水稲いもち病当面の対策 平成 22 年 9 月 8 日北海道病害虫防除所 1 はじめに水稲の重要病害であるいもち病は 道内においては 平成 12 年と 13 年に多発生して以降 ほぼ少発生で推移してきました しかし平成 2 年にふたたび多発生し 平成 21 年も葉いもちおよび穂いもちとも 被害が拡大したところです 平成 22 年においても いもち病の感染源となる保菌した稲わらやもみ殻が 育苗ハウスおよび水田周辺に多く残っていたこと また本病が発生しやすい気象条件で推移したことなどから 葉いもちの発生量は多い傾向にあります さらに予察田や一般田における状況から 穂いもちの発生量も多いと予想されており 22 年産米に対する被害はもとより 次年度の本病の発生におよぼす影響も懸念されております つきましては 水稲いもち病の次年度に向けた当面の対策として 本年の発生水田における収穫後の残渣処理を中心に 道総研農業試験場における研究成果などを基に整理しましたので 現地指導等の参考資料としてご活用してください 2 いもち病の発生状況 45 4 35 葉いもち穂いもち作付け面積 多発生 18 17 16 発生面積率 % 3 25 2 15 15 14 13 作付け面積 ( 万 ha) 5 少発生 少発生 12 11 S57 S58 S59 S6 S61 S6 2 S63 H1 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H H 11 H12 H13 H14 H1 5 H16 H17 H18 H19 H2 H21 図いもち病年次別発生の推移 近年における いもち病 の発生状況 ( 単位 :%) 葉いもち 穂いもち 年次 発生状況 発生面積率 平年 被害面積率 平年 発生状況 発生面積率 平年被害面積率 平年 H15 少 1.1 11.4. 1.2 少.6 9.3. 1.1 H16 少.3 9.9.1 1. 少.4 8.1. 1. H17 少.3 9.9.3 1. 少.3 8...9 H18 少 1. 7.2.1.7 少 1.7 5.9.1.6 H19 少.5 6.3.3.7 少.5 5.3.2.6 H2 並 11.4 6.1.3.7 並 14.3 4.9.4.6 ( 空知やや多 ) ( 空知やや多 ) H21 多 38.2 6.9 5.8.7 多 25.5 6.1 2.8.7-1 -
多発年における発生要因の解析 ( 農作物有害動植物発生予察事業年報 より ) 年次 葉いもち 穂いもち 平成 13 年 主要品種がいずれもいもち病に弱い 近年 徐々に発生が増加しており 菌密度がたかまってきたと思われる 7 月は曇りや雨の日が多く 各地とも月を通して感染好適日 準好適日がかなりの頻度で現れ 本病に好適な条件が続いた 平成 14 年 主要品種がいもち病に弱い 感染好適日は 空知 上川 留萌地方で 7 月 1 ~3 半旬に 4 半旬は全道的に頻繁に見られ 7 月中 ~ 下旬は高温多湿でいもち病に好適条件が続いたため 全道的に葉いもちが多発 空知地方の一部では 苗床に籾殻を敷いたり ハウス周辺に散乱させため 苗床で感染した疑いある 空知 留萌地方では初発が早く薬剤防除前に発生したため 出穂前にずり込みが見られた 平成 2 年 7/ 頃と 7/2 頃の好適な天候により初発したと思われるが 近年の少発性傾向により見過ごされたケースがあったと思われ 防除適期を逸した事例が見られた 7 月初旬の高温傾向により茎数が増え やや過繁茂であったことも助長 葉いもちの発生が多かった 出穂期前後が低温に経過したため 出穂がだらだらと長引き 穂いもちに感染しやすい状態が続いた 薬剤防除前に葉いもちが発生し多発したため 穂いもちも多発した 葉いもち病の発生と出穂期の天候により発生量がやや多くなり 以降の高温で停滞することなく進展した事例があった 平成 21 年 一般田での葉いもちの初発は低温傾向のため早くなかったものの 7 月下旬に発生が確認され始めてから急速に進展し 出穂期以降もいもち病が進展した水田が見られた 6 月下旬の高温によってやや徒長気味に生育していたことと 7 月中旬以降の低温寡照によっていもち病に感染しやすい体質で発生期を迎えていたことが 多発の要因となったと考えられる また 水田間で発生程度に差が見られ 降雨の影響等による防除の適 不適も大きな要因であったと思われる 平成 22 年におけるいもち病の発生経過 (H22 病害虫発生予察情報 9 月予報より ) 予察田における穂 節いもちの初発期 地点品種名 枝梗 首 節 平年 本年 平年 本年 平年 本年 平年 北斗市きらら397 8 月 2 日 8 月 15 日 8 月 5 日 8 月 2 日 8 月 9 日 8 月 21 日 長沼町 きらら397 8 月 7 日 8 月 日 8 月 13 日 8 月 16 日 8 月 15 日 8 月 16 日 8 ななつぼし 8 月 7 日 8 月 8 日 8 月 13 日 8 月 14 日 8 月 15 日 8 月 14 日 4 比布町 きらら397 7 月 26 日 8 月 8 日 8 月 2 日 8 月 11 日 8 月 5 日 8 月 13 日 ほしのゆめ 7 月 24 日 8 月 6 日 7 月 29 日 8 月 9 日 7 月 29 日 8 月 日 予察田における葉いもち(8 月 3 半旬 ) 穂および節いもち(8 月 4 半旬 ) の発生状況 葉いもち 穂いもち 節いもち 地点 品種名 発病度 発病穂率 (%) 発病首率 (%) 発病茎率 (%) 本年 平年 本年 平年 本年 平年 本年 平年 北斗市 きらら397 36 21.8 74.8 19. 