《公表資料》柏崎平野周辺の地層の年代について

Similar documents
 

図 東北地方太平洋沖地震以降の震源分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 ) 図 3 東北地方太平洋沖地震前後の主ひずみ分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 )

敦賀発電所全体配置図 目的外使用禁止 平成 25 年 8 月 日本原子力発電株式会社 若狭湾 3,4 号機 ( 改良型 PWR) 建設予定地 社有地境界 原子力機構ふげん 2 号機 (PWR) 1 号機 (BWR) 底敦賀湾浦湾敦賀半島 敦賀 1 号機 BWR 35.7 万 kw 1970 年営業運

泊発電所 地盤(敷地の地質・地質構造)に関するコメント回答方針

<4D F736F F D20502D3393EC8D CC8EB393B D89BF2E646F63>

岩波「科学」2018年11月渡辺ほか論文

‡P†|ŠéŒØ.ec4

原子力規制委員会 東通原子力発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合 でのご意見を踏まえた地質調査の概要 ( プレスレク資料 ) 平成 25 年 2 月 18 日 東北電力株式会社 東北電力株式会社 All rights Reserved. Copyrights 2012, Tohoku Elec

新潟県中越沖地震を踏まえた地下構造特性調査結果および駿河湾の地震で敷地内の揺れに違いが生じた要因の分析状況について

「活断層の補完調査」成果報告書No.H24-2

スライド 1

目的 2 汚染水処理対策委員会のサブグループ 1 地下水 雨水等の挙動等の把握 可視化 が実施している地下水流動解析モデルの妥当性を確認すること ( 汚染水処理対策委員会事務局からの依頼事項 )

バックチェック計画書

- 14 -

平成13年(ノ)第13号 根抵当権設定登記末梢登記手続等請求事件

積粘土と同様に上下で低く 中央で高い弓形分布を示す 図 () の I L は 長田 新庄 門真で 1 以上を示し 東大阪地域の沖積粘土の特徴である超鋭敏性が伺える ただし 鴫野の I L はかなり低い 図 (3) () の c v は 先の w L が反映されているが 特に新庄の中央部の圧縮性が高い

表紙 NRA 新規制基準概要


<4D F736F F D CF906B88C AB8CFC8FE BB82CC A E646F63>

<4D F736F F D E E979D81698EA991528AC28BAB82CC93C A2E646F63>

Microsoft Word - H Houkoku.doc

目次. 敷地における地震波の増幅特性に関連する補足 2. 検討用地震の選定に関連する補足. 中越地震, 中越沖地震に関連する補足 4. 不確かさの考え方に関連する補足 5.F-B 断層による地震の地震動評価に関連する補足 6. 長岡平野西縁断層帯による地震の地震動評価に関連する補足 7. 震源を特定

10.ec7

Microsoft Word - 第5章07地盤沈下.docx

笠間.indd

函館平野西縁断層帯北斗市清川付近の変動地形 池田一貴 Ⅰ. はじめに 図 1 北海道と函館平野の位置関係 函館平野西縁断層帯は函館平野とその西側の上磯山地との境界に位置する断層帯である. 本断層帯は北部 中部の渡島大野断層と中部 南部の富川断層 ( 海底延長部を含む ) からなり, ほぼ南北に延びる

180515プレスリリース

縄文時代の海岸線復元と遺跡動態 岡山平野のボーリング調査を踏まえて 2018 年 2 月山本悦世 山口雄治 鈴木茂之

<967B95B6>

全地連 技術 e- フォーラム 2008 高知 2008 年 10 月 16 日 巨大地震発生帯への掘削 ー ちきゅう の挑戦ー 独立行政法人海洋研究開発機構理事 地球深部探査センター長 平朝彦

泊発電所「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の改訂に伴う耐震安全性評価結果 中間報告書の概要

調査方法とその妥当性について (1/2) 日本原電の報告書は総合的な方法がとられている これまでに日本日本原電が行ってきた方法は適切である 報告書のデータは 全般的にデータは 全般的に日本日本原電の現原電の現時点での見解を支持している しかしながら 地震学的データによって補強するためには より広い範

福島県原子力発電所安全確保技術連絡会資料(200907)

ポータルサイト ジオ ステーション と 地方自治体のボーリングデータベースとの連携 ポイント ジオ ステーションと地方自治体が Web 公開しているボーリングデータベースとの連携は東京都のみでしたが 関東の全都県および川崎市との連携を行いました 関東の地方自治体が公開しているボーリングデータ ( 1

柏崎刈羽原子力発電所 1 号機 新潟県中越沖地震後の設備健全性に係る屋外重要土木構造物の点検 評価状況について 平成 21 年 5 月 19 日 東京電力株式会社

