スライド 1

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栄養表示に関する調査会参考資料①

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2

2. 栄養管理計画のすすめ方 給食施設における栄養管理計画は, 提供する食事を中心とした計画と, 対象者を中心とした計画があります 計画を進める際は, それぞれの施設の種類や目的に応じて,PDCA サイクルに基づき行うことが重要です 1. 食事を提供する対象者の特性の把握 ( 個人のアセスメントと栄

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Taro-4

Microsoft PowerPoint 【資料3】主な改定内容と課題について0405

栄養成分等の分析方法等及び「誤差の許容範囲」の考え方について

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日本スポーツ栄養研究誌 vol 目次 総説 原著 11 短報 19 実践報告 資料 45 抄録

2) エネルギー 栄養素の各食事からの摂取割合 (%) 学年 性別ごとに 平日 休日の各食事からのエネルギー 栄養素の摂取割合を記述した 休日は 平日よりも昼食からのエネルギー摂取割合が下がり (28~31% 程度 ) 朝食 夕食 間食からのエネルギー摂取割合が上昇した 特に間食からのエネルギー摂取

1 栄養成分表示を活用してみませんか? 媒体の内容 1 ページ 導入 ねらい : 栄養成分表示 とは 食品に含まれているエネルギー及びたんぱく質 脂質 炭水化物 食塩相当量などを表示したものであることを理解する 栄養成分表示を見たことがありますか? と問いかけ 普段から栄養成分表示を見ているか 見て

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学校給食摂取基準の活用 学校給食摂取基準は全国平均を示したものであるから その考え方を踏まえた上で 各学校の実態に応じた摂取基準 ( 給与栄養目標量 ) 作成する必要がある EER 算出シートに数字を打ち込めば EER( 推定エネルギー必要量 ) は算出できるが 専門職 ( 管理栄養士 栄養士 )

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01. 表紙

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スライド 1

カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

hyoushi

目次 < 栄養表示の特徴 > 栄養表示の特徴 1 < 健康 栄養政策と栄養表示の関係 > 健康 栄養政策と栄養表示基準 2 健康 栄養政策と栄養表示 3 健康 栄養政策と栄養表示の関係 4 21 世紀における国民健康づくり運動 ( 健康日本 21) の具体的な推進について 5 < 栄養表示の重要性の

Taro-①概要.jtd

2015 年度 SFC 研究所プロジェクト補助 和食に特徴的な植物性 動物性蛋白質の健康予防効果 研究成果報告書 平成 28 年 2 月 29 日 研究代表者 : 渡辺光博 ( 政策 メディア研究科教授 ) 1

Microsoft Word ビタミンB6.docx

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Shokei College Investigation into the Physical Condition, Lifestyle and Dietary Habits of the Members of a Boy s Soccer Team and their Families (1) Ph

エネルギーの食事摂取基準 : 推定エネルギー必要量 (kcal/ 日 ) 男性 女性 年齢 身体活動レベル 身体活動レベル Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅰ Ⅱ Ⅲ 15~17 2,450 2,750 3,100 2,000 2,250 2,500 18~29 2,250 2,650 3,000 1,700 1,95

10.Z I.v PDF.p

タイトル

Microsoft PowerPoint トランス脂肪酸・スライト゛神奈川県消費者意見交換(最終)

脂質について知りたい! からだに必要なものを取り込んで生きていく営み ( 栄養 ) において 特に重要な成分は 炭水化物 たんぱく質 脂質 ビタミン ミネラルです 脂質は私たちのからだにとって重要な栄養素であり 食品にあっては食べ物をおいしくしたり 食べやすくしたりするなどの役割も担っています 私た

相模女子大学 2017( 平成 29) 年度第 3 年次編入学試験 学力試験問題 ( 食品学分野 栄養学分野 ) 栄養科学部健康栄養学科 2016 年 7 月 2 日 ( 土 )11 時 30 分 ~13 時 00 分 注意事項 1. 監督の指示があるまで 問題用紙を開いてはいけません 2. 開始の

トランス脂肪酸に関するとりまとめ(参考資料)

