指紋認証のマニューシャ抽出について 澤見研究室 I02I036 兼信雄一 I02I093 柳楽和信 I02I142 吉田寛孝 1. はじめに近年, キャッシュカードや暗証番号が盗用され, 現金が引き出されるような事件が相次いでいる. これらの対向策として人間の体の一部を認証の鍵として利用する生体認証に注目が集まっている. そこで我々は, 生体認証で最も歴史がある指紋認証技術に着目した. 指紋認証方式は,2 枚の指紋画像を重ね合わせて類似度を算出するパターン マッチング方式や指紋のマニューシャ ( 端点や分岐点 ) と相対的な位置関係によって照合を行うマニューシャ方式, そして指紋のラインごとにスライスした波形をスペクトル系列として解析を行う周波数解析方式などがある. 本研究では, 最も多くのベンダーが採用しているマニューシャ方式を取り上げ, 前処理となるマニューシャを抽出する実験を行ったので報告する. 3. マニューシャ抽出を行う処理過程マニューシャ抽出を行うために以下の処理過程を行う ( 図 2 参照 ). 図 2: マニューシャ抽出の実験過程 2. マニューシャについてマニューシャとは, 指紋の線の切れ目を示す端点, あるいは分かれ目である分岐点である ( 図 1 参照 ). これらを検出する処理がマニューシャ抽出処理である. 図 1: 指紋のマニューシャ 4. ノイズ除去処理一般に入力された指紋画像には, 濃度むらや途切れ等のノイズ成分を含んでいるので, 画質を向上させるために行う. 一般的にノイズ除去には, 以下のように平滑化処理や画像強調などの処理を用いる. 平滑化処理高周波成分を取り除くフィルタ処理である. 平滑化されノイズが目立たなくなるが, 先鋭度が失われてしまう. そのようなフィルタはローパスフィルタと呼ばれる. 画像強調低周波成分を取り除くフィルタ処理である. エッジ強調や輪郭線の検出に用いる. そのようなフィルタはハイパスフィルタと呼ばれる. B4-7
5.2 値化処理画像の濃淡をなくし, 白黒等の画像にする. これにより画像の持つ情報量が減るので, 後の処理が容易になる.2 値化する際には, ある濃度値 しきい値 を用いる. しきい値を決定する方法は, 以下に記すようにいくつか提案されている. 5.1. 固定しきい値処理ある濃度値をしきい値 tとして, 全ての画像領 域でそのしきい値を用いて処理する ( 式 1 参照 ). g [ i j] ( f [ i, j] t) ( f [ i, j] < t) 1, = ( 式 1) 0 5.2. 自動しきい値処理すべての画像領域でそのしきい値を用いて処理するが, しきい値は画像の濃度分布を基に決定する. 方法としてモード法や P-タイル法, 微分ヒストグラム法などがある. 5.3. 可変しきい値処理可変しきい値は, 画像を小領域に分割し, その領域ごとにしきい値を決定し処理する. とくに指紋などの特有の画像には, 小領域ごとの濃度分布の平均をしきい値とした局所 2 値化法やさらに発展させた内分比 2 値化法というものが考案されている. 例としてそれぞれの方法を示す. 5.3.1. 局所 2 値化法画像を小領域に分けその小領域ごとに濃淡の平均を求め, それをしきい値とする. 例えば表 1 を小領域に分けると表 2 のようになる. 表 1:3 6 の画素成分 表 2: 小領域に分けた画素成分しきい値は, この例では左は 98.56, 右は 65.67 となり, 表 3 のように 2 値化される. 表 3: 平均値より 2 値化した場合 5.3.2. 内分比 2 値化法局所 2 値化法で求めた, 平均より濃いピクセル, 薄いピクセルに分け, 薄いピクセルの集合に対し再び濃度の平均を求める. そして局所 2 値化法で用いる平均値と薄いピクセルの集合で求めた平均値が n:m になる濃度を新たなしきい値とする. 表 2 より表 4 のように分けられる. 42 54 15 44 23 32 59 77 82 8 64 表 4: 平均値より小さい画素薄いピクセルの集合での平均は, 左では 57.4, 右では 35.5 になる. これを局所 2 値化法で求めた平均値である 98.56 と 65.67 を例えば 3:2 に分けると,73.9 と 47.6 となるので表 5 のように 2 値化される. 表 5: 内分比による 2 値化をした場合 6. 細線化処理 2 値画像中に含まれる各々の連結図形に対し, 線幅を 1 ピクセルにする処理である. このとき, 連結性を保つことや中心線が歪まない等の注意が必要である. 7. マニューシャ抽出処理マニューシャの形状は, ピクセル単位で考察すると端点と分岐点について非常に単純ないくつかのパターンにまとめることが出来る ( 図 3 参照 ). これらのパターンを細線化された画像中を垂直および水平にスキャンすることでマニューシャ B4-8
