1 平成 25 年 3 月末日 ( 全 6 枚 ) 道路橋示方書 ( 平成 24 年 ) 改訂概要資料 大阪市立大学名誉教授北田俊行 1. 平成 24 年 2 月あるいは 3 月における道路橋示方書改訂の理由 (1) 最近の道路橋に関する新しい知見の反映 (2) 東北地方太平洋沖地震による橋梁被害の反映 2. 共立出版 の 新編橋梁工学 および 例題で学ぶ橋梁工学 への反映 (1) 今回の道路橋示方書の改訂内容の反映は この配布資料により行う (2) 今回の改訂内容の上記教科書への反映は 道路橋示方書の書式が現在の許容応力度設計法から限界状態設計法に移行された時点で出版予定の改訂版の中で行う (3) 上記教科書は 橋梁の鋼上部構造の設計を対象としているので この改訂概要資料では 道路橋示方書 同解説の共通編と鋼橋編との改訂内容を対象としており 今回大きく改訂された耐震設計編 ( 特にレベル 2 の地震荷重に対する耐震設計 ) や鋼橋編の中でも 施工 については 原則的に対象外としている 3. 道路橋示方書 共通編の改訂概要 (1)( 総則 ) 設計の基本理念に維持管理の確実性の考慮が追加された また 設計においては 維持管理設備の設置 橋梁や橋梁部材の更新が確実で容易に行える維持管理方法等の計画 維持管理に必要な資料の保存 および 排水施設の耐久性に配慮するものとしている (2)( 総則 ) 橋梁の一部の部材の損傷が橋梁の崩壊などの致命的な事故に繋がらないようにすることを設計において考慮することになった (3)( 総則 ) 架設位置や形式の選定において 地域の防災計画や関連する道路網の計画との整合性を考慮するようになった (4)( 使用材料 ) 鉄筋としての高強度の棒鋼 SD390( 降伏点あるいは 0.2% 耐力が 390~510N/mm 2 で 引張強さが 560 N/mm 2 以上 ) と棒鋼 SD490( それぞれ 490~625N/mm 2 620 N/mm 2 以上 ) とが追加された 4. 道路橋示方書 鋼橋編の改訂概要 (1)( 総則 ) 従来は 1.3 設計計算の基本 と 2.4 構造解析 とで規定 解説されていた内容が 1.3 設計計算の基本 の解説に統合された (2)( 総則 鋼種の選定 ) 最新の JIS の内容 また 耐候性鋼材の適用に関する留意事項に関して 解説の一部が修正された (3)( 許容応力度 ) 圧縮部材の従来の許容軸方向圧縮応力度は 種々の断面の圧縮部材を対象としている 1 本の耐荷力曲線に基づいているため 中には安全率が大きすぎる場合も起こりうる そこで 残留応力度を精度よく実測最大値 ( 残留圧縮応力度 σrc=0.25σ y σ y : 降伏点 ) に定め 初期たわみを部材の製作精度の最大値 ( 部材長さの 1/1000) とした溶接箱型断面を有する圧縮部材専用の局部座屈を考慮しない耐荷力曲線を求め それに基づいて この
種の圧縮部材の許容軸方向圧縮応力度を従来よりも大きくなるように新しく定めている 溶接箱型断面を有する圧縮部材は 鋼橋でよく用いられるために 従来の 1 本の耐荷力曲線に基づいた許容軸方向圧縮応力度を用いるよりも経済性が期待できる 参考までに 溶接箱型断面を有する圧縮部材専用の耐荷力曲線を 従来の耐荷力曲線と比較している 改訂された示方書の図 - 解 3.2.2 を以下に示す これらの 2 本の耐荷力曲線から決まる圧縮強度を安全率 1.7 で除して それぞれ溶接箱型断面 および それ以外の断面を有する圧縮部材の局部座屈を考慮しない許容軸方向圧縮応力度が定められている 図 - 解 3.2.2 表 -3.2.2 の許容応力度に対する基準耐荷力曲線 (4)( 許容応力度 ) 高力ボルト摩擦接合継手の接合面のすべり係数は 従来一律に 0.4 とされていたが 今回の改定では 接触面を塗装しない場合に従来どおりとし 接触面に無機ジンクリッチを塗装する場合に大きく 0.45 としている これに関連して 接触面を塗装しない場合と塗装する場合との高力ボルトの許容力を条文中に数表で示している (5) ( 許容応力度 ) アンカーボルトの許容応力度は コンクリート中に埋込んで使用するアンカーボルトに関するものであり 従来は 一般に施工が不確実であり 計算外の力が作用する機会も多いので その許容せん断応力度は 構造用鋼材の許容せん断応力度の 7 割程度とされていた しかし 今回の改 2