177 箇所名 那珂市 -1 都道府県茨城県 市区町村那珂市 地区 瓜連, 鹿島 2/6 発生面積 中 地形分類自然堤防 氾濫平野 液状化発生履歴 なし 土地改変履歴 大正 4 年測量の地形図では 那珂川右岸の支流が直線化された以外は ほぼ現在の地形となっている 被害概要 瓜連では気象庁震度 6 強

自然地理学概説

日本海地震・津波調査プロジェクト

安全防災特別シンポ「原子力発電所の新規制基準と背景」r1

Microsoft Word - NL15J.doc

Seismological Society of Japan - NAIFURU No.99 October, 2014 Report 1 02

Microsoft Word - 05_第3_2_1深部地盤のモデル化 docx

層等のうち 同年 3 月 11 日以降に発生した地震によって 実際に地表に断層が出現した事例が 1 件ありました このため 原子力事業者が耐震設計上考慮しないと評価している各々の断層等に応じて必要な距離の範囲内において 同年 3 月 11 日以降に発生した地震に伴って生じた地殻変動量及び地震の発生状

報告書

Microsoft Word - 概要版(案)_ docx

Microsoft Word - 浜岡 証拠意見書 提出版.doc

PowerPoint プレゼンテーション

資料 4 第 1 回被害想定部会 深部地盤モデル作成結果 平成 27 年 3 月 24 日 1

PowerPoint プレゼンテーション

はじめに

第 1 学年理科学習指導案 指導者佐々木一成 1 日時平成 28 年 11 月 16 日 ( 水 ) 第 6 校時 2 学級一関市立大東中学校 1 年 B 組男子 12 名女子 15 名計 27 名 ( 理科室 ) 3 単元名単元 4 大地の変化第 3 章地層から読み取る大地の変化学びを広げよう (

空中写真判読 1 空中写真判読 1. 海成段丘面判読 3 2. リニアメント判読 二ツ石 材木 原田東方 赤川 福浦 野平 清水山南方 恐山東山麓 47

1. 概要 関電は 越畑露頭で確認した 2a 層 (26cm) 2c 層 (16cm) は大山生竹火山灰 ( 以下 DNP) の 火山灰を含む層 であることは認めている しかし これは火山灰の純層ではなく 石流堆積物が混入して層厚が厚くなった可能性があるとして 層厚評価から外すことを主張している 6

資料 1 柏崎刈羽原子力発電所 6 号炉及び 7 号炉 原子炉建屋等の基礎地盤及び周辺斜面の安定性 コメント回答 平成 28 年 4 月 15 日 東京電力ホールディングス株式会社 安田層下部層の MIS10~MIS7 と MIS6 の境界付近の堆積物 については, 本資料では 古安田層 と仮称する

「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の改訂に伴う島根原子力発電所3号機の耐震安全性評価結果中間報告書の提出について

科学1月特集C_前野.indd

<4D F736F F D C835895B6817A F91CF906B88C AB82CC955D89BF8C8B89CA82CC95F18D9082C98C5782E995DB88C C982A882AF82E98C9F93A282C98DDB82B582C482CC88D38CA982CC92C789C182D682CC91CE899E816982E082F

Microsoft Word - H Houkoku.doc

地層処分研究開発調整会議 ( 第 1 回会合 ) 資料 3-3 包括的技術報告書の作成と今後の技術開発課題 2017 年 5 月 原子力発電環境整備機構 (NUMO) P. 0

地質調査研究報告/Bulletin of the Geological Survey of Japan

Microsoft Word - 9-2›º’–fi¹_‹Àfic’i_.doc

kouhou_honbun_20_35_ pdf

1F 事故を起こした東電に再稼働の資格はない 隠蔽体質の東電に原子力事業は任せられない 津波対策を怠った東京電力の企業体質は全く改善されていない 安全よりも再稼働優先の態度ではこれまでの経験を活かせないのではないか 倫理観のない企業に原発を再稼働する資格はない 東電は安全に対する姿勢がなっていない

<82A082C682E082B731318C8E8D862E696E6464>

Microsoft PowerPoint - 平成23年度ANET取組2

Microsoft Word - 10地震・地質_H _.doc

<4D F736F F D2091E E8FDB C588ECE926E816A2E646F63>

東日本大震災 鳴らされていた警鐘

目 次 1. 想定する巨大地震 強震断層モデルと震度分布... 2 (1) 推計の考え方... 2 (2) 震度分布の推計結果 津波断層モデルと津波高 浸水域等... 8 (1) 推計の考え方... 8 (2) 津波高等の推計結果 時間差を持って地震が

