応用言語学演習 Ⅱa 人文学類 3 年 R.K. Aizawa, K., Ochiai, N., & Osaki, S. (2003). The effects of teaching on vocabulary knowledge: Receptive vs. productive. ARELE:

Similar documents
Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

PowerPoint プレゼンテーション

応用言語学特講発表資料第 7 章前半担当 :M.Y. [ 第 7 章 ] 語彙の習得 1. 第二言語学習者が目標とすべき語彙サイズ A) 語彙サイズ の定義第二言語習得論の中でよく用いられる 語彙サイズ には研究者のなかでも複数の見解がある (Nation&Meara,2002) それらは以下のとお

論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

11号02/百々瀬.indd

早稲田大学大学院日本語教育研究科 修士論文概要書 論文題目 ネパール人日本語学習者による日本語のリズム生成 大熊伊宗 2018 年 3 月

2016/4/27 応用言語学演習 Ⅱa 人文学類 4 年 R.M. 論文紹介 Plakans, L. (2009). The role of reading strategies in integrated L2 writing tasks. Journal of English for Acad

Water Sunshine


模擬授業 Ⅱ 英語授業案 日時 平成 22 年度 7 月 17 日 ( 土 )2 限目 対象 第 3 学年 実施場所 313 教室 授業者 塚元恵梨奈 教材 New Crown 3 1. 単元名 LESSON6 Martin Luther King 2. 教材観 このレッスンでは非暴力主義者の中の一

英語の女神 No.21 不定詞 3 学習 POINT 1 次の 2 文を見てください 1 I want this bike. ワント ほっ want ほしい 欲する 2 I want to use this bike. 1は 私はこの自転車がほしい という英文です 2は I want のあとに to

PowerPoint 프레젠테이션

EBNと疫学

目次 1. レッスンで使える表現 レッスンでお困りの際に使えるフレーズからレッスンの中でよく使われるフレーズまで 便利な表現をご紹介させていただきます ご活用方法として 講師に伝えたいことが伝わらない場合に下記の通りご利用ください 1 該当の表現を直接講師に伝える 2 該当の英語表現を Skype

データ概要調査対象 : 留学ジャーナルから 7 月 ~9 月に短期留学 (1 週間 ~4 週間の留学を指す ) した大学生に任意で実施したアンケート調査の結果調査人数 :64 名調査期間 :2016 年 9 月 26 日 ~10 月 16 日 留学期間 1 週間以内 2 週間 3 週間 4 週間 合

異文化言語教育評価論 ⅠA 第 4 章分散分析 (3 グループ以上の平均を比較する ) 平成 26 年 5 月 14 日 報告者 :D.M. K.S. 4-1 分散分析とは 検定の多重性 t 検定 2 群の平均値を比較する場合の手法分散分析 3 群以上の平均を比較する場合の手法 t 検定

医学英語 II 1 ユニットの概要 Medical English courses are designed to help students become independent lifelong learners and healthcare professionals who can util

-2-

2016 年度シラバス科目名 Communication Skills V (CALL) 担当者高橋妙子免許 資格受講要件 開講学科等 英語コミュニケーション学科 授業形態 演習 開講時期 後期 配当学年 2 単 位 数 2 必修 選択 選択必修 授業概要と方法ロマンティックコメディ映画を教材化した

งานนำเสนอ PowerPoint

英英辞典のdefining vocabularyを活用した単語テストのVocabulary Levels Testによって算出した語彙数と読解力テスト及びTOEIC総合点(L&R)との相関性に関する一考察

スライド 1

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

よくある質問 TELP とは? TELP を受講する利点 TELP と他の ESL プログラムとの違い TELP には初級の ESL クラスがありますか? TELP を終了するためにどのくらいの時間がかかりますか? TELP の費用 TELP の申し込み方法 TELP のクラス分けテストの受験方法

