水稲いもち病当面の対策                   

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予報 岡病防第16号

仙台稲作情報令和元年 7 月 22 日 管内でいもち病の発生が確認されています低温 日照不足によりいもち病の発生が懸念されます 水面施用剤による予防と病斑発見時の茎葉散布による防除を行いましょう 1. 気象概況 仙台稲作情報 2019( 第 5 号 ) 宮城県仙台農業改良普及センター TEL:022

平成16年度農作物有害動植物発生予察情報

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元高虫防第 139 号令和元年 7 月 4 日 各関係機関長様 高知県病害虫防除所長 病害虫発生予察情報について 令和元年度病害虫発生予察 6 月月報及び令和元年度予報 4 号 (7 月 ) を送付します 令和元年度病害虫発生予察 6 月月報 Ⅰ. 気象概況半旬 (6 月 ) 平均気温最高気温最低気

・施肥

5月の病害虫発生予想と防除のポイント

Ⅱ 今後の管理について 1 水管理について (1) 気象変動に対応した水管理 幼穂形成期に入ったら間断かん水 出穂期から開花期にかけては湛水管理 その後は間断 かん水が水管理の基本になりますが 気象変動に対応した水管理を心がけましょう 1 減数分裂期の低温 減数分裂期 ( 葉耳間長 ±0cm 出穂期

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病害虫発生予察情報(11月予報)

平成 28 年度農林水産業 食品産業科学技術研究推進事業 平成 29 年 1 月版 コムギなまぐさ黒穂病 Q & A 北海道農政部生産振興局技術普及課 北海道病害虫防除所 北海道立総合研究機構農業研究本部

H26用改訂原稿

レイアウト 1

Microsoft Word 予報第9号

令和元年度 (2019 年度 ) 病害虫発生予察情報第 13 号 8 月予報北海道病害虫防除所令和元年 (2019 年 )7 月 29 日 Tel:0123(89)2080 Fax:0123(89)2082 季節予報 ( 付記

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Ⅰ 収穫量及び作柄概況 - 7 -

**************************************** 2017 年 4 月 29 日 日本植物病理学会殺菌剤耐性菌研究会 耐性菌対策のための DMI 剤使用ガイドライン 一般的な耐性菌対策 1. 薬剤防除だけに頼るのではなく 圃場や施設内を発病しにくい環境条件にする 1)

PowerPoint プレゼンテーション

取組の詳細 作期の異なる品種導入による作期分散 記載例 品種名や収穫時期等について 26 年度に比べ作期が分散することが確認できるよう記載 主食用米について 新たに導入する品種 継続使用する品種全てを記載 26 年度と 27 年度の品種ごとの作付面積を記載し 下に合計作付面積を記載 ( 行が足りない

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「公印省略」

令和元年度 (2019 年度 ) 病害虫発生予察情報第 5 号 6 月予報北海道病害虫防除所令和元年 (2019 年 )5 月 29 日 Tel:0123(89)2080 Fax:0123(89)2082 季節予報 ( 付記 )

平成 26 年度補正予算 :200 億円 1

付図・表

p1_10月月報用グラフ

北海道におけるコムギなまぐさ黒穂病防除について 一般社団法人北海道植物防疫協会 事務局長理事 田中 Fumio Tanaka 文夫 1. はじめにイネ科作物の黒穂病といえば ある年代以上の方はトウモロコシの所謂 お化け や春播き小麦の裸黒穂病を思い浮かべるのではないだろうか? いずれも採種圃場管理と

平成19年度事業計画書

広報たかす

果樹の生育概況

展示圃要領1

月中旬以降の天候によって塊茎腐敗による被害が増加する事例も多い 平成 28 年度は疫病の発生面積率は19.9% と例年に比べてやや少なかったものの 塊茎腐敗の発生面積率は 14.8% と例年に比べてやや多かったとされる ( 平成 現在 北海道病害虫防除所調べ ) かつては 疫病には

