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「資産除去債務に関する会計基準(案)」及び

日本基準基礎講座 有形固定資産

スライド 1

Microsoft Word 【公表】HP_T-BS・PL-H30年度

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有形固定資産シリーズ(7)_資産除去債務②


IFRS基礎講座 IFRS第1号 初度適用

第 298 回企業会計基準委員会 資料番号 日付 審議事項 (2)-4 DT 年 10 月 23 日 プロジェクト 項目 税効果会計 今後の検討の進め方 本資料の目的 1. 本資料は 繰延税金資産の回収可能性に関わるグループ 2 の検討状況を踏まえ 今 後の検討の進め方につ

財務諸表に対する注記

IFRS ネットワーク第 11 回セミナー IAS36 号が求める減損会計 ~ 経営管理とのつながりを中心に ~ 2011 年 12 月 9 日株式会社アヴァンティアコンサルティング公認会計士木村直人 c 2011 Avantia All rights reserved.

2 事業活動収支計算書 ( 旧消費収支計算書 ) 関係 (1) 従前の 消費収支計算書 の名称が 事業活動収支計算書 に変更され 収支を経常的収支及び臨時的収支に区分して それぞれの収支状況を把握できるようになりました 第 15 条関係 別添資料 p2 9 41~46 82 参照 消費収入 消費支出

財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

第4期電子公告(東京)

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財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

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1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

平成30年公認会計士試験

参考 企業会計基準第 25 号 ( 平成 22 年 6 月 ) からの改正点 平成 24 年 6 月 29 日 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 の設例 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 平成 22 年 6 月 30 日 ) の設例を次のように改正

貸借対照表 ( 平成 20 年 3 月 31 日 ) ( 厚生年金勘定 ) ( 単位 : 円 ) 科 目 金 額 資産の部 Ⅰ 流動資産 現金及び預金 11,313,520,485 有価証券 13,390,000,000 販売用不動産 93,938,423,482 未収金 389,813,000 未

Microsoft Word - 不動産ファンドに関する国際財務報告基準 第6回.doc

目   次

科目 期別 損益計算書 平成 29 年 3 月期自平成 28 年 4 月 1 日至平成 29 年 3 月 31 日 平成 30 年 3 月期自平成 29 年 4 月 1 日至平成 30 年 3 月 31 日 ( 単位 : 百万円 ) 営業収益 35,918 39,599 収入保証料 35,765 3

計算書類等

4 地方公営企業会計基準の見直しの影響 ( 概要 ) 地方公営企業会計基準の見直しのため 平成 23 年度に地方公営企業法施行令等を改正し その改正内容が平成 26 年度予算 決算から全面的に適用となっている (1) 見直しの趣旨 昭和 41 年以来大きな改正がなされていない地方公営企業会計制度と国


大和リビング株式会社 第 30 期計算書類 自平成 30 年 4 月 1 日 至平成 31 年 3 月 31 日 貸借対照表 平成 31 年 3 月 31 日現在 ( 単位 : 千円 ) 科目 金額 科目 金額 資 産 の 部 負債の部 流動資産 31,058,186 流動負債 21,971,712


第4期 決算報告書

従って IFRSにおいては これらの減価償却計算の構成要素について どこまで どのように厳密に見積りを行うかについて下記の 減価償却とIFRS についての説明で述べるような論点が生じます なお 無形固定資産の償却については 日本基準では一般に税法に準拠して定額法によることが多いですが IFRSにおい

営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 税引前当期純利益 減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目 営業活動に係る資産 負債の増減 利息および配当金の受取額等が表示されます この中で 小計欄 ( 1) の上と下で性質が異なる取引が表示され

連結貸借対照表 ( 単位 : 百万円 ) 当連結会計年度 ( 平成 29 年 3 月 31 日 ) 資産の部 流動資産 現金及び預金 7,156 受取手形及び売掛金 11,478 商品及び製品 49,208 仕掛品 590 原材料及び貯蔵品 1,329 繰延税金資産 4,270 その他 8,476


