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基礎遺伝学 講義資料パート 3 作成者 : 北大農学部 荒木仁志 1

次世代の Genotype frequency 推定 HWE が自然集団で成り立つ 5 条件 1. 集団のサイズが十分に大きい 2.Allele 頻度に性差がない 3. この遺伝子座 (locus) において任意交配 (random mating) 4. 移住がない 5. この遺伝子座において突然変異 自然選択が起きない 2

5. 自然選択 自然選択 ( Natural selection ) 自然界において 生物集団内の特定の形質を持つ個体の生存 繁殖確率が相対的に高く より多くの子孫を残すこと Charles Darwin (1809-1882) 自然淘汰 適者生存適応度 ( fitness, w ) HWE P[AA] = P[A] 2 = p 2 P[Aa] = 2(P[A] x P[a]) = 2pq P[aa] = P[a] 2 = q 2 Under selection p 2 w 11 2pq w 12 q 2 w 22 3 HWE 中立 ( selectively neutral ): w 11 = w 12 = w 22 = 1 の時

自然選択 ( Natural selection ) 集団の平均適応度 ( ww ) ww = pp 2 ww 11 +2ppppww 12 + qq 2 ww 22 現世代の A allele freq. を P 次世代の A allele freq. を P とすると 世代間の allele freq. 変化は P = P[AA] + P[Aa]/2 = pp 2 + 2pppp P = P[AA] + P[Aa] /2 = pp2 ww 11 +ppppww 12 ww PP = PP PP = pppp pp ww 11 ww 12 + qq ww 12 ww 22 ww 4

自然選択 ( Natural selection ) 1. 方向性選択 ( Directional selection ) AA Aa aa w 11 w 12 w 22 適応度 1 1-hs 1-s s : 淘汰係数 ( selection coefficient ) h : 優性度 ( degree of dominance ) PP = PP PP = pppp pp ww 11 ww 12 + qq ww 12 ww 22 ww = sspppp hpp + 1 h qq ww 5

1. 方向性選択 ( Directional selection ) dddd dddd ssssss qq + h pp qq この近似式から P の変化にかかる時間 t を計算する 1) h = 0 (A が完全優性 ) tt = 1 ss dddd dddd ssssqq2 1 1 + ln PP tt 1 PP 0 1 PP tt 1 PP 0 PP 0 1 PP tt 2) h = 1 (A が完全劣性 ) tt = 1 ss dddd dddd sspp2 qq 1 PP 0 1 PP tt + ln PP tt 1 PP 0 PP 0 1 PP tt 6

1. 方向性選択 ( Directional selection ) dddd dddd ssssss qq + h pp qq この近似式から P の変化にかかる時間 t を計算する 3) h = 1/2 (no dominance) dddd dddd 1 2 ssssss tt = 2 ss ln PP tt 1 PP 0 PP 0 1 PP tt 00 hh 11 の h について一般に t は s に反比例 定向進化の場合 自然選択が弱いと進化に長い時間がかかる 7

Q. 50 個体から成る二倍体集団に突然変異 Aが起こり そのホモ接合体は既存の対立遺伝子 aのホモ接合体に対して適応度が1% 大きいとする 優性度が 0, 0.5, 1 の3つの場合について A のallele 頻度が 0.5 になるまでにかかる時間の期待値をそれぞれ求めよ AA Aa aa w 11 w 12 w 22 適応度 1 1-hs 1-s 1) h = 0 (A が完全優性 ) 2) h = 1/2 (no dominance) tt =? 3) h = 1 (A が完全劣性 ) s : 淘汰係数 ( selection coefficient ) h : 優性度 ( degree of dominance ) 9 23 112 559 919 1124 5459 8674 10260 8

参考 : Fisher s Fundamental Theorem 集団の平均適応度の相対的増加率は どの世代においても標準化された適応度の相加的遺伝分散とほぼ等しい R.A. Fisher ww ww VV ww : 集団の平均適応度の相対的増加率 (~ 適応進化の速度の尺度 ) : 相加的遺伝分散 (additive genetic variance 遺伝的多様性の尺度 ) ww ww 2VV ww ww 2 適応進化の速度は その世代にどれだけ遺伝的多様性がある かによって律速される 9

自然選択 ( Natural selection ) 1. 方向性選択 ( Directional selection ) 2. 安定化選択 ( Stabilizing selection ) [ 平衡選択 ( Balancing selection )] 3. 分断選択 ( Disruptive selection ) 10 (en.wikipedia.org)

自然選択 ( Natural selection ) 1. 方向性選択 ( Directional Selection ) Charles Darwin (1809-1882) 2. 平衡選択 ( Balancing selection ) 2-1. 超優性 ( overdominance ) 2-2. 頻度依存選択 ( frequency dependent selection ) 2-3. 多様化選択 ( diversifying selection ) 11