グリーン家の人々

306

統計的データ解析

橡LET.PDF

booklet_B.xlsx

英語科学習指導案 京都教育大学附属桃山中学校 指導者 : 津田優子 1. 指導日時平成 30 年 2 月 2 日 ( 金 ) 公開授業 Ⅱ(10:45~11:35) 2. 指導学級 ( 場所 ) 第 2 学年 3 組 ( 男子 20 名女子 17 名計 37 名 ) 3. 場所京都教育大学附属桃山中

コマ 月曜日 ~ 木曜日 1:4 1 コマ 1:8 2コマ 各 50 分授業 グループレッスン 3コマ 1 限目 08:00~08:50 1/ 1:1 2 限目 09:00~09:50 2/ 1:1 3 限目 10:00~10:50 3/ 1:1 4 限目 11:00~11:50 4/ 1:1 11

4 単元の評価規準 コミュニケーションへの関心 意欲 態度 外国語表現の能力 外国語理解の能力 言語や文化についての知識 理解 与えられた話題に対し 聞いたり読んだりした 1 比較構文の用法を理解 て, ペアで協力して積極 こと, 学んだことや経 している 的に自分の意見や考えを 験したことに基づき

(3) 検定統計量の有意確率にもとづく仮説の採否データから有意確率 (significant probability, p 値 ) を求め 有意水準と照合する 有意確率とは データの分析によって得られた統計値が偶然おこる確率のこと あらかじめ設定した有意確率より低い場合は 帰無仮説を棄却して対立仮説

マンツーマン

ANOVA

教職研究科紀要_第9号_06実践報告_田中先生ほか04.indd

Web Web [4] Web Web [5] Web 2 Web 3 4 Web Web 2.1 Web Web Web Web Web 2.2 Web Web Web *1 Web * 2*3 Web 3. [6] [7] [8] 4. Web 4.1 Web Web *1 Ama

夏休み集中講座 とは? International English Language Testing System (IELTS: アイエルツ ) は 海外留学や研修のために英語力を証明する必要のある方に最適なテストです イギリス オーストラリア カナダ ニュージーランドのほぼ全ての高等教育機関で認

言語は人とコミュニケーションを取るためにあるものだが 実際に使うために学んでいるのではなく受験で格差をつけるために日本人は英語を学習している 日本人で英語を話せる人がより増えるようにするためには 実際に使える英語 を学び 英語を学ぶ目的を明確にさせれば良い 3 方法 日本 韓国 中国 ( 都市部 )

宮本 涼子 他:

愛知教育大学教育実践総合センター紀要第 13 号,pp.127~131(February,2010) 愛知教育大学教育実践総合センター紀要第 13 号 センター試験英語リスニング導入前後における TOEIC 得点に関する調査研究 国際文化コース, 中等英語, 幼児教育を対象として 建内高昭 ( 愛知

4 学習の活動 単元 ( 配当時間 ) Lesson 1 ( 15 時間 ) 題材内容単元の目標主な学習内容単元の評価規準評価方法 Get Your Goal with English より多くの相手とコミュニケーションをとる 自己紹介活動を行う コミュニケーションを積極的にとろうとしている スピー

科目名 総合英語 ⅠA 対象学年 1 年 期間 通年 曜日 時限 金 1-2 限 授業回数 90 分 34 回 授業種別 講義 回 / 週 1 回 取得単位 4 単位 授業目的達成目標 読み 書き を通して 聞く こと 話す ことにも役立つ英語の力を習得させる 文法を踏まえてパラグラフの内容を迅速か

英語科教育学 2 学期末課題 : 文献研究英語教育コース 1 年 M.O. Kim, D., & Gilman, D. A. (2008). Effects of text, audio, and graphic aids in multimedia instruction for vocabula

博士論文概要 タイトル : 物語談話における文法と談話構造 氏名 : 奥川育子 本論文の目的は自然な日本語の物語談話 (Narrative) とはどのようなものなのかを明らかにすること また 日本語学習者の誤用 中間言語分析を通じて 日本語上級者であっても習得が難しい 一つの構造体としてのまとまりを

(様式)    平成17・18年度 大学院派遣研修 研修報告(概要)