国家公務員共済組合連合会 民間企業仮定貸借対照表 旧令長期経理 平成 26 年 3 月 31 日現在 ( 単位 : 円 ) 科目 金額 ( 資産の部 ) Ⅰ 流動資産 現金 預金 311,585,825 未収金 8,790,209 貸倒引当金 7,091,757 1,698,452 流動資産合計 3

貸借対照表 ( 平成 25 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 千円 ) 科目金額科目金額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 14,146,891 流動負債 10,030,277 現金及び預金 2,491,769 買 掛 金 7,290,606 売 掛 金 9,256,869 リ

第 21 期貸借対照表 平成 29 年 6 月 15 日 東京都千代田区一番町 29 番地 2 さわかみ投信株式会社 代表取締役社長澤上龍 流動資産 現金及び預金 直販顧客分別金信託 未収委託者報酬 前払費用 繰延税金資産 その他 固定資産 ( 有形固定資産 ) 建物 器具備品 リース資産 ( 無形

Report

Microsoft Word - 会計監査トピックス_35.doc

3. 基本財産及び特定資産の財源等の内訳 基本財産及び特定資産の財源等の内訳は 次のとおりです 科目当期末残高 ( うち指定正味財産からの充当額 ) ( うち一般正味財産からの充当額 ) ( うち負債に対応する額 ) 基本財産投資有価証券 800,000,000 (662,334,000) (137


第6期決算公告

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Microsoft Word - 決箊喬å‚−表紎_18年度(第26æœ�ï¼›

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資産除去債務の会計処理(コンバージェンス)

目次財務諸表 1. 貸借対照表 貸借対照表内訳表


個別注記表 平成 24 年 4 月 1 日から 平成 25 年 3 月 31 日まで 1. 重要な会計方針に係る事項に関する注記 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 子会社株式 総平均法による原価法によっております (2) たな卸資産の評価基準及び評価方法 商品 原材料及び貯蔵品 最終仕入原価法

使用価値 31 将来キャッシュ フロー 36 使用価値の算定に際して用いられる割引率 43 共用資産及びのれんの取扱い 48 共用資産の取扱い 48 のれんの取扱い 51 減損処理後の会計処理 55 開示 57 貸借対照表における表示 57 注記 58 その他 59-2 借手側が所有権移転外ファイナ

貸借対照表 平成 29 年 3 月 31 日現在 ( 単位 : 百万円 ) 資産の部 負債の部 流動資産 13,610 流動負債 5,084 現金 預金 349 買掛金 3,110 売掛金 6,045 短期借入金 60 有価証券 4,700 未払金 498 商品 仕掛品 862 未払費用 254 前

第28期貸借対照表

Ⅴ 固定資産の減損会計 1. 減損会計の適用 時価評価の対象範囲 減損処理の対象資産 時価の著しい下落 使用価値の算定 会計処理及び財務諸表における開示方法 固定資産の減損処理方法 45 Ⅵ 税効果会計 1. 税効果会計適用の要

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様式3

Microsoft Word - 第4回固定資産取引:問題

科 目 貸借対照表平成 30 年 3 月 31 日現在 当年度前年度増減 ( 単位 : 円 ) Ⅰ 資産の部 1. 流動資産 現金預金 28,313,776 24,804,212 3,509,564 未 収 金 5,810,958 5,810,958 0 流動資産合計 34,124,734 30,6

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有形固定資産シリーズ(5) 固定資産の減損③

IFRS基礎講座 IAS第11号/18号 収益

問題 12 取替法 次の取引の仕訳を示しなさい ⑴ 取替資産である鉄道のレールの一部を新品に取替えた 代金 480,000 円は月末に支払う ⑵ 円で20 個を取替えた 代金は小切手を振出して支払った ⑴ ⑵ 問題 12 問題 13 設備投資

2. 基準差調整表 当行は 日本基準に準拠した財務諸表に加えて IFRS 財務諸表を参考情報として開示しております 日本基準と IFRS では重要な会計方針が異なることから 以下のとおり当行の資産 負債及び資本に対する調整表並びに当期利益の調整表を記載しております (1) 資産 負債及び資本に対する