候補を検出する ( 図 4 参照 ). 図 3: マニューシャのパターン 図 5: ノイズ除去画像 図 4: パターンのマッチング 8. 実験 8.1. 実験方法と結果用意した指紋画像から濃度むらや途切れ, さらに汗腺部分等のノイズ成分を除去する処理を行った ( 図 5). ここでは, 高周波成分を取り除くローパスフィルタのメディアン法を用いた. 次に 2 値化処理では, 固定しきい値法, 局所 2 値化法, 内分比 2 値化法を用いて行った ( 図 6,7,8). 次にマニューシャを検出できるように, 細線化処理を行った ( 図 9,10,11). 最後に, マニューシャのパターンから領域指定内でのマッチングを行い, 抽出処理を行った ( 図 12,13,14). 図 6:2 値化 ( 固定 ) 処理結果 図 7:2 値化 ( 局所 ) 処理結果 図 4: 元画像 B4-9
図 8:2 値化 ( 内分比 ) 処理結果 図 11: 細線化 ( 内分比 ) 処理結果 図 9: 細線化 ( 固定 ) 処理結果 図 12: マニューシャ ( 固定 ) 抽出結果 図 10: 細線化 ( 局所 ) 処理結果 図 13: マニューシャ ( 局所 ) 抽出結果 B4-10
図 14: マニューシャ ( 内分比 ) 抽出結果 8.2. 検証結果より以下の検証方法を用いて評価を行う. 擬似マニューシャ判別方法元画像から目視によるマニューシャの数を調べ, それぞれ処理結果から擬似マニューシャの判定を行う. 評価目視によるマニューシャの数と検出されたマニューシャの数を以下の表 6,7,8 に示す. 内分比での 2 値化法が擬似マニューシャの検出が少ないことから最も精度が高いことが言える. 端点分岐点合計 3 14 17 表 6: 目視によるマニューシャの数決定法端点分岐点合計固定 121 26 147 局所 34 18 52 内分比 11 24 35 表 7: 検出されたマニューシャの数 9. 今後の課題今回行った実験から以下の課題が挙げられる. ノイズの完全な除去差分によるノイズ除去を行ってみる. 汗腺やシワによって生じる亀裂部分を画像補償によって除去する. 擬似マニューシャの除去擬似マニューシャが出た際それを削除するプログラムを作成する. 指紋テンプレートとの指紋照合他人受入率や本人拒否率などを利用した精度の比較を行う. 参考文献 [1] 田村秀行著 コンピュータ画像処理 オーム社 (2002) [2] 伊東敏夫著 VB.NET で学ぶ画像処理アルゴリズム 広文社 (2002) [3] 田村秀行著 コンピュータ画像処理 : 応用実践編 3 総研出版 (1992) [4] 指紋 / 顔パターン認識アルゴリズム http://www.cqpub.co.jp/interface/sample/2005 03/if0503_chap2.pdf [5] 特徴抽出技術 http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyouju n_gijutsu/biometric/1-2-1.pdf#1 [6] 特徴抽出 http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyouju n_gijutsu/biometric/1-2-2.pdf#1 [7] プリンストンテクノロジー株式会社品名 :UCLEF-F 型番 :PUS-FCL 決定法 端点 分岐点 合計 固定 118 12 130 局所 31 4 35 内分比 8 10 18 表 8: 擬似マニューシャの数 B4-11