4. 粘土の圧密 4.1 圧密試験 沈下量 問 1 以下の問いに答えよ 1) 図中の括弧内に入る適切な語句を答えよ 2) C v( 圧密係数 ) を 圧密試験の結果から求める方法には 圧密度 U=90% の時間 t 90 から求める ( 5 ) 法と 一次圧密理論曲線を描いて作成される ( 6 )

土木建設技術シンポジウム2002

スライド 1

<4D F736F F F696E74202D AD482C682E882DC82C682DF90E096BE8E9197BF C C C816A2E B93C782DD8EE682E890EA97705D>

<8BFA98488E7391CF906B89FC8F4391A390698C7689E C4816A82C991CE82B782E988D38CA995E58F5782CC8F4997B982C982C282A282C42D332E706466>

H19年度

浜岡準備書面J#2#4!K!!CO_LA[Dj$N__GT

第26号(PDF納品用)/表1・表4・背

<4D F736F F F696E74202D20338E C8CB48E7197CD8A7789EF F7482CC91E589EF A89AB926E906B93C195CABEAFBCAEDD292E707074>

平成28年度年次報告_国立研究開発法人産業技術総合研究所

1 海水 (1) 平成 30 年 2 月の放射性セシウム 海水の放射性セシウム濃度 (Cs )(BqL) 平成 30 年 平成 29 年 4 月 ~ 平成 30 年 1 月 平成 25 ~28 年度 ~0.073 ~ ~0.

Microsoft Word - 図表5.1 doc

別添 表 1 供給力確保に向けた緊急設置電源 ( その 1) 設置場所 定格出力 2 発電開始 2 運転開始 公表日 3 姉崎火力発電所 約 0.6 万 kw (0.14 万 kw 4 台 ) 平成 23 年 4 月 24 日平成 23 年 4 月 27 日 平成 23 年 4 月 15 日 袖ケ浦


(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

スライド 1

スライド 1

平成 19 年 7 月 16 日に発生した新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所への影響についてご説明いたします また, 福島第一 福島第二原子力発電所における地質調査についても合わせてご説明いたします 2007 年 7 月 27 日 1

佐賀県の地震活動概況 (2018 年 12 月 ) ( 1 / 10) 平成 31 年 1 月 15 日佐賀地方気象台 12 月の地震活動概況 12 月に佐賀県内で震度 1 以上を観測した地震は1 回でした (11 月はなし ) 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 図 1 震央分布図 (2018 年 1

図1 本研究の調査地域 評価に関わる研究としても位置付けられる 中田 中央付近では 南南西 北北東に走る東落ちの逆 ほか 1976 は 前述の通り各段丘面の編年なら 断層である七北田断層によって段丘面に変位があ びに変位量から 長町 利府線について0.5mm/ り 粟田, 2010 さらに下流域の岩

<8BA68B6389EF8E9197BF2E786477>

平成19年(ネ)第5721号浜岡原子力発電所運転差止請求控訴事件

6 長谷義隆ほか 表 1. 熊本地域の層序 N 図 1. 位置図えば, 熊本県地質調査業協会,2003 など ). この中で, 層序の構築に重要な情報を与えるのは, 阿蘇カルデラ形成に関わる 4 回の阿蘇 - 1 火砕流堆積物 (Aso - 1) ~ 阿蘇 - 4 火砕流堆積物 (Aso - 4)

地震調査研究の推進について

untitled

資料6 (気象庁提出資料)

DE0087−Ö“ª…v…›

2 1 2

9 箇所名 江戸川区 -1 都道府県東京都 市区町村江戸川区 地区 清新町, 臨海町 2/6 発生面積 中 地形分類 盛土地 液状化発生履歴 近傍では1855 安政江戸地震 1894 東京湾北部地震 1923 大正関東地震の際に履歴あり 土地改変履歴 国道 367 号より北側は昭和 46~5 年 南

平成 5 年 ( 行ウ ) 第 4 号再処理事業指定処分取消請求事件原告大下由宮子外 157 名被告経済産業大臣 青森地方裁判所民事部御中 準備書面 (117) 2012 年 ( 平成 24 年 ) 11 月 30 日 原告ら訴訟代理人 弁護士 浅 石 紘 爾 弁護士内藤隆 弁護士海渡雄一 弁護士伊

横浜市環境科学研究所

Transcription:

柏崎平野周辺の地層の年代について 平成 29 年 4 月 27 日東京電力ホールディングス株式会社

1. 地層の年代評価に関する考え方 2 2. 刈羽テフラに関する東京電力の見解 13 3. 刈羽テフラと藤橋 40の比較 16 4. 地層の年代に関する東京電力の評価の概要 19 5. 藤橋 40の年代に関する考察 29 6. 参考資料 32 7. データ集 38 1

