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(3) 厚生科学審議会会長から厚生労働大臣へ答申 ( 平成 15 年 4 月 28 日付 ) (4) 水質基準に関する省令 ( 厚生労働省令第 101 号 : 平成 15 年 5 月 30 日付 ) 2 ミネラルウォーター類 ( 殺菌 除菌有り ) 等の微生物規格に関する国際機関及び諸外国の規制状 況 別表のとおり WHO のガイドライン (Guidelines for Drinking-water Quality) では 大腸菌 群 ではなく 大腸菌 または 耐熱性大腸菌群 の何れかを設定している 3 飲料水等における微生物検出状況に関する文献調査 (1) 指標菌の設定と検出状況 (2010 年以降を例示 ) 文献 No. 国名対象検討方法の概要研究成果の概要 White et al. (2010) Pant et al. (2016) Kumpel et al. (2016) Pant et al. (2016) 米国 加糖ソーダ等 ソーダ等の飲料からの指標菌定量検出試験を実施した ネパール ボトル詰飲料水 左記検体における一般 細菌数 大腸菌群数 糞便系大腸菌群数 糞 便系 Streptococcus 属菌の定量検出を行っ た ケニヤ 飲料水 原水や配管設備からの 糞便汚染指標菌の検 出比較を実施した ネパール ボトル詰飲料水 大腸菌群 (25%) 糞便性大腸菌 (0%) 大腸菌群は 48% より検出された また 低温細菌数が 500CFU/mL 以上の検体数は 20% を占めた 前者のうち大腸菌陽性検体は 11% Cryseobacterium 属陽性検体は 17% であり 飲料の製造工程管理の重要性が示された 全検体の 25% は大腸菌群陽性であったが 糞便系大腸菌群は全て陰性であった 配管設備からの糞便汚染指標菌の検出状況は原水に比べて高い 大腸菌群として検出された多くは環境由来と推定され 健康危害を図る指標として 3

Gerhard et al. (2017) Li et al (2017) Krolik et al. (2016) Snoad et al. (2017) ガラパゴス諸島 飲料水 統計解析に基づく 大腸菌検出状況とヒト糞便指標遺伝子検出状況の相関性を解析した 中国 飲料水 損傷状態に応じた飲料 水中の大腸菌検出状 況の定量比較を行った カナダ 井戸水 井戸水からの大腸菌 牛糞便汚染指標遺伝 子の検出試験を行った インド 飲料水 耐熱性大腸菌群を糞 便汚染指標菌として 環境検査とともにインド ベンガル地方における飲 料水の調査を行った 大腸菌群は最適とは言い難い 大腸菌はヒト糞便汚染の指標としては必ずしも最適とは言い難い ( ヒト由来の大腸菌汚染が想定される箇所については例外 ) 4 種の汎用検出方法で成績を比較し 試験法による適性の差異を示すと共に GM 大腸菌や殺菌剤により損傷状態となった大腸菌の検出に適した手法には開発の必要性があると考えられた 環境における牛の介在を考慮した上で最適な細菌試験法を検討すべきである 耐熱性大腸菌群と環境検査成績間の特異性は 78% 感受性は 30% であり 環境検査のみで耐熱性大腸菌群の検出成績の予測は困難である Shi-bin et al 香港 ボトル詰飲料水 規格基準 大腸菌 大腸菌群 緑膿菌 (2014) ( 除ナチュラルミ 陰性 /100mL ネラルウォーター ) Forslund et デンマーク自然水及び土壌自然水及び土壌を対象 自然水等の大腸菌汚染菌 al. (2012) に 大腸菌数を培養法 数は 地理的要因のほか により求め WHO が作成 天候によっても大きく変動す した定量的リスク評価モ る デルを用いて評価した 4