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主要産地における平成 29 年産水稲の収穫量及び作柄概況等について第 1 報 (8 月 31 日現在 ) 全国 道府県 全国 予想収穫量 (29 年 8 月 15 日現在 )1 収穫量 ( 早期栽培等 ) 予想収穫量 (28 年 8 月 15 日現在 )2 前年産との比較 (1-2) 作況 ( 早期

リンゴ黒星病、うどんこ病防除にサルバトーレME、フルーツセイバーが有効である

わかっていること トマトすすかび病について

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ネギ 防除法

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ハクサイ黄化病のヘソディム

コシヒカリの上手な施肥

圃場試験場所 : 県農業研究センター 作物残留試験 ( C-N ) 圃場試験明細書 1/6 圃場試験明細書 1. 分析対象物質 およびその代謝物 2. 被験物質 (1) 名称 液剤 (2) 有効成分名および含有率 :10% (3) ロット番号 ABC 試験作物名オクラ品種名アーリーファ

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麦 類 生 育 情 報

表紙

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( 一財 ) 沖縄美ら島財団調査研究 技術開発助成事業 実施内容及び成果に関する報告書 助成事業名 : 土着微生物を活用した沖縄産農作物の病害防除技術の開発 島根大学生物資源科学部 農林生産学科上野誠 実施内容及び成果沖縄県のマンゴー栽培では, マンゴー炭疽病の被害が大きく, 防除も困難となっている

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3 園芸作物 < 果菜類 > 1-1 トマト [ ハウス ] ア導入すべき持続性の高い農業生産方式の内容 トマトは主に道央 道南および道北の施設で栽培され 作型は促成 ( ハウス加温 マルチ ) 半促成 ( ハウス マルチ ) 抑制 ( ハウス ) などである 品種は 桃太郎 ハウス桃太郎 桃太郎

殺虫数(頭(2) 京田辺市におけるフェロモントラップへの誘殺虫数 (7 月第 6 半旬 ~8 月第 5 半旬の合計値 ) は81.0 頭で 平年の22.4 頭を上回っている (+)( 図 1) また 本年度からフェロモントラップを設置した亀岡市および京丹後市でも 8 月第 4 半旬から誘殺数が急増し

平成 30 年産米づくりのポイント ~ 水稲種子の消毒時の注意点について ~ JA 全農ちば営農支援部今年も水稲栽培に向けた準備の時期がやって来ます イネばか苗病や細菌性の苗立枯病など種子伝染性の病害の発生を防ぐためには 薬剤による種子消毒を中心とした対策が必要不可欠のため しっかりとした対策を実施

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目 的 大豆は他作物と比較して カドミウムを吸収しやすい作物であることから 米のカドミウム濃度が相対的に高いと判断される地域では 大豆のカドミウム濃度も高くなることが予想されます 現在 大豆中のカドミウムに関する食品衛生法の規格基準は設定されていませんが 食品を経由したカドミウムの摂取量を可能な限り

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農業指導情報 第 1 号能代市農業総合指導センター環境産業部農業振興課 発行平成 26 年 4 月 25 日二ツ井地域局環境産業課 確かな農産物で もうかる 農業!! 農家の皆さんを支援します!! 農家支援チームにご相談ください! 今年度 農業技術センター内に農家支援

バンカーシート 利用マニュアル 2017年版(第一版)

2) の特徴 1 有効成分が 銀 自然界に広く存在している 銀 を有効成分とした水稲種子消毒剤です 2 幅広いスペクトラム本剤のみで 水稲の主要な種子伝染性病害 ( ばか苗病 いもち病 ごま葉枯病 もみ枯細菌病 苗立枯細菌病 褐条病およびイネシンガレセンチュウの防除が可能です 3 細菌病に対する優れ

ミニトマト ( 野菜類 ) ( トマトモサ イクウイルス キュウリモサ イクウイルス ) 黄化えそ病 ( トマト黄化えそウイルス TSWV) 黄化葉巻病 ( トマトイエローリーフカールウイルス TYLCV) 1. 発病株は抜き取り 苗床や本畑に発病株の根をできるだけ残さないようにする 2. 摘心 摘

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情報01-1.xlsx

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Microsoft Word - H30予報03号.docx

