RA 前足部変形に対する手術療法の進歩 東裕隆桑園整形外科 (2013 年第 14 回博多リウマチセミナー ) はじめに近年 RA に対する薬物療法の進歩は目覚ましく滑膜炎を抑制し 関節を温存できる症例が増えてきている しかし 強力な薬物治療でも進行する症例や以前からの変形が残存している症例は少なくない アンカードラッグとしての MTX およびその増量 新しい DMARDs 生物製剤 テーラーメイド療法など薬物の開発や使用方法によって 以前には不可能であった症例の寛解率が現在の評価基準では更に向上することに疑いの余地はないが 患者の真の QOL を表しているわけではない 寛解には臨床的寛解 (DAS28<2.6 など ) 構造的寛解 (TSS 0 など ) 機能的寛解(HAQ<0.5 など ) の三つが提唱されており 臨床的寛解を表す DAS28 CDAI SDAI は QOL に大きな影響を与える足関節や足部の評価は直接的には含まれない RA 患者全体の 15~19% は足部症状で発症すると言われている 1)2) 前足部は足部の中でも最も早期から障害される部位の一つであり 3) 臨床的寛解に直接関係ないため寛解したと医者は喜んでいても 患者本人は足部の痛みや通常の靴すら履けず不満足の場合もある 露出部である手指や手関節の診察容易な部位だけではなく 日常診療においても靴や歩容の観察 足部痛の有無 視診を心がけ 患者の満足度を上げるよう適 切な時期に適切な治療を提供することが重 要である 図 1 RA の評価関節 1)RA 発症関節部位疾患活動性の指標である DAS28,CDAI,SDAI には 足部は評価関節に入っていない ( 図 1) しかし RA 発症の 15% 以上は足趾が含まれている ( 図 2) (%) RA 発症関節部位 60 50 40 30 20 10 0 50.7 手指 36.7 手首 26.8 19 16.2 15.3 8.4 5.5 2.6 5.3 膝肩足首 足趾肘首股その他 図 2 RA 発症関節部位 (2005 年リウマチ白書より ) 1
2) 正常な足部の構造 正常な足部は 横アーチと縦 ( 内側および外側 ) アーチが存在し ( 図 3) これらは骨 の配列 骨と骨を結ぶ靭帯 腱および腱膜で支えられている 縦 ( 内側および外側 ) アーチ 図 3 足部の形状 ( 文献 4 より ) 横アーチ 内果後方を通る後脛骨筋腱と外果後方を通る長腓骨筋腱は足底で交叉し横アーチを保持しており 足底腱膜は縦アーチを保持している これらのアーチが崩れると荷重部位が変 化し有痛性胼胝を生じ QOL を著しく低下 させる ( 図 4) 図 4 足底部の有痛性胼胝 ( 第 2-3 趾 MP 関節部 ) 2
3) リウマチ足の特徴 外反母趾基節骨の背側脱臼 ( 第 2-4 趾 ) 中足骨頭の足底偏移母趾と第 2 または 3 趾との重なり内反小趾扁平足および開張足 扁平三角状変形 ( 図 5) 図 5 RA 前足部変形 ( 扁平三角状変形 ) 4) 手術療法の目的 変形による疼痛の除痛( 外反母趾部 MP 関節足底部 第 2,3 趾背側部 内反小趾部 ) 機能の再獲得 正常な縦および横アーチの再構築 関節の温存 軟部バランス 整容面の改善 QOL の改善 5) 手術の時期変形が軽度の症例は保存治療を優先させることは当然であるが 荷重部位の変形や疼痛は 患者の ADL を大幅に低下させるため 患部のみならず健常部の筋力低下を招かない早期に対応することが その後の患者の ADL を維持するために肝要である 6) 下肢の手術順序 原則は 中枢から遠位に向かって手術をしていく 股関節 膝関節 足関節 3