(2) 工程別の微生物挙動に関する情報収集 工程文献研究成果の概要 原料 Wareing and Davenport (2007) 原料の ph 別に微生物危害対象を 整理している 原水 Truchado et al (2017) 大腸菌汚染の平均値は 100mL あたり 1.08 対数個で GAP ガイドライン (<2 個 /100mL) を満たした 原水 Holvoet et al (2014) 原水温度により 大腸菌汚染レベルは有意に異なる 保存 Bagamboula et al (2002) リンゴジュースのような低 ph(3.3) 環境下であっても 赤痢菌等は数日 ~ 数週間生存する 保存 Kerr et al (1999) ナチュラルミネラルウォーター中での EHEC O157 の消長を添加回収試験により経時的に評価した 未殺菌検体は 15 度下での生存日数は長く 70 日目まで検出された ( 殺菌済検体では 49 日目まで検出 ) (3) 海外での運用 検証状況 製品 ( 目的 ) 国発行者研究成果の概要 ボトル詰ミネラルウォーター アイルランド Food Safety Authority 748 の最終製品を調査 ( 調査 ) of Ireland(2011) し うち 19 製品 (2.5%) より大腸菌 腸球菌 大腸 菌群 緑膿菌の何れかが 検出された ボトル詰ミネラルウォーター ( 規範 ) 米国 IBWA (2012) 最終製品に対し 大腸菌 陰性 /100mL が望ましいと の規範を作成 なお FDA では <2.2MPN または <4 CFU/100mL としている 原水 ニュージーランド Ministry of Health 大腸菌及び一部の寄生虫 ( 基準 ) (2000) を危害要因と見做し 大腸 菌の基準を設定している 5

考察 飲料水の原水には自然水を利用する場合も多く 飲料水の微生物管理を行う上では 糞便汚染指標菌の混入リスクを懸念する必要がある これらの汚染分布は 地理的要因のほか 天候 更には製造工程におけるろ過による除菌や化学的殺菌処理等の条件 ( 適切性 ) によっても左右される 国際動向に加え 近年では自然環境水における主要食中毒菌 ( 腸管出血性大腸菌及びサルモネラ属菌 ) の分布が大腸菌の分布と高い相関性を示すとの報告もされており (Truchado et al. 2017) 国内のミネラルウォーター類の微生物基準としては大腸菌を採用することが望ましいと思われる しかしながら 現行の大腸菌群から大腸菌へと移行するためには 試験法の整備と関連団体等への周知をはかることも必要と思われる 水道法で規定される大腸菌試験法では β-d-グルクロニダーゼ産生性を指標とする酵素基質培地 (TBX 培地 ) が用いられる 当該培地については 食品の微生物試験への適用も既に海外では行われており 導入が進められた背景の一つには 操作上の簡便 迅速性が挙げられる 一方で 例えば腸管出血性大腸菌汚染との直接的相関性を第一に優先することへの効果は少ないと思われる ヒト病態との関わり高い血清型 O157 の多くは TBX 培地の検出評価指標として採用する β-d-グルクロニダーゼ活性を有さない (McDaniels et al. 1996) ため 陰性と判定されることがその背景として挙げられる 従って 大腸菌を指標菌として設定する根拠としては 特定の病原菌汚染リスクとの直接的関連性を考慮するというよりも あくまでも衛生指標菌としての有効性を指し示すことの意義を周知した上で移行を検討することが重要と思われる そのためには 今後 腸内細菌科菌群や大腸菌群等の糞便汚染指標菌との関連性を検討評価することが求められよう 実際に 世界保健機関 (WHO) のガイドラインでは 大腸菌を糞便汚染指標とすることが望ましいが 代替的な指標菌として妥当性評価が行われた場合においては 耐熱性大腸菌群の利用も認めるとしている 国内ではTBX 培地を用いた飲料水の微生物試験は未だ実例数が少ないため 今後試験法の検証を行うこと 更には試験検査従事者への周知を図る必要性があると思われる こうした課題はあるものの 国際整合性のとれた試験法を用いて国際標準として採用される指標菌を飲料水原水等の微生物規格基準に採用することは 国際調和の観点からも有益性に富んでおり 今後多様な食品の微生物規格基準の設定の在り方を検討する上でも意義の高いものと考える 更に指標菌としての大腸菌設定は 細菌学的位置づけの明確化にもつながり ひいては迅速簡便試験法の検証にもつながるであろう 6

