シャインマスカット栽培マニュアル 平成 29 年版京都府農林水産技術センター農林センター シャインマスカットは農研機構果樹研究所が育成し 2006 年に品種登録された 新しいブドウです 味 香りが良く 皮ごと食べられるので 消費者から高く評価されている品種です シャインマスカット導入のメリット 裂果 や 脱粒 がほとんどない 調製時に廃棄が少なく 輸送中も事故が少ない品種です 病気に強く 作りやすい ブドウ栽培で問題となる晩腐病に強い品種です 着色を気にせずに栽培できる 品質が天候に左右されにくく 収益が安定しやすい品種です 目指す品質 ひと粒が大きく ひと房 600g 程度 の房作り 味と収量を考え 1 房が 600g の中庸の房作りを目指します 房が大きいよりも 1 粒が大きい方が高級感があります 1 粒 13g 以上の大粒を目指しましょう 過剰な早期出荷を控え 食味がよい時期 ( 最低糖度 18 度 ) に販売します 技術的なご相談は 京都府農林水産技術センター農林センター丹後農業研究所京の果樹担当 (0772-65-2401) にご連絡ください
目標収量は 10a あたり 2t までで管理しましょう! 誘引する新梢本数の目安新梢の誘引本数は主枝 3mあたり35 本程度にします 30 本以下 (/ 主枝 3m) 35 本 (/ 主枝 3m) 40 本以上 (/ 主枝 3m) 少なすぎるちょうどよい多すぎる シャインマスカットは巨峰等既存品種のよりも節間が長いので 1 芽座 1 新梢では新梢数が少なくなってしまいます 大きくスペースが空く所では 1 か所から新梢を 2 本出して新梢数を調整します 着房管理 新梢 5 本に 3 房まで の間隔で着房させます ( 主枝 3m に 18~20 房程度 10a あたり 3000 房を目標 ) 新梢 5 本に必ず 2 本はカラ枝をおきます 新梢 1 本に 2 房はつけません 適正な着房管理の様子 目標の房重 食味と収量を考えて 600g 程度を目標にしましょう 大振りの房にすると 糖度の上昇が遅く 収穫期が大幅に遅れたり 生理障害の発生が多くなったりします
房先 6 葉期 1 摘心 シャインマスカットの管理作業の流れ 開花始め 2 花穂整形 1 新梢管理 ( 摘心 ) 満開 1~3 日後 31 回目ジベ処理 満開 7 日後 4 軸長調整 満開 10 日後頃 52 回目ジベ処理 花穂から先に葉が 6 枚発生した時点で摘心を行います 1 2 3 4 5 6 本梢の葉 副梢の葉 その後 6 摘粒 発生する副梢は葉 1 枚で管理します ただし 房基部に発生した副梢のみ葉を2~3 枚出します 新梢生長に使われる養分を減らすことで果粒への養分供給を増やし 充実を促進注意点摘心後は副梢が出やすくなります 花振るいの発生を防ぐため 満開期までに副梢を葉 1 枚で管理してください ( 房基部副梢は2~3 枚で管理 ) 副梢管理は7 月上旬まで 半月に1 回程度を目安に行ってください B 摘心時の新梢先端において A の葉が 6 枚目なら赤線の位置で摘心 B の葉が 6 枚目なら青線の位置で摘心 摘心をタイミングが早い A の時期にする方が 花穂が充実しますが 副梢も出やすくなります A 2 花穂整形 開花始めごろに花穂を先端 3.5~4cm に切り込みます シャインマスカットは樹勢が強く良好な状態だと二股の花穂が発生しやすい品種です 房作りには先端を使いますので 二股の片方を切除するようにしてください 花穂整形器で省力的に作業ができます 二股の花穂 4cm 先端を使う 二股部位で切除
3 1 回目ジベレリン処理 ( 満開後 ) 満開後にジベレリン 25ppm+ フルメット 2ppm+ ストレプトマイシン 200ppm で花穂を浸漬処理します 満開 1 日後の花穂 全ての花が咲ききった後がジベレリン処理の適期です 全ての果粒が浸漬するように処理しましょう 処理後は薬液を払い落とさないようにします 左写真は処理した花穂がわかりやすいように溶液を赤色に着色しています 注意点 1 タイミング ジベレリン処理の注意点!! 処理の適期は全ての花が咲ききってからです! 先走らないでください! 満開 (100% 開花 ) 穂軸のわん曲小粒果の発生 1 回目処理適期 満開 3 日後 種子混入着粒不足 処理が早いことによって起こる障害 花穂のわん曲 赤線のように軸が曲がってしまい 果房の整形ができなくなります ( 写真は安芸クイーン ) 正常粒 小粒果 ( ショットベリー ) 果粒が大きくなりません 写真のように集団で発生すると 房整形ができません ( 写真は安芸クイーン ) タイミングが早い方がリスクが大きいので 必ず満開を待ってください 注意点 2 処理の条件 種子混入はストレプトマイシンで 着粒不足は早期摘心で防止できます 1 回目ジベレリン処理はブドウにゆっくり薬液を吸収させます 処理は薬液がすぐに乾かないように午後 3 時以降に行いましょう 処理後は房に付着した薬液を飛ばさないようにしましょう 土壌が乾いているときは 着粒促進のため前もって潅水を行いましょう