殺虫剤 協友ダントツ 粒剤クロチアニジン 0.50% 種類名 / クロチアニジン粒剤登録番号 / 第 号 * 毒性 / 普通物有効年限 / 4 年包装 / 1kg 12 3kg 6 10kg 特 長 浸透移行性に優れ カメムシ目 ハエ目 コウチュウ目 チョウ目 バッタ目 アザミウマ目の各

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資料6 (気象庁提出資料)

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高品質米の生産のために

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窒素吸収量 (kg/10a) 目標窒素吸収量 土壌由来窒素吸収量 肥料由来 0 5/15 5/30 6/14 6/29 7/14 7/29 8/13 8/28 9/12 9/ 生育時期 ( 月日 ) 図 -1 あきたこまちの目標収量確保するための理想的窒素吸収パターン (

76 キク品種の白さび病抵抗性と白さび病菌レース 胞子で 7 22 である 両胞子のこのような性質から 噴霧器 発病は担子胞子形成の適温に支配され 最適な条件は 7 前後で 湿度が高く葉面が濡れている状態である キク白さび病菌レースと白さび病抵抗性 キク品種 罹病葉 植物病原菌では 同じ菌であっても

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る ( 久保田ら 2009) ことから 未知の伝染経路がある可能性は残るものの 本ウイルスの基本的な対策は 無病苗の育成と導入による発生防止 ハサミ等の消毒による蔓延防止 土壌中のウイルスを失活させることによるほ場内伝染環の遮断ということになる 3. 重要な残さの分解無病苗の育成と導入 ハサミ等の消

( 別記 ) 大玉村地域農業再生協議会水田フル活用ビジョン ( 案 ) 1 地域の作物作付の現状 地域が抱える課題 当該地域は 水田面積に占める主食用水稲の割合が 69% で 転作作物に占める割合としては飼料作物が多く 次にそば 野菜がある しかしながら 主食用米の需要が減少する中で さらに他の転作

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作物ごとの対策については 以下のとおりです 水稲 水稲に対する日照不足の影響で最も懸念されることはいもち病の発病であり 出穂期以降では登熟障害 いわゆる白未熟の発生が懸念される また 大雨により河川の水位が高くなり 排水路の水が河川に放流できずに冠水被害をもたらすことがある これらを考慮して健全な生

今後の管理のポイント [懸案事項] ①早期作型における2番花 房の花芽分化遅延 ②炭そ病とハダニ類の発生 拡大 [対策] ①寒冷紗を被覆して 花芽分化を誘導する 2番花房 の花芽分化を確認して被覆を除去する 被覆期間の目安 9月25 10月20日 ②定期的に薬剤による防除を行う 特に葉かぎ後の 葉か

秋から冬にしておく さといも疫病対策

AI IoTを活用したスマート農業の加速化 人手不足への対応や生産性の向上を進めるためには ICTを活用したスマート農業の推進が重要 今後人工知能やIoT等の先進技術により 生産現場のみならずサプライチェーン全体にイノ ベーションを起こし 生産性向上や新たな価値創出を推進 1

石灰窒素だより142号

714 植 物 防 疫 第 63 巻 第 11 号 2009 年 岡山県で発生した Rhizobium radiobacter Ti による ブドウ根頭がんしゅ病 岡山県農業総合センター農業試験場 は じ め かわ ぐち あきら 川 口 章 12 月のサンプルから AT06 1 AT06 8 株 を

スライド 1

CONTENTS Q1. の特長を教えてください... 2 Q2. の有効成分について教えてください... 2 Q3. 登録内容を教えてください... 3 Q4. 対象病害虫について教えてください... 3 Q5. 効果試験などあれば教えてください... 4 Q6. 使い方を教えてください... 6

3. 生物的方法 ある種の微生物や 病原力を脱落させた病原菌に 植物の防御能力を高める作用があり ます また 病原力を弱めたウイルス ( 弱毒ウイルス ) を前もって接種しておくと その 後の同一あるいは近縁ウイルスの感染率を低下させることが可能です それらのうち 農 薬登録されているものを表 2-