定で 施工性や計算外荷重の作用等については 強度以外の関連する箇所で規定し 強度に関しては 構造用鋼材の許容せん断応力度と同じとしている ( 鋼種 SS400: 従来の 60 N/mm 2 を 80 N/mm 2 に 鋼種 S35CN と S45CN: 従来の 80 N/mm 2 を 110 N/mm 2 に改訂 ) (6) ( 許容応力度 ) 棒鋼の許容応力度において 棒鋼 SR235 および SD295 は削除され 棒鋼 SD345 のみとしている (7)( 部材の設計 ) 軸方向圧縮力と曲げモーメントとを同時に受ける鋼部材の有限たわみによる付加曲げモーメントの影響を近似的に評価する従来の耐荷力照査式において 部材の細長比によっては過大に付加曲げモーメントの影響を評価するために 照査式の中のオイラー弾性座屈応力度に対する安全率が従来の 1.645( 1.7) から 1.25(=1/0.8) に減らされた (8) ( 部材の設計 ) 山形および T 形断面を有する圧縮部材において 照査式は変わらいないが 照査式の中の軸方向圧縮力と曲げモーメントとを同時に受ける鋼部材の許容軸方向圧縮応力度が上記の項 (7) に関連して変化するため 結果的に照査内容は変化することになる (9) ( 耐久性 ) 設計の基本理念に維持管理の確実性の考慮が追加された関係で 5 章耐久性 の解説文では 耐候性鋼材の適用に関する留意事項 および コンクリート内の鋼部材の防錆 防食に対する配慮の必要性が追加され さらに 疲労設計に関しては 鋼部材は新しく設けられた 6 章の規定 床版は 9 章の規定に従って設計するという条文の追加がある (10) ( 疲労設計 ) 今回の改訂によって 示方書の中に 6 章疲労設計 が新たに条文として追加された その疲労設計は 共立出版 新編橋梁工学 の 4.3 溶接接合 の中の I. 溶接継手の疲労設計法 に概要が示されている日本鋼構造協会編 鋼構造物の疲労設計指針 同解説 (1993 年 ) の限界状態設計法をベースに 最近の研究成果等を反映させて 許容応力度設計法の書式に従って記述されている 示方書の疲労設計法には 以下の特徴がある 詳しくは 直接 改訂された 6 章疲労設計 を参考にしていただきたい 直応力を受ける継手以外に せん断応力を受ける継手 および 直応力を受けるケーブル 高力ボルトの疲労設計曲線を更新あるいは新たに示されている 直応力を受ける継手等級では H 等級よりもさらに疲労強度の低い H 等級を設けている その他 継手等級が変更されている継手も見られる ケーブルの疲労強度に対する補正係数はなくなり 補正係数は 平均応力と板厚とに関するもの 2 つとしている 解説の中で 具体的な構造詳細例を示して 新設橋梁には 疲労強度の著しく低い継手構造や溶接の品質確保が難しい構造の採用を避けるべきであるとしている (11)( 連結 ) 連結される母材間に板厚差がある場合には 連結板は薄い側の母材を対象として 全強の 75% 以上の強度を持つように設計してよいことが解説に記述された (12)( 連結 )1 ボルト線上に配置されるボルト本数は 8 本までとし 接合面に無機ジンクリッチペイントを塗装する場合には 高力ボルトの許容力に低減係数を乗じることによって最大 12 本までを可としている 3
(13)( 連結 ) 溶接線が集中する箇所における 板組 開先形状 施工順序等への配慮の必要性が解説に入れられている (14)( 連結 ) フィラーの厚さ制限値 ( 厚い側の母材板厚の 1/2 程度かつ 25mm 程度以下 ) が解説に入れられている (15)( 床板 ) 床板に用いる鉄筋の許容応力度の規定に 最近の使用実績が少ないため 鉄筋の種類 ( 棒鋼 )SD295 が削除されている (16)( 床板 ) 閉断面縦リブ ( トラフリブ ) を有する鋼床板デッキプレートの最小板厚が 従来の 12mm から 大型自動車の輪荷重が常時載荷される位置では 16mm とされている (17)( 床組 ) 箱形断面の鋼桁の設計にあたっては 箱形断面の断面変形や集中力の作用点の力の伝達に問題がないように配慮する必要があるとの条文 解説が追加されている (18)( アーチ橋 ) 活荷重によるアーチリブの変位による形状の変化を考慮しなくてもいい限界を拡張できる方法を解説で示している (19)( アーチ橋 ) アーチリブの部材を設計する際の有効座屈長は格間長としてよいとしている しかし 支間長が長くなると この設計方法が安全側とならない場合があるので 