1. 地層の年代評価に関する考え方 2 2. 刈羽テフラに関する東京電力の見解 13 3. 刈羽テフラと藤橋 40の比較 16 4. 地層の年代に関する東京電力の評価の概要 19 5. 藤橋 40の年代に関する考察 29 6. 参考資料 32 7. データ集 38 2

原子力発電所の安全上考慮する断層 (1/2) 日本列島付近のプレートとその動き 北 東 西 東 プレートはマントルの上に浮かぶ層 気象庁 HP より (http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/jishin/about_eq.html) 南 日本列島はプレートの動きによって 東から西に押されており 東北東日本 においては 地盤が東西に圧縮される力が働いています 3

原子力発電所の安全上考慮する断層 (2/2) 活動性のある断層は, 一般的に繰り返し活動し, その活動間隔は短いもので数百年, 長いもので数万年と考えられています 新規制基準では, 断層の活動間隔を考慮して後期更新世以降 ( 約 12~13 万年前以降 ) に活動したものを, 原子力発電所の安全上考慮する断層とされています 福島県より (https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/24737.pdf) 40 30 20 12~13 中期更新世 後期更新世 ( 万年前 ) 0 完新世 この間に活動した断層が評価の対象 40 万年前までさかのぼって評価活動の有無が不明 現世人類 最終氷期 縄文 4

断層の活動時期の調査 1 の堆積以降, 断層の活動はない 3 には断層の変位が及んでいない したがって,3 の堆積以降, 断層の活動はない 3 に断層の変位が及んでいる したがって,3 の堆積以降, 断層が活動した 断層の活動時期は, 断層の上に分布する地層に, 変位や変形が及んでいるかに よって評価します このため, 断層の上の地層の年代が重要な指標となります 5

当社が行った地層の年代評価の方法 地形 地質観察 火山灰分析 微化石分析 ( 花粉 珪藻 ) 段丘や地層の分布を調べる 堆積時期を明らかにする 過去の気候や水環境を明らかにする 地層層序 編年に照らし合わせ, 地層の堆積時期を推定する 地層の年代の評価は, 地層が堆積した環境や海水準変動で形成された段丘の分布, 地層に含まれる火山灰など, 多面的な視点から, 総合的に分析し評価する必要が あります 6

地層の年代評価の方法 ( 広域火山灰による評価 ) 噴火の規模が大きいと, 非常に広い範囲に火山灰が堆積する セント へレンズ山の噴火 Naturalis Historia の HP より (https://thenaturalhistorian.com/2012/05/04/tobatuff-adam-super-volcano-flood-geology/) 広域火山灰分布 ( 町田 新井 (2011), 一部加筆 ) 名称 年代 ( 千年前 ) 鬼界アカホヤ (K-Ah) 7.3 姶良 Tn(AT) 28~30 大山倉吉 (DKP) 55 阿蘇 4(Aso-4) 85~90 鬼界葛原 (K-Tz) 95 御岳第 1 (On-Pm1) 100 三瓶木次 (SK) 105 火山が噴火すると広い範囲に火山灰が降り, 噴火年代は広く研究されています 年代がわかっている火山灰が地層に含まれていれば, その地層の堆積時期を推定する重要な指標となります 7

海水準変動 蒸発による移動 降水により海に戻る 蒸発による移動 雪 氷が陸地にとどまり, 海に戻る量が減る 小元 (2014) の図 8を改編 *: MIS5は,MIS5a, b, c, d, eに細分される MIS5b,d : 低海面期 MIS5a, c, d : 高海面期 小元 (2014) の図 1 を改編 海水準変動は酸素同位体比と地形学的 地質学的証拠から研究されています 最近の 100 万年間でみると, 約 10 万年ごとに温暖期と寒冷期が繰り返されていることがわかっています この海水準の繰り返しを, 新しい順に MIS1 とし, 順番に番号付けされています MIS: 海洋酸素同位体ステージ (Marine Oxygen Isotope Stage) 8

地層の年代評価の方法 ( 段丘面による評価 1) 温暖期は堆積物が堆積する 寒冷期は堆積物が侵食される侵食されず残ると段丘になる 再び温暖期になると堆積物が堆積する 再び寒冷期になると堆積物が侵食される侵食されない部分に新しい段丘が形成される 温暖期には海水面は上昇し, 寒冷期は海水面が下降します この海水面の繰り返しにより, 段丘が形成されます 9