自然選択 ( Natural selection ) 2. 平衡選択 ( Balancing selection ) 2-1. 超優性 ( overdominance ) AA Aa aa 適応度 1-t 1 1-s s, t : 淘汰係数 ( selection coefficient ) PP = pppp tt ss + tt pp ww PP = 0 とすると pp = tt ss + tt 12

2. 平衡選択 ( Balancing selection ) 2-1. 超優性 ( overdominance ) pp = tt ss + tt で多様性安定 PP > 0 PP = 0 PP < 0 貧血症のコスト s マラリアにかかるコスト t pp 0 1 pp 13

2. 平衡選択 ( Balancing selection ) 2-2. 頻度依存選択 ( frequency dependent selection ) AA Aa aa 適応度 1+s pp pp 1 1+s qq qq PP = 0 とすると PP = pppp ss = 2ssssss pp pp ww pp = pp pp pp pp ss qq qq qq ww pp > pp の時 PP > 0 pp < pp の時 PP < 0 少数者有利 平衡状態では w 11 = w 12 = w 22 14

2. 平衡選択 ( Balancing selection ) 2-3. 多様化選択 ( diversifying selection ) 環境依存的に適応度が変化 環境頻度 C 1 AA Aa aa 適応度 1 1-h 1 s 1 1-s 1 C 2 適応度 1-s 2 1-h 2 s 2 1 ww AAAA = CC 1 + CC 2 1 ss 2 ww AAAA = CC 1 1 h 1 ss 1 + CC 2 1 h 2 ss 2 ww aaaa = CC 1 1 ss 1 + CC 2 15

2. 平衡選択 ( Balancing selection ) 2-3. 多様化選択 ( diversifying selection ) 環境依存的に適応度が変化 PP = pppp 2CC 1h 1 ss 1 + 2CC 2 h 2 ss 2 CC 1 ss 1 CC 2 ss 2 pp CC 1 h 1 ss 1 + CC 2 h 2 ss 2 CC 1 ss 1 ww PP = 0 とすると pp = CC 1 h 1 ss 1 + CC 2 h 2 ss 2 CC 1 ss 1 2CC 1 h 1 ss 1 + 2CC 2 h 2 ss 2 CC 1 ss 1 CC 2 ss 2 CC 1 h 1 ss 1 + CC 2 h 2 ss 2 < CC 1 ss 1 の時 安定 CC 1 h 1 ss 1 + CC 2 h 2 ss 2 < CC 2 ss 2 16

2. 平衡選択 ( Balancing selection ) 2-3. 多様化選択 ( diversifying selection ) PP = 0 とすると pp = CC 1 h 1 ss 1 + CC 2 h 2 ss 2 CC 1 ss 1 2CC 1 h 1 ss 1 + 2CC 2 h 2 ss 2 CC 1 ss 1 CC 2 ss 2 Q. C 1 =0.7, h 1 =h 2 =0.2, s 1 =0.01, s 2 =0.05 の時 pp =? 17

自然選択 ( Natural selection ) 3. 分断選択 ( Disruptive selection ) 18 (en.wikipedia.org)

自然選択 ( Natural selection ) 自然淘汰 適者生存適応度 ( fitness, w ) Charles Darwin (1809-1882) 中立 ( selectively neutral ): w 11 = w 12 = w 22 = 1 の時 中立な遺伝子の進化 分子レベルでは一般的? 分子進化の中立説 木村資生 (1924-1994) ゲノム進化の研究により ほぼ中立な遺伝子の進化 の一般性が証明 19 太田朋子 (1933-)

6. 中立進化 生物進化の 中立性 (Evolutionary neutrality) 分子進化の中立説 木村資生 1968 全ての進化が適応的ではない 分子レベルではむしろ 選択上中立(selectively neutral) な進化が主 少なくとも分子レベルでは 進化は自然選択 ではなく遺伝的浮動によって引き起こされる という考え方 20

生物進化の 中立性 (Evolutionary neutrality) 分子進化の中立説 木村資生 1968 論拠 : 1. 全ての多型が適応的だと遺伝的荷重 (genetic load) が大きすぎる 2. 分子進化速度の一定性 ( 中立説では進化速度は突然変異率に比例 ) 3. 同義置換速度 > 非同義置換速度 ( アミノ酸置換を起こさない変異は進化しやすい ) http://www.brh.co.jp/research/formerlab/miyata/2005/post_000003.html 21

中立進化 ( Neutral Evolution ) 中立突然変異の固定確率 ( Fixation probability ) PP 1 2NN = 1 2NN 中立突然変異の固定確率 = 突然変異の初期頻度 小さい集団ほど中立突然変異が固定しやすい 22