27.2 5.7 4.4 1.3 長沼町 きらら397 26 29.8 12.6 32.4.9 8.3. 2.8 ななつぼし 34 52. 33. 62.3 5. 17.7.9 12.1 比布町 きらら397 45 36.1 87.2 27.9 41.2 6.5 6.2 6.6 ほしのゆめ 7 51.2 81.2 38.2 49.6 16.1 24.6 22.1 巡回調査における発生状況 8 月 3 半旬時点で 53 調査地点中 29 地点で葉いもちの発生が確認されており 昨年 (14 地点 ) より多い発生 一部の一般田においても すでに穂いもちの発生が認められている - 2 -
3 いもち病の伝染経路と防除対策 いもち病の伝染経路 防除対策 [ 耕種的防除 ] (1) 種子は毎年更新し 自家採種種子は使用しない (2) 育苗ハウス内およびその周辺で 籾殻や稲わらの使用や放置はしない (3) ほ場の衛生に努め しろ掻き後に畦畔にあげたゴミを適正に処分する また さし苗の残りを遅くまで本田に放置しない (4) 窒素肥料の多用を避けるとともに 地力を高め健全な稲を育てる (5) ケイ酸資材の施用は本病の発生を抑制する [ 物理的防除 / 薬剤防除 ] 北海道農作物病害虫防除ガイド を参照 いもち病の早期多発を防ぐための伝染源対策 項目対策種子 種子更新を毎年行い 自家採種種子は使用しない 種子消毒は現行通り 徹底する 育苗ハウス内外のほ場の衛生 補植用取置苗 早期に除去する注 ) : 特に重要 : 重要 育苗ハウス内およびその周辺では もみ殻や稲わらは放置しない 育苗ハウス内でもみ殻や稲わらは利用しない 詳しくは 平成 16 年普及奨励ならびに指導参考事項 111 頁をご覧ください http://www.agri.hro.or.jp/center/kenkyuseika/gaiyosho/h16gaiyo/2443.htm - 3 -
4 いもち病が発生した水田の当面対応 稲わら ( 含もみ殻 ) の処理いもち病が発生した水田では 感染源となる稲わらを水田から搬出し 本田や育苗ハウスから離れた場所に堆積して腐熟化させ 病原菌を死滅させる 乾燥状態が保たれた稲わらでは罹病組織内の菌糸等が翌春まで生存し 感染源となることから ロールべールなど腐熟が進まない状態で 本田や育苗ハウス周辺への放置は絶対に行わない なお 稲わらが地上 地中に散乱していても 融雪水などにより湿潤状態が確保されると分生子や菌糸は翌年までに死滅するので やむを得ず稲わらを搬出できない場合は 稲わら全体が湿潤となるよう水田の地表や土中に拡散し 腐熟の促進に努める なお 天候 土壌などの条件によっては 稲わらの乾燥状態が保たれることもあるので 丁寧に拡散もしくは土中に混和させる 菌の越年および生存期間 もみ殻表面に付着したいもち病菌は室内乾燥状態でほぼ 1 か年近く生存し 病斑組織内の菌糸は同じくほぼ 2 か年生存する 被害わら ( 含むもみ殻 ) の分生子も室内乾燥状態では翌春まで生存できるが 組織内菌糸は 長期にわたって生存する ( 葉いもちでは 1 か年 ) 育苗ハウス内及び周辺の対応育苗用ハウス内及びその周辺にもみ殻や稲わらがあった場合 これらが苗への一時伝染源となり 多発生の原因となるので 育苗ハウス内およびその周辺でのもみ殻の放置や 利用を避ける 表いもち病が多発生した農家の育苗ハウスとその周辺 年 次 農家 品種 育苗ハウスとその周辺環境 平成 12 年 A はくちょうもち もみ殻が堆積および散乱 B ほしのゆめきらら397 もみ殻が散乱 C ほしのゆめ きらら397 平成 13 年 D ほしのゆめ きらら397 もみ殻が堆積および散乱 もみ殻が散乱 同一ハウスでトマトの育苗床としてもみ殻を使用 表育苗ハウスとその周辺から採集したもみ殻からのいもち病菌の分離状況 ( 越冬後 ) 番号 農家 サンプルの内容 いもち病菌の分離状況 1 A 屋外に堆積していたもみ殻 分離 2 B 屋外に散乱していたもみ殻 分離 3 C 屋外に堆積していたもみ殻 分離 4 D 屋外に散乱していたもみ殻 分離 5 D 育苗ハウスで利用されていたもみ殻 分離 図育苗時のもみ殻の有無と本田の発病株率の推移 図いもち病が多発した事例 - 4 -
種籾の準備自家採種した種もみはいもち病菌を保菌している可能性が高いので 採種ほ産の種もみを使用する ( 早期に種もみを手配する ) 病斑面積率 %.6.5.4.3.2.1 病斑面積率 (%) 14.41 病穂率 %.55 5.13 3.64.133.6 購入種子 ( 消毒有 ) 保菌種子 ( 消毒有 ) 保菌種子 ( 未消毒 ) 16 14 12 8 6 4 2 病穂率 % 発病株率 % 1.9.8.7.6.5.4.3.2.1 7/3 7/6 購入種子 ( 消毒有 ) 保菌種子 ( 消毒有 ) 保菌種子 ( 未消毒 ) 種子消毒 : イフ コナソ ール 銅水和剤 F 2 倍 24 時間浸漬 7/9 初発 7/ 7/12 7/15 初発 7/17 7/18 7/21 7/24 初発 7/25 7/27 図各処理区のいもち病の発生状況図本田における発病株率の推移 (22 年 ) - 5 -