( 参考資料 ) Ⅰ 水質管理専門委員会における 大腸菌群 に対する詳細な見解主な水系感染症の原因菌は人を含む温血動物の糞便を由来とすることから 糞便汚染を検知することで病原体混入の危険性を探知する という いわゆる代替指標菌を用いた検査手段が導入された 糞便汚染の指標として 温血動物の腸管内に常在する通性嫌気性菌の内で最も数の多い (10 8~9 個 /g) 大腸菌(Escherichia coli) が選択された しかしながら 当時の培養技術では 大腸菌 を直に検出する技術はなく 菌の同定には高度な細菌学的知識と複雑な培養技術が要求されていた そこで 大腸菌が有する生化学性状のうちの 5 つに着目し その性状をすべて備える細菌群をもって大腸菌を代弁させた この細菌群が 大腸菌群 であり それ以降 今日に至るまで代替的な糞便汚染指標菌として用いられている 時経列的に見ると 大腸菌群の検査が検討された時期は 1911 年頃にまでさかのぼることができる 1926 年に協定上水試験法の附則として採用され 1936 年に判定標準が設けられた その後 1966 年の水質基準に関する省令 ( 厚生省令第 11 号 ) で 大腸菌群は検出してはならない と規定された ( 検水量は 50ml) 周知のとおり 大腸菌群には Escherichia 属 Citrobacter 属 Enterobacter 属 および Klebsiella 属等が含まれており その中には外界でも増殖可能な多様な細菌種が含まれる また これら細菌類の構成比率は常に流動的である したがって いわゆる大腸菌群には糞便汚染の指標性は低いという認識が今日の国際的な理解である Ⅱ 大腸菌群試験法 ( 清涼飲料水の成分規格 ) 1. 推定試験原液の 10ml および 1ml ならびに 10 倍液 100 倍液および 1,000 倍液の各 1ml を試料とし それぞれ発酵管にいれる 発酵管はダーラム管またはスミス管で これに加えるブイヨンは BTB 加乳糖ブイヨンとし これは少なくとも試料量の 2 倍となるような濃度に調製する 発酵管を 35± 1.0 で 24±2 時間培養した後 ガス発生をみないときは さらに培養を続け 48±3 時間まで観察する この場合ガスの発生をみなかったものは推定試験陰性 ガスの発生をみたものは推定試験陽性 ( 大腸菌群疑陽性 ) とする 2. 確定試験推定試験陽性の場合に これを行う 遠藤培養基 EMB 培養基または BGLB 発酵管を用いる 推定試験でガスを発生した発酵管をとり これが多数ある場合は そのうちの最大希釈倍数のものをとり この 1 白金耳を遠藤培養基または EMB 培養基に画線培養して 独立した集落を発生せしめるか または BGLB 発酵管に移植し 培養する 24 時間後遠藤培養基または EMB 培養基において定型的の集落発生があれば確定試験陽性 ( 大腸菌群陽性 ) とし 非定型的の集落の発生した場合は完全試験を行う BGLB 発酵管で 48 時間以内にガス発生があれば 確定試験陽性 ( 大腸菌群陽性 ) とする ただし 培地の色調が褐色を呈したときには完全試験を行う 3. 完全試験確定試験に BGLB 発酵管を使用したものは さらに遠藤培養基または EMB 培養基に移してか 7

らつぎの操作を行う 遠藤培養基または EMB 培養基から 定型的な大腸菌群集落または 2 つ以上の非定型的集落を釣菌し それぞれ乳糖ブイヨン発酵管および寒天斜面に移植する 培養時間は 48±3 時間とし ガス発生を確認したものと相対する寒天斜面培養のものについてグラム染色を行い 鏡検する 乳糖ブイヨン発酵管でガスを発生し 寒天斜面の集落の菌がグラム陰性無芽胞の桿菌であれば 完全試験陽性 ( 大腸菌群陽性 ) とする a 乳糖ブイヨン発酵管普通ブイヨン ( 肉エキス 5g ペプトン 10g 水 1,000ml ph6.4~7.0) に乳糖を 0.5% の割合で加え 発酵管に分注し 高圧滅菌し 