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日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の


第8期(平成26年度)貸借対照表および損益計算書(改版)

地方公営企業会計基準の見直しについて(完成)

h18財務諸表NCTD-FS_ xls

適用時期 5. 本実務対応報告は 公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用する ただし 平成 28 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には 当該事業年度に本実務対応報告を適用することができる 議決 6. 本実務対応報告は 第 338 回企業会計

財剎諸表 (1).xlsx

Microsoft Word - 公益法人会計の仕訳

ならないとされている (IFRS 第 15 号第 8 項 ) 4. 顧客との契約の一部が IFRS 第 15 号の範囲に含まれ 一部が他の基準の範囲に含まれる場合については 取引価格の測定に関する要求事項を設けている (IFRS 第 15 号第 7 項 ) ( 意見募集文書に寄せられた意見 ) 5.

第10期

11豊岡 博.indd

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第11期決算公告

[2] のれんの発生原因 企業 ( または事業 ) を合併 買収する場合のは 買収される企業 ( または買収される事業 ) のおよびを 時価で評価することが前提となります またやに計上されていない特許権などの法律上の権利や顧客口座などの無形についても その金額が合理的に算定できる場合は 当該無形に配

企業結合ステップ2に関連するJICPA実務指針等の改正について⑦・連結税効果実務指針(その2)

公益法人会計基準について

『学校法人会計の目的と企業会計との違い』

独立行政法人会計基準改定(案)

法人単位貸借対照表 平成 29 年 3 月 31 日現在 第三号第一様式 ( 第二十七条第四項関係 ) 法人名 : 社会福祉法人水巻みなみ保育所 資産の部当年度末前年度末 増減 負債の部当年度末前年度末 流動資産 23,113,482 23,430, ,370 流動負債 5,252,27

会社法計算書類等31期_ xlsx

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Microsoft Word - 247_資本連結実務指針等の改正

改正法人税法により平成 24 年 4 月 1 日以後に開始する事業年度については法人税率が 30% から 25.5% に引き下げられ また 復興財源確保法により平成 24 年 4 月 1 日から平成 27 年 3 月 31 日までの間に開始する事業年度については基準法人税額の 10% が復興特別法人

計算書類 貸 損 借益 対計 照算 表書 株主資本等変動計算書 個 別 注 記 表 自 : 年 4 月 1 日 至 : 年 3 月 3 1 日 株式会社ウイン インターナショナル

- 2 -

第 16 回ビジネス会計検定試験より抜粋 ( 平成 27 年 3 月 8 日施行 ) 次の< 資料 1>から< 資料 5>により 問 1 から 問 11 の設問に答えなさい 分析にあたって 連結貸借対照表数値 従業員数 発行済株式数および株価は期末の数値を用いることとし 純資産を自己資本とみなす は

第62期_計算書類_ xdw

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貸借対照表 (2019 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 千円 ) 科目 金額 科目 金額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 3,784,729 流動負債 244,841 現金及び預金 3,621,845 リース債務 94,106 前払費用 156,652 未払金 18,745

野村アセットマネジメント株式会社 平成30年3月期 個別財務諸表の概要 (PDF)

その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の

1. 国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 抜粋 翻訳 ) 国際財務報告基準に準拠した財務諸表の作成方法について当行の国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 以下 IFRS 財務諸表 という ) は 平成 27 年 3 月末時点で国際会計基準審議会 (IAS B) が公表している基準及び解釈指針に

新旧対照表(計算書類及び連結計算書類)

2 リース会計に関する論点の整理注釈 38によると 借地権 ( 借地借家法の適用のないものを含む ) は 我が国では非償却の無形資産として扱う場合が多く 無形資産 ( 又は土地に準ずる資産 ) に該当するのか リースに該当するのかについてはその内容を踏まえて検討が必要であるとしている しかし 借地権

Transcription:

非営利法人委員会報告第 31 号 公益法人会計基準に関する実務指針 ( その 3) 平成 19 年 3 月 29 日日本公認会計士協会 目次固定資産の減損会計... 1 1. 減損会計の適用...1 2. 時価評価の対象範囲... 3 3. 減損処理の対象資産... 3 4. 時価の著しい下落... 3 5. 減価償却費不足額がある場合の減損処理... 3 6. 使用価値の算定...6 7. 会計処理及び財務諸表における開示方法... 6 8. 固定資産の減損処理方法... 8

本報告で使用する略称は 次のとおりである 新会計基準 : 公益法人会計基準の改正等について ( 平成 16 年 10 月 14 日公益法人等の指導監督等に関する関係省庁連絡会議申合せ ) 新会計基準の運用指針 : 公益法人会計基準の運用指針について ( 平成 17 年 3 月 23 日公益法人等の指導監督等に関する関係省庁連絡会議幹事会申合せ ) 旧会計基準 : 公益法人会計基準 ( 昭和 60 年 9 月 17 日公益法人指導監督連絡会議決定 ) ( 一般 経常外 ): 正味財産増減計算書 ( 一般正味財産増減の部 経常外増減の部 ) (B/S): 貸借対照表

固定資産の減損会計 1. 減損会計の適用 Q1: 公益法人における固定資産の減損会計は どのように適用されるのでしょうか A: 公益法人における固定資産の減損会計は企業会計と同一ではなく その適用は以下のとおりである 新会計基準では 資産の時価が著しく下落したときは 回復の見込みがあると認められる場合を除き 時価をもって貸借対照表価額としなければならない とされており 原則として 強制評価減を行う必要がある ただし 有形固定資産及び無形固定資産について使用価値が時価を超える場合 取得価額から減価償却累計額を控除した価額を超えない限りにおいて使用価値をもって貸借対照表価額とすることができる とされており 例外として 帳簿価額 ( 取得価額から減価償却累計額を控除した価額 ) を超えない限り 使用価値で評価することもできる なお 公益法人において固定資産を使用価値により評価するか否かは任意であるが 使用価値により評価できるのは 対価を伴う事業 ( 公益事業であるか 付随的に行う収益事業であるかは問わない ) に供している固定資産に限られる 以上をまとめると 次の図のとおりである - 1 -

判定 1 固定資産の時価は下落しているか? 判定 2 時価の下落は著しいか? 判定 3 著しい時価の下落の回復可能性はあるか? 時価評価は不要 原則 例外 判定 4 対価を伴う事業に供しているか? 判定 5 使用価値を算定するか? 判定 6 使用価値は時価より高いか? 時価評価が必要 判定 7 使用価値により評価するか? 使用価値により評価する ( 帳簿価額以内 ) - 2 -

2. 時価評価の対象範囲 Q2:Q1における減損会計の適用の有無に関する図解の 判定 1 は 固定資産の時価は下落しているか? となっていますが すべての固定資産について時価を調査する必要があるのでしょうか A: 公益法人における固定資産の減損会計は Q1に記載のとおり 原則として強制評価減である したがって 対象となる固定資産は強制評価減の対象になるおそれのあるものである 例えば バブル期に取得した土地及び建物等の固定資産の時価が著しく下落していないかどうかというような場合であり 通常に使用している什器備品や車両運搬具まで厳密に時価を把握する必要はない ただし 電話加入権等の時価が著しく下落しており その金額に重要性があるような場合には時価評価が必要になる なお 公益法人における固定資産の減損会計は 企業会計と異なり 減損の兆候の有無に関係なく 時価と帳簿価額との比較が行われることに留意する 3. 減損処理の対象資産 Q3: 減損処理の対象となる固定資産の範囲はどこまででしょうか A: 他の基準に減損処理に関する定めがある資産 ( 例えば 金融商品に係る会計基準 における金融資産や 税効果会計に係る会計基準 における繰延税金資産 ) を除き 固定資産は基本財産や特定資産等の区分にかかわらず 減損処理の対象資産になる 4. 時価の著しい下落 Q4: 固定資産について 時価の著しい下落とはどのような場合ですか また その回復可能性はどのように判断するのでしょうか A: 新会計基準の運用指針において 資産の時価が著しく下落したときとは 時価が帳簿価額から概ね 50% を超えて下落している場合 とされている この場合の時価は 企業会計と同様に 公正な評価額で把握することになる 通常 それは観察可能な市場価格をいい 市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額 ( 例えば 不動産鑑定評価額等 ) を用いることになる また その回復可能性は 相当の期間に時価が回復する見込みであることを合理的な根拠をもって予測できるか否かで判断することが必要となる 5. 減価償却費不足額がある場合の減損処理 Q5: 旧会計基準では固定資産の減価償却は任意で行わないことができると解釈されてきました これに対して新会計基準では減価償却が強制されることとなりました そのため 減価償却を行っていない固定資産を有する法人における経過措置として新会計基準の運用指針では 次のような取扱いをしています - 3 -