中立進化 ( Neutral Evolution ) 中立遺伝子の進化速度 ( Evolutionary rate ) kk = 2NNμμ PP 1 2NN k : 世代当たり 集団当たりの固定確率 突然変異数 固定確率 = 2NNμμ 1 2NN = μμ 中立遺伝子の進化速度は突然変異率と等しい 23

50 個体から成る二倍体集団に起こった 1% 有利な突然変異が allele 頻度 0.5 になるのにかかる時間 (s=0.01, h=0 の場合の期待値は t=559) A allele 頻度 P(A) t=559 時間 (t) 24

中立進化 ( Neutral Evolution ) 中立遺伝子の進化速度 ( Evolutionary rate ) kk = μμ k : 世代当たり 集団当たりの固定確率 μμ = μμ TT ff oo kk = μμ TT ff oo μμ TT ff oo : 全突然変異率 : 中立突然変異の割合 μμ TT ff oo が一定 ( 同じたんぱく質遺伝子など ) なら k も一定 ( 分子時計 ) ff oo が小さい ( 重要な ) 部分は進化が遅い 25

中立進化 ( Neutral Evolution ) 中立遺伝子の進化速度 ( Evolutionary rate ) kk = μμ k : 世代当たり 集団当たりの固定確率 非中立遺伝子の進化速度 kk = 2NNμμ PP 1 2NN 2NNμμ 2ss 4NNμμss 100μμ 10μμ kk μμ 0.1μμ 0.01μμ ss >0 10 4 10 5 10 6 ss <0 10 6 10 7 10 8 10 4 10 5 10 6 10 3 26 NNNN

移住と近交系数 ヘテロ接合体頻度 Wright の島モデル (island model) 集団全体は非常に大きい ( 無限大とみなせる ) 部分集団 ( 島集団 ) の大きさはNeで一定 (Ne = 有効集団サイズ ) 対立遺伝子数は十分に大きく 移住者は必ず新しいalleleをもたらす部分集団は一世代当たりNe x mの割合で遺伝子を交換 (m = 移住率 ) m は十分小さい (m << 1) 世代 t での近交系数 F の部分集団内平均値 G t は GG tt = 1 2NN ee + 1 1 2NN ee GG tt 1 1 mm 2 N e : 有効集団サイズ 27

中立進化 ( Neutral Evolution ) 中立遺伝子の多様性 ( ヘテロ接合体頻度 ) 移住なし 突然変異ありと仮定すると 世代 t での近交系数 F の部分集団内平均値 G t は GG tt = 1 2NN ee + 1 1 2NN ee GG tt 1 1 μμ 2 N e : 有効集団サイズ μμ << 1 から 近似的に G = 1 HHHH G 1 4NN ee μμ + 1 HHHH ( HHHH: 平衡状態でのheterozygosity) 4NN eeμμ 4NN ee μμ + 1 28

中立性検定テスト HKA test (1987) Tajima s D test (1989) McDonald-Kreitman test (1991) Fu & Li s test (1993) Fay & Wu s test (2000) 29

中立性検定テスト McDonald-Kreitman test (1991) 中立なら同義置換率 : 非同義置換率が種内 種間で一定 種内で固定 種内多型 種分化 非同義置換 t 3 U r (t 1 +t 2 )U r 同義置換 t 3 U s (t 1 +t 2 )U s t 3 U r : アミノ酸を変える (= 非同義 ) 塩基置換率 U s : アミノ酸を変えない (= 同義 ) 塩基置換率 t 1 t 2 統計的検定種 A 種 B 30

中立性検定テスト 統計的にはそうかもしれないけど 本当? 実際に試してみよう!( 適応進化の再現!) (Araki et al. 2005, J. Heredity) 31

中立性検定テスト 統計的にはそうかもしれないけど 本当? 実際に試してみよう!( 適応進化の再現!) アミラーゼの分解産物が多い環境 アミラーゼ酵素活性の低い対立遺伝子が増えた (= 適応的 ) アミラーゼの基質が多い環境 アミラーゼ酵素活性の高い対立遺伝子が増えた (= 適応的 ) 32

中立性検定テスト 統計的にはそうかもしれないけど 本当? 実際に試してみよう!( 適応進化の再現!) アミラーゼ酵素活性 選択はアミラーゼ遺伝子だけでなく それを調整する DNA 領域にもかかっていた! 分解産物環境 基質環境 33

中立性検定テスト 統計的にはそうかもしれないけど 本当? 実際に試してみよう!( 適応進化の再現!) ショウジョウバエ アミラーゼ遺伝子の適応進化 原産地アフリカでは元々デンプン質が主食だった? その後 種分化に伴いエサとなる栄養素が変化 熟した果実など 高い糖分を含む餌環境にも適応 人の住む都市環境にも適応 世界中へと分布を広げ 今に至る 34