全体座屈に対応する有効座屈長を用いた照査も併せて行う必要があることを解説で述べている (20)( ラーメン構造 ) 最近 新形式橋梁として建設されている鋼部材 ( 鋼上部構造 ) とコンクリート部材 ( 橋脚 ) とを一体化した複合構造形式 ( 複合ラーメン構造 ) については 16 章ラーメン構造 で規定していないが 採用する場合には 十分な検討を行うこと および 橋台部ジュイントレス構造に関しては今回に改訂された下部構造編に規定されているので参考にする旨 解説に記述されている (21)( ラーメン構造 ) 隅角部の溶接部における応力集中を緩和させるためフィレットを設けるなどの細部構造の設置に配慮すること および 構造物の耐荷力や疲労強度に大きく影響する組立時の作業性や溶接施工性にも十分な配慮が必要なことが 解説で強調されている (22) ( ラーメン構造 ) 根巻コンクリートや中埋コンクリートを設置する場合 鋼製柱壁面とコンクリート埋設部との境界面から水が浸入し 鋼部材が腐食する恐れがあるので 注意する旨の記述が解説に入れられている (23)( 施工 ) いろいろと改訂がなされ 施工上の留意点が条文や解説に追記されているので 関係 興味のある人は 直接に 18 章施工 を参考にしていただきたい 5. 道路橋示方書 耐震設計編の改訂概要 ( 平成 24 年 11 月に出された国土交通省国土技術政策総合研究所 独立行政法人土木研究所 : 既設橋梁の耐震補強設計に関する技術資料 も含む ) この道路橋示方書改訂概要資料では 参考までに 主として鋼製橋脚に関する改訂概要を示すが 内容が難しいので 詳しくは 改訂された 道路橋示方書 耐震設計編 および 既設橋梁の耐震補強設計に関する技術資料 を参考にされたい (1) 東北地方太平洋沖地震による被害を反映して 津波に関する地域防災計画等を参考にしながら津波の高さに対して桁下空間を確保すること 津波の影響を受けにくい構造的な工夫を施すこと および 上部構造が流出しても復旧しやす 4
いように構造的な配慮をすることを 耐震設計の基本方針の条文 解説に追加している (2) レベル 2( 供用期間中に発生する確率は小さいが大きな強度を持つ地震動 ) のタイプ Ⅰ( プレート境界型 ) の設計地震動がかなり大きくなった しかも この設計地震動に対する地域別補正係数も大きくされた ( 他の設計地震動の地域別補正係数は低減係数になっているが レベル 2 タイプ Ⅰ の設計地震動に対しては割増係数となっている ) したがって 兵庫県南部地震時の地震動を参考にしたレベル 2 タイプ Ⅱ( 内陸直下型 ) の設計地震動で既に耐震補強された橋脚の多くが 再度 根本的に耐震補強するか 何らかの対策が必要となる ( 以下の項 (8) 参照 ) (3) 落橋防止システムの規定が大きく見直された ( 以下の項 (8) 参照 ) (4) 橋脚や支承などが レベル 2 の地震動に対して確実に機能するように 5.5 地震の影響を支配的に受ける部材の基本 が新たに条文 ( 解説付き ) として規定されている (5) 旧タイプ A の支承 ( 供用期間中に発生する確率が高いレベル 1 の地震動以上の地震動によって機能を失う支承 ) が認められなくなった 維持管理上から旧タイプ A の BPA 支承 ( 高力黄銅支承板支承 ) を旧タイプ A の BPB 支承 ( 密閉ゴム支承板支承 ) に交換された支承が沢山あり これらの支承を旧タイプ B の支承 ( レベル 2 の地震でも機能を失わない支承 ) に交換するか しなくても耐震性能上で問題ないような対策が必要となった ( 以下の項 (8) 参照 ) (6) ジョイントプロテクターが 今までのような構造 ( レベル 1 以上の地震動で壊れて落下すると第三者被害に繋がる構造 ) では使用できなくなった 既存のジョイントプロテクターには 何らかの対策が必要である ( ジョイントプロテクターを撤去してレベル 1 以下の地震動に対してジョイントの遊間を広くして対処するか ジョイントどうしが衝突しても壊れないようにするなどの対策 あるいは ジョイントプロテクターを残置してレベル 1 以上の地震動でジョイントプロテクターが壊れても第三者被害に繋がらない対策など ) しかし レベル 1 以下の地震動に対してジョイントの機能を確保できるように 地震動による応答変位に対応できるように十分な遊間を設ければ 輪荷重に対して現存のジョイントの強度を上げることになり また 十分な遊間を空けずにレベル 1 