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研究背景 意義様々な社会課題の解決手段としてセンサネットワーク技術が重要になってきた 2020 年頃までにはセンサの出荷数が年間 1 兆個を超えると予想されている すなわち, 我々の周辺に何百個ものセンサが存在するようになり これらがネットワークにつながる時代が間もなく到来する この時 多数のセンサ端末が無線通信するため 無線トラフィックが増加し電波資源の枯渇がより深刻な問題となる さらにセンサ端末の数が膨大であるため 電池交換や充電といったメンテナンスに要するコストも大きな負担となる メンテナンスの問題に関しては 環境発電技術や RFID 技術を用いて電池レスにすることで解決できる ただし これらの技術で生成できる電力はせいぜい百 μw 程度であるため 無線送信機は低電力化のために単純なアーキテクチャしか選択できず OOK ( 用語 4) といった周波数効率が悪い変調方式しか実現できなかった したがって 将来のセンサネットワークにおいて不可避なメンテナンスと電波資源枯渇という問題を同時に解決できる技術が存在しなかった 同グループはこれを解決するために, 直交バックスキャタリング回路技術という新規の直交変調技術を開発した デジタル回路で一般に用いられるシリコン CMOS 集積回路として実装し 環境発電素子により得られる微弱電力で動作可能な 113μW の超低消費電力と 周波数利用効率が高い 32QAM という多値変調を同時に実現した さらに この無線機チップを搭載したモジュールを試作し RF 無線給電により生成した微弱電力で無線機を動作させ 無線信号伝送に成功した 技術内容無線給電で動作する低電力無線送信機としてパッシブタイプ RFID タグ技術があり これは親機から供給する搬送波を RFID タグで反射させるバックスキャッタリングによって通信を行う この反射波の振幅あるいは位相は RFID タグのアンテナ負荷インピーダンスを送信データに応じて変化させることによって変調される 変調器がスイッチなどの受動回路のみで送信機を構成することができるため マイクロワットオーダーの低い消費電力で動作させることができる 一方 RFID タグで周波数効率が高い多値変調を行う場合 インピーダンスが異なる負荷素子が多値数分必要だった 従来技術ではサイズが大きい受動素子を多数使うことになるため 面積やコストが増加する問題があった また受動素子の特性が製造時のばらつきや温度変動の影響を大きく受けるため 変調精度が悪く 32QAM といった高多値変調が困難だった 携帯電話などで用いられている無線送信機では多値変調を実現できるダイレクトコンバージョン方式などが採用されている しかし この方式で必要な周波数シンセサイザといった高周波回路がミリワット以上の電力を消費するため 高

周波無線給電技術と組み合わせて利用することが困難である そこで同研究グループはバックスキャタリング技術とミキサ技術を応用することで周波数変換と直交変調を行う 直交バックスキャタリング技術 を開発し 無線送信機において低消費電力と多値変調を両立することに成功した この技術では, トランジスタの入力インピーダンスを時間的に変化させることで, 反射波の周波数変換と振幅 位相の変調を行う 図 1 に開発した無線給電型無線機の全体構成を示す この無線機は電源回路 受信機 (RX) および送信機 (TX) の 3 ブロックからなる 電源回路では親機から送信される無線給電のための RF 信号を整流し 一旦キャパシタに電力を蓄える キャパシタに十分なエネルギーが蓄えられた後 送信機および受信機を動作させるための安定な電源電圧を生成する 送信機および受信機に供給する電源電圧を 0.6V と標準の電源電圧の半分にすることにより 消費電力を削減している 図 2 に開発した直交バックスキャタリング技術を実現する送信機回路を示す この技術では従来の RFID 技術のように親機が送信する搬送波を用いることで高周波の周波数シンセサイザを排除する 直交変調器 (QMOD) は RF 搬送波と中間周波数 (IF) で動作するミキサ (IF Mixer) が生成する変調信号 (I/Q 信号 ) を乗算することで周波数変換し 5.8GHz 帯の多値変調信号を実現する 従来の RF 送信機で用いられている一般的なミキサ回路では図 3(a) のパッシブミキサのように 乗算したい二つの信号の入力と乗算出力が別の端子である したがって,RFID のように 1 つのアンテナを使って親機が供給する RF 搬送波信号を受信し乗算に利用しながら 乗算結果を出力するという動作には適していない 従来のバックスキャタリング技術では図 3(b) に示すように 親機が供給する RF 搬送波信号の受信端子と乗算結果の出力端子を共有できるが ミキサに入力する信号はデジタル信号である この回路では図 3(c) に示すように デジタル信号ではなく IF 帯のアナログ I/Q 信号を入力する技術を開発することによって RF 搬送波信号を利用して IF 帯から 5.8GHz 帯へ周波数変換を行った この結果 バックスキャッタリング変調信号の多値化を実現し さらに IF ミキサと QMOD をパッシブ型の回路で構成できるようになったことで 主な電力消費が IF 帯ローカル信号生成 分配のみに抑えられた 開発した無線機は最小配線半ピッチ 65nm ( ナノメートル ) のシリコン CMOS プロセスで試作した 図 4 にチップ写真を示す 回路部の面積は 0.14mm 2 である. 図 5 に送信機出力信号のコンスタレーションおよびスペクトラムの測定結果を示す 送信機は消費電力 113μW で 2.5Mb/s の 32QAM 変調を 4.6% のエラーベクトルマグニチュード (Error Vector Magnitude: EVM) で実現した このときの周波数効率は 3.3b/s/Hz である 図 6 にこれまでに発表された低電力送信機の消費電力および周波数効率の比較を示す 今回の成果は低消費電力でありながら