各スキルの点数の説明 スキルを理解する現在の能 章構 語彙流暢さ発 章構 は 発 を把握し それを逐語的に発話する能 です 構 や 章内における適切な単語 句 および節の使 の習熟度によりスコアが判定されます 語彙 は 構 中の 常的かつ 般的な単語を理解し 在に表現する能 です 常的な単語の形式と

英語科指導案

RSS Higher Certificate in Statistics, Specimen A Module 3: Basic Statistical Methods Solutions Question 1 (i) 帰無仮説 : 200C と 250C において鉄鋼の破壊応力の母平均には違いはな

1学期期末レポート

A pp CALL College Life CD-ROM Development of CD-ROM English Teaching Materials, College Life Series, for Improving English Communica

4 学習の活動 単元 Lesson 1 (2 時間 ) 主語の決定 / 見えない主語の発見 / 主語の it 外国語表現の能力 適切な主語を選択し英文を書くことができる 外国語理解の能力 日本の年中行事に関する内容の英文を読んで理解できる 言語や文化についての知識 理解 適切な主語を選択 練習問題の

はしがき これは学位規程 ( 平成 25 年文部科学省令第 5 号 ) 第 8 条による公表を 目的として 平成 28 年 3 月 15 日に本学において博士の学位を授与した 者の論文内容の要旨及び論文審査の結果の要旨を収録したものである

Python-statistics5 Python で統計学を学ぶ (5) この内容は山田 杉澤 村井 (2008) R によるやさしい統計学 (

紀要8.pdf

自動車感性評価学 1. 二項検定 内容 2 3. 質的データの解析方法 1 ( 名義尺度 ) 2.χ 2 検定 タイプ 1. 二項検定 官能検査における分類データの解析法 識別できるかを調べる 嗜好に差があるかを調べる 2 点比較法 2 点識別法 2 点嗜好法 3 点比較法 3 点識別法 3 点嗜好

教授要目及び科目一覧_本文.indd

Microsoft PowerPoint - sc7.ppt [互換モード]

スライド 1

Excelによる統計分析検定_知識編_小塚明_5_9章.indd

英語の神様 No.3 受動態 3 学習 POINT 1 能動態と受動態 ( 日本語 ) 英語の神様 No.1 で 能動態 と 受動態 について学習したのを覚えていますか 1 スミス先生はこのコンピュータを使いました ( 能動態 ) 2 このコンピュータはスミス先生によって使われました ( 受動態 )

2017 年 9 月 8 日 このリリースは文部科学記者会でも発表しています 報道関係各位 株式会社イーオンイーオン 中学 高校の英語教師を対象とした 中高における英語教育実態調査 2017 を実施 英会話教室を運営する株式会社イーオン ( 本社 : 東京都新宿区 代表取締役 : 三宅義和 以下 イ

161 J 1 J 1997 FC 1998 J J J J J2 J1 J2 J1 J2 J1 J J1 J1 J J 2011 FIFA 2012 J 40 56

13章 回帰分析

高等学校英語科学習指導案 平成 30 年 10 月 19 日 ( 金 )2 校時沖縄県立 高等学校 1 年 7 組 35 名 ( 男子 15 名女子 20 名 ) 授業者 : T S 指導教諭 : 1. 単元名 When I Was Sixteen ( 三省堂 CROWN English Serie

<4D F736F F D E9197BF32817A95BD90AC E937882A982E793B193FC82B782E9975C92E882CC81758A4F8D918CEA CEA816A

簿記教育における習熟度別クラス編成 簿記教育における習熟度別クラス編成 濱田峰子 要旨 近年 学生の多様化に伴い きめ細やかな個別対応や対話型授業が可能な少人数の習熟度別クラス編成の重要性が増している そのため 本学では入学時にプレイスメントテストを実施し 国語 数学 英語の 3 教科については習熟

た 観衆効果は技能レベルによって作用が異なっ 計測をした た 平均レベル以下の選手は観衆がいると成績が 下がったが, 平均以上の選手は観衆に見られると成績が上がった 興味深いことに, 観衆効果は観衆の数に比例してその効果を増すようである ネビルとキャン (Nevill and Cann, 1998)