原則 : 新会計基準適用初年度に過年度分の減価償却費を計上する 特例その1: 過年度分の減価償却費を一括して計上せず 新会計基準適用初年度の期首の帳簿価額を取得価額とみなし 以後 残存耐用年数 ( 新規に取得した場合の耐用年数から経過年数を控除した年数 ) で償却する 特例その2: 旧会計基準の運用において 取得時から減価償却を実施せず その後経過年数を考慮しない耐用年数で減価償却を実施している固定資産については 従前の方法で継続して実施することができる このように 減価償却について新会計基準の運用指針では特例規定を設けていますが この場合 固定資産の減損処理はどのようになるのでしょうか A: 新会計基準の運用指針の趣旨にかんがみて 経過期間については厳密に考えないで何らかの緩和措置を適用することも認められると解される すなわち 新会計基準の運用指針における経過措置を適用している場合 下落率の判定は 経過措置適用後の帳簿価額によるのではなく 取得当初より正規の減価償却を実施してきたと仮定した場合の帳簿価額による これは 経過措置を認容した新会計基準の運用指針の趣旨を考慮するとともに 正規の減価償却を実施してきた法人との衡平性を保持するためである 取得当初より正規の減価償却を実施してきたと仮定した場合の帳簿価額と比較して時価が 50% を超えて下落している場合に初めて帳簿価額と時価との差額について減損損失を計上する 具体的な事例を示すと以下のとおりである < 具体的な事例 > 1 前提条件経過措置適用による帳簿価額 (A):750 取得年度より正規の減価償却を実施してきたと仮定した場合の帳簿価額 (B):300 時価その1のケース (C):200 時価その2のケース (D):120 下落率 : 時価 200 の場合 AとCを比較した場合の下落率 :73%=(750-200) 750 BとCを比較した場合の下落率 :33%=(300-200) 300 時価 120 の場合 AとDを比較した場合の下落率 :84%=(750-120) 750 BとDを比較した場合の下落率 :60%=(300-120) 300 なお この事例では使用価値については考慮しないこととする 以上の前提の諸要素を図解し また 表にまとめると それぞれ次のようになる - 4 -

特例規定及び正規の減価償却による帳簿価額と時価との相関図 帳簿価額 時価 特例 正規の減価償却 その 1 その 2 (A) (B) (C) (D) 750 300 200 120 帳簿価額 時価 下落率表 帳簿価額 時価 下落率対特例対正規の減価償却 特例 正規の減価 その1 その2 その1 その2 その1 その2 (A) 償却 (B) (C) (D) 750 300 200 120 73% 84% 33% 60% 2 減損の扱い時価が 200 の場合 経過措置 ( 特例 ) を適用したときの帳簿価額が 750 であるため 下落率が 73% となって 50% を超過するが 取得年度より正規の減価償却を実施してきたと仮定した場合の帳簿価額は 300 であり 33% しか下落していないので 減損処理は不要となる しかし 時価が 120 の場合は 正規の減価償却後の帳簿価額に対しても下落率が 60% となるため 減損処理が必要である この場合の減損額は 630(=750-120) となる これは 減損処理が必要かどうかの判断は 正規の減価償却を実施してきたと仮定した場合の帳簿価額と時価を比較して行うが 減損処理が必要となった場合には もう 当該固定資産については減価償却の役割である 固定資産の取得価額の耐用年数にわたる規則的な配分の必要性がなくなったために 帳簿価額から時価まで減損するという考えによっている なお これは 経過措置を適用している法人すべてに 取得年度より正規の減価償却を実施してきたと仮定した場合の帳簿価額を算定することを求め - 5 -