状況を全国平均と比較すると 総エネルギー摂取量には差はないが 脂肪エネルギー比率が 25% 以上の者の割合は男女ともに 60% を越えており 全国平均の 40~50% をはるかに上回っている ( 2 ) この間の交通手段の発達などによる身体活動の低下に加えて このような脂質栄養の過剰摂取が日本人にお

2 11. 脂肪 蓄 必 12. 競技 引退 食事 気 使 13. 日 練習内容 食事内容 量 気 使 14. 競技 目標 達成 多少身体 無理 食事 仕方 15. 摂取 16. 以外 摂取 17. 自身 一日 摂取 量 把握 18. 一般男性 ( 性. 一日 必要 摂取 把握 19. 既往歴 図

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保健機能食品制度 特定保健用食品 には その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をすることができる 栄養機能食品 には 栄養成分の機能の表示をすることができる 食品 医薬品 健康食品 栄養機能食品 栄養成分の機能の表示ができる ( 例 ) カルシウムは骨や歯の形成に 特別用途食品 特定保健用

10.Z I.v PDF.p

(3) 摂取する上での注意事項 ( 該当するものがあれば記載 ) 機能性関与成分と医薬品との相互作用に関する情報を国立健康 栄養研究所 健康食品 有効性 安全性データベース 城西大学食品 医薬品相互作用データベース CiNii Articles で検索しました その結果 検索した範囲内では 相互作用

栄養表示 - 一般市民向けよくある質問 A. 改訂規則および栄養表示の枠組み B. 栄養表示 C. 栄養素情報 D. 栄養強調表示 A) 改訂規則および栄養表示の枠組み Q1. 食品および薬品 ( 成分および表示 )( 改訂 : 栄養表示および栄養強調表示の規定 ) 2008 年度規則 ( 改訂規則

資料 1-3 合理的な方法に基づく表示値の設定 ( 平成 25 年 4 月 26 日 消費者委員会第 22 回食品表示部会 ) へのコメント -1 栄養成分の含有量を一定値で示す場合 収去検査による分析に基づく実績値が 表示値の規定された許容範囲内にあること 収去検査において規定された分析方法によっ

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(5) 食事指導食事指導は 高血圧の改善 耐糖能障害の改善 代謝異常の改善について 各自の栄養状況 意欲などに応じて目標をたて これを達成できるよう支援する形で行った 開始時点で 食事分析を行い 3ヶ月ごとに 2 回進捗状況を確認する面接を行った 1 年後に終了時点の食事分析を行った 各項目の値の増

Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

Development of Specific Carotene Food Composition Table for Use in Nutritional Epidemiologic Studies for Japanese Populations

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Microsoft Word - 使用説明書.doc


動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版 ( 日本動脈硬化学会 ) ガイドラインの策定経緯 高脂血症診療ガイドライン :1997 年 動脈硬化性疾患診療ガイドライン 2002 年版 :2002 年 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版 :2007 年 動脈硬化性疾患予防ガイドライン

経管栄養食 アイソカル RTU アイソカルプラス EX ネスレヘルスサイエンス ネスレヘルスサイエンス 1.0kcal/ml の流動食さらにやさしく より確かな安全を 1.5kcal/ml の高濃度流動食 アルギニン配合 アイソカルプラス アイソカル 1K ネスレヘルスサイエンス ネスレヘルスサイエ

結果の概要

要旨 背景と目的 : インドネシアでは過体重 肥満者が多くジャカルタでは約 30% である 主な疾患別死亡率は 脳卒中約 21% 心臓病約 18% 糖尿病約 5% である 主な要因としてエネルギー 脂質 糖類などの過剰摂取 食物繊維の摂取不足が考えられるが 栄養調査報告がほとんどないために対策を立て

学校給食摂取基準の策定について(報告)

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解剖・栄養生理学

学校給食摂取基準の策定について(報告)

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MNT MNT CVD MNT 1) 2) 3) 4) MNT 1) 1 2 2) MNT MNT MNT MNT % HbA1C 2