研究紀要第 78 号 Ⅱ 先行研究 1 自由英作文と流暢さ 自由英作文とは読み手の存在を気にせずに, 自分の気持ちや考えなどを英語で自由に書くことである. 自由作文はライティングやリーディング力の育成において流暢さを優先したアプローチである一方, 正確さより流暢さを優先させているため, 読み手を必要

Medical3

<4D F736F F D208EC08CB18C7689E68A E F AA957A82C682948C9F92E82E646F63>

偶発学習及び意図学習の自由再生に及ぼすBGM文脈依存効果

A Research on Can-do Abilities and Ways of Teaching across Korea, China, and Japan

L1 What Can You Blood Type Tell Us? Part 1 Can you guess/ my blood type? Well,/ you re very serious person/ so/ I think/ your blood type is A. Wow!/ G

memo ii

スポーツ教育学研究(2017. Vol.37, No1 pp.19-31)

学習者用クイックスタートガイド

西川町広報誌NETWORKにしかわ2011年1月号

RLG テスト の信頼性と妥当性の検討および形成的利用法に関する研究 A Study on the Use of RLG Test: Reliability, Validity, and Formative Use キーワード : 語彙 英文法 各種テスト 大学生用英語力測定テスト 加藤千博 田島祐

Microsoft PowerPoint - statistics pptx

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

<4D F736F F D204B208C5182CC94E497A682CC8DB782CC8C9F92E BD8F6494E48A722E646F6378>


基礎統計

Microsoft PowerPoint - R-stat-intro_12.ppt [互換モード]

スーパー英語アカデミック版Ver.2

Aptis 受験者ガイド 簡易版 2018 年 2 月


ニュースレター 報道関係各位 2018 年 10 月 26 日 株式会社ベネッセホールディングス広報 IR 部 小学生の読書に関する実態調査 研究 読書は学力が低い子どもたちに大きなプラス効果 自分で調べる 話題が増える 幅広いメリットが明らかに 株式会社ベネッセホールディングスの子会社 株式会社ベ

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

...Q.....\1_4.ai

シャドーイングの魅力と謎

B. 研究変数 アリクント (2010:169) によると 実験研究には独立変数 (X) 従属変 数 (Y) がある 本研究における使用される変数は 独立変数と従属変数 に分ける 本研究の変数は次のようである 1) 独立変数はメタ認知ストラテジーである 2) 従属変数は読解授業である C. ポピュレ

ーに参加する前は パートナーシップ構築やプロポーザルの書き方をよく知らなかったが セミナーを通じて参加者はこれをある程度習得したと考えられる 一方 9 国連民主主義基金に申請したい 10 民主化支援事業を実施したい は 統計的に有意な変容が見られなかった これらの項目は 知識や技能の向上だけでなく

< D8291BA2E706466>

The English Vocabulary.cwk (DB)

17.indd

タダでマナべるさかぽん先生.tv 一般動詞の否定文 疑問文 今日の単語今日の授業で使う英単語です しっかり覚えてから授業に進みましょう 単語を 覚えた =その単語を 読める 意味が分かる 書ける 声に出して書きながら覚えていきましょう 1 行く go 2 来る come 3 へ ( 行く

平成 年度佐賀県教育センタープロジェクト研究小 中学校校内研究の在り方研究委員会 2 研究の実際 (4) 校内研究の推進 充実のための方策の実施 実践 3 教科の枠を越えた協議を目指した授業研究会 C 中学校における実践 C 中学校は 昨年度までの付箋を用いた協議の場においては 意見を出

Flavell et al. () 111

Transcription:

Aizawa, K., Ochiai, N., & Osaki, S. (2003). The effects of teaching on vocabulary knowledge: Receptive vs. productive. ARELE: annual review of English Language education in Japan, 14, 151-160. 概要 受容語彙と発表語彙の差は学習が進むにつれて大きくなり 日本人英語学習者の発表語彙サイズは受容語彙サイズの約 2 分の 1 である 本論文では 2 つの語彙知識について異なる指導をした際に それぞれの熟達度に与える効果を比較している その指導は まず基本的な受容語彙を訓練し 次に目標とする語彙を受容語彙と発表語彙中心の指導で訓練するというものである 結果は 発表語彙中心の指導をした生徒の方が遅延テストの際に優れているというものであった しかし 熟達度が高い学習者は受容語彙と発表語彙のそれぞれの指導を受けても遅延テストのスコアに違いはなかった 1. 導入 語彙知識は大きく受容語彙と発表語彙に分けられてきたが それらの語彙知識は学習段階によって異なる 初級学習者は教師が新しい語を受容的 発表的の両面で指導するため それぞれの差は少ない 一方で熟達度が上がるにつれて発表的な練習をする機会が減るため 受容語彙と発表語彙の知識の差が大きくなる 本論文では熟達度の高い学習者に対して 受容語彙と発表語彙のそれぞれの指導と受容語彙と発表語彙の側面の知識について調査する 2. 先行研究 2.1 受容語彙と発表語彙の知識 受容語彙のテストは発表語彙のテストよりも易しい (Stoddard, 1992) 1

受容語彙発表語彙備考 Nation(1990) 語を認識し 意味を思い出すことができること ( 受動的語彙知識 ) 語を書くことができること ( 能動的語彙知識 ) Meara(1990) 外界から適切な刺激を得られた時にのみ受け入れられる ( 受動的語彙知識 ) 外界から刺激を必要とせず 他の語から活性化される ( 能動的語彙知識 ) 質的な違いがある (1) 模倣と同化なしの再生 (2) 理解 (3) 同化ありの再生 (4) 発表 表 1. 先行研究 受容語彙と発表語彙の定義 2.2 語彙知識の測定側面テスト参考文献 Laufer, 1994 Lexical Frequency Profile Beyond 2000 Laufer, 1995 発表語彙 Controlled Productive Levels Test Lex30 Laufer & Nation, 1999 Meara & Fitzpatrick, 2000 表 2. 先行研究 ESL における発表語彙サイズのテスト本論文では Controlled Productive Levels Test(CPLT) を発表語彙知識に 翻訳を受容語彙知識に用いる その理由は1CPLT は測定が早い 2CLPT と翻訳のタスクを一緒に用いることで目的の語の知識の受容と発表の両側面を測定することが容易である 3. 研究 3.1 目的この研究の目的は語彙獲得における受容語彙と発表語彙の指導の効果を比較することである この実験の仮説は (1) 指導されたような同じ方法でテストされた時に学習者は高得点を得る (2) 発表的に指導された時 受容的に指導された時よりも発表 受容語彙の得点の合計は高い (3) 学習者の熟達度や指導方法で発表 受容語彙の得点に違いが生じる 3.2 方法 3.2.1 協力者 4 つのクラスの工学部に所属する 80 名の日本人大学生 2

36 名 (18 名 2 クラス ) が上位群 44 名 (22 名 2 クラス ) が下位群 受容的に指導したクラス (R) と発表的に指導したクラス (P) で upperr upperp lowerr lowerp にそれぞれ分かれた 3