るものではなく その算定は固定資産の時価が著しく下落していると思われる場合の減損処理の要否を判定する際に必要となるものである 6. 使用価値の算定 Q6: 公益法人における固定資産の使用価値はどのように算定するのでしょうか A: 公益法人における固定資産の使用価値は 対価を伴う事業に供している固定資産について 資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ フローの現在価値をもって算定する なお 将来キャッシュ フローについては 企業会計に準じて以下のように見積もることが必要である (1) 将来キャッシュ フローは 法人に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積もる (2) 将来キャッシュ フローの見積りに際しては 資産又は資産グループの現在の使用状況及び合理的な計画等を考慮する (3) 将来キャッシュ フローの見積金額は 生起する可能性の最も高い単一の金額又は生起し得る複数の将来キャッシュ フローをそれぞれの確率で加重平均した金額とする (4) 資産又は資産グループに関連して間接的に生ずる支出は 関連する資産又は資産グループに合理的な方法により配分し 当該資産又は資産グループの将来キャッシュ フローの見積りに際して控除する (5) 将来キャッシュ フローには 利息の支払額並びに法人税等の支払額及び還付額を含めない 7. 会計処理及び財務諸表における開示方法 Q7: 減損処理後の会計処理及び財務諸表における開示方法を教えてください A: 公益法人の場合 企業会計に準じて以下の取扱いとする (1) 会計処理 1 減価償却減損処理を行った固定資産については 減損損失を控除した帳簿価額に基づき減価償却を行う 2 減損損失の戻入れ減損損失の戻入れは行わない (2) 財務諸表における開示方法 - 6 -

1 貸借対照表における表示減損処理を行った固定資産の貸借対照表における表示は 原則として 減損処理前の取得価額から減損損失を直接控除し 控除後の金額をその後の取得価額とする形式で行う ただし 当該資産に対する減損損失累計額を 取得価額から間接控除する形式で表示することもできる この場合 減損損失累計額を減価償却累計額に合算して表示することができる 2 正味財産増減計算書における表示減損損失は 原則として 一般正味財産増減の部の経常外費用に計上する なお 指定正味財産に対応する固定資産の場合には 減損損失に対応する金額を指定正味財産から一般正味財産へ振り替えることになる この場合の注記例を示せば 次のとおりである < 注記例 > 指定正味財産から一般正味財産への振替額の内訳指定正味財産から一般正味財産への振替額の内訳は 次のとおりである 内容金額経常外収益への振替額土地減損損失計上による振替額 3 注記事項重要な減損損失を認識した場合には 減損損失を認識した固定資産 減損損失の金額 評価金額の算定方法等について注記することが望ましい この場合の注記例を示せば 次のとおりである < 注記例 1> 減損損失関係 以下の固定資産について減損損失を計上している 種 類 土地 場 所 県 市 減損損失の金額 ( 評価金額の算定方法 ) 不動産鑑定評価額によっている < 注記例 2> - 7 -