速やかに冷却する 間けつ滅菌法を採用してもよい b 遠藤培養基 3% の普通寒天 (ph7.4~7.8) を加温溶解し この 1,000ml にあらかじめ少量の蒸留水に溶かした乳糖 15g を加えてよく混和する これにフクシンのエタノール飽和溶液 ( エタノール 100ml にフクシン約 11g を溶かしたもの )10ml を加え 冷却して約 50 になったとき 新たに作製した 10% 亜硫酸ナトリウム溶液を少量ずつ加え フクシンの色が淡桃色になったとき滴加を止める これを大形試験管に 40~100ml ずつ分注し 100 で 30 分間滅菌し 用時加温溶解して 約 15ml ずつ平板とする c EMB 培養基ペプトン 10g リン酸二カリウム 2g 寒天 25~30g を蒸留水 1,000ml に加熱溶解し 沸騰後蒸発水量を補正する これに乳糖 10g 2% エオシン水溶液 20ml および 0.5% メチレンブルー水溶液 13ml を加えて混和し 分注後間けつ滅菌する 用時約 15ml ずつ平板とする d BGLB 発酵管ペプトン 10g および乳糖 10g を蒸留水 500ml に溶解し これに新鮮牛胆汁 200ml( または乾燥牛胆末 20g を水 200ml に溶解したもので ph7.0~7.5 のもの ) を加え さらに蒸留水を加えて約 975ml とし ph7.4 に補正し これに 0.1% ブリリアントグリーン水溶液 13.3ml を加え 全量を 1,000ml とし 綿ろ過し 発酵管に分注し 間けつ滅菌する この ph は 7.1~7.4 とする 8

別表. 原水に対し 糞便汚染指標として用いられる主な微生物規格基準の概要 ミネラルウォーター類 ( 殺菌または除菌を行うもの ) * 水道水 EU ( Council Directive 98/83/EC on the quality of water for human consumption) ** 原水の微生物規格 細菌数 一般細菌 ( 水道水を除く ) 100 個 /ml 以下 100/ml 以下 大腸菌 ( または耐熱性大腸菌群 ) 陰性 (100mL 中 ) 大腸菌群 大腸菌 陰性 (10mL 中 ) 検出されないこと (100mL 中 ) 腸球菌 陰性 (100mL 中 ) 法的根拠 食品衛生法 水道法 WHO: Guidelines for Drinking-water Quality Codex General Standard for Bottled Packaged Drinking Water (Codex ST AN 227-2001) Codex Standard for Natural Mineral Water (Codex Stan 108-1981) WHO: Guidelines for Drinking-water Quality Codex Standard for Natural Mineral Water (Codex Stan 108-1981) Codex Hygienic Practice CAC/RCP 33-1985 (Codex General Standard for Bottled Packaged Drinking Water (Codex ST AN Codex Hygienic Practice CAC/RCP 33-1985 227-2001)) * 現行の食品衛生法においては ミネラルウォーター類のうち 殺菌または除菌を行わないものの原水については 製造基準として芽胞形成亜硫酸還元嫌気性菌 腸球菌 緑膿菌及び大腸菌群が陰性であり かつ 1ml 当たりの細菌数が5 以下と定められている また 同品目の中で 容器包装内の二酸化炭素圧力が 20 で 98kPa 未満のものの原水については 1ml 当たりの細菌数が 100 以下であり かつ大腸菌群が陰性でなければならないとの製造基準がある **Codex 委員会公開資料では ボトル詰ミネラルウォーター製品の成分規格として 一般細菌数 従属栄養細菌数 大腸菌 腸球菌及び緑膿菌等の検査項目も設定している 9