地層の年代評価の方法 ( 段丘面による評価 2) 海水準 MIS5d の侵食 中位段丘面 高位段丘面 高位段丘面 MIS5e の堆積 現代の海水面 MIS6 の侵食 高位段丘面 寒暖過去の海水準変動 MIS7 の堆積 約 10 万年前の温暖期を MIS5, 約 20 万年前の温暖期を MIS7 と呼びます MIS5 の堆積物で構成された面を中位段丘面と呼びます このように, 段丘の高さから, ある程度地層の年代を推測する方法があります 10

地層の年代評価の方法 ( 堆積時期の連続性 : 不整合 ) 海水準 ボーリングコアにおける不整合の例 (Yk-2 孔,31.83m) 堆積 MIS5 の堆積物 現代の海水面 侵食 堆積 不整合 MIS7 の堆積物 不整合 下位のシルトは風化している この風化シルトが侵食され, 砂層が堆積 寒 暖 MIS6 の時期に侵食されず残った MIS7 の堆積物の上に,MIS5 の堆積物が堆積することもあります MIS5 と MIS7 の堆積物の間には, 数万年もの時代間隙があるので, その境界で様相の違う堆積物が観察されることがあります このように, 重なり合う堆積物間の堆積時期の不連続を不整合と呼びます 11

地層の年代評価の方法 ( 堆積時期の連続性 : 花粉分析 ) 海水準 気候の寒暖によって植生が変化する 現代の海水面 谷村ほか (2012) 寒 暖 コナラ属の微化石 トウヒ属の微化石 花粉を深度方向に連続的に分析することで, その地層が堆積した時期の気候の変化をおおよそ推定できます また, 大きな時代間隙があると植生が変わる可能性があるため, 堆積物が連続的に堆積したかどうかの手がかりになります 12

1. 地層の年代評価に関する考え方 2 2. 刈羽テフラに関する東京電力の見解 13 3. 刈羽テフラと藤橋 40の比較 16 4. 地層の年代に関する東京電力の評価の概要 19 5. 藤橋 40の年代に関する考察 29 6. 参考資料 32 7. データ集 38 13

刈羽テフラに関する東京電力の見解 (1) 柏崎刈羽原発活断層問題研究会は,1 藤橋で確認された藤橋 40 は当社が評価した刈羽テフラと同じ火山灰である,2 藤橋 40 は中位段丘面の下に堆積していることから 13 万年前の火山灰であるとしています 当社は, 藤橋 40 の試料の提供を受け, 火山灰の主成分分析を行い, 刈羽テフラと藤橋 40 が同じ火山灰であることを確認しました (P.16~18 参照 ) ただし, その年代については, 広域火山灰との比較, 地層の層位関係, 微化石の分析など様々な角度から多面的な分析を行った結果から, 刈羽テフラは約 20 万年前の火山灰と評価しています (P.19~28 参照 ) また, 刈羽テフラが藤橋 40 と同じ火山灰と考えても, 当社の評価は矛盾なく説明することができ, これまでの評価がかわることはありません (P.29~31 参照 ) 14

刈羽テフラに関する東京電力の見解 (2) 年代 MIS 東京電力の評価 柏崎刈羽原発活断層問題研究会の評価 5e 中子軽石層約 13 万年前 NG 大湊砂層 安田層下部層 安田層上部層 藤橋 40 安田層上部層 安田層下部層 約 13 万年前と評価 6 7 8 刈羽テフラ約 20 万年前 阿多鳥浜テフラ約 24 万年前 y-1 Ata-Th 古安田層 ( 仮称 ) 不整合時代間隙 刈羽テフラ 不整合時代間隙 9 10 加久藤テフラ約 34 万年前 Kkt 古安田層 ( 仮称 ) 複数の広域火山灰との比較 地質観察, 微化石分析など 刈羽テフラと藤橋 40 は同じ火山灰であるが, その年代の評価が異なる 当社は広域火山灰との直接比較や複数の火山灰の上下関係, 地層の堆積の様子, 微化石分析などから多面的な分析を行い, 刈羽テフラを約 20 万年前の火山灰と評価しています 15

1. 地層の年代評価に関する考え方 2 2. 刈羽テフラに関する東京電力の見解 13 3. 刈羽テフラと藤橋 40の比較 16 4. 地層の年代に関する東京電力の評価の概要 19 5. 藤橋 40の年代に関する考察 29 6. 参考資料 32 7. データ集 38 16

刈羽テフラ (y-1), 藤橋 40(F40) 及び G10 の比較 火山灰採取位置 藤橋 40(F40) G10 採取位置 (Matsu ura et al.(2014) ) 刈羽テフラ 藤橋 40 試料採取位置 藤橋 40の試料は, 新潟大学名誉教授立石氏より提供を受けた 刈羽テフラは, 発電所敷地内やその周辺において複数の場所で確認されます 刈羽テフラは, 下北半島沖の火山灰に関する研究で確認されているG10と主成分が同じであることから, これらの火山灰は同じものであると考えられます 17