3.2.2 マテリアル (Appendix 参照 ) CPLT から 20 語 Academic Word List から 17 語 3000 語レベルから 3 語を選出 選出の基準は1 目標語を知っている学習者が少ない 2 目標語が日本語で借用語になっていないことである また プライミング効果を最小化するため 目標語に 2 つの錯乱肢を加える List1 AWL 3000-word level AWL intimacy, motive, subsequent, anomaly, intellect, indicate, assess, restore, rational lawn doctrine, inspect, accumulate, evaluate, attain, inherent, ensure 3000-word level vein, supreme 表 3. 目標語 3.2.3 手続き受容語彙の指導法 : 1 目標語の意味と発音がフラッシュカードで与えられ その後に翻訳タスクが与えられる 2 ワークシートで新しい文脈の下 目標語の意味に答える発表語彙の指導法 : 1 フラッシュカードで日本語訳を見て目標語の綴る 2 ワークシートの空所に目標語を書き入れる 目的 受容語彙の指導 模倣 理解 発表語彙の指導 模倣 同化を伴った理解 時間配分 活動 マテリアル 1. 機械的学習英語を日本語へ日本語を英語へ 2. ワークシートの学習 英語を日本語へ 日本語を英語へ ワークシート 表 4. Teaching procedure for a session 3.2.4 処理 第 1 週に Self-Reported Knowledge Scaling を配布して目標語の知識を確認 その後 15 分間 の語彙指導 第 2 週週では 生徒は授業のはじめに発表語彙のテストを受け その後受容語彙 のテストを受ける 受容語彙のテストの干渉を受けるため 発表語彙のテストを先に実施す る 授業終了 15 分前に新しい語が導入される 第 3 週では 第 2 週で導入された語を発表 受 容の順でテストする 4

3.3 結果分析の第一段階では英語の習熟度で上位群と下位群に分ける その際 TOEIC のスコアを用いた 両側 t 検定では有意差は見られない ( 上位群 :t(34)=0.45, n.s. 下位群 :t(42)=0.78, n.s.) Upper P 451.9 Lower P 318.0 Upper R 431.4 Lower R 297.3 表 5. 上位群 下位群の TOEIC 平均スコアこのことは 上位群 下位群の P と R はそれぞれ等しい習熟度であることを意味する Self-Reported Knowledge Scaling の結果は以下の通りである 両側 t 検定では有意差は見られない ( 上位群 :t(34)=0.25, n.s 下位群 :t(42)=0.78, n.s.) Upper P 2.2 Lower P 0.3 Upper R 1.4 Lower R 0.4 表 6. Self-Reported Knowledge Scaling の結果分析の第二段階では R と P のテストの得点を比較する R のテスト ( 標準偏差 ) P のテスト ( 標準偏差 ) 計 R 群 (N=40) 17.53 (8.87) 点 16.00 (9.33) 点 33.53 点 P 群 (N=40) 19.23 (9.55) 点 21.40 (9.69) 点 40.63 点 t(78)=1.17, n.s. t(78)=3.39, n.s. 表 7. 2 グループにおける語彙テストの基本統計量発表語彙を中心とした指導では 発表語彙を測定するテストで受容語彙を中心とした指導よりも効果的であった 仮説 (1) 指導されたような同じ方法でテストされた時に学習者は高得点を得る を部分的に支持分析の第三段階では R と P のテストの総合得点を比較する 表 6 より 発表語彙を中心とした指導では 学習者の語彙知識で受容語彙を中心とした指導よりも効果的であった 仮説 (2) 発表的に指導された時 受容的に指導された時よりも発表 受容語彙の得点の合計は高い を支持分析の第四段階では 4 つのグループをそれぞれのテストで比較する 受容語彙のテストは片側分散分析の結果 4 つのグループに有意差が見られた (F(3, 76)=7.59, p<.01) LSD の多重比較分析の結果 上位 P のグループは他のグループに比べてスコアが有意に高かったが (MSe=69.47, p<.05) 他の残りの 3 つのクラスには有意差は見られなかっ 5