私の食生活アセスメント

01. 表紙

太線 ) よりもバラツキが大きい ( 分布の幅が広い ) ため,1 日調査での EAR 未満の者の割合 は過大評価となる DG 等を用いて, ある基準値未満 ( または以上 ) の割合を算出する場合も同様の問題が生じる Ⅱ. 集団における栄養素等の習慣的な摂取量の分布 を推定するための理論 前述の理

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

第 3 部食生活の状況 1 食塩食塩摂取量については 成人男性では平均 11.6g 成人女性では平均 10.1gとなっており 全国と比較すると大きな差は見られない状況にあります 図 15 食塩摂取量 ( 成人 1 日当たり ) g 男性

Microsoft Word _nakata_prev_med.doc

14栄養・食事アセスメント(2)

(3) 栄養強調表示 ( 一般用加工食品の場合 基準第 7 条第 1 項 一般用生鮮食品の場合 任意表示 ( 第 21 条第 1 項 ) 別表第 12 13) 別表第 に掲げている栄養成分及び熱量を強調する場合は 当該栄養成分の量及び熱量は 別表第 9 の第 3 欄 ( 測定及び算出の方

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1-1 栄養素の代謝と必要量 : 糖質 炭水化物 1 糖質の消化吸収 デンプンは唾液中のα アミラーゼの作用により加水分解され かなりの部分が消化を受ける ヒト の唾液中に存在するデンプン消化酵素は α アミラーゼがほとんどである 胃では糖質の消化酵素は 分泌されないが 食道から胃内に流入した食塊が

講演

肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

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PhD HIPAA sports nutrition coach ACE ISSN Sports Nutrition Specialist Certification ISSN CISSN IOC IOC 3

目次 頁 1. はじめに 1 2. 我が国の健康 栄養政策を踏まえた栄養表示 2 3. 表示の優先度が高い栄養成分 3 (1) エネルギー 4 (2) ナトリウム 4 (3) 脂質 5 (3-1) 飽和脂肪酸 5 (3-2) トランス脂肪酸 6 (3-3) コレステロール 6 (4) 炭水化物 6

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

本日の内容 1. クイズから学ぶ米の優位性 2. 主食米としての自給率は 100% であるのに 米の消費 摂取量の漸減現象が止まらない 3. 家庭と外食の双方からの食育および食料自給率対策が必要 4. 歴史的に見る白米ごはんの受難 5. ごはん食の栄養的優位性 6. まとめ 1

4. まとめ 4.1 食事摂取量に関する調査について各国における食事摂取量に関する調査の比較結果は表 4-1 に示すとおりである EU 各国の場合 現時点で確認可能なデータは 2005 年 ~2011 年に実施された調査結果である EU のガイドラインが提示されたのは 2009 年であることから 当

02-08p

トランス脂肪酸のとりまとめ

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都市部中学 3 年生女子の食事調査 井ノ口美香子 * 今野はつみ * 德村光昭 * 川合志緒子 * 田中祐子 * 康井洋介 * 糸川麻莉 * 近年, 中学生女子における行動上の問題として やせ志向, 一方, 栄養上の問題ではやせ, および肥満の両面が指摘されている 食生活のあり方は生涯の健康づくりに

シトリン欠損症説明簡単患者用

資料3 日本食品標準成分表の更なる充実に向けた今後の課題と進捗状況について

結果の概要 1 栄養 食生活に関する状況 (1) 野菜の摂取状況 20 歳以上における 1 日の野菜摂取量の平均値は 288.1g 性別にみると男性 297.1g 女性 281.1g 年齢階級別にみると 男女ともに 40 歳代で最も少ない 図 1 野菜摂取量の平均値 (20 歳以上 性 年齢階級別

目次 栄養成分表示を知ろう! 栄養成分表示のことを知っていますか? 栄養成分表示のことを知って あなたの食生活に活用してみましょう エネルギーとたんぱく質 脂質 炭水化物のバランスについて 2 栄養成分表示をどのように活用したらいいの? 3 自分に必要なエネルギー及び栄養素の目標量を計算してみましょ