図 2 水稲栽培における除草剤処理体系 追肥による充実不足 白粒対策 ~ 生育後半まで肥切れさせない肥培管理 ~ 図 3 追肥作業は 水稲生育中 後期の葉色を維持し 籾数及び収量の確保と玄米品質の維持に重要な技術です しかし 高齢化や水田の大区画化に伴い 作業負担が大きくなり 追肥作業が困難になりつ

H30年産そば方針

5月の病害虫発生予想と防除のポイント

○H29-3 表紙_バジルべと病(案2)

一太郎 12/11/10/9/8 文書

<2014年の花粉飛散傾向発表。2月上旬から花粉シーズン到来、対策は1月から>

「そらゆき」栽培マニュアル

Transcription:

水稲いもち病当面の対策 平成 22 年 9 月 8 日北海道病害虫防除所 1 はじめに水稲の重要病害であるいもち病は 道内においては 平成 12 年と 13 年に多発生して以降 ほぼ少発生で推移してきました しかし平成 2 年にふたたび多発生し 平成 21 年も葉いもちおよび穂いもちとも 被害が拡大したところです 平成 22 年においても いもち病の感染源となる保菌した稲わらやもみ殻が 育苗ハウスおよび水田周辺に多く残っていたこと また本病が発生しやすい気象条件で推移したことなどから 葉いもちの発生量は多い傾向にあります さらに予察田や一般田における状況から 穂いもちの発生量も多いと予想されており 22 年産米に対する被害はもとより 次年度の本病の発生におよぼす影響も懸念されております つきましては 水稲いもち病の次年度に向けた当面の対策として 本年の発生水田における収穫後の残渣処理を中心に 道総研農業試験場における研究成果などを基に整理しましたので 現地指導等の参考資料としてご活用してください 2 いもち病の発生状況 45 4 35 葉いもち穂いもち作付け面積 多発生 18 17 16 発生面積率 % 3 25 2 15 15 14 13 作付け面積 ( 万 ha) 5 少発生 少発生 12 11 S57 S58 S59 S6 S61 S6 2 S63 H1 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H H 11 H12 H13 H14 H1 5 H16 H17 H18 H19 H2 H21 図いもち病年次別発生の推移 近年における いもち病 の発生状況 ( 単位 :%) 葉いもち 穂いもち 年次 発生状況 発生面積率 平年 被害面積率 平年 発生状況 発生面積率 平年被害面積率 平年 H15 少 1.1 11.4. 1.2 少.6 9.3. 1.1 H16 少.3 9.9.1 1. 少.4 8.1. 1. H17 少.3 9.9.3 1. 少.3 8...9 H18 少 1. 7.2.1.7 少 1.7 5.9.1.6 H19 少.5 6.3.3.7 少.5 5.3.2.6 H2 並 11.4 6.1.3.7 並 14.3 4.9.4.6 ( 空知やや多 ) ( 空知やや多 ) H21 多 38.2 6.9 5.8.7 多 25.5 6.1 2.8.7-1 -

