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連続講座 画像再構成 : 臨床医のための解説第 1 回 : 篠原 画像再構成 : 臨床医のための解説第 1 回 MRI における折り返しアーチファクトの発生機序と対策 篠原 広行 1) 小島慎也 2) 橋本雄幸 3) 2) 上野恵子 2) 1) 首都大学東京東京女子医科大学東医療センター放射線科 3) 横浜創英大学こども教育学部 はじめに M R I では折り返しアーチファクトやモーションア ーチファクト 磁化率アーチファクト ケミカルシフト アーチファクトなど様々なアーチファクトにより画像 が劣化する そのため 良好な MR 画像を得るには これらのアーチファクトを理解し適切に抑制するこ とが肝要である 本稿では折り返しアーチファクト の発生機序 1-6) を解説し その対策をいくつか紹介 する 1.M R I における折り返しアーチファクト M R I における折り返しアーチファクトは F OV (Field of view; 撮像視野 ) の外側にある対象物が の内側に映り込む現象である その際 折り 返しアーチファクトはに出現す る 図 1(a) は実際の腹部撮像時の 設定画 面である 図中の黄色の四角が設定された 矢印がを表す この場合 の外側に両腕が存在する為 図 1(b) のように撮像された画像では F O V の内側に両腕 ( 矢印 ) が映り込んでいる この現象が M R I における折り返しアーチファクトである 2. 折り返しアーチファクトの発生機序図 2(a) に折り返しアーチファクトの発生機序を示す M R I では位相エンコードとして F OV の端から端までに 0 から 3 6 0 の位相を割り振る その際 の外側の対象物は 0 以下もしくは 360 以上の位相となる しかし 画像再構成する際 0 から 360 までの位相のみしか認識できない 図 2(a) では右腕 ( 赤矢印 ) は- 45 左腕 ( 緑矢印 ) は 405 程度の位相に相当するが この場合 右腕は約 315 (- 45 +360 ) 左腕は約 45 (405-360 ) の位相と誤認される したがって 撮像された画像で (a) (b) 図 1.MR I における折り返しアーチファクト (a) の設定と ( b) 撮像画像 2014 年 4 月 9-(9)

連続講座 画像再構成 : 臨床医のための解説第 1 回 : 篠原 は図 2(b) に示すように 左右両腕は誤認された位置に描出され 画像の右側に左腕が 左側に右腕が折り返しアーチファクトとして映し出される この現象は 四肢などの撮像の際は左右について特に気を付ける必要がある 3. 折り返しアーチファクトの対策 MR I において 折り返しアーチファクトを適切に抑制することは大変重要である その対策法は幾つかあるが ここでは 1) を入れ換える方法 2)F OV を大きくする方法 3) サチュレーションパルスを利用する方法 4) フェイズオーバーサンプリングを利用する方法についてその利点や欠点などを紹介する 1) を入れ換える方法を入れ換える方法は 最も簡単に折り返しアーチファクトを抑制することができる 図 3(a) のようにを左右方向 から前後方向へ変更するだけで 図 3(b) のように両腕からの折り返しアーチファクトを抑制できる この方法は撮像時間の延長を伴わず 画像の描出能の指標である空間分解能も低下しないなどの利点がある 欠点としては モーションアーチファクトやケミカルシフトアーチファクトの出現方向も変化するので 注意が必要である また を入れ換えてもその方向の F OV の外側に対象物がある場合は効果がない 2) を大きくする方法 を大きくする方法も簡単に折り返しアーチファクトを抑制することができる 図 4は図 1 よりも を大きく設定した場合を示す この場合 図 4(b) のように左右の両腕上にそれぞれ折り返しアーチファクトが見られ ( 矢印 ) 完全に抑制されていないが 体幹部上では抑制されている を大きくする方法は撮像時間の延長も伴わず SNR(Signal-to-noise ratio; 信号雑 (a) (b) 右腕 左腕 左腕 右腕 位相 90 0 90 180 270 360 450 図 2. 折り返しアーチファクトの発生機序 (a) と位相エンコード ( b) 撮像画像 (a) (b) 方向ード方エンコー相エ位相 図 3. を入れ換える方法 (a) の ( b) 撮像画像 10-(10) 断層映像研究会雑誌第 41 巻第 1 号