しかし 前足部は他の部位の術後リハビリテーションの進行を阻害する場合があり優先さ れることもある 7) 前足部の手術方法母趾に関して i) 関節固定術 関節を固定することにより MTP 関節の変形の再発は防げるが IP 関節への負担増と変形を生じる場合がある また 患者本人は関節を固定することに強い抵抗を示すことが多い また 偽関節の報告もある ii) 切除関節形成術 可動域の獲得や隣接関節への負担低減も可能となるが 変形 の再発 母趾で地面をけることは困難であり 整容的にも短縮し劣る iii) 人工趾関節置換術 ( 図 6) Swanson implant が代表的なもので シリコンの破損 脱転 滑膜炎の報告があり本邦では敬遠された傾向があったが アメリカで訴訟となった乳癌との因果関係は否定され 滑膜炎の発生率も高くはない 術後の患者の満足度は高く 近年使用実績は上がってきている 昨年度の本邦での人工趾および指関節置換術の総数は年間 500 関節以上にのぼっている 図 6 第 1 趾人工関節置換術後 23 年経過しているが 疼痛なく JOA スコア 100 点 iv) 外反母趾矯正骨切り術 数多くの外反母趾手術の方法はあるが 原則的に縦および横アーチが改善するように三次元的に骨切りを行う また 他趾との長さのバランスを考えながら短縮量を決定し 骨性では調節しきれない場合は腱のバランスも調整しなければならない 関節は温存できるが 関節破壊の進行例では人工趾関節を併用する ( 図 7) 4
図 7 術前 : 第 1 趾 MP 関節軟骨消失第 2 3 趾 MP 関節の亜脱臼 術後 : 人工趾関節と外反母趾手術のコラボ第 2 3 趾伸筋腱延長術 第 2-5 趾に関して i) 滑膜切除術 生物製剤の誕生により減少しているが 併用することにより効果が上がり生物製剤の効果を減量や中止の可能性が高まるという報告もある 5) 変形の生じていない早期の段階に滑膜切除術を単独で行う適応がある しかし 筆者は薬物療法のタイトコントロールを行っていれば 膝関節や肩関節など大関節と異なり足趾の関節はステロイドの関節内注射を数回することで大部分の症例が手術を回避できると考えている ii) 腱移行術または腱延長術 ( 図 8) 単独では変形の軽度な症例に用いられる 他の術式に併用することもある ともに RA 特有の軟部組織のアンバランスにより再発することも珍しくない 図 8 第 2 趾伸筋腱延長術 5
iii) 切除関節形成術 基節骨のみ切除する方法 中足骨頭のみ切除する方法 6) 両 方を切除する方法 ( 図 9) がある 新たな関節面が正常なカーブになるように切除 する 切除不足は 血行障害による壊死や変形の再発を招く 過剰切除は 足趾の 極端な短縮を招き 不安定性が増し前足部への荷重は困難となる また RA のコ ントロール良 好な患者やバ ーンアウトし た RA 症例に おいても術後 整復良好であ ったにも関わ らず 経時的に 変形が再燃す る症例も経験 する 関節の切 除と軟部バラ ンスを整える 以外にも何ら かの支持性が 必要と思われ る例が存在す る 図 9 術前 : 外反母趾 + 第 2-4 趾 MP 関節脱臼 術後 : 母趾と小趾の関節は温存外反母趾手術 + 第 2-4 趾切除関節形成術 iv) 人工趾関節置換術 シリコンによるインプラントを用いることにより 切除関節形成術よりは安定性は増し足趾への力の伝わり方は増加するが 骨の切除量や腱のバランスを調整する必要があり変形の再発もあり得る ( 図 10) 第 2 趾 ~5 趾は インプラントの土台となる骨が細く 軟部組織に影響を受けやすく成績も母趾に比較すると低い印象がある 術後もRAのタイトコントロールを維持できたにも関わらず 変形が再燃し再手術になった症例も存在する 6
図 10 術前 : 外反母趾 + 第 2-4 趾 MP 関節脱臼 術後 : 外反母趾手術 + 第 2-4 人工趾関節置換術 v) 遠位中足骨短縮骨切り術 中足骨頭で骨切りする方法と中足骨頚部で骨切りす る方法がある 7,8,9,10,11) ( 図 11) 図 11 第 2 中足骨頸部で短縮骨切り後骨癒合完成後 ( 部 ) 7