以下の地震動による衝突に対応できるようにするには いづれにしてもコストのかかる機能アップが必要である (7) 今回 改訂された鋼製橋脚の耐震設計法に関しては 現在でも研究中の中間的な成果が反映されたものが多く それらの最終研究成果がまとまれば これからも機会があれば さらに改訂される状況にあるように思われる 例えば 現在 鋼製橋脚の耐震設計は 非線形の動的解析によって行われることになっているが 終局状態を決める鋼製橋脚の限界歪 εa や その限界歪を使える適用条件などの式は 今回 改訂されたが 現在も研究中の少ない成果によるものが多く まだかなり複雑で 今後の研究によって さらに合理化したり 簡素化したりできる可能性がある気がする (8) 現在 橋梁の耐震性能には 以下の 3 つがある 耐震性能 1( レベル 1 の地震動に対して すべての橋梁部材が全く健全で 橋梁としての機能 ( 通行できること ) が完全に確保できる性能 ) 耐震性能 2( レベル 2 の地震動で橋梁として 5
の機能を一時的に失うが 部材の損傷が小さく復旧が容易で 落橋しない性能 ) 耐震性能 3( レベル 2 の地震動で橋梁としての機能を失い 部材の損傷も大きく復旧が容易でないが落橋しない性能 ) の 3 つである 今回に改訂された耐震設計編に従うと 旧示方書に従って既に耐震補強された橋梁の再耐震補強が必要になる 例えば 上記の (3) より まだ沢山ある現状の旧タイプ A の支承は すべて旧タイプ B レベルの支承に交換する必要がある その他 橋脚や落橋防止システムも同様である これに関連して 昨年の 11 月に出された 既設橋梁の耐震補強設計に関する技術資料 では 既設橋梁の耐震設計 施工では 固有の構造的 経済的 道路システムの中での位置づけなどの与条件があり 今回に改訂された新しい道路橋示方書 耐震設計編に示されている計算方法や考え方がそのままでは適用できない場合があるため 対象とする橋梁の個別の構造条件とその橋梁にふさわしい目標耐震性能を踏まえて耐震補強設計 施工を行う必要があるとしている そこで この 既設橋梁の耐震補強設計に関する技術資料 では 道路橋示方書 耐震設計法の耐震性能 2 と耐震性能 3 との中間的な以下の耐震性能を追加している すなわち レベル 2 の地震動で 部材が損傷し 橋梁の機能を一時的に失うが 損傷した部材の復旧は容易でないが 橋梁の機能の復旧が容易で 落橋しない性能 が追加されている この技術資料は この方法を 既設橋梁の耐震補強設計 施工に適用する考え方を取りまとめたものである さらに この技術資料では 具体例として 既設橋梁の旧タイプ A の支承 落橋防止対策 および鉄筋コンクリート橋脚を取り上げて それらの耐震補強法を検討している 例えば 耐震性能 2 と耐震性能 3 との中間的な耐震性能を設定すると 旧タイプ A の支承は 取り替えずに レベル 1 以上の地震動で機能を失っても 橋梁が落橋しないように 落橋防止システムを設置し 橋梁としての機能 ( 通行できること ) の復旧が容易なように段差防止構造を設置すればいいようになっている (9) 既設橋梁の耐震補強設計 施工の方法に関心のある読者は 既設橋梁の耐震補強設計に関する技術資料 を ぜひ精読していただきたい 関係資料 (1) 道路橋示方書 同解説 Ⅰ. 共通編 Ⅱ. 鋼橋編 ( 社 ) 日本道路協会 2012.3 (2) 道路橋示方書 同解説 Ⅰ. 共通編 Ⅴ. 耐震設計編 ( 社 ) 日本道路協会 2012.3 (3) 国土交通省国土技術政策総合研究所 独立行政法人土木研究所 : 既設橋の耐震補強設計に関する技術資料 国土技術政策総合研究所資料 土木研究所資料 2012.11 (4) 橋梁委員会 : 道路橋示方書の改訂について 道路 pp.48~59 2012.5 (5) 小特集道路橋示方書改訂 橋梁と基礎 pp.13~34 2012.7 (6)( 社 ) 日本道路協会 : 道路橋 に関する講習会 道路橋示方書 同解説 - 配布資料 ( 各編の改訂概要 ) ( 全 232 ページ ) 2012 年度 お願いこの資料作成において 私の考え違いより 記述に不備な点や間違いがあるかもしれません その時は 上記の関係資料を正として見ていただくとともに 読者諸氏から遠慮なきご指摘をいただき 今後 共立出版 新編橋梁工学 および 例題で学ぶ橋梁工学 の改訂時に修正したいと思っています どうか ご協力よろしく お願い申し上げます 6 以上