01. 表紙

青年期を対象とした携帯食事手帳システムの提供 目 次 1. 目的 1 2. 携帯食事手帳システムの概要 1 (1) システムの基礎データ 1 (2) 利用方法 1 (3) 確認できる情報 1 3. 携帯食事手帳利用の手引き 2 (1) 携帯食事手帳 (QRコード) 3 (2) 料理選択の仕方 4 (

EBNと疫学

Microsoft PowerPoint - 2.医療費プロファイル 平成25年度(長野県・・

目次 1, 研究背景 1-1, ダイエッに対する関心 1-2, 現代の食生活の問題 2, 肥満になる原因 2-1, 肥満になるメカニズム 2-2, 原因 3, 食事パターンによる比較 3-1, 食事パターンの構造と栄養素等の摂取状況の研究 4, 研究目的と分析手順 4-1, データ概要 4-2, 用

[ 原著論文 ] メタボリックシンドローム該当者の年齢別要因比較 5 年間の健康診断結果より A cross primary factors comparative study of metabolic syndrome among the age. from health checkup resu


01. 表紙

具体的論点 1( 栄養成分 ) ( 案 ) 平成 28 年 2 月 16 日第 2 回検討会資料 2 から抜粋 1 栄養成分を機能性表示食品制度の対象とする意義 2 安全性の確保 対象となる食品 成分の範囲 摂取量の在り方 3 機能性の表示 適切な機能性表示の範囲 消費者に誤解を与えないための情報の

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栄養表示の作成 直接栄養分析から 既存商品の表示を採用することによって 分析試験報告

13章 回帰分析

Transcription:

日本人の食事摂取基準 (2010 年版 ) に おけるエネルギー 主要栄養素の課題について 東京大学大学院佐々木敏

1 食事摂取基準エネルギー 主要栄養素 ( 大原則 ) 作る ために 作る のではない 使う ( 理論的に使い 検証することで 実践の質及び食事摂取基準の質を上げていく ) ために 作る のである 存在するエビデンスや研究者の興味と現場が必要とするエビデンスとの乖離が問題ではないか?

2 エネルギー ( 現状と課題 ) 2~12 枚 体格が考慮されていない 個人への活用が困難 活用目的は? 食事改善には使いにくい

エネルギー : 推定エネルギー必要量 (kcal/ 日 ) エネルギー必要量 [EER] = 消費量 (TEE: 短期間 体重が一定なら ) 直接測定 : 二重標識水法 =f( 性 年齢 身長 体重 身体活動レベル ) 基礎代謝 [BMR] 身体活動レベル [PAL] 直接測定 : ダグラスバッグなど 測定精度からみて 測定がもっともむずかしいのは 身体活動レベルだろう 研究では正確には PAL=TEE/BMR で求める 活用 ( 現場 ) では EER は測定できない 現場が求めているのは f( 性 年齢 身長 体重 身体活動レベル ) または f( 性 年齢 身長 体重 ) 身体活動レベル ところで 何に使うのか? または f( 性 年齢 [ 身長 ]) 体重 身体活動レベルまたは 身体活動レベルごとに f( 性 年齢 [ 身長 ]) 体重による推定方法の提示である 3

推定エネルギー必要量の活用目的 食事摂取基準 (2010 年版 ) 給食管理どれくらい (kcal) 作ったか? 給食を伴う栄養管理? 測定誤差小さい 推定エネルギー必要は使えるか? ある程度使える ( しかし 次スライド ) 食事改善 食事摂取状態の評価 食事改善計画の立案 食事改善の実施 どれくらい (kcal) 食べたか? 測定誤差大きい ( 理由 ) 過小申告 (4 枚後 ) 日間変動 (5 枚後 ) 使いにくい ( 使えない?) 他国はどうしているか? (7 枚後 ) ( 注 ) 食事摂取基準だけでなく エネルギー必要量に関するあらゆる記述は食事改善には使いにくい ( 使えない?) 4