刈羽テフラ (y-1), 藤橋 40(F40) 及び G10 の比較 主成分組成の比較 凡例 刈羽テフラ (y-1) 北 2-3( 標高 25.99m) 藤橋 40(F40) G10 刈羽テフラ, 藤橋 40 及び G10 テフラの主成分組成の比較 火山灰の主成分分析によると, 藤橋 40(F40) は刈羽テフラ (y-1) と G10 に一致します このことから, 刈羽テフラ, 藤橋 40,G10 は同じ火山灰と考えられます 一方,G10 テフラは, その上下に存在する火山灰の年代から, 約 20~23 万年前の火山灰と評価できます (P.23,24,25 参照 ) 18

1. 地層の年代評価に関する考え方 2 2. 刈羽テフラに関する東京電力の見解 13 3. 刈羽テフラと藤橋 40の比較 16 4. 地層の年代に関する東京電力の評価の概要 19 5. 藤橋 40の年代に関する考察 29 6. 参考資料 32 7. データ集 38 19

調査概要 発電所敷地 発電所北側 刈羽テフラ(y-1) 藤橋40(F40) 発電所 阿多鳥浜テフラ(Ata-Th) 加久藤テフラ(Kkt) 調査数量 調査項目 ボーリング調査 0m 500m 調査数量 敷地内 約950孔 延長約78,500m 敷地外 約80孔 延長約6,000m 1000m 敷地の地質調査位置図 火山灰分析 横山地点 藤橋地点 花粉分析 珪藻化石分析 約130試料 約1,300試料 約500試料 柏崎平野及びその周辺の調査位置図 地層の年代評価にあたっては 地質観察のほか 多数のボーリング調査 火山灰分析 花粉 分析 珪藻化石分析を行い 多面的な視点から総合的に検討を行いました 20

火山灰評価の例 阿多鳥浜テフラ 町田ほか (2003) 阿多鳥浜テフラ ( 約 24 万年前 ) の分布 敷地で確認された火山灰 ( 阿多鳥浜テフラ : 標高 -11.27m) 主成分分析の例 火山灰の分析については, 既往の研究でわかっている火山灰の成分と比較を行い, 火山灰の同定を行いました 敷地周辺で確認できる火山灰として, 中子軽石層, 刈羽テフラ, 阿多鳥浜テフラ, 加久藤テフラがそれぞれ広域火山灰と一致することを確認しました 21

花粉分析結果の例 刈羽テフラ (y-1) 約 20 万年前 MIS7 温暖期 試料採取位置 阿多鳥浜テフラ及び刈羽テフラが確認された範囲は, 植生に大きな変化がなく, 暖かい地域の植物花粉が連続して確認される一連の温暖期に対応するため, どちらも同じMIS7に降灰したことが推定されます 阿多鳥浜テフラ約 24 万年前 MIS8 寒冷期 北 2-3 孔の花粉分析結果 22

古安田層の年代に関する評価 ( 刈羽テフラの分布 ) 調査結果 5 号機造成法面 北 2-3 刈羽テフラ (y-1) ( 標高 25.99m) 藤橋地点 試料採取位置 刈羽テフラは発電所敷地内やその周辺において複数の場所で確認されます また, 今回の分析で刈羽テフラと藤橋 40が一致していることが確認されました 23

古安田層の年代に関する評価 ( 刈羽テフラの年代評価 ) G10 との比較 3.2 万年前 4.2-4.4 万年前 8.7 万年前 10.6 万年前 地球深部探査船 ちきゅう による下北東方沖のC9001C 孔における調査から, 複数の火山灰 (G1~G16) が確認されています 火山ガラスの主成分分析によると, 刈羽テフラや藤橋 40は, そのうちのG10と一致しています G10は上下に年代が既知の火山灰が複数確認されており, その火山灰との関係から約 20~23 万年前の火山灰と評価できます (Matsu ura et al.2014) 22 万年前 32 万年前 火山ガラスの主成分分析結果 刈羽テフラ (y-1) および藤橋 40 は,G10 と一致しています 24