た 発表語彙のテストは片側分散分析の結果 4 つのグループに有意差が見られた (F(3, 76)=7.68, p<.01) LSD の多重分析の結果 上位 P 上位 R 下位 P のグループは下位 R のグループに比べてスコアが有意に高かったが (MSe=83.67, p<.05) その 3 つのグループに有意差は見られなかった 仮説 3 学習者の熟達度や指導方法で発表 受容語彙の得点に違いが生じる を支持 3.4 その他の発見発表語彙のテスト項目はそれぞれ異なる協力者によって回答されたと仮定することで カイ二乗検定を使ったデータ分析が可能となる その目的は 4 つのグループの発表語彙テストの error( 完全な間違い ) や misuse( 部分的には正しい間違い ) のパターンを調査するためである それぞれのグループの error の特徴は以下の通りである (1) 下位 P グループにおいて 屈折や時制における misuse が比較的多く見られた (36 misuses) (2) 下位 R グループにおいて 4 グループ中で最も空欄が多かった (203 blanks) (3) 上位 P グループにおいて 空欄が最も少なく (54 blanks) 綴りや品詞の misuse が比較的多く見られた ( 綴り : 26 品詞: 15) (4) 上位 R グループにおいて ヒントとして与えられた最初の文字と同じ文字で始まる誤った語を使う傾向が見られた (45 errors) 綴り品詞屈折 時制同じ文字で始まる異なる語綴り空欄下位 P 25 6 36 27 38 115 下位 R 37 5 14 46 46 203 上位 P 26 15 19 25 14 54 上位 R 25 8 15 45 21 119 表 8. 発表語彙のテストにおける misuse と error 有意に高い 有意に低い太線の枠内 misuse 細線の枠内 error 4. 議論この研究の目的は 受容語彙を中心とした指導と発表語彙を中心とした指導法が受容語彙と発表語彙に与える影響を明らかにすることであった ここで 3 点議論するべきことがある 1. 習熟度が低い学習者において 発表語彙を中心とした指導の方が受容語彙を中心とした指導よりも発表語彙のテストの成績が良かった 新出語の指導と発表語彙の指導を組み合わせることが必要 2. 習熟度が高い学習者において 発表語彙を中心とした指導が受容語彙の知識を向上させたが 指導はどちらでも発表語彙の知識に違いは出なかった 6

正確に問題に答えるためには 受容語彙知識や問いの文を読解する習熟度が必要だったため 3. 受容語彙を中心とした指導を受けた習熟度の低い学習者 : 空白が多い受容語彙を中心とした指導を受けた習熟度の高い学習者 : 同じ文字で始まる語で間違う傾向 発表語彙を中心とした指導が発表語彙の知識には有効 5. 限界点 教育的示唆限界点 CPLT が測定するものが曖昧 発表語彙を測定する信頼性の高いテストの必要性 習熟度が近い日本の EFL 学生が対象 様々な習熟度を対象にするべき教育的示唆 習熟度によって語彙指導の体系的計画を立てることが必要である 7

Appendix A. Sample Questions of Receptive Test 例にならって 下線部の語の意味を日本語で答えなさい ( 例 ) I use cream and sugar in my coffee. [ 砂糖 ] 3. I enjoyed walking across the green lawn. 4. The experience created an increased intimacy between us. 5. She possesses the intellect and the energy needed for the job. 6. The effect on the environment should be carefully assessed before building starts. 7. There is no rational explanation for going out on such a rainy day. B. Sample Questions of Productive Test 例にならって 与えられた文字で始まる単語を入れて文を完成させなさい ( 例 ) The birds were si in the trees. [ singing ] 3. The story tells us about a crime and subs punishment. 犯罪 処罰 4. Many people in England mow the la of their houses on Sunday morning. 刈る 5. The new manager s job was to res the company to its former profitability. 収益性 6. It s difficult to ass a person s true knowledge by one or two tests. 7. Spending many years together deepen their inti. C. Sample Questions of Self-Reported Knowledge Scaling 次の単語について 次のどれに当てはまるか答えてください ただし (3) と (4) の場合はその 意味も答えてください (1) 見たこともないし 見当もつかない (2) 見たことはあるが 意味はわからない (3) 見たことはありそうだが 考えて見ないと意味はわからない (4) 考えなくても意味がわかる 番号 意味 番号 意味 1 accumulate 16 ensure 2 anomaly 17 evaluate 8