減損損失関係 以下の固定資産グループについて減損損失を計上している 種 類 構築物 土地 場 所 県 市 減損損失の金額 ( 減損損失の内訳 ) 減損損失の内訳は 構築物 土地 である ( グルーピングの方法 ) 賃貸用不動産 ( 駐車場 ) について 個々の物件を単位とした ( 評価金額の算定方法 ) 使用価値により評価しており 将来キャッシュ フローを % で割り引いて算定している なお 具体的な注記の事例は Q8 の A(5) を参照のこと 8. 固定資産の減損処理方法 Q8: 固定資産の減損処理方法について具体的に教えてください A: 固定資産の減損処理方法について 設例を用いて解説すると以下のとおりとなる (1) 対象資産の把握 1 前提条件甲法人は 公益事業としてA 事業とB 事業を行っている なお B 事業は対価を伴う事業である 甲法人の固定資産は本部の土地建物 ( 一般正味財産に対応する固定資産 ) のみであり これを次のとおり 各会計の貸借対照表に計上している 建物 土地 合計 A 事業 300 1,200 1,500 B 事業 200 800 1,000 合計 500 2,000 2,500 2 考え方新会計基準では 公益事業であるか収益事業であるかを問わず 資産の時価が著しく下落したときは 回復の見込みがあると認められる場合を除き 時価をもって貸借対照表価額としなければならない とされている したがって 時価が下落している場合 本件の土地建物については 時価を把握することが必要である - 8 -

(2) 著しい時価の下落の検討及びその回復可能性の検討 1 前提条件甲法人の土地建物について不動産鑑定士から鑑定評価額を入手したところ 以下のとおりの結果となった 建物 土地 合計 A 事業 180 360 540 B 事業 120 240 360 合計 300 600 900 本件の土地建物については いずれも相当の期間に時価が回復するか否かは不明である 2 考え方以下のように帳簿価額に対する時価の割合から 土地について著しい時価の下落が認められる 建物 土地 A 事業 60% 30% B 事業 60% 30% しかも 本件の土地の時価下落の回復可能性について合理的な根拠をもって立証することができない このため 土地については A 事業もB 事業も 時価による評価 ( 減損処理 ) が必要である ただし 対価を伴う事業であるB 事業の土地については 使用価値により評価することもできる (3) 使用価値の算定 1 前提条件 B 事業の土地建物は一体として対価を獲得しており その割引前将来キャッシュ フローは次のとおり見積もられた 年数 1 2 3 4 5 6 7 8 B 事業の将来キャッシュ フロー 70 70 70 70 60 60 60 60-9 -

なお 建物の経済的残存使用年数は8 年であり この残存使用年数経過後における土地建物の正味売却価額は 160 と見積もられた また 割引率は 2.0% を採用する また B 事業に供している土地建物については これを一体として使用価値を算定する 2 考え方 B 事業の土地建物の使用価値 = 70 1.02 + 70 (1.02) 2 + 70 (1.02) 3 + + 60+160 (1.02) 8 =478 B 事業の土地建物の使用価値をそれぞれの時価の比に基づいて配分すると 以下のとおりとなる 帳簿価額 時価 使用価値 建物 200 120 159 土地 800 240 319 合計 1,000 360 478 この結果 B 事業の土地については 原則として時価までの減損処理が必要であるが 例外として使用価値により評価することも容認される なお 建物については 時価の著しい下落がないため減損処理は不要である (4) 具体的な会計処理 1 前提条件 B 事業の土地については 時価ではなく 使用価値により評価する なお A 事業の土地は 上記 (2) より時価により評価する 2 仕訳 土地減損損失 ( 一般 経常外 ) 1,321 / 土地 (B/S) 1,321 A 事業の土地減損損失 : 帳簿価額 1,200- 時価 360=840 B 事業の土地減損損失 : 帳簿価額 800- 使用価値 319=481-10 -

(5) 具体的な注記例 1 前提条件上記 (4) のとおりとする 2 注記例 減損損失関係 以下の固定資産について減損損失を計上している 種 類 土地 場 所 県 市 減損損失の金額 1,321 ( 減損損失の内訳 ) 減損損失の内訳は A 事業の土地 840 B 事業の土地 481 である ( 評価金額の算定方法 ) A 事業の土地は不動産鑑定評価額によっている B 事業の土地は使用価値により評価しており 将来キャッシュ フローを 2.0% で割り引いて算定している 以 上 - 11 -