古安田層の年代に関する評価 ( 刈羽テフラの年代評価 ) G10 の年代検討 ここでは, 時間と深度の指標として, 保守的に F.O.E.huxleyi を採用 凡例 年代が既知の火山灰 凡例 (G2) (G1) 年代が既知の火山灰 + 年代が既知の微化石 Matsu ura et al. (2014) に基づく刈羽テフラ (y-1) の年代 ( テフラの深度および年代は Matsu ura et al., 2014 による ) 堂満ほか (2010) に基づく刈羽テフラ (y-1) の年代 ( テフラの深度および年代は Matsu ura et al., 2014,F.O. E. huxleyi の深度および年代は堂満ほか, 2010 による ) 深い海の地層の堆積速度はほぼ一定であり, 深い地層ほど堆積年代が古い地層が堆積しています 堆積年代が既知の火山灰や微化石から外挿することで,G10 は約 20~23 万年前に堆積した火山灰であると評価できます 刈羽テフラと阿多鳥浜テフラ ( 約 24 万年前 ) の関係も踏まえ, 刈羽テフラの堆積年代は約 20 万年前として評価しました 25

当社評価のまとめ 年代 MIS 5e 6 7 8 9 10 中子軽石層約 13 万年前 刈羽テフラ約 20 万年前 阿多鳥浜テフラ約 24 万年前 加久藤テフラ約 34 万年前 大湊砂層 NG y-1 Ata-Th 広域火山灰との比較 地質層序 ( 古い順番に地層を並べたもの ) Kkt MIS5e の段丘面 安田層下部層 古安田層 ( 仮称 ) 古安田層 ( 仮称 ) 安田層上部層 連続して堆積 不整合 不整合 時代間隙 時代間隙 地質観察 ( ボーリングや露頭 ) 微化石分析 地層の年代評価にあたって詳細な地質調査を行いました 地層の中に挟まっている複数の火山灰を広域火山灰と比較し, その年代を特定しました 刈羽テフラについても, 広域火山灰との比較などから, 約 20 万年前のものと評価しました この年代は同一の地層に分布する約 24 万年前の阿多鳥浜テフラの上位に刈羽テフラが分布することや, さらにその上位に 13 万年前の火山灰を含む大湊砂層が分布することとも整合します 従って, 古安田層は約 30 数万年前から 20 万年前に堆積した中期更新世の堆積物と評価できます 26

当社評価のまとめ ( 地層の堆積のイメージ 1) ( 約 24-19 万年前 ) MIS6 の海退に伴い MIS7 の段丘面が形成 この時, 侵食に伴い刈羽テフラが失われる箇所もある MIS7 堆積期の終了 NG MIS7 堆積中に刈羽テフラが降灰 寒暖過去の海水準変動 MIS7 初期に阿多鳥浜テフラが降灰 27

当社評価のまとめ ( 地層の堆積のイメージ 2) ( 約 24-19 万年前 ) ( 約 13-12 万年前 ) MIS5d の海退に伴い, 中位段丘面が形成 ( 約 24-19 万年前 ) NG MIS5e の堆積期の終了 寒暖過去の海水準変動 MIS5e の海進に伴い谷を埋める その後, 中子軽石層が降灰 28

1. 地層の年代評価に関する考え方 2 2. 刈羽テフラに関する東京電力の見解 13 3. 刈羽テフラと藤橋 40の比較 16 4. 地層の年代に関する東京電力の評価の概要 19 5. 藤橋 40の年代に関する考察 29 6. 参考資料 32 7. データ集 38 29

中位段丘面下の地層 侵食のされ方によって MIS7 の堆積物が残ることがある 中位段丘面が分布する地域から試料を採取しても, その年代が段丘の形成年代と同じとは限りません 不整合 鶴見層 (MIS7) 下末吉層 (MIS5e) 中位段丘面の下には MIS7 の堆積物の侵食のされ方によって,MIS7 の堆積物が残ることがあり, ここから試料を採取した場合, その年代は MIS7 となります 約 20 万年前の火山灰 菊池 関東第四紀研究会 (1996): 横浜北部における下末吉層 - 酸素同位体ステージ 5e の海進堆積物. 第四紀露頭集 - 日本のテフラ,203-203 関東地方の代表的な中位段丘面を形成する下末吉層 (MIS5e) 下にも MIS7 の堆積物が確認されている場所があります 30

藤橋地点と横山地点の関係 横山地点に相当 藤橋地点に相当 刈羽テフラなし 横山地点 12-13 万年以降の地層 不整合 MIS5e MIS7 刈羽テフラあり 20 万年以前の地層 藤橋地点 北 2 測線で認められた MIS7 堆積物の侵食の様子侵食された場所には刈羽テフラは認められない 北 2 測線では, 中位段丘面の下にMIS7の地層が堆積していることを確認しています この調査結果を藤橋地点付近にあてはめると, 刈羽テフラ ( 藤橋 40) が確認される藤橋地点は, 北 2-1に, 刈羽テフラの確認されない横山地点は北 2-2に対応すると考えられ, 全てが矛盾無く説明することができます 31