連続講座 画像再構成 臨床医のための解説 第 1 回 篠原 音比 も向上する利点もある しかし を大きく を加える領域であり この領域からの MR 信号は抑 すると空間分解能の低下を招く したがって 折り 制される この場合 両腕からの MR 信号が折り返 返しアーチファクトの対策として を大きく しアーチファクトとなるため 両腕部分にサチュレー する場合 その増加量は必要最小限とし 空間分解 ションパルスを加え 左右両腕の信号を抑制する 能を担保したい場合は撮像マトリクス数を増やすな 図 5 b のように図 1 b よりも折り返しアーチファ どの対応が必要である クトが抑制されているが 折り返しアーチファクトが 多少確認され 矢印 その抑制効果は完全ではない 3 サチュレーションパルスを利用する方法 7 この方法は簡便であり空間分解能が低下しないな サチュレーションパルス 前飽和パルス とは MR どの利点はあるが 折り返しアーチファクトの抑制 信号を飽和させるパルスの総称である 図 5 a に 効果は低い また サチュレーションパルスを加える おいて黄色い網掛け部分がサチュレーションパルス 図 大きなによる方法 図4. 大きな による方法 分だけ撮像時間が若干延長する a b 図 図5. サチ サチュレーションパルスを利用した方法 シによる方法 パ を利用した方法 図 4 大きな (a) 大きなの設定 a 大きな の設定 b 撮像画像 (b) 撮像画像 a b 位相 ン ド方向 図 図6. フェイズオーバーサンプリングを利用した方法 イズオションパルスの設定 バ サ プリ グを利用した方法 図(a) 5 サチュレーションパルス 前飽和パルス を利用した方法 サチュレーションパルスの設定 サチュレ (b) 撮像画像 a サチュレーションパルスの設定 b 撮像画像 a b 位相 ン ド方向 図 6 フ ェイズオーバーサンプリ ング 位相過剰サンプリ を利用した方法 (a) フェイズオーバーサンプリングの設定 フェイズオ バ サンプリングの設定 (b) ング 撮像画像 a フェイズオーバーサンプリングの設定 b 撮像画像 2014 年 4 月 11 11

連続講座 画像再構成 : 臨床医のための解説第 1 回 : 篠原 7) 4) フェイズオーバーサンプリングを利用する方法 フェイズオーバーサンプリング (Phase over sampling:p O S) については後に解説する 図 6(a) はフェイズオーバーサンプリング ( 位相過剰サンプリ ング ) の設定画面を示し 黄色い部分がフェイズオ ーバーサンプリングに相当する領域である この場 合 図 6(b) のように折り返しアーチファクトを抑制 することができる 次に フェイズオーバーサンプリ ングの概要を図 7 に示す 仮に位相エンコード数を 8 とした場合 ( 実際の MRI では 256 などを使用する ) フェイズオーバーサンプリングが 0% とするとサンプ リングするのデータ数は 8 個の ままである フェイズオーバーサンプリングを 50% とするとサンプリングするデータ数が 4 個 (8 の 50%) 増えて 12 個となり 100% とすると 16 個とな る すなわち フェイズオーバーサンプリングとはサンプリングするのデータを増やすことを意味する この際 重要なことはただ単にデータ数を増やすのではなく サンプリングする間隔を短くし密にサンプリングすることである 図 8を用いてサンプリング間隔と折り返しアーチファクトの関係について解説する まず シンク関数を離散フーリエ変換すると 複数の矩形関数となる 図 8(a) のようにサンプリング間隔を密とした場合 ( 図中の赤い点がサンプリングポイントを表す ) 離散フーリエ変換後の矩形関数の出現間隔は広い この際 サンプリング間隔を長くすると 徐々に矩形関数の出現間隔が狭くなる 図 8(b) のようにサンプリング間隔を疎とすると 離散フーリエ変換後の矩形関数が重なり合ってしまい この重なりが折り返しアーチ 位相相エンココーード方方向 POS = 0% 位相エンコード数 = 8 POS = 50% 位相エンコード数 = 12 POS = 100% 位相エンコード数 = 16 図 7. 位相オーバーサンプリングの概略 (a) シンク関数 矩形関数 離散フーリエ変換 (b) time (a) () サンプリング間隔が短い ( 密 ) の場合 離散フーリエ変換 frequency 折り返し time (b) () サンプリング間隔が長い ( 疎 ) の場合 frequency 図 8. サンプリング間隔と折り返しアーチファクト (a) サンプリング間隔が短い ( 密 ) の場合 ( b) サンプリング間隔が長い ( 疎 ) の場合 12-(12) 断層映像研究会雑誌第 41 巻第 1 号