5 推定エネルギー必要量は使えるか? 給食管理 集団レベルから考えてみる 給食管理の現場では 基礎代謝の参照値が尐ないこと ( 特に高齢者など特殊集団 ) と 身体活動レベルの推定方法が与えられていないことが悩みになっている 推定エネルギー必要量 基礎代謝 身体活動レベル =f( 性 年齢 身長 体重 ) 身体活動レベル 基礎代謝の測定 身体活動レベルの簡易測定方法の開発 ( 質の高い妥当性 利用可能性研究の実施 ) 性 年齢階級 身長 体重 ( 身体活動内容 ) 健康状態など別に

推定エネルギー必要量は使えるか? 給食管理 個人レベルから考えてみる 体重当たりエネルギー消費量 (kcal/kg)( オランダ 日本の例 ) 二重標識水法で測定されたエネルギー消費量 ( 平均 )/ 体重 ( 平均 ) 50 45 40 35 30 25 20 45.5 40.6 39.7 38.3 38.0 36.8 37.0 33.4 32.9 38.6 37.2 36.7 注意 : 平均 平均である 36.7 36.3 36.2 30.0 35.4 実線 : オランダ人点線 : 日本人 32.8 32.6 32.9 28.9 注意 : 高齢者は観察数が尐ない 欧米でのデータは体重が日本人と異なる 28.4 26.8 27.6 18-29 歳 30 歳代 40 歳代 50 歳代 60 歳代 70 歳代 80 歳代 90 歳代 このようなデータが身体活動レベル別に蓄積されれば f( 性 年齢 [ 身長 ]) 体重 として ある程度 現場活用できるのではないか? 同一対象者に BMR も測定できれば PAL を算出できるので 目的を達せられる しかし この種の濃密な栄養疫学研究の実施は極めて困難 しかし 重要度は高い Speakman JR, et al. Am J Clin Nutr 2010; 92: 826-34. Ishikawa-Takata K, et al. Eur J Clin Nutr 2008; 62: 885-91. 6

推定エネルギー必要量は使えるか? 給食管理 他国の状況をみてみる アメリカ カナダの食事摂取基準 National Academy of Sciences. Dietary Reference Intakes for Energy, Carbohydrate, Fiber, Fat, Fatty Acids, Cholesterol, Protein, and Amino Acids (Macronutrients) (2005): 107-264. エネルギー小児 成人の二重標識水法データベースを用いて TEE( 総エネルギー消費量 ) を推定式より算出 TEE( 総エネルギー消費量 ) = A + B 年齢 [ 歳 ] + PA (D 体重 [kg] + E 身長 [m]) A: 定数項 B D E: 係数 PA: 身体活動区分ごとに異なる係数 EER( 推定エネルギー必要量 ) を算出 7

推定エネルギー必要量は使えるか? 食事改善 食事摂取状態の評価から考えてみる (1) (kcal/ 日 ) 過小申告 国民健康 栄養調査 (2009 年 )(1 日間秤量式食事記録法 ) で得られた年齢階級別のエネルギー摂取量の平均値と日本人のための食事摂取基準 (2010 年版 ) の推定エネルギー必要量 ( 身体活動レベル Ⅱ) およその過小申告度 ( ) 内は EER を分母とした場合 20~29 歳 30~39 歳 40~49 歳 50~59 歳 60~69 歳 70 歳以上 男性 512 (19%) 495 (19%) 467 (18%) 259 (11%) 296 (12%) 306 (14%) 女性 291 (15%) 311 (16%) 279 (14%) 197 (10%) 226 (12%) 115 (7%) 集団平均値として 115~512kcal/ 日 (7~ 19%) の過小申告になっている 食事記録の結果はエネルギー必要量とは比較困難 ( 系統誤差 ) 食事改善には使いにくい 8