1. 地層の年代評価に関する考え方 2 2. 刈羽テフラに関する東京電力の見解 13 3. 刈羽テフラと藤橋 40の比較 16 4. 地層の年代に関する東京電力の評価の概要 19 5. 藤橋 40の年代に関する考察 29 6. 参考資料 32 7. データ集 38 32

加久藤テフラ 加久藤テフラ 町田ほか (2003) 加久藤テフラ ( 約 33 万 34 万年前 ) の分布 敷地で確認された火山灰 ( 加久藤テフラ : 標高 -30.2m) 主成分分析の例 九州で噴火した火山のテフラが日本各地で見つかっています 敷地内で見つかった加久藤テフラ (+) は既往の分析 ( ) と一致しています 33

古安田層の年代に関する評価 ( 中子軽石層の年代評価 ) 中子軽石層確認地点 柏崎平野及びその周辺の段丘分布図 調査位置図 ( 岸 宮脇.1996) 古安田層を不整合に覆う大湊砂層には, 中子軽石層が挟在することが岸ほか (1996) により報告されています 34

古安田層の年代に関する評価 ( 中子軽石層の年代評価 ) x x 飯縄上樽 c テフラの分布 鈴木 (2001) Loc. No1( 五日市地点 : 岸 宮脇 (1996) による露頭番号 46),Loc. No2( 長崎地点 : 岸 宮脇 (1996) による露頭番号 53), 北 2 8 孔および G-7 孔で見つかった中子軽石 層は, 飯縄上樽 c テフラ (Iz-KTc) と一致しています : 鈴木 (2001) の飯縄上樽テフラ群の標識ほか ( 長野県信濃町高山の Loc.No1) の飯縄上樽 c テフラ (Iz-KTc の分析値 ) 主成分分析の例 35

古安田層の年代に関する評価 ( 中子軽石層の年代評価 ) 年代が既知の火山灰 柱状図作成位置 鈴木 (2001) に追記 青木ほか (2008) は, 飯縄上樽テフラ群のうち最上部の飯縄上樽 aテフラの上位に分布する田頭テフラ (TG) の年代を 129±3kaとしている レスクロノメトリーに基づき飯縄上樽 a テフラ ( 飯縄上樽 c テフラのやや上位 ) の年代を外挿した結果, 約 13.3 万の値が得られたことから, 飯縄上樽 c テフラ の年代も同程度と考えられる 36

敷地近傍で確認された不整合関係について 発電所 発電所北側 発電所北側 発電所 番神砂層 横山 刈羽テフラ (y-1) ( 約 20 万年前 ) 大湊砂層 横山 安田層上部層 Yk-2 孔 北 2-2 孔 安田層下部層 古安田層 (MIS7) 安田層下部層 Iz-KTc(NG) 阿多鳥浜テフラ (Ata-Th) ( 約 24 万年前 ) 刈羽テフラ (y-1) 不整合関係 Ata-Th 加久藤テフラ (Kkt) ( 約 33~34 万年前 ) 古安田層 (MIS9) 不整合関係 Kkt 柱状対比図 発電所北側では, 刈羽テフラ (y-1) は MIS5e の堆積物中には含まれず,MIS7 の堆積物中に含まれることを確認しています 横山地点でも, 刈羽テフラ (y-1) は MIS5e の堆積物中には確認されません 37

1. 地層の年代評価に関する考え方 2 2. 刈羽テフラに関する東京電力の見解 13 3. 刈羽テフラと藤橋 40の比較 16 4. 地層の年代に関する東京電力の評価の概要 19 5. 藤橋 40の年代に関する考察 29 6. 参考資料 32 7. データ集 38 38

主成分分析結果 ( 阿多鳥浜テフラ 加久藤テフラ ) 主成分組成の比較 火山ガラスの主成分分析結果 39

化学分析結果 ( 中子軽石層 ) 分析結果 Loc. No1( 五日市地点 : 岸 宮脇 (1996) による露頭番号 46) 及び Loc. No2( 長崎地点 : 岸 宮脇 (1996) による露頭番号 53) に中子軽石層が確認され, 同層はカミングトン閃石のMg# と陽イオンとの比より, 飯縄上樽 cテフラ (Iz-KTc) と一致しています : 鈴木 (2001) の飯縄上樽テフラ群の標識ほか ( 長野県信濃町高山のLoc.No1) の飯縄上樽 cテフラ (Iz-KTcの分析値) Loc.No1 及びLoc.No2の中子軽石層に含まれるカミングトン閃石の化学分析結果 40