vi) 近位中足骨短縮骨切り術 第 2-4 趾に対し Larsen 分類 Grade2 以下に対し短期成績ではあるが 関節を温存でき良好な成績が報告されている 12,13) 内反小趾に対しては 第 5 中足骨骨幹部で斜め骨切りする Coughlin 法 14) があるが 筆者は第 5 趾の縦アーチも改善させながら遠位骨片を内転させるように骨切りしスライドさせてスクリュー固定を行っている 丁度 Coughlin 法の逆から骨切りする ( 図 12) 図 12 第 2-5 趾 MP 関節脱臼 術後中足骨近位骨切り術後 8) 治療成績 2003 年 ~ 当院および関連施設で筆者が前足部手術を施行したのは 132 例 (153 趾 ) であり そのうち RA 症例 41 例 (60 趾 ) について関節再建術と関節温存術は 以下の通りである 人工趾関節置換術 ( 関節再建術 )50 例 (53 趾 ) 中 RA13 例 (24 趾 ) 平均年齢 :69.2 才 平均経過観察期間 :4 年 8 ヵ月 (6 ヵ月 ~8 年 8 ヵ月 ) 中足骨短縮骨切り術 ( 関節温存術 )77 例 (85 例 ) 中 RA24 例 (32 例 ) 平均年齢 :68.3 才 平均経過観察期間 :5 年 2 ヵ月 (8 ヵ月 ~9 年 8 ヵ月 ) 8
両群に関して retrospective に以下の評価方法で検討した 日整会足部 JOA scale, 日本足の外科学会 JSSF(RA),JSSF( 母趾 ) および JSSF( 第 2-5 趾 ) 結果 : 両群とも術前よりも有意に改善していた ( 図 13 図 14) 両群のバックグランドは異なり 術式は組み合わせて行う場合もあるため単純には比較できないが 両術式とも非常に有用な手術方法と考えられた 90 JSSF( 母趾 ) 80 70 60 50 40 30 人工趾関節 関節温存 20 10 0 術前 術後 図 13 人工趾関節および関節温存手術の成績 ( 母趾 ) 90 JSSF(2-5 趾 ) 80 70 60 50 40 30 人工趾関節 関節温存 20 10 0 術前 術後 図 14 人工趾関節置換術および関節温存手術の成績 ( 第 2-5 趾 ) 9
9) 結語 RA 治療において 薬物療法の進歩は目覚ましく Treat to Target による早期から強力にコントロールをすることにより 関節破壊を避けられる症例が増えてきている 薬物療法の変革だけではなく 手術療法もまた変化すべき時代がきているように思える 今までのように関節を切除したり固定中心の手術ではなく インプラント使用による再建や関節温存の手術方法を取り入れることによって 患者の QOL をさらに高められると考えられる また 母趾に関するインプラントの長期成績は概ね良好であるが 15,16) 自験例では第 2 3 趾のインプラントにおいて 経過中変形が再発するケースも認められるため 術後もタイトコントロールを維持することは勿論 患者には再発すれば再手術の可能性も含めた術前説明がなされるべきである 関節温存手術の留意点も他の術式と同様に再発のリスクは念頭におかなければならない また 第 2 趾を頂点とするカーブを再建するためには 症例にもよるが理想的には 1~3 本治すだけでは不完全であり 変形の少ない足趾の中足骨も短縮しカーブを再構築しなければならない場合もある 患者の困っていない足趾にも手をつけなければならない場合もあり 何故全ての足趾を矯正する必要があるのか納得できる説明が医師に求められる RA 前足部変形に対する関節温存手術 ( 中足骨短縮骨切り術 ) のポイントは 以下の点である 1) 可能な限り縦および横アーチを作るように骨切りすること 2) 第 2 中足骨頭を頂点とするカーブを作るように短縮量を決める事 3)1) および2) を骨性に調整しても軟部バランスが不良の場合は 腱延長や移行術を併用すること 10
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