推定エネルギー必要量は使えるか? 食事改善 食事摂取状態の評価から考えてみる (2) ( 前提 ) 食事摂取基準は 習慣的な摂取量 を扱っているエネルギー摂取量の把握に食事記録法が汎用されている 日間変動 1 健康な 50 歳代男性 3 人におけるていねいな 16 日間秤量式食事記録法で得られたエネルギー摂取量 1 日ごとのエネルギー摂取量 (kcal/ 日 ) ±SD 幅 =600kcal/ 日以上 最大最小差が 1100kcal/ 日以上 Fukumoto A, et al. J Epidemiol 2013: [in press] で用いられた 50~76 歳男性 (67 人 ) のなかの 50 歳男性から無作為に抽出した 3 人 9

2 健康な 50 歳代男性 3 人におけるていねいな 16 日間秤量式食事記録法で得られたエネルギー摂取量 ( 連続する 3 日間の平均値 ) 3 日間ごとの移動平均 ( 青 ) ( 赤 ) ( 緑 ) 平均 2251 2212 2129 標準偏差 152 179 194 最小 2024 1911 1762 最大 2527 2442 2489 最大最小差 504 531 726 ±SD 幅 =300kcal/ 日以上 最大最小差が 500kcal/ 日以上 Fukumoto A, et al. J Epidemiol 2013: [in press] で用いられた 50~76 歳男性 (67 人 ) のなかの 50 歳男性から無作為に抽出した 3 人 短期間食事記録の結果は食事摂取基準では利用困難 ( 偶然誤差 ) 10

食事改善 推定エネルギー必要量は使えるか? 他国の状況をみてみる アメリカの糖尿病患者向け栄養指導ガイドライン American Diabetes Association. Nutrition, recommendation and interventions for diabetes: A position statement of the American Diabetes Association. Diabetes Care 2008; 31: S61-S76. エネルギーバランス 過体重 肥満 ( 患者ならびに高リスク者向け ) 過体重または肥満のインスリン抵抗性患者では減量がインスリン抵抗性を改善させるため 減量を推奨する 減量は 生活習慣改善も交えて 5-10% を目標とする ( 要点 ) エネルギー摂取量 (kcal/ 日 ) には触れていない その算定 ( 計算 ) 方法にも触れていない エネルギー必要量 摂取量に言及しておらず 数値も示していない 11

エネルギー ( 行うべきこと ) 質の高い研究計画に基づき 二重標識水法を用いて エネルギー必要量を正確に測定したデータを蓄積すること ( 性 年齢 身体活動レベルの拡大 ) 質の高い研究計画に基づいて 基礎代謝 身体活動レベルを測定したデータを蓄積すること ( 性 年齢 身体活動レベルの拡大 ) 身体活動レベルの簡易測定方法を開発すること ( 質の高い妥当性 利用可能性研究の実施 ) 推定エネルギー必要量の活用分野について再検討を行うこと ( 食事改善 [ 食事指導 ] に使うべきか?) エネルギーは以上 12

主要栄養素 ( マクロ栄養素 エネルギー産生栄養素 ) ( 現状と課題 ) 13~18 枚 たんぱく質と他の栄養素は異なる 主要栄養素の考え方はひとつではない 栄養素をどこまで細分化するか? 慎重に どの栄養素とどの疾患の組合せを選ぶか? 慎重に 日本人の食事摂取基準 (2010 年版 ) 1 歳以上 推定平均必要量 推奨量 たんぱく質 脂質 飽和 目安量 耐容上限量 目標量 n-6 系 n-3 系 * ( コレステロール ) 炭水化物 食物繊維 * EPA 及びDHA: 本文中に記述と表 ( 目標量 ) あり ** アルコール : 本文中に記述あり 13

主要栄養素 ( マクロ栄養素 エネルギー産生栄養素 ) たんぱく質 必須アミノ酸 非必須アミノ酸 炭水化物 糖食物繊維 単糖類 二糖類 多糖類 ( でんぷん ) グリセミックインデックス 脂質 必須脂肪酸 ( 不飽和脂肪酸 ) 多価不飽和 (PUFA) 一価不飽和 (MUFA) n-3 系 n-6 系 α- リノレン酸 EPA, DHA など シス型 トランス型 飽和脂肪酸 (SFA) アルコール 高 基本的な優先度 低 どこまで示すか? 優先順位は? その根拠は? 尐なくとも 研究者 ( 担当者 ) の興味や研究の流行に左右されてはいけない 14