多発年における発生要因の解析 ( 農作物有害動植物発生予察事業年報 より ) 年次 葉いもち 穂いもち 平成 13 年 主要品種がいずれもいもち病に弱い 近年 徐々に発生が増加しており 菌密度がたかまってきたと思われる 7 月は曇りや雨の日が多く 各地とも月を通して感染好適日 準好適日がかなりの頻度で現れ 本病に好適な条件が続いた 平成 14 年 主要品種がいもち病に弱い 感染好適日は 空知 上川 留萌地方で 7 月 1 ~3 半旬に 4 半旬は全道的に頻繁に見られ 7 月中 ~ 下旬は高温多湿でいもち病に好適条件が続いたため 全道的に葉いもちが多発 空知地方の一部では 苗床に籾殻を敷いたり ハウス周辺に散乱させため 苗床で感染した疑いある 空知 留萌地方では初発が早く薬剤防除前に発生したため 出穂前にずり込みが見られた 平成 2 年 7/ 頃と 7/2 頃の好適な天候により初発したと思われるが 近年の少発性傾向により見過ごされたケースがあったと思われ 防除適期を逸した事例が見られた 7 月初旬の高温傾向により茎数が増え やや過繁茂であったことも助長 葉いもちの発生が多かった 出穂期前後が低温に経過したため 出穂がだらだらと長引き 穂いもちに感染しやすい状態が続いた 薬剤防除前に葉いもちが発生し多発したため 穂いもちも多発した 葉いもち病の発生と出穂期の天候により発生量がやや多くなり 以降の高温で停滞することなく進展した事例があった 平成 21 年 一般田での葉いもちの初発は低温傾向のため早くなかったものの 7 月下旬に発生が確認され始めてから急速に進展し 出穂期以降もいもち病が進展した水田が見られた 6 月下旬の高温によってやや徒長気味に生育していたことと 7 月中旬以降の低温寡照によっていもち病に感染しやすい体質で発生期を迎えていたことが 多発の要因となったと考えられる また 水田間で発生程度に差が見られ 降雨の影響等による防除の適 不適も大きな要因であったと思われる 平成 22 年におけるいもち病の発生経過 (H22 病害虫発生予察情報 9 月予報より ) 予察田における穂 節いもちの初発期 地点品種名 枝梗 首 節 平年 本年 平年 本年 平年 本年 平年 北斗市きらら397 8 月 2 日 8 月 15 日 8 月 5 日 8 月 2 日 8 月 9 日 8 月 21 日 長沼町 きらら397 8 月 7 日 8 月 日 8 月 13 日 8 月 16 日 8 月 15 日 8 月 16 日 8 ななつぼし 8 月 7 日 8 月 8 日 8 月 13 日 8 月 14 日 8 月 15 日 8 月 14 日 4 比布町 きらら397 7 月 26 日 8 月 8 日 8 月 2 日 8 月 11 日 8 月 5 日 8 月 13 日 ほしのゆめ 7 月 24 日 8 月 6 日 7 月 29 日 8 月 9 日 7 月 29 日 8 月 日 予察田における葉いもち(8 月 3 半旬 ) 穂および節いもち(8 月 4 半旬 ) の発生状況 葉いもち 穂いもち 節いもち 地点 品種名 発病度 発病穂率 (%) 発病首率 (%) 発病茎率 (%) 本年 平年 本年 平年 本年 平年 本年 平年 北斗市 きらら397 36 21.8 74.8 19. 27.2 5.7 4.4 1.3 長沼町 きらら397 26 29.8 12.6 32.4.9 8.3. 2.8 ななつぼし 34 52. 33. 62.3 5. 17.7.9 12.1 比布町 きらら397 45 36.1 87.2 27.9 41.2 6.5 6.2 6.6 ほしのゆめ 7 51.2 81.2 38.2 49.6 16.1 24.6 22.1 巡回調査における発生状況 8 月 3 半旬時点で 53 調査地点中 29 地点で葉いもちの発生が確認されており 昨年 (14 地点 ) より多い発生 一部の一般田においても すでに穂いもちの発生が認められている - 2 -

3 いもち病の伝染経路と防除対策 いもち病の伝染経路 防除対策 [ 耕種的防除 ] (1) 種子は毎年更新し 自家採種種子は使用しない (2) 育苗ハウス内およびその周辺で 籾殻や稲わらの使用や放置はしない (3) ほ場の衛生に努め しろ掻き後に畦畔にあげたゴミを適正に処分する また さし苗の残りを遅くまで本田に放置しない (4) 窒素肥料の多用を避けるとともに 地力を高め健全な稲を育てる (5) ケイ酸資材の施用は本病の発生を抑制する [ 物理的防除 / 薬剤防除 ] 北海道農作物病害虫防除ガイド を参照 いもち病の早期多発を防ぐための伝染源対策 項目対策種子 種子更新を毎年行い 自家採種種子は使用しない 種子消毒は現行通り 徹底する 育苗ハウス内外のほ場の衛生 補植用取置苗 早期に除去する注 ) : 特に重要 : 重要 育苗ハウス内およびその周辺では もみ殻や稲わらは放置しない 育苗ハウス内でもみ殻や稲わらは利用しない 詳しくは 平成 16 年普及奨励ならびに指導参考事項 111 頁をご覧ください http://www.agri.hro.or.jp/center/kenkyuseika/gaiyosho/h16gaiyo/2443.htm - 3 -