以下 Aizawa& Ochiai, (2003) に対する批判 考察を述べる まずは批判を述べる この論文では語彙の発表と受容の側面とそれぞれの指導に対して実験を行なっているが 受容 発表という語彙知識の側面には様々な定義が与えられている 少なくとも分かっている点は 2 点あり それらは発表語彙の量は受容語彙の量よりも少ないという点と 学習者の語彙知識が増えるにつれて受容語彙と発表語彙の差は大きくなる点である Aizawa& Ochiai, (2003) では実験協力者を英語習熟度で上位群と下位群に分けて実験を行なった しかし 上位群は語彙知識が下位群よりも多いため 受容語彙と発表語彙の差が上位群の方が大きいのではないだろうか さらに 上位群 下位群を決定する要因として TOEIC のスコアを用いているため 語彙知識以外の学習方略などが関係しており 語彙知識のみに焦点を当てていないのではないだろうか 確かに 発表語彙サイズを測定するテストは限界点の部分で述べられている通り 信頼性が低いと言える だが 一口に習熟度と言っても読解に焦点を当てているのか 聴解に焦点を当てているのかは TOEIC のスコアだけでは不明確な点が多いだろう 追実験をする際には習熟度は実験協力者をそれぞれ発表 受容で分け さらに上位群 下位群で分けるべきである 続いて考察を述べる 同じ語彙でも発表語彙と受容語彙は異なる語彙知識である 受容語彙と発表語彙について 英語のメンタルレキシコン 語彙の獲得 処理 学習 i では Nation(2001) を引用して以下のように述べている Nation (2001: 371) は それらの実証研究から次のように結論づけている 1 学習者の受容語彙サイズは発表語彙サイズよりも大きい 2 発表語彙サイズと受容語彙サイズの比率は一定ではない 3 学習者の語彙が増えるにつれ 受容語彙の割合は大きくなる すなわち 単語の頻度レベルが低くなると 受容語彙と発表語彙の差は大きくなる 4 高頻度の大多数の語彙は受容的にも産出的にも使われる 5 脱文脈化した直接的な語彙テストでの結果は必ずしも実際の言語使用においてそれらの語が使えるということを示していない ( 中略 ) Nation (2001: 371) の提案する指導は 意味に焦点を当てたインプット ( リスニングとリーディング ) 言語に焦点を当てた学習( 直接的な語彙学習 ) 意味に焦点を当てたアウトプット ( スピーキングとライティング ) と流暢さを発達させる訓練 の 4 点である つまり Nation (2001) が提案する 4 つの語彙学習は 異なる側面を複数持つ語彙知識の発達に対応したバランスの取れた指導である 語彙知識の側面として 広さ 深さ 流暢さ の 3 つに加え 受容 発表 の 2 つが存在する 広さ 深さ 受容の語彙知識にはインプットや直接的語彙学習が 発表にはアウトプット 流暢さには流暢さを発達させる訓練がそれぞれ対応している Aizawa& Ochiai, (2003) では受容語彙に焦点を当てた指導よりも 発表語彙に焦点を当てた指導の方が語彙学習に効果的であると示している Nation (2001) の提案する指導に当てはめて考えると インプットよりもアウトプットの方が 効果的であるということで 9

ある しかし インプットとアウトプットのバランスが重要であるように それぞれの語彙指導にも発達させる側面が異なっているため 受容 発表と区別をして指導するのではなく 両方を組み合わせて指導することが重要であると考える Aizawa& Ochiai, (2003) の教育的示唆の部分では習熟度別の語彙指導の体系的計画が必要であると述べられていた 確かに入門期の学習者にとって音節の長い単語は難しいと感じるだろう また 基本語ほど多義であることから 上級者になるにつれて単語の深さを学習する機会が増えるべきである 語彙学習の体系化は学校の授業シラバスや教材などにも大きく影響するだろう 今後 4 技能の基本となる語彙の指導が体系化される際には 単語帳や学習者用辞書などの教材の発展も考えられる 指導者は ICT を含むそのような教材を効果的に活用することが求められるだろう その際 その教材が何を目的として どのアプローチで学習者の何を向上させるのかを吟味しなければならない i 英語のメンタルレキシコン 語彙の獲得 処理 学習 2004, 門田修平編集, 池村大一郎, 中西義子, 野呂忠司, 島本たい子, 横川博一著, 松柏社 10