1). なお,1 箱あたりの入数については, 統計的に有意な差は見られなかったことから, 試験漁具と対照漁具の数値の平均を用いた. その結果, 対照漁具では, 年間 4,516,313 個のエッチュウバイが漁獲され, その内豆は 2,069,493 個と試算された.( 表 1) 一方,2010 ~ 2012 年の漁獲を試験漁具により行った場合の漁獲個数を以下の方法で推定した. すなわち, 試験漁具による漁獲個数は, 大, 小については, 1 航海 1 連あたりの漁獲箱数に有意な差は見られなかったことから, 対照漁具と同数とした. 豆については, 対照漁具による漁獲量に試験漁具と対照漁具の1 航海 1 連あたりの漁獲箱数の比を乗じて算出した. その結果, 試験漁具では, 年間 4,181,978 個のエッチュウバイが漁獲され, その内豆は 1,735,158 個と試算された.( 表 2) したがって, 隠岐海域で操業する全てのばいかご漁船が漁具の目合いを 7 節に拡大した場合, 対照漁具による全銘柄の漁獲個数の 7.4%, 豆の 16.2% にあたる 334,335 個の小型貝を保護できると見込まれた. 為石 村山は島根県沖合において漁獲されたエッチュウバイの生殖腺熟度指数 (G.S.I) の調査を行い, 殻高 80mm を超えると G.S.I が急激に高くなることから, これらの個体が成熟個体と判断されると報告している 3). 田中 安達は島根県沖合で漁獲されたエッチュウバイの殻高度数分布の分析により成長曲線を推定している 4). その結果,3 年で 82.5mm になることから,3 歳貝から成熟して産卵に寄与すると考えられる. 豆の殻高組成 ( 図 7) を見ると, おおむね 75mm 未満の個体で, 試験漁具の方が対照漁具に比べて漁獲個体数が少ない傾向があった. 従って

隠岐周辺海域のばいかご漁業における漁具の目合い拡大による効果について 13 目合いの拡大により 75mm 未満の個体を保護することで, 小型貝の保護につながるとともに, これらの個体が 1 ~ 2 年後には産卵に寄与することから, より一層の資源の増大が期待される. 安達 清川は, 島根県大田市沖においてエッチュウバイかごの網目の違いによる漁獲物の選択性を調査し, 網目の違いによる最小漁獲殻高は 50mm 目合い (7 節 (50.5mm) とほぼ同サイズ ) では 36mm, 40mm 目合い (8 節 (43.3mm) と 10 節 (33.7mm) の中間サイズ ) では 28mm と報告している 5). しかしながら, 今回の調査では対照漁具でも,56mm 未満の個体は確認されなかった. これは, 小型貝が船上において選別をされており,56mm 未満の小型貝は, 再放流されているためと推察された. しかし, 再放流では, 漁獲による貝殻の破損や低水温の海底から高水温の表層への温度変化による活力の低下, 再放流され海底にたどり着くまでの食害が懸念されるが, 目合い拡大により漁獲自体を回避することで, 小型貝の保護効果はより高くなると考えられる. 豆の減少に伴う漁獲金額の減少について漁具の目合い拡大により, 豆の 1 航海 1 連あたりの漁獲箱数が 13.0 箱から 10.9 箱に減少することに伴う ( 図 5) 漁獲金額の減少額を次のとおり試算した. 2010 ~ 2012 年の隠岐海域におけるばいかご漁業の銘柄別平均漁獲量, 金額及び単価は表 3 のとおりである. 前項において, 試験漁具及び対照漁具による隠岐海域で操業するばいかご漁船全体の豆の漁獲量はそれぞれ 90,172kg,75,606kg と試算されたので, 漁具の目合い拡大により漁獲量は 14,566kg 減少すると見込まれる. これに 2010 ~ 2012 年の隠岐海域で漁獲されたエッチュウバイの豆の平均単価 674 円 /kg を乗じると, 漁具の目合い拡大による漁獲金額の減少額は 9,817,484 円と算出された. 隠岐海域で操業するばいかご漁船全船の 2010 ~ 2012 年の平均航海数は 280 航海 ( 専業船 (1 隻 ): 88 航海 / 隻, 兼業船 (3 隻 ):64 航海 / 隻 ) であることから, 航海数で案分すると 1 隻あたりの漁獲金額の減少額は専業船で 3,096,086 円, 兼業船で 2,251,699 円と算出された. 漁具の目合い拡大による漁獲金額の減少額は, ばいかご漁船全体のエッチュウバイの漁獲金額 (271,789,192 円 ) の約 3.6% にあたる. 魚価の低迷 により漁獲金額の減少する一方, 燃油価格高騰により経費は増大しており, 厳しい漁家経営を強いられている中で, この減少額の影響は小さくないものと推察される. しかしながら, 小型貝を保護することは未来への投資であり, 数年後には親貝へ成長し再生産に寄与するとともに, 単価の高い大型貝の増加が期待されることから, その影響は次第に緩和されていくと期待される. 今後, 持続可能なばいかご漁業の実現するための目合い拡大をはじめ, 漁獲箱数制限等の資源管理を推進していくためには, 取組初期における漁家経営への影響を緩和し, 経営を安定させることが重要である. そのためには, 付加価値向上による魚価の向上等の対策等を併せて実施することが不可欠である. 現状では, エッチュウバイは島根県沖合で漁獲されているにもかかわらず, 県内における知名度は低く, 消費量も少ない. そこで, 関係者と協力して調理法の紹介や一次加工品の製造をすることで地元での消費拡大を図るとともに, 観光業者と連携をしながら土産品の開発, 宿泊施設や飲食店等への供給体制の構築等に取り組むことでエッチュウバイを広くPRしていくことが必要である. 文献 1) ( 独 ) 水産総合研究センター中央水産研究所 ( 株 ) 水土舎 : 資源管理 収入安定対策を活用した資源管理の推進 ~ 優良 先進事例の紹介.(2013). 2) 道根淳, 為石起司, 村山達朗 : 隠岐島周辺海域のばいかご漁業におけるエッチュウバイの資源管理. 島根県水産試験場研究報告, 第 10 号, 1-9(2002) 3) 為石起司 村山達朗 : 沖合漁場資源調査バイかご漁業における選択漁具の開発. 島根県水産試験場事業報告, 18-25(1997) 4) 田中伸和 安達二朗 : 大陸棚斜面開発調査エビ バイ籠漁業試験. 島根県水産試験場事業報告, 88-120(1979) 5) 安達二朗 清川智之 : 島根県大田市沖におけるエッチュウバイの資源管理とエッチュウバイかご網の網目選択性. 日本海ブロック試験研究集録, 第 21 号, 23-32(1991)