LDL/HDL 比の変化量 目標量 : どの栄養素とどの疾患の組合せを選ぶか? 疾患 X 疾患 Y 疾患 Z 国民全体における重要度 栄養素 A 栄養素 B 単位効果量 ( 効果量 /g) 摂取量 (g) 栄養素 C ( 例 )LDL/HDL 比のコントロールにおいて 飽和脂肪酸とトランス型脂肪酸のどちらが優先されるべきか? 日本人成人の飽和脂肪酸摂取量の平均値はおよそ 7% エネルギー トランス型脂肪酸は 1% エネルギー未満 介入研究のメタアナリシス 飽和脂肪酸 平均摂取量と右図より 優先順位は 飽和脂肪酸 > トランス型脂肪酸 その前にそれぞれの摂取量を考慮すべき さらに 実行可能性 将来予測なども考慮すべき トランス型脂肪酸摂取量 (% エネルギー ) Ascherio, et al. N Engl J Med 1999; 340: 1994-8 を改変 15

どの栄養素とどの疾患の組合せを選ぶか? ( 例 1) WHO NUGAG (Nutrition Guidance Expert Advisory Group) は何を決めようとしているか? 必須アミノ酸たんぱく質非必須アミノ酸体重増加 齲歯糖単糖類 二糖類炭水化物グリセミック多糖類 ( でんぷん ) インデックス食物繊維 脂質 必須脂肪酸 ( 不飽和脂肪酸 ) 飽和脂肪酸 (SFA) http://www.who.int/nutrition/events/2013_5th_nugag_meeting4to7mar2013_china/en/index.html 体重増加 多価不飽和 (PUFA) n-3 系 n-6 系 一価不飽和 (MUFA) 循環器疾患など α- リノレン酸 EPA, DHA など アルコール シス型 トランス型 循環器疾患など NUGAG では 1 世界全体における疾患の相対重要度 2 摂取量 3 エビデンスの量と質を吟味してガイドラインの策定対象を決めている ( 注 ) たんぱく質やアルコールを無視しているわけではない 他で扱っている 16

どの栄養素を選ぶか? ( 例 2) 栄養成分表示 ( イギリス ) 食事摂取基準は 栄養成分表示にも影響する 栄養素の選択は 幅広い公衆栄養的視野に立って行いたい 17

主要栄養素の課題 栄養素課題 ( 必要性は? エビデンスの集積は?) たんぱく質 必須アミノ酸は含めるか? 長期間高摂取の健康への悪影響は検討すべきか? 脂質 総脂質の目標量 ( 範囲 ) のエビデンスはじゅうぶんか? 飽和脂肪酸 n-6 系脂肪酸 n-3 系脂肪酸 ( 目標量 ) は国民健康 栄養調査の摂取量 ( 中央値 ) のみに基づいているがこれでよいか? 脂肪酸をどこまで小分類して表示すべきか? 必要性は? エビデンスはじゅうぶんか? 炭水化物 総炭水化物の目標量 ( 範囲 ) のエビデンスはじゅうぶんか? 単糖 二糖類について検討しなくてよいか? 食物繊維の目標量の策定目的は? エビデンスは? エネルギーバランス エビデンスはじゅうぶんにあるか? 目的は何か? 目標量 どの疾患を対象とするか? アルコール必須栄養素ではないが どこまで記述するか? コレステロール 必須栄養素ではないが どこまで記述するか? 必須栄養素ではないが どこまで記述するか? 主要栄養素は以上 18

エネルギー 主要栄養素 ( まとめ ) ある程度 すべてに共通することかもしれないが エネルギー 主要栄養素で特に 存在するエビデンスや研究者の興味と現場が必要とするエビデンスとの乖離が問題ではないか? エビデンスの多いものを集めて投げるのではなく 策定側 現場が必要としている課題を抽出し ( 将来も見据え ) それに応えるエビデンスを構築する ( エビデンスを収集する 系統的に研究を推進する ) 活用側 ( 以上 ) 19