連続講座 画像再構成 : 臨床医のための解説第 1 回 : 篠原 ファクトとなる MRI ではサンプリングしたデータを離散フーリエ変換し画像再構成を行う したがって サンプリングしたデータが疎である場合 折り返しアーチファクトの原因となる 図 9は自作ファントムの画像である 図 9(a) のように F OV とを設定すると 撮像画像は図 9(b) のように折り返しアーチファクトが見られる 図 9(c) は設定した の外側を含む撮像画像である この画像から に撮像対象物が周期的に出現し 重なっている部分が折り返しアーチファクトとなっていることがわかる 図 10 にフェイズオーバーサンプリングを増やした場合の の外側を含む撮像画像を示す フェイズオーバーサンプリングの増加に伴い 撮像対象物の出現間隔が広くなり 50% 以上では対象物の重なり合いが無くなっている このように フェイズオーバーサンプリングはサンプリングするデータ量を増やし密にサンプリングすることで 撮像対象物の出現間隔を広くし折り返しアーチファクトを抑制す る この方法の利点の一つとして空間分解能が低下しないことが挙げられる 図 7においてフェイズオーバーサンプリングが増えるとデータ数が増え サンプリング間隔が密となり 空間分解能が向上するかのようにも捉えられるが 空間分解能はそのままである 図 11 にフェイズオーバーサンプリングと空間分解能の関係について示す 仮にサンプリング数 ( 赤い点がサンプリングポイント ) を 16 とすると 空間分解能を 2 倍とした場合とフェイズオーバーサンプリングを 10 0% とした場合では 両方ともサンプリング数は 32 となる この際 空間分解能を倍にすると より高周波数領域のデータをサンプリングする 高周波数領域のデータは再構成画像のより細部の描出に寄与し その結果 空間分解能が向上する 一方 フェイズオーバーサンプリングを 100% とすると サンプリングするデータ数は増えるが高周波数領域のデータをサンプリングしないため 空間分解能も変化しない この方法のその他の利点として サンプリングするデータ数が増えるため SNR が (a) (b) (c) (a) 位相相エンココーード方方向 図 9. 折り返しアーチファクトの出現の様子 (a) の設定 ( b) 撮像画像画素数 :128 128 (c) の外側を含む画像画素数 :256 256 (a) (b) (c) (d) 図 10. フェイズオーバーサンプリングと折り返しアーチファクト (a)pos = 0% 画素数 :256 256 ( b)pos = 25% 画素数 :256 256 (c)pos = 50% 画素数 :256 256 ( d)pos = 75% 画素数 :256 256 2014 年 4 月 13-(13)

連続講座 画像再構成 : 臨床医のための解説第 1 回 : 篠原 向上する 折り返しアーチファクトの抑制効果が高いなどが挙げられる 欠点はサンプリングデータが増える分 撮像時間が延長する その為 フェイズオーバーサンプリングを使用する際は最適なフェイズオーバーサンプリングを使用することが重要である おわりに本稿では M R I における折り返しアーチファクトの発生機序を解説し その対策をいくつか紹介した これらの対処法は一長一短があり 一つの方法にて折り返しアーチファクトを完全に抑制することは困難である したがって 検査毎にこれらの方法を組み合わせて より効率的かつ効果的に折り返しアーチファクトを抑制することが肝要である サンプリング数 = 16 70 50 30 10 10 30 50 70 0.4 空間分解能を 2 倍に変更 POS を 100% に変更 サンプリング数 = 32 サンプリング数 = 32 70 50 30 10 10 30 50 70 70 50 30 10 10 30 50 70 低周波領域低周波領域 0.4 0.4 図 11. フェイズオーバーサンプリングと空間分解能 参考文献 1. レイ.H. ハシェミ ( 荒木力監訳 ):MRI の基本パワーテキスト第 2 版. メディカルサイエンスインターナショナル.2004: 193-197. 2. 荒木力 :MRI 再 入門臨床からみた基本原理. 南江堂,1999: 270-273. 3. 日本磁気共鳴医学会教育委員会編 :MRI レクチャー基礎から学ぶ MRI.2001: 124-129. 4. 笠井俊文, 土井司編 :MR 撮像技術学改訂 2 版. オーム社,2008: 160-164. 5. 篠原広行, 橋本雄幸 :MRI 画像再構成の基礎. 医療科学社,2007: 113-116. 6. 森一生, 山形仁, 町田好男編 :CTと MRI -その原理と装置技術-. コロナ社, 2010: 193-195. 7. Kojima S, Morita S, Ueno E, Hirata M, Shinohara H, Komori A : Aliasing Artifacts With the BLADE Technique: Causes and Effective Suppression. J Magn Reson Imag 33:432 440, 2011 14-(14) 断層映像研究会雑誌第 41 巻第 1 号