4 いもち病が発生した水田の当面対応 稲わら ( 含もみ殻 ) の処理いもち病が発生した水田では 感染源となる稲わらを水田から搬出し 本田や育苗ハウスから離れた場所に堆積して腐熟化させ 病原菌を死滅させる 乾燥状態が保たれた稲わらでは罹病組織内の菌糸等が翌春まで生存し 感染源となることから ロールべールなど腐熟が進まない状態で 本田や育苗ハウス周辺への放置は絶対に行わない なお 稲わらが地上 地中に散乱していても 融雪水などにより湿潤状態が確保されると分生子や菌糸は翌年までに死滅するので やむを得ず稲わらを搬出できない場合は 稲わら全体が湿潤となるよう水田の地表や土中に拡散し 腐熟の促進に努める なお 天候 土壌などの条件によっては 稲わらの乾燥状態が保たれることもあるので 丁寧に拡散もしくは土中に混和させる 菌の越年および生存期間 もみ殻表面に付着したいもち病菌は室内乾燥状態でほぼ 1 か年近く生存し 病斑組織内の菌糸は同じくほぼ 2 か年生存する 被害わら ( 含むもみ殻 ) の分生子も室内乾燥状態では翌春まで生存できるが 組織内菌糸は 長期にわたって生存する ( 葉いもちでは 1 か年 ) 育苗ハウス内及び周辺の対応育苗用ハウス内及びその周辺にもみ殻や稲わらがあった場合 これらが苗への一時伝染源となり 多発生の原因となるので 育苗ハウス内およびその周辺でのもみ殻の放置や 利用を避ける 表いもち病が多発生した農家の育苗ハウスとその周辺 年 次 農家 品種 育苗ハウスとその周辺環境 平成 12 年 A はくちょうもち もみ殻が堆積および散乱 B ほしのゆめきらら397 もみ殻が散乱 C ほしのゆめ きらら397 平成 13 年 D ほしのゆめ きらら397 もみ殻が堆積および散乱 もみ殻が散乱 同一ハウスでトマトの育苗床としてもみ殻を使用 表育苗ハウスとその周辺から採集したもみ殻からのいもち病菌の分離状況 ( 越冬後 ) 番号 農家 サンプルの内容 いもち病菌の分離状況 1 A 屋外に堆積していたもみ殻 分離 2 B 屋外に散乱していたもみ殻 分離 3 C 屋外に堆積していたもみ殻 分離 4 D 屋外に散乱していたもみ殻 分離 5 D 育苗ハウスで利用されていたもみ殻 分離 図育苗時のもみ殻の有無と本田の発病株率の推移 図いもち病が多発した事例 - 4 -

種籾の準備自家採種した種もみはいもち病菌を保菌している可能性が高いので 採種ほ産の種もみを使用する ( 早期に種もみを手配する ) 病斑面積率 %.6.5.4.3.2.1 病斑面積率 (%) 14.41 病穂率 %.55 5.13 3.64.133.6 購入種子 ( 消毒有 ) 保菌種子 ( 消毒有 ) 保菌種子 ( 未消毒 ) 16 14 12 8 6 4 2 病穂率 % 発病株率 % 1.9.8.7.6.5.4.3.2.1 7/3 7/6 購入種子 ( 消毒有 ) 保菌種子 ( 消毒有 ) 保菌種子 ( 未消毒 ) 種子消毒 : イフ コナソ ール 銅水和剤 F 2 倍 24 時間浸漬 7/9 初発 7/ 7/12 7/15 初発 7/17 7/18 7/21 7/24 初発 7/25 7/27 図各処理区のいもち病の発生状況図本田における発病株率の推移 (22 年 ) - 5 -