4 軸長の調整 ( 満開 7 日後ごろ ) ジベレリン処理によって果軸が伸びて 大きな房になります 軸の長さを調整することで 房の大きさを決めましょう 約 10cm 約 7cm 軸長を 6.5~7cm にします 肩部分を切り詰めて 先端部位の車を使うようにします 肩部分を切除 処理が遅れると 切り詰めが遅くなると 先端部が負けて充実不良に! 上の枝梗は伸びやすく房の形が悪くなります 上の枝梗は粒数が多く 摘粒労力が増えます 充実不良 軸長による房の大きさ 調整後軸長約 6cm 以下約 6~7cm 約 7cm 以上 1 房重 450g 程度 600g 程度 800g 以上 備考 粒数が少なく 房の形が決まりにくい 推奨する房の大きさ 糖度が上がりにくくなるので 収穫期が遅れる
5 2 回目ジベレリン処理 満開 10~15 日後にジベレリン 25ppm を処理します ( カップで浸漬 ) ジベレリン液によって写真のように果粒の表面に かさぶた ができることがあります 処理後は液がすぐに乾くように 房を振って薬液の水滴を払い落しましょう また すぐに乾くように処理は午前中に行います ジベレリンによる焼け 6 摘粒 2 回目のジベレリン処理にフルメットは加用しません! ( 処理した場合 食味が下がることがあります ) 1 房 40 粒を目標として摘粒します 摘粒が早いほど 粒が大きくなります フルメットを使用していることから着粒数が多く この時点ではピオーネよりも粒が小さいため 摘粒が弱くなりがちです 果粒を残し過ぎないように粒数を確認しながら摘粒してください ( 写真の着粒数は約 60 粒です ) そらまめ形の粒は障害ではないので間引かないでください シャインマスカットでみられる障害 日焼け シャインマスカットはとても日焼けに弱い品種です 新梢誘引数が少なく 果房に直射日光が当たると右の写真のように房が枯れ上がることがあります 収量を上げすぎると 未熟粒やカスリ症といった生理障害が発生します 未熟粒 突発的に発生する糖度が低く大きくならない果粒 食味が著しく低下します カスリ症 果面が茶色く褐変するため 見た目が悪くなり商品価値が落ちます
7 収穫 (8 月中 ~ 下旬以降 ) 注意 糖度が 18 度を超え始めたら順次収穫を開始します 収穫期の判断の注意点 糖度が低いものを販売しない! シャインマスカットは酸度が低いので 収穫適期よりも早く収穫しても食べることはできますが 著しく食味が悪くなります 糖度が上がりにくい年でも 最低糖度が 18 度になるのを待ってから収穫してください シャインマスカットは果皮の色での収穫適期判断が困難です 収穫前に必ず糖度を測定し 18 度より高くなってから収穫してください 同一の樹の中でも 果房ごとの日当たりや果実袋の色などの条件で果皮色は変化します 遮光率が高い着色果実袋では果皮色が緑色気味に仕上がります 白色袋 青色袋 贈答用に好まれる緑色の果房を生産 果皮色の変化を抑え 通常より遅く収穫 直射日光の当たる場所の果房に用いて過熟を抑制 など 着色果実袋は様々な目的に利用できます 白色袋と着色袋を併用すれば 経営戦略の幅が広がります 遮光率が高い青い袋を使うと同時期でも緑色が強くなる 新規植栽時の注意 初成り時は果粒があまり大きくなりません 樹幹拡大期間は収益よりも主枝延長と樹の充実をメインにしてください 枝に果実が負けるためか 初成り果粒は 1 粒 10g 程度にしかならないこともあります ( 写真は初成り果実で果粒が 11g 前後 日焼け防止のため紙製のカサをかけています ) 8 収穫後 翌年の芽の充実には 収穫後の手入れが重要です 貯蔵養分を増やすため 秋季防除を行い 病害による早期落葉を防止してください 副梢の二次伸長が見られる場合は 主枝間の中間で切り戻してください
シャインマスカットに適した樹形 樹を大きく仕立てる WH 型 もしくは H 型の短梢栽培が適しています WH 主枝間 2~2.25m H 主枝間 2~2.25m 主枝長 5m 以内 主枝間は枝を垂らす場合は 2m 平棚では 2.25m とります 主枝長は片側 5m の合計 10m くらいまでが目安です 枝を垂らした管理の状況 植え付け植え付けの際は あまり大穴を掘らず 軽く起こす程度にします 苗は盛り土に植えるように定植し すぐに支柱を立てて誘引します 苗 地面 20cm 程度土を盛る 地下 10cm 程度バーク堆肥で軽く土壌改良苦土石灰 1kg 程度混和 定植後 苗を接木部から 20cm に切り詰めます 接木部を埋めてはいけません シャインマスカット主枝延長の注意点 主枝の延長は 3m までとし 8 月上旬には摘心します 樹幹拡大に使用する 1 年生枝の副梢は 0 葉もしくは 1 葉で管理しましょう 翌年の 2 月中 ~ 下旬に前年延長した枝の全ての芽に必ず芽傷を入れます 芽傷処理 芽の先端方向 2~3mm の位置に深さ 1.5mm の傷を入れます 先端 芽に対して傷がずれないように 芽傷バサミ 芽傷バサミ や 金のこ で傷をいれましょう で囲った部分が発芽しなかった部位 飛んだ芽は復活しないので 1 年やり直しになります 秋季防除を怠り 病気で 9 月から落葉がはじまると翌年の発芽揃いに影響します