32QAM という周波数効率が高い変調を実現した点が特徴である 図 7 に開発したチップを用いた無線通信モジュールを示す これを用いて温度センシングのデモンストレーションを行った 無線給電により生成した電力を利用して無線通信を行い 温度データを取得することに成功した 発表予定この成果は 2 月 22 日 ~26 日にサンフランシスコで開催される 2015 IEEE International Solid-State Circuits Conference (ISSCC 2015):2015 年 IEEE 国際固体回路国際会議 のセッション Session 13 Energy-Efficient RF Systems で発表する 講演タイトルは A 5.8GHz RF-Powered Transceiver with a 113μW 32-QAM Transmitter Employing the IF-based Quadrature Backscattering Technique (IF 直交バックスキャタリング回路技術を用いた 113μW 32-QAM 送信機を有する 5.8GHz 帯 RF パワード送信機 ) である 現地時間 24 日 16 時 45 分から発表する 論文著者 Atsushi Shirane ( 白根篤史 : 博士後期課程, 発表者 ), Haowei Tan ( 譚昊イ : 修士課程 ), Y. Fang ( 方一鳴 : 修士課程修了生 ), Taiki Ibe ( 伊部泰貴 : 修士課程 ), Hiroyuki Ito ( 伊藤浩之 : 准教授 ), Noboru Ishihara ( 石原昇 : 特任教授 ), Kazuya Masu ( 益一哉 : 教授 ) 用語説明 (1) 直交位相振幅変調 : 互いに独立な 2 つの搬送波 ( 同相 (In-phase) 搬送波及び直角位相 (Quadrature) 搬送波 ) の振幅及び位相を変更 調整することによってデータを伝達する変調方式 (2)RFID 技術 :ID 情報を埋め込んだ無線タグと電波などを用いた近距離の無線通信によって情報をやりとりする技術 (3)32QAM: 直交位相振幅変調の一種で 搬送波の振幅と位相を変調することで 32 の状態を表す方式 (4)OOK: 搬送波の有無によりデジタルデータを表す変調方式 問い合わせ先 東京工業大学フロンティア研究機構教授益一哉 Email: masu.k.aa@m.titech.ac.jp TEL: 045-924-5010 FAX: 045-924-5022

会議公開情報 http://isscc.org/ http://isscc.org/doc/2015/isscc2015advanceprogram.pdf 図 1: 開発した無線機のブロック図 図 2: 送信機部分の回路図

図 3: RF ミキサ部における信号と伝達方向 (a) 一般的なパッシブミキサ,(b) 一般的なバックスキャタリング技術, (c) 本成果の回路 図 4:65nm Si CMOS プロセスにより製造したチップの写真

図 5: 送信機出力信号のコンスタレーションとスペクトラム 図 6: 最新の超低電力無線送信機との性能比較

図 7: 開発